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(平13.5.29裁決、裁決事例集No.61 413頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、食肉等の販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成9年9月30日付の不動産売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)に基づいて譲渡損失を計上した土地建物等について、同族法人グル−プである株式会社F(以下「F社」という。)に譲渡した事実があるか否かを主な争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成12年11月13日請求)に至る経緯等は、別表1及び2のとおりである。
 なお、平成9年10月1日から平成10年3月31日までの課税期間(以下「平成10年3月課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分の取消しを求める審査請求は、異議申立てを経るべきであるが、異議申立て又は審査請求ができる旨の教示がされた平成9年10月1日から平成10年3月31日までの事業年度(以下「平成10年3月期」という。)の法人税の更正処分(減額)と併せて1通の審査請求書により請求されたものであり(法人税の更正処分に係る審査請求については平成13年4月3日取下げ)、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第3号に規定する「異議申立てをしない審査請求をすることに正当な理由があるとき」に該当するため、適法である。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ F社は、平成9年9月26日に設立されている。
ロ 請求人及びF社は、いずれも請求人の代表者であるG(以下「G」という。)が発行済株式の総数を所有する同族会社である。
ハ 本件売買契約書には、請求人を売主、F社を買主とし、P市Q町802番1所在の宅地675.00平方メートル(以下「本件宅地」という。)を87,550,000円及び同所所在の鉄骨造スレート瓦葺2階建建物延べ339.68平方メートル(以下、「本件建物」といい、本件宅地と併せて「本件物件」という。)を26,344,500円で売買する旨の記載がされている。
ニ 平成9年9月30日には、本件物件の所有権移転登記はされていない。
ホ 請求人は、消費税の税抜経理を適用している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分庁は、本件物件の売買について、平成9年9月30日においては譲渡はなかったものとして法人税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしているが、本件物件は本件売買契約書に基づいて適正な価額で取引を行っており、法人税法第21条《各事業年度の所得に対する法人税の課税標準》及び同法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》の規定並びに消費税法第28条《課税標準》の規定により適法に計算し、申告している。
 したがって、原処分はいずれも違法であるから、その全部の取消しを求める。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおりいずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 法人税及び消費税等の更正処分について
 請求人は、Gが平成9年9月26日に設立したF社に対し、同月30日に本件物件を譲渡したとしている。
 しかし、本件物件の売買については次のような事実から、譲渡はなかったものと認められる。
(イ)本件物件の売買については、売買契約書は作成されているものの、契約内容をみると、譲渡価額の設定に際し本件物件には根抵当権が設定されていることが考慮されていないこと及び登記の変更が行われていないにもかかわらず代金の全額が支払われていることなど、通常の不動産取引に比べて不自然なものであること。
(ロ)本件物件の所有権移転登記が行われていないこと。
 請求人は、原処分の調査の際に、登記の変更がされていない理由は、F社が費用の工面をできなかったためであると申述しているが、本件物件の売買代金は、後記(ニ)のとおり実質的には請求人がGを介してF社への貸付けによってすべて賄われており、当時の請求人の資金等を勘案すれば、F社は登記費用も含めてすべて借り入れることは可能であると認められること。
 なお、登記を変更できない理由は、請求人の銀行借入れによって本件物件に根抵当権が設定されていること等によるものであると認められること。
(ハ)本件物件には銀行等が根抵当権を設定しており、この根抵当権の解除等ができなければ事実上譲渡できない状況にあると認められるところ、本件物件について重要な利害関係人であるH銀行の担当者は、原処分の調査を担当した職員に対し、「K会計士(請求人の当時の関与税理士)から本件物件の譲渡について根抵当権の解除を含めて話があったが合意に至らず、話は立ち消えになった。譲渡があったとは知らなかった」と申述していること。
(ニ)売買代金は、請求人がGを介してF社に貸し付けたものであり、実質的にF社が負担したとは認められないこと。
(ホ)請求人は、本件物件の譲渡前からその一部を自ら使用し、他の部分を第三者に賃貸しており、譲渡後においてもこのような状況に変わりがないこと。
 なお、譲渡前に締結された請求人と当該第三者との賃貸借契約が、譲渡後は、本来、F社と第三者との契約に変更されるべきところ、このような変更契約が行われず、当該第三者は、譲渡後も賃借料を請求人に支払っていたこと。
 さらに、平成11年6月になって新たな第三者に賃貸しているが、その賃貸借契約は請求人が契約の当事者(賃貸人)となっており、賃貸料は請求人の預金口座に振り込まれていること。
(へ)請求人は、本件物件の一部を譲渡後においても使用しているが、譲渡があったとすれば、当然に請求人からF社に賃借料が支払われていなければならないこと。
(ト)本件物件について、原処分庁が請求人の国税に対する差押処分を行ったが、請求人は異議等を申し立てていないこと。
 以上のことから、平成9年9月30日には、本件物件の譲渡はなかったものと認められ、当該事実に基づいて行った平成8年10月1日から平成9年9月30日までの事業年度(以下「平成9年9月期」という。)及び平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度(以下「平成11年3月期」といい、平成9年9月期と併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の各更正処分並びに平成10年3月課税期間及び平成10年4月1日から平成11年3月31日までの課税期間(以下「平成11年3月課税期間」といい、平成10年3月課税期間と併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等の各更正処分はいずれも適法である。
ロ 法人税及び消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、平成9年9月期の法人税及び本件各課税期間の消費税等の各更正処分は適法であり、これらの処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

