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(平13.6.15裁決、裁決事例集No.61 47頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がゴルフ会員権の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失(以下「譲渡損失」という。)を所得税法第69条《損益通算》第1項の規定により他の各種所得の金額から控除して(以下、この控除を「損益通算」という。)確定申告したことについて、当該譲渡は仮装であるとして課された重加算税の賦課決定処分の適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、Jゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフ場」という。)のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。)を1,800,000円で譲渡し、当該譲渡に係る譲渡損失4,750,000円を他の各種所得の金額17,453,304円と損益通算して、総所得金額を12,703,304円とする旨の平成8年分の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、原処分時の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査を受け、上記譲渡損失の金額を他の各種所得の金額と損益通算することはできない旨の当該職員の指摘に従い、総所得金額を17,453,304円とする修正申告書を次表の「修正申告」欄のとおり記載して平成11年12月10日に提出した。

 原処分庁は、これに対し、平成11年12月28日付で重加算税の額を497,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成12年2月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月24日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年6月20日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人が株式会社K(以下「K社」という。)に本件会員権を譲渡する(以下、この譲渡に係る取引を「本件取引」という。)旨のK社発行の平成8年12月3日付ゴルフ会員権取引計算書(以下「本件計算書1」という。)には、K社が請求人に本件会員権の代金1,800,000円から取引手数料50,000円を控除した金額1,750,000円を支払う旨記載されている。
ロ K社が請求人の知人であるMに本件会員権を譲渡する(以下、この譲渡に係る取引と本件取引を併せて「本件一連の取引」という。)旨のK社発行の平成8年12月3日付ゴルフ会員権取引計算書(以下「本件計算書2」という。)には、MがK社に本件会員権の代金1,800,000円及び取引手数料50,000円を合計した金額1,850,000円を支払う旨記載されている。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法に行われているから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件一連の取引については、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件計算書1及び本件計算書2などを基に、本件会員権は、平成8年12月3日に請求人からK社に、更にK社からMに売却されているが、その際、請求人は、同人がMに立て替えた(以下、この立替えに係る金員を「本件立替金」という。)とする本件会員権の代金1,750,000円を自ら受け取り、本件会員権は、請求人からMへの本件立替金の担保として請求人が預かっているもので、本件一連の取引は、何ら不自然な取引ではない旨主張する。
 しかしながら、Mは、調査担当職員に対して、〔1〕本件ゴルフ場はプレーする魅力がないため、本件会員権を購入する気がなく、本件会員権は請求人が買ってくれと言ったものにすぎない、〔2〕本件立替金を借り入れたとの認識はなく返済する気はない、また、請求人からの返済の請求もなかった旨申述していることから、Mには本件会員権を購入したとの認識も請求人に対し本件立替金に相当する債務を負っているとの認識も認められない。
 また、本件計算書1及び本件計算書2によれば、ゴルフ会員権を売買する際に通常の取引では当然行われる年会費の清算が、本件一連の取引においては行われていない。
 したがって、請求人がMに本件会員権の購入代金を立て替えたとしても、同人が当該金員をもってK社から本件会員権を購入したものとは到底認めることができない。
