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(平13.3.30裁決、裁決事例集No.61 62頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、印刷業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、女性従業員の超過勤務に係る給料、公的年金受給者である高齢従業員等に対する給料について、いずれも外注工賃として経理し、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)を納付せず、また、仕入れに係る消費税額を過大に計上して、消費税及び地方消費税を過少に申告したことについて、それぞれ重加算税の課税要件に該当するか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 源泉所得税
 別表1のとおりである。
ロ 消費税及び地方消費税
 別表2のとおりである(以下、平成7年1月1日から同年12月31日までの課税期間を「平成7年課税期間」、平成8年1月1日から同年12月31日までの課税期間を「平成8年課税期間」、平成9年1月1日から同年12月31日までの課税期間を「平成9年課税期間」、平成10年1月1日から同年12月31日までの課税期間を「平成10年課税期間」といい、これらを併せて「各課税期間」という。)。

(3)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、女性従業員の超過勤務時間の一部について、通常使用している従業員番号とは異なる従業員番号を付したタイムカードで管理し、当該超過勤務に係る給料の支給額を外注工賃勘定に計上していた(以下、外注工賃勘定に計上されている女性従業員の超過勤務に係る給料の支給額を、「本件超勤給料」という。)。
ロ 請求人は、本件超勤給料については、通常使用している従業員番号を付したタイムカードで管理していた勤務時間に係る給料とは別に、各受給者に現金で支給し、請求人の準備した領収書に署名、押印をさせていた。
ハ 請求人は、従業員のうち、A及び公的年金受給者であるBの2名(以下「Bら」という。)に対する給料(平成8年12月分賞与を除く。)について、支給額の全額を外注工賃勘定に計上していた。
ニ  請求人は、本件超勤給料及びBらに対する給料(以下、これらを併せて、「本件給料」という。)に係る所得税の源泉徴収を行っていなかった。
ホ 請求人は、各課税期間の消費税の確定申告において、本件給料が、消費税法第2条《定義》第12号に規定する課税仕入れに該当するものとして、本件給料に係る消費税相当額を、同法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》に規定する税額控除(以下「仕入税額控除」という。)の対象としていた。

