ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.61 >> (平13.3.29裁決、裁決事例集No.61 512頁)

(平13.3.29裁決、裁決事例集No.61 512頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)等の名義となっていた各定期預金が平成8年1月15日に死亡した請求人の父であるF(以下「被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)財産であるか否か及び本件相続開始前3年以内に被相続人から相続人に贈与されたものであるか否かを主な争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 本件相続に係る相続税の申告から審査請求(平成11年11月30日)に至る経緯及びその内容は、別表1のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても その事実が認められる。
イ 請求人、G(以下「G」という。)及びH(以下、「H」といい、請求人、Gと併せて「請求人ら」という。)は、被相続人の共同相続人である。
ロ 被相続人及び請求人らは、平成7年1月4日に請求人らの母であるK(被相続人の配偶者。以下「K」という。)が死亡したため、別表2記載の番号6ないし9のK名義の定期預金(以下「本件K名義の定期預金」という。)を請求人及びHが相続する旨の「相続関係届書」と題する書面(以下「本件届書」という。)に、各自署名押印の上、平成7年3月29日付でL信用組合(当時)M支店(以下「L信組」という。)に提出した。
ハ 平成7年3月29日現在における被相続人、K、請求人ら及びN(Hの配偶者。以下「N」という。)名義のL信組の各定期預金(以下「本件全定期預金」という。)の残高は、別表2及び別表3のとおりである。
ニ 本件相続開始に係る相続税の申告書には、別表3記載の被相続人名義の各定期預金(以下「被相続人名義の定期預金」という。)が相続財産として計上されている。
 また、平成11年7月2日に原処分庁に提出されたKの相続開始に係る相続税の申告書には、本件K名義の定期預金が相続財産として計上されている。
ホ 被相続人は、公立学校の教職員として27年5か月間勤務し、昭和56年3月31日に退職している。また、Kは、公立学校の教職員として36年間勤務し、昭和57年3月31日に退職している。
へ 被相続人の平成7年分の所得税の確定申告書に記載された年金の収入金額は、3,353,632円であり、不動産所得に係る収入金額は703,500円である。また、Kの平成6年分の所得税の確定申告書に記載された年金の収入金額は、3,248,985円である。

トップに戻る

2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 調査手続等について
(イ)調査手続について
 原処分は、調査担当職員の調査権限の範囲内の調査に基づいて行われており、また、調査過程においても請求人及び関与税理士に対して調査結果を説明しているから、調査手続に何ら違法な点はない。
(ロ)相続税の更正通知書の理由附記について
 更正通知書に更正の理由を附記すべき旨を定めた法令の規定はないから、かかる理由附記がないとしても違法ではない。
ロ 更正処分について
(イ)相続財産の認定について
 別表2記載の番号5のG名義の定期預金(以下「本件G名義の定期預金」という。)は、次のとおり被相続人の財産から形成されたものであり、被相続人の相続財産であると認められる。
A 本件全定期預金は、次のとおりKが生前に請求人らの名義を自由に使用して、一体として管理していたことが認められるので、被相続人とKの財産から形成されたものと認められる。
(A)本件届書に押印された請求人らの印鑑は、別表2記載の番号1ないし5の各定期預金(以下「本件定期預金」という。)の届出印と異なることが認められる。
(B)L信組は、被相続人及び請求人らの住所から遠隔地であるP県Q市にある金融機関であり、また、本件全定期預金の満期日がすべて平成7年3月29日となっており、さらに、当該定期預金の解約手続を担当したL信組の担当職員(以下「L信組職員」という。)は、Kが本件全定期預金の印鑑をすべて所有しており、同人にのみ会ってその指示の下で取引をしていたが、同人以外の家族に会ったのは同人の相続開始後である旨申述した。
