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(平13.6.27裁決、裁決事例集No.61 427頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第65条の2《収用換地等の場合の所得の特別控除》第5項のいわゆる宥恕規定(以下「本件宥恕規定」という。)適用を求めて提出した修正申告書に対してなされた更正処分に係る更正の理由附記に不備があるか否か及び請求人の事情が本件宥恕規定の「やむを得ない事情」に該当するか否かの2点を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、食肉小売業を営む同族会社であるが、平成9年2月1日から平成10年1月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を374,200円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、本件事業年度の法人税について、所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を409,800円と記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成12年2月16日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成12年3月28日付で所得金額を9,096,637円及び納付すべき税額を2,634,900円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を310,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成12年4月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月29日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年7月17日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、P市都市計画道路Q線整備工事に伴い、P市との間で、請求人の所有していたP市R12丁目1番11所在の土地の一部を3,515,000円で譲渡する旨の土地売買契約及び請求人が同所在地において所有していた看板等の移転料等として4,570,000円の補償金を受領する旨の物件移転契約を、平成9年3月7日にそれぞれ締結している(以下、これらの契約による譲渡代金及び補償金を併せて「本件補償金」という。)。
ロ 本件補償金は、平成9年3月31日にP市から、請求人の会計帳簿に記載のないF信用金庫○○支店の請求人名義の普通預金口座(以下「本件請求人名義預金口座」という。)に振込入金されている。
ハ 請求人は、本件補償金に係る収入を会計帳簿に計上しておらず、また、本件確定申告書において益金の額に算入していない。
 また、本件確定申告書には、措置法第65条の2第4項に規定する損金の額に算入される金額の損金算入に関する申告の記載(以下「申告の記載」という。)がなく、損金の額に算入される金額の計算に関する明細書(以下「明細書」という。)及び公共事業施行者から交付を受けた買取り等の申出があったことを証する書類(以下「書類」という。)の添付もない。
ニ 請求人は、原処分庁に対し、平成11年11月15日付で本件宥恕規定の適用を求める書面(以下「本件陳情書」という。)を提出している。
 本件陳情書には、やむを得ない事情として、〔1〕経理を担当していた請求人の代表者の妻が入院したことなどから経理に疎い請求人の代表者が経理を行ったため、本件補償金に係る収入が簿外処理となった旨、〔2〕P市役所から本件補償金は非課税扱いと聞いていたため請求人の関与税理士(以下「関与税理士」という。)に伝達しなかった旨及び〔3〕収用等の特別控除の手続が必要であることは全く知らなかった旨が記載されている。
ホ 請求人は、本件修正申告書において、収用等の特別控除額7,573,351円を損金の額に算入するとともに、「収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除に関する明細書」及び「公共事業用資産の買取り等の申出証明書」を添付している。
 なお、本件修正申告書において益金の額及び損金の額に算入された金額は、別表のとおりである。
ヘ 本件更正処分に係る更正通知書(以下「本件更正通知書」という。)には、「平成12年2月16日に提出した修正申告書において、損金の額に算入した収用等の特別控除額7,573,351円については、当該修正申告書が租税特別措置法第65条の2(収用換地等の場合の所得の特別控除)に規定する確定申告書等に該当しませんので、収用等の特別控除額7,573,351円は、損金の額に算入されません。」と記載されている。

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2 主張

(1)請求人

イ 本件更正処分について
 本件更正処分は、次のとおり違法であるから、その一部を取消すべきである。
(イ)更正の理由附記
 本件宥恕規定は、法令に基づく納税者救済規定である以上、たとえ税務署長の裁量に係るものであっても行政上の行為であるから、その手続においては他の条文規定と同様に、税務署長は、その適用関係を明確にするため更正の理由を附記しなければならないのは当然のことである。
 また、請求人は、原処分庁に対し、本件宥恕規定の適用を申請したが、原処分庁から3ヵ月にわたり回答がなかったため、その適用を求めて本件修正申告書において損金算入を行ったものであるから、本件更正処分に当たっては、本件宥恕規定を適用しない理由を本件更正通知書に附記すべきである。
