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(平13.2.8裁決、裁決事例集No.61 662頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、消費税法(ただし、平成8年4月1日から平成9年3月31日までの課税期間については、平成6年法律第109号による改正前のもの。以下同じ。)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定(以下、この控除の特例に係る制度を「簡易課税制度」という。)の適用を受ける審査請求人(以下「請求人」という。)の営む歯科技工所に係る事業(以下「本件事業」という。)が、同法施行令(ただし、平成8年4月1日から平成9年3月31日まで及び平成9年4月1日から平成10年3月31日までの各課税期間については平成8年政令第86号による改正前のもの。以下「施行令」といい、特に改正前の施行令を示す場合は「旧施行令」という。)第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第5項第3号ヘに規定する製造業(第三種事業)に該当するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、本件事業は製造業に該当するとして、平成8年4月1日から平成9年3月31日までの課税期間(以下「平成9年3月期」という。)の消費税並びに平成9年4月1日から平成10年3月31日まで及び平成10年4月1日から平成11年3月31日までの各課税期間(以下、順次「平成10年3月期」及び「平成11年3月期」といい、平成9年3月期と併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、その確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ これに対し、原処分庁は、本件事業は製造業に該当せず、旧施行令第57条第5項第4号に規定する第四種事業(同号の前3号に掲げる事業以外の事業をいう。以下同じ。)、あるいは施行令第57条第5項第4号ハに規定するサービス業に該当するとして、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 異議申立て等の状況は、別表2のとおりである。
 なお、異議審理庁は、平成11年3月期に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分に対する異議申立てについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、平成12年1月19日付で請求人に同意を求めたところ、請求人が同年2月3日同意したため、いずれも同日に審査請求がなされたものとみなされたので、これらの審査請求を平成9年3月期及び平成10年3月期の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分に対する審査請求と併合審理する。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成7年5月30日に消費税法第37条第1項の規定の適用を受ける旨記載した届出書を原処分庁に提出した。
ロ なお、請求人の各基準期間(消費税法第2条《定義》第1項第14号に規定する事業年度をいう。)の課税売上高は、平成9年3月期については4億円以下、平成10年3月期及び平成11年3月期については2億円以下である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、以下の理由によりいずれも違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)請求人は、歯科技工所(歯科技工士法第2条《用語の定義》第3項)の経営に関する業務を目的とする有限会社であり、歯科医師及び他の歯科技工所(以下「歯科医師等」という。)からの依頼を受け、指示書(歯科技工士法第18条《歯科技工指示書》に規定する歯科医師の指示書をいう。以下同じ。)に基づき、材料業者から購入した樹脂材を、自己の機械(樹脂射出成形機、樹脂乾燥機)で熱加工して「形(かた)」にし、これに業者から購入した人工歯やクラスプ等を結合させるなどして、自己の責任と計算において、義歯を作成し、これを歯科医師等に納品している。
 したがって、本件事業は製造業に該当する。
(ロ)原処分庁は、消費税法基本通達(平成7年12月25日付課消2−25号ほか国税庁長官通達をいう。以下同じ。)13−2−4《第三種事業及び第五種事業の範囲》は、製造業とサービス業の範囲は、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定する旨定め、総務庁発行の当該日本標準産業分類において歯科技工所はサービス業に分類されているとして、本件事業は製造業に該当しない旨主張する。
 しかしながら、通達は行政組織内部においてのみ拘束力を持ち、国民に対し拘束力を持つものではないし、消費税法基本通達も上記のとおり「おおむね」日本標準産業分類の分類を基礎とするとして、これを絶対的な分類とはしていないのであるから、請求人が歯科技工所を経営しているからといって、本件事業がサービス業に該当することになるものではない。
 上記(イ)のとおり、請求人は、義歯を作成しているのであり、その作業工程を社会通念に照らしてみると、本件事業は製造業に該当するといえる。
(ハ)以上のとおり、本件事業は製造業であるから、控除対象仕入税額(課税標準に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の消費税額をいう。以下同じ。)の計算に当たっては100分の70のみなし仕入率(消費税法第37条第1項及び施行令第57条第1項に規定する率をいう。以下同じ。)を適用すべきであり、このみなし仕入率を適用せずに控除対象仕入税額を算出した本件各更正処分はいずれも違法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分はいずれも違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分も違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、以下の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)請求人は、歯科医師等からの注文を受けて義歯等を作成し、これを納品しているとはいえ、歯科材料製造業等と異なり、歯科医師から指示書の提供を受け、その指示する形状、サイズ、材質等によらなければならず、これを制約なく自由に行えるものではないし、歯科技工(歯科技工士法第2条第1項)には、高度の専門知識、技能及び経験を必要とし、免許を受けた歯科技工士でなければ、業としてこれを行うことができないのであるから、本件事業は、歯科医療行為の一環として、歯科医師の指示に基づき歯科医療に係る知識又は技能・技術を提供するものといえ、これは製造業ではなく、サービス業に該当する。
