ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.61 >> (平13.2.23裁決、裁決事例集No.61 682頁)

(平13.2.23裁決、裁決事例集No.61 682頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、繊維、食品、雑貨等の卸売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、課税仕入れに係る在庫品を契約の終了に伴い、仕入先に引き渡した場合において、当該課税仕入れに係る消費税額を、当該契約の終了の日を含む課税期間における課税仕入れ等の消費税額の合計額から控除することができるか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、F LTD.の日本支店(以下「F社」という。)から仕入れた商品の平成9年1月1日から平成9年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の末日における在庫品(以下「本件在庫品」という。)に係る消費税額は、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》に規定する課税仕入れに係る消費税額であるとして、当該課税期間の消費税額から、これを控除した上、同法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》及び地方税法附則第9条の5《譲渡割の申告の特例》の規定に基づき、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、これを法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、請求人は、本件在庫品を、本件課税期間内にF社に返品しているから、本件在庫品に係る消費税額は、本件課税期間の課税仕入れに係る消費税額に当たらないとして、消費税法第32条《仕入れに係る対価の返還等を受けた場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例》の規定に基づき、平成11年1月26日付で、別表の「更正処分等」欄のとおり、消費税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分に不服があるとして、平成11年3月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月11日付で棄却の異議決定をし、同月22日に異議決定書を請求人に送達した。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年7月21日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、F社と、1984年(昭和59年)4月13日付の「日本国内における○○○○○の販売代理店契約」と題する契約書及び平成2年7月15日付の確認書と題する書面により、F社の○○○○○商品の販売代理店契約(以下「本件代理店契約」という。)を締結し、これに基づき、同社から仕入れた当該商品を、日本国内において独占的に販売していたが、平成9年6月26日付で、F社から、本件代理店契約の解約通知(以下「本件解約通知」という。)を受けたことから、同年12月31日をもって、本件代理店契約は終了することとなった。本件代理店契約の「契約終了の際にはF社はG(請求人)がF社に対しての未払い分を差し引いたG○○○○○部の持つ在庫を“買い戻す”事を了承します。」の条項に基づき、本件在庫品は、F社に引き渡される(以下、同条項に基づく引渡しを、便宜上、「本件買戻し」という。)こととなった。
ロ 請求人は、本件在庫品を、H株式会社及び株式会社I等(以下、それぞれ「H社」、「I社」といい、その他の倉庫会社を併せて「本件倉庫会社」という。)の倉庫に保管して占有していたが、本件買戻しに当たり、本件倉庫会社に対し、平成9年12月末日をもって、本件在庫品をF社のために占有するよう指示する方法(指図による占有移転)によりこれを引き渡した。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由によりいずれも違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)支払対価の額に係る買掛金の減額について
 本件買戻しは、本件在庫品をF社に売り戻したのであって返品ではないのであるから、本件買戻しを本件在庫品の返品であるとして、その支払対価の額に係る買掛金の減額を受けたとしてなされた本件更正処分は違法である。
(ロ)支払対価の額に係る買掛金の減額を受けた時期について
