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(平13.3.30裁決、裁決事例集No.61 129頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、歯科診療業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対してされた更正処分に係る通知書の更正の理由附記が適法になされているか否か、及び請求人が支出した諸会費等の額が、事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入されるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年分、平成9年分及び平成10年分(以下、併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に次表のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

ロ 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査に基づき、平成12年3月7日付で各年分の事業所得の金額等を次表のとおりとする更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人は、これらの処分を不服として、異議申立てを経ずに平成12年4月10日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 本件各更正処分により必要経費の額に算入されなかった次表の各支出の額及び別表の各支出の内訳については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)更正の理由附記について
 所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項が、青色申告に係る所得金額を更正する場合に、更正通知書に更正の理由を附記すべき旨規定しているのは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意、専断を抑制するとともに、処分の理由を相手に知らせて不服申立てに便宜を与えるとの趣旨によるものである。そして、青色申告者に対してその後の処理の参考とするために具体的根拠を明確にすることが法の趣旨である。
 ところが、本件各更正処分に係る通知書(以下「本件各更正通知書」という。)に附記された更正の理由は、経費の否認科目、否認金額を掲げて、これは「事業遂行上の経費とは認められない」と記載するのみで、法に規定する更正の理由と判断することはできず、この理由では本件各更正処分が恣意専断的なものと認められる。本来の法の趣旨からすれば、否認金額の由来について原処分庁の判断過程を一層具体的に説明すべきであり、この点で本件各更正通知書の更正の理由附記には不備がある。
(ロ)必要経費の額について
 原処分庁が必要経費の額に算入しないこととした上記1の(3)の各支出の額は、次の理由により、事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入すべきである。
A 諸会費
(A)K歯科大学同窓会及びそのL市地区の同窓会であるH会(以下、併せて「同窓会」という。)の会費並びにM歯科大学校友会(以下「校友会」という。)の会費は、これらの会が開業歯科医師にとって業界情報収集の場あるいは交際の場であることから、業務の遂行上必要な絶対不可欠の経費である。
(B)L市歯科医師会への福祉共済年度金、共済金及び県福祉共済負担金並びに日本医師会への福祉共済負担金(以下、これらを併せて「共済負担金」という。)は、これらの共済が医師個人ではなく、歯科医業を営む上での扶助を図るためのものであるから、業務の遂行上必要な経費である。
(C)N歯連盟会費、県歯連盟会費及び日歯連盟会費(以下、これらを併せて「連盟会費」という。)は、これらの会から業務に関する情報を収集できるという効果があるため、業務の遂行上必要な経費である。
B 図書研究費
(A)英会話研修費
 請求人は、歯周病専門医、指導医また研究者として国際的に活動しており、アメリカ人講師を招請しての英会話研修による英会話能力の保持は、請求人の業務遂行のために必要不可欠なものである。すなわち、請求人にとって、米国歯周病学会等の英語を使用して運営される国際的な学会に参加することは、新知識、新技術の修得のために不可欠であり、そのためには専門的な英会話能力が必要となる。そして、米国歯周病学会から紹介される来日米国人患者の治療と治療後のメンテナンスには、英会話能力の継続維持が絶対必要となることから、英会話研修費は業務の遂行上必要な経費である。
 また、当該費用については、過去数度にわたる税務調査においても同様の状況下で容認されており、原処分庁の処理には一貫性がない。
(B)H会研修費
 平成9年7月5日付18,000円のH会研修費は、歯科医療業務に関する研修への参加のために支出したもので、同窓会の会費とは異なる支出金であり、業務の遂行上必要な経費である。
C 旅費交通費
