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(平13.3.8裁決、裁決事例集No.61 705頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、建物の所有権保存登記に係る登録免許税の課税標準たる当該建物の価額が争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成11年5月25日、別表記載の建物(以下「本件建物」という。)について、登記の目的を所有権保存、課税標準の額を1,489,691,000円、登録免許税の額を8,938,100円と記載し、当該登録免許税の額に相当する金額の印紙をちょう付した登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)を提出して、所有権保存登記(以下「本件登記」という。)を受け、登録免許税を納付した。
ロ その後、請求人は、平成12年1月26日、原処分庁に対し、登録免許税の還付通知の請求書に、本件登記に係る課税標準の額を1,306,914,000円、登録免許税の額を7,841,400円と記載し、先に納付した税額との差額1,096,700円について、所轄税務署長に還付通知すべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をしたが、原処分庁は、同年2月1日付で、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成12年3月23日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、これを認めることができる。
イ 本件建物は、本件登記の申請の日である平成11年5月25日において、地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に規定する固定資産課税台帳に登録された価格(以下「台帳価格」という。)のない不動産である。
ロ なお、本件建物に係る不動産取得税の課税標準の額は、1,306,914,000円である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 請求人は、昭和60年2月28日付1不登4第151号A法務局民事行政部長依命通達「不動産登記法の登録免許税課税標準価格の認定基準」(平成12年3月1日付通達による改正前のもの。以下、この依命通達に係る基準を「本件認定基準」といい、改正後のものを「新認定基準」という。)に基づき、課税標準の額を1,489,691,000円と、登録免許税の額を8,938,100円と算定して、同額を納付した。
ロ しかしながら、上記イの認定基準は、社会情勢に応じ毎年改正されるものではないから、本件認定基準によって算定された本件建物の価額をその適正な時価であるということはできない。
 現に、本件認定基準による課税標準の額1,489,691,000円は、本件建物に係る不動産取得税の課税標準の額(1,306,914,000円)とも、当該建物の建築工事請負代金(1,340,000,000円)とも、あるいは新認定基準に基づき算定した課税標準の額(1,330,225,000円)とも異なっている。
 登録免許税の課税標準たる本件建物の価額は、不動産取得税の課税標準の額(1,306,914,000円)というべきであり、その登録免許税の額は7,841,400円となるから、納付に係る8,938,100円との差額1,096,700円は過誤納となる。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件建物は、本件登記の申請の日において台帳価格のない不動産であるから、登録免許税の課税標準たる本件建物の価額は、当該建物に類似する建物の台帳価格を基礎として、登記機関が認定した価額となる(登録免許税法施行令附則第3項)。
 ところで、上記の認定について、膨大な登記事務の迅速、かつ、公平な処理のため、本件認定基準が定められているところ、この基準によれば、本件建物の価額は1,489,691,000円と、登録免許税の額は8,938,100円となり、これは本件登記申請書の記載と同額であるから、登録免許税の過誤納はなく、本件還付通知請求に対し、還付通知をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。
ロ 請求人は、本件認定基準によることはできないとして、不動産取得税の課税標準の額を本件建物の価額とすべきである旨主張するが、本件建物は、本件登記の申請の日において台帳価格のない不動産であり、この場合の本件建物の価額は、当該建物に類似する建物の台帳価格を基礎として、登記機関が認定した価額であることは、上記イのとおりである。
 地方税法第73条の21《不動産の価格の決定等》第2項は、固定資産評価基準によって不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定する旨規定し、その課税標準の額の算定の方法は、登録免許税の場合と異なっているのであって、不動産取得税の課税標準の額を登録免許税の課税標準たる本件建物の価額とすることはできない。
ハ なお、請求人は、本件認定基準による本件建物の価額は、本件建物の建築工事請負代金とも、新認定基準により算定した課税標準の額とも異なる旨主張するが、台帳価格のない不動産の価額は、これに類似する不動産の台帳価格を基礎として登記機関が認定した価額であり、これは必ずしも不動産の客観的な時価と一致するものではないから、登録免許税の課税標準たる本件建物の価額が実際の建築工事請負代金や他の算定方法による価額と異なっていても、このことから直ちに本件登記に係る登録免許税の納付が過誤納となるものではない。

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3 判断

(1)関係規定

 登録免許税法第9条《課税標準及び税率》及び同法別表第一第1号の(一)は、所有権の保存の登記に係る登録免許税の課税標準は不動産の価額による旨、同法第10条《不動産等の価額》第1項は、この不動産の価額は、当該登記の時における不動産の価額による旨、また、登録免許税法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》は、この不動産の価額は、台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨、そして、これを受けた登録免許税法施行令附則第3項第2号は、上記政令で定める価額は、登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内である場合、台帳価格のない不動産については、当該不動産に類似する不動産のその年の1月1日現在における台帳価格を基礎として登記機関が認定した価額とする旨規定する。