 したがって、本件更正処分のうち収用等の特別控除額7,573,351円の部分については更正の理由附記を欠いた違法な処分であるから、その部分を取消すべきである。
(ロ)やむを得ない事情
 仮に、上記(イ)で主張した更正の理由附記の違法性が認められないとしても、本件更正処分は、次のとおり違法である。
A 原処分庁は、本件宥恕規定は修正申告書を対象としたものではない旨主張するが、本件宥恕規定は、「前項の記載又は添付がない確定申告書等の提出があった場合においても、その記載又は添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認められるときは」と規定しており、本件においては、本件確定申告書に上記の記載又は添付をしなかったため本件修正申告書において本件宥恕規定の適用を求めたものであるから、原処分庁は、当該規定の趣旨に従い納税者の救済を含めた適切な措置の検討をすべきである。
B 原処分庁は、本件宥恕規定のやむを得ない事情は、自然的災害、人為的災害、交通途絶等(以下「自然的災害等」という。)をいい、個人的事情は該当しない旨を主張するが、そのように解すると、自然的災害等は、確定申告書等の提出そのものが不可能となる事情であるから、確定申告書等の提出を前提としている本件宥恕規定を適用する余地がないこととなってしまう。
 また、貸倒引当金繰入額の損金算入に関する法人税基本通達11−2−1の2《貸倒損失として計上した金銭債権に係る個別評価による貸倒引当金》の定めは、自然的災害等の客観的にみて本人の責めに帰すことのできない事情に該当しない場合であっても、法人税法第52条《貸倒引当金》第4項の規定を適用する場合があることを示しており、個人的事情のみの場合であってもやむを得ない事情に該当する場合があることは明白である。
C したがって、請求人の事情は、本件宥恕規定のやむを得ない事情に該当する。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

イ 本件更正処分について
(イ)更正の理由附記
A 法人税法第130条《青色申告書に係る更正》第2項において、「税務署長は青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額を更正する場合には、その更正に係る更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない」旨規定されているが、同項の規定が要求する更正の理由附記は、税務署長が更正を行うに当たって更正の対象とした事項及びその理由についての記載であって、税務署長の裁量に係る本件宥恕規定の適用について、その適用をしなかった理由の記載まで要求しているものとは解されない。
B 原処分に係る調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、調査の際に、請求人に対して、確定申告書において収用等の特別控除額を損金に算入していない場合は、修正申告書において新たに当該金額を損金の額に算入することはできない旨を伝えていたにもかかわらず、請求人は、原処分庁に対して、収用等の特別控除額を損金の額とした本件修正申告書を提出してきたものである。
 原処分庁は、この事実に基づき、本件修正申告書は措置法第65条の2に規定する確定申告書等に該当しないから、本件修正申告書により損金の額に算入した収用等の特別控除額は損金の額に算入することはできない旨を附記したものである。
C したがって、本件更正処分の手続に違法はない。
(ロ)やむを得ない事情
A 措置法第65条の2第4項は、収用等の特別控除額の損金算入の適用を受けるためには、確定申告書等に申告の記載があり、かつ、明細書及び書類の添付がある場合に限り適用する旨規定しているところ、「確定申告書等」については、措置法第2条《用語の意義》第2項第11号において、中間申告書及び確定申告書である旨規定されているから、確定申告書等には修正申告書は含まれない。
 したがって、本件修正申告書に、申告の記載並びに明細書及び書類の添付をしても収用等の特別控除額の損金算入の適用を受けることはできない。
B また、本件宥恕規定のやむを得ない事情は、自然的災害等の客観的に見て本人の責めに帰すことのできない事情をいい、個人的事情は該当しないと解される。
C したがって、本件更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 更正の理由附記
 納税者が宥恕規定の適用を求めて提出した修正申告書について、当該宥恕規定の適用は認められないとして更正する場合に、宥恕規定を適用しない理由を更正通知書に附記すべきか否かについて争いがあるので、以下審理する。
(イ)法人税法第130条第2項は、税務署長は内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額を更正する場合には、その更正に係る更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定している。
 しかし、法人税法第130条第2項の規定が要求する更正の理由附記は、税務署長が更正を行うに当たって更正の対象とした事項及びその理由についての記載であって、税務署長の裁量に係る本件宥恕規定の適用について、その適用をしなかった理由の記載まで要求しているものとは解されない。
(ロ)また、本件更正処分は、本件修正申告書に記載された課税標準の額の計算が措置法第65条の2の規定に従って行われていないことを是正する処分であるから、本件更正通知書には、本件修正申告書において同条に規定する収用等の特別控除の適用を受けることができないこと及びその理由について、処分庁の恣意の抑制及び納税者の不服申立ての便宜という更正の理由附記の趣旨を満たす程度に記載されている必要があるところ、本件更正通知書には、上記1の(3)のヘのとおり記載されており、その内容は、更正の理由附記の趣旨を満たしているものと認められる。
