ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.61 >> (平13.4.9裁決、裁決事例集No.61 635頁)

(平13.4.9裁決、裁決事例集No.61 635頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、専修学校の認可を受けた大学予備校を経営する審査請求人(以下「請求人」という。)が、同校の入校生を主な対象者とした大学受験のための夏期講習会及び冬期講習会を開催した場合に、当該講習会における役務の提供が消費税法上非課税となる専修学校の「一般課程」における教育として行う役務の提供に該当するか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年4月1日から平成9年3月31日までの課税期間(以下「平成9年3月期」という。)の消費税並びに平成9年4月1日から平成10年3月31日まで及び平成10年4月1日から平成11年3月31日までの各課税期間(以下、順次「平成10年3月期」及び「平成11年3月期」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、平成10年3月期の消費税等の申告において、課税資産の譲渡等とした夏期講習会等に係る役務の提供を、消費税を課さない資産の譲渡等とすべきであったとして、平成11年3月3日付で更正の請求をしたところ、原処分庁は、同年8月30日付で更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ハ 原処分庁は、平成11年9月24日付で別表の「更正処分等」欄のとおり、平成9年3月期の消費税に係る更正処分並びに平成10年3月期及び平成11年3月期の消費税等に係る各更正処分(以下、平成10年3月期及び平成11年3月期の各更正処分を併せて「本件各更正処分」という。)と過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成11年10月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成12年2月10日付で本件通知処分に対する異議申立てについては棄却、別表の「異議決定」欄のとおり平成9年3月期に係る更正処分については却下、平成10年3月期に係る更正処分については一部取消し及び平成11年3月期に係る更正処分については棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年3月7日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、学校教育法第82条の2に規定する専修学校を設置することについて、昭和60年2月13日付でP県Q市長より認可を受け、同月14日に、私立学校法第64条《私立専修学校等》第4項の規定に基づく学校法人を設立した。
ロ 請求人が経営する専修学校の名称は、J予備学校及びK予備学校(以下、両校を併せて「本件予備校」という。)である。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 平成9年3月期の消費税の更正処分並びに本件通知処分及び本件各更正処分について
 請求人が主宰する本件予備校では、第1学期の授業に対する補習授業として本件予備校の夏期休業期間に夏期講習会及び第2学期の授業に対する補習授業として本件予備校の冬期休業期間に冬期講習会(以下、夏期講習会と併せて「本件講習会」という。)を実施している。
 請求人は、本件講習会を、本件予備校の学則(以下「本件学則」という。)の第4条《課程・学科・修業年限・定員》に記載されている「教養一般課程」において実施している授業の一環であると位置付け、本件講習会は専ら本件予備校の教養一般課程に入校を許可した生徒(以下「本件生徒」という。)を対象に行っている。
 したがって、本件講習会における授業は、消費税法第6条《非課税》別表第一の第11号ロに規定する「一般課程における教育として行う役務の提供」であり、また、本件生徒から徴収する本件講習会の講習料(以下「本件講習料」という。)は、消費税法施行令(平成11年政令第262号による改正前のもの。以下同じ。)第14条の4《教育に係る役務の提供の範囲》に規定する授業料であることから、消費税を課さない資産の譲渡等に該当する。
 なお、本件講習会は、本件予備校が大学進学を使命としていることから、本件生徒以外の者(以下「校外生」という。)についても門戸を開放し、また、本件生徒においても本件講習会を受講するか否かは各自の自由意思にまかせているが、本件生徒に対しては適宜受講指導を行っている結果、本件講習会の受講生の大半は本件生徒となっており、実質的には本件生徒に対する補習授業である。
 よって、原処分庁が本件講習会を正規の授業に伴う補講、補習等に当たらないとして、本件講習料を課税資産の譲渡等と認定した平成9年3月期の消費税の更正処分並びに本件通知処分及び本件各更正処分は違法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分は違法であり、取り消されるべきであるから、本件各賦課決定処分も違法である。

トップに戻る

(2)原処分庁

 平成9年3月期の消費税に係る更正処分に対する審査請求は、次の理由により不適法であるから却下するとの裁決を求め、また、本件通知処分、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分は、次の理由により適法であるから、これらに対する審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 平成9年3月期の消費税に係る更正処分について平成9年3月期の消費税に係る更正処分は、請求人が提出した当該課税期間の消費税の確定申告書に記載された納付すべき税額を減少させる更正処分であって、請求人の権利又は法律上の利益を侵害するものではないから、当該更正処分に対する審査請求は不適法である。
