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(平13.2.27裁決、裁決事例集No.61 604頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、農地法(平成元年法律第45号改正前のもの。以下同じ。)に規定する農地の権利移動の制限を受ける審査請求人(以下「請求人」という。)が、農地を遺贈により取得した場合において、その遺贈に係る相続税の決定処分が国税通則法(以下「通則法」という。)第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第3項に規定する期間内になされたものであるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、昭和63年2月16日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したA(以下「本件被相続人」という。)から、P市Q369番1所在の田600平方メートル、同番2所在の田400平方メートル(以下、369番1所在の田と併せて「甲土地」という。)、同所372番所在の田400平方メートル及び同所373番所在の田1,000平方メートル(以下、372番所在の田と併せて「乙土地」といい、甲土地と乙土地を併せて「本件土地」という。)の遺贈(以下「本件遺贈」という。)を受けたが、相続税の申告書を提出しなかった。
ロ 原処分庁は、平成10年6月30日付で相続税の課税価格を21,168,000円、納付すべき税額を12,170,700円とする決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の額を1,825,500円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成10年8月24日にその全部の取消しを求める異議申立てをした。
ニ これに対し、異議審理庁は、平成10年12月3日付で異議申立てをいずれも棄却する異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分の全部の取消しを求め、平成10年12月24日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、農地法第3条《農地又は採草放牧地の権利移動の制限》に規定する農地の権利移動の制限を受ける者であるところ、本件被相続人は、昭和43年12月17日付の公正証書遺言により、本件相続開始日当時、都市計画法第7条《市街化区域及び市街化調整区域》に規定する市街化調整区域内にあり、その現況が農地であった本件土地を請求人に遺贈した。
ロ 本件被相続人の唯一の相続人であるB(以下「本件相続人」という。)は、本件土地を含む本件被相続人の遺産をすべて相続したとして、昭和63年8月15日に、原処分庁に相続税の申告書を提出したが、請求人は、本件土地について、平成元年11月27日受付で「昭和63年2月16日遺贈(条件農地法第5条の許可)」を原因とする条件付所有権移転仮登記手続をし、更に、平成9年7月23日に、農地法第5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》第1項第3号の規定に基づき、P市農業委員会に届け出た上(以下、この届出を「本件届出」という。)、同年10月3日受付で「平成9年7月23日遺贈」を原因とする所有権移転登記手続をした。
ハ そこで、原処分庁は、平成10年6月30日付で、本件相続人に対して相続税の減額更正処分(以下「本件減額更正処分」という。)をするとともに、請求人に対して本件決定処分及び本件賦課決定処分をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次のとおり、いずれも違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件決定処分について
(イ)相続人以外の者に農地を特定遺贈する場合、農地法第3条及び第5条に規定する都道府県知事等の許可あるいは農業委員会に対する届出(以下、この許可と届出を併せて「許可等」という。)のない限り、遺贈による所有権移転の効力は生じないのであり、この意味で許可等は、当該遺贈の効力発生の法定条件ということができるが、遺贈の目的たる土地が農地であるか否かは、その客観的な使用状況によって決まる(いわゆる現況主義)のであるから、許可等のない場合であっても、当該農地が一旦非農地化した以上、その原因の如何を問わず、非農地化の時点で遺贈による所有権移転の効力が生ずるといえる(最高裁判所昭和42年10月27日第二小法廷判決)。
 本件においては、本件相続人において、本件土地を事実上宅地に転用した上、平成3年2月15日に普通建物の所有を目的として第三者に賃貸しているのであるから、遅くとも、同日までには本件土地は非農地となり、本件遺贈による所有権移転の効力が生じたというべきである。