 上記Bの(A)の英会話研修の講師に対して支払った交通費で、英会話研修に付随する経費であるから、必要経費の額に算入されるべきである。
D 接待交際費・福利厚生費・雑費
 K歯科大学歯科同窓会への参加費用として支出したもので、開業歯科医師として同窓会に参加し、同窓生との交際を通じて、業界の情報収集、歯周病専門医としての広報活動を行うことにより、患者等の紹介を受けるので、当該費用は業務の遂行上必要な経費である。
E その他
 図書研究費に計上されている米国歯周病学会申込金等、租税公課及び損害保険料が必要経費に該当しない点については争わない。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記のとおり、本件各更正処分はいずれも違法であるから、本件各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)更正の理由附記について
 所得税法第155条第2項が、青色申告書に係る更正通知書に更正の理由を附記しなければならない旨規定しているのは、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨であるところ、本件各更正通知書には、更正の理由として、各年分の「総勘定元帳に記載された事業の必要経費のうち、事業遂行上の経費と認められないものについて、別紙のとおり否認する」とし、当該別紙に各年分の必要経費否認額の内訳を記載しており、請求人は、その記載をもって、原処分庁の判断を検証することができることからして、その判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという更正の理由附記制度の趣旨を損なうことなく、また、不服申立ての便宜を充足するという要請にも必要な資料を提供している。
 したがって、本件各更正処分に係る更正の理由附記に不備はない。
(ロ)必要経費の額について
 上記1の(3)の各支出の額は、次の理由により、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入することはできない。
A 諸会費
(A)各年分の同窓会及び校友会の会費、平成8年分の記念会費及び平成10年分のP後援会費については、これらの各会費の支払先が請求人の出身大学の卒業生を対象とした同窓会組織であり、一般に同窓会組織は、出身大学の卒業生等の親睦、交際を目的として
組織されるものであって、個人の会員の業務上の経済的利益の追求を目的とするものではなく、また、上記の同窓会組織が、特別に個々の会員の経済的利益の追求を目的として組織されたものとも認められないことから、請求人が当該同窓会に参加することが主として請求人の業務の遂行上の必要性に基づくものと客観的に認めることはできない。
 なお、仮に、同窓会の会員から患者を紹介されることがあったとしても、そのことにより、当該会費等が請求人の事業遂行上、通常かつ必要なものとして客観的に必要経費として認識できるものということはできない。
(B)共済負担金は、各会が福祉年金共済等の趣旨に基づき徴収している個人の保険的要素のものであり、個人の家事費であると認められる。
(C)各年分の連盟会費は、いずれも政治連盟会費として、Q県歯科医師会が団体で行う献金の個人分担金に当たるものであり、個人の寄附金に該当するものと認められる。
B 図書研究費(英会話研修費)
 請求人は、歯周病専門医、指導医また研究者として国際的に活動しており、海外で行われる学会での講演や外国人患者の診療には英会話能力が必要であり、その能力維持のため英会話研修を受講することが、請求人の歯科診療の業務に何らかの利益をもたらすであろうことは否定しないが、請求人が英会話研修を受講することが、主として請求人の歯科診療の事業遂行上必要なものであること及び事業遂行上直接必要な部分について客観的に明らかであることを確認できない。
C 旅費交通費
 上記Bの英会話研修の講師に対して支払った交通費であり、上記Bと同じ理由による。
D 接待交際費・福利厚生費・雑費
 平成8年分の接待交際費・福利厚生費・雑費の各支出は、請求人及び青色事業専従者である請求人の妻のサイパン旅行に係る支出であり、請求人及びその妻は、主として保養等のために当該旅行に参加したものと認められるから、当該各支出は、請求人の事業遂行上
直接必要なものとは認められず、家事費に該当する。
E その他
 図書研究費に計上されているH会研修費及び米国歯周病学会申込金等、租税公課並びに損害保険料の各支出は、必要経費に該当しない。
(ハ)事業所得金額について
A 総収入金額、売上原価の額及び青色申告特別控除の額は、請求人が各年分の青色申告決算書に記載した金額である。
B 必要経費の額は、請求人が各年分の青色申告決算書に記載した必要経費の金額から、上記(ロ)のAからEにより必要経費に算入しないこととした各支出の額を控除すると、平成8年分64,120,331円、平成9年分70,146,349円及び平成10年分66,904,479円となる。
C 以上の結果、請求人の各年分の事業所得の金額は、次表のとおりとなり、当該金額は、本件各更正処分の金額といずれも同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

