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(平13.3.16裁決、裁決事例集No.61 482頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続財産として申告した土地について、その所在が現況において確認できない(所在不明または不存在)としてなされた更正の請求に理由があるか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおりである。
 なお、審査請求人Gほか3名(平成9年3月29日に死亡したH(以下「被相続人」という。)の子で共同相続人5名のうちの4名である。以下「請求人ら」という。)は、Gを総代として選任し、その旨を平成11年5月7日に届け出た。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人らは、登記簿上「P市Q区R町丙123番」と表示された土地(以下「本件土地」という。)を含め、別紙の物件目録に記載の各土地を被相続人の相続財産として記載した相続税の申告書を提出した。
ロ 別紙2の物件目録に記載のP市Q区S町727番1の土地(以下「地番727番1の土地」という。)及びその周辺土地が表示されている公図は、別図1のとおりである。
ハ 上記ロの公図上の「丙123」付近の現況は、別図2のとおりである。
ニ 被相続人は、別図2において「A土地」と表示した土地(以下「A土地」という。)、「727−1土地」と表示した土地(地番がP市Q区S町727番1であることに争いのない土地。以下「727ー1土地」という。)及び「727−9」と表示した土地(P市Q区S町727番9の土地。以下「地番727番9の土地」という。)を所有していた。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件土地の所在について
(イ)以下のとおり、本件土地は、所在不明である。
A 請求人らは、本件土地の登記簿の表示に従い、P市Q区R町内を公図等により捜したが、その所在がつかめなかった。
 したがって、同町内の周辺土地に吸収されたのではないかと思われる。
B P市は、本件土地について、固定資産税を賦課する対象となる土地として特定できず、評価保留としている。
(ロ)原処分庁は、A土地が本件土地であると主張するが、次の理由により、A土地はP市Q区S町727番1の土地の一部であると認められる。
A 別図1の公図上「丙123」と表示された土地と、A土地では、面積、形状が違い、また、両者は、東西に走る里道の北側に位置するという点では一致しているが、南北に走る里道との位置関係からすると明らかに違うから同一とはいえない。
B 別図1の公図において、「727」と表示されている土地について「別図」が示されているが、実際には、A土地の位置は、公図上の「728−1+728−2」と表示されている土地の一部に当たる。
 また、昭和35年に、728−2、727、755−1の土地が合筆し、727−1ないし11の土地に分筆されているが、位置関係からみて、A土地の前の地番は、合筆前の728−2でなくてはならない。
C 地番727番1の土地の公図上の表示は、縦と横の長さの比が、約3対1となっているが、A土地を本件土地とすると727−1土地の縦と横の長さの比は、約2対1であるから、A土地も地番727番1の土地の一部としなければ、公図と符合しない。
D 被相続人が作成した平成2年7月23日付の遺言公正証書(以下「本件遺言公正証書」という。)によれば、添付されている図面等に、A土地は地番727番1の土地の一部であることが明示され、また、本件土地については「所在不明」である旨が記載されている。
E 被相続人の夫で、昭和52年3月17日に死亡したJの相続に係る遺産分割の際、被相続人ほか2名により作成された同年9月16日付の念書(以下「本件念書」という。)には、A土地について、「P市S町727番1(地図未確認のため通称Tの北側入口の所)(中略)の畑」であり、「石垣と農道との間の土地約189.47平方メートルの部分」である旨の記載がされている。
F 原処分庁は、A土地が地番727番1の土地の一部であるとすると、里道によって分離された二つの土地を同一の地番にすることを禁止している不動産登記法準則に反すると主張するが、不動産登記法準則は、登記事務に携わる者に対する内部規則であり、これに反しているからといって違法な登記で無効であるとすることはできず、里道で分離された二つの土地を同一地番にしている例があり得る旨を法務局も認めており、現に、別図2の記載のとおり、P市Q区S町727番8の土地は、その土地内を里道が通っているが、地番は当初から一つのままである。
 したがって、A土地が同町727番1の地番を持つことに問題はない。
(ハ)A土地が地番727番1の土地の一部であるとした場合、地番727番1の土地の実際の地積が公簿上の地積を上回るが、これは地番727番1の土地の縄延びによるものである。
 A土地は矩形であり、この周囲の長さをビニール紐及びスチール巻尺で測量すると東西が14.20メートル、南北が12.70メートル、面積は180.34平方メートルとなるが、A土地以外は測量していないから、地番727番1の土地がどれだけの面積になるか分からない。
(ニ)以上のとおり、本件土地は、登記簿上の所在地であるR町内には存在せず、また、A土地は、地番727番1の土地の一部であって、本件土地の存在を認めることはできないから、資産価値は皆無である。