 この点、原処分庁は、農地法第83条の2《違反転用に対する処分》第1項が、違反転用に対する処分について規定している上、事実上転用された農地につき転用を許可するのは、違法状態を将来に向かって消滅させ、農地以外の用途に使用する自由を得させるためで、農地が事実上転用されたからといって、許可等が不要となるものではないなどとして、農地が無断転用等により違法に非農地化しても、なお許可等のない限り、所有権移転の効力は生じない旨主張するが、現況主義によれば、農地が一旦非農地化すると、その時点で所有権移転の効力が生ずることは上記のとおりである。
 また、原処分庁は、本件遺贈は停止条件付遺贈と同視できるとして、民法第985条第2項により、遺言はその条件が成就した時から効力を生ずる旨の主張もするが、同項に規定する遺言に停止条件を付した場合とは、遺言自体に停止条件が明示されている場合をいい、農地法上の許可等が所有権移転の効力の法定条件となっているような場合をいうものではないから、原処分庁の主張には理由がない。
(ロ)相続税法(平成4年法律第16号改正前のもの。以下同じ。)第27条《相続税の申告書》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者は、その相続開始があったことを知った日の翌日から6月以内に申告書を提出しなければならない旨規定するところ、請求人は、上記(イ)のとおり、遅くとも平成3年2月15日までには、本件遺贈により本件土地を取得したのであるから、本件遺贈に係る相続税の法定申告期限は同年8月15日となる。
 そうすると、平成10年6月30日付でなされた本件決定処分は、通則法第70条第3項に規定する決定処分をすることができる期間を徒過してなされたものということになり、違法である。
(ハ)なお、本件減額更正処分も、通則法第71条《国税の更正、決定等の期間制限の特例》第2号及び第23条《更正の請求》第2項第1号の規定に反し違法であるから、これを前提とする本件決定処分も違法というべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり本件決定処分は違法であるから、これを前提とする本件賦課決定処分も違法である。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件決定処分について
(イ)本件土地は農地であり、農地法上の許可等のない限り、所有権移転の効力は生じないのであるし、民法第985条第2項は、遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる旨規定するところ、農地法上の許可等は、本件遺贈の停止条件と同視できるのであるから、この意味においても、請求人は、当該許可等を受けた時に本件遺贈により、本件土地を取得したというべきである。
(ロ)この点、請求人は、農地法上の許可等がなくとも、農地が一旦非農地化した以上、所有権移転の効力が生じ、当該許可等を受ける必要もなくなるのであるから、本件土地が宅地に転用され、普通建物の所有を目的として賃貸された平成3年2月15日には、所有権移転の効力が生じた旨主張する。
 しかしながら、農地を遺贈する場合、農地法上の許可等がない限り、当該遺贈による所有権移転の効力は生じないのであるし、農地法第83条の2第1項は、違反転用をした者に対する処分を規定しているのである。事実上転用された農地につき転用を許可するのは、違法状態を将来に向かって消滅させ、農地以外の用途に使用する自由を得させるためにすぎないのであって、農地が違反転用され、その現況が宅地になったとしても、当該土地について依然農地法の適用があるというべきである。
(ハ)上記1の(3)のロのとおり、請求人が、本件土地について、P市農業委員会に対し、農地法第5条第1項第3号に規定する本件届出を行ったのは平成9年7月23日であり、この日が相続税法第27条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日」というべきであるから、本件遺贈に係る相続税の申告書の法定申告期限は平成10年1月23日となるところ、請求人は、同日までに本件被相続人に係る相続税の申告書を提出しなかったことから、原処分庁は、通則法第25条《決定》の規定に基づき本件決定処分をなしたものであり、当該処分は適法である。
 なお、請求人は、本件減額更正処分は違法であるから、これを前提とする本件決定処分も違法である旨主張するが、本件減額更正処分は、通則法第71条第2項の規定に基づきなされたもので適法であるし、本件決定処分は、上記のとおり、通則法第25条の規定に基づき適法になされているのであるから、この点についての請求人の主張には理由がない。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件決定処分は適法であり、請求人の場合、通則法第66条《無申告加算税》第1項に規定する「期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合」には該当しないから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件相続人は、甲土地を、平成3年2月15日からはC社に対し、平成6年3月1日からは有限会社Dに対し賃貸した。なお、有限会社Dは、既に埋め立てられていた甲土地の引渡しを受け、これに砂利や砕石を敷いた上、更に、大型重機を出入りさせるさせるために鉄板を敷いて資材置場に利用していた。