(ロ)請求人は、Mが本件取引の直前になって資金調達ができなかったので請求人が本件会員権の購入代金を立て替えた旨主張するが、請求人が本件一連の取引の日に本件立替金を支払ってまでして、Mにどうしても売却しなければならないというのはいかにも不自然であり、かえってMが本件会員権の購入代金の資金調達ができた際に、請求人が本件会員権をMに売却しても、何ら不都合な点はなかったと認められる。
(ハ)Mは、本件会員権の購入に積極的ではなく、また、請求人とは以前からもこれからも金を立て替えるような仲でもないし義理もない旨異議審理庁の調査担当職員(以下「異議担当職員」という。)に申述していることから判断すると、Mには、一時的にせよ、請求人から購入代金を借り入れてまで本件会員権を購入する合理的な理由がなく、また、本件会員権を購入したとの認識も請求人から立替えを受けているとの認識もないことから、Mは、本件一連の取引にその名義を貸しただけと認めるのが相当である。
(ニ)請求人は、Mに対し、直接、本件立替金を返済してくれとは言っていないが、名義書換えをしたらどうだと言っているのであるから、本件立替金の返済を請求したこととなる旨主張するが、これでは到底返済請求を行ったということにはならず、加えて、この点について、Mは、請求人からの返済請求はない上、名義書換えするよう言われたこともない旨申述しており、そもそも請求人がMに対し本件会員権の購入代金として本件立替金を支出したものとは認めることができない。
ロ 上記イのほか、〔1〕本件会員権の名義書換えが行われていなかったこと、〔2〕平成9年分の本件会員権に係る年会費は請求人が支払っていたこと及び〔3〕本件会員権は本件一連の取引後も引き続き請求人が保管していたことが認められ、これらを併せ考慮すれば、次のとおり判断される。
 請求人は、Mの本件会員権の購入代金に相当する金員を請求人が立て替え、当該資金によりMが本件会員権を購入したことにし、K社に本件計算書1及び本件計算書2を作成させることにより、本件会員権が請求人からK社に、更にK社からMに売却されたとする形だけが作り出されたもので、これを基に、請求人は、譲渡損失が生じたとして所得税の還付を受けたものと認められる。
 また、K社に取引手数料を支払うという経済的出捐及び所得税の還付という経済的利益の流入を除けば、本件一連の取引による経済的損失及び利益はなく、請求人が本件会員権を本件一連の取引後も、名義書換えもされずに引き続き所持していることから、本件一連の取引は、実体を伴わない仮装の取引であると認められる。
 すなわち、請求人は、真に本件会員権を譲渡していないにもかかわらず、売却した形式をとることによって、本件会員権の含み損を譲渡損失として顕在化させ、これにより生じた譲渡損失の金額を他の各種所得の金額と損益通算して所得税の還付金を得ることを図ったものと認めるのが相当である。
 したがって、本件会員権を譲渡したかのごとく仮装し、その仮装したところに基づいて本件確定申告書を作成し提出したものと認められ、この行為は、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課決定要件を充足することは明らかであり、原処分庁が同項の規定に基づいて行った原処分は適法である。

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(2)請求人

 原処分庁は、請求人の本件会員権の譲渡を仮装取引と認定しているが、次に述べるとおり請求人は本件一連の取引を仮装した事実はなく、原処分庁の認定は誤っているから、原処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求める。
イ 本件一連の取引については、次のとおりである。
(イ)上記(1)のイの(イ)について
 原処分庁が主張するMの認識については、原処分時の会員権相場の値下がりが続く状況下のものであり、平成8年の本件一連の取引時点の認識ではなく、Mとしては、値下がりしている本件会員権を値下がり前の価格で手に入れることは今更できないという心情をベースに申述しているものと推認される。
 また、年会費が清算されていないのは、本件一連の取引の場において、たまたま当事者3名とも年会費の金額が分からず、請求人とK社との間で、「後から請求が来るだろうから、その時払えばよい」ことになったものであり、他の事情があったわけではない。
 なお、請求人が本件一連の取引以後も本件会員権を所持していたのは、本件会員権の購入代金を立て替えた者として担保に持っていたものであり、通常の取引では当然の行為である。
(ロ)上記(1)のイの(ロ)について
 原処分庁は、請求人がMに本件立替金を支払ってまでして本件会員権をどうしても売却しなければならないというのは不自然である旨主張するが、これは事実を直視しない勝手な解釈である。請求人としては「どうしても」との気持ちがあったわけではなく、本件会員権の相場も年々下落する状況の中で、かねてから本件会員権の売却を考えていた折に、たまたま請求人の知人であるMと会い本件一連の取引に至ったもので、その際、知人として資金を用立てしたのであり、何ら不自然な点はない。