ロ 相続税の課税価格等について
 上記イのとおり、本件土地は所在不明であって、相続財産に該当しないから、請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、別表の「更正の請求」欄に記載のとおりとなる。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件土地の所在について
(イ)P市が本件土地に係る固定資産税をその不存在を理由に課税していないとする点については、固定資産税は、台帳課税主義を採っているところ、本件土地に係る固定資産税が賦課されていない理由は分からないが、課税の根拠、課税標準等を異にする固定資産税の賦課がなされていないという理由のみをもって、本件土地の所在不明を立証し得るものではない。
(ロ)以下に述べるとおり、A土地が本件土地に相当すると認められる。
A K法務局での公図、登記簿に基づく調査及びK法務局表示登記担当係官の申述からすると、本件土地に係る公図は、土地の面積、形状については必ずしも正確なものとはいえないにしても、少なくとも物件間の位置関係については特定し得ると考えられるところ、本件土地は、別図1のとおり東西に走る里道の北側に位置しており、A土地も、別図2の記載のとおり、東西に走る里道の北側に存在する。
B 別図1の公図上の「丙123」と表示された土地の周辺には、A土地以外に被相続人の所有していた土地は存在しない。
C A土地と727−1土地は、古くから東西に走る里道によって明確に区分されており、このことは、里道によって分離されている土地を合筆して、一筆の土地にすることを禁止した不動産登記法準則に反するというK法務局表示登記担当係官の申述からすると、両土地が別地番であることを意味する。
(ハ)以上のとおり、本件土地の不存在を理由として、本件相続に係る請求人らの納付すべき税額の減額を求める本件更正の請求は、その前提を欠いている。
ロ 相続税の課税価格等について
 上記イのとおり、A土地が本件土地に相当し、請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、別表の「更正処分」欄と同額となるから、原処分は適法である。

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3 判断

(1)本件土地の所在について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)登記簿謄本によれば、本件土地の所在地の表示は、当初、「P市W町字X丙123番」であったが、昭和41年9月1日付の町名町界変更登記により、「P市R町丙123番」に変更され、次いで、昭和55年4月1日付で、「P市Q区R町丙123番」に変更されている。
(ロ)P市役所市民部まちづくり推進課振興係々官の当審判所に対する答述によれば、K法務局が行った昭和41年9月1日付の町名町界変更登記は、P市が実施した行政区画の変更作業の結果に基づいて行われたものであり、その際に作成された地番調書によれば、別図1の公図上の「丙123」に隣接する土地は、いずれも「R町」にではなく、「S町」に町名が変更されている。
(ハ)本件遺言公正証書には、〔1〕地番727番9の土地ほか1筆の土地については、相続開始後に請求人らにおいて共同して売却した上で、その代金から被相続人の債務を弁済した残りを均等に分配させる旨、〔2〕本件土地については、現在のところ、所在場所が不明である旨、〔3〕地番727番1の土地を区分し、請求人らのうちLを除く3名に相続させる旨が記載され、A土地及び727−1土地を表示したものとみられる縦横の長さの比が約3対1である矩形で、北辺から3分の1ぐらいのところに東西方向に里道が記載された図面が添付されている。
(ニ)本件念書には、「P市Q区S町727番1(地図未確認のため通称Tの北側入口の所)」所在の面積約189.47平方メートルの畑として、〔1〕北辺の境界を石垣とし、西面及び南面が里道と接し、東西約14.87メートル、南北約12.82メートルと記載のあるA土地とみられる矩形の土地と、〔2〕その南面里道の下に727−1土地及び地番727番9の土地とみられる矩形の土地が描かれた略図が付されている。
(ホ)平成9年度固定資産課税台帳登録事項証明書等によれば、本件土地は所在不明のため「評価保留」とされており、また、P市は、昭和56年ころから、本件土地について固定資産税の課税をしていない。
 この点について、P市役所市民部課税課担当係官の当審判所に対する答述によれば、一般に、固定資産税の評価に当たり、登記簿上の土地が現況において存在しないような場合には評価保留となるが、本件土地が評価保留となった経緯の詳細については不明である。
(ヘ)登記簿謄本によれば、昭和35年5月30日付で、「P市W町字X727番」の土地に同728番2及び同755番1の各土地を合筆し、同日付で、同727番1ないし11に分筆されている。
 また、K法務局の表示登記担当係官の当審判所に対する答述によれば、〔1〕公図は明治時代に作成されたもので、昭和48年ころに再製されており、〔2〕「P市W町字X727番」が分筆された昭和35年当時は、土地の所有者にその分筆に係る地積測量図の提出を義務づけていなかったため、法務局には、その保存がなく、また、当時の土地の状況を表した公図の保存もない。
ロ 請求人らは、本件土地が所在不明である旨主張し、原処分庁及び当審判所に対し、本件土地に係る登記簿謄本、公図、平成9年度固定資産課税台帳登録事項証明書、本件念書及び本件遺言公正証書の各写し(以下、これらをまとめて「請求人提出資料」という。)を提出した。
