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(平13.6.22裁決、裁決事例集No.61 164頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、所得税法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》第1項の規定に基づいて譲渡所得が課税された後、当該譲渡所得の基因となった土地の所有権移転登記を抹消すべき旨の判決があったことが、当該譲渡所得の課税を取り消すべき理由になるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり(以下、同表の「決定処分等」欄に記載した決定処分を「本件決定処分」という。)。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法又は不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件決定処分について
(イ)請求人は、P市Q字R4831番の2所在の山林2,629平方メートル(以下「本件土地」という。)について、社会福祉法人K(以下「K社」という。)を被告とし、本件土地の所有権移転登記の抹消手続を求める訴え(以下「本件訴訟」という。)を、平成12年5月26日付でL地方裁判所○○支部に提起していたところ、同年9月8日に、請求人からK社への所有権移転登記を抹消すべき旨の判決(以下「本件判決」という。)があり、確定している。
(ロ)本件決定処分は、請求人が本件土地をK社に寄附していることに基因してなされていることから、本件判決があったことにより、本件決定処分は取り消されるべきである。
ロ 無申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件決定処分は違法であるから、無申告加算税の賦課決定処分も違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件決定処分について
(イ)原処分庁の調査担当職員の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地の土地登記簿の登記事項によれば、本件土地は登記原因を平成8年1月31日寄附行為として、同年2月14日付で、請求人からK社への所有権移転の登記(以下「本件登記」という。)がされている。
B K社は、平成8年1月31日にS県の設立認可を受けて、同日に法人設立の登記がされている。
 なお、K社の定款には、本件土地は、K社の基本財産である旨及び速やかに特別養護老人ホームの敷地とするため必要な手続をとらなければならない旨記載されている。
(ロ)所得税法第59条第1項は、法人に対し、贈与により譲渡所得の基因となる資産を移転した場合には、その者の譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、当該資産の譲渡があったものとみなす旨規定している。
(ハ)請求人は、平成8年1月31日に、本件土地をK社に寄附したものであるところ、仮に、請求人が、本件土地に係る所有権移転登記の抹消手続を求める訴訟活動等を行っているとしても、そのことにより、本件決定処分が取り消されるべき違法性を帯びるものではない。
 すなわち、原処分庁は、個人たる請求人が法人であるK社に対して、譲渡所得の基因となる資産を寄附(すなわち贈与)したという事実行為に着目し、これに所得税法第59条第1項の規定を適用して本件決定処分を行ったものであるから、その後の請求人の行為により、さかのぼって本件決定処分が違法であるということはできない。
(ニ)上記(イ)から(ハ)に照らして判断すると、本件土地は、平成8年1月31日に請求人からK社に寄附したと認められることから、所得税法第59条第1項の規定に該当し、同日、請求人は、本件土地をK社に譲渡したものとみなされることになる。
 そうすると、本件土地の課税長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額等は、次のとおりとなる。
A 総収入金額
 本件土地は、平成8年1月31日に請求人からK社に寄附されたものであり、その時の本件土地の価額の算定は、類似する取引事例を基に算定することになるが、平成8年3月に行われたP市Qに所在する土地(地積827平方メートル)の売買取引実例によれば、1平方メートル当たりの価額は36,275円であることが認められ、本件土地の価額に相当する金額は、この1平方メートル当たりの価額36,275円に本件土地の面積2,629平方メートルを乗じて計算した95,366,975円となり、この価額を総収入金額とするのが相当である。
B 取得費
 取得費は、租税特別措置法(平成10年法律第23号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費の特例》第1項の規定により、上記Aの総収入金額95,366,975円の100分の5に相当する4,768,348円となる。
C 特別控除額
 特別控除額は、措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第3項に規定する1,000,000円である。
D 分離長期譲渡所得の金額