ロ 本件各賦課決定処分について
 以上のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項の
規定に基づいて本件各賦課決定処分をしたことは適法である。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

イ 更正の理由附記について
(イ)所得税法第155条第2項は、青色申告に係る所得金額を更正する場合には、更正通知書に更正の理由を附記すべき旨規定している。
 ところで、所得税法は、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得金額の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障しているところであり、同法第155条第2項の規定は、このような青色申告制度の趣旨にかんがみ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるとの趣旨によるものと解される。
 このことから、理由附記の程度は、上記理由附記制度の趣旨及び目的と当該更正処分の具体的態様に照らし決せられるべきである。そして、帳簿書類の記載自体を信用できないとして否認して更正する場合はともかく、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正する場合においては、その理由附記の程度として、納税者の申告のいかなる点にどのような誤りがあり、また、更正された数値がどのようにして算定されたものであるかが理解できる程度であれば足りるものであり、それ以上に事実関係の細部にわたり、法的評価及び判断の根拠となった事実関係までも記載することは要しないものと解するのが相当である。
(ロ)請求人は、本件各更正通知書に附記された更正の理由では、法に規定する更正の理由と判断することはできず、不備がある旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、本件各更正通知書には、更正の理由として、各年分の「総勘定元帳に記載された事業所得の必要経費のうち、事業遂行上の経費と認められない経費について、別紙のとおり否認します」と記載され、当該別紙には必要経費に該当しないとして否認した経費の額について、経費の科目別に「支払年月日」、「金額」、「支払先」、「内容」が記載されており、このことから、請求人が必要経費の額に算入した経費の額について、原処分庁は、その支出の事実を否定したものではなく、その経費の額が所得税法第37条《必要経費》及び第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》の規定に基づき必要経費の額とすることはできないと判断したものということができる。
 そうすると、本件各更正通知書に附記された更正の理由は、請求人の申告のいかなる点にどのような誤りがあり、また、更正された数値がどのようにして算定されたものであるかを理解できる程度に記載されているから、本件各更正処分に係る更正の理由附記に不備があるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 必要経費の額について
(イ)上記1の(3)の各支出のうち、図書研究費に計上されている米国歯周病学会申込金等、租税公課及び損害保険料が必要経費に該当しないことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
(ロ)請求人は、上記1の(3)の各支出のうち、上記(イ)以外の各支出は、いずれも請求人の業務の遂行上必要な経費であるから、必要経費の額に算入すべきである旨主張する。
 ところで、所得税法第37条第1項は、事業所得等の金額の計算上必要経費に算入すべき金額を、当該所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定し、同法第45条第1項第1号において、個人の消費生活上の費用である家事上の経費(以下「家事費」という。)及びこれに関連する経費(以下「家事関連費」という。)は、原則として、必要経費に算入することはできない旨規定している。
 そして、所得税法施行令第96条《家事関連費》は、家事関連費のうち、〔1〕その主たる部分が所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合、また、〔2〕青色申告者については、〔1〕のほか取引の記録等に基づいて所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分がある場合には、それらの部分は必要経費とされない家事関連費から除く旨規定している。
 そうすると、支出した経費が、業務の遂行上直接必要である場合はもちろんのこと、それが家事関連費であっても、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できる場合、及び青色申告者であれば取引の記録等に基づき業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができる場合は、その部分を必要経費の額に算入することができることとなる。