 そこで、請求人提出資料等に基づいて、当審判所がその主張の当否を検討したところ以下のとおりである。
(イ)公図上の「丙123」が本件土地の所在地を示すものかどうかについて登記簿上、本件土地の所在地が「R町」と表示されているのに対し、公図上の「丙123」が「S町」内に表示されている事実は認められるが、当該公図の標題部に「W町」、「X」とある記載のうち、「W町」の記載を抹消して「S町」と新たに書き加えられていることからすると、当該公図上の「丙123」は、「W町X」が「S町」または「R町」に町名変更される前から本件土地を表示していたものであって、上記イの(イ)、(ロ)のとおり、「丙123」の土地だけが、その周辺土地とは別に「R町」に町名変更されたことにより、本件土地と公図上の町名の表示と一致しないこととなったものと認められる。
 したがって、公図上の「丙123」は、登記簿上の町名の表示との不一致にかかわらず、本件土地を表示しているものと認めることができる。
(ロ)本件土地すなわち公図上の「丙123」が、A土地に該当するかどうかについて
 この点について、請求人らは、地番727番1の土地の公図の形状をもって、A土地は地番727番1の土地の一部である旨主張するが、公図は一般に、土地の面積、形状を必ずしも正確に表現しているとはいえないから、当該主張を直ちに採用することはできない。
 しかしながら、公図上の「丙123」とA土地の位置関係を検討すると、公図上の「丙123」とA土地は、東西に走る里道の北側に位置している点では一致しているものの、公図上の「丙123」は、南北に走る里道と接していないのに対し、A土地は、南北に走る里道と西面で接している点で明らかに異なっている。
 また、公図上の「丙123」は、隣接するP市Q区S町728番1、728番2、382番1、383番、729番17、729番2の各土地及び東西に走る里道に囲まれているが、A土地は、同町728番1、727番3の各土地、東西に走る里道及び南北に走る里道に囲まれており、これらの不一致は無視できないほど顕著であるといわざる
を得ない。
 さらに、本件念書及び本件遺言公正証書の各記載からは、被相続人らにおいて、A土地が地番727番1の土地の一部であり、本件土地が所在不明である旨の認識を有していたことがうかがわれ、そうした認識は、P市が、本件土地の固定資産税の評価を保留し、固定資産税を課していないことや、別図2の記載のような土地の現況に照らすと、客観的な根拠のないものと断じることはできない。
ハ なお、原処分庁は、A土地と727−1土地が、里道によって明確に区分されていることから、A土地は地番727番1の土地の一部ではなく、別地番であると主張するが、別図2の記載のとおり、A土地の周辺でも、「727−3」や「727−8」の土地は里道によって分断されていながら、別地番の2筆の土地となっていないことに鑑みると、里道によって分離されている土地の合筆を禁ずる旨の不動産登記法準則はあるものの、里道によって区切られていることをもって、直ちにA土地が地番727番1の土地の一部でないと認めることはできない。
ニ また、A土地が地番727番1の土地に含まれているとした場合、M(更正の請求をしなかった共同相続人)が異議審理庁の調査の担当者に提出した測量図等によれば、(正確な地積が不明であるものの)地番727番1の土地は縄延びをして公簿面積との相違が生ずることとなるが、当審判所の調査によれば地番727番1の土地の周辺の土地の中に
も縄延びがあるため、地番727番1の土地のみが公簿面積との相違が生じているわけではないから、この縄延びの事実をもって直ちにA土地が本件土地に該当すると認めることもできない。
ホ そうすると、A土地をもって本件土地に該当するという事実は認めることはできず、請求人らが本件相続によって本件土地を取得したことを根拠付ける証拠は、本件土地の登記簿謄本のみということになる。
 しかしながら、登記簿謄本によれば、昭和35年5月30日付で、P市W町字X727番の土地に同728番2及び同755番1の各土地を合筆し、同日付で、同727番1ないし11に分筆され、さらに、その後、分筆を繰り返して、別図1の公図に「727」の別図として示されているような状況となっているところ、K法務局の登記表記担当係官の当審判所に対する答述によれば、当該合筆前の同728番2の土地等の位置は、当時の公図等の保存がないため特定できないものの、「728」の地番を持つ土地は、公図及び現況とも、東西に走る里道の北側に位置していること、公図上「丙123」と表示されている位置に相当する現況の土地は、別図2のとおりであることから、当該合筆時において、「丙123」を含めたところで合筆が行われ、その際に「丙123」の表示登記の閉鎖が見落とされたという可能性も否定できないのである。
ヘ 以上のことからすると、A土地が本件土地であるとする事実は認めることができず、むしろA土地は地番727番1の土地の一部と認めるのが相当であるから、結局のところ、本件土地の位置を特定することはできないといわざるを得ず、これを覆すに足る証拠も認められない。
 そうすると、本件土地は、現時点においてその存在を確定できないから、相続税の課税価格の計算において相続財産には含まれないと解するのが相当である。
(2)以上のとおり、請求人らの更正の請求には理由があるから、原処分は全部を取り消すべきである。

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