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(平13.1.22裁決、裁決事例集No.61 440頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、休業中であった審査請求人(以下「請求人」という。)が、稼働中のいわゆる黒字法人を吸収合併した後、その後の事業年度において、法人税法第57条《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》の規定を適用して請求人が合併前に有していた繰越欠損金を損金の額に算入した行為又は計算が、同法第132条《同族会社等の行為又は計算の否認》に規定する法人税の負担を不当に減少させる行為又は計算に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 審査請求に至る経緯は別表1のとおりである。
 なお、請求人は、消費税額の計算誤りを理由として、平成11年9月29日付の更正処分に対し、本件審査請求後の平成12年1月31日に更正の請求をしたところ、原処分庁は、これに基づき、同年2月29日付で更正の請求どおり減額する旨の更正処分(以下、この更正処分による減額後の平成11年9月29日付更正処分を「本件更正処分」という。)及びこれに伴い過少申告加算税の額を変更する旨の変更決定処分(以下、この変更決定処分による減額後の同日付賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人の沿革
(イ)請求人は、昭和45年12月7日に商号を「J株式会社」(以下、この時期の請求人を「元J社」という。)として設立され、昭和57年7月22日にこの商号を「K株式会社」(以下、この時期の請求人を「K社」という。)に変更した。
(ロ)その後、請求人は、平成9年12月25日付の合併契約書(以下「本件合併契約書」という。)に基づき、平成10年3月16日にK社を合併法人、J株式会社(昭和57年8月23日に新たに設立された法人であり、以下、この法人を「旧J社」という。)を被合併法人として合併(以下「本件合併」という。)し、商号を「K株式会社」から「J株式会社」(以下、この時期の請求人を「新J社」という。)に変更している(以下、K社、旧J社又は新J社の平成4年12月1日から平成5年11月30日まで、平成5年12月1日から平成6年11月30日まで、平成6年12月1日から平成7年11月30日まで、平成7年12月1日から平成8年11月30日まで、平成8年12月1日から平成9年11月30日まで、平成9年12月1日から平成10年3月15日まで及び平成9年12月1日から平成10年11月30日までのそれぞれの事業年度を「平成5年11月期」、「平成6年11月期」、「平成7年11月期」、「平成8年11月期」、「平成9年11月期」、「平成10年3月期」及び「平成10年11月期」という。)。
ロ 元J社、K社、旧J社及び新J社の事業目的
(イ)元J社の事業目的
A 金属、合成樹脂などの塑性加工品並びに加工機械及びその構成部品の開発、設計、製造及び組立販売
B かくはん機、ろ過器などの化学機械、各種自動機械及び専用機の開発、設計、製造及び組立販売
C 上記A及びBに関連する一切の業務
(ロ)K社の事業目的
A 金属、合成樹脂などの塑性加工品並びに加工機械及びその構成部品の開発及び設計
B エポキシ、ウレタン、シリコン等の自動定量吐出機及びかくはん機の開発及び設計
C 工業所有権等の無体財産権の取得、貸与及び譲渡並びにこれらの技術指導
D 不動産の賃貸及び保守管理
E 上記AないしDに関連する一切の業務
(ハ)旧J社の事業目的
A 金属、合成樹脂などの塑性加工品並びに加工機械及びその構成部品の製造及び販売
B エポキシ、ウレタン、シリコン等の自動定量吐出機及びかくはん機の製造及び販売
C 上記A及びBに関連する一切の業務
(ニ)新J社の事業目的
A 金属、合成樹脂などの塑性加工品並びに加工機械及びその構成部品の開発及び設計
B エポキシ、ウレタン、シリコン等の自動定量吐出機及びかくはん機の開発及び設計
C 工業所有権等の無体財産権の取得、貸与及び譲渡並びにこれらの技術指導
D 不動産の賃貸及び保守管理
E 上記AないしDに関連する一切の業務
ハ K社及び旧J社の役員
(イ)K社の平成5年11月期末の役員は、代表取締役がL、取締役が同人の妻のM及びその父のN、監査役がK社の関与税理士のPである。
 その後、代表取締役が平成6年1月31日にLからMに交代し、更に平成10年1月31日にMからLに交代している。
