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(平12.12.14裁決、裁決事例集No.60 594頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、コンビニエンスストアを営む審査請求人(以下「請求人」という。)の酒類小売販売の営業の譲受けに伴い取得した営業権について、その課税仕入れを行った日が、営業権譲渡契約書に記載された譲渡期日である酒類販売免許変更通知のあった日か、請求人において酒類の販売が可能となった酒類販売業の免許の日となるかが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年1月1日から平成10年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、平成11年7月16日に、本件課税期間の消費税等について、課税標準額及び納付すべき税額を別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成11年8月27日付で別表の「更正処分」欄のとおりとする更正処分をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成11年10月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成12年1月17日に棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして平成12年2月17日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年9月11日にE税務署管内においてFコンビニG店(以下「本件店舗」という。)としてコンビニエンスストアを開業し、平成10年1月1日から酒類の販売を開始した。
ロ 請求人は、平成9年10月31日に、株式会社H(以下「H社」という。)との間で、〔1〕H社が本件店舗内において経営する酒類小売販売の営業権(以下「本件営業権」という。)を10,000,000円で譲り受ける、〔2〕営業譲渡期日は酒類販売免許変更通知の日とする旨を約した営業権譲渡契約書(以下「本件契約書」という。)を取り交わした。
ハ E税務署長は、平成9年12月17日付の酒類販売業免許通知書(以下「本件通知書」という。)により、請求人に対して酒類販売業免許を平成10年1月1日付で免許した旨通知した。
ニ E税務署長は、平成9年12月17日付の酒類販売業免許取消通知書により、H社に対して酒類販売業免許を平成10年1月1日付で取り消した旨通知した。
ホ 請求人は、〔1〕消費税法第36条《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》第1項の規定により課税仕入れ等の税額とみなすべき消費税額及び〔2〕本件営業権の譲受けに係る消費税額を本件課税期間の仕入れに係る消費税額に含めていなかったとして更正の請求をしたところ、原処分庁は、〔2〕の請求については更正すべき理由がないとし、〔1〕の請求についてのみ更正の請求を認める更正処分をした。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 消費税について
(イ)消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。
 また、消費税法基本通達(以下「基本通達」という。)11―3―3《減価償却資産に係る仕入税額控除》は、課税仕入れ等に係る資産が減価償却資産に該当する場合であっても、当該課税仕入れ等については、当該資産の課税仕入れ等を行った日の属する課税期間において消費税法第30条の規定を適用する旨定めており、事業の用に供した日が課税仕入れ等を行った日になるのではないことを明らかにしている。
 そうすると、請求人が譲り受けた本件営業権は、固定資産のうち無形減価償却資産に当たるから、本件営業権を取得した日の属する課税期間の課税仕入れとなる。
 なお、この営業権を取得した日とは、本件営業権を譲り受けた日であり、その引渡しを受けた日となる。
(ロ)上記1の(3)のロないしニの事実によれば、本件契約書には、営業譲渡期日は酒類販売免許変更通知の日とする旨記載されていることから、E税務署長が、酒税法第21条《免許等の通知》の規定に基づいて請求人及びH社にそれぞれ免許及び免許の取消しを通知した日に営業権譲渡契約の条件が満たされ、請求人は本件営業権を譲り受け、その引渡しを受けたことになり、請求人が本件営業権を取得した日は、平成9年12月17日となる。
 なお、請求人が本件営業権の取得の日と主張する平成10年1月1日は、酒税法第9条《酒類の販売業免許》に規定する酒類の販売が可能となる免許の効力発生の日であり、本件営業権を取得した日ではない。
(ハ)したがって、本件営業権に係る課税仕入れの時期は、平成9年12月17日の属する課税期間となる。
ロ 地方消費税について
 上記イのとおり、本件課税期間における消費税額は適正に計算されており、また、消費税額を課税標準とする地方消費税の譲渡割額も適正に計算されている。