 分離長期譲渡所得の金額は、上記Aの総収入金額95,366,975円から上記Bの取得費4,768,348円及び上記Cの特別控除額1,000,000円を控除した金額89,598,627円となる。
E 所得控除
 所得控除額は、所得税法第86条《基礎控除》に規定する380,000円である。
F 課税分離長期譲渡所得の金額
 課税分離長期譲渡所得の金額は、上記Dの分離長期譲渡所得の金額89,598,627円から上記Eの所得控除額380,000円を控除した金額89,218,000円(千円未満の端数を切り捨てた後の金額である)となる。
G 納付すべき税額
 納付すべき税額は、上記Fの課税分離長期譲渡所得の金額89,218,000円に対し、措置法第31条第1項第1号から第3号までの規定を適用して算出した金額20,765,400円から、特別減税額50,000円を控除した金額20,715,400円となる。
(ホ)上記(ニ)のF及びGとおり、課税分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額は、本件決定処分の金額をいずれも上回るから、本件決定処分は適法である。
ロ 無申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件決定処分は適法であり、請求人には、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとも認められないから、同条第1項の規定に基づき行った無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件判決が、本件決定処分を取り消すべき理由になるか否かについて争いがあので、以下審理する。

(1)本件決定処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件土地の土地登記簿の登記事項によれば、本件土地には、受付日を平成8年3月18日、登記原因を同年3月11日金銭消費貸借同日設定、債権額323,200,000円、債務者K社、抵当権者Mとして抵当権設定の登記があり、さらに、平成12年6月2日付で、本件訴訟の提起に基づき、所有権移転の登記の抹消予告登記がされているが、平成13年4月5日現在、所有権者の異動はない。
(ロ)K社の商業登記簿の登記事項によると、K社は、平成12年9月23日で解散し、その旨を同年11月24日付で登記している。
(ハ)請求人は、措置法第40条《国等に対して財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税》第1項に規定する公益法人に対する財産の贈与に係る譲渡所得の非課税の承認を国税庁長官から受けていない。
ロ 請求人は、本件判決があったことを理由に、本件決定処分は違法又は不当であり、その全部を取り消すべきである旨主張するので、本件判決について検討すると、次のとおりである。
(イ)本件訴訟の訴状によると、請求人は、本件登記は真実に反し無効である旨主張し、K社に対し本件登記の抹消手続を求めている。
(ロ)本件訴訟に係る平成12年9月8日付の口頭弁論調書には、被告であるK社の理事長Y(以下「Y理事長」という。)が、本件訴訟において、請求人の請求を認諾したことにより、請求人の請求を認める旨の記載があり、同内容で判決は確定している。
 なお、Y理事長は、請求人の実父であるZの叔父に当たる。
(ハ)Zは、当審判所に対し、K社の設立の経緯等に関し、要旨次のとおり答述している。
A Zが中心となって、平成7年ころからS県に対しK社の設立を働きかけた。
B 平成7年10月ころ、厚生省から設立認可の内示を受けた。
C 平成8年1月31日付で、S県知事から設立認可がされた。
D 設立認可に併せて、本件土地をK社に寄附する手続をとり、K社の基本財産とした。
E 平成8年4月か5月ころ施設の着工をし、同年8月ころまで工事を続けていたが、P市議会において、政治的な問題によりK社の設立認可、補助金の凍結問題が浮上し、その後補助金の交付及び工事が停止となり、そのままの状態で現在に至っている。
F 工事代金は、2億7千万円から8千万円かかっており、Mからの借入金によって賄った。
G Mからの借入金のうち、4千8百万円は返済しているが、残りの債務は支払を猶予してもらっており、補助金の交付は一切受けていない。
H K社の活動が停止したため、平成8年末ころから他の団体等にK社を引き継ぐことを計画したが、その計画の中には本件土地の名義を寄附者に戻すことがある。また、本件土地を寄附したことに対し、寄附者に所得税が課税されると聞き、寄附したことに対して税金が課税されることには納得できないこともあり、本件土地の名義を寄附者に戻すため本件訴訟を提起した。
(ニ)Y理事長は、当審判所に対し、K社への寄附の経緯等に関して、要旨次のとおり答述している。
A K社の設立に当たり、ZからK社の理事長への就任を依頼されて了承した。
B K社の実際の運営は、Zに任せていたため、その詳細は承知していないが、K社の基本財産として、請求人から本件土地がK社へ寄附され、実際に本件土地の上に、K社の施設を建設するための工事を行ったことは承知している。
C K社の事業は、再開する目途が立たず、平成12年9月23日の理事会において解散する旨決議したので、全て白紙に戻す、あるいは、後腐れがないようにするという意味で、本件土地の登記簿上の名義を元に戻すことにしたが、本件土地がK社に寄附されたという事実を否定するものではない。