(ハ)上記(1)のイの(ハ)について
 原処分庁は、Mが本件一連の取引に名義を貸しただけと認めるのが相当であると主張するが、名義貸しは、当然に当事者間の了解が必要であるところ、本件一連の取引において、その了解は全く存在しない。
 Mは、自ら本件一連の取引時には買うことを決め、資金繰りも考慮して、取引の場所に来たのであり、また、Mは、金を立て替えるような仲ではないし義理もない旨申述していることからも、そのような者が請求人への名義貸しを了解したとは一般的にも想定し難く、名義貸借の認定は不当といわざるを得ない。
(ニ)上記(1)のイの(ニ)について
 原処分庁は、請求人が本件立替金の返還請求をしていない旨主張するが、請求人は、Mに対して本件立替金返済の催促を明言したことはないものの、本件会員権を同人に名義書換えするよう求めており、請求人にとって名義書換えを求めることは、本件立替金の返済を求めることを意味することは当然の理である。
ロ 以上のとおり、請求人は、本件一連の取引に関して、〔1〕請求人がMに本件立替金として資金を貸与したこと、〔2〕本件立替金の担保として譲渡した本件会員権を預かっていたこと、〔3〕したがって、その時点での名義書換えは当然に行うわけにはいかなかったこと、〔4〕しかし、本件一連の取引以後、Mが本件立替金の返済を行わなかったことから、請求人は、本件立替金の返済を請求する意味で、Mに名義書換えを求めたが、Mはその求めに応じる気配がなかったため、請求人としても困惑していたことの一連の事実経過を一貫して主張しているのであって、本件一連の取引に関しては、不自然、不合理なことは何らなく、通常の取引をしたのであり、原処分庁が仮装の取引と認定したことは明らかな誤りである。
ハ なお、原処分庁は、上記(1)のロのとおり、本件一連の取引が請求人の意図した自作自演による仮装行為と主張するが、本件一連の取引にかかわったK社及びMは、本件計算書1及び本件計算書2に自ら署名押印しているのであり、このことに対し、原処分庁は、請求人が求めるがままに応じたのだと、又は、請求人の仮装に加担したのだとでもいうのであろうか、いずれにせよ、請求人としては、原処分庁が仮装取引と認定したことは事実誤認であり全く心外というほかない。

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3 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、本件確定申告書に、本件計算書1及び「ゴルフ会員権の譲渡についてのお尋ね」と題する書面を添付して、本件会員権に係る譲渡損失の額を損益通算する旨記載して提出している。
ロ 請求人は、異議申立書に、Mが請求人から平成8年12月3日に本件会員権の購入代金1,800,000円を一時立て替えてもらった旨の記載のある平成11年11月付の「証」と題する書面(以下「本件証明書」という。)を添付して提出している。
ハ 平成8年12月2日に、請求人名義のN銀行P支店の普通預金口座(口座番号○○○○)からは850,000円が、同行Q支店の普通預金口座(口座番号○○○○)からは1,000,000円が、それぞれ現金出金されている。
ニ 請求人は、本件一連の取引後の平成10年2月21日に本件ゴルフ場において、メンバー用の「来場者受付名簿」にメンバーとして署名し、請求人のほかメンバー2名及びビジター1名の計4名とともに、メンバー料金によりプレー(以下「本件プレー」という。)をしている。

(2)請求人の答述及びMの申述

イ 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)本件一連の取引時には、Mとの間で本件立替金に係る借用書等の書類は取り交わさなかった。
(ロ)請求人は、本件一連の取引時に、請求人名義の普通預金口座の出金状況から現金1,850,000円を持参したと思うが、Mへ渡した本件立替金の金額は、Mの取引手数料は同人が負担し支払うべきであるから当該取引手数料相当額50,000円を除いた1,800,000円であったと記憶している。
(ハ)本件一連の取引後に本件ゴルフ場を利用したのは、本件プレー1回のみである。
(ニ)請求人は、メンバー用の「来場者受付名簿」にメンバーとして署名し、メンバー料金により本件プレーをしたが、その理由は、単にその時点ではまだ請求人が本件会員権を持っており、名義変更もしていなかったためである。
(ホ)本件プレーは、一緒にプレーしたRから接待を受ける形で行ったもので、本件ゴルフ場の予約及び料金の支払も請求人は行っておらず、請求人がメンバー料金でプレーしても何のメリットもなかった。
ロ Mは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ)平成11年6月2日の申述
