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(平13.3.5裁決、裁決事例集No.61 579頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続により取得した土地の価額の多寡を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年6月2日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したF(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人の1人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、申告書(以下「本件申告書」という。)に別表1の「当初申告」欄のとおり、課税価格を○○○○○円及び納付すべき税額を142,314,900円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 また、請求人は、別表1の「修正申告」欄のとおり、課税価格を○○○○○円及び納付すべき税額を144,977,500円とする修正申告書を平成9年9月25日に提出した。
ロ その後、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、別表1の「再修正申告等」欄のとおり、課税価格を○○○○○円及び納付すべき税額を150,592,500円とする修正申告書を平成10年6月29日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成10年7月6日付で過少申告加算税の額を561,000円とする賦課決定処分をするとともに、同月7日付で同表の「更正処分等」欄のとおり、課税価格を537,746,000円及び納付すべき税額を176,484,300円とする更正処分及び過少申告加算税の額を2,589,000円とする賦課決定処分(以下「第二次賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、この更正処分及び第二次賦課決定処分を不服として、平成10年7月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成11年2月4日付で別表1の「異議決定」欄のとおり、これらの処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定で一部を取り消された後の更正処分及び第二次賦課決定処分をそれぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件更正処分等」という。)。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年2月26日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ P市Q662番及び663番所在の雑種地(以下「A土地」という。)並びに同市Q664番、665番及び674番所在の畑(以下、順次「664番」、「665番」及び「674番」といい、これらを併せて「B土地」という。さらにA土地を併せて「本件土地」という。)の周辺図(本件相続開始日における現況である。)は別表2(同表のP市道R1号線を、以下「本件市道」という。)のとおりであり、また、本件土地の状況等は別表3−1のとおりである。
ロ 本件土地の評価上の区分は、A土地は「雑種地」であり、B土地は畑(以下「本件農地」という。)であるが、本件農地を評価する上での分類としては、「市街地農地」に該当する。
ハ 本件土地の地積は、別表3−1の「実測地積」欄のとおり、A土地が1,186平方メートルであり、B土地は1,111平方メートルで、その地積の合計は2,297平方メートル(公簿地積は2,238平方メートル)である。
ニ 本件市道は、幅員が3.64メートルであり、その東側には、P市道R2号線(幅員1.82メートル、長さ39.26メートルで、以下、「2号線」という。)が接し、さらに、P市道R3号線(以下「本件公道」という。)に通じているが、建築基準法第42条《道路の定義》第2項に規定する道路(以下「2項道路」という。)には該当しない。
ホ 2号線の幅員は、別表2のとおり、本件公道に接する部分が1.82メートルであり、車両の通行に支障がある。なお、2号線は2項道路に該当する。
ヘ B土地のうち665番と674番の土地の間には、別表2のとおり水路(国有地であり、その幅員は1.82メートルである。)が介在しており、674番の土地は道路に接していない。