(1)認定事実

 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件売買契約書第3条(売主の引渡義務)には、「売主は、本物件を引渡すまで保管する責を負い、平成9年9月30日までに買主または買主の指定する者に本物件を現状有姿として、買主に現実に引渡し、かつ所有権移転登記申請手続を完了しなければならない。本物件に抵当権、質権、先取特権または賃借権、その他所有権の行使を阻害する権利の負担あるときは、所有権移転登記申請のときまでにこれを完全に抹消しなければならない。」と記載されている。
ロ 本件宅地の登記簿には、次の内容の記載がある。
(イ)平成元年8月30日の売買を原因として請求人が取得したこと。
(ロ)原処分庁により、平成11年4月20日付で差押え及び平成12年4月14日付で参加差押えがされたこと。
(ハ)平成12年2月29日の売買を原因として、権利者をF社とする所有権移転仮登記がされたこと。
(ニ)所有権以外の権利として、平成元年8月30日付で極度額を450,000,000円、債務者を請求人、根抵当権者をH銀行とする根抵当権(平成2年8月30日付で極度額が500,000,000円に変更)及び平成3年11月28日付で極度額を24,000,000円、債務者をG、根抵当権者をL株式会社(以下「L社」という。)とする根抵当権が設定されたこと。
ハ 本件建物の登記簿には、次の内容の記載がある。
(イ)平成2年6月29日に新築され、同年8月10日受付で所有権保存登記がされたこと。
(ロ)平成11年4月20日付で原処分庁による差押えがされたこと。
(ハ)平成12年2月29日の売買を原因として、権利者をF社とする所有権移転仮登記がされたこと。
(ニ)所有権以外の権利として、平成2年8月30日付で極度額を500,000,000円、債務者を請求人、根抵当権者をH銀行とする根抵当権及び平成3年11月28日付で極度額を24,000,000円、債務者をG、根抵当権者をL社とする根抵当権が設定されたこと。
ニ 平成9年2月1日付の請求人と賃借人株式会社M(以下「M社」という。)との間で締結された本件建物の賃貸借契約書には、〔1〕賃料は月額1,000,000円とすること、〔2〕賃料はH銀行本店の請求人名義の当座預金口座に振り込むこと及び〔3〕契約期間は平成9年2月1日から平成14年1月31日までの5年間とすること等の内容が記載され、平成10年4月30日に契約が解除されるまで変更されていない。
ホ 平成11年5月19日付で、請求人と賃借人有限会社N(以下「N社」という。)との間で締結された本件物件の賃貸借契約書には、〔1〕賃料は月額600,000円とすること、〔2〕敷金として3,000,000円を請求人に預託すること、〔3〕賃料はH銀行本店の請求人名義の当座預金口座へ送金又は持参すること及び〔4〕契約期間は平成11年6月1日から平成14年5月31日までの3年間とすること等と記載されている。
ヘ 請求人は、請求人が譲渡したと主張する日以降においても引き続き本件物件の一部を事務所等として使用しているが、請求人の平成10年3月期の法人税の確定申告書に添付されている損益計算書には、支払地代家賃の計上がない。
ト 本件物件の売買代金は、平成9年9月30日に請求人が、個人としてのGに110,000,000円を貸し付け、同日、F社がGから当該金額を借り入れたうえ、その日のうちに113,894,500円をH銀行本店の請求人名義の当座預金口座に振り込んでいる。