(C)被相続人及びKは教職から離れるまでほぼ同等の収入があった。
(D)本件全定期預金は、被相続人、K及び請求人らの名義で相互に異動することはあっても、出金はほとんどなく、請求人らがその資金を提供したり、あるいはその一部を費消したことを裏付ける事実はない。
(E)Gは、自己名義でL信組と取引があったことは知らない旨申述した。
B 本件定期預金は、次のとおり、被相続人の財産から形成されたと認められる。
(A)本件届書では、本件K名義の定期預金は請求人及びHが相続する旨定められ、当該定めと同一内容の相続税の申告書が提出されていることから、被相続人及び請求人らは、K名義の定期預金はKの財産であると認識していたと認められる。
(B)本件K名義の定期預金の合計額88,800,000円が、本件全定期預金の合計額210,900,000円に占める割合は約42パーセントであるが、被相続人及びKは教職から離れるまでにほぼ同等の収入があったことが推認でき、また、退職後の年金収入の状況からみても、両者の財産はほぼ同等に形成されたことが認められることから、Kの相続開始に係る相続税の申告内容は相当である。
(C)したがって、上記Aの事実を考慮すれば、本件全定期預金から本件K名義の定期預金を除いた残りの定期預金は、被相続人に帰属していたものと認められる。
C 本件G名義の定期預金は、平成7年3月29日に自動継続された後、同年6月29日に満期解約され、その満期解約金11,389,889円に現金610,111円を加算した12,000,000円の定期預金が設定された。
 その後、当該定期預金は、同年7月19日に中途解約され、その解約金12,001,315円から振込手数料721円を控除した12,000,594円が、同年6月13日に新規設定されたR農協のG名義の普通貯金口座に前記中途解約された同年7月19日中に送金された。
 そして、同年7月31日に同普通貯金口座から13,300,594円が出金され、G名義の定期貯金が設定されて、その後、数回の満期書換えを経て、被相続人の相続開始まで継続されていた。
D ところで、Gは、前記Aの(E)のとおり、本件G名義の定期預金について、自己のものであるという認識はなかったことが認められ、また、請求人あるいはHに帰属するとの事実も認められないことから、被相続人の相続財産であると認められる。
(ロ)相続開始前3年以内の贈与について
別表2記載の番号1ないし4の定期預金は、次のとおり、平成7年3月29日に被相続人から番号1、2及び4の定期預金はHに、番号3の定期預金は請求人にそれぞれ贈与されたと認められる。
A 別表2記載の番号3の請求人名義の定期預金(以下「本件請求人名義の定期預金」という。)の帰属について
 本件請求人名義の定期預金は、平成7年3月29日に満期解約され、その満期解約金10,996,757円と同日満期解約された同表記載の番号8及び9のK名義の各定期預金の満期解約金44,794,129円を併せた55,790,886円から振込手数料721円を控除した55,790,165円が、同月17日に新規設定されたS銀行(当時)T支店(以下「S銀行」という。)の請求人名義の普通預金口座に前記満期解約された同月29日中に送金されているところ、同年3月31日には同普通預金口座から55,000,000円が出金され、そのうち25,000,000円につきS銀行の請求人名義の定期預金が設定され、また、残りの20,000,000円がU信用組合V支店の請求人名義の普通預金口座に、10,000,000円がW信用金庫X支店の請求人名義の普通預金口座に送金されている。
 このように本件請求人名義の定期預金は、請求人がKから相続した定期預金とまとめられたという事実から、請求人は、請求人名義の定期預金を自己が自由に処分できるものとして認識していたことがうかがわれる。
 また、S銀行の請求人名義の普通預金口座の届出印は、本件届書の押印及び請求人名義の定期預金の届出印のいずれとも異なり、その後の同普通預金口座の異動状況からも、請求人は同普通預金口座を自己のものとして管理し所有していたものと認められる。
 したがって、請求人名義の定期預金は、被相続人から請求人に移転したものと認められる。