ロ 本件通知処分及び本件各更正処分について
(イ)原処分庁の調査の結果、請求人について次の事実が認められる。
A 本件学則の第4条によれば、本件予備校の課程は、教養一般課程のみであり、修業年限を各1年間とする次の学科のみが定められている。
(A)理科系総合学科(国立大学進学コース)
(B)文科系総合学科(国立大学進学コース)
(C)理科系総合学科(私立大学進学コース)
(D)文科系総合学科(私立大学進学コース)
(E)文科系総合学科(私立大学進学ベーシックコース)
B 本件講習会は、本件予備校の入学要領の中で、入学手続の際に志願できるコースとして記載されていない。
C 本件講習会用のパンフレットによれば、申込みができる者は、本件生徒のみに限らず、校外生をも対象にしており、受講希望者は誰もが自由に申し込むことができる。
(ロ)ところで、消費税法第4条《課税の対象》第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、同法により消費税を課する旨規定し、同法第5条《納税義務者》第1項は、事業者は国内において行った課税資産の譲渡等につき、同法により消費税を納める義務がある旨規定している。
 さらに、課税資産の譲渡等とは、消費税法第2条《定義》第1項第8号及び第9号の規定において、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供のうち、同法第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいうこととされている。
 そして、消費税法第6条第1項においては、国内において行われる資産の譲渡等のうち、同法別表第一(第6条関係)に掲げるものには消費税を課さない旨規定(以下、同法第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされる資産の譲渡等を「非課税売上」という。)し、また、同法別表第一の第11号ロにおいて、学校教育法第82条の2に規定する専修学校を設置する者が、当該専修学校の同法第82条の3第1項に規定する高等課程、専門課程又は一般課程における教育として行う役務の提供を非課税売上として掲げている。
 ただし、上記の非課税売上となる役務の提供については、消費税法別表第一の第11号及び消費税法施行令第14条の4の規定により、〔1〕授業料、〔2〕入学金及び入園料、〔3〕施設設備費、〔4〕入学又は入園のための試験に係る検定料並びに〔5〕在学証明、成績証明その他学生、生徒、児童又は幼児の記録に係る証明に係る手数料及びこれに類する手数料の料金を対価として行われる部分に限る旨規定している。
 なお、専修学校が行う一般課程においては、学校教育法第82条の2及び専修学校設置基準(昭和51年1月10日文部省令第2号)第5条《授業時間》の規定により、修業年限が1年以上、授業時間が800時間以上及び教育を受ける者が常時40人以上である教育を行うこととされている。
(ハ)そこで、本件講習会について、上記(イ)の事実を上記(ロ)の法令の規定に照らしてみると、本件講習会は、本件学則に定める課程に掲げられておらず、入学要領における入学手続に記載されている授業料の対象となる正規の授業でもなく、また、申込みができる者は、本件生徒のみを対象としておらず、校外生も対象としており、本件生徒の場合も各自の自由意思でその申込みを行うこととされているものであるから、本件予備校の正規の授業である教養一般課程の一環として行われるものではなく、それとは別個に広く希望者を募って行われた講習会と認められ、消費税法第6条第1項及び同法別表第一の第11号ロに規定する非課税売上となる役務の提供に該当しないのは明らかである。
(ニ)したがって、本件通知処分及び本件各更正処分は適法に行われており、請求人の主張には理由がない。
ハ 本件各賦課決定処分について
 上記ロのとおり、本件各更正処分は適法に行われており、また、更正により納付すべき税額がある場合には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第1項及び第2項の規定に従って過少申告加算税を賦課すべきところ、本件各更正処分に伴って本件各賦課決定処分をしたのであるから、請求人の主張には理由がない。
 なお、請求人の場合、納付すべき税額の計算の基礎となった事実について、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、本件各賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)本件講習会が、本件予備校の教養一般課程における教育として行う授業に該当するか否か(非課税売上か否か)に争いがあるので、以下審理する。
イ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件予備校は、高等学校における教育課程を修了した者を対象に、大学の入学者を選抜するための学力試験(以下「大学入学試験」という。)に直接備えるための学力の教授を目的とする専修学校であり、本件予備校が設置している課程における各学科の授業内容は、既に高等学校の教育課程で修得した各教科をテーマ別に細分類化あるいは凝縮化して再教授することにより学力の向上を図っていることが認められる。
(ロ)一方、本件講習会は、大学入学試験に備えるための学力の教授を目的として、各教科ごとに数種類の講座が用意されており、上記(イ)の内容と類似している。
(ハ)本件講習会は、各講座ごとに専用の教材を作成し使用している。また、本件講習会の各講座は、1回当たり50分の授業を1日3回連続して行い、4日間連続で授業を進行させて完結する短期集中型の講座である。
(ニ)本件講習会は、本件講習会用のパンフレットを本件予備校の近隣に所在する高等学校に配付しているほか、本件予備校を訪れた者が持ち帰ることができるように本件予備校の1階事務室に用意されており、本件生徒に限らず誰でも自由に受講申込みができるように便宜が図られている。
