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(平13.5.30裁決、裁決事例集No.61 268頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、医療法人の理事長である審査請求人(以下「請求人」という。)の所有する建物が生活に通常必要でない資産に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成元年11月13日に、P市Q1番地10のK株式会社(以下「K社」という。)から、R県S郡T町117番24所在のホテルL(以下「本件ホテル」という。)1171号室(以下「本件建物」という。)を取得し、これをK社に賃貸し、この賃貸に係る不動産所得の金額の計算上生じた次表1の平成9年分、同10年分及び同11年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の損失の金額(以下「本件損失金額」という。)を、青色の確定申告書に次表2のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

ロ 原処分庁は、これに対し、平成12年12月25日付で、次表のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人は、上記ロの処分を不服として、平成13年2月21日に審査請求をした。

(3)基礎事実

以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、医療法人Mの理事長である。
ロ 請求人は、平成元年11月13日にK社から本件建物をその敷地の共有持分権並びに本件建物備付けの家具及び備品とともに38,310,000円で購入した。
ハ 本件ホテルは、ホテル用施設として建築された地下1階、地上19階建ての建物で、隣接するホテルNと一体の施設として、K社がリゾートホテルの営業に供しており、客室には8タイプあり、タイプに応じて分譲価格、宿泊料金及び管理費が定められている。
 また、本件建物は、本件ホテルの11階に位置し、その専有面積は49.16平方メートルであり、専有部分には家具及び備品が付属している。
ニ 請求人及び請求人と生計を一にする親族は、本件建物を居住の用に供していない。
ホ 請求人がK社との間で平成元年11月13日に取り交わした「ホテルL土地付区分建物売買契約書」(以下「本件売買契約書」という。)、「ホテルL管理委託契約書」(以下「本件管理委託契約書」という。)及び「ホテルL土地付区分建物賃貸借契約書」(以下「本件賃貸借契約書」という。)によれば、要旨次のとおり定められている。
(イ)本件売買契約書
 本件建物を含む本件ホテルは、隣接するホテルNと一体運営するホテル施設として建築したものをK社が分譲するものであり、請求人は、本件売買契約書締結と同時に本件管理委託契約書及び本件賃貸借契約書を締結し、それぞれの内容を遵守するものとする(第1条)。
(ロ)本件管理委託契約書
A 請求人は、本件建物の保全管理並びに環境維持に必要な処理を委託し、K社はこれを受託する(第1条)。
B 請求人は、毎年1月1日から12月31日までの1年分の本件建物に係る管理費をK社指定の振込口座に全額前払で、毎年2月末日までに振り込むものとする(第8条)。
(ハ)本件賃貸借契約書
A K社は、本件建物を家具及び備品とともにホテル運営をする目的で請求人から賃借する(第1条)。
B K社は、本件賃貸借契約書を締結した請求人のために、次のとおりの諸施設を利用できるように図る(第1条別表(1))。
(A)Wエリア内におけるK社の運営する各種のスポーツ施設を利用する場合には特別割引料金とする。
(B)請求人及び請求人が指定する者が本件建物を宿泊利用する場合は、利用に伴う税金を除き、料金は無料とする。
(C)請求人及び請求人の同伴者は、ホテルN及び本件ホテルのオーナーズラウンジを利用できる。
(D)Xゴルフクラブにおいて、曜日を問わず個人会員と同等の料金でゴルフプレーができる。
(E)上記(B)の宿泊者にスキーリフト券を無料で提供する。
C K社は、下記算式から導かれる賃借料を、年1回、請求人に支払うものとする(第2条)。
賃借料=(A÷B)×((C−D)÷C)×50%
但し、
・A:同タイプ全客室の一般客の利用に伴う支払料金の合計額(本件建物も含む。)
・B:同タイプの全客室数(本件建物も含む。)
・C:平均利用回数(E/B)
・D:請求人及び請求人の指定する者の本件建物の全利用回数
・E:同タイプの全利用回数(Dも含む。)
D 第2条の賃借料は、1月1日から12月31日までの1年間をもって計算し、本件管理委託契約書に定める管理費と相殺の上、差額を請求人の指定する銀行口座に振込みにて、翌年の2月末日までに支払うものとする(第4条)。
E 賃貸借の期間は20年とする。但し、K社がホテル運営を続ける限り更新されるものとする(第5条)。
F 第1条のホテル運営はK社がその責任において行うものとし、請求人はこの契約に定められたもの以外は、ホテル運営についていかなる権利、義務も存在しない(第9条)。
ヘ K社が本件建物を分譲する際、顧客に配布した「hotel L・分譲のご案内」(以下「本件分譲案内書」という。)には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ)K社が経営する本件ホテル及びホテルN内には、室内温水プール、トレーニングルーム、スカッシュコート及びテニスコート(以下、これらを併せて「各種スポーツ施設」という。)があるほか、周辺には、Yスキー場及びXゴルフクラブ(以下「本件関連施設」という。)がある。
(ロ)本件ホテルの各区分所有者(以下「オーナー」という。)には次の特典がある。
