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(平13.1.16裁決、裁決事例集No.61 74頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、製型(陶器の型の製造)業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)がした修正申告に係る重加算税の賦課決定処分について、その要件事実の存否が争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり(以下、平成4年分、平成5年分、平成6年分、平成7年分、平成8年分、平成9年分及び平成10年分を併せて「各年分」という。)。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、各年分の所得税について、青色の確定申告書を原処分庁に提出している。
ロ 請求人は、売上げ等について、次のように管理していた。
(イ)請求人の妻であるAは、製品を納入した際、売上金額の記載のない納品書を作成し、売上金額は、請求人に確認した上で売上補助元帳(以下「本件売掛帳」という。)に記載していた。
(ロ)請求書については、本件売掛帳を基にAが作成していた。
(ハ)請求人は、本件売掛帳の一部を別管理としており(以下、これを「本件売掛帳別冊」という。)、本件売掛帳別冊を請求人の関与税理士には提出していなかった。
(ニ)請求人は、本件売掛帳別冊の一部並びに本件売掛帳別冊を基に作成した請求書控え及び領収書控え(以下「本件請求書控等」という。)を売上代金の決済後に破棄していた。
(ホ)請求人は、本件売掛帳別冊に係る売上金(以下「除外売上金」という。)のうち約束手形又は小切手により決済を受けたものについては、各年分の所得税の確定申告書に添付した青色申告決算書(以下「本件青色申告決算書」という。)の貸借対照表の「当座預金」、「定期預金」及び「その他の預金」欄に計上した預貯金以外の普通預金等に係る口座(以下「本件公表外預金口座」という。)で取り立てていたほか、除外売上金に係る一部の小切手については、銀行の窓口において現金の払出しを受けていた。
(ヘ)請求人は、本件公表外預金口座に係るそれぞれの通帳を、請求人の関与税理士に提示していなかった。
ハ 請求人の関与税理士は、請求人から提出された本件売掛帳別冊を除く本件売掛帳を基に売上集計表を作成し、当該売上集計表に基づく金額を本件青色申告決算書の「売上金額」欄に記載していた。
ニ 請求人は、原処分庁の調査を担当する職員(以下「調査担当職員」という。)の調査を受け、各年分の売上除外等の事実を認め、別表1の「修正申告3」欄のとおり修正申告をした(以下、この修正申告を「本件修正申告」という。)。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 重加算税は、不正行為を制裁するため著しく重い税率を定めた立法の趣旨に照らし、納税者が故意に脱税の目的で積極的な不正行為をもって、所得をほ脱している場合に課されるものである。
 請求人は、売上げを除外した事実は認めるが、除外売上金で取得した事業用資産の取得価額等を具体的に立証できなかったことから、当該取得価額を必要経費には算入せずに本件修正申告をしたものであり、積極的な不正行為により所得税を免れたものではない。
 なお、原処分庁は、除外売上金の使途について立証責任を負っているのであるから、事業用資産が存在しないこと又は個人的に費消したことを明らかにすべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、上記1の(3)のロのとおり、本件売上帳別冊を別管理として売上げを除外し、更に本件売掛帳別冊の一部及び本件請求書控等を破棄しており、また、除外売上金の一部については、本件公表外預金口座で取り立てていたほか、他の一部については銀行の窓口において現金の払出しを受け隠ぺいしていた。
ロ さらに、請求人は、調査担当職員に対し、本件売掛帳別冊を請求人の関与税理士に提示しなければ売上げに計上されないことは分かっていたと申述しており、故意に売上げを除外していたことを認めている。
ハ ところで、重加算税を賦課する場合の根拠規定である国税通則法第68条《重加算税》第1項では、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に重加算税を課す旨規定している。
ニ そして、上記イ及びロの事実からすると、請求人は国税通則法第68条第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしたところに基づいて納税申告書を提出していたことになる。
ホ なお、請求人は、除外売上金で事業用資産を取得した旨主張するが、調査担当職員が、請求人に対して、当該事実について、取得時期、取得先及び取得金額等の説明を求めたにもかかわらず、何ら具体的な説明がなかったことから、必要経費として認めなかったものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、重加算税の賦課決定をすべき要件事実の存否にあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)本件売掛帳別冊は、本件売掛帳の一部をルーズリーフから外して別管理としたもので、本件売掛帳別冊を請求人の関与税理士に提示しなければ本件青色申告決算書の売上金額に計上されないことは十分認識していた。
(ロ)本件売掛帳別冊の一部及び本件請求書控等を破棄したのは、確定申告の売上げから除外したことから、その後においても明らかにできなくなったためである。
ロ 請求人は、異議申立てに係る調査の担当職員に対し、本件請求書控等も普段使用しているものと様式は同じであるが別冊のものを使用していた旨申述している。
ハ 本件修正申告における増加所得金額(平成5年分については、平成12年2月14日付でされた減額更正処分後のものをいう。)は、いずれも上記1の(3)のロ及びハ並びに上記イ及びロにより除外した売上げに係るものである。

(2)重加算税の賦課決定処分について

イ 請求人は、重加算税は故意に脱税の目的で積極的な不正行為をもって、所得をほ脱している場合に課されるものであり、請求人としては除外売上金で取得した事業用資産の取得価額等を立証できなかったためこれを必要経費には算入せずに本件修正申告をしたにすぎないのであるから、積極的な不正行為があったとはいえず、重加算税を賦課すべきで
ない旨主張する。
ロ ところで、加算税制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持するところにある。
 したがって、加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科される刑事罰とは異なり、納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い経済的負担を課すための行政上の措置であるといえる。
 このような制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装の行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするもので
はないと解すべきである。
ハ そして、ここにいう事実を隠ぺいするとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、これを隠匿し又は脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得、財産又は取引上の名義等に関しあたかもそれが事実であるかのように装う等事実をわい曲することをいうものと解される。
ニ これを本件についてみると、上記1の(3)のロ及びハ並びに上記(1)のイのとおり、請求人は本件売掛帳別冊を別管理として請求人の関与税理士に提出せず、本件売掛帳別冊の一部及び本件請求書控等を代金決済後に破棄していること、また、除外売上金の決済手段として受領した約束手形又は小切手の一部を本件公表外預金口座で取り立てていた
ほか、除外売上金に係る一部の小切手については、銀行の窓口において現金の払出しを受けるなどして隠匿している。
 よって、請求人は、売上げを除外する意図の下に事実を隠ぺいし、これに基づき納付すべき税額を過少に記載して、内容虚偽の確定申告書を提出したものと認められる。
 したがって、請求人のこれらの行為は、国税通則法第68条第1項の規定に該当するというべきである。
ホ なお、請求人は、原処分庁が除外売上金の使途について立証責任を負っているのであるから、事業用資産が存在しないこと又は個人的に費消したことを明らかにすべきである旨主張する。
 しかしながら、重加算税の賦課決定に当たり、除外売上金の使途を原処分庁が立証しなければ重加算税を賦課できないとする規定はなく、また、除外売上金で事業用資産を取得していたか否かについては、その支出の支払先等が明らかになってはじめてその当否が確認できるのであるから、請求人が本件修正申告と異なる必要経費の存在を主張するからには、請求人自らがその必要経費に関し具体的な立証を行うべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 以上のことから、国税通則法第68条第1項の規定によりなされた各年分の重加算税の賦課決定処分(平成5年分については、平成12年2月14日付の変更決定処分後のもの)は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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