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(2)法人税の更正処分について

イ 譲渡事実の有無
 ところで、不動産の売買に当たっては、契約書に記載された契約内容に従って抵当権の抹消、所有権の移転登記、代金の決済が行われ、引渡日以降は当該不動産から生じる果実は譲受人が享受するのが通常であるところ、本件においては、前記1の(3)の基礎事実及び上記(1)の認定事実から判断すると次のとおりであり、本件売買契約書は作成されているものの、本件物件は請求人が譲渡したと主張する平成9年9月30日以降においても請求人に帰属すると認めるのが相当であるから、本件物件の譲渡の事実はなかったものと言わざるを得ない。
(イ)通常、売主が引渡義務を履行しない場合には買主が引受けをすることはあり得ないのであるが、本件においては上記(1)のイの契約条項のうち、根抵当権の抹消及び所有権移転登記申請手続が行われていないこと。
(ロ)通常、土地建物を譲渡した場合には所有権移転登記がされるのであるが、上記(1)のロ及びハのとおり本件物件においてはしていないこと。
(ハ)請求人は、請求人が譲渡したと主張する日以前から本件建物をM社に賃貸しているが、上記(1)のニのとおり当該主張する日以降においても建物賃貸借契約書の変更が行われていないこと、また、賃貸料はH銀行本店の請求人名義の当座預金口座に振り込まれていること。
(ニ)本件建物は、M社との建物賃貸借契約が解除になった後に、N社に賃貸されているが、上記(1)のホのとおりその賃貸借契約の賃貸人は引き続き請求人となっており、また、賃貸料もH銀行本店の請求人名義の当座預金口座に入金されていること。
(ホ)請求人が本件物件を譲渡したのであれば、請求人はF社に賃借料を支払うのが通常であるが、上記(1)のヘのとおり賃借料の支払が計上されていないこと。
(へ)F社の本件物件の購入資金のほとんどは、上記(1)のトのとおり請求人がGを通してF社へ貸し付けているものであり、実質は請求人が資金の手当てをしていること。
(ト)原処分庁は、請求人が譲渡したと主張する日以降において請求人の滞納国税を徴収するために上記(1)のロ及びハのとおり差押処分を行っているが、F社からは何ら異議等が申し立てられていないこと。
ロ 所得金額等
(イ) 平成9年9月期
A 上記イのとおり、本件物件の譲渡の事実はなかったものと言わざるを得ないから、本件物件の譲渡損失54,152,069円を損金の額に算入することはできない。
B 請求人は平成8年10月1日から平成9年9月30日までの課税期間の消費税について、課税売上割合が95%未満であるとして仮払消費税のうち991,534円を控除対象外消費税として損金の額に算入しているが、これは本件物件の取引及び受取保険金を非課税取引に含めて課税売上割合を算定しているためであり、本件物件の譲渡代金及び不課税取引である受取保険金を非課税取引から控除して課税売上割合を算定すると当該課税期間の課税売上割合は95%以上となることから、仮払消費税は全額控除対象消費税額となり、991,534円を損金の額に算入することはできない。
C 仮受消費税から仮払消費税の金額を控除した金額と当期に確定した未払消費税の差額166円は、益金の額に算入される。
 そうすると、平成9年9月期の所得金額は、請求人の当該事業年度の法人税の確定申告書に記載された所得金額に前記Aないし上記Cの金額を加算して算定すると、別表3の「審判所認定額」欄に記載のとおり○○○○円となる。
 また、法人税法第67条《同族会社の特別税率》の規定に基づき上述の所得金額を基として課税留保所得に対する税額を算定すると、別表3の「審判所認定額」欄に記載のとおり5,380,800円となり、納付すべき税額は、同表同欄に記載のとおり38,950,700円となる。
(ロ)平成11年3月期
A 上記イのとおり、本件物件は請求人に帰属すると認められることから、上記(1)のニのM社との賃貸借契約に基づく受取家賃1,000,000円は、益金の額に算入される。
B また、請求人がF社に支払ったとして支払家賃勘定に計上している1,200,000円は、損金の額に算入されない。
C 上記イのとおり、本件物件は請求人に帰属すると認められるから、本件物件に係る固定資産税292,000円は、損金の額に算入される。
 そうすると、平成11年3月期の所得金額は、請求人の当該事業年度の法人税の確定申告書に記載された欠損金額に、上記A及びBの金額を加算し、上記Cの金額を減算して算定すると、別表3の「審判所認定額」欄に記載のとおり欠損金が○○○○円となる。
 以上のとおり、本件各事業年度の所得金額等は更正処分に係る所得金額等と同額になるから、これらの処分はいずれも適法である。

