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(平13.2.23裁決、裁決事例集No.61 464頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、法人税の確定申告において収益に計上していなかった受取配当金について、法人税法第23条《受取配当等の益金不算入》第6項に規定するやむを得ない事情があるとして、同条第1項の規定を適用できるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成11年9月2日請求)に至る経緯等は、別表1のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ F株式会社(以下「本件増資法人」という。)は、平成7年7月31日に、商法改正に伴う最低資本金を充足するため、同社の利益積立金を取崩し資本金に組み入れた(以下「本件増資」という。)。
ロ 請求人は、本件増資法人の発行済株式数の88%を所有する株主で、本件増資に伴い、本件増資法人の株式6,183,333円(増資額7,000,000円に同法人の発行済株式数60株に対する請求人の持ち株数53株の割合を乗じた金額、以下「本件受取配当金」という。)を取得した。
ハ 請求人の平成7年6月1日から平成8年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告における所得の金額の計算には、本件受取配当金に係る収益の計上はなく、かつ、確定申告書には、益金の額に算入されない配当等の額(以下「益金不算入額」という。)及びその計算に関する明細(法人税法施行規則第34条第2項により、別表八による書式。以下「計算明細」という。)の記載がない。
ニ 請求人は、平成8年12月6日付で、原処分庁の調査に基づき、別表1の「修正申告」欄の内容の法人税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
 なお、本件修正申告書にも、本件受取配当金に係る収益の計上はなく、かつ、益金不算入額及びその計算明細の記載がない。
ホ 本件受取配当金は、法人税法第24条《配当等の額とみなす金額》第2項第2号に規定する「配当等の額とみなす金額」及び同法第23条第4項に規定する「特定株式等に係る配当等」に該当する。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分庁は、本件受取配当金6,183,333円が益金に計上されていないとして原処分をしたが、原処分は次のとおり違法であるから、上記金額のうち6,162,760円の取消しを求める。
イ 法人税法第23条第6項の適用について
 本件事業年度の法人税の確定申告書に本件受取配当金の益金不算入額の記載をしなかったことには、次に述べる「やむを得ない事情」があるから、法人税法第23条第6項の規定を適用し、受取配当等の益金不算入の計算を認めるべきである。
(イ)「やむを得ない事情」とは、ケースバイケースで複雑多岐にわたり、簡単には条文に収まらないから税務署長の裁量にゆだねられたものであるが、その裁量に当たっては、法令の趣旨、制度の背景、条理、社会通念等を考察しながら個々の事案に妥当する処理をすべきものであり、白紙委任的自由裁量ではない。
 そして、この解釈、運用の参考となるものに取扱通達があり、本件の判断に当たっては、昭和30年9月20日付直法1−174通達(以下「旧通達」という。)の11「損金算入に関する申告の記載がないことについて特別の事情(昭和40年法律第34号改正後は「やむを得ない事情」。以下同じ。)があると認めない場合」及び同通達の12「損金算入に関する申告の記載がないことについて特別の事情があるかどうかの判定」を参考にすべきである。
 旧通達の11では、益金不算入に関する申告の記載がなかったことがその法人にとって最初のものであり、かつ、当該申告の記載がなかったことの事情を記載した書類を提出した場合には、特別の事情があると取り扱うとされており、請求人の場合は、本件受取配当金は商法改正に伴う最低資本金を充たすために発生したもので最初の事例であることから、当該申告の記載のないことに対する事情を記載した書類を提出したいと申し立てたのに、原処分庁は受理しなかった。
 また、旧通達の12では、益金不算入に関する申告の記載がないことに特別の事情がある旨を申し立てる者については、必ずその特別の事情を記載した書類を提出させるよう指導するものとあるにもかかわらず、原処分庁は上申書を受理せず、指導もしなかった。
(ロ)通達は、法律の時限立法とは異なり、ある時点を境にして突然効力を失うような性格のものでなく、法令に変更のない限り、通達の廃止された後も解釈や考え方に変わりはなく、その後も参考となるべきものであり、このことは、解説書等で「やむを得ない事情」の解釈について、旧通達が引用参照されていることにみられるとおりである。
 また、法令に変更がないまま、通達だけを改廃して課税関係を変更するようなことがあれば、そのこと自体が日本国憲法第84条に抵触する。
(ハ)本件受取配当金の益金不算入の申告ができなかった原因の大部分は本件増資法人が、所得税法第225条《支払調書及び支払通知書》第2項の規定に基づき、株主等に対し本件受取配当金の支払通知をしなかったことにあり、請求人のミスは軽微と思われることから判断しても、やむを得ない事情があることに該当する。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イで述べたとおり、本件更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)法人税法第23条第6項の適用について
A 法人税法第24条第2項第2号は、資本又は出資に組み入れられた利益積立金額のうち当該法人の株主等である内国法人が当該事実の発生の時において有する株式に対応する部分の金額は、利益の配当又は剰余金の分配の額とみなし、かつ、その内国法人が当該事実の発生の時において当該金額の交付を受けたものとみなす旨規定している。
 また、受取配当等の益金不算入の規定は、法人税法第23条第5項において、確定申告書に益金不算入額及びその計算明細の記載がある場合に限り適用する旨規定されており、みなし配当の場合に同項の適用が除外される旨を定めた法令の規定はなく、同法第23条第6項における「やむを得ない事情」に係る取扱通達も発遣されていない。
B 旧通達の11及び12の趣旨は、確定申告書に受取配当金を益金に算入している場合において、法人税法第23条第6項の「やむを得ない事情」に該当するかどうかの判定であり、受取配当金を益金に算入していない場合にまで適用するものではない。
 なお、旧通達は、昭和44年5月1日付直審(法)第25号「法人税基本通達の制定について」通達(以下「法人税基本通達」という。)の制定により廃止されており、それ以降、旧通達が適用されると定めた通達はない。
C 法人税法第23条第6項にいう「やむを得ない事情」とは、納税者の責めに帰すべからざる真にやむを得ない事情の場合に税務署長が認めるものであり、法令を知らなかったり、失念等により自ら適用しなかった場合まで該当するものではない。
(ロ)所得金額
 上記(イ)で述べたとおり、本件受取配当金については益金不算入の規定は適用されないから、本件事業年度の所得金額は、17,484,801円となり、当該金額は本件更正処分の金額と同額であるから、本件更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、当該処分により納付すべき税額の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》
第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、また、過少申告加算税の額は同条第1項の規定に従い適法に計算されているから、過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、受取配当金が確定申告の際に申告漏れとなっていたことについて、法人税法第23条第6項の規定が適用されるか否かにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
イ 請求人の代表者Gは、本件増資法人の取締役である。
ロ 本件増資法人の本件増資に係る株式会社変更登記申請書に添付されている定時株主総会議事録には、請求人の代表者Gの記名、押印がされている。

