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(平13.4.26裁決、裁決事例集No.61 118頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の不動産所得の起因となる資産の取壊しにより生じた損失の金額が、所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第1項に該当するか又は同条第4項に該当するかについて争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり。
 なお、請求人は、平成12年5月31日に住所をP市Q二丁目11番6号R605号から肩書地へ異動したが、これに伴い、原処分庁は、H税務署長からJ税務署長となった。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、別表2の建物(以下「本件建物」という。)を、昭和55年5月から平成10年12月まで、請求人が代表取締役であるK株式会社(以下「K社」という。)に月額300,000円で賃貸していた。
ロ K社は、本件建物の1階を作業所、2階を事務所、3階を設計所として使用していた。
ハ 本件建物の日常の清掃は、K社の従業員が行っていた。
ニ 本件建物の大規模な修繕工事は行われていない。
ホ 請求人は、別表3の土地(以下「本件土地」という。)を、平成5年1月から平成11年5月まで、K社に月額150,000円で賃貸していた。
ヘ K社は、本件土地を更地で賃借し、資材置場として使用していた。
ト 平成10年中における請求人の不動産の貸付けは、本件建物及び本件土地(以下、これらを併せて「本件不動産」という。)のみである。
チ 本件不動産の賃貸料は、毎月20日ころにK社からL銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座に振り込まれている。
リ 本件不動産に係る固定資産税は、請求人の預金口座からの自動引き落としになっている。
ヌ 本件不動産の賃貸料の改定は、賃貸開始時から平成10年12月31日までの間行われていない。
ル 請求人は、K社からの給与によって生活資金の大部分を賄っている。
ヲ 請求人の平成10年分の不動産所得に係る総収入金額は5,400,000円であり、また、本件建物の取壊しにより生じた損失の金額(以下「本件損失」という。)は6,750,615円、本件損失以外の必要経費は3,969,230円である。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)本件不動産の貸付けは、次の理由により、不動産所得を生ずべき事業に該当する。
 したがって、本件損失は、所得税法第51条第1項の規定により、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきである。
A 請求人は、本件建物をK社の事業目的に合わせて取得し、K社に貸し付けたものであり、本件建物は事業用の資産であるから、法人税、所得税の課税形態で分断して事業用資産の判断をするのではなく、総合的、実質的に判断すべきである。
B 本件不動産の貸付けは、本件建物の建替えに伴う直接投資額(以下「建替投資額」という。)の大きさからみても、社会通念上、副次的業務とはならない。
C 租税特別措置法(平成12年法律第13号による改正前のもの。以下同じ。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》には、小規模事業用宅地の取扱いがあり、特定同族会社の事業の用に供されていた建物の敷地については、事業の用に供されているものとされ、これは相続税法上の取扱規定ではあるが、税法という範ちゅうから、所得税法上も同一の適用が可能である。
(ロ)以上により、請求人の平成10年分の不動産所得の金額は、別表4の「請求人主張額」欄のとおりとなる。
(ハ)更正処分のうち、その他の部分については争わない。
ロ 過少申告加算税の課決定処分について
 上記イのとおり、平成10年分の更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い、平成10年分の過少申告加算税の賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)不動産の貸付けから生じる所得が、不動産所得を生ずべき事業に該当するか否かについては、〔1〕不動産の貸付規模、〔2〕賃貸料収入の状況、〔3〕貸付不動産の維持管理の状況、〔4〕人的・物的設備の有無、〔5〕貸付者の職歴・社会的地位・生活状況等の諸点を総合して、社会通念上、事業と言い得るか否かによって判断するのが相当である。
(ロ)本件不動産の貸付けは、上記1の(3)の基礎事実及び以下の諸点を総合勘案すれば、不動産所得を生ずべき事業に当たるとは認められない。
A 請求人は、本件不動産を貸し付けるに当たり、管理事務所を設けたり専任の事務員を雇うなどしていない。
B 本件不動産の管理について、請求人自身が日常的に清掃等の役務の提供をしている事実は認められない。
C 請求人が不動産所得に係る日常的な金銭管理を行っていたとは認められない。
D 請求人の生活状況については、K社の代表取締役として同社からの安定的な給与収入を得ており、生活資金の大部分は当該給与収入によって賄われているものと推認されることから、本件不動産の貸付けは副次的業務にすぎない。
E 建替投資額が高額であるとしても、単に同族会社の便宜を考慮した結果に過ぎない。
F K社の事業に係る法人税と、請求人の業務に係る所得税とはおのずからその課税対象を異にするものであり、これらを同一に判断することはできない。
G 租税特別措置法第69条の3は、小規模な宅地を所有する者が、相続税の納税のため相続人の居住や事業の継続を困難にしている場合があり、また、小規模に不動産の貸付けを行っている者が、大規模に不動産の貸付けを行っている者に比べて、不利益に扱われるのは合理的でないために制定されたものである。
 そのため、不動産所得の起因となる資産の損失についての所得税法第51条第1項及び第4項に規定する「事業」及び「業務」の区分とは趣旨が異なり、同一に取り扱われるべきではない。
(ハ)以上により、本件損失は、所得税法第51条第4項の規定が適用され、不動産所得の必要経費に算入しないで計算したところの不動産所得の金額を限度として計算される1,430,770円が必要経費に算入される。
 したがって、平成10年分の不動産所得の金額は、別表4の「原処分庁主張額」欄のとおりとなり、この金額は更正処分の額と同額であるから、平成10年分の更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、平成10年分の更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った平成10年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