(ホ)以上のことに照らすと、本件訴訟は、次のような状況下において提起されていることが認められる。
A 本件土地を基本財産とするK社は、平成8年10月以降事実上活動を停止し、本件判決があった日から約2週間後の平成12年9月23日に解散しており、また、本件土地は、いずれ債務の弁済に充てられるものと認められることから、K社にとっては、本件登記が抹消されたとしても、特段の不都合は生じないものと認められる。
B 原告及び被告の当事者のいずれもが親類関係の間柄にあること、また、上記Aの状況からすると、請求人が「真実に反し無効」として実体とは異なる主張をしても、被告が原告の請求を認諾することにより、本件土地の所有権移転登記を抹消すべき旨が裁判所で認められることは明らかであったと認められる。
(ヘ)したがって、本件訴訟は、〔1〕K社の活動が停止し、その再開の目途も立たない状況に至り、結果としてK社への寄附が所期の目的を果たすことができなかったこと、〔2〕上記(ホ)の状況にあることから、単に、登記簿上、本件土地をK社へ寄附される以前の状態に戻すことを目的に提起したものと認めるのが相当である。そうすると、本件土地は、K社への寄附により実体的にK社の基本財産となり、本件土地上にはK社の借入金によってK社の施設の一部が建築されている事実が認められるのであるから、請求人の本件訴訟に係る主張は、その実体に反することは明らかである。
 なお、本件土地の登記簿上の所有権者の名義についても、上記イの(イ)のとおり、所有権移転登記の抹消予告登記があるのみで、登記簿上の名義は依然としてK社のまま変更もされていない状態であり、加えて、K社は上記イの(ロ)のとおり、既に法人解散の登記を了している状況にある。
(ト)以上のことから判断すると、本件訴訟における本件登記が真実に反し無効である旨の請求人の主張の根拠については、訴状に記載がなく、また、当審判所に対し、請求人及びY理事長から、当該主張を認めるに足る証拠の提出がないのであるし、当審判所の調査によってしても本件登記が無効となるべき事実は認められない。
(チ)したがって、譲渡所得の基因となった本件土地の所有権移転登記を抹消すべき旨の本件判決があったとしても、当該判決は当該譲渡所得の課税処分を取り消すべき理由にはならず、本件判決があったことを根拠として、原処分は違法又は不当であり、その全部を取り消すべきとする請求人の主張には理由がなく採用できない。
ハ 所得税法第59条第1項は、法人に対し、贈与により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、資産の譲渡があったものとみなす旨規定している。
 また、措置法第40条第1項は、所得税法第59条第1項の規定の適用については、法人に対する財産の贈与が社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することとして国税庁長官の承認を受けたものについては、当該財産の贈与はなかったものとみなす旨規定している。
ニ K社はS県の認可に基づく社会福祉法人であるところ、請求人の平成8年1月31日のK社への寄附行為による本件土地の所有権の移転は、所得税法第59条第1項の規定により、同日、K社にその時における価額で譲渡があったものとみなされ、所得税の課税の対象となる。
 なお、請求人は、本件土地のK社への寄附について、上記イの(ハ)のとおり、譲渡所得の非課税の承認を国税庁長官から受けていないのであるから、措置法第40条第1項の規定は適用されないこととなる。
ホ 本件土地に係る課税分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額を原処分庁は、別表2の〔7〕の金額89,218,000円及び〔10〕の金額20,715,400円と算定しているところ、当審判所の調査においてもこの算定は相当と認められる。
 なお、本件土地に係る譲渡所得の収入金額は、本件土地のK社への移転の時期が平成8年1月31日であるところ、その時における価額は、類似する取引事例を基に算定することには合理性を有すると認められ、原処分庁も取引事例を基として1平方メートル当たりの価額を36,275円と算定し、当該価額に本件土地の面積2,629平方メートルを乗じた価額95,366,975円としており、本件土地の価額の算定は妥当であると認められる。
ヘ 上記ホのとおり、請求人の平成8年分の課税分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額は、本件決定処分の金額である別表1の「決定処分等」欄の〔3〕の金額88,531,000円及び6の金額20,509,300円をいずれも上回るから、本件決定処分は適法である。

(2)無申告加算税の賦課決定処分について

 本件決定処分は上記(1)のとおり適法であり、また、同処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実について、請求人には、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づき無申告加算税の賦課決定処分をしたことは適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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