A オーナーズルームは、オーナーはもちろんオーナーの指定する者は、無料で何回でも利用できる。
B スキーシーズンには、オーナーズルームに宿泊するオーナー及びオーナーの紹介者に、リフト1日券を宿泊日数分無料で進呈する。
C ゴルフシーズンには、オーナーは、Xゴルフクラブにおいて会員料金でゴルフプレーができる。
D オーナーズルームを使用しない日は、一般客にユースし、オーナーはその分ペイバックを受けられる。
(A)ペイバックは、その客室料金の50パーセントとし、これを所定の管理費に充てることができる。
(B)オーナーが利用しない日数が多いほどペイバックが増えていく可能性があるので、マンションによる賃貸と違い「使用しながら貸す」という資産活用と「マイホテル」というリッチなオーナー気分を同時に楽しめる。
E 別荘を持つよりも、はるかに安いメンテナンス費用で快適なリゾートライフの提供を受けられる。
F 事業用資産としての不動産投資であるため、利用上のメリットの他に、合理的な節税対策ともなる。
 オーナーズルームを事業用資産とすることにより、ホテル所有のための費用や管理費、減価償却費などの経費は必要経費として処理することができる。
G ホテル内の各種スポーツ施設を割引料金で利用できる。
H オーナー専用ラウンジ及びオーナー専用ロッカーを利用できる。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 原処分のその他の部分については争わない。
イ 損益通算について
(イ)原処分の前提には、本件建物を、所得税法第62条《生活に通常必要でない資産の災害による損失》第1項及び同法施行令第178条《生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等》第1項第2号に規定する「主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的(以下「主として保養等の目的」という。)で所有する」ことが明らかであることが必要であるが、請求人は、本件建物を不動産貸付業の用に供する目的で購入したものであり、請求人が年に1、2度本件建物を利用したのは、管理目的のための最低限の使用である。このことにより、本件建物は所得税法第62条第1項及び同法施行令第178条第1項第2号に規定する資産(以下「生活に通常必要でない不動産」という。)に該当しないから、主として保養等の目的で所有していることにはならない。
 なお、本件建物が保養地に所在していることと、本件建物が主として保養等の目的で所有されているか否かの判断基準とは、全く別の問題である。
(ロ)原処分庁は、本件建物のオーナーである請求人が本件建物を優先的に使用できることを本件更正処分の理由としているが、本件建物は、オーナーである請求人は当然に利用できるものの、一般客の予約申込に優先して利用できるような保証はなく、また、そのような定めはどの契約書にも具体的な記述がない。
 なお、原処分庁が主張する「優先的に使用できる」ということは、何をもって「優先的」というのか不明確である。
 さらに、本件建物の利用が、年に1、2度の請求人にとって、「優先的使用」がどれほどの意味をなすのか疑問である。
(ハ)原処分庁は、本件損失金額を他の不動産に係る不動産所得の金額から控除してもなお控除しきれない損失の金額を他の所得の金額と損益通算することは認められないとして本件更正処分を行っているが、本件建物に係る不動産所得の計算上生じた損失の金額は、担税力の減殺という意味において、他の不動産所得に係る物件であるU市V町所在のホテルZ1218号室と何ら変わることがない以上、損益通算の対象から除外されるべき理由が認められない。
 以上のとおり、本件建物は、生活に通常必要でない不動産には該当しないのであるから、本件損失金額は、所得税法第69条《損益通算》第1項の規定により、それぞれ各年分の他の各種所得金額から控除すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 損益通算について
(イ)所得税法第62条第1項及び同法施行令第178条第1項第2号に規定する生活に通常必要でない不動産とは、特定の時期や期間に限り、個人の趣味、娯楽又は保養の目的で臨時的に使用するいわゆる別荘その他の家屋と解される。
 当該不動産の保有目的の判断に当たり、所有者の主観的意思は、外部から容易に知り難いものであることから、客観的事実を軽視し、個人の主観的意思を重視することは、税負担の公平と租税の適正な賦課徴収を実現する上で問題があり、適当でない。
 このため、所有目的を判断するに当たっては、不動産の性質及び状況、取得に至った経緯並びに不動産から受け取る利益、負担した支出及び負担の性質等の諸般の事情を総合的に考慮し、客観的に主たる目的を判断すべきである。
 これを本件についてみると、次のとおりである。
A 請求人及び請求人と生計を一にする親族は、R県S郡a町58番地に居住し、本件建物には居住していない。
B 本件建物は、いわゆるリゾートホテルとして売り出された173戸のうちの1戸で、所在地はb国立公園に隣接する観光地にあり、周辺には本件建物の貸付先であるK社が経営するホテルやスポーツ施設等があり、本件建物のオーナーもこれらの施設を割引価格で利用できる。
C K社が本件建物を分譲する際に顧客に配布した本件分譲案内書によると、オーナーは、自らが使用する日を優先的に定め本件建物を無料で使用することができ、K社は、それ以外の日をホテルの客室用として賃貸するものとなっている。
D 請求人及び請求人の家族は、本件建物を平成9年に1回、平成10年に2回及び平成11年に2回利用している。
E 本件建物に係る賃貸料(以下「本件賃貸料」という。)の額は、次表のとおり本件建物に係る必要経費の額を大幅に下回っている。