(ロ)旧J社の平成5年11月期末の役員は、代表取締役がL、取締役がM及びN、監査役がPである。
 その後、役員の変更はされていない。
ニ K社及び旧J社の同族会社の判定
(イ)K社の同族会社の判定
 本件合併時におけるK社の株主及び持株数は、別表2のとおりであり、Lが60%、Lの長女のQ、次女のR及び三女のSがそれぞれ5%を保有しており、K社は法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社(以下「同族会社」という。)に該当する。
(ロ)旧J社の同族会社の判定
 本件合併時における旧J社の株主及び持株数は、別表3のとおりであり、K社が50%、Lが26.75%、Mが11.75%、Q、R及びSがそれぞれ0.25%を保有しており、旧J社は同族会社に該当する。
ホ K社及び旧J社の資産及び収益の状況
(イ)K社の資産及び収益の状況
 K社の資産及び収益の状況は、別表4及び別表5のとおりである。
(ロ)旧J社の資産及び収益の状況
 旧J社の資産及び収益の状況は、別表6及び別表7のとおりである。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、原処分の一部を取り消すべきである。
イ 本件更正処分について
 K社及び旧J社は、以下のとおり、表裏一体のものであるので、本件合併後に被合併法人である旧J社の事業を継続して生じた所得をもって合併法人であるK社の繰越欠損金を補てんした結果になったとしても、租税回避行為ではない。
 したがって、請求人には法人税法第132条は適用されず、同法第57条に基づいてした繰越欠損金の損金算入は認められるべきである。
(イ)本件合併の実体
A 上記1の(3)のイの基礎事実のとおり、請求人は、昭和45年12月7日に元J社を設立したが、昭和57年7月22日に商号を「K株式会社」に変更し、K社の主たる事業を工業所有権(特許権)の貸与業及び不動産の賃貸業とし、これら以外の事業は、新たに設立した旧J社に承継させた。
 つまり、昭和57年当時には、K社を持株会社とし、旧J社に製造及び販売を担当させて、資本と経営を分離することを意図していたものであり、将来は、経営を任せられる人材を育成して、請求人の関連会社(旧J社、T株式会社、U株式会社等)の経営を任せるつもりであった。
B しかしながら、K社の代表取締役のLとその実弟のWとの間で経営方針を巡って争いが生じ、Wは、昭和63年6月にK社及び旧J社を退職した。
 その後、Wは、K社及び旧J社の事業と競業するX株式会社を設立するなどして、K社及び旧J社の事業を妨害した上、当該両社の株主の立場を利用して、当該両社の決算内容の開示や過大な利益を要求するようになった。
 その結果、K社及び旧J社とWとの間で、損害賠償等の訴訟が起こされた。
C また、K社は、所有していた建物を旧J社に賃貸していたが、当該建物は、K社、L及びWがそれぞれ所有する土地の上にまたがって建設されていたので、K社は、L及びWに対し地代を支払っていた。
 LとWとの間で争いが生じた後、Wに対する地代の支払を中止したところ、Wから借地権の消滅を理由として土地明渡請求訴訟を起こされ、結局、Wの土地の上に建設されていた建物は取り壊すこととなった。
 そこで、K社は、平成6年11月期に当該建物を取り壊すとともに、Wとこれ以上の争いを避けるため、K社が所有する土地及び建物をすべてLに譲渡した。
D さらに、WがK社及び旧J社の株式を所有している限りWが経営に介入するおそれがあったため、W所有の株式の買取りを図ることとした。
 しかしながら、K社及び旧J社の両社が利益を上げれば、当該両社の株式の評価が高くなって株式の買取りに要する資金負担が大きくなる懸念があったため、K社の株式の評価額を引き下げる目的で、平成6年11月期にK社の代表取締役であったLを退職させ、退職金69,000,000円を支給して欠損金を生じさせた。
E これらのことから、K社と旧J社を分離しておくメリットがなくなり、かえって一つの法人として再出発した方が企業の経営の安定の上からも有利であると考え、本件合併によって創業時の単一の会社の状態に戻ることとした。
 つまり、K社と旧J社は、こうした経緯から表裏一体のものであり、K社の存在がなければ、旧J社の存在はなく、さらに、K社の欠損金は、旧J社の経営と無関係に生じたものではなく、正に当該両社の経営の安定のために生じたものであることから、K社の欠損金は旧J社の欠損金と同一視されるべきである。
