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(平12.12.22裁決、裁決事例集No.60 567頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続財産である宅地が、租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》の規定による特例(以下「本件特例」という。)が適用される事業の用に供されていた宅地(以下「小規模宅地」という。)に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成7年10月4日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したE(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人の一人であり、本件被相続人の相続税について、本件被相続人の公正証書遺言に基づき、次表の「申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限までに提出した。
 その後、請求人は、平成9年4月8日に共同相続人の間で、本件被相続人の遺産分割につき和解が成立し、請求人の取得する相続財産が増加したとして、また、共同相続人の一人であるFが取得した別紙物件目録1の宅地355.57平方メートルのうち、別紙物件目録2の建物(以下「本件建物」という。)の敷地の一部分136.55平方メートル(以下「本件宅地」という。)について本件特例の適用を受けるとして、次表の「修正申告」欄のとおり、本件宅地の課税価格に算入する価額の算定に当たり減額される割合を100分の50とする修正申告書を平成9年8月1日に提出した。
 原処分庁は、本件宅地について本件特例の適用を受けることはできないとするとともに、申告漏れの相続財産があるとして、平成11年3月31日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

ロ 請求人は、本件更正処分のうち、本件特例の適用に係る部分の取消しを求めて、平成11年5月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年8月31日付で棄却の異議決定をしたので、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして同年9月30日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実を認めることができる。
イ 本件建物は3階建ての建物であり、昭和37年5月に新築され、平成9年5月に取り壊された。
 なお、本件建物について、昭和37年5月2日に新築を原因として保存登記手続がなされ、平成7年10月17日受付で同月4日相続を原因として、本件被相続人から共同相続人の一人であるGに所有権移転登記手続がなされ、その後、平成9年6月4日受付で同年5月22日取毀を原因とする滅失登記手続がなされている。
ロ 本件被相続人は、本件建物の全体をその新築直後から平成6年3月までH株式会社(本件被相続人の主宰する同族法人であり、以下「H社」という。)及び株式会社I(本件被相続人の主宰する同族法人であり、以下「I社」という。)に賃貸し、当該建物の1階部分について、同年10月から平成7年4月まで株式会社J(以下「J社」という。)に貸貸していた。
 なお、本件建物の1階部分は平成7年5月から、2階及び3階部分は平成6年4月から、いずれも取壊しまでの間、空き室となっており、賃借人等は存在しなかった。

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2 主張

(1)請求人

 本件更正処分のうち、本件宅地について本件特例の適用に係る部分は、次の理由により違法であるから、取り消されるべきである。
 本件建物は、1階部分は平成7年4月まで、2階及び3階部分は平成6年3月までH社、I社あるいはJ社に賃貸され、事業の用に供されていた。
 本件建物は、本件相続開始日においては賃貸されていなかったが、平成4年8月から平成7年12月までの間は、本件建物の全体について賃借人の募集を不動産業者であるK社に依頼し、現地に賃借人募集の看板を立てていたのであるし、その全体がいつでも賃貸できる状態にあり、他の用途に供されてもいなかったのであって、本件相続開始日において一時的に賃貸されていなかったとしても、本件建物は継続して賃貸という事業の用に供されていたというべきである。
 したがって、本件建物の敷地である本件宅地は、本件特例が適用される小規模宅地に該当する。