(2)更正処分について

イ 法人税法第23条について
(イ)法人税法第23条第1項は、「内国法人が受ける次に掲げる金額のうち、特定株式等以外の株式等に係る配当等の額の100分の80に相当する金額及び特定株式等に係る配当等の額は、その内国法人の各事業年度の所得の計算上、益金の額に算入しない。」と規定している。
 そして、本法が適用される要件として、同条第5項において、確定申告書に益金不算入額及びその計算明細の記載がある場合に限り適用するとし、かつ、益金の額に算入されない金額は、当該金額として記載された金額を限度とするとしている。
 ここにいう確定申告書とは、法人税法第2条《定義》第31号の確定申告書をいう。
(ロ)なお、同法第23条第6項では、法人から上記(イ)に係る計算明細の記載がない確定申告書の提出があった場合においても、税務署長が、その記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、同条第1項の規定を適用することができると規定し、いわゆる宥恕規定を置いている。
(ハ)この場合の「やむを得ない事情」とは、例えば、風水害、地震、火災、法令 違反の嫌疑等による帳簿書類の押収及びこれらに準ずるもの、言い換えれば、外的要因によって、自己の力だけでは到底申告の記載ができないような場合であって、自己の責めに帰すべき事情はこれに該当しないと解されている。
ロ そこで、前記1の(3)の基礎事実及び上記(1)の認定事実を上記イの(イ)ないし(ハ)に照らして判断すると、以下のとおりである。
(イ)基礎事実のハのとおり、請求人が行った本件事業年度の法人税の確定申告における所得の金額の計算には、本件受取配当金に係る収益の計上はなく、かつ、確定申告書には、益金不算入額及びその計算明細の記載がないことは明らかであるから、上記イの(イ)のとおり、法人税法第23条第1項の適用要件である同条第5項を充たしていないこととなる。
(ロ)また、請求人は、旧通達を引用し、〔1〕「やむを得ない事情」とは、ケースバイケースで複雑多岐にわたり、簡単には条文に収まらないから、税務署長の裁量にゆだねられたものであること、〔2〕益金不算入に関する申告の記載がなかったことが請求人にとって最初のものであること、〔3〕記載のないことに対する事情を記載した書類を原処分庁は受理しなかったこと、さらに〔4〕確定申告書に計算明細の記載ができなかったこと等は、本件増資法人が、株主等に本件受取配当金の支払通知をしなかったことにあり、請求人のミスは軽微であること等を理由として、「やむを得ない事情」に該当し、法人税法第23条第6項を適用すべき旨主張する。
 しかしながら、基礎事実のロのとおり、請求人は本件増資法人の発行済株式数の60分の53を所有していること及び認定事実のイのとおり、請求人の代表者は本件増資法人の取締役であることから本件増資法人は請求人の支配下にあると認められること並びに認定事実のロのとおり、本件増資に係る本件増資法人の定時株主総会議事録には請求人の代表者Gの記名、押印があることから、本件受取配当金が本件事業年度の確定申告の収益に計上されず、かつ、確定申告書に益金不算入額及びその計算明細の記載がないことは、請求人の責めに帰すべきものと認められ、上記イの(ハ)のとおり、「やむを得ない事情」に該当しないことは明らかであり、記載しないことが初めてであった等の請求人の主張は採用できない。
ハ 以上のとおり、請求人の確定申告書に益金不算入額及びその計算明細の記載がないことについて、その他の「やむを得ない事情」も認められないことから、法人税法第23条第1項の規定の適用はできないとした更正処分は適法である。

(3)所得金額について

 以上のとおり、本件受取配当金については法人税法第23条第1項の規定は適用されないから、請求人の本件事業年度の所得金額は17,484,801円となる。
 そうすると、請求人の本件事業年度の所得金額は更正処分のそれと同額となるから、本件更正処分は適法である。

(4)過少申告加算税の賦課決定処分について

 前記(2)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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