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(平13.2.26裁決、裁決事例集No.61 102頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が出資して、米国において設立されたJ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(以下「JLLC」という。)が行う不動産賃貸業に係る損益が、JLLC自体に帰属する(原処分庁主張)のか、又は請求人を含むJLLCの構成員に帰属する(請求人主張)のかが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 確定申告書提出の経緯
 請求人は、不動産所得を有する会社役員であるが、平成8年分及び平成9年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、JLLCが行う不動産賃貸業に係る不動産運用損失のうち、請求人の出資金額に相当する部分(以下「構成員持分」という。)に見合う損失を請求人の他の不動産所得の金額と合算し、更に給与所得の金額と損益通算の上、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分及び不服申立ての経緯
(イ)原処分庁は、これに対して、JLLCの不動産運用損失は、我が国の租税法上、外国法人と認められるJLLC自体に帰属するものであるから、請求人の構成員持分に見合う不動産運用損失を請求人の他の所得金額と損益通算して確定申告することはできないとして、平成11年2月3日付で別表1の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び同表の「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
(ロ)請求人は、これらの処分を不服として、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定に基づき、平成11年3月30日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 米国におけるリミテッド・ライアビリティ・カンパニーの概要
(イ)リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(以下「LLC」という。)は、通常、個人企業、パートナーシップ及び株式会社と同様に、各種の事業を行うために設立されている。
(ロ)LLCは、米国の州政府が制定した法律に従って設立され、運営されるものであり、LLCを設立する場合には、州政府当局に対して届出を要する。
(ハ)LLCは、その構成員が自己の出資額を限度とした有限責任となっている点で株式会社に類似しているが、税務上は、LLCが稼得した所得は、当該LLCの段階では課税されずその構成員の段階で課税されるという取扱い(以下、こうした課税の方法を「パス・スルー課税」という。)を受けることもできるという点ではパートナーシップに類似している。
 このため、LLCは、パートナーシップが有する所有面や経営面の柔軟性及び税務上の利点(例えば、パス・スルー課税によって二重課税が排除される等)並びに株式会社の株主が有する有限責任という、パートナーシップと株式会社のそれぞれの特徴を兼ね備えた企業形態であると言われている。
(ニ)LLCが稼得した所得に対する米国内国歳入法上の課税の取扱いは、米国の州政府の課税の取扱いのいかんにかかわらず、当該LLCが平成8年12月31日以前に設立された場合には当該LLCの形態により、また、平成9年1月1日以後に設立された場合には当該LLC自体の選択により、LLCの段階での法人課税又はLLCの各構成員(個人
又は法人等)の段階でのパス・スルー課税のいずれかとすることとなっている。
 なお、平成8年12月31日以前に設立され、米国内国歳入法上パス・スルー課税が認められていたLLCについては、平成9年1月1日以後においても自動的に継続してその取扱いが認められることとなっている。
ロ JLLCの概要
(イ)請求人は、有限会社K(平成9年12月6日に有限会社Lに商号変更。以下「K社」という。)及びM(以下「M社」という。)とともに、ニューヨーク市において不動産を取得し賃貸する目的でJLLCを組織し、平成6年に制定されたニューヨーク州LLC法の規定に従い、平成8年5月16日に、設立定款をニューヨーク州当局に届け出ており、JLLCは適法に設立されている。
(ロ)請求人は、平成8年6月24日に、JLLCへの出資金として、1,000,000米ドルを海外送金しており、請求人のJLLCにおける構成員持分は9分の4(44.444%)である。