 そこで、請求人が必要経費に算入すべきとする各支出について、以下検討する。
(ハ)諸会費について
A 同窓会の会費及び校友会の会費
 請求人は、同窓会は開業医師にとって業界情報収集の場あるいは交際の場であるから、その会費は業務の遂行上必要な経費である旨主張し、同窓会に参加することは、業界の情報収集、歯周病専門医としての広報活動であり、同僚医師から患者の紹介を受ける等の効
果もあるので、その会費は、通常の高校や中学の同窓会費とは異なり、医師として活動する上で必要な費用である旨答述する。
 ところで、請求人が当審判所に提出したK歯科大学同窓会Q支部連合会会則及びH会からの請求人宛の葉書には、同窓会の活動目的として、歯科医学、歯科医療の向上に関することに加え、会員相互間の連絡及び情報交換並びに福祉厚生に関することが掲げられ、また、請求人が当審判所に提出した総勘定元帳や同窓会会費内訳書によれば、大学卒業後の研修に要する研修費用が同窓会費とは別に徴収されていることや会員に対する弔慰金等が同窓会の会費から支出されている事実が認められる。
 これらのことからすると、同窓会の活動が請求人の業務に直接関係するものに限定されていると認めることはできないし、その会費が所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められない。
 また、請求人が同窓会に参加することにより、業界の情報収集、歯周病専門医としての広報活動ができることや、同僚医師から手術等の必要な患者の紹介を受けることもあるということから、結果として請求人の歯科診療の業務に何らかの利益をもたらすであろうことはあり得るとしても、同窓会の活動目的からして、同窓生としての私的な立場で入会しているものと認めるのが相当であり、その会費について、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。
 さらに、校友会費は、当審判所の調査の結果によれば、請求人の息子であり、請求人の勤務医であるR及びSが会員になっているM歯科大学校友会に対して支払われたものであり、請求人の業務に直接関係して支出されたものと認めることはできないから、これを必
要経費に算入することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 共済負担金
 請求人が当審判所に提出したQ県歯科医師会の福祉共済規則によれば、共済負担金は、福祉共済年金制度の趣旨に基づいて各医師会が徴収しているもので、医師個人の死亡時に支給される死亡給付金等の共済掛金的な性質の支出金であることが認められる。
 そして、歯科医師会福祉共済の給付には、死亡共済金、火災共済金、災害共済金、全盲共済金及び疾病共済金があり、診療所を指定物件としていることにより必要経費の額に算入することができる火災共済に係る共済負担金の額が含まれているが、共済負担金の額は、これらの全給付を総合して決定され、また、共済の運営は一本化されているから、当審判所の調査の結果によっても、必要経費の額に算入することができる火災共済に係る共済負担金の額と家事費と認められる死亡共済等に係る共済負担金の額とに明らかに区分することはできない。
 そうすると、共済負担金は家事関連費であると認められるが、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 連盟会費
 請求人は、連盟会費は業務の遂行上必要な経費である旨主張し、連盟会費の支出先である団体は、歯科医師会と密接な関係にある政治連盟に近いものであるが、請求人はそこから保険制度の改正等の情報を入手している旨答述する。
 当審判所の調査の結果によれば、歯科医師政治連盟とは、歯科医師会からは独立した団体で、日本歯科医師政治連盟の規約及びこれに準じて作成されたQ県歯科医師政治連盟規約に基づき、歯科医師の業権の確保とその発展を図るため、歯科医療に理解ある政党又は公職の候補者に対し、政治的後援活動を行うことを目的とする政治団体であるので、連盟会費は、政党又は公職の候補者の後援のためのものと認められる。
 そうすると、請求人が、連盟会費を支払うことにより、保険制度の改正等の情報の入手ができるとしても、その会費が所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められず、仮に家事関連費であるとしても、その会費について、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)図書研究費について
A 英会話研修費
 請求人は、英会話能力の保持は請求人の業務の遂行上必要不可欠であるから、英会話研修の費用は業務の遂行上必要な経費である旨主張し、それに沿う答述をする。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、請求人が歯科診療業務、特に歯周病に関する治療を行う上で、英会話の技能を有することは有用であり、その意味で請求人の業務との関連があるといえるものの、英会話能力の保持のために継続して研修を受けることが歯科診療の業務の遂行上不可欠なものとまでは認められないし、平成8年から平成10年までの間、診療の上で英会話の能力を必要とする外国人患者の受診は平成9年の1名であり、外国人患者の来院や問い合わせにいつでも対応できるよう、長期に渡り継続して研修を受け、英会話能力を保持しておく必要があるということだけでは、請求人の歯科診療の業務の遂行上直接必要な費用とはいいがたい。