 したがって、本件合併後に被合併法人である旧J社の事業を継続して生じた所得をもって合併法人であるK社の繰越欠損金を補てんした結果になったとしても、それはあくまで企業グループ全体の経営の安定のために生じた欠損金を合併法人と被合併法人の両社で分かち合ったにすぎないのであって、租税回避行為などではない。
 また、K社は、旧J社に対して50%の出資をしている親会社でもあることから、全く無関係な欠損金ではなく、租税回避との指摘は不当であるので、法人税法第132条は適用されず、同法第57条に基づいてした繰越欠損金の損金算入は認められるべきである。
F なお、K社は、「Y」の商標権を登録していたが、商標の登録取消審判事件(平成○○年審判第○○○号。以下「本件登録取消審判事件」という。)においても、特許庁はその審決でK社及び旧J社の同一性を認定している。
 さらに、K社及び旧J社は、Wとの間の一連の裁判においても、当該両社が連名で判決を受け又は当事者として和解しており、司法当局は当該両社の同一性及び一体性を認めている。
G ところで、本件合併前にK社が保有していた資産は、現金、預金、旧J社の株式、貸付金及び未収利息のみであったが、これは、〔1〕K社としては新工場を建設する予定であったが、上記Cのとおり、Wとの間で訴訟中であったため、新たな争いが生じないように、L名義で新工場を建設することにしたこと及び〔2〕K社は、旧J社に対して工業所有権を有償で使用許諾をしていたが、平成6年11月期に15年の法定有効期間が切れ、これに代わる工業所有権を申請中であったがまだ許可がおりていなかったことによるものである。
(ロ)繰越欠損金の発生要因
 上記(イ)のとおり、K社の欠損金は、平成6年11月期に所有していた不動産をすべて譲渡し、また、工業所有権の法定有効期間が終了したことにより、不動産賃貸収入及び工業所有権使用収入がなくなり、加えて平成6年11月期にLに対して69,000,000円の退職金を支払ったことから生じたものである。
 こうしたことは、K社及び旧J社の経営の安定のために必要であったものであり、仮に、Wとの間で訴訟がなければ、K社が所有する不動産を譲渡したり、取り壊すこともなければ、退職金を支払うこともなかった。
(ハ)したがって、棚卸資産の計上漏れ8,443,000円を超える部分の本件更正処分は取り消すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分の一部は取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分の一部も取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 本件合併は、以下のとおり、経済人の行為としては不合理かつ不自然であり、本件合併の法律上の形式に従ってK社の繰越欠損金を損金の額に算入することを容認した場合、法人税法第57条の趣旨及び目的に反して新J社が本来負担すべき法人税額を不当に減少させる結果となる。つまり、本件合併は、法人税法第132条に規定する租税回避行為に該当すると認められるので、同条の規定を適用して、請求人の選択した形式にかかわらず、経済的実質に従って、旧J社を合併法人、K社を被合併法人として法人税の課税標準等を計算するのが相当である。
(イ)原処分に係る調査において次の事実が認められる。
A K社の主たる事業である工業所有権の貸与業及び不動産の賃貸業は、平成6年4月30日をもって終了しており、以後、K社は休業状態であった。
B 請求人は、本件合併契約書の「旧J社は、合併期日において財産及び権利義務の一切をK社に引き継ぐものとする」旨の定めに基づき、旧J社の事業を承継した。
C 平成10年1月29日付で公正取引委員会に受理された合併届出書の「合併の目的・理由」欄には、K社の存在意義は薄れたが、消滅させるには惜しいため、資本関係をすっきりさせるべく本件合併に踏み切った旨記載されている。
D Lは、原処分に係る調査を担当する職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A)K社は、その事業内容が資産管理であるが、旧J社の親会社であったからK社を合併法人として存続させた。
(B)請求人が本件合併時に商号を「K株式会社」から「J株式会社」に変更した理由は、対外的な知名度が「K」ではなく、「J」にあったからである。
(C)本件合併時にK社が所有していた財産は、現金、預金、有価証券、未収入金及び長期貸付金であったが、現金及び預金以外の大部分は旧J社に関するものである。