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 消費税について
(イ)原処分庁は、本件営業権に係る課税仕入れの時期は請求人が本件営業権を取得した平成9年12月17日の属する課税期間であると主張する。
 しかしながら、基本通達9―1―13《固定資産の譲渡の時期》の注書には、固定資産の引渡しの日がいつであるかについては9―1―2の例による旨定められており、基本通達9―1―2《棚卸資産の引渡しの日の判定》には、引渡しの日の例示として、相手方において使用収益ができることとなった日が掲げられているから、本件営業権に係る課税仕入れの時期は、請求人が本件店舗内において酒類を販売することが可能となり、請求人が本件営業権を実際に使用収益できることとなった平成10年1月1日の属する本件課税期間となる。
(ロ)そうすると、本件営業権の譲受けに係る消費税額は、請求人の本件課税期間の仕入れに係る消費税額に含めて計算されるべきであるところ、請求人はこれを含めずに計算したため納付すべき消費税額が過大となっており、このことは、国税通則法第23条《更正の請求》第1項第1号の規定に該当する。
ロ 地方消費税について
 上記イのとおり、本件課税期間における消費税額が過大となっていることに伴い、地方消費税の譲渡割額も過大となっているから、国税通則法第23条第1項第1号の規定に該当する。

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3 判断

(1)消費税について

イ 認定事実
(イ)原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、コンビニエンスストアを開業するには酒類販売業免許が必要であったことからその申請をすべく検討していたところ、P市Q町1丁目1番地において酒類小売業を営むH社が営業譲渡を考えていることを知り、H社から営業を譲り受けて、所轄税務署長に酒類販売業免許の申請をすることを企図した。しかし、営業の譲受けに伴う酒類販売業免許の申請については、同一販売場における営業の譲受けでなければ容易に免許されないこと、また、本件店舗内にH社の酒類販売業免許の移転が許可されてもその後1年間は営業の譲受けに伴う酒類販売業免許の申請は認められないことから、請求人とH社は、まず、H社が本件店舗内の一部を酒類販売場とする酒類販売業免許を受け一定期間本件店舗内で営業し、その後、請求人が、H社から営業を譲り受けた上で免許の申請を行うこととした。
B E税務署長は、H社に対し、平成8年9月5日付の酒類販売業免許通知書により、本件店舖内の一部を酒類販売場とする酒類販売業を免許した旨の通知をした。
C 請求人は、H社に対し、平成8年6月10日に2,000,000円、同年9月12日に3,000,000円、平成10年1月5日に5,000,000円をそれぞれ支払い、いずれも仮払金とする経理処理をし、平成10年4月30日に(借方)営業権10,000,000円(貸方)仮払金10,000,000円と経理処理した。
 一方、H社は、請求人から受け取った金員について、いずれも仮受金とする経理処理をし、平成10年1月7日に(借方)仮受金10,000,000円(貸方)雑収入10,000,000円と経理処理した。
D 請求人は、当審判所に対し、本件店舗では開店した平成8年9月11日から平成9年12月31日までH社がテナントとして酒類の販売をしていた旨答述し、H社の代表者であるIの当審判所に対する請求人と同旨の答述並びに請求人及びH社が提出した帳簿によれば、その事実が認められる。
E 営業譲渡に伴い譲渡される資産は本件営業権のみであり、平成10年1月1日における本件店舗内の酒類の引継ぎは、仕入先であるJ株式会社(以下「J社」という。)が、平成10年1月9日付でH社から返品を受ける伝票及び当該返品と同じ商品、数量を請求人に納入する伝票を起こすことにより行われた。
(ロ)H社の代表者であるIは、当審判所に対し、「本件契約書の用紙は、本件営業権の譲渡を直接仲介したJ社の担当者が持ってきたもので、この中に書いてある酒類販売免許変更通知の日は、税務署長から通知があった平成9年12月17日であるが、営業譲渡の日は平成10年1月1日の免許の日であると思う」旨答述した。
(ハ)J社の担当者は、当審判所に対し、「本件契約書の用紙は当社が交付したものであるが、本件通知書が事前に交付されても酒類販売業免許がなければ営業できないのであるから、本件契約書に記載されている酒類販売免許変更通知の日は、当然に平成10年1月1日のことである」旨及び「本件契約書によりH社から請求人に引き渡された資産は営業権のみであるから、免許の日と営業権の譲渡の日は一致する」旨答述した。
ロ 課税仕入れを行った日