 本件買戻しが返品であるとする原処分庁の立場に立ったとしても、本件在庫品の支払対価の額に係る買掛金の減額を受けた時期は、本件代理店契約の終期が平成9年12月31日の終了の時点であるから、この終期を経過した後、すなわち、本件課税期間の翌課税期間である平成10年1月1日午前零時以降というべきである(民法第141条の規定によれば、本件代理店契約は、平成9年12月31日午後12時までは有効であるが、同法第140条の規定によれば、本件買戻しの効力は、平成10年1月1日午前零時から生じることになる。)。
 そして、本件在庫品の引渡しは、〔1〕H社が、平成10年1月に、請求人に対して、平成9年12月31日付の本件在庫品に係る在庫証明書(以下「本件在庫証明書」という。)を発行していること、〔2〕請求人は、K相互会社(以下「K社」という。)が発行した「平成9年12月分輸入○○○○○商品に係る貨物保険料請求書」に記載されているとおり、本件代理店契約により仕入れた商品に係る保険料を、平成9年12月31日分まで支払っており、K社も、平成10年1月1日をもって本件在庫品の所有権がF社に移転したものと認識していること、〔3〕請求人は、仕入れた日から2か月を超える在庫品に係る倉庫料をF社が負担する旨の約定に基づき、平成9年12月31日の本件在庫品の倉庫料として同社から55,100,000円(以下「過剰在庫倉庫料」という。)の支払を受けていることに照らすと、平成10年1月1日午前零時以降に指図による占有移転の方法により引き渡されたものといえる。この点からしても、本件在庫品の課税仕入れに係る支払対価の額の返還を受けた日の属する課税期間は、本件課税期間の翌課税期間というべきである(請求人がH社に対して発行した1997年(平成9年)12月29日付の荷渡指図書(以下「本件荷渡指図書」という。)には、平成9年12月末日をもって、本件在庫品の所有権を、F社に移転する旨記載されているが、これは、本件在庫品を同日時点の状態で、F社に移転するよう求めたものであり、同日までに本件在庫品を引き渡すという趣旨のものではない。)。
 したがって、本件在庫品の支払対価の額に係る買掛金の返還を受けた日の属する課税期間が本件課税期間であるとしてなされた本件更正処分は、この点においても違法である。
(ハ)なお、請求人は本件課税期間内に本件在庫品に係る請求書等をF社に発行しておらず、このため、請求人と消費税の課税期間を同じくするF社は、消費税法第30条の規定により、その課税期間の消費税額から本件在庫品に係る消費税額を控除することができないことに照らすと、請求人においても、本件在庫品に係る消費税額の控除を受けられないというのは不合理というべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であるから、当該処分に基づいてなされた本件賦課決定処分も違法な処分であり、取り消されるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)支払対価の額に係る買掛金の減額について
 請求人は、本件買戻しに当たって、当初の仕入価格による支払対価の額に係る買掛金の減額を受けて、平成10年1月31日付で、売上勘定を増額することなく、商品勘定を減額させ、併せて課税仕入れに係る消費税の控除額を減額させる経理処理をしている。これは消費税法第32条第1項に規定する返品をしたことにより、その支払対価の額に係る買掛金の減額を受けた場合に当たるというべきであり、また、その返品は、次の(ロ)で述べるとおり、本件課税期間において行われたものであることから、本件課税期間における課税仕入れ等の消費税額から本件在庫品の課税仕入れに係る消費税額を控除する本件更正処分をしたものである。
(ロ)支払対価の額に係る買掛金の減額の時期について
 請求人は、H社が本件在庫証明書を発行していること、請求人が平成9年12月31日分までの商品に係る保険料を支払っていること、そして、請求人が、F社から過剰在庫倉庫料の支払を受けていることを理由に、本件在庫品は平成10年1月1日に指図による占有移転の方法により引き渡されたとして、本件在庫品の支払対価の額に係る買掛金の減額を受けた日は同日午前零時以降である旨主張する。
 しかしながら、本件代理店契約においては、当該契約が終了する場合、販売可能な在庫品は、F社が“買い戻す”旨定められ、また、本件荷渡指図書においては、請求人は、平成9年12月末日をもって、本件在庫品の所有権をF社に移転するとしているのであり、本件在庫品の支払対価の額に係る買掛金の減額の処理は、本件課税期間で行うべきである。
 なお、本件在庫証明書が平成9年12月31日付で発行されているからといって、本件買戻しが同日までに行われなかったと認められるものではないし、請求人は、本件代理店契約の終了まで、本件在庫品の所有権を有していたのであるから、同人がその保険料を負担し、過剰在庫倉庫料の支払を受けることは、むしろ当然であり、請求人の主張にはいずれも理由がない。