(D)K社は、K社が保有していた工業所有権の有効期限が過ぎたこと及びK社が所有していた不動産を処分したことから、休業状態となった。
(E)Lは、共同経営者として参画していた実弟のWとの間で経営方針の対立から内紛が生じ裁判中であったので、Wが所有するK社の株式(発行済株式総数の40%)を買い取る場合に備え、K社の株価を下げる目的で、平成6年1月31日にK社の代表取締役を退任し、退職金69,000,000円の支給を受けた。
(ロ)本件合併の実体
A 上記1の(3)の基礎事実及び上記(イ)の事実のとおり、K社は、平成6年5月1日以後休業状態であり、また、旧J社は、本件合併により法律の形式上は消滅しているが、実質的には、本件合併後においても、本件合併前と同一の経営者、従業員及び機械設備等によって、引き続き事業を継続していることから、経済的実質においては、請求人は、本件合併後においても、被合併法人と同一性及び継続性を保っているものであり、被合併法人の実体のみを有していると認められる。つまり、営業活動や経営上問題のないいわゆる黒字法人である旧J社が、経済的に実体のない休業中のいわゆる赤字欠損法人であるK社に吸収合併されたことになり、経済人の行為としては、不合理かつ不自然なものであると認められる。
B また、別表2及び別表3のとおり、Lは、直接的、間接的にK社及び旧J社両社の各議決権株式総数の3分の2以上を有効に支配しており、合併に必要な株主総会の特別決議を行い得る立場にあったこと、並びにK社及び旧J社両社の取締役各3名のうち2名はL夫妻が占め、Lは、当該両社の代表取締役であったことからすると、当該両社は本件合併契約書をし意的に取り交わすことができたものと認められる。
C 加えて、本件合併の場合、本件合併後営まれている事業は、旧J社が営んでいた事業のみであり、本件合併と同時に、商号が合併法人の商号から被合併法人の商号に変更されている事実からすると、その不合理さ、不自然さは明白であり、本件合併は同族会社であるからこそなし得た行為であると認められる。
D その結果、本件合併の法律上の形式に従って繰越欠損金の損金算入を容認した場合、法人税法第57条の趣旨及び目的に反して請求人が本来負担すべき法人税額を不当に減少させる結果になると認められるので、同法第132条の規定を適用して、旧J社を合併法人、K社を被合併法人として法人税の課税標準等を計算すべきである。
E なお、請求人は、本件登録取消審判事件における特許庁の審決でK社及び旧J社の同一性が認められていること並びにWとの間の裁判上の争いにおいてもK社及び旧J社が連名で対応していることから、当該両社は同一性及び一体性の認められる法人と判断すべきである旨主張するが、当該審決は「使用権者(旧J社)が、争いの対象となっている商標と同一と認められる商標を使用している」旨を認定したものであり、K社及び旧J社に同一性があるとの判断を示したものではない。
 また、Wとの間の裁判においても、K社及び旧J社が連名で原告又は被告になっていたにすぎず、司法当局が当該両社の同一性及び一体性を認めたものではない。
(ハ)所得金額
 請求人の所得金額は、平成10年11月期の法人税の確定申告書の所得金額零円に、次のAないしCの金額を加算し、Dの金額を減算した○○○○○円となる。
A 棚卸資産の計上漏れ………………………………… 8,443,000円
 請求人のギヤポンプの在庫数量を確認したところ8,443,000円が棚卸しの計上漏れとなっていたので当期利益に加算する。
B 繰越欠損金の当期控除の過大額……………………71,512,199円
 請求人が当期に控除した繰越欠損金71,512,199円は、上記(ロ)のとおり控除することはできない。
C 当期所得金額の計上誤り…………………………… 2,627,045円
 請求人の平成10年11月期の法人税の確定申告に係る所得金額は、K社の平成9年12月1日から平成10年3月15日までの間における欠損金額2,627,045円を控除して計算されているが、上記(ロ)のとおり当該欠損金額を控除することはできない。
D 未払消費税及び未払地方消費税の損金算入額……… 520,200円
 請求人が本件審査請求の後の平成12年1月31日に消費税及び地方消費税の修正申告書を提出したことに伴い増加した未払消費税及び未払地方消費税を損金の額に算入する。
(ニ)納付すべき税額
 請求人の納付すべき税額は、上記(ハ)の所得金額に対する法人税額及び再計算した課税留保金額に対する税額を基に計算すると、31,690,600円となる。