B 別表2記載の番号1及び2のH名義の各定期預金並びに同表記載の番号4のN名義の定期預金(以下、これらを併せて「H等名義の定期預金」という。)の帰属について
(A)別表2記載の番号1のH名義の定期預金は、平成7年3月29日に満期解約され、その満期解約金28,248,548円と同日に満期解約された同表記載の番号4のN名義の定期預金の満期解約金13,115,398円を併せた41,363,946円に現金36,054円を加算し、振込手数料721円を控除した41,399,279円が、同月6日に新規設定されたR農業協同組合O支所(以下「R農協」という。)のN名義の普通貯金口座(以下「N口座」という。)に前記満期解約された同月29日中に送金されており、同口座は、Kが生前管理していたH等名義の定期預金と同一の届出印が使用されている。
 そして、N口座から40,000,000円が同日出金され、そのうち25,000,000円でR農協のH名義の定期貯金が設定されていることから、Hは同普通貯金口座を自己の所有であるとして管理していたものと認められる。
(B)また、別表2記載の番号2のH名義の定期預金は、同表記載の番号6及び7のK名義の各定期預金と併せて平成7年7月19日に中途解約され、これらの中途解約金の合計56,269,549円に同日解約されたHの子3人の名義に係る定期預金の解約金の合計1,800,198円を併せた58,069,747円から送金手数料721円を控除した58,069,026円がR農協のH名義の貯蓄貯金口座に送金され、同月27日に同貯蓄貯金口座から41,958,300円がHの共済掛金に振り替えられている。
このように別表2記載の番号2のH名義の定期預金は、HがKから相続した定期預金とまとめられ、また、Hの共済掛金に充てるために出金されたという事実から、Hは、当該定期預金を自己が自由に処分できるものとして認識していたことがうかがわれる。
(C)したがって、H等名義の定期預金は、被相続人からHに移転したものと認められる。
C 贈与の時期について
 L信組職員の申述によれば、平成7年3月29日のKの相続手続に被相続人が立ち会っていることから、被相続人は同日において当該諸手続における決定事項、すなわち各名義人への所有権の移転及び管理運用を任せることに同意していることが認められ、また、満期解約後の預金の異動状況から同日に本件請求人名義の定期預金は請求人に、H等名義の定期預金はHにそれぞれ贈与されたものであると認められる。
(ハ)以上のとおり、本件請求人名義の定期預金及びH等名義の定期預金は平成7年3月29日に被相続人が請求人及びHにそれぞれ贈与したものであることから、相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》の規定により、本件相続に係る相続税の課税価格に算入することとなり、また、本件G名義の定期預金は被相続人に帰属するものであることから、本件相続に係る相続財産の価額に算入することとなる。
(ニ)そうすると、請求人に係る相続税の納付すべき税額は、12,675,500円となり、この金額は、更正処分の金額を上回るから、更正処分は適法である。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 調査手続等について
(イ)調査手続について
 原処分庁は、当初、別表2記載の番号1ないし9の定期預金はすべて被相続人の財産であるとして更正処分をしようとしていたので、N及び関与税理士が、それは事実と異なると再三説明したにもかかわらず、一向に話に耳を傾けず、関与税理士の発言及び行動を無視した。
 そこで、N及び関与税理士が、そのような不適正な調査方法あるいは調査担当職員の接遇態度に対して是正及び謝罪を求めて厳しく抗議を行ったところ、原処分庁は、従前の主張を覆し、更に重税となる贈与を主張して更正処分を行った。
 これは、調査担当職員の独断と偏見を持った判断により行われた処分であり、このような方法は調査手続上許されず違法であるから、原処分は取り消されるべきである。
(ロ)相続税の更正通知書の理由附記について
 自主申告納税制度の下では、納税者に対して不利益処分を行う以上、処分の理由を明示することは、手続上当然のことであり、更正通知書に理由を附記しなかった原処分は違法であるから取り消されるべきである。
ロ 更正処分について