ト 本件土地の近隣公示地(S市T2152番、以下「本件公示地」という。)の状況等は、別表3−2のとおりである。
チ 本件公示地に接する道路の幅員は、道路査定図では1.84メートルであり、2項道路に該当する。
リ 請求人は、本件土地について、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、平成9年4月22日付課評2−5による改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)14《路線価》に定める路線ごとに設定された路線価(以下「路線価」という。)が時価を上回るとして、有限会社G所属の不動産鑑定士Hが作成した不動産鑑定評価書(以下「請求人鑑定書」という。)による鑑定評価額(以下「請求人鑑定評価額」という。)に基づき、1平方メートル当たりの価額95,000円に本件土地の公簿地積2,238平方メートルを乗じた金額212,610,000円を本件土地の価額として、本件申告書を提出した。
 なお、請求人鑑定書は、請求人鑑定評価額を次のとおり決定している。
(イ)665番及び674番(以下「請求人鑑定対象地」という。)の接面街路は、南側幅員約2メートルの簡易舗装道路で2項道路に該当しない。
(ロ)請求人鑑定対象地については、更地としての評価で取引事例比較法に基づく標準画地の比準価格を、1平方メートル当たり114,000円と算定(別表4の(2))し、想定更地価格からの比準価格(以下「開発法による価格」という。)を1平方メートル当たり85,400円と算定し、更に本件公示地に係る公示価格(以下「本件公示価格」という。)に規準した価格との均衡等にも考慮して、請求人鑑定評価額を1平方メートル当たり95,000円と決定した。
ヌ 請求人は、本件土地を実測した結果、その地積の合計が2,297平方メートルであったことから、本件土地の価額を218,215,000円とする修正申告書を提出した。
ル 請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、A土地の1平方メートル当たりの価額を105,000円とし、本件土地の価額を230,075,000円(以下、この価額を「請求人申告額」という。)とする修正申告書を提出した。
ヲ 原処分庁は、請求人が平成9年6月24日に本件土地をJ株式会社に譲渡した価額284,400,000円(譲渡価額から請求人が負担する造成費相当額6,710,000円を控除した金額)及び路線価方式により評価した価額345,733,224円を比較検討した結果、上記の284,400,000円が本件土地の時価であるとして同価額を本件土地の価額とする更正処分をした。
ワ 異議審理庁は、財団法人K○○支所所属の不動産鑑定士M及びNが作成した不動産鑑定評価書(以下「原処分庁鑑定書」という。)による鑑定評価額(以下「原処分庁鑑定評価額」という。)である278,000,000円が、本件土地の価額であるとして原処分の一部を取り消す異議決定をした。
 なお、原処分庁鑑定書は、原処分庁鑑定評価額を次のとおり決定している。
(イ)本件土地の正面街路は、認定幅員3.75メートルの舗装市道(2項道路に該当する。)である。
(ロ)A土地については、宅地見込地としての評価で取引事例比較法に基づく標準画地の比準価格を、1平方メートル当たり116,000円から122,000円までと算定(別表5の(2))し、本件公示価格に規準した価格との均衡を考慮して1平方メートル当たりの価額を118,000円、総額140,000,000円と試算した。更に開発法による価格を総額147,000,000円と試算し、両試算価格を調整する上で、開発法による価格を重視して鑑定評価額を145,000,000円と決定した。
(ハ)B土地については、宅地見込地としての評価で取引事例比較法に基づく標準画地の比準価格を、1平方メートル当たり116,000円から122,000円までと算定(別表5の(2))し、本件公示価格に規準した価格との均衡を考慮して1平方メートル当たりの価額を115,000円、総額128,000,000円と試算した。更に開発法による価格を総額135,000,000円と試算し、両試算価格を調整する上で、開発法による価格を重視して鑑定評価額を133,000,000円と決定した。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)土地評価の原則