トップに戻る

3 判断

(1)本件更正処分について

イ 本件買戻しが返品であることについて
(イ)消費税法第32条は、事業者が、国内において行った課税仕入れにつき、返品をしたことにより、支払対価の額に係る買掛金の減額を受けた場合には、当該減額を受けた日の属する課税期間において、当該課税仕入れに係る消費税額の控除の特例を受ける旨規定するところ、原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件買戻しについて、上記1の(3)のイの事実のほか、次の事実を認めることができる。
A 本件代理店契約において、当初、当該契約が終了する場合、請求人がF社から仕入れた売却可能な状態にある在庫品を、特段の合意がない限り、F社が指定する者にF社の売値で再販売するとしていたが、その後、これを、F社が請求人から在庫品を“買い戻す”旨の約定に改めた。
B 本件代理店契約は、本件解約通知により、平成9年12月31日をもって終了することとなり、F社は、上記Aの約定に基づき、同社の売値と同額で本件在庫品について本件買戻しを行った。
C 請求人は、本件買戻しについて、その会計帳簿上、平成10年1月1日付で、商品勘定を4,385,087,307円減少させるとともに、未収入金勘定を同額増加させ、さらに、同月31日付で未収入金を4,385,087,307円及び仮払消費税を219,243,121円減少させ、その合計額相当額の買掛金を減少させる経理処理をした。
(ロ)請求人は、本件代理店契約に基づき、本件在庫品を売り戻したのであるから、本件買戻しは消費税法第32条第1項に規定する返品には該当しない旨主張するが、上記(イ)のとおり、本件買戻しは、本件代理店契約の約定に基づき、仕入価額と同額でなされたものであり、さらに、請求人も、これについて、本件在庫品を売上げに計上することなく、本件在庫品を商品勘定から減額するとともに、併せて、仮払消費税を減額する経理処理をしているのであるから、本件買戻しは、同項に規定する返品にほかならないと認められ、この点についての請求人の主張には理由がない。
ロ 支払対価の額に係る買掛金の減額を受けた時期が本件課税期間であることについて
(イ)上記イの(イ)のとおり、課税仕入れにつき、返品をしたことにより、支払対価の額に係る買掛金の減額を受けた場合には、当該減額を受けた日の属する課税期間において、仕入れに係る消費税額の控除の特例を受けることになるところ、本件買戻しにおいては、支払対価の額に係る買掛金の減額の時期も、また、本件在庫品の所有権の移転時期も具体的に定められていない。
 この減額を受けた時期については消費税法第28条《課税標準》第1項が、課税資産の譲渡等の対価の額について「収受し、又は収受すべき一切の金銭」と規定し、その課税期間の帰属について、権利確定主義を採用していることからすると、この減額を受けた時期についても、減額により当該債務(買掛金)が確定的に消滅した時を基準とすべきであり、具体的には減額に係る資産の引渡しにより、その所有権が移転した日と解し、その日の属する課税期間において、仕入れに係る消費税額の控除の特例を受けることになると解される。
(ロ)そこで、本件在庫品の所有権が移転した日について検討する。
 上記1の(3)のロのとおり、本件在庫品は指図による占有移転の方法により、F社に引き渡されているところ、この点について、請求人は、本件買戻しは、本件代理店契約の終了後に行われたものであるし、H社が本件在庫証明書を発行していること、請求人が平成9年12月31日分までの商品に係る保険料を支払っていること、そして、請求人が、F社から過剰在庫倉庫料の支払を受けていることなどからすれば、請求人、F社及びH社は、いずれも同日午後12時までは、本件在庫品は請求人の所有に係るものと認識し、請求人のために占有されていると認識していたことは明らかであるとして、本件在庫品が引き渡されたのは、平成10年1月1日午前零時以降である旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)のAのとおり、本件買戻しは、本件代理店契約の終了の際に、F社が、請求人から、在庫品を“買い戻す”というものであるから、当該契約の終了と同時に本件在庫品の数量は確定し、返還に係る支払対価の額も確定することに照らすと、本件買戻しが行われたのは、本件代理店契約の終了後と解するまでの必然性はない。また、本件在庫証明書が平成9年12月31日付で発行されたからといって、このことが本件買戻しが同日までに行われなかったことの証拠となるものではないし、請求人が、本件代理店契約の終了まで、本件在庫品の保険料を負担し、また、過剰在庫倉庫料の支払を受けることは、むしろ当然であって、これによっても、本件在庫品の引渡しが12月31日までに行われなかったといえるものではない。
 かえって、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、〔1〕請求人とF社は、平成9年8月、9月ころ、本件買戻しの時期について協議していること、〔2〕その際、請求人は、平成10年1月付で本件買戻しを行うことを求めたが、F社が、平成9年12月31日までの本件買戻しの完了を希望したことから、請求人もこれに合意し、同日までにこれを完了するよう準備を進め、1997年(平成9年)12月29日付で、平成9年12月31日をもって、本件在庫品の所有権をF社に移転する旨の本件荷渡指図書をH社に送付し、かつ、同趣旨の荷渡指図書をI社にも同日付で送付し(請求人は、本件荷渡指図書は、本件在庫品を同月31日時点の状態で、F社に移転するよう求めたものである旨主張するが、当該荷渡指図書の記載をこのように解する余地はなく、採用できない。)、結局、上記イの(イ)のCのとおりの経理処理をしたこと、〔3〕他方、F社においても、平成9年12月31日までに本件買戻しを完了するとの認識の下、同月27日の本件倉庫会社の業務終了時点における本件在庫品の数量を記載した本件在庫証明書に基づき経理処理をしたことが認められる。
 これらの事実に照らすと、本件在庫品は、本件課税期間中である平成9年12月31日をもって、F社に引き渡されたものと解するのが相当であり、したがって、本件在庫品の支払対価の額に係る買掛金の減額を受けた日の属する課税期間は、本件課税期間と認められる。
(ハ)なお、請求人は、同人と消費税の課税期間を同じくするF社において、当該期間の消費税額から、本件在庫品に係る消費税額を控除することができないのであるから、請求人においても、本件在庫品に係る消費税額の控除を受けられないのは不合理である旨の主張もするが、F社における会計処理の当否が本件争点の判断を左右するものではないのであって、この点についての請求人の主張には理由がない。
(ニ)以上のとおり、本件在庫品は、本件買戻しにより返品され、この返品をしたことにより、平成9年12月31日に支払対価の額に係る買掛金の減額を受けたというべきであるから、同日の属する本件課税期間において、当該減額に係る消費税額を課税仕入れに係る消費税額の合計額から控除してなされた本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る