 本件定期預金は、次のとおり、各名義人に帰属するものであり、更正処分は事実誤認に基づく違法なものである。
(イ)本件定期預金の届出印と本件届書に押印した印鑑が異なるのは、本件定期預金の届出印は認め印であり、本件届書に押印した印鑑は実印であるからであって、自然の使い分けであり、何ら問題点はない。
 また、請求人のS銀行の届出印についても同様の使い分けによるものである。
 次に、L信組に預金口座を設定したのは、当時預金利率が他の金融機関よりかなり高かったことが最大の理由であり、また、L信組の近くに被相続人夫婦及び請求人らが参拝していた神社があったことによる。
 なお、本件全定期預金の満期日がすべて同一日となっているのは、被相続人夫婦及び請求人らが相談の上、預金利率の交渉を有利にすることを目的としたためであって、資金の管理運用面からみれば自然で合理的なことである。
 さらに、L信組の定期預金については、投資を目的としていたため日常の消費に充てることは当初から予定しておらず、請求人の夫は税理士として会計事務所を経営しており、また、H夫婦及びGはそれぞれ給与収入があることから、定期預金を取り崩してまで消費に充てる必要性は全くなく、請求人らが本件定期預金の一部を費消した事実がないという原処分庁の主張は当然のことであり、このことをもって本件定期預金が請求人らの定期預金でないとの根拠にはならない。
(ロ)L信組の定期預金の書換手続の際、KだけでなくHも同席してL信組職員と交渉している。
 また、H等名義の定期預金は、もともとH夫婦が所有し、管理しているものであり、定期預金証書の裏書はHが行っていることからも明らかである。
(ハ)請求人は3人の幼い子供たちの世話に時間が取られるため、満期書換え等の手続はしていないが、本件請求人名義の定期預金の運用については、随時電話でKと相談しており、本件請求人名義の定期預金に関する案内文書が請求人の自宅に送付されていることからも、平成4年9月以前から請求人が自己のものとして管理し、所有するものであ
る。
(ニ)被相続人は、教職を退職した後、事業に多額の資金を投入したものの赤字経営でその回収ができないまま廃業したり、また、その性格から、貸し付けた金員を回収することができないことがあったにもかかわらず、被相続人とKの財産はほぼ同等に形成されたとする原処分庁の主張は、具体的な計数的根拠のない推測に過ぎない。
 したがって、両者の財産形成は全く同等ではなく、被相続人の財産はKに比べ明らかに少ないのが実態である。
(ホ)Gは、原処分庁の調査担当職員に対して、自己名義でL信組と取引があったことは知らなかった旨申述したが、税務調査という未経験の特異な状況においては、異常な緊張感で冷静な対応ができなかったことが考えられ、また、調査担当職員が、誤った判断で質問したため、その申述内容には、不正確な部分がある。正しくは、請求人の給与に余剰が出るたびに、金員をKに渡し、管理運用を依頼しており、Kが当該金員をL信組の定期預金として管理運用を行っていたことについては知らなかったという意味である。
 また、給与に余剰が出るたびにGがKに金員を渡していたことについては、その事実を証するメモの存在によっても明らかである。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

3 判断

(1)調査手続等について

イ 調査手続について
 当審判所の調査によれば、原処分が調査担当職員の違法な調査手続により行われた処分であるとの事実は認められず、また、違法な方法で調査を行ったと認めるに足りる証拠もないから、請求人の主張は採用できない。
ロ 相続税の更正通知書の理由附記について
 税務署長が更正をする場合において、その更正通知書に記載しなければならない事項として、国税通則法上定められているのは、同法第28条《更正又は決定の手続》第2項に規定された事項に限られ、相続税法には、更正通知書に更正の理由を附記すべき旨を定めた規定はないから、請求人が主張する理由をもって原処分が違法であるということはで
きない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)更正処分について

イ 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件請求人名義の定期預金は、平成4年12月25日に解約されたL信用組合Y支店のK名義の定期預金19,500,000円の一部を原資として同日に新規設定され、その後満期書換時に利息の一部を加算して増額されたものである。