(ハ)JLLCは、平成8年7月18日に、21−14 P STREET、21−24 P STREET、21−32 P STREET、21−38 P STREET、21−44 P STREET、21−52 P STREET、21−58 P STREET、21−66 P STREET,Q,COUNTY OF R,N.Y.所在の賃貸ビル(以下「本件賃貸ビル」という。)を取得、登記し、不動産賃貸業を行っている。
(ニ)JLLCのニューヨーク州及び米国内国歳入法上の課税形態はパス・スルー課税が採られており、JLLC自体は納税義務者とはならず、JLLCの構成員である個人及び法人が納税義務者となっている。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)外国の事業体が損益の帰属主体となるか否かの判断基準
 外国の事業体については、以下のとおり、外国の法律によって設立が認められ、その事業体の成立時において権利・義務の主体となることができる特性を備えることにより、我が国の私法上、法人格を有すると判断されたものについては、我が国の租税法上も損益の帰属主体となる外国法人として取り扱うこととなる。
A 我が国の租税法上の取扱い
 我が国の租税法上の法人に関する定義については、法人税法第2条《定義》第3号において内国法人を「国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。」と、同条第4号において外国法人を「内国法人以外の法人をいう。」と規定しているのみで、法人の概念について定義した規定は存在しない。
 したがって、我が国の租税法上の法人概念については、一般的に民法、商法といった我が国の私法上の概念を借用してこれと同義に取り扱うこととなる。
B 我が国の私法上の法人概念
 我が国の私法上、法人とは「権利を有し義務を負う能力を法律上有しているもの」をいうと解されている。
 また、外国法人に関しては、民法第36条第1項において「外国法人ハ国、国ノ行政区画及ヒ商事会社ヲ除ク外其成立ヲ認許セス但法律又ハ条約ニ依リテ認許セラレタルモノハ此限ニ在ラス」と規定し、外国の法律によって設立され当該外国の法律の下で法人格が与えられた商事会社は、我が国の私法上、外国法人として認許されると規定されている。
 この場合の外国法人としての認許とは、外国の法律で認められた法人格を我が国においても承認し、法人として活動することを認めることと解されており、このことから我が国の私法上、法人格の認許に関しては、一般に設立準拠法主義が採られていると解されている。
(ロ)JLLCが損益の帰属主体となるか否か
A JLLCの概要
(A)平成8年5月16日に、M社の社長Nによって証明されたJLLCの定款並びに同年6月に、請求人とK社及びM社との間で締結された「JLLC運用合意書」によれば、次の事実が認められる。
a JLLCは、「JLLC運用合意書」の規定とニューヨーク州LLC法及びその措置法に従った設立手続を経て、LLCとして設立された事業体であること。
b JLLCは、ニューヨーク市の特定の不動産の所有及び運営を目的としてニューヨ一ク州LLC法に基づき設立され、その目的のために同法で許されるすべての法律行為を行うこと。
(B)公証人役場における登記及び不動産売買契約書によれば、本件賃貸ビルは、JLLCの所有に係るものであると認められる。
(C)米国統一LLC法及びニューヨ一ク州LLC法において、「LLCは構成員とは別個の法的主体である。」と規定されている。
(D)LLCの取扱いに関して、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約」には、我が国の私法上の取扱いが是正されるような特段の定めはない。
B 上記1の(3)のロ及び上記Aの事実を上記(イ)に照らして判断すれば、JLLCは、設立準拠法であるニューヨーク州LLC法上、法人格が付与された事業体であり、我が国の租税法上、損益の帰属主体となる外国法人と認められ、また、本件賃貸ビルの所有者であるから、その資産運用により生ずる損益は、すべてJLLCに帰属することになる。
 したがって、請求人が所得税青色申告決算書(不動産所得用)に計上しているJLLCの本件賃貸ビルに係る損益は、請求人に帰属しない。
(ハ)不動産所得の金額
A 総収入金額
 不動産所得に係る総収入金額のうち、JLLCの本件賃貸ビルに係る収入金額については、上記(ロ)で述べた理由により、請求人の不動産所得の収入金額に該当しない。
 したがって、各年分の不動産所得に係る総収入金額は、請求人が所得税青色申告決算書(不動産所得用)の損益計算書の「収入金額」科目に計上した平成8年分にあっては38,144,651円のうちの36,210,616円を、平成9年分にあっては87,080,806円のうちの84,855,040円をそれぞれ減算した、平成8年分が1,934,035円、平成9年分が2,225,766円となる。