(2)原処分庁

 本件更正処分は、次の理由により、適法かつ正当であるから、審査請求は棄却されるべきである。
 本件特例が適用される小規模宅地に該当するか否かは、相続開始の直前において、当該宅地が現実に事業の用に供されていたか否かという観点から、一義的、明確な基準をもって判断されるべきであるところ、本件相続開始日において本件建物は賃貸されていなかったのであるから、本件宅地を本件特例が適用される小規模宅地であるということはできない。
 なお、相続の開始前に賃貸されていた建物が、たまたま相続開始の直前に借家人の退去により空き室になった場合のように、その中断が一時的なものと認められる場合には、被相続人等によって営まれた事業がなお継続していたものとして、本件特例の適用を受けることができるが、〔1〕本件建物は、平成7年5月から平成9年5月の取壊しまで賃貸されていなかったこと、〔2〕本件建物の入居者の募集等を行っている事実もないことからすると、本件相続開始日に本件建物が賃貸されていなかったことを、一時的なものとみることはできない。
 以上のとおり、本件宅地は本件特例の適用される小規模宅地には該当せず、請求人の課税価格及び納付すべき税額は、それぞれ31,431,000円及び5,512,100円となる。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 措置法第69条の3は、個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続開始の直前において、被相続人若しくは当該被相続人と生計を一にしていた当該彼相続人の親族の事業の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。以下同じ。)がある場合で、この規定の適用を受けるものとして選択した宅地等については、限度面積要件を満たす宅地等に限り、相続税の課税価格に算入すべき価額は当該宅地等の価額に一定の割合を乗じて計算するものとし、この場合に、特定事業用宅地等以外の宅地等については、この割合を100分の50とする旨規定している。
ロ ところで、本件宅地上の本件建物は、上記1の(3)のロのとおり、平成7年5月から、これが取り壊された平成9年5月までの間、その全部が空き室となっており、賃貸の用に供されていなかったのであるから、本件相続開始日の直前において、本件宅地が事業の用に供されていたということはできない。
ハ もっとも、請求人は、本件建物について賃借人を募集しており、現にいつでも賃貸できる状態にあったのであるから、本件宅地は継続して事業の用に供されていたというべきである旨主張する。
 課税の公平や課税手続の迅速の観点からすると、本件特例の適用のための要件は、一義的、かつ、明確な基準によりその存否を判断すべきで、これを安易に拡大して解することは許されないところであるが、そうであるとはいえ、例えば、相続の開始前から賃貸されていた建物が、たまたま相続開始の直前に賃借人の退去により空き室になったというような場合には、なお継続して事業の用に供されていたものと解する余地がある。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、〔1〕本件建物を管理していたのは、本件被相続人とGであり、請求人はその管理に関与していなかったこと、〔2〕本件建物は、本件被相続人が設立したH社が社屋として使用するために建てたもので、第三者に対する賃貸を予定したものでなく、J社に対する賃貸は、取引銀行からの紹介による特別なものであること、〔3〕本件建物やその敷地である本件土地に、賃借人を募集する旨の看板等が設置されたことはないこと、〔4〕本件建物は、本件相続開始日の時点において、建築後33年余り経過し、その2階及び3階部分の床や階段が損壊し、雨漏りもするなど相当老朽化が進行しており、J社が退去した後、特に修繕等の行われなかった1階部分を含め、直ちに第三者に賃貸できるような状態ではなかったこと、そして、〔5〕結局、本件建物は、J社の退去後、何らの用にも供されることなく、平成9年5月に取り壊されたことが認められるのであって、本件建物が本件相続開始日の直前において賃貸されていなかったことを一時的なものということはできない。
ニ なお、請求人は、本件建物について、K社に賃借人の募集を依頼していたことの証拠として、K社○○○○の押印のある平成11年1月7日付で本件建物の賃貸あっせん申込みがあった事を証明する旨記載された「賃貸物件の斡旋申込について」と題する書面を当審判所に提出しているが、上記ハのとおり、本件建物を管理していたのは請求人ではなく、賃借人の募集活動が実際に行われていた様子もないこと、そして、賃借人募集の依頼に係る契約書面等一切存在しないことに照らすと、請求人の主張は採用できない。
ホ 以上のとおり、本件宅地に係る事業は、その継続性が認められず、一時的な中断とは認められないから、本件宅地は、本件特例が適用される小規模宅地には当たらない。
 そうすると、請求人の場合、本件被相続人の相続税について、本件特例の適用がないとして課税価格及び納付すべき税額を計算すると本件更正処分といずれも同額になるから、本件更正処分は適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、本件審査請求には理由がない。

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