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(平13.3.22裁決、裁決事例集No.61 614頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続税の課税価格の計算の基礎となった財産を物納申請したのに対し、原処分庁が管理又は処分をするのに不適当な財産であるとして却下処分をしたことの適法性が争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成8年10月20日に死亡した被相続人Aの共同相続人8人のうちの1人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税の申告書に課税価格を○○○○○円及び納付すべき税額を70,843,800円(以下「本件相続税」という。)と記載して、平成11年6月4日に申告するとともに、同日併せて、物納を求める税額を70,723,038円及び物納財産として別表記載の土地(以下「本件物納申請土地」という。)を記載した相続税物納申請書を提出した。
 原処分庁は、平成12年6月8日付で上記物納申請について却下処分(以下「本件却下処分」という。)をした。
 請求人は、本件却下処分を不服として、平成12年7月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年9月18日付で棄却の異議決定をしたので、同年10月18日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 請求人は、本件相続税を金銭で納付する資力がないからこそ物納申請したのであり、本件物納申請土地以外に物納できる財産がないにもかかわらず、原処分庁が本件却下処分をしたことは不合理である。
ロ 原処分庁は、本件物納申請土地について、一方で相続税の規定に基づき課税を行い、もう一方で物納を認めないとするのは不合理であり、このように課税と徴収とで相続財産に対する評価が違うということが納得できない。
ハ 請求人が本件相続税の更正の請求をすることができる期限は、原処分庁が本件却下処分をした時点で徒過しているので、請求人は、課税に対する不服申立ての機会を失ったことになるから、原処分庁は、物納を許可しないのであれば、申告が誤っていたという理由で、本件却下処分がされた時点での更正の請求を認めるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 物納申請することができる税額は、延納によっても金銭で納付することを困難とする金額の範囲内に限られているので、金銭で納付する資力がないことは、物納許可の前提要件の一つではあるが、そのことが本件却下処分を取り消す理由とはならない。
ロ 相続税の物納は、相続税の納付の手段として一定の要件を満たす場合に限り認められるものであり、物納財産を国庫に帰属させることを目的として設けられたものではなく、収納後国がこれを管理又は処分し、その代金をもって財政収入に充て、金銭で税の納付があった場合と同等の経済的利益を得ることを真の目的としていることから、相続税法は、課税価格計算の基礎となった財産の中に、物納に適する財産と不適当な財産を規定しており、課税価格計算の基礎となった財産であるからといって、直ちに物納が認められるものではない。
 また、本件物納申請土地については、平成11年11月18日にB税務署の徴収担当職員が請求人と同行して現地確認を行ったところ、いずれも無道路地及びがけ地であり、売却できる見込みのない不動産であったことから、本件却下処分を行ったものである。
ハ 物納申請の起因となった本件相続税は、請求人が平成11年6月4日に提出した平成8年分相続税の期限後申告書に係るものであるから、本件却下処分の有無によって、本件相続税の課税関係に影響を与えるものではない。

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3 判断

(1)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、本件物納申請土地を本件相続により取得しており、本件物納申請土地以外に物納に適した相続財産を有していない。
ロ 請求人は、原処分庁に対して、物納財産目録及び金銭納付を困難とする理由書等を相続税物納申請書に添付して提出したが、本件物納申請土地を特定するために必要な公図及び地積測量図等は提出しておらず、また、高額な実測費用を捻出する余裕がない旨を申し立て、本件物納申請土地の実測を行っていない。
ハ 本件物納申請土地の現況は、別表に記載する物件番号1ないし7の土地は無道路地であり、同物件番号8及び9の土地は市道に接してはいるがのり地及びがけ地であり、同物件番号10の土地は公図等によって所在が特定できない土地である。
(2)ところで、国税の納付方法については、国税通則法第34条《納付の手続》第1項の規定によって金銭による納付が原則とされているところ、相続財産の物納による納付は、相続税法第41条《物納》第1項の規定に基づき、相続税を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に限って、その納付を困難とする金額を限度として、例外的に認められているものである。
 この規定からすると、相続税の物納制度は国税を金銭で納付するという原則に対して、相続税が財産課税であるという特殊性を考慮して設けられた特例的な制度であるということができ、物納申請財産を国に帰属させることがその目的ではなく、相続税の納付の単なる手段であり、国がこれを換価し、その代金をもって財政収入に充てることを目的としていると解されるから、物納財産は、その収納が金銭納付に代わるものである以上、国が、物納された財産の管理又は処分を通じて、金銭の納付があった場合と同等の経済的利益を確保し得るものでなければならないと解するのが相当である。
 そして、その管理又は処分をするために費用を要する財産の物納は国税の納付の趣旨に反することになるから、相続税法第42条《物納の手続及び許可》第2項は、税務署長は、物納申請に係る物納申請財産が管理又は処分をするのに不適当であると認めるときは、その変更を求め、他の財産による物納申請を待ってその申請を許可又は却下することができる旨規定している。
(3)これを本件についてみると、前記(1)のとおり、本件物納申請土地は、無道路地であったり、市道に接してはいるがのり地やがけ地であったり、あるいは、物件の所在も特定できないものであることから、原処分庁が本件物納申請土地を管理又は処分をするのに不適当な財産であると認定したことは相当であると認められる。
 この点について、請求人は、本件相続税を金銭で納付する資力がないからこそ物納申請したのであり、原処分庁が本件却下処分をしたことは不合理である旨主張するが、物納財産は、国が物納された財産の管理又は処分を通じて、金銭の納付があった場合と同等の経済的利益を確保し得るものでなければならないことからすると、物納申請した財産が管理又は処分をすることが不適当なものである場合、当該財産が不適当なものになったことについて納税者には帰責事由がなく、また、当該財産以外に物納に適した財産を有していなかったとしても、国は、当該財産の管理又は処分を通じて金銭納付があった場合と同等の経済的利益を確保することができないから、当該財産の物納が認められないことはやむを得ないというべきであり、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 仮に、請求人が、物納許可の前提となる所定の要件を具備しているか否かを問わず物納を認めるべきである旨主張しても、現行法上の物納制度の趣旨に反することとなるので採用できない。
(4)また、請求人は、本件物納申請土地について、原処分庁が一方で相続税の規定に基づき課税を行い、もう一方で物納を認めないのは不合理である旨主張する。
 しかしながら、相続税の課税は、相続による財産の取得という事実についてその財産的価値に担税力を認めて行われるものであり、一方、物納財産の管理又は処分の適否は、前記(2)で述べたとおり、国が当該財産の管理又は処分により、金銭による納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるという観点から判断されるのであって、ある相続財産について、それが課税計算の基礎となった財産であっても、そのことから直ちに当該財産が物納財産として管理又は処分に適するということを意味するものではなく、管理又は処分をするのに不適当であるとされることもあり得るというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)さらに、請求人は、申告が誤っていたという理由で、本件却下処分がされた時点での更正の請求を認めるべきである旨主張するが、上記(4)のとおり、相続税の課税は相続財産の財産的価値に担税力を認めて行われるものであり、本件却下処分によって、本件物納申請土地の財産的価値に変動があったとは認められないから、本件相続税の申告の誤りを理由に更正の請求をすることはできず、また、物納申請が却下された場合は、更正の請求ができる期限が延長される旨を定めた法令上の規定もないから、請求人の主張には理由がない。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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