B 必要経費
 不動産所得に係る必要経費のうち、JLLCの本件賃貸ビルに係る必要経費については、上記(ロ)で述べた理由により、請求人の不動産所得に係る必要経費には該当しない。
 したがって、各年分の必要経費は、請求人が所得税青色申告決算書(不動産所得用)の損益計算書の「必要経費」科目に計上した平成8年分にあっては94,626,595円のうちの90,460,055円を、平成9年分にあっては153,283,774円のうちの149,053,487円をそれぞれ減算した、平成8年分が4,166,540円、平成9年分が4,230,287円となる。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)本件更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、いずれも国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
(ロ)各年分の過少申告加算税の額は、国税通則法第65条第1項及び第2項の規定に従いそれぞれ正しく計算されている。

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(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 以下のことから、JLLC自体が損益の帰属主体であるとした原処分は、我が国の租税法に照らして誤りであり、請求人の確定申告のとおりパス・スルー課税が認められるべきである。
(イ)我が国の租税法上は、法人格の有無が納税義務者となる法人の判定基準となるところ、ニューヨーク州LLC法の解説マニュアルには、LLCは法人格がない事業体(Unincorporated Organization)であると明確に記載されており、ニューヨーク州弁護士が書いた雑誌においても、LLCには法人格がないと記述されているとおり、LLCに法人格がないということは、法律に携わっている者なら周知の事実(ないし常識)であるので、これについて我が国の行政府が異なる解釈をすることは、設立準拠法主義に違反するものである。
(ロ)請求人は、設立準拠法主義の意義は、「その事業体に法人格があるかどうかは、我が国の法律ではなく、その国又は州の法律でそうなっている(法人格がある)かどうかで判断する。」ことであると理解する。
 しかしながら、原処分庁は、設立準拠法主義を「有限会社に有限会社法が、株式会社に商法があるように、LLCにはLLC法があるから、LLCは法人である。」というように解釈しているように思われるが、法人格のない我が国の投資事業有限責任組合にも準拠する法律はあるし、また、米国のパートナーシップにもパートナーシップ法はあるのであるから、原処分庁の主張には根拠がない。
(ハ)原処分庁は、1公証人役場における登記及び不動産売買契約書によれば、本件賃貸ビルは、JLLCの所有に係るものであると認められること並びに2米国統一LLC法及びニューヨーク州LLC法においては、「LLCは構成員とは別個の法的主体である。」と規定されていることをもって、LLCに法人格があることの根拠としているが、契約主体であることと法人格の有無とは全く別のものである。
 つまり、法人格があれば当然に契約主体となり得るが、契約主体となり得るからといって法人格があるとは限らない。
 このことは、我が国の投資事業有限責任組合は、構成員とは別個の主体(登記も行う。)であるが、法人格はなく、また、米国のパートナーシップは、パートナーシップの名前で法律行為を行うことができるが、法人格はないとされていることからも明らかである。
(ニ)以上のとおり、JLLCは法人ではない上、JLLCは、構成員の共同意思により業務執行を行い、その財産は共有なので、我が国の租税法上「みなし法人」とされる「人格のない社団等」にも該当しない。
 そして、JLLCは、我が国の法制度上、民法上の組合又は匿名組合に最も類似するところ、JLLCの本件賃貸ビルに係る所有権の内容が管理・処分機能を包含することから、我が国の租税法上も、組合として取り扱うことが適当である。
 したがって、JLLCに対する課税の取扱いは、リミテッド・パートナーシップと同様、民法上の組合又は匿名組合に準じたパス・スルー課税が最も適当である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分も取り消すべきである。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件審査請求の争点は、JLLCが行う不動産賃貸業に係る不動産運用損益の帰属主体は、JLLC自体であるのか、又は請求人を含むJLLCの構成員であるのかにあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる。