(ハ)したがって、本件更正通知書に本件宥恕規定を適用しない理由が附記されていないことにより本件更正処分が違法となるものではないから、請求人の主張には理由がない。
ロ やむを得ない事情
(イ)認定事実
A 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)調査担当職員は、本件陳情書を受けて、平成11年12月9日に、関与税理士に対し、本件補償金に係る収入が益金に算入されていないのは収入除外であり、本件宥恕規定を適用することはできない旨を説明している。
(B)原処分庁所属の法人課税第1部門の統括国税調査官は、平成12年3月16日に、関与税理士に対して、修正申告の場合及び本件補償金を収入から除外した場合には本件宥恕規定は適用されない旨を説明している。
B 請求人の代表取締役であるGは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
(A)本件補償金は平成9年3月31日に本件請求人名義預金口座に入金され、その後、妻が、同年6月10日に請求人名義の定期積金とした。この定期積金の原資が本件補償金であることは私も妻も知っていた。
(B)本件補償金は事業資金ではないと思い、決算に計上しなくてもよいと判断し、会計事務所にも連絡する必要がないと思っていた。
(C)確定申告書に添付した決算書に本件補償金の計上がないことや預貯金等の内訳書に本件補償金を原資とする請求人名義の定期積金の記載がないことは分かっていたが、事業に係るものではないと思っていたので、特に疑問を持たなかった。
(ロ)ところで、本件宥恕規定は、申告の記載又は明細書若しくは書類の添付がない確定申告書等の提出があった場合においても、税務署長がその記載又は添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類並びに明細書及び書類の提出があった場合に限り、適用することができる旨の規定であり、ここでいうやむを得ない事情とは、自然的災害等の客観的に見て本人の責めに帰すことのできない事情をいい、個人的な事情はこれに該当しないと解されている。
(ハ)本件についてみると、次のとおりである。
A 本件陳情書の記載内容によれば、請求人は、経理担当者が入院したことなどから本件補償金に係る収入が会計帳簿に計上されなかったこと、P市役所から本件補償金は非課税であると聞いたため関与税理士に連絡しなかったこと、収用等の特別控除の適用に手続が必要であることを知らなかったことが本件宥恕規定のやむを得ない事情に当たるとして、収用等の特別控除の適用を求めたことが認められる。
 しかしながら、これらの事情は、いずれも請求人の主観的あるいは個人的事情に過ぎず、また、本件確定申告書の提出に当たって、請求人に、自然的災害等の客観的に見て本人の責めに帰すことのできない事情があったと認めることはできない。
 また、上記1の(3)のイ及びロの事実及び上記(イ)のBの答述によれば、請求人の代表者は、請求人の名義で本件補償金に係る契約を締結し、本件補償金が本件請求人名義口座に振り込まれたことを知っていたのであるから、本件補償金が請求人の収入であることを容易に認識し得たと認められるところ、これを事業資金ではないとして会計帳簿に計上しなかったのであり、このことは、客観的に見て請求人の責めに帰すべき事情というべきものである。
 したがって、請求人に本件宥恕規定を適用すべきやむを得ない事情があったということはできないから、請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のAのとおり、原処分庁は本件宥恕規定の趣旨に従い、納税者の救済を含めた適切な措置の検討をすべきである旨主張するが、上記(イ)のAの事実によれば、原処分庁は、本件宥恕規定の適用の可否を検討し、その適用がない旨を請求人の関与税理士に伝えていることが認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のBのとおり、個人的事情がやむを得ない事情に該当しないと解すると、自然的災害等は確定申告書等そのものの提出が不可能となる事情であるから本件宥恕規定を適用する余地がなくなる旨及び個人的事情のみの場合であってもやむを得ない事情に該当する場合がある旨を主張する。
 しかしながら、本件宥恕規定のやむを得ない事情とは、例えば、自然的災害等により公共事業施行者から書類の交付を受けることができず確定申告書等に書類の添付をすることができない場合などをいうのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、法人税基本通達11−2−1の2の定めは、貸倒引当金の損金算入に関する明細書等が確定申告書に添付されていない場合であっても、それが貸倒損失を計上したことに基因するものであり、かつ、当該確定申告書の提出後に明細書が提出されたときは、法人税法第52条第4項の宥恕規定を適用する旨を明らかにしているが、本件宥恕規定のやむを得ない事情については、上記(ロ)のとおり、自然的災害等の客観的に見て本人の責めに帰すことのできない事情とされているのであり、請求人の事情は、上記Aのとおり、これに該当しないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のとおりであり、請求人の主張にはいずれも理由がないから、本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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