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2 主張

(1)請求人の主張

 源泉所得税の不納付並びに消費税及び地方消費税の過少申告となったことについては、次のとおり脱税を意図した不正行為ではなく、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項及び第3項に規定する隠ぺい又は仮装の行為はないから、重加算税の賦課決定処分は、その全部が取り消されるべきである。
イ 本件給料の会計処理について
(イ)本件超勤給料を外注工賃として経理したのは、労働基準法により女性従業員には労働条件の制約があることから、企業運営上やむを得ず行ったものであり、その後の改正で労働条件の制約が無くなったことから、平成10年8月支給分以降の超過勤務手当については、自主的に科目を訂正し適正額を納付している。
(ロ)Bに対する給料を外注工賃として経理したのは、同人から年金受給額が減額にならないようにするため、給料以外の方法で支給するよう申し出があり、同人の希望どおりにしたものである。
 また、Aに対する給料を外注工賃としたのは、当時の給与担当者の判断で行ったものであり、その理由は不明である。
(ハ)本件給料については、外注工賃に科目を変えていたため、経理担当者が単純に誤って源泉徴収を行わず支給し、また、消費税及び地方消費税の申告の際、誤って本件給料を課税仕入れとしていたものである。
(ニ)請求人に対する源泉所得税の納税告知処分並びに消費税及び地方消費税の修正申告については、仕入れに係る消費税額の控除の対象とすべきものを控除していないなどの会計処理の誤りがあったため、後に減額の更正処分等がなされているところ、こうしたことから判断しても、経理担当者の勉強不足による誤りにより、源泉所得税の不納付並びに消費税及び地方消費税の過少申告となったことが明らかである。
ロ 請求人は、原処分庁による源泉所得税の納税告知処分に係る税額、原処分庁の調査の際の指導による消費税及び地方消費税の修正申告に係る追加税額については、いずれも直ちに納付している。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 重加算税の賦課要件について
 通則法第68条に規定する重加算税は、同法第65条《過少申告加算税》、同法第67条《不納付加算税》に規定する各種の加算税を課すべき過少申告等の納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、当該過少申告等を行った納税者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではない。
 したがって、重加算税の賦課要件としては、納税者が課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告、又は、国税をその法定納期限までに納付しなかったという結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告等に際し、納税者において過少申告等を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解されている。
ロ 本件の場合
(イ)請求人は、通常の勤務時間分と超過勤務時間分とを別々のタイムカードで管理した上、本件超勤給料は別の封筒に入れて各人に支給し、また、定年退職した従業員を再雇用した際、年金支給額が減らされては困る旨の本人からの申し出に従って、給料を外注工賃として経理していた。
 したがって、請求人には、本件給料については、本来、外注工賃ではなく、給料であるとの認識が十分にあったと認められる。
(ロ)さらに、請求人は、給料手当勘定に計上された金額のみを、賃金台帳の作成及び所得税の源泉徴収の対象とし、その他の勘定科目に計上された金額については、賃金台帳の作成及び所得税の源泉徴収の対象としていない。
 また、請求人は、女性従業員については2種類のタイムカードを作成し、本件超勤給料を他と明確に区分して外注工賃勘定に計上し、Bらについては、給料手当勘定に計上されない従業員番号のタイムカードを使用して、その給料を外注工賃勘定に計上していた。
(ハ)そうすると、本件給料を外注工賃勘定に計上した理由が、請求人が主張するようなものであったとしても、請求人が、本件給料が給料手当勘定に計上されるべきものであることを十分認識していながら、あえて外注工賃勘定に計上した行為が、源泉所得税、消費税及び地方消費税の額の計算の基礎となる事実を仮装したものであることは明らかである。
 そして、その結果として請求人が所得税の源泉徴収を行わず、法定納期限までに納付しなかったこと及び本件給料に係る消費税相当額を仕入税額控除の対象とし、消費税及び地方消費税の納付すべき税額を過少に申告したことは、上記イで述べた重加算税の賦課要件を満たしているから、重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 重加算税の賦課決定処分の適否について争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1)隠ぺい又は仮装の行為の存否について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる。
(イ)請求人は、女性従業員の一部については、従業員番号の異なる通常の勤務時間に係るタイムカードと超過勤務時間に係るタイムカードを2種類作成し、その2種類のタイムカードで同人らの勤務時間の管理をしていた。
(ロ)請求人の経理担当者の当審判所に対する答述によれば、従業員に対する給料の額は、タイムレコーダーと電算機を接続することで自動計算されるシステムとなっているが、一部の女性従業員らの超過勤務時間に係るタイムカード及びBらのタイムカードには、電算処理上、給料手当として計算しない番号を付しており、当該給料の計算は、電算機でなく担当者自らが行っていた。
(ハ)請求人は、本件超勤給料については賃金台帳への記載をせず、また、Bらに対する給料については賃金台帳を作成しなかった。
(ニ)請求人の代表取締役Cの当審判所に対する答述によれば、平成10年8月支給分以降は、給料を年俸制に変更したため、従業員の超過勤務による手当は発生していない。
ロ ところで、通則法第68条に規定する重加算税は、同法第65条ないし第67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反をおかしたことに対する制裁ではない。
 すなわち、通則法第68条が規定する重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科せられる「刑事罰」とは異なり、納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して特に重い負担を課す行政上の措置である。
 このような法の趣旨に照らすと、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装の行為を原因として、国税をその法定納期限までに納付せず、また、過少申告という結果が発生したものであれば足り、それ以上に、脱税の意図を有していることまでは必要としないことはもとより、納税者において申告に際し過少申告等を行うことの認識を有していることを必要とするものでもないと解するのが相当である。
ハ これを本件についてみると、請求人において、本件給料が本来、給料手当勘定に計上されるべきものであることを十分認識していたことは請求人の自認しているところであり、しかも、上記イのとおり、本件給料が給料手当勘定に計上されないタイムカードを女性従業員及びBらに使用させ、本件給料について給与台帳への記載あるいはその作成そのものをせず、勘定科目を偽って外注工賃勘定に計上していたことが認められる。
 そうすると、請求人において所得税の源泉徴収が行われず、法定納期限までに源泉所得税が納付されなかったこと、また、消費税及び地方消費税の申告が過少申告となっていたことについては、(請求人に脱税の故意まであったかどうかに関わりなく)通則法第68条第1項及び第3項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき」法定納期限までに国税を納付せず、あるいは、納税申告書を提出したことに該当することは明らかである。
ニ この点に関し、請求人は、本件給料については、外注工賃に科目を変えていたため、経理担当者が単純に誤って源泉徴収を行わず、消費税及び地方消費税の申告の際にも、本件給料を課税仕入れとしていたものである旨主張する。
 しかしながら、本件給料の経理に当たり、(その動機については請求人が主張するようなものであったにせよ)意図的に科目を偽り、外注工賃として継続的に処理することが企図されているのであるから、むしろ、本件給料について所得税の源泉徴収が行われず、あるいは課税仕入れとして税額控除の処理がなされることは、請求人において当然に予定されていたものとみるのが自然であって、当審判所の調査によっても、代表者が経理担当者に対して、税務上は本件給料を外注工賃勘定から給料手当勘定に訂正計上し、真実の給料支給の額に見合った源泉所得税を納付するなど、適法に処理するよう特段の指示をしたというような形跡もうかがわれない。
 そうすると、経理担当者の単純な誤りによって、法定納期限までに源泉所得税が納付されず、また、消費税及び地方消費税の申告が過少申告となっていたとする請求人の当該主張は、採用することができない。
ホ なお、請求人は、原処分庁が減額の更正処分等をしていることからしても、経理担当者の勉強不足による誤りによるものであるなどとも主張するが、当該更正処分は、給料の帰属年分を一部訂正するなど、源泉所得税の額の計算過程の誤りを是正したものに過ぎず、その不納付の事実についての認定が変更されたものでないから、それらの事実をもって、上記結論が左右されるものではない。
ヘ したがって、重加算税の賦課決定処分については、いずれも適法であり、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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