 さらに、最新の歯周病に関する医療知識を修得するために海外における学会のビデオを購入し、それを講師と共に視聴して教授を受けることや海外の学会における活動のために自己の発表する原稿の英文表現の内容等のチェックを受けることは、請求人の業務の遂行上の必要があるとみることはできるものの、英会話研修費のすべてが所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められない。
 また、英会話研修費が家事関連費であるとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。
 なお、請求人は、英会話研修費について、過去の税務調査において、必要経費に該当しないとの指摘を受けることなく、容認されてきたものであるから、それを変更してなされた本件各更正処分は不当である旨も主張するが、過去の税務調査において是正が求められなかったからといって、当該英会話研修費が必要経費に該当しないことが明らかになった段階で是正を求めることは何ら不当なものとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B H会研修費
 請求人は、H会研修費は歯科診療業務に関する研修への参加費用である旨主張して、摘要欄に「研修費」と記載された領収証を当審判所に提出した。
 しかしながら、請求人は、当審判所に対して、当該研修の内容については記憶に残っておらず、パンフレット等の資料も手元にない旨答述し、当該領収証以外に証拠資料の提出もなく、当審判所の調査の結果によっても、研修の事実の有無を含めて支出の内容が明らかにならないことから、領収証の摘要欄の記載のみをもって、当該支出が、請求人の業務に直接関係する研修に要した費用に関する支出と認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)旅費交通費について
 請求人は、旅費交通費は英会話研修に付随する経費であるから、必要経費の額に算入するべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(ニ)のAのとおり、英会話研修費は必要経費に算入することはできないのであるから、これに付随する旅費交通費についても、必要経費の額に算入することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ヘ)接待交際費・福利厚生費・雑費について
 請求人は、接待交際費、福利厚生費及び雑費は業務の遂行上必要な経費である旨主張するが、当審判所の調査の結果によれば、これらの支出は、いずれも平成8年3月に行われたK歯科大学歯科同窓会主催のサイパン旅行に参加した際に支出した費用であることが認められ、請求人は、同窓会主催の当該旅行に参加したのは請求人及び請求人の妻で、他の従業員等は同行しておらず、旅行日程の中に歯科診療業務等に関係した研究会や勉強会等の実施は含まれていない旨答述している。
 そうすると、当該旅行は、医師仲間との観光旅行であり、同窓会会員の懇親を深める目的で開催されたものと認められ、当該旅行の際に同窓会会員から、請求人の業務に何らかの利益をもたらす情報を得られたとしても、当該旅行に参加することが、請求人の業務の遂行上直接必要なものとは認められないし、仮に、当該旅行に係る費用が家事関連費に該当するとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であるとはいえず、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費の額に算入することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 事業所得の金額について
(イ)総収入金額、売上原価の額及び青色申告特別控除の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても原処分庁の認定額は相当と認められる。
(ロ)必要経費の額は、当審判所の調査の結果によれば、請求人が各年分の青色申告決算書に記載した必要経費の金額から、上記ロの(イ)から(ヘ)までにより必要経費に該当しないとした各支出の額を控除して算定するのが相当と認められ、その金額は、平成8年分64,120,331円、平成9年分70,146,349円及び平成10年分66,904,479円となり、当該金額は原処分庁の認定額と同額である。
(ハ)以上の結果、請求人の各年分の事業所得の金額は、次表のとおりとなり、当該金額は、本件各更正処分の額といずれも同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 以上のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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