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(平13.3.7裁決、裁決事例集No.61 713頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が共同抵当権の設定登記をして納付した登録免許税に登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項に規定する過誤納があるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、別紙物件目録1及び2に記載の物件(以下「本件物件」という。)の抵当権設定登記申請(以下「本件登記申請」という。)に係る登録免許税について、登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)に、課税標準の額を500,000,000円及び登録免許税の額を2,000,000円(以下「本件登録免許税」という。)と記載し、その税額に相当する金額の収入印紙を本件登記申請書に貼付の上、これをA法務局B出張所に提出することにより平成11年8月2日に納付した。
 その後、請求人は、平成11年12月28日に本件物件の抵当権について、錯誤を登記原因として更正登記の申請(以下「本件更正登記申請」という。)をし、その旨の登記手続がされたので、平成12年8月2日に原処分庁に対し、登録免許税の還付通知請求書に追加担保の設定登記に係る登録免許税の額を3,000円と記載し、先に納付した税額との差額1,997,000円につき所轄税務署長に対し還付通知をすべきである旨の請求をしたところ、原処分庁は同月15日付で当該還付通知請求に対して、還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成12年10月13日に審査請求した。

(3)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成11年8月2日、司法書士Cを代理人として、本件物件につき、平成11年7月1日に登記原因を金銭消費貸借同日設定とし、債務者を株式会社D、抵当権者をE銀行・取扱店F支店(以下「E銀行」という。)、設定者を請求人、債権額を500,000,000円とする共同抵当権の設定登記である本件登記申請を行い、同申請は平成11年8月2日受付番号第12345号をもって受理され、登記手続は完了(共同担保目録(す)第4321号。以下、この登記を「本件登記」という。)した。
ロ 請求人は、同日、同代理人をして、別紙物件目録3記載の物件につき、登記原因、債務者、抵当権者及び債権額を本件登記申請と同じくし、設定者を株式会社Gとする共同抵当権の設定登記申請を行い、同申請は、同日、受付番号第12344号をもって受理され、登記手続は完了(共同担保目録(す)第4320号。以下、この登記を「12344号登記」という。)した。
ハ 請求人は、平成11年12月28日、本件物件について、12344号登記の抵当権の追加担保として共同担保目録(す)第4320号への追加を申請すべきであったところ、独立の共同抵当権の設定登記をしたため、錯誤を登記原因として、登記権利者をH銀行(E銀行から平成○年○月○日に承継したもの)、登記義務者を請求人として、本件登記について本件更正登記申請を行い、同申請は、同日、受付番号第22222号をもって受理され、登記手続は完了(12344号登記の共同担保目録(す)第4320号に本件物件を追加)した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 請求人は、本件登記申請において、12344号登記の追加担保の設定登記(共同担保目録(す)第4320号に追加)として申請すべきところ、独立の共同抵当権の設定登記を申請したため、錯誤を原因として本件更正登記申請をしたものであり、本件登録免許税は、登録免許税法第31条第2項に規定する過誤納に当たる。
 また、経験豊富な登記官としては、本件登記申請を独立の抵当権の設定ではなく、追加担保の設定であることを看破できたはずである。
ロ B出張所の登記官は、当初、共同担保目録の更正、変更は一切認められないとして、更正登記申請を受理しないという立場をとっていたが、その後、見解を改め、本件更正登記申請を受理した。
 このように、登記官が本件更正登記申請を受理したことは、本件登記申請について錯誤があり、登録免許税が過誤納されたことを原処分庁において認めたことになる。
 また、原処分庁が主張するように過誤納がないというならば、登記官は本件登記申請の有効を前提として、共同担保目録の変更登記をするか、本件登記申請の第12345号登記を抹消して新たな追加担保の設定申請を求めるべきであったのに、そうしていない。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件登記申請は、登記権利者であるE銀行と登記義務者である請求人により共同申請されたものであるが、当該申請は、不動産登記法第26条第1項に規定する共同申請の体をなすとともに、本件登記申請書は同法第117条第1項及び同法第119条に規定する所定の記載事項が記載され、登録免許税の課税標準及び税額に誤りがなく、かつ、その他の同法第49条各号に掲げる却下事由も存しなかったことから、原処分庁は本件登記申請の登記手続を完了したものである。
 したがって、本件登録免許税は、登録免許税法に基づいて適法に納付されたものであるから、登録免許税法第31条第2項に規定する過誤納に該当しないことは明らかである。
ロ また、請求人は、登記官が本件更正登記申請を受理したことをもって、本件登録免許税に過誤納が存する旨主張するが、本件更正登記申請の登記原因である錯誤は、登記権利者ないし登記義務者が自ら申請を誤ったもので、登記官の審査権限に起因するものではなく、本件登記申請は、申請当時、独立した抵当権設定登記として適法になされたものであるから、その後、更正登記申請が受理されても、本件登記申請につき登録免許税の過誤納があった場合には当たらない。
ハ 以上のとおり、本件登録免許税は、登録免許税法に基づき適法に納付され、本件登記申請時に確定したものであるから、登録免許税法第31条第2項の規定する過誤納には該当しないものであり、原処分に何ら違法はない。

