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(平13.2.6裁決、裁決事例集No.61 473頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税の課税財産として申告した土地が被相続人の遺産であるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成8年4月1日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した請求人の兄であるH(以下「本件被相続人」という。)に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)に次表の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 請求人は、本件申告書の課税価格に算入していた6筆の土地(内訳は別表のとおりである。以下、同表の備考欄の「A土地」及び「B土地」を「X農地」と、「C土地」から「F土地」までを「Y農地」といい、これらを併せて「本件農地」という。)は本件被相続人の遺産ではないとして、平成9年7月1日に課税価格及び納付すべき税額を次表の「更正の請求」欄のとおりとする更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

ロ 原処分庁は、これに対し、平成10年12月24日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ハ 請求人は、平成11年2月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月12日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年6月8日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の間において争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件被相続人の共同相続人は、請求人並びに本件被相続人の妹であるJ及びKの3名(以下、この3名を「本件共同相続人」という。)である。
ロ 本件被相続人及び本件共同相続人の父であるLは、昭和26年3月19日に死亡し、同人の共同相続人は、妻であるM並びに子である本件被相続人及び本件共同相続人の5名である。
 また、Mは、昭和59年9月16日に死亡し、同人の共同相続人は、子である本件被相続人及び本件共同相続人の4名である。
ハ 平成8年10月24日付の本件被相続人の遺産に係る分割協議書(以下、「甲分割協議書」といい、この分割協議を「甲分割協議」という。)には、本件農地は本件被相続人の遺産であり、請求人が相続する旨記載され、本件共同相続人全員の署名押印がなされている。
 なお、本件農地は、平成8年10月29日受付で、同年4月1日相続を原因として本件被相続人から請求人に所有権移転登記がなされていたが、平成9年6月12日受付で錯誤を原因として、その抹消登記がなされるとともに、同日受付で、X農地については昭和59年9月16日相続を原因としてMから請求人に、Y農地については昭和26年3月19日相続を原因としてLから請求人にそれぞれ所有権移転登記がなされている。
ニ 昭和59年12月1日付のMの遺産に係る分割協議書(以下、「乙分割協議書」といい、この分割協議を「乙分割協議」という。)には、〔1〕Mの死亡に伴い、祖父母及び父母の全遺産について分割協議を行った旨、そして、〔2〕本件被相続人は、「P市Qの宅地(49.47平方メートル)、同所の居宅、倉庫及び家財一式並びに農地(0.6739ヘクタール)及び原野(68.5平方メートル)」を、本件共同相続人は、それぞれ「代償分割五拾万円」を取得する旨記載され、本件被相続人及び本件共同相続人全員の署名押印がなされている。
 なお、上記農地には、本件農地全部を含むものである。
ホ 平成9年5月26日付のL、M及び本件被相続人の遺産に係る分割協議書(以下、「丙分割協議書」といい、この分割協議を「丙分割協議」という。)には、Y農地はL、M及び本件被相続人の遺産であり請求人が相続する旨記載され、L、M及び本件被相続人のそれぞれの共同相続人として本件共同相続人全員の署名押印がなされており、また、同日付のM及び本件被相続人の遺産に係る分割協議書(以下、「丁分割協議書」といい、この分割協議を「丁分割協議」という。)には、X農地はM及び本件被相続人の遺産であり請求人が相続する旨記載され、M及び本件被相続人のそれぞれの共同相続人として本件共同相続人全員の署名押印がなされている。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すとの裁決を求める。
イ 請求人は、本件農地を本件被相続人の遺産として、これを課税価格に算入した上で、本件申告書を提出したが、実際は、Mの未分割の遺産であるX農地を丁分割協議により取得し、また、Lの未分割の遺産であるY農地を丙分割協議により取得したのであるから、本件申告書に記載した課税価格及び納付すべき税額は過大である。
ロ 本件申告書は、本件農地は本件被相続人の遺産であり、これを請求人が取得することした甲分割協議に基づいてなしたものであるが、その前提となる乙分割協議は無効であるから、甲分割協議も無効というべきである。
 乙分割協議が無効である理由は、以下のとおりである。
 乙分割協議内容を記載したとする乙分割協議書には、分割の対象となる相続財産の記載に誤りがあるほか、上記1の(3)のニのとおり、祖父母の全遺産についての遺産分割協議書であるにもかかわらず、祖父母の関係では共同相続人となるL及びMの署名押印がなく、そもそも、乙分割協議書は、本件被相続人が詐術により、本件共同相続人に白紙に署名押印させた上、これに分割内容を記載して作成したもので、請求人において、Mの遺産に係る分割協議書と知らずに、本件被相続人の主宰するN合資会社の商業登記手続等に必要と考えて署名押印したものであるからである。
 現に、請求人は、平成5年4月6日付の内容証明郵便(以下「本件内容証明」という。)により、本件被相続人に対し、Mの遺産の分割を求めており、本件被相続人及び本件共同相続人が、本件農地の長期営農継続農地認定取消決定処分の取消しを求めて、P市長を被告として提起した訴訟(R地方裁判所平成○年(行ウ)第○号。以下「本件訴訟」という。)においても、請求人が本件農地の共有者である旨供述しているのであるし、乙分割協議書に本件共同相続人の取得する財産として記載された代償金500,000円の支払も受けていないのである。
ハ したがって、本件更正の請求に対し、更正すべき理由がないとした本件通知処分は違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、甲分割協議により、本件被相続人の遺産である本件農地を取得したのであるから、請求人の場合、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第1号に規定する「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」には該当しない。
ロ この点、請求人は、乙分割協議は無効であるから、当該協議を前提とする甲分割協議も無効である旨主張する。
 しかしながら、乙分割協議書には、本件被相続人及び本件共同相続人の署名押印がなされているし、その記載内容自体にも不自然な点はなく、本件被相続人が本件共同相続人に白紙に署名押印させ、当該分割協議書を作成したことをうかがわせる事情もないのであるから、真正に成立したものというべきであって、これによれば、乙分割協議も有効に成立したものといえる。
 請求人は、さらに、本件内容証明を送付して、本件被相続人にMの遺産の分割を求めていること、及び本件訴訟において本件農地の共有者である旨供述していることを理由に乙分割協議は無効とも主張する。
 しかしながら、請求人は、他方で、昭和60年3月15日に原処分庁に提出したMに係る相続税の申告書(以下「第一次相続税申告書」という。)に、本件農地の一部について、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のもの。以下同じ。)第70条の6《農地等についての相続税の納税猶予等》に規定する特例の適用を受ける旨記載して、これに基づき当該相続税の納税の猶予を受け、その後、本件被相続人の死亡により、当該納税猶予額に相当する相続税について、平成8年7月1日に「相続税の免除届出書」を提出して、その免除を受けており、また、乙分割協議書に記載された代償金500,000円についてのみ第一次相続税申告書を提出するなど乙分割協議が有効に成立したことを前提に乙分割協議に則った相続関係の手続をとっているのであり、これこそ乙分割協議の存在とその有効性を裏付けるものであって、請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のとおりであるから、本件通知処分は適法である。