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(3)法人税の過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、平成12年9月13日付でされた平成9年9月期の法人税の更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(4)消費税等の更正処分について

 前記(2)のイのとおり、本件物件は請求人に帰属すると認められることから、本件各課税期間の消費税等の額は次のとおりである。
イ 平成10年3月課税期間
 請求人が受領したM社からの受取家賃6,000,000円は課税売上げとして課税標準額に加算される。
 そうすると、課税標準額は、請求人の消費税の確定申告書に記載された課税標準額52,224,000円に上述の6,000,000円を加算して算定すると、別表4の「審判所認定額」欄に記載のとおり58,224,000円となり、これを基に消費税額等を算定すると、同表同欄に記載のとおり、納付すべき消費税額が1,270,100円、納付譲渡割額が328,100円及び納付すべき合計税額が1,598,200円となる。
ロ 平成11年3月課税期間
(イ)課税標準額
 請求人が受領したM社からの受取家賃1,000,000円は課税売上げとして課税標準額に加算される。
 そうすると、課税標準額は、請求人の消費税の確定申告書に記載された課税標準額72,799,000円に上述の1,000,000円を加算して算定すると、別表4の「審判所認定額」欄に記載のとおり73,799,000円となる。
(ロ)控除対象仕入税額
 請求人がF社に支払ったとする地代家賃1,200,000円は課税仕入れに該当せず、当該金額に係る消費税相当額を控除対象仕入税額に算入することはできない。
 そうすると、控除対象仕入税額は、別表4の「審判所認定額」欄に記載のとおり564,774円となる。前記(イ)及び上記(ロ)に基づき平成11年3月課税期間の消費税額等を算定すると、別表4の「審判所認定額」欄に記載のとおり、納付すべき消費税額が2,387,100円、納付譲渡割額が610,400円及び納付すべき合計税額が2,997,500円となる。
 以上のとおり、本件各課税期間の消費税額等は更正処分に係る消費税額等と同額になるから、これらの処分はいずれも適法である。

(5)消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件各課税期間の消費税等の税額は、各更正処分に係る当該税額と同額になること及びこれにより納付すべき税額の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件各課税期間の過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

(6)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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