本件は、本件損失が、所得税法第51条第1項に該当するか又は同条第4項に該当するかについて争いがあるので以下、審理する。

(1)更正処分について

イ 所得税法第51条第1項の規定によれば、居住者の営む不動産所得を生ずべき事業の用に供される資産の取壊しにより生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することとされている。
ロ また、所得税法第51条第4項の規定によれば、居住者の不動産所得を生ずべき業務の用に供される資産の損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額(この項の規定を適用しないで計算した不動産所得の金額とする。)を限度として、当該年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することとされている。
ハ そして、不動産の貸付けが、不動産所得を生ずべき事業といえるか否かは〔1〕営利性・有償性の有無、〔2〕継続性・反復性の有無、〔3〕自己の危険と計算における企業遂行性の有無、〔4〕その取引に費やした精神的肉体的疲労の程度、〔5〕人的・物的設備の有無、〔6〕その者の職歴・社会的地位・生活状況等の諸点を総合して、社会通念上、事業と言い得るか否かによって判断するのが相当と解されている。
ニ そこで、上記1の(3)の基礎事実を上記ハに照らして判断すると、〔1〕貸付物件は本件不動産のみで、その貸付先は請求人が主宰するK社一社であること、〔2〕本件不動産の賃貸料は、K社から請求人の預金口座に振込入金されており、賃貸料収入の受領等に係る役務の提供は極めてきん少であること、〔3〕本件建物の日常の清掃は、K社の従業員が行っていること、また、本件不動産に係る必要経費についても、本件建物の減価償却費以外には固定資産税があるのみで、その支払については、請求人の預金口座からの自動引き落としになっていることから、本件不動産に係る維持管理の程度は極めて低いことが認められること、〔4〕本件建物の取壊しは、K社の営業方針に基づくものであると認められること、〔5〕請求人は生活の資金の大部分をK社の給与から得ていることなどを総合して判断すると、本件不動産の貸付けは、社会通念上、事業と称するに至る程度のものとは認められない。
ホ 請求人は、本件建物をK社の事業目的に合わせて取得し、K社に貸付けたものであり、本件建物は事業用資産であるから、法人税、所得税の課税形態で分断して事業用資産の判断をするのではなく、総合的、実質的に判断すべきである旨主張する。
 しかしながら、不動産の貸付けが社会通念上、事業に当たるか否かは、貸付資産の使用目的により判断するのではなく、上記ハの諸点を総合して判断するのであるから、本件建物を賃借人であるK社が事業用資産として使用していたとしても、そのことをもって、本件不動産の貸付けが事業であるとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 請求人は、建替投資額の大きさからみても、本件不動産の貸付けは、社会通念上、副次的業務とはならない旨主張する。
 しかしながら、建替投資額の大きさは、自己の危険と計算における企業遂行性の有無を判断する一つの要素ではあるが、社会通念上、事業に当たるか否かは、上記ハの諸点を総合して判断するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 請求人は、租税特別措置法第69条の3に小規模事業用宅地の取扱いがあり、特定同族会社の事業の用に供されていた建物の敷地については、事業の用に供されているものとされ、これは、相続税法上の取扱規定ではあるが、税法という範ちゅうから、所得税法上も同一の適用が可能である旨主張する。
 しかしながら、租税特別措置法第69条の3第1項には「事業」に「事業に準ずるもの(以下「準事業」という。)」が含まれる旨規定され、準事業とは、租税特別措置法施行令(平成12年政令第148号による改正以前のもの)第40条《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》において、「事業と称するに至らない不動産の貸付けで相当の対価を得て継続的に行うものとする」と規定されている。
 この趣旨は、相続により残された相続人が、小規模な貸家で生計を立てていく場合に、多くの資産を持って大規模に不動産貸付けを行っている者に比べて不利に扱われてしまうというのは必ずしも合理的でないことから不動産の貸付けについては規模の如何を問わず同一に取り扱うこととされたものであり、租税特別措置法第69条の3第1項に定める「事業」は、所得税法上の「事業」よりもその範囲を広く取り扱うこととし、準事業を含めたところで「事業」としているところ、これを所得税法上の「事業」と同義に解すことはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 以上により、本件不動産の貸付けは、不動産所得を生ずべき事業に該当せず、事業と称するに至らない程度の業務として行われていたと認めるのが相当であるから、その業務の用に供されていた本件建物の取壊しによる資産の損失の金額は、所得税法第51条第4項の規定が適用され、本件損失を不動産所得の必要経費に算入しないで計算したところの不動産所得の金額を限度として計算される1,430,770円が必要経費に算入される。
 以上の結果、請求人の不動産所得の金額は零円となるから、これと同額でなされた更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、平成10年分の更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定によりなされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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