A 20年ほど前に購入したTカントリークラブの会員権を10年ほど前に売却したことはあるが、現在ゴルフ会員権は所有していない。
B 請求人は、20年以上前に勤務していた株式会社Wの上司であり、高校の先輩でもある。
C 本件会員権のことは、以前請求人から購入しないかと持ちかけられたことがあるので記憶にある。一度会って話すことになり、正確な時期は忘れたが数年前、請求人及び会員権業者の人とSの喫茶店で会ったが、最初から購入する気がなかったので、そのことを伝えた。
 その喫茶店では、自分(M)に関しての用件ではなく、関心もなかったので、請求人と会員権業者の人の話は聞いていなかったが、会員権業者の人が本件会員権を請求人から預かっていたようであり、何か書類を作成していた。
D 請求人から、取引について電話で連絡があった時、印鑑証明書を持ってくるように言われたが、取引が成立しなかったので、そのまま持ち帰った。書類の作成や署名押印については何もしなかったと記憶している。
E その後、請求人や会員権業者の人とは一度も会っていない。また、電話連絡もしていない。
F 本件会員権は持っていないし、本件ゴルフ場でプレーをしたこともない。
(ロ)平成11年6月3日の申述
A 上記(イ)の申述をした後、念のため請求人に電話で確認したところ、一部記憶違いがあったので、その内容について改めて申述したい。
B 本件会員権は、請求人に依頼されて買うことになっていた。また、3人で会ったのは、Sの喫茶店ではなく、X銀行Y支店(以下「X銀行」という。)の応接室であると請求人に言われた。
C 何の種類の書類か忘れたが、X銀行で、1枚か2枚ぐらい書類に押印した記憶があり、そのうちの1枚が本件計算書2だったと思う。
D 本件計算書2は自宅に保管していたが、領収書は受け取っていない。本件計算書2によると、本件会員権の購入代金1,800,000円及び取引手数料50,000円となっており、取引手数料50,000円は現金で支払ったが、購入代金1,800,000円は支払っていない。
E 本件会員権の購入代金1,800,000円は、請求人が立て替えたのだと思う。しかし、立て替えたといっても、借入金との認識はないので、返済する気はなく、借用書も作成していない。また、請求人から返済を請求されたこともない。
F 取引手数料50,000円を負担したのは、請求人から買ってくれと頼まれたので付き合いもあるので負担した。
 本件ゴルフ場はプレーする魅力がない所であり、名義変更をする気もなく、これからも購入する気はない。
G ゴルフ会員権の売買は、名義変更が済んでプレーが可能になって初めて購入したという意識があるので、この取引については、宙に浮いたようなイレギュラーな取引であると思う。
(ハ)平成11年6月9日の申述
A 請求人及び会員権業者の人から年会費の請求は一度もなかった。今後請求がなされたとしても、名義書換えをしていないので支払うつもりはない。
B 現在も、本件会員権を持っているとの認識はない。
ハ Mは、異議担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ)平成12年5月11日の申述
A 請求人から本件会員権の購入を依頼されたが、依頼された時期はよく覚えていない。本件会員権は、K社を間に入れたので、同社から買い入れたことになる。
B 購入代金及び取引手数料は、請求人が立て替えた。請求人が立て替えた現金は一度受け取り、K社に支払った。
C 請求人に、立て替えてもらったのは、経営する会社の方が急に資金不足になり、資金繰りを優先したからである。
 取引の当日か前日にその旨を請求人に伝えたところ、請求人が購入代金を立て替えてくれるということになった。
D 本件会員権は、請求人が預かると言ったので預けた。
E 本件会員権は名義書換えしていないので、プレーも売却もすることはできないが、実際に現金を支払ったわけではないので、損はしていない。
F 本件立替金を返済する気はない。取引をしている感覚はないし、立替金も返す筋合いのものではない。請求人からも返済の請求はない。
G 本件証明書の署名は、自分(M)の筆跡である。請求人に頼まれて作成したが、請求人とは以前からもこれからも金を立て替えるような仲でもないし、義理もない。
(ロ)平成12年5月16日の申述
 本件立替金についてどのように返済するかの取決めはない。
(3)上記1の(3)の基礎事実、上記(1)の認定事実並びに上記(2)の答述及び申述を踏まえて、本件一連の取引が仮装であるか否かについて、以下、検討する。
イ 本件会員権は、本件一連の取引の終了後も譲渡人である請求人において保管され、Mへの名義書換えの手続はなされておらず、また、本件会員権に係る年会費の清算が本件一連の取引において行われず、その後の年会費も請求人が支払っていたことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがない。