(イ)ニューヨーク州LLC法には、LLCの権利・義務の範囲等について、次のとおり規定されている。
A 法第202条には、LLCの権能として同条(a)ないし(q)の権能が規定されている。このうち、同条(a)ないし(f)には、それぞれ順に次の(A)ないし(F)の権能が規定されている。
(A)裁判上又は行政上の問題について、訴訟の当事者となること。
(B)不動産を取得、所有又は使用すること。
(C)LLCが所有する財産又は資産の全部又は一部について、売却、譲渡などの処分、抵当権の設定などを行うことができること。
(D)発行証券等を取得、売却し、また、抵当権の設定などを行うことができること。
(E)保証契約、抵当権設定契約を含む諸契約を締結し、手形、債券又は証券を発行することができること。
(F)LLCの資金を他に融資又は投資することができること。
B 法第203条では、LLCの設立に関する規定中で「この章の規定により設立されたLLCは、(構成員とは別個の)独立した法的主体であり、その存在は定款が無効になる時まで存続する。」旨規定されている。
C 法第601条では、構成員の特分に関する規定中で「LLCの出資持分は動産である。構成員は、LLCの所有する特定の資産に対して何の持分も有しない。」旨規定されている。
(ロ)請求人主張のとおり、「LLCには法人格がない」との解説書等も存在するが、反対に、日本及び米国の専門家・学識経験者の見解の中には、「LLCには法人格がある」とするものも少なからず認められる。
(ハ)JLLCの事業活動等の実態
A 公証人役場における登記及び不動産売買契約書によれば、本件賃貸ビルの所有権は、JLLCにある。
B JLLCと本件賃貸ビルの入居者との間の賃貸借契約書によれば、賃貸人はJLLCである。
C 本件賃貸ビルに係る保険契約証明書によれば、契約者はJLLCである。
D 本件賃貸ビルに係る不動産税(Real Estate Tax)は、JLLC名義の預金口座から支払われている。
E 本件賃貸ビルの不動産管理契約書によれば、本件賃貸ビルの管理・運営は、JLLCがV社に委託していることが認められ、本件賃貸ビルの賃貸料は委託手数料などの諸経費の支払がなされた後、JLLC名義の預金で管理されることとなっている。
F 上記Eに関して、ニューヨークのWには、JLLC名義の預金口座が設けられている。
ロ 我が国における所得課税の原則
(イ)我が国の税法においては、個人に帰属する所得は所得税の課税対象とされ、法人に帰属する所得は法人税の課税対象とされているが、法人税法においては、同法第2条で「内国法人」を「国内に本店又は主たる事務所を有する法人」と定義し、「外国法人」を「内国法人以外の法人」と定義しているのみで、「法人」そのものの定義付けがされていない。
 このため、我が国の租税法上の法人概念については、民法、商法といった我が国の私法上の概念を借用し、これと同義に解して取り扱うべきであるところ、我が国の私法上、法人とは、一般に「自然人以外のもので法律上、権利・義務の主体となることのできるもの」、すなわち「権利を有し義務を負う能力を法律上有しているもの」をいうと解されており、この権利・義務の主体となることができる法律上の資格のことを法人格と称している。
(ロ)ところで、国際私法上、外国の法律によって設立された事業体について、その設立準拠法の下で与えられた法人格は、当然、我が国においても承認されるものと解されるところ、このことに我が国の私法(租税法)上の法人概念が上記(イ)のとおりであることを併せ考えれば、我が国の私法(租税法)上の外国法人とは、「外国の法律によって設立され、その設立準拠法の下で法人格が与えられたもの」をいうと解される。
 したがって、外国の法律によって設立され、当該設立準拠法の下で権利・義務の主体となることができる法律上の資格(法人格)が与えられた事業体は、我が国の私法(租税法)上の外国法人に該当し、我が国の租税法上損益の帰属主体となると解するのが相当である。
(ハ)以上のとおり、外国の法律によって設立された事業体が我が国の租税法上損益の帰属主体となるか否かについては、当該設立準拠法の下で権利・義務の主体となることができる法律上の資格(法人格)が与えられているか否かが判断基準となるところ、ニューヨーク州LLC法には、我が国の商法第54条第1項で規定する「会社ハ之ヲ法人トス」といった法人格の存在を直接規定した条項は存在しない。
 このため、JLLCが損益の帰属主体となるか否かについては、ニューヨーク州LLC法の下でJLLCに認められている権利・義務の内容から判断しなければならない。
(ニ)また、米国内国歳入法における法人課税の対象は、設立準拠法の下で法人格が与えられているか否かでは決せられず、米国内国歳入法で、その範囲や種類等を別途定める制度が採用されているところ、我が国の租税法上損益の帰属主体となるか否かについては、上記(ロ)のとおり、設立準拠法の下で権利・義務の主体となることができる法律上の資格(法人格)が与えられているか否かが判断基準となるのであって、米国内国歳入法上法人課税の対象とされているか否かが判断基準となるものではない。