 以上のことから、本件建物は、社会通念上、主として保養等の目的で所有していると認められ、生活に通常必要でない不動産に該当する。
(ロ)本件建物を優先的に使用できるかどうかについては、請求人とK社との間で締結した本件賃貸借契約書に定めはないが、上記(イ)のCで述べたとおり、本件分譲案内書にはオーナーが自ら使用する日を優先的に定め使用することができ、K社はそれ以外の日をホテルの客室用として賃貸するものと記載されている。
 したがって、請求人は、本件建物について事実上優先的に利用することができるものと認められる。
(ハ)生活に通常必要でない不動産に係る不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額については、所得税法第69条第2項の規定によりその損失が生じなかったものとみなされることから、他の各種所得の金額から控除することはできないことになっている。
 すなわち、生活に通常必要でない不動産に係る損失の金額については、家事費的性質を有するものであって担税力の減殺要素ではないこと、あるいは個人的な消費という面が強く所得の処分に過ぎないことから、他の各種所得との間で損益通算することは適当でないため、上記のとおり損益通算を認めていないところである。
 しかしながら、生活に通常必要でない不動産に係る損失の金額でも、同一所得内での相殺は所得税法上何ら制約されないのであるから、本件建物に係る不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額は、他の物件の貸付けに係る不動産所得の金額と相殺し、なお控除しきれなかった損失の金額については、同条第2項の規定によりその損失の金額がなかったものとみなされるのである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は適法であり、また、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」には該当しないので、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件は、本件建物が生活に通常必要でない不動産に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、本件損失金額を次のとおり申告している。
(イ)平成9年分の損失金額は、他の不動産に係る損失の金額と併せて他の各種所得の金額から控除している。
(ロ)平成10年分及び平成11年分の損失金額は、それぞれ他の不動産所得の金額から控除し、なお控除しきれなかった損失の金額を他の各種所得の金額から控除している。
ロ 本件ホテルの所在地は、b国立公園のうちd地区に隣接するR県北部のWに位置し、同地域は、別荘、企業の保養所及びペンション村等があるほか、スキー場、ゴルフ場等で全国的に知られているリゾート地である。
ハ 本件建物は、本件分譲案内書によれば、「豊かなリゾートライフをお楽しみいただくためにオーナーの方に数々の特典を準備いたしました。」として、顧客に分譲されたものと認められる。
ニ オーナーには、上記1の(3)のヘのとおり、本件関連施設の優待利用等の利益が与えられている。
ホ 請求人及び請求人が指定する者の本件建物の利用状況は、次のとおりである。

ヘ K社は、上記1の(3)のホの(ハ)のとおり、ホテル運営のために本件建物を請求人から賃借して、所定の賃借料を請求人に支払うこととしているが、上記1の(2)の表1のとおり、請求人の賃貸料の額は必要経費の額を大幅に下回っている。