(ロ)本件請求人名義の定期預金の印鑑票は、Kの筆跡で作成され、当該定期預金の証書の裏書もKの筆跡である。
(ハ)別表2記載の番号1及び4の各定期預金は、以下の経緯を経て平成
4年12月25日に設定されたH名義の定期預金25,100,000円及びN名義の定期預金10,800,000円を原資としており、満期書換時にほぼ毎回現金を加算して増額されたものである。
A 平成4年12月25日に設定された各定期預金の主たる原資は、同年7月24日に新規設定され、同年12月22日に満期解約されたH名義の定期預金24,500,000円及びN名義の定期預金10,000,000円である。
B 平成4年7月24日に新規設定された上記各定期預金の主たる原資は、Z銀行(当時)a支店b出張所(以下「Z銀行」という。)のH名義の定期預金32,400,000円の解約金であるところ、当該定期預金は、平成3年1月8日に解約したZ銀行のK名義の定期預金を原資として、同日新規設定したH名義の定期預金10,500,000円に同年2月8日及び同年3月8日の満期書換時にd銀行e出張所のK名義の普通預金からそれぞれ出金した1,500,000円と3,000,000円を加算して増額した後、同年6月にいったん解約されたものの、同年7月24日にH名義の定期預金18,200,000円として再び設定され、その後、2回の満期書換時に現金を加算して増額した後、平成4年3月18日にはKの預金を原資とした現金10,211,255円を加算して増額され、さらに、3回の満期書換えを経て同年7月24日に解約されている。
(ニ)別表2記載の番号2の定期預金は、平成6年12月29日にK名義の定期預金を満期解約し、その解約金から新規設定されている。
(ホ)Z銀行及びL信組のH名義の定期預金の印鑑票は、Hの筆跡で作成されており、また、L信組のN名義の定期預金の印鑑票についてもHの筆跡で作成されている。
(ヘ)Z銀行のH名義の定期預金証書の裏書は、満期日が平成3年3月8日、同年6月7日、同年12月18日、平成4年3月18日、同年6月24日のものが、Hの筆跡である。
 また、L信組のH名義の定期預金証書の裏書は、満期日が平成5年6月25日、平成6年3月29日、同年9月29日、平成7年3月29日のものが、Hの筆跡である。
 そして、L信組のN名義の定期預金証書の裏書は、満期日が平成5年6月25日、平成6年11月14日、平成7年3月29日のものが、Hの筆跡である。
 なお、別表2記載の番号2の定期預金の満期日も平成7年3月29日であるが、定期預金証書の裏書は、Kの筆跡である。
(ト)本件G名義の定期預金は、平成4年7月24日にZ銀行のK名義の定期預金90,600,000円をL信組に預け換えをした際に分割して40,800,000円の定期預金として新規設定されたが、同年12月24日の満期書換時に減額されて10,000,000円となった。
 その後、本件G名義の定期預金は、満期書換時に利息の一部を加算して増額してきたものである。
(チ)本件G名義の定期預金の印鑑票は、Hの筆跡で作成され、預金証書の裏書はKの筆跡である。
ロ L信組職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ)平成5年の終わりか平成6年の初めごろから、預金がすべて解約されるまでKの担当をしていた。
(ロ)各定期預金の書換えはKの自宅で行っていた。具体的には、Kから事前に電話で額面の増額や利息の処理について指示を受けて証書を作成し、書換前の証書と差し替えていた。
(ハ)書換えの際には、ほとんどの場合、Kだけに会っていたが、近くにいる娘(H。以下この答述中同じ。)が同席したこともあり、また、被相続人とも会ったことがある。
(ニ)各定期預金証書の裏書は、Kが目の前で書いていたように思うが、既に書いてあったような気もし、はっきり覚えていない。
 印鑑も、その場で押していたかどうかはっきり覚えていない。
(ホ)Kの死亡後、多分娘からだと思うが、本件K名義の定期預金を誰と誰にしてほしいという電話があった。
 手続は、Kの自宅から駅が二つか三つ先に住んでいた娘の家で行った。その時、被相続人、請求人及びHはいたが、Gがいたかどうかは覚えていない。