 相続税法第22条《評価の原則》は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き当該財産の相続の時における時価によるべき旨を規定しており、この場合における時価とは相続開始時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価額をいうものと解される。また、不動産鑑定評価基準(平成2年10月26日付土地鑑定委員会答申)において、正常な価格とは、市場性を有する不動産について、合理的な市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう旨規定しており、その意味するところは、客観的な交換価額をいうものと解される。
(ロ)原処分庁鑑定書について
 原処分庁鑑定書において、本件市道は、2項道路に該当するものである旨の主張については、原処分庁鑑定書を作成した財団法人Kに所属する不動産鑑定士に確認したところ、本件市道を2項道路としたのは誤りであることが判明したので、当該部分に係る主張は訂正する。
 しかし、原処分庁鑑定書は、開発法による価格を重視して原処分庁鑑定評価額を決定しているところ、本件土地の開発法による価格はA土地及びB土地ごとにそれぞれ査定され、造成費、開発面積等所与の条件に従って鑑定評価されているから、合理性がある。
(ハ)請求人鑑定書について
 請求人鑑定評価額は、次の理由により本件相続開始日における本件土地の時価を正しく表したものとは認められないから、採用することはできない。
A 本件市道は、P市から幅員3.75メートルと認定されているのであるから、同様の幅員の道路に接面する画地を標準画地として、本件土地の価額を算定すべきであるが、請求人鑑定書においては、幅員2メートルの道路に接する画地を標準画地としているのであるから、結果として請求人鑑定評価額は、本件土地を過少に評価していることになる。
 なお、本件市道の幅員が、請求人の主張するとおり3.64メートルであっても、上記のとおり、請求人鑑定評価額は過少に算定していることになる。
B 請求人鑑定書では、開発法による価格の決定に当たり、本件土地の周辺での開発予定面積を約8,000平方メートルの地目田(現況畑)を一括して開発することを想定し、開発に係わる費用等を控除して本件近隣地域の標準的な宅地見込地として評価額を求めているが、本件土地の面積の12倍を超える開発予定面積を想定した結果、有効面積割合が59.9%となるなど、所与の条件に基づいて鑑定評価されたか否か明らかでない。
C さらに、請求人鑑定書では、請求人鑑定評価額の決定において、標準画地の比準価格、開発法による価格及び本件公示価格に規準とした価格を考慮して決定したとしているが、本件公示地の接面道路が幅員3メートルであるのに対し、本件市道の幅員は3.64メートルであるから、街路条件による地域格差を20%として本件公示価格との均衡を考慮して決定された請求人鑑定評価額は不合理である。
(ニ)以上のとおり、A土地及びB土地の価額は、それぞれ145,000,000円及び133,000,000円となり、本件土地の相続税の課税価格に算入すべき価額は、278,000,000円とするのが相当であり、これらの金額を基に課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「異議決定」欄の金額と同額となるから本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は適法であり、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当しないので、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人鑑定書について
A 開発予定面積を8,000平方メートルとした理由
 本件市道は、上記1の(3)のニのとおり、その東側には2号線が接して、本件公道に通じている。したがって、開発を考える上では、このように幅員の狭い道路部分を拡張しなければならず、拡張のためには、当該土地の所有者から土地を買い取る必要があるが、当該土地所有者から売却の承諾を得ることは極めて困難であり、買い取るときの価格は、いわゆる相場よりも相当の高値になる。仮に買取りができたとしても、道路の拡張工事費の負担を要し、開発に当たり諸経費の負担が多くなり、有効に宅地として本件土地を利用することができない。
 そこで、本件土地を開発するにはその周辺地域を取り込む必要があり、対象土地周辺に類似の土地が8,000平方メートルないし10,000平方メートルが実在したので、これを基準としたことは正当である。
B 本件公示地との関係で、街路条件による地域格差を20%とした理由本件公示地が幅員3メートルの市道に接しているので、本件市道の道路査定図上の幅員(3.64メートル)の方が広いことになるが、開発に当たっては道路の拡張が実際に必要であるし、道路査定図上の幅員には水路3尺(0.9メートル)が含まれており、これを利用するについてはP市の承諾を要する。
