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(平13.1.24裁決、裁決事例集No.61 735頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、預託金会員制ゴルフ会員権が差し押さえられた後、当該ゴルフ会員権に関する入会保証金証書を占有する審査請求人(以下「請求人」という。)に対してされた引渡命令処分の手続が適法であったか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、P市Q町7番29号の納税者A(以下「本件滞納者」という。)に係る別表1の滞納国税を徴収するため、平成11年4月2日付で本件滞納者が所有する別表2のBカントリークラブに係る預託金会員制ゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)を差し押さえた(以下「本件差押処分」という。)。
ロ その後、原処分庁は、平成11年11月25日付で、本件ゴルフ会員権に関する入会保証金証書(以下「本件会員証書」という。)を占有している請求人に対して、本件会員証書の引渡しを命令した(以下「本件引渡命令処分」という。)。
ハ 請求人は、本件引渡命令処分を不服として平成12年1月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年3月22日付で棄却の異議決定をした。
ニ そこで、請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年4月17日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件ゴルフ会員権は、Bカントリークラブの理事会において入会申込みが承認された後、本件滞納者が同クラブの経営会社であるC株式会社(以下「本件ゴルフ場経営会社」という。)に入会保証金を預託しているものであり、いわゆる預託金会員制のゴルフ会員権である。
ロ 上記イのゴルフ会員権を所有する者は、ゴルフ場の施設を優先的に利用し得る権利及び年会費を支払う義務を有し、また、入会に際して預託した入会保証金を一定の据置期間経過後、退会とともに返還請求することができる。
 また、当該ゴルフ会員権は、上記イの理事会の承認を得て他に譲渡することができる。
ハ 本件ゴルフ会員権に関する入会保証金は2,600,000円である。
ニ 請求人と本件滞納者との間では、平成7年11月9日付でゴルフ会員権譲渡担保契約書(以下、この契約を「本件譲渡担保契約」という。)が取り交わされており、当該契約書には、債務者(本件滞納者)は、同日付の債務保証委託契約に伴う担保として、本件ゴルフ会員権を請求人に譲渡する旨記載されている。
ホ 本件滞納者は、本件ゴルフ会員権を平成7年11月9日付で請求人に譲渡した旨、平成11年4月13日付内容証明郵便により本件ゴルフ場経営会社あてに通知している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 本件引渡命令処分について
(イ)本件ゴルフ会員権は、請求人が本件滞納者から譲り受けた財産である。
 したがって、請求人は、国税徴収法第58条《第三者が占有する動産等の差押手続》に規定する滞納者の財産を占有する第三者には当たらないことから、本件引渡命令処分は違法である。
(ロ)さらに、国税徴収法第65条《債権証書の取上げ》に規定する債権証書の取上げができる場合とは、債権の差押えのため必要があるときであるところ、本件引渡命令処分がされた当時既に本件差押処分がされていたのであるから、差押えのため必要があったとはいえず、本件引渡命令処分は違法である。
ロ 本件差押処分について
 また、そもそも本件ゴルフ会員権は、本件譲渡担保契約に基づき、請求人が本件滞納者から譲り受けた譲渡担保財産であるので、請求人に対しては国税徴収法第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》第4項に規定する告知がされなければならないにもかかわらず、原処分庁はこれをしていないことから、本件差押処分は、次の理由により違法であり、本件差押処分を前提としてされた本件引渡命令処分も違法である。