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3 判断

 本件審査請求は、登録免許税法第31条第2項に規定する過誤納があるか否かに争いがあるので以下審理する。
(1)国税通則法(以下「通則法」という。)第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第12号は、登録免許税の納税義務は、登記、登録、特許、免許、許可、認可、指定又は技能証明の時に成立し、また、同条第3項第5号において、納税義務の成立と同時に特別の手続きを要しないで納付すべき税額が確定する旨各々規定している。
(2)そして、登録免許税法第31条第2項は、登記等を受けた者は、当該登記の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときは、その旨を登記機関に申し出て、同条第1項に規定する通知をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
(3)ところで、登録免許税は、いわゆる流通税の一種であり、登記、登録等を担税力の間接的表現としてとらえ、それを課税の対象とする租税であり、登記の時点をとらえ、登記をしたという行為に画一的に課されるものである。
 一方、不動産登記手続は、原則として、当事者(登記権利者及び登記義務者)の共同申請に基づき、これを登記官が受理してなされるものであり、その際、登記官は、不動産登記法第49条各号に掲げる事項に関するいわゆる形式的審査権を有するにすぎず、当該申請が実体関係と符号しているか否かを審査する実体的な審査権まではないと解される。
 したがって、いったん登記がされると、同法第49条各号規定の却下事由がない限り、実体とそごしていたとしても、それゆえに当該登記が当然に無効となるものではなく、まして、当該登記をしたという行為自体が登記の時点に遡及して消滅するものではないと解される。
 そうすると、登録免許税の課税標準及び税額についての計算に誤りがなく、ひとたび適法に登記を了し目的を達したときは、その登記を受けた者の納税義務は確定し、その後、当該物権について抹消、変更、更正登記がされても、いったん確定した登録免許税の課税標準及び税額は何ら影響を受けるものではないと解されるから、その者が当初納付した登録免許税は、登録免許税法第31条第2項に規定する過誤納に該当しないと解される。
(4)これを本件についてみると、次のとおりである。
イ 前記基礎事実及び原処分関係資料によれば、本件登記申請に際して納付された本件登録免許税は、登録免許税法第9条《課税標準及び税率》の規定に基づいて正当に税額の計算が行われていること、また、本件登記申請には不動産登記法第49条各号に該当する却下事由があると認めるに足りる証拠はなく、適法に申請されて受理されたもので、請求人はその申請どおりの登記を受けたことが認められる。
 したがって、請求人がいったん本件登記を受けた以上、その後に本件更正登記申請をしても、それまでの間、本件物件に特定の債権を担保する抵当権を設定した旨公示する目的は達せられており、通則法第15条に規定された請求人の納税義務は登記完了と同時に確定している。
ロ 請求人は、本件更正登記申請において、登記官が登記原因を錯誤として本件更正登記申請を受理したことは、本件登録免許税が過誤納されたことを認めたことになる旨主張する。
 しかしながら、登記官においては、その形式的審査権による審査の結果に基づき、請求人の本件更正登記申請に形式的な無効原因がないため、その申請書記載の登記原因をそのまま認容したに過ぎないと認められるから、本件更正登記申請が受理されたことをもって、本件登記申請時に遡及して、本件登記申請行為及び本件登記を受けたこと自体が変更され、登録免許税の額が変更(減額)されるものでなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、本件登録免許税に過誤納は認められないから、原処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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