 したがって、街路条件による地域格差を20%としたことは正当である。
(ロ)原処分庁鑑定書について
 原処分庁は、本件土地の時価を原処分庁鑑定書を基準として決定しているが、次のとおり原処分庁鑑定書には重大な誤りがあり、本件土地を過大に評価している。
A 2項道路の認定
 原処分庁鑑定書において、最も重要な前提事実は、本件市道が本件相続開始日において、2項道路に該当するとしたことである。特に原処分庁は、本件市道の幅員がP市の認定によれば3.75メートルであるとまで断言している。
 しかしながら、本件土地が接面する本件市道は、P市からの正式な回答によれば、相続開始当時、2項道路には該当しないことが明らかで、しかも幅員は3.64メートルであったにもかかわらず、原処分庁鑑定書では、鑑定評価時において、本件土地について開発が実施され、あたかも当然のように開発ができるかのような外観を呈していたことから、本件相続開始日における本件公道に通じるために不可欠な2号線の存在及びその幅員の拡張の必要性を看過していたものである。いずれにせよ原処分庁が原処分庁鑑定書において、本件市道が本件相続開始日では、2項道路には該当するとしたことは、その前提において誤っているのであるから、原処分庁鑑定書を基準として本件土地を評価することはできない。
 さらに、原処分庁は、請求人がP市からの回答書を提出した後に初めて本件市道が2項道路である旨の主張を撤回したが、2項道路に該当するかどうかによって、本件土地が宅地として評価することができるかどうかが決まるのであり、2項道路に接面していなければ宅地として評価することができず、宅地でない土地については、宅地である土地に比べて適正な不動産鑑定評価において約3割はその評価額が減じられることは公知の事実であって、原処分庁鑑定書を基準とした原処分庁鑑定評価額は過大といわざるを得ない。
B 開発法による価格
 原処分庁は、開発法による価格を重視して原処分庁鑑定評価額を決定した旨主張するが、本件土地につき開発法を適用する前提として、本件土地が宅地としての開発に適する土地でなければならない。ここでいう開発とは、宅地としての開発であるから、土地の形状、高低差といった物理的な条件を満たしているだけではなく、法的に宅地造成が可能で、かつ、建物の建築が可能なものでなければならない。
 ところが、本件土地については、建築基準法上の接道の要件が充足されていないのであるから、宅地化するには、建築基準法上の道路まで接続する通路又は用地といった他の土地を取得するという偶発的な条件が成就されない限り、宅地化することはできない。しかし、原処分庁は、建築基準法上の接道の要件を充足しない点につき何ら釈明をせず、開発や宅地としての評価につき何ら影響を与えないとの前提を採るが、これが不動産鑑定の適正な方法に矛盾することは明らかである。また、一般に畑や山林の素地を宅地造成した場合、有効宅地造成率は最高で7割、地勢のいかん、地区計画等の地域規制にあっては、5割にも低下することは周知の事実である。したがって、開発法による価格を重視した原処分庁鑑定評価額は過大といわざるを得ない。
C 諸般の事情
 不動産鑑定は、諸般の事情を考慮して総合的になされるものであるが、それがどのような意図でなされたかにより鑑定の結果が大きく異なるところ、原処分庁は、本件土地につき、相続開始の約1年後の売却価額をもって相続開始時の評価額として更正処分をした。つまり、本件土地が相続開始時においても宅地として売却に値する土地であると即断して、将来の換価価値を相続時までそ及させ、これを相続税法上の時価であると置き換えて更正処分をしたのである。
 そして、原処分庁は、異議決定の段階においても、請求人が本件土地を1年後に譲渡した価額(1平方メートル当たりの単価126,000円)及び更正処分の価額(1平方メートル当たりの単価123,000円)の近似値(A土地は1平方メートル当たりの単価122,000円、B土地は1平方メートル当たりの単価120,000円)を鑑定評価額とすべく、前提の事実関係を殊更に曲解し、本来あるべき土地の評価原則を無視して、非宅地用地を宅地基準で評価したものである。
 なお、請求人は代理人を通じて、本件市道が2項道路に該当しないことを何回となく、数々の資料を提供しながら説明し、さらには文書をもって原処分庁に報告したが、担当職員はこれを検討せず、根本的な過ちを犯して本件土地を評価したものである。
 したがって、原処分庁の鑑定評価には何ら合理性がない。
(ハ)以上のとおり、請求人鑑定書には、何ら過少評価の事実はなく、むしろ原処分庁鑑定評価額は何ら合理性がなく、本件相続開始日の現況に照らし、本件土地を過大に評価したものといわざるを得ない。