ロ また、本件相続人は、平成3年2月15日に、乙土地をE株式会社に賃貸し、同社は、乙土地を残土で埋め、鉄板を敷いて資材置場に利用していた。
ハ 請求人は、平成3年10月に、現地に出向き、本件土地の賃借人に事情を聞くなどして、本件土地が本件相続人による埋立て等により非農地化したことを知った。
ニ なお、P市の固定資産税・都市計画税課税台帳によれば、本件土地は、平成8年度までは市街化調整区域内に所在し、平成2年度までは現況地目を田として、平成3年度は現況地目を畑として、平成4年度から平成8年度までは現況地目を雑種地として固定資産税のみが課税されていたが、平成9年度には都市計画法上の市街化区域内に所在し、現況地目を雑種地として固定資産税及び都市計画税が課税されている。

(2)本件決定処分について

イ 相続税法第27条第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者は、その被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格に係る相続税額があるときは、その相続の開始があったことを知った日の翌日から6月以内に課税価格、相続税額等を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定し、また、通則法第70条第3項は、同法第25条による決定は、その決定に係る国税の法定申告期限から5年を経過した日以降においては、することができない旨規定する。
ロ ところで、原処分庁は、本件遺贈は農地法上の許可等により所有権移転の効力が生ずるのであるから、民法第985条に規定する停止条件付遺贈と同視できるとして、請求人が、本件土地について、P市農業委員会に対し、本件届出を行った平成9年7月23日が相続税法第27条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日」であるとする。
 確かに、農地法上の許可等は法定条件であるとはいえ、農地の場合、農地法上の許可等のない限り、所有権移転の効力は生じないのであるから、この意味においては、停止条件付遺贈と同様に考えることができるのであって、本件遺言は、当該条件が成就した時からその効力を生じるというべきである(民法第985条第2項)。
 しかしながら、遺贈の目的物である土地が農地であるか否かは、その客観的な使用状況により判断すべきであることからすると(いわゆる現況主義)、少なくとも、受遺者の責に帰さない事情により農地が非農地となった以上、許可等を受けていなくても、非農地となった時に所有権移転の効力が生ずるというべきである。
 原処分庁は、農地法第83条の2第1項が、違反転用した者に対する処分を規定しているなどとして、違反転用により農地が非農地化した場合、農地法上の許可等のない限り、所有権移転の効力は生じない旨主張するが、そもそも農地であるか否かは現況主義の立場を基礎として判断すべきであることは、上記のとおりであり、違反転用に対する処分が規定されているからといって、所有権移転の効力が直ちに否定されるものではないのであって、原処分庁の主張には理由がない。
ハ 本件においては、本件土地について本件届出が行われたのは平成9年7月23日であるが、上記(1)のイ及びロのとおり、本件相続人は、本件土地を残土で埋立てたり、砂利や砕石を敷くなどして非農地とした上、平成3年2月15日に第三者に賃貸し、当該第三者はこれを資材置場等として実際に利用していたことが認められるのであるから、客観的な使用状況に照らすと、本件土地は遅くとも同日までには非農地となっていたと考えられ、上記(1)の本件土地が非農地となった経緯等からすると、この時に本件遺贈による所有権移転の効力が生じたというべきである。
 そして、上記(1)のハのとおり、請求人は、平成3年10月には、本件土地が非農地となっていることを知ったのであるから、請求人が相続税法第27条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日」は、上記の平成3年10月ということになる。
 したがって、本件遺贈に係る相続税の申告書の法定申告期限は、遅くとも平成4年4月末日となるから、これから5年を経過した日以後である平成10年6月30日付でなされた本件決定処分は、通則法第70条第3項に反するもので違法であり、その全部を取り消すべきである。

(3)本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

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