(ホ)以上のとおり、請求人の所得金額及び納付すべき税額は、本件更正処分の金額と同額であるので、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)本件更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
(ロ)過少申告加算税の額は、国税通則法第65条第1項及び第2項の規定に従い正しく計算されている。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人が、本件合併を行った上、その後の事業年度において、法人税法第57条の規定を適用して請求人が本件合併前に有していた繰越欠損金を損金の額に算入した行為又は計算が、同法第132条の規定に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)K社は、昭和57年7月22日に商号を変更した際、その事業内容を、新たに事業目的に加えられた工業所有権等の無体財産権の取得、貸与及び譲渡並びにこれらの技術指導並びに不動産の賃貸及び保守管理に限定している。
 そして、元J社が創業時から中心的な業務内容としてきた各種製品及び各種機器の製造及び販売は、新たに設立された旧J社に承継されている。
(ロ)K社及び旧J社の資産及び収益は、上記1の(3)のホのとおりであり、K社は、平成7年11月期以後は稼働しているとは認められず、実質的に休業状態になっている。これに対し、旧J社は、平成5年11月期以後は平成6年11月期を除いて利益を毎期計上しており、繰越欠損金もないことから、事業は順調に推移していると認められる。
(ハ)K社の本件合併の直前期である平成9年11月期末の貸借対照表は、別表8のとおりである。
 なお、K社は、本件合併時の貸借対照表を作成していない。
(ニ)旧J社の本件合併時の貸借対照表は、別表9のとおりである。
(ホ)新J社の平成10年11月期の損益計算書は別表10のとおりである。
 営業収益は、旧J社と同様に機械及び器具の売上げのみであり、不動産賃貸収入又は工業所有権使用収入は計上されていない。
(ヘ)新J社の平成10年11月期末の貸借対照表は、別表11のとおりである。
ロ 本件合併の実体
(イ)上記1の(3)の基礎事実及び上記イの認定事実に基づき、本件合併について検討すると、K社は、本件合併時において本件合併後の事業の用に供すべき設備又は経済的価値のある無形固定資産は保有しておらず、本件合併後は、旧J社の設備及び従業員によって、旧J社の従前からの事業である各種製品及び各種機器の製造及び販売を行っているにすぎない。
 また、K社は、平成6年11月期をもって実質的に休業状態に陥っており、本件合併直前の平成9年11月期には93,088,531円の繰越欠損金を有しているのに対し、旧J社は、利益を毎期計上している稼働法人である。
 さらに、商号は、対外的な知名度が「J」にあることを理由に、本件合併と同時に「K株式会社」から「J株式会社」に変更されている。
 つまり、合併法人には見るべき保有資産が認められず、本件合併によっても経済的価値のある商号又は無形固定資産の引継ぎ等はなく、さらに、本件合併後も、合併法人の事業又は新規事業は全く行われていない。
(ロ)こうした事実を総合すれば、本件合併は、合併法人の経営実体の同一性が保持されておらず、また、合併法人の事業の継続性も認められないことから、経済的、合理的理由の存しない合併であると言わざるを得ない。
(ハ)さらに、K社は、多額の繰越欠損金を旧J社の純資産額と合併により相殺することによって、実質的にK社の債務を引き受けさせていることからすれば、本件合併は、K社を事実上、清算結了させるために行った側面も併せもっており、繰越欠損金を清算するためのいわゆる逆さ合併というべきである。
(ニ)そうすると、本件合併は、結局、通常であればK社を合併法人とする状況にはないにもかかわらず、あえてK社を合併法人として旧J社を吸収合併したものであり、それぞれ独立した法人間の経済取引としては、極めて異常かつ不自然なものであり、合理性に欠けるものであるといえる。
ハ 法人税法第57条の規定の適用
(イ)ところで、法人税は、所得金額を各事業年度ごとに区分して課税することを原則としているが、この原則を貫くと、事業年度を区切らずに所得金額の計算をする場合に比し、税負担が過重となる場合が生ずるので、同一法人における担税力を考慮して、法人税法第57条において欠損金の繰越控除が特例として認められている。
 しかしながら、法人税法第57条の適用を受けるためには、こうした同条の趣旨、目的から、繰越欠損金の控除に係る各事業年度の間において、経営実体の同一性が継続維持されていることが当然の前提とされているところである。