(ロ)なお、消費税法基本通達13−2−4は、製造業とサービス業の範囲は、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定する旨定めるところ、当該日本標準産業分類は、歯科技工所を大分類L−サービス業、中分類88−医療業に分類している。この日本標準産業分類は、日本の産業に関する統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較と利用の向上を図るために、統計調査の産業標準の基準の一として設定されたものであるから、簡易課税制度において事業の範囲を判定するに当たり、当該日本標準産業分類を基礎とすることは合理的といえ、この点からしても、本件事業は、製造業ではなく、サービス業に該当するといえる。
(ハ)以上のとおり、本件事業はサービス業であるから、本件各課税期間の控除対象仕入税額は、平成9年3月期及び平成10年3月期については100分60のみなし仕入率により、平成11年3月期については100分の50のみなし仕入率により算出すべきであり、本件各更正処分はいずれも適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、また、請求人の場合、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づきなされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

イ 請求人は、歯科技工所の経営に関する業務を目的とする有限会社であり、歯科医師等から依頼を受けて、指示書に基づき、材料業者から購入した樹脂材を自己の機械(樹脂射出成形機、樹脂乾燥機)で熱加工して「形(かた)」にし、これにやはり業者から購入した人工歯やクラスプ等を結合させるなどして、自己の責任と計算において義歯を作成し、これを歯科医師等に納品していることについては、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもこれを認めることができるところ、本件においては、簡易課税制度の適用上、これが第三種事業である製造業に該当するのか、それとも、旧施行令第57条第5項第4号に規定する第四種事業(平成9年3月期及び平成10年3月期について)、あるいは施行令第57条第5項第4号ハに規定する第五種事業であるサービス業(平成11年3月期について)に該当するのかが問題となる。
ロ ところで、消費税法及び施行令は、製造業、あるいはサービス業の具体的内容について格別規定しておらず、したがって、各事業の範囲は、社会通念に照らしこれを判定するほかない。
 この点、消費税法基本通達13−2−4は、製造業とサービス業の範囲は、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定する旨定めるのであるが、そもそも通達は行政組織内部の規範にすぎず、納税者を拘束するものではないこと、そして、上記の通達自体、事業の範囲の判定について絶対的な基準を示しているわけではないことは、請求人の主張するとおりである。
 しかしながら、日本標準産業分類は、日本の産業に関する統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較と利用の向上を図るために、統計調査の産業標準の基準の一として設定されたものであるから、その分類は社会通念に基づく客観的なものということができるのであって、簡易課税制度の公平な適用という観点からしても、当該日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として、事業の範囲を判定することは、一応合理的なものということができる。
 そして、上記イのとおり、本件事業が歯科技工所の経営であることは争いがないところ、平成5年10月改訂の日本標準産業分類は、この歯科技工所を大分類L−サービス業、中分類88−医療業に分類しているのであって、これによれば、本件事業はサービス業に該当し、製造業には該当しないことになる。
ハ なお、請求人は、材料を購入し、自己の責任と計算により義歯を作成し、これを納品しているのであるから、その作業工程からすれば、本件事業は、社会通念上、製造業というべきである旨主張する。
 しかしながら、歯科技工は、免許を受けた歯科技工士でなければ、業として行うことができないとされ、また、設計、作成の方法、使用材料等が記載された指示書によらなければならないとされるのは、これを行うには相当高度な専門知識、技能・技術が必要とされるためだけでなく、歯科技工士は歯科医師の補助者として、歯科医療行為の一環としてこれを行うことによるものであるから、たとえ請求人において材料を購入し、その技術を駆使して義歯を作成しているとしても、本件事業の本質は、歯科医師が患者に対してする医療行為と同様、専門的な知識、技能等を提供することにあるということができ、以上からすると、本件事業は、社会通念上もサービス業に該当すると解するのが相当であって、請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、本件事業は、製造業ではなく、サービス業に該当し、したがって、本件各課税期間に係る控除対象仕入税額は、消費税法第37条及び施行令第57条により、100分の60のみなし仕入率(平成9年3月期及び平成10年3月期について)、あるいは100分の50のみなし仕入率(平成11年3月期について)を適用して算出されるところ、これに基づき本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額を算出すると、
本件各更正処分の金額と同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各課税期間に係る本件各更正処分はいずれも適法であり、請求人の場合、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項及び地方税法附則第9条の9第1項の規定に基づきされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(3)その他

 原処分のその他の点については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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