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(平13.3.14裁決、裁決事例集No.61 623頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、基準期間において、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項に規定する事業者(以下「免税事業者」という。)に該当する者の、当該基準期間における課税資産の譲渡等の対価の額に、「課されるべき消費税に相当する額」が含まれているか否かを争点とする
事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、べっ甲の販売を業とする者であるが、平成10年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成12年3月27日付で本件課税期間に係る課税標準額を32,764,000円、納付すべき消費税額を331,300円及び納付すべき地方消費税額を82,800円とする消費税等の決定処分(以下「本件決定処分」という。)並びに無申告加算税の額を61,500円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人が、これらの処分を不服として平成12年5月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成12年6月30日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年7月25日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件課税期間に係る基準期間に当たる平成8年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件基準期間」という。)及び平成9年1月1日から同年12月31日までの課税期間において、免税事業者に該当する。
ロ 請求人の本件基準期間における課税資産の譲渡等の対価の合計額(課税資産の譲渡等の対価として収受し、又は、収受すべき金銭等の合計額をいう。以下同じ。)は、平成8年分の事業所得の総収入金額31,064,722円から、消費税法第4条《課税の対象》第1項に規定する資産の譲渡等に該当しないP県Q市の定める○○運営補助要綱第5条《補助金の交付決定》の定めに基づき交付を受けた補助金240,000円を除く30,824,722円である。
ハ 請求人の本件課税期間における課税資産の譲渡等の対価の合計額は、平成10年分の事業所得の総収入金額34,406,355円から、消費税法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされる資産の譲渡等に係る対価の額3,351円を除く34,403,004円であり、同課税期間における控除対象仕入税額は、同課税期間における課税仕入れに係る消費税額632,650円と、消費税法第36条《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》第1項の規定に基づく消費税額の調整額321,494円との合計額954,144円である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件決定処分について
(イ)本件基準期間における「課されるべき消費税額等」の存否について
A 消費税法第4条は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、消費税を課す旨規定している。
 すなわち、消費税法は、全ての取引を課税の対象としてとらえ、その上で、同法第6条において消費税を課さないこととされるもの(以下「非課税取引」という。)を列挙して課税の対象から除外している。
 そして、消費税法第9条第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3,000万円以下である者については、同法第5条《納税義務者》第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき消費税を納める義務を免除する旨規定している。
 このように、消費税法は、事業者の行う資産の譲渡等全てを課税の対象ととらえ、その上で同法第6条において非課税取引を列挙し課税の対象から除外しているところ、ここにいう事業者から免税事業者が除かれるとの規定はないから、免税事業者が行う取引であっても、非課税取引以外は全て課税の対象であって、免税事業者の行う課税資産の譲渡等の対価の額にも、課されるべき消費税額及び当該消費税を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額(以下「課されるべき消費税額等に相当する額」という。)が含まれており、ただ、同法第9条第1項の規定により単に納税義務だけが免除されていると解すべきである。
B 消費税は、税制改革法第10条《消費税の創設》及び同法第11条《消費税の円滑かつ適正な転嫁》の規定により、消費に広く薄く負担を求めるという基本理念に基づき創設された間接税であるから、消費者に転嫁されない消費税はないのであり、このことからも、免税事業者の行う課税資産の譲渡等の対価の額にも、課されるべき消費税額等に相当する額が含まれていると解される。
(ロ)本件基準期間における課税売上高について
 消費税法第9条第2項第1号は、課税売上高とは、個人事業者について、基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から所定の金額の合計額を控除した残額である旨、また、課税資産の譲渡等の対価の額とは、同法第28条《課税標準》第1項に規定する対価の額をいう旨規定し、同項は、消費税の課税標準について、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額等に相当する額を含まないものとする。)とする旨規定している。
 したがって、上記(イ)のとおり、免税事業者が行うものであっても非課税取引以外の課税資産の譲渡等は全て課税の対象であり、課税資産の譲渡等の対価の額には、課されるべき消費税額等に相当する額が含まれていると解されることから、本件基準期間の課税売上高は、消費税法第28条第1項に規定するとおり、本件基準期間における課税資産の譲渡等の対価の額から課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額等に相当する額を控除した金額とするべきである。