(ヘ)L信組と取引するようになったのは、多分Kらが何か月かに一度、支店近くにあるf神社にお参りに来ていたことも関係があったと思う。
ハ 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ)私名義の定期預金の原資は、平成4年9月以前にKから贈与されたものであるが、贈与に関する契約書等は作成していないし、また、贈与税の申告も行っていない。
(ロ)証書は、Kから見せてもらっていたが、書換手続に行けないため、Kに預けており、電話等で相談して書換手続を行っていた。
(ハ)利息は、Kが自宅に来た時に受け取っていた。
(ニ)平成7年3月29日に、L信組のK名義の各定期預金の相続手続を行ったのは、Hの自宅であり、被相続人及び請求人らも同席していた。
ニ Hは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ)Z銀行の私名義の定期預金の書換えは、Kの自宅で行っており、定期預金証書の裏書は、何らかの都合で行けない場合はKに頼んだこともあるかもしれないが、ほとんどの場合私がしていた。
(ロ)L信組の定期預金の書換えの際には、すべて同席していたわけではないが、出産等で入院していた時以外の都合がつく時には、私が裏書をしていた。
 印鑑は私が持っており、Kの自宅に行けない時には、定期預金証書に押印し、被相続人に依頼してKに届けていた。
(ハ)また、L信組の定期預金の書換えの時には、手元現金及びNのボーナス等を加算して定期預金の額面を増額している。
(ニ)L信組の定期預金の届出印は、Nと結婚した昭和62年5月17日以降同年9月29日までの間に作成し、日常生活で使用している。
(ホ)別表2記載の番号1の定期預金の原資は、Z銀行に預け入れていた私名義の定期預金であるが、そのうちの約10,000,000円は少なくとも平成3年1月以前にKから贈与されたものであり、残りの約14,000,000円は自己の給与及びNの給与等により形成されたものである。
(ヘ)別表2記載の番号2の定期預金は、平成6年12月29日にKから贈与を受けたものである。
(ト)別表2記載の番号4の定期預金の原資は、Z銀行に預入れをしていたH名義の定期預金であるが、当該定期預金は、Nの結婚前の預金、結婚祝金、平成元年のNの父からの贈与5,000,000円及び平成4年の同人からの相続財産等で形成されたものである。
(チ)平成7年3月29日に、本件K名義の定期預金の相続手続をしたのは、Hの自宅であり、被相続人及び請求人らが同席していた。
ホ 上記各事実に基づき、本件G名義の定期預金が被相続人の相続財産であるか否か並びに本件請求人名義の定期預金及びH等名義の定期預金が平成7年中に被相続人から請求人及びHに贈与されたか否かにつき検討したところ次のとおりである。
(イ)相続財産の認定について
A 原処分庁は、〔1〕被相続人とKには退職までほぼ同等の収入があったこと、〔2〕本件届書に使用した印鑑と預金証書の印鑑が異なること、〔3〕本件全定期預金の満期日が同一日であること、〔4〕L信組職員の申述によると、Kが本件全定期預金の印鑑を所有しており、Kのみに会って、その指示の下で取引をしていたこと、〔5〕本件全定期預金は、出金されることはほとんどなく、請求人らがその資金を提供したり、あるいはその一部を費消したことを裏付ける事実はないこと、〔6〕Gの申述によると、Kが請求人らの名義を自由に使用し、本件定期預金をすべて一体のものとして管理していたことなどから、本件全定期預金は贈与前にすべて被相続人及びKに帰属していた旨主張する。
 しかしながら、まず〔4〕及び〔6〕の事実は、本件全定期預金がすべてKに帰属することの根拠にはなり得ても、被相続人に帰属することの根拠とはならないというべきである。
 なお、〔5〕事実は、本件全定期預金が請求人らに帰属するものではないことを推測させる一事情に過ぎず、被相続人に帰属することを推測させる理由とはならない。
 また、被相続人とKには退職までほぼ同等の収入があったことは、両者にそれぞれ固有の財産形成があったことを推測させる事実ではあるが、そのことのみをもって、本件全定期預金の具体的な帰属を推測することはできない。