(2)本件更正処分について

イ 本件建物
(イ)ところで、所得税法第62条第1項及び同法施行令第178条第1項第2号の規定によれば、生活に通常必要でない不動産とは、「通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は観賞の目的で所有する不動産」と規定されているところ、同号に規定する家屋とは、特定の時期又は期間に限り個人の趣味、娯楽又は保養の目的で臨時的に利用するいわゆる別荘その他の家屋と解される。
 そして、当該家屋が主として保養等の目的で所有するものであるか否かは、その不動産の性質及び状況、所有者がその不動産を取得するに至った経緯、その不動産により所有者が受け又は受けることができた利益及び所有者が負担した支出ないし負担の性質、内容、程度等の諸般の事情を総合的に勘案し、所有者の主観的な意思によることなく、客観的にその主たる所有目的を判断するのが相当である。
(ロ)これを、本件建物についてみると、次のとおりである。
A 本件建物は、上記(1)のロのとおり、著名なリゾート地に所在し、上記1の(3)のハのとおり専有部分には家具及び備品が備え付けられ、ホテル用として充実した設備を有しており、オーナーが別荘等と同様に保養等の用に供し得る性質のものであると認められる。
B 本件分譲案内書が、本件ホテルを分譲する際に顧客に配布されたものであることからすれば、請求人は、上記1の(3)のヘのとおり、本件建物を貸し付けることによって賃貸料収入が得られるほかに、本件ホテルの利用上のメリットがあること及び合理的な節税対策になることを前提に、本件建物を取得したものと認めるのが相当である。
C 請求人は、上記1の(3)のホの(ハ)及び1の(3)のヘのとおり、オーナーズルームを無料で何回でも利用することができるほか、本件ホテル及びホテルN内の各種スポーツ施設及び本件関連施設を特別割引料金、会員料金あるいは無料で利用することができるなどの利用上の利益があり、請求人による本件建物の利用に際しては何らの制限も存しないと認められることから、請求人は、実質的に本件建物を一般客に優先して利用することができるとみるのが相当である。
D 請求人は、上記1の(3)のホの(ロ)のとおり、K社に対して本件建物の管理を委託し、更に上記1の(2)の表1のとおり本件賃貸料の額をはるかに超える管理費を各年分とも支払っていることからすると、請求人及び請求人が指定する者が保養等のために本件建物を利用したとみるのが自然であり、請求人主張の管理目的といったものは従たるものと判断するのが相当である。
E 請求人が得られる賃貸料は、上記1の(3)のホの(ハ)のCの賃借料の算式によれば、請求人が本件建物を年間を通じてK社に賃貸しているにもかかわらず、一般客の客室利用があったときだけ算定の基礎に含まれるもので、その場合でも、オーナーが所有する同タイプの客室全体の利用頻度に左右されることになっており、不安定かつ偶発的なものである。
 しかも、そのうち5割に相当する金額は無条件でK社に帰属するものであり、そのうえ、オーナーの本件建物の利用回数が多くなれば賃貸料が逓減する仕組みともなっている。
 さらには、上記1の(3)のヘの(ロ)のFのとおり、本件建物を賃貸することにより合理的な節税対策にもなることが、本件分譲案内書にうたわれていることからすると、請求人は、本件建物の取得当初から賃貸による損失が生じることを想定していたとみるのが相当である。
F 本件賃貸料の額は、上記1の(2)の表1のとおり請求人が負担した必要経費の額の2割程度の金額であり、この金額は、請求人が負担した管理費の額にも達しておらず、各年分とも大きな損失が生じており、経済的に見て不合理であると認められる。
 さらに、本件建物の貸付けによる賃貸料収入は、本件建物の利用による利益の享受と比較して副次的なものとみざるを得ず、本件建物を賃貸しているのは、単に、本件建物の管理費等の負担の軽減を図るために過ぎないものと判断するのが相当である。
 以上のことから、本件建物の性質及び状況等の諸般の事情を総合的に勘案し、客観的にみれば、請求人は、本件建物を主として保養等の目的で所有していたものと認めるのが相当であり、本件建物は、生活に通常必要でない不動産に該当すると判断される。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。
ロ 損益通算
(イ)所得税法第69条第1項の規定によれば、総所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額は、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する旨、また、同条第2項によれば、同条第1項の場合において生活に通常必要でない不動産に係る所得の金額の計算上生じた損失の金額は生じなかったものとみなす旨規定している。
 この規定の趣旨は、生活に通常必要でない不動産に係る損失の金額についてまで損益通算により担税力を減殺させる必要がないからであると考えられる。もっとも、生活に通常必要でない不動産に係る損失の金額でも、同一の所得内では相殺できるものと解されるが、これは損益通算の問題ではないことから当然のことである。
(ロ)これを本件についてみると、本件建物は、上記イで判断したとおり、生活に通常必要でない不動産に該当するから、本件損失金額は、所得税法第69条第1項の規定は適用されず、同条第2項の規定により本件損失金額は生じなかったものとみなされるから他の各種所得との間で損益通算が認められないと判断される。
 なお、本件についてみると、本件損失金額は他の物件の貸付けに係る不動産所得の金額から控除することができることから、控除しきれなかった損失の金額が同条第2項の規定により生じなかったものとみなされることになる。
 以上の結果、原処分庁が、本件損失金額をそれぞれ各年分の他の各種所得の金額から控除することができないとして行った本件更正処分は適法である。

(3)本件賦課決定処分

 上記(2)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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