(ハ)そうすると、本件については、請求人の本件基準期間における課税売上高は3,000万円以下となるから、本件課税期間において請求人は免税事業者に該当する。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件決定処分について
(イ)本件基準期間における「課されるべき消費税額等」の存否について
A 消費税法第4条第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課すると規定しているところ、その文言及び「課税の対象」という条文の見出し並びに同法第5条の存在からみて、当該規定は、納税義務者を定めた規定ではなく、課税の対象(課税物件)を定めた規定であると解される。
 したがって、消費税法第4条第1項が特に限定をせずに「事業者」という用語を用いているからといって、免税事業者に対しても消費税が課されると解することはできない。
B 納税義務者について、消費税法第5条第1項は、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務があると規定し、同法第9条第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3,000万円以下である者については、同法第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除すると規定している。
 このように、消費税法第9条第1項は、納税義務者についての原則的な規定である同法第5条第1項の規定の適用を排除し、その例外を規定していることから、同法第9条第1項は、納税義務者の範囲を規定したものであって、免税事業者においていったん発生した納税義務が消滅することを規定したものではない。
 また、消費税法第9条第1項は、納税義務を「免除する」という用語を使用しているが、これは、基準期間における課税売上高が3,000万円以下であれば、同項の規定により、法律上当然に当該基準期間に対応する課税期間においては、当該課税期間の当初からそもそも納税義務を負わないこととなることを規定しているものであって、いったん発生した納税義務を、課税期間開始後、事後的に、税務署長またはその他の行政庁による意思表示その他の行為により消滅させるという意味ではない。
C 消費税の転嫁とは、自己の課されるべき消費税額等を課税資産の譲渡等の相手方に負担させることであると解されるところ、上記Bのとおり、ある課税期間において免税事業者である者は、当該課税期間の当初からそもそも納税義務を負わないのであるから、当該免税事業者の行う課税資産の譲渡等の対価の額に、課されるべき消費税額等に相当する額が含まれていると解することはできない。
(ロ)本件基準期間における課税売上高について
 以上の次第で、請求人の本件基準期間における「課されるべき消費税額等」は存在しないから、当該基準期間の課税売上高は、当該基準期間における課税資産の譲渡等の対価の額30,824,722円となる。
(ハ)本件課税期間における納付すべき消費税額等について
 以上の結果、請求人は、本件課税期間において免税事業者に該当せず、消費税を納める義務を負うところ、次のとおり、本件課税期間における納付すべき消費税額等は、本件決定処分の額を上回るから本件決定処分は適法である。
A 課税標準額
 課税標準額は、本件課税期間における課税資産の譲渡等の対価の合計額34,403,004円に105分の100を乗じて計算した金額32,764,000円(1,000円未満切捨て)である。
B 課税標準額に対する消費税額
 課税標準額に対する消費税額は、上記Aの課税標準額に100分の4を乗じて計算した金額1,310,560円である。
C  控除対象仕入税額
 控除対象仕入税額は、課税仕入れに係る消費税額632,650円と消費税法第36条第1項の規定に基づく納税義務の免除を受けないこととなった場合における消費税額の調整額321,494円との合計額954,144円である。
D 納付すべき消費税額
 納付すべき消費税額は、上記Bの課税標準額に対する消費税額から上記Cの控除対象仕入税額を控除した金額356,400円(100円未満切捨て)である。
E 納付すべき地方消費税額
 納付すべき地方消費税額は、上記Dの納付すべき消費税額に100分の25を乗じて計算した金額89,100円(100円未満切捨て)である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分については、請求人には、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づく本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件決定処分について

イ 本件基準期間における「課されるべき消費税額等」の存否について
(イ)消費税法第1条《趣旨》は、この法律は、消費税について、課税の対象、納税義務者、税額の計算の方法、申告、納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定めるものとすると規定し、同法第4条第1項は、「課税の対象」との条文見出しの下に、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課すると規定し、同法第6条第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さないと規定している。
 また、消費税法第5条第1項は、「納税義務者」との条文見出しの下に、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務があると規定し、この課税資産の譲渡等について、同法第2条《定義》第1項第9号は、資産の譲渡等のうち、同法第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいうと規定している。
 さらに、消費税法第9条第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3,000万円以下である者については、同法第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定している。
(ロ)これを本件についてみると次のとおりである。
A 請求人は、消費税法第4条第1項の規定が「事業者」という用語を用いていることから、免税事業者の行う取引であっても、非課税取引以外は全て課税の対象であって、課税資産の譲渡等の対価の額には、課されるべき消費税額等に相当する額が含まれており、ただ同法第9条第1項の規定により納税義務だけが免除されている旨主張する。