ハ JLLCの我が国の租税法上の取扱い
 JLLCの我が国の租税法上の取扱いは、上記1の(3)の基礎事実及び上記イの認定事実を上記ロの所得課税の原則に照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)JLLCは、上記1の(3)のロ及び上記イのとおり、〔1〕商行為をなすを業とする目的でニューヨーク州LLC法に従った設立手続を経て設立された事業体であり、〔2〕設立準拠法であるニューヨーク州LLC法の下で、契約、財産権の所有、裁判、登記等において当事者となることができる資格を与えられている上、〔3〕ニューヨーク州LLC法で「LLCは(構成員とは別個の)独立した法的主体である。」と規定されていることから、同法の下で権利・義務の主体となることができる資格を付与された事業体であると認められる。
(ロ)また、JLLCの事業活動の実態をみても、JLLC自身が、その所有する本件賃貸ビルを自らの名において不動産賃貸業の用に供し、その収益や資産を管理し、不動産税を納付するなど、構成員とは異なる権利・義務の主体として活動していることが認められるのであって、事業活動等の実態面においても上記(イ)の判断を覆す点は認められない。
(ハ)したがって、JLLCは、その設立準拠法であるニューヨーク州LLC法の下で法人格(権利・義務の主体となることのできる法律上の資格)を付与された事業体であり、かかる法律上の資格と実態を有するJLLCは、我が国の私法(租税法)上の外国法人に該当し、JLLCが行う事業から生じる損益は、JLLC自体に帰属すると認めるのが相当である。
(ニ)ところで、請求人は、ニューヨーク州LLC法の解説マニュアルには、LLCは法人格がない事業体(Unincorporated Organization)であると明確に記載されており、LLCに法人格がないことは米国では周知の事実である旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ニ)のとおり、我が国と米国とでは税務上の法人概念の捕らえ方が著しく異なるところ、米国の税務上パス・スルー課税が適用されているLLCの場合、当該LLCは設立準拠法の下で法人格を与えられているが、税務取扱上は法人として認められた事業体ではないと解することができるし、また、上記イの(ロ)のとおり、「LLCには法人格あり」とする見解も少なからず存在しており、さらには、米国の税務上、現に法人課税の対象とされるLLCも存在するなど、請求人主張の「LLCに法人格がないことは米国では周知の事実」と判断することはできず、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ホ)また、請求人は、設立準拠法主義の意義について、上記2の(2)のイの(ロ)のとおり主張するが、当審判所としても、請求人が主張するとおりの観点から上記(イ)ないし(ハ)の判断をしたものである。
(ヘ)さらに、請求人は、契約主体となり得ることと法人格の有無とは全く別のものである、つまり、法人格があれば当然に契約主体となり得るが、契約主体となり得るからといって法人格があるとは限らない旨主張する。
 確かに、契約主体となり得ることのみをもって法人格の有無を判断することはできないが、JLLCが、我が国の租税法上、法人格を持った事業体であると判断されるのは、JLLCは、上記1の(3)のロ及び上記イの事実からすると、その設立準拠法の下で権利・義務の主体となることのできる法律上の資格が与えられている事業体であると認められるからであって、契約主体となり得ることのみを根拠とするものではないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ニ 以上によれば、JLLCが「人格のない社団等」に該当するか否か、又は「民法上の組合」若しくは「匿名組合」に該当するか否かについて検討するまでもなく、JLLCは我が国の租税法上「法人格」を持った法人であると認められ、JLLCが行う事業から生じる損益はJLLC自体に帰属すると判断すべきである。
 したがって、JLLCが行う不動産賃貸業から生じる損失のうち請求人の構成員持分に見合う損失を請求人の他の所得金額と損益通算することはできないとしてされた本件更正処分は適法である。
(2)本件賦課決定処分について
 本件更正処分は、上記(1)のとおり適法であり、また、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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