 加えて、印鑑の相違や定期預金の満期日が同一日であることは、本件全定期預金の帰属の判断をする根拠として希薄であるばかりか、L信組職員の原処分庁に対する申述は、前記ロのとおり、当審判所に対する答述内容と食い違っている上、預金証書の裏書の筆跡からみても生前K一人が本件全定期預金を管理していたと認定することはできないから、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。
B さらに、原処分庁は、被相続人とKは退職時までほぼ同等の収入があったこと、また、被相続人とKの退職後の年金の収入金額がほぼ同等であったことを根拠として、Kに係る相続税の申告書に計上されている本件K名義の定期預金が本件全定期預金のうちの約42パーセントを占めることから、本件全定期預金から本件K名義の定期預金を除いた残りの定期預金は、被相続人に帰属する旨主張する。
 これは、夫婦や親族間における名義預金の原資を特定する確たる証拠がない場合には、夫婦や親族間の収入割合により形成されたと推定されるとする考え方であるが、収入比あん分による場合には、その収入期間や収入状況、更には生活状況一切の要素を考慮した上で収入割合を決定すべきものであるところ、本件においては、〔1〕被相続人の教職にあった期間はKの教職にあった期間より約10年短く、勤続年数による収入金額の考慮がなされていないこと、〔2〕被相続人とKが退職したのは、Kと被相続人の相続開始の日から約15年も前のことであり、退職後のそれぞれの資産形成の経過が不明であることから、この点に関する原処分庁の主張も採用し難い。
C 当審判所の調査によっても、次のとおり、本件定期預金が被相続人に帰属していたとは認められない。
(A)本件定期預金の利息が被相続人の預金口座に入金された事実は認められず、被相続人が費消した事実も認められない。
(B)本件定期預金の取引銀行における書換え等の諸手続は、前記イの(ホ)及び(ヘ)のとおりKあるいはHが行っている事実は認められるが、被相続人が本件定期預金の管理をKあるいはHに任せていたとする事実は認められない。
(C)本件定期預金の満期書換時に増額した金額の主たる原資として、前記イの(ハ)のとおり、K名義の定期預金の解約金及び普通預金から出金したものが充てられている事実は認められるが、被相続人名義の預金から出金されて、本件定期預金の増額に充てられている事実は認められない。
D なお、請求人は、本件G名義の定期預金は、GがKに渡した金員を基として形成された財産であるから、被相続人の相続財産ではない旨主張し、その証拠としてKが作成したとするメモを当審判所に提出したが、その記載内容からはGがKに金員を渡していた事実をうかがい知ることはできず、他に当該事実を認めるに足りる証拠もないから、その主張は採用できない。
E 以上のとおり、本件定期預金は、被相続人に帰属していた事実は認められないから、本件G名義の定期預金を被相続人の相続財産であるとする原処分庁の主張は、理由がない。
(ロ)相続開始前3年以内の贈与加算について
A 別表2記載の番号1ないし4の各定期預金を含む本件定期預金についての当審判所の認定は上記(イ)のとおり、いずれも被相続人に帰属していた事実は認められないことから、被相続人が当該定期預金を請求人及びHに贈与したとする原処分庁の主張は理由がない。
B また、原処分庁は、L信組職員の申述に基づき、平成7年3月29日にKの相続手続に被相続人が立ち会っていることから、本件定期預金のうち本件請求人名義の定期預金は請求人に、また、H等名義の定期預金はHに同日に被相続人から贈与された旨主張するが、当該主張は、本件定期預金が被相続人に帰属していたという前提条件を欠く上、仮に、本件定期預金が被相続人に帰属していたとしても、被相続人がKの相続手続に立ち会っていたことをもって、同日に本件定期預金の贈与が行われたと認定することはできない。
C なお、請求人は、別表2記載の番号1ないし4の各定期預金について、それぞれの名義人に帰属するものである旨主張するが、当審判所は、前記のとおり本件定期預金はそもそも被相続人に帰属していたものではないと認定するものであって、請求人の上記主張については判断を要しない。
ヘ 以上のとおり、更正処分は課税要件事実を欠く違法なものといわざるを得ず、その全部を取り消すべきである。

(3)過少申告加算税の賦課決定処分

 過少申告加算税の賦課決定処分については、更正処分の全部の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る