 ところで、納税義務の発生による課税関係は、納税義務者に課税物件(課税の対象とされる物、行為又は事実)が帰属したときにその者との間に成立するものであるから、課税物件に該当する行為又は事実が生じたとしても、それが納税義務者に帰属しないときは、納税義務の発生による課税関係は成立しない。そして、消費税法第1条の趣旨並びに同法第4条、同法第5条及び同法第9条の条文見出し及び趣旨に照らせば、同法第4条は消費税の課税物件を、同法第5条は消費税の課税要件としての納税義務者をそれぞれ規定しており、同法第9条第1項は、「同法第5条第1項の規定にかかわらず」と規定していることから、同項の例外規定として、同項に規定された課税要件としての納税義務者の範囲を限定するもの、すなわち、所定の要件を具備した事業者を同項に規定する納税義務者から除外する趣旨のものであると解すべきであり、免税事業者についての納税義務の存在を前提とした上で発生した又は課されるべき消費税を免除することを規定するものではないと解される。
 そうすると、消費税法第9条第1項の規定の適用により免税事業者となる者については、納税義務者から除外されるのであるから、たとえ課税資産の譲渡等を行ったとしても、納税義務が発生せず、そうである以上、課されるべき消費税額等に相当する額は存在しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、消費税が消費に広く薄く負担を求めるという基本理念に基づき創設された間接税であるから、消費者に転嫁されない消費税はないとして、免税事業者の行う課税資産の譲渡等の対価の額にも課されるべき消費税額等に相当する額が含まれている旨主張する。
 たしかに、消費税は、生産から流通を経て消費に至る過程における事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階に課税し、最終的消費に広く薄く負担を求めるという性質を有するところから、順次、円滑かつ適正に転嫁されることが予定されており、ここでいう事業者から免税事業者は除外されていない。しかしながら、転嫁とは自分の責任や負担を他の者の責任や負担とすることであるから、消費税の転嫁とは自己に課されるべき消費税額等に相当する額を課税資産の譲渡等の相手方に負担させることにほかならず、税制改革法第11条も課されない消費税の転嫁を予定するものではない。そうすると、納税義務者とされなかった免税事業者については、課税資産の譲渡等の対価の額に含まれる価格の増加分に対して、消費税等が課されるものではなく、これに相当する額が転嫁されるものでもないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件基準期間における課税売上高について
(イ)消費税法第9条第2項第1号は、「基準期間における課税売上高」の範囲について、基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額(同法第28条第1項に規定する対価の額をいう。)の合計額から、売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額とする旨規定している。
 そして、上記の消費税法第9条第2項第1号のかっこ書において引用する「第28条第1項に規定する対価の額」について、同項のかっこ書は、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額等に相当する額を含まないものとすると規定している。
(ロ)請求人は、免税事業者の行う課税資産の譲渡等の対価の額にも、課されるべき消費税額等に相当する額が含まれていると解されることから、本件基準期間における課税売上高の算定に当たっては、同法第28条第1項に規定するとおり、課税資産の譲渡等の対価の額から当該課されるべき消費税額等に相当する額を控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、課税標準の算出に当たり課税資産の譲渡等の対価の額から当該譲渡等につき課されるべき消費税額等に相当する額を控除する趣旨は、生産から流通を経て消費に至る過程において、課税資産の譲渡等に課される消費税等は、その代価中に転嫁されていくため、消費税法第28条第1項にいう課税資産の譲渡等の対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額の中には当該譲渡等において当該譲渡等の相手方に転嫁された消費税額等に相当する額が含まれることになるから、課税標準の算出に当たっては、課税資産の譲渡等の対価の額から当該相手方に転嫁された消費税額等を控除すべしとすることにあるのであり、上記イのとおり、免税事業者である本件基準期間において請求人の行った課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額等が存在しない以上、本件基準期間における課税売上高の算定に当たり、課税資産の譲渡等の対価の額から控除すべき消費税額等に相当する額も存在しないこととなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)以上の結果、請求人の本件基準期間における課税売上高は、当該基準期間における課税資産の譲渡等の対価の合計額であり、上記1の(3)のロのとおり、30,824,722円である。
ハ 本件課税期間における納付すべき消費税額等について
(イ)上記ロのとおり、請求人の本件基準期間における課税売上高は3,000万円を超えるから、本件課税期間において、同人に納税義務があるとした原処分庁の認定は相当である。
(ロ)本件課税期間における課税資産の譲渡等の対価の合計額及び控除対象仕入税額は、上記1の(3)のハのとおりであり、その結果、請求人の本件課税期間の課税標準額は32,764,000円、納付すべき消費税額は356,400円、納付すべき地方消費税額は89,100円となり、これらの金額はいずれも本件決定処分の額を上回るから、本件決定処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件決定処分は適法であり、また、請求人の場合、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないので、同項及び地方税法附則第9条の9第1項の規定に基づく本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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