(ホ)請求人の代表者であるMは、当審判所に対して、本件講習会は本件生徒と校外生とは同じ教室で受講させており、本件生徒と校外生との間における受講に対する取扱いについては、校外生から別途入会金を徴収する以外に差異はない旨答述している。
(ヘ)本件予備校の従業員であるNは、当審判所に対して、本件予備校では担任制を採用しており、担任が授業の到達テスト、校内模擬試験及び各教科ごとの小テスト等を基に本件生徒の学力及び理解度を測定し、それをデータとして集約した上で、当該データを参考に本件生徒に対して個別に各教科の弱点を指摘するとともに、各教科の弱点を補うために必要な本件講習会の講座内容を説明の上、受講指導をしている旨答述している。
(ト)本件学則の第5条《学年・学期》において、学年は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終わるとし、その学年を分けて、4月1日から8月31日までを第1学期、9月1日から12月31日までを第2学期及び翌年1月1日から3月31日までを第3学期とする旨定められている。
 また、本件学則の第6条《休業日》において、休業日を次のとおり定めている。
A 毎日曜日及び創立記念日
B 国民の祝日に関する法律で規定する日
C 春期休業(自3月21日至4月1日)
D 夏期休業(自7月25日至8月31日)
E 冬期休業(自12月25日至1月7日)
 そして、同条の(2)において、「教育上必要があり、やむを得ない事情があったときは、前項にかかわらず休業日に授業を行うことがある」旨定めている。
ロ 本件講習会について検討すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件講習会が本件予備校の教養一般課程における授業の一環であり、専ら本件生徒を対象に行っていることから、本件講習料は非課税売上である旨主張する。
 しかしながら、本件学則では、本件予備校が設置する課程は教養一般課程のみであり、当該課程に設置された各学科には、教科、科目及び授業時数が定められているのであるが、本件講習会は、本件学則に定められた各学科の授業教科の年間授業時数には含まれていないことが認められる。
 また、上記イの(ト)のとおり、本件学則では本件予備校の休業日を定め、教育上必要があり、やむを得ない事情があった場合以外は授業を行わない旨定めているところ、本件講習会は、休業期間中に開催されているのであり、また、その受講は本件生徒の自由意思となっていることからすれば、本件学則に定める休業日に授業をしなければならないような「やむを得ない事情」を本件講習会に見いだすことはできない。
 さらに、上記イの(ニ)及び(ホ)のとおり、本件講習会が、校外生の参加も認めていること及び本件講習会の受講を希望する本件生徒は本件受講料を別途支払っていることに照らしてみると、本件講習会は、教養一般課程の受講の有無に直接関係がない授業と認められ、また、入学要領や本件学則に記載されている授業料の対象となる正規の授業ではないことが認められる。
 そうすると、本件講習会は、本件予備校が設置する教養一般課程における教育として行う授業ということはできず、教養一般課程とは別枠で設置されたものであって、当該課程から独立して行われている授業というべきである。
 なお、本件講習会は、大学入学試験を受験しようとする者を対象に、本件生徒に限らず広く一般に受講者を募集する短期集中型の公開講座であることから、仮に、本件講習会を独立した授業とみても、専修学校の一般課程としての要件である修業年限(1年以上)や授業時間(800時間以上)を満たさないことは明白であって、やはり、本件講習会は、教養一般課程における教育とは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、本件生徒が本件講習会を受講するか否かは各自の自由意思にまかせているが、本件予備校で適宜受講指導を行っている結果、本件講習会の受講生の大半は本件生徒となっているから、本件講習会は実質的に補習授業である旨主張する。
 確かに、上記イの(イ)、(ロ)及び(ヘ)のとおり、本件予備校の教養一般課程と本件講習会は、高等学校の教育課程を終了した者を対象に大学入学試験に直接備えるための学力を教授することを目的に行われているという点については共通性があると認められる。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件講習会は本件予備校が設置する教養一般課程における教育として行う授業には該当しないのであり、請求人の主張には理由がない。
(ハ)以上から判断すると、本件講習会は、本件予備校が設置する教養一般課程における教育として行う授業とは認められないので、本件講習会において本件生徒から徴収する本件講習料は、消費税法第6条第1項及び同法別表第一の第11号ロに規定する非課税売上以外の役務の提供の対価である。したがって、本件講習料が課税資産の譲渡等であるとしてされた本件通知処分及び本件各更正処分は適法である。
(ニ)上記(ハ)のとおり、本件各更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。
(2)請求人は、平成9年3月期の消費税の更正処分についても本件生徒から徴収する本件講習料に係る部分の取消しを求める審査請求をしているが、当該更正処分は、請求人の納付すべき税額を減額する更正処分であるから、この処分は、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえず、その取消しを求める利益はない。
(3)以上のとおり、平成9年3月期の消費税の更正処分に対する審査請求は、請求の理由を欠くものとして却下すべきであり、本件通知処分及び本件各更正処分並びに本件各賦課決定処分に対する審査請求は、いずれも理由がないものとして、棄却すべきである。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る