(イ)国税徴収法は、租税債権と私債権(例えば、譲渡担保に係る債権)の優劣について規定しているが、その優劣の判断は、あくまでも租税債権の法定納期限等と譲渡担保権の設定日との先後によって決定されるのであり、譲渡担保権における対抗要件の有無は、譲渡担保権の設定日の証明の問題にすぎない。
 そして、本件ゴルフ会員権には請求人の譲渡担保権が設定されているのであるから、原処分庁は、本件ゴルフ会員権を本件滞納者の固有の財産として、滞納処分をすることはできない。
(ロ)請求人には、国税徴収法第24条第4項に規定する告知があって初めて、同法第15条《法定納期限等以前に設定された質権の優先》第2項に規定する担保権設定の事実の証明をすることで、第二次納税義務を免れるための弁明の機会が与えられるところ、原処分庁は、本件ゴルフ会員権に請求人の譲渡担保権が設定されていることを知った以上、同法第24条第4項に規定する告知の手続を行わなければならない。
 この機会を奪う本件差押処分は、租税徴収の適正な手続を逸脱した行為である。
ハ 滞納処分に係る不作為の存否について
 本件差押処分は、滞納発生後4年間の不作為期間の後にされたものであるから、次の理由により違法であり、本件差押処分を前提としてされた本件引渡命令処分も違法である。
(イ)税務当局は、滞納税額を徴収するために必要である限り、いつでも、滞納者の財産を差し押さえることができるとはいえず、その必要性について、適正かつ合理的な判断を示すべきである。
(ロ)本件ゴルフ会員権の相場は相当下がってきているが、早期に滞納処分をしておれば、滞納税額の全額を徴収することができたものである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件引渡命令処分について
(イ)請求人は、後記ロのとおり、本件譲渡担保契約に基づく本件ゴルフ会員権の譲渡をもって、差押債権者である原処分庁に対抗することができない。したがって、原処分庁は、占有する権原のない第三者である請求人に対して、その占有に係る本件会員証書の引渡しを命令したものであり、本件引渡命令処分は適法である。
(ロ)また、債権証書の取上げができる場合として国税徴収法第65条に規定する「債権の差押えのため必要があるとき」には、債権の差押えをしようとする場合において、その債権の存否及びその内容の確認のため必要と認められるときのほか、その債権の取立て、換価、権利の移転及び配当等のため必要と認められるときも含まれると解されている。
 したがって、本件差押処分の後にした本件引渡命令処分も適法である。
ロ 本件差押処分について
(イ)請求人が、本件ゴルフ会員権の譲渡をもって、第三債務者である本件ゴルフ場経営会社以外の第三者に対抗するためには、民法第467条に規定する指名債権の譲渡の場合に準じて、譲渡人(本件滞納者)が確定日付のある証書によりこれを本件ゴルフ場経営会社に通知し、又は本件ゴルフ場経営会社が確定日付のある証書によりこれを承諾することを要することとされている。
(ロ)ところで、原処分庁が本件差押処分に係る差押通知書を第三債務者である本件ゴルフ場経営会社あてに送達したのは、平成11年4月2日であり、本件滞納者が本件ゴルフ会員権を請求人に譲渡した旨確定日付のある証書により本件ゴルフ場経営会社あてに通知したのは、同月13日である。
 そうすると、請求人の第三者に対する対抗要件を備えた日は、本件差押処分よりも遅れたものであることは明らかである。
(ハ)したがって、請求人は、本件譲渡担保契約に基づき本件ゴルフ会員権の譲渡を受けたことをもって、差押債権者である原処分庁に対抗することができないこととなるから、原処分庁は、請求人に対して国税徴収法第24条第4項に規定する告知をする必要はない。
ハ 滞納処分に係る不作為の存否について
 徴収職員が滞納税額を徴収するに当たって、滞納者の所有に属する財産のうちいかなる財産を差し押さえるかは、徴収職員の合理的裁量にゆだねられている。