(ニ)本件土地の時価は、A土地の1平方メートル当たりの単価が105,000円となりB土地のそれが95,000円となるから、A土地及びB土地の相続税の課税価格に算入すべき価額は、それぞれ124,530,000円及び105,545,000円となり、本件土地の価額は230,075,000円とするのが相当である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分も取り消すべきである。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件は、本件土地の価額の多寡に争いがあるので、以下審理する。
イ 評価の原則
 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうもの
と解される。
(イ)評価基本通達の定めによる評価
 相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、〔1〕各種財産の時価を客観的かつ適正に把握することは必ずしも容易でないこと及び〔2〕納税者間で財産の評価が区々になることは課税の公平の観点から見て好ましくないことから、課税庁における事務の統一性を図ることなどのため、課税庁は、評価基本通達を定め、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法を明らかにし、さらに、土地の価額については具体的に路線価を定めて、部内職員に示達するとともに、これを公開することによって、納税者の申告及び納税の便に供していることが認められる。
 しかしながら、通達は、上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって、法規たる性質を有さず、それ自体は納税者を拘束するものではなく、納税者は通達に示されている行政庁の解釈に当然に従わなければならないものではないから、相続財産である土地の時価が評価基本通達の定めによる相続税評価額を下回ることが証明されれば、相続税評価額によらないことはいうまでもない。
A 農地の評価については、評価基本通達40《市街地農地の評価》において、市街地農地の価額は、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額等を控除した金額にその農地の地積を乗じた金額によって評価する旨定めている。また、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額は、その付近にある宅地について評価基本通達11《評価の方式》に定める方式によって評価した1平方メートル当たりの価額を基とし、その宅地とその農地との位置、形状等の条件の差を考慮して評価する旨定めている。
B 雑種地の評価については、評価基本通達82《雑種地の評価》において、雑種地の価額は、原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地について、この通達の定めるところにより評価した1平方メートル当たりの価額を基として、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評価した価額に、その雑種地の地積を乗じた金額によって評価する旨定めている。
(ロ)不動産鑑定による評価
A 不動産鑑定評価における取引事例比較法とは、近隣地域又は同一需給地圏内の類似地域に存する土地に係る取引事例に基づき、当該近隣地域の地域要因又は当該類似地域のそれぞれの地域要因を考慮し、かつ、相互に比較を行った上で、鑑定対象地及び各取引事例に係る土地のそれぞれの個別的要因の比較を行い、その比較の結果に従い、各取引事例に係る土地の取引価格から求められた価格を相互に比較衡量して鑑定対象地の比準価格を求める手法である。
B 不動産鑑定評価における開発法とは、更地を分割利用することが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地を区画割りして、標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格を求める手法である。
ロ 各鑑定評価額の適否の検討
 請求人及び原処分庁の双方とも本件土地の評価においては、本件市道の路線価は時価を上回るとして、評価基本通達に定める路線価を採用しないことについては争いがない。しかしながら、本件土地の価額につき、請求人は、請求人鑑定評価額が本件土地の価額である旨主張し、これに対し、原処分庁は、原処分庁鑑定評価額が本件土地の価額である旨主張するので、当審判所において、本件土地を取得した時における客観的な交換価値を示す価額及び双方の鑑定評価額の適否について検討すると、次のとおりである。
(イ)客観的な交換価値を示す価額について
A 公示価格について