 ところで、消費税法第30条第1項に規定する「課税仕入れを行った日」とは、課税仕入れに該当することとされる資産の譲受けをした日をいい、固定資産の譲受けの場合は、当該資産の引渡しがあった日であると解される。
 また、固定資産の引渡しの日がいつであるかについては、当該資産の種類及び性質、資産の譲渡に係る契約の内容、代金決済の状況、契約内容の履行状況その他具体的な諸事情を総合勘案して決すべきものと解するのが相当であり、単に契約上の文言にとらわれることなく、実質的に資産に対する支配関係の変動があった時期がいつかにより判断すべきである。
ハ 本件営業権の内容
(イ)酒税法第9条は、酒類の販売業をしようとする者は、販売場ごとにその販売場の所在地の所帽税務署長の免許を受けなければならない旨規定しており、酒類販売業の免許を受けた者の法的地位は譲渡可能なものではないから、同免許を有する酒類販売業者からその営業を譲り受けてこれを継続しようとする者も、酒類販売業免許の申請について特別の法的地位を有するものではなく、酒税法第9条に基づき新規に免許を申請し免許されなければ酒類を販売することができない。
 そのため、新たに酒類の販売業をしようとする者は、酒類販売業を営む者と営業譲渡契約を締結した上で所轄税務署長に対して酒類販売業免許の申請をし、一方で営業譲渡をしようとする者は、所轄税務署長に対して酒類販売業免許の取消申請をすることが行われるのであるが、その際、酒類販売業の営業を譲り受けようとする者から酒類販売業の営業を譲渡する者に対して、営業の譲受けの対価が支払われる。
(ロ)この営業の譲受けにより譲渡される資産は、酒類販売業を営む目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産であり、この財産には得意先関係等の経済的価値のある事実関係が含まれると解されているところ、本件営業の譲受けにおいては、上記イの(イ)のEのとおり、店舗、商品等の資産は譲渡されていないことから、酒類販売に係る得意先関係等の経済的価値のある事実関係を内容とするいわゆる営業権のみが譲渡されたものと認められる。
 そして、この営業権は、消費税法施行令第5条《調整対象固定資産の範囲》第8号ヌの無形固定資産たる営業権に該当すると認められるから、本件営業権の譲受けは、消費税法第2条《定義》第1項第12号の課税仕入れに該当する。
ニ 本件営業権の引渡しの日
(イ)原処分庁は、本件営業権の引渡しの日について、本件契約書に酒類販売免許変更通知の日とする旨記載されており、E税務署長が通知した平成9年12月17日に契約の条件は満たされると主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)及び(ハ)の答述からすれば、本件契約書に記載された酒類販売免許変更通知の日が、本件通知書の交付日を想定しているのか、本件通知書に記載された免許の日を想定しているのか必ずしも明らかではなく、仮に、本件通知書の交付日をいうとしても、上記ロのとおり、税務上の固定資産の引渡しの日は、契約書の文書にとらわれることなく、取引の実態により判断すべきであるから、本件通知書の交付日をもって直ちに本件営業権の引渡しの日と判断するのは相当ではない。
(ロ)酒類販売業に係る営業権の引渡しの日がいつであるかについては、上記ロのとおり、営業譲渡の対象とされた資産の種類及び性質、資産の譲渡に係る契約の内容、その他具体的な諸事情を総合勘案して決すべきもので、必ずしも酒類販売業免許の日と一致することとはならないが、本件についてみると、〔1〕上記イの(イ)のA、B及びDによれば、H社は平成9年12月31日まで本件店舗内で酒類の販売をしていたこと、〔2〕上記イの(イ)のCによれば、請求人が本件営業権を資産に計上した日及びH社が本件営業権の譲渡の対価を雑収入に計上した日は、いずれも平成10年1月1日以後であること、及び〔3〕上記イの(イ)のEによれば、本件店舗内の酒類の在庫の引継ぎは平成10年1月1日に行われていることが認められる。
 そうすると、H社が本件店舗内で酒類の販売をしていた平成9年12月31日以前に営業権の引渡しがあったとすることは相当でなく、請求人による酒類の販売が可能となった酒類販売業の免許の日である平成10年1月1日を本件営業権の引渡しの日とするのが相当である。
ホ 以上のとおり、本件営業権に係る課税仕入れの時期は、平成10年1月1日の属する本件課税期間であり、消費税の更正処分は違法となるから、その全部を取り消すべきである。

(2)地方消費税について

 上記(1)のとおり、消費税の更正処分は違法であり、消費税額を課税標準とする地方消費税の更正処分も違法となるから、その全部を取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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