 また、徴収職員は、滞納税額を徴収するために相当である限り、いつでも、滞納税額を徴収するに足りる滞納者の財産を差し押さえることができるとされており、さらに、いったん差し押さえた後に、当該差押財産をもってしては滞納税額を徴収する見込みがないと認められる場合には、滞納者の別の財産を差し押さえることができるとされていることから、本件差押処分は違法ではない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件会員証書を占有する請求人に対する引渡命令処分が適法か否かにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件滞納者は、D銀行との間で平成7年11月9日付で金銭消費貸借契約(○○○○ローン)を締結し、最終返済期日を平成12年10月27日として2,400,000円を借り受けた。
ロ また、上記イの契約と同時に、本件滞納者と請求人とは平成7年11月9日付で保証委託契約及び本件譲渡担保契約を締結し、請求人は、本件滞納者の借入金について、D銀行に対して連帯保証をするとともに、その担保として、本件滞納者から本件ゴルフ会員権の譲渡を受け、本件会員証書の交付を受けた。
ハ その後、本件滞納者は、平成11年3月28日返済分を遅滞した。
ニ そこで、D銀行は、上記ロの保証委託契約に基づき、平成11年4月21日付で請求人に対して保証債務の履行を請求し、請求人は、この請求に基づき同月30日に822,433円の代位弁済を行った。

(2)本件引渡命令処分について

 請求人は、〔1〕本件ゴルフ会員権は、請求人が本件滞納者から譲り受けた財産であるから、請求人は国税徴収法第58条に規定する滞納者の財産を占有する第三者には当たらないこと、また、〔2〕同法第65条に規定する債権証書の取上げができる場合とは、債権の差押えのため必要があるときであるが、本件引渡命令処分がされた当時既に本件差押処分がされていたのであるから、差押えのため必要があったとはいえず、本件引渡命令処分は違法である旨主張するが、以下のとおり、これらの点に関する請求人の主張には理由がなく、本件引渡命令処分は適法である。
イ 後記(3)のとおり、本件譲渡担保契約に基づく本件ゴルフ会員権の譲渡は、本件ゴルフ場経営会社以外の第三者である差押債権者たる原処分庁に対抗することができず、本件差押処分時における本件ゴルフ会員権は、本件滞納者に帰属するから、本件会員証書を占有する請求人は、国税徴収法第58条に規定する滞納者の親族その他の特殊関係者以外の第三者に該当する。
ロ また、国税徴収法第65条に規定する債権証書の取上げができる場合の「差押えのため必要があるとき」には、債権の差押えをしようとする場合において、その債権の存否、債権の数額の確認等のため必要と認められるときのほか、その債権の取立て、換価、権利の移転及び配当等のため必要と認められるときも含まれると解される。
 そして、原処分庁は、本件会員証書が本件滞納者の滞納国税を徴収するため必要であるとしてこれを取り上げるため本件引渡命令処分をしたものであり、本件引渡命令処分は国税徴収法第73条《電話加入権等の差押の手続及び効力発生時期》第5項及び同法第65条によって準用される同法第58条第2項の規定に基づき適正にされていると認められる。

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(3)本件差押処分について

 また、請求人は、本件引渡命令処分の前提となる本件差押処分について、本件ゴルフ会員権が本件譲渡担保契約に基づき本件滞納者から譲り受けた譲渡担保財産であるので、請求人に対しては国税徴収法第24条第4項に規定する告知がされなければならないにもかかわらず、原処分庁はこれをしていないことから、本件差押処分は違法である旨主張するが、以下のとおり、この点に関する請求人の主張には理由がなく、本件差押処分は適法である。
イ 預託金会員制ゴルフ会員権に関する預託金の証書は、一般に証書上に指図文句の記載がなく、権利移転には証書の交付だけでなくゴルフ場経営会社の譲渡承認等の一連の手続が必要であることなどから、その法的性質は、有価証券ではなく単なる証拠証券であると解される(昭和57年6月24日最高裁第一小法廷判決参照)。
ロ また、預託金会員制ゴルフ会員権の譲渡については、当該譲渡をもってゴルフ場経営会社以外の第三者に対抗するためには、民法第467条に規定する指名債権の譲渡の場合に準じて、譲渡人が確定日付のある証書によりこれをゴルフ場経営会社に通知し、又はゴルフ場経営会社が確定日付のある証書によりこれを承諾することを要すると解するのが相当である(平成8年7月12日最高裁第二小法廷判決参照)。
ハ ところで、