ロ 本件一連の取引について、譲受人であるMは、当初、調査担当職員に対して、本件一連の取引が成立していなかった旨申述していたものであり、その翌日には、本件一連の取引の存在を認める旨、請求人の主張に沿う内容の申述に変更がなされたものの、その変更された後においても本件会員権の名義書換え、年会費の支払及び本件立替金の返済をするつもりはない旨申述していることから、Mは、本件一連の取引は実体のないものとの認識を有していたものと認められる。
ハ Mの本件会員権の購入代金については、請求人がその資金を用立てして立替払いしており、その後において立替払金の返済がなされていない旨請求人及びMの双方が申述し、その資金用立てを裏付ける請求人名義の普通預金口座からの出金もあることから、本件会員権の購入代金に関して、Mの出捐はなかったものと認められる。また、MとK社間の取引手数料については、〔1〕本件一連の取引の前日に請求人名義の普通預金口座から合計1,850,000円の出金があり、請求人は、本件一連の取引の際に1,850,000円を持参した旨答述していること、〔2〕1,850,000円は、Mの本件会員権の購入代金1,800,000円と取引手数料50,000円の合計額と一致すること、〔3〕Mは平成11年6月3日には調査担当職員に対して、本件会員権の購入に際し取引手数料50,000円を負担した旨申述していたが、その後に、購入代金及び取引手数料とも請求人が立て替えたと申述していることから、請求人が自ら当該取引手数料を負担したものと認められる。
ニ 本件立替金については、〔1〕Mはその申述から立て替えてもらっているという認識を持っているものとは認められないこと、〔2〕立替えをしたことを証するものは、請求人が異議申立書に添付した本件証明書以外にないところ、そもそも、立替時には立替えを証する書類は作成されてはおらず、立替えから3年を経過した後の原処分における調査時に作成されていること、〔3〕当初から、その返済期限等立替条件に関する約定が一切ないこと、〔4〕Mは、請求人とは金を立て替える仲でも義理もなく、請求人に頼まれたので本件証明書を作成し署名した旨申述しており、この申述からは、請求人の要請に基づいて実体のない本件証明書が作成されたにすぎないものと認めることができ、請求人とMの間に購入代金の立替えがあったとは到底認められない。
ホ 請求人は本件会員権を本件取引において譲渡した後も本件ゴルフ場でメンバーとして本件プレーをしたことに対し、上記(2)のイの(ハ)から(ホ)までのとおり答述するが、本件会員権をMに譲渡して本件立替金の担保物として預かった旨の主張と矛盾し、かえって実質的な譲渡がなかったことを裏付けるものであること、また、接待を受けるのであれば何もメンバー料金でプレーする必要もないこと、本件会員権の年会費をMに請求することなく自ら支払い続けていること、さらに、請求人がメンバーとして署名して本件プレーを行っていることから、請求人が本件会員権を自己のものと認識して所有し続けていたものとみるのが自然である。
ヘ そうすると、〔1〕本件一連の取引後も、本件会員権は、その名義も保管形態もその取引前と変わらず請求人名義のまま同人によって保管され、請求人が本件ゴルフ場でメンバーとしてプレーし、年会費の支払も請求人が負担していたことから、本件会員権が譲渡された実体を認めることはできないこと、〔2〕Mは本件一連の取引は実体のないものであると認識していること、〔3〕請求人がK社から本件会員権の売却代金として受領した1,750,000円は、請求人が自ら出捐した1,850,000円がK社に対する取引手数料100,000円(本件計算書1及び本件計算書2各50,000円)を差し引かれて請求人に還流したものであって、本件一連の取引は経済的合理性に反するものであることに照らして、本件会員権の譲渡なるものは、請求人の本件会員権に係る譲渡損失の顕在化によって所得税の還付を受けるためになされた仮装行為と認めるのが相当である。
(4)国税通則法第68条第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代えて重加算税を課す旨規定している。
 これを本件についてみると、本件取引についてはその譲渡の事実がなく、本件計算書1及び本件計算書2には本件会員権に係る譲渡損失の顕在化以外に合理的な作成理由がないことは上記(3)で述べたとおりであり、請求人は、譲渡事実のない本件取引があったかのごとく仮装した本件計算書1を作成して、その譲渡損失を他の各種所得と損益通算した本件確定申告書を作成し、同計算書を同申告書に添付して所得税の還付を受けている事実が認められ、この行為は国税通則法第68条第1項に規定する、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、納税申告書を提出していたとき」に該当するから、原処分庁が同項の規定に基づき行った原処分は適法である。
(5)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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