 客観的な交換価値を示す価額の一つに公示価格が挙げられる。公示価格は、地価公示法第2条《標準地の価格の判定等》によれば、公示地について土地鑑定委員会が二人以上の不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価額を審査した上で、その年1月1日現在の1平方メートル当たりの「正常な価格」を判定したものであり、この「正常な価格」とは、同条第2項において、土地について自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格である旨規定され、そして、〔1〕一般の土地取引についての取引価格の指標、〔2〕不動産鑑定士等の鑑定評価の規準及び〔3〕公共用地買取りの補償の規準とされるものであるところから、その年1月1日現在の客観的な交換価値を示す価額を表しているものと解するのが相当である。
B 鑑定評価額について
 不動産鑑定士による鑑定評価額も、客観的な交換価値を示す価額を算定する上では合理的なものの一つに挙げられるが、本件のように不動産鑑定士による鑑定評価額は、鑑定評価を行う不動産鑑定士によって、必ずしも同一の鑑定評価額となるとは限らないことから、その鑑定評価額を決定するに際して採用された取引事例及び地域要因等の格差補正等について検討する必要がある。
(ロ)各鑑定評価額の検討
A 請求人鑑定評価額について
(A)取引事例比較法に基づく標準画地の比準価格
 取引事例比較法に採用された4件の取引事例(別表4)のうち、取引事例A3 の取引地積は本件土地に比べ過小であることから、この取引事例は、本件土地の時価を算定するための比準価格を求める比準対象としては適切な事例とは認められない。
(B)開発法による価格
 請求人鑑定書をみると、「想定更地からの減額価格は、転換後・造成後の更地価格から工事費等を控除して求めたもので、理論的である。しかし、計算過程に想定部分も多く難もある。」と記載されており、想定部分が多々あることは請求人の依頼した不動産鑑定士も自認している。当審判所の調査によっても、開発予定面積及び取付道路の買収費等の計算根拠等に不明な点がある。
(C)以上のとおり、請求人鑑定書には種々の不適格な点が認められることから、請求人鑑定評価額は本件土地の時価を表したものとは認められない。
B 原処分庁鑑定評価額について
(A)取引事例比較法に基づく標準画地の比準価格
 取引事例比較法に採用された3件の取引事例(別表5)のうち、〔1〕取引事例B1は、その用途地域が準工業地域であり、本件土地の用途地域(第1種低層住居専用地域)と異なっていること及び〔2〕取引事例B3は、売り急ぎであるから事情補正として70分の100を乗じているが、その算定根拠が不明であり、この補正の内容は疑問であることから、これらの取引事例は、本件土地の時価を算定するための比準対象としては適切な事例とは認められない。
 また、原処分庁は、請求人が本件市道は2項道路に該当しないことを報告していたにもかかわらず、本件市道の幅員及び2項道路に該当するか否かについて、その確認を怠って本件市道が2項道路に該当するという前提に基づき鑑定評価を行っていることが認められる。
(B)開発法による価格
 原処分庁は、請求人の指摘に基づき本件市道が2項道路に該当しないことを認めながらも、原処分庁鑑定書は開発法による価格を重視しているから、原処分庁鑑定評価額は合理性がある旨主張する。
 しかし、原処分庁鑑定書をみると、分譲収入の査定に当たり、同一需給圏内の類似地域等に所在する取引事例価格等を比較検討して、開発計画に基づく分譲価格をA土地については1平方メートル当たり188,000円、B土地について1平方メートル当たり190,000円としているが、同鑑定書には類似地域等の所在及び取引事例価格等の記載がなく査定の根拠が不明である。
(C)以上のとおり、原処分庁鑑定書には種々の不適格な点が認められることから、原処分庁鑑定評価額は本件土地の時価を表したものとは認められない。
ハ 当審判所の判断
 上記ロの(ロ)A及びBのとおり、請求人鑑定評価額及び原処分庁鑑定評価額は、いずれも採用できないから、当審判所において本件土地の価額を算定するが、開発法による価格は、その計算過程に想定部分が多く合理性を欠くことも否定できないので、取引事例比較法に基づく標準画地の比準価格及び公示価格を規準とした価格を算定した上で、本件土地の価額を算定するのが相当と認められる。
 ところで、請求人鑑定書の取引事例A1(別表4の(1))及び原処分庁鑑定書の取引事例B2(別表5の(1))は、同一地であり、当審判所の調査によっても、取引事例として相当であると認められる。