 したがって、法人税法第57条の規定の適用において、被合併法人の繰越欠損金は、合併法人の所得金額の計算上損金の額に算入することはできないと解される。
(ロ)そこで、本件合併について検討すると、上記ロのとおり、請求人は、法人税法第57条の規定を適用するために、合併の法律上の形式に着目して、殊更にいわゆる逆さ合併の形式を採用したものであると認められる。
 つまり、こうすることによって、実質的に存続する旧J社とは独立した関係にある休業中であったK社の繰越欠損金を損金の額に算入したものであって、こうした行為又は計算は、法人税法第57条の趣旨及び法人税の課税標準である所得金額の計算における実質主義の原則からして到底容認されるものではない。
(ハ)さらに、本件合併の実体は、上記ロのとおり、法律的には存続しているとされる合併法人であるK社の経営実体が実質的には消滅しており、被合併法人である旧J社の経営実体のみが存続しているというものである。
 そうすると、本件にあっては、経営実体を失った合併法人であるK社の既往の繰越欠損金を経営実体の存続する被合併法人である旧J社の事業活動のみによって生じた所得金額から控除していることになるから、実質的には、正に法人税法第57条の規定の趣旨に反する繰越欠損金の損金算入であるとみるべきである。
ニ 法人税法第132条の規定の適用
(イ)一般に、経済取引において、一定の法律上の形式を採用するについては、それ相応の経済的、実際的な必要性に基づくことが通常であって、法律上の形式と実際の内容とは、通常一致すべきものであるが、同族会社においては、法律上の形式が実際の内容と異なり、また、その法律上の形式を採用することに経済的、合理的理由が認められず、かつ、そのことによって不当に租税の回避、軽減を生ずることとなる場合がままみられる。
 そこで、法人税法第132条では、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができると規定されており、同族会社が採用した法律上の形式を否認して、実際の内容に則して課税要件事実を判断することができることとされている。
(ロ)本件合併については、上記ロのとおり、極めて異常、かつ、不自然ないわゆる逆さ合併という法律上の形式を採用しているものであり、このことについて経済的、合理的理由があるとは認められない。
 したがって、本件合併の法律上の形式のみに着目して、実質的に消滅した合併法人であるK社の既往の繰越欠損金を損金の額に算入することは、実質的には、法人税法第57条の規定に反するものであり、その結果、請求人が本来負担すべき法人税額を不当に減少させることになるのであるから、これは、正に同法第132条によって否認されるべき法人税の負担を不当に減少させる行為又は計算に該当するというべきである。
ホ よって、請求人の法人税の課税標準等の計算に当たっては、法人税法第132条の規定に基づいて、旧J社をなお存続する法人とみなして同法第57条の規定を適用すべきであり、K社の繰越欠損金を損金の額に算入することができないとしてされた本件更正処分は相当である。
ヘ なお、請求人は、本件登録取消審判事件において、特許庁がその審決の中でK社及び旧J社の同一性を認定している旨主張するが、同審決は当該両社が同一の商標を使用していたことを認めたにすぎない。
 また、請求人は、Wとの間の一連の裁判の過程で、司法当局はK社及び旧J社の同一性及び一体性を認めている旨主張するが、司法当局は当該両社が原告又は被告の立場で名前を連ねたことを認めたにすぎない。
ト さらに、請求人は、K社は、K社が所有していた「Y」の商標権を旧J社に無償使用させていたものであることから、K社を合併法人とすることには合理性がある旨主張するが、請求人は、本件合併と同時に、合併法人の商号を「K株式会社」から「J株式会社」に変更していること及び請求人自らも認めているように対外的な知名度が「K」ではなく、「J」にあることからみて、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 以上の結果、請求人の所得金額及び納付すべき税額は、本件更正処分の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分も適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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