(2)課税標準等

イ 本件建物は平成11年3月12日に新築されたもので、本件登記の申請の日である同年5月25日において台帳価格がなかったのであるから、上記(1)のとおり、本件建物の価額は、当該建物に類似する建物の同年1月1日現在における台帳価格を基礎として登記機関が認定した価額となる。
 この点、原処分庁は、本件認定基準に基づいて、本件建物の価額を1,489,691,000円と認定しているが、当該基準は、大量の登記事務を迅速に処理し、建物の価額を公平に算定するために定められたもので、納税者にも公開され、現に広く利用されているとはいうものの、もともと一般的な建物について適用されることを前提に、建物の構造、種類の区分ごとに、画一的にその基準となる単価を定めているものにすぎない。
 当審判所の調査の結果によれば、本件建物は、鉄骨造りの駐車場と一体となった地下1階付の賃貸用の大型店舗で、店舗部分は間仕切りのないワンフロア形式となっている上、本件建物内のエレベーター、エスカレーター、電気設備及び内装等がテナントの所有とされ、その構造は鉄骨及び鉄筋とALC版からなる簡易なものであることが認められ、このような特殊な建物についてなされた本件認定基準に基づく認定を、本件建物と類似する建物の台帳価格を基礎として登記機関が認定した価額ということはできない。
ロ そこで、本件建物の価額について検討する。
(イ)本件建物(延床面積17,742.75平方メートル)は、上記イのとおり、〔1〕平成11年3月12日に新築された賃貸用の大型店舗で、1階及び地下1階部分が間仕切りのないワンフロア形式の店舗(鉄骨及び鉄筋コンクリート造り)、その他の部分は駐車場(鉄骨造り)であり、〔2〕エレベーター、エスカレーター、電気設備及び内装等の施設はテナント(いわゆるディスカウントストア)の所有とされているものである。
 当審判所の調査の結果によれば、平成11年1月1日現在における台帳価格のある建物のうち、本件建物と同じ設計事務所及び工事請負業者により平成10年11月4日に新築された賃貸用の大型店舗(延床面積11,242.83平方メートル。以下「本件基準建物」という。)は、その建築時期が本件建物と近接している上、その1階及び地下1階部分がワンフロア形式の店舗(鉄骨及び鉄筋コンクリート造り)で、その他の部分が駐車場(鉄骨造り)となっているなど、建物の種類、構造も同一で、エレベーター等の施設がテナント(ディスカウントストア)の所有とされている点まで本件建物と同じであることが認められ、本件基準建物を本件建物に類似する建物として、その台帳を基礎に本件建物の価額を算定するのが相当である。
(ロ)本件基準建物の平成11年1月1日現在における台帳価格は900,684,000円であるところ、当審判所の調査の結果により認められた当該建物の建築工事請負代金を基に店舗部分及び駐車場部分に相当する台帳価格を算定すると、店舗部分については593,920,225円(1平方メートル当たり80,026円)、駐車場部分については306,763,775円(1平方メートル当たり77,544円)となる。そして、本件建物の店舗部分の面積は合計7,742.91平方メートル、駐車場部分の面積は合計10,339.61平方メートルであるから、結局、本件建物の価額は1,421,408,000円(国税通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》の規定により1,000円未満の端数を切り捨てた金額)とするのが相当であり、この場合の登録免許税の金額は8,528,400円となる。
ハ 請求人は、本件建物の建築工事請負代金や新認定基準等に基づく算定額からすると、不動産取得税の課税標準の額をもって本件建物の価額とすべきである旨主張するが、本件建物は台帳価格のない建物であるから、本件建物の価額は、当該建物に類似する建物の台帳価格を基礎として登記機関が認定した価額であることは、上記(1)のとおりであって、この点についての請求人の主張には理由がない。
 なお、上記ロの(ロ)の本件建物の価額は、請求人の主張する本件建物の建築工事請負代金(1,340,000,000円)を上回るものであるが、当審判所の調査の結果によれば、当該建築工事請負代金は、消費税やその他請求人の負担となる費用を除いたもので、本来の金額は、上記ロの(ロ)の金額をむしろ上回るものと認められる。
ニ 以上のとおり、本件登記に係る課税標準の金額は1,421,408,000円、登録免許税の額は8,528,400円となり、8,938,100円に相当する金額の印紙をちょう付した本件登記申請書を提出してなされた納付は、8,528,400円を超える部分について過誤納といえ、この部分について還付通知をすべきである。
 したがって、全部について還付通知をすべき理由がないとした本件通知処分はその限りにおいて違法であるから、その一部を取り消すべきである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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