 そこで、上記の取引事例(別表6の(1)の甲取引事例)及び本件公示地並びに当審判所が近隣の地域の中から同規模の土地に係る事例として抽出した別表6の(1)の乙取引事例を基に、当審判所においても相当と認める基準の一つである土地価格比準表(昭和50年1月20日付国土地第4号国土庁土地局地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評定等について」をいう。以下同じ。)に準じて、別表6の(5)のとおり、地域要因及び個別的要因等の格差補正を行って本件相続開始日における本件土地の価額を算定したところ、次のとおりである。
(イ)前記1の(3)のヘのとおり、674番の土地は道路に接していないと認められることから、674番の土地を664番及び665番の土地と一体であるB土地として評価するのは相当でなく、664番及び665番の土地の価額と674番の土地の価額は各々に算定するのが相当であると認められる。
(ロ)当審判所が採用した甲取引事例及び乙取引事例の土地に接する道路は、いずれも2項道路に該当していることが認められるところ、前記1の(3)のチのとおり、本件公示地に接する道路も2項道路に該当すること、これに対し、前記1の(3)のニのとおり本件市道は2項道路に該当せず、本件相続開始日において本件土地の上に建物を建てることができないこと、また、前記1の(3)のへのとおり、665番と674番の土地の間には水路が介在し、かつ、674番の土地は道路に接していないこと及び別表2のとおり、2号線の幅員の一部が1.82メートルであること等から、道路との位置関係等の格差を別表6の(2)、(3)及び(4)の「街路条件格差」欄及び「標準画地の比準価格等」欄のとおり算定した。
(ハ)そうすると、当審判所が算定した本件土地の価額は、別表6の(6)のニのとおり、A土地、664番及び665番の土地並びに674番の土地の更地としての価額はそれぞれ121,843,710円、74,739,750円及び33,398,637円となり合計229,982,097円となる。
ニ 以上のとおり、当審判所が取引事例等により算定した上記ハの(ハ)の価額(229,982,097円)は、請求人申告額(230,075,000円)を下回ることとなり、請求人申告額はこれを不相当とする理由は認められないから、本件更正処分はその全部を取り消すべきである。

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(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(5)甲取引事例、乙取引事例及び本件公示地に係る個別的要因の補正状況は、次のとおりである。

イ 個別的要因(街路条件)
(イ)甲取引事例

A土地・664番・665番
A土地等に接する道路の幅員は2項道路に該当しないのに対し、甲取引事例は2項道路に該当するので、街路条件は78/100とした。
674番
 A土地等に接する道路の幅員は2項道路に該当しないのに対し、甲取引事例は2項道路に該当し、更に674番は道路に接していないから、街路条件は71/100とした。

(ロ)乙取引事例

A土地・664番・665番
 A土地等に接する道路の幅員は2項道路に該当しないのに対し、乙取引事例は2項道路に該当するので、街路条件は83/100とした。
674番
 A土地等に接する道路の幅員は2項道路に該当しないのに対し、甲取引事例は2項道路に該当し、更に674番は道路に接していないから、街路条件は78/100とした。

(ハ)本件公示地

A土地・664番・665番
 A土地等に接する道路の幅員は2項道路に該当しないのに対し、本件公示地は2項道路に該当するので、街路条件は83/100とした。
674番
 A土地等に接する道路の幅員は2項道路に該当しないのに対し、甲取引事例は2項道路に該当し、更に674番は道路に接していないので、街路条件は78/100とした。
ロ 試算比準価格・試算規準価格

A土地664番・665番
甲取引事例118,738円甲取引事例115,176円
乙取引事例90,457円乙取引事例87,743円
本件公示地99,010円本件公示地96,040円
674番 
甲取引事例104,840円 
乙取引事例82,457円 
本件公示地90,254円 
ハ 標準画地の比準価格

 標準画地の比準価格は、甲取引事例、乙取引事例及び本件公示地の試算比準価格等
から次のとおり算定した。
A土地(118,738円+90,457円+99,010円)÷3=102,735円
664番・665番(115,176 円+87,743円+96,040円)÷3=99,653円
674番(104,840円+82,457円+99,254円)÷3=92,517円

(6)本件土地の価額

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