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3 判断

(1)通則法第23条第1項第1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定する。
 この点、請求人は、Mの未分割の遺産であるX農地を丁分割協議により取得し、また、Lの未分割の遺産であるY農地を丙分割協議により取得したのであるから、本件申告書に記載した課税価格及び納付すべき税額は過大である旨主張するが、甲分割協議書によれば、請求人は、本件被相続人の遺産である本件農地を甲分割協議により取得したものと認められ、これによれば、請求人は、通則法第23条第1項第1号に規定する場合には該当しないこととなる。
(2)これについて、請求人は、前提となる乙分割協議が無効であるから、甲分割協議も無効である旨主張するものである。しかしながら、乙分割協議については、上記1の(3)のニのとおり、乙分割協議書が作成されており、当該分割協議書には本件被相続人のほか本件共同相続人の署名押印があるから、当該協議書は、特段の反証のない限り、真正に成立したものと推定され、これによれば、乙分割協議についても有効に成立したものということができる。
 この乙分割協議書の作成につき、請求人は、乙分割協議書は、本件被相続人が詐術により、本件共同相続人に白紙に署名押印させて作成したものであり、請求人も、これがMの遺産に係る分割協議書であることを知らずに署名押印した旨主張し、当審判所に対しても、その旨答述する。確かに、乙分割協議書は、Mの遺産についての分割協議である旨の記載に、「祖父母及び父母」の全遺産についての分割協議である旨の加筆がなされたものであるにもかかわらず、祖父母の共同相続人全員の署名押印がないことなど、その協議書の体裁自体に不自然な点がないわけではないし、また、当審判所の調査の結果によれば、請求人が、本件被相続人に対し、Mの遺産の分割を求める本件内容証明を送付していること、及び本件訴訟において本件農地を共有している旨供述していることが認められ、これらの事実は、請求人が、乙分割協議は無効と認識していたとの主張に沿うものといえる。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、祖父母の関係で共同相続人としての署名押印のないL及びMは既に死亡していたのであり、また、請求人は、乙分割協議が有効に成立したことを前提に、第一次相続税申告書に、本件農地の一部について、租税特別措置法第70条の6に規定する特例の適用を受ける旨記載して、共同相続人と共同で提出し、その後、本件被相続人の死亡により、当該納税猶予額に相当する相続税について免除を受けているだけでなく、乙分割協議書に請求人の取得分として記載された代償金500,000円のみについて第一次相続税申告書を提出するなどしているのであって、これらの事実に照らすと、請求人の当審判所に対する上記の答述は採用できないし、同人の主張するその他の事実を考慮しても、上記の推定を動揺させるものとはいえない。
 したがって、乙分割協議は真正に成立したものと認められ、甲分割協議は無効とする請求人の主張には理由がない。
(3)以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、請求人は、本件被相続人の遺産である本件農地を甲分割協議により取得したものと認められるから、本件農地を本件被相続人の遺産とする本件申告書の課税価格及び納付すべき税額に過大はなく、本件更正の請求に対し、通則法第23条第1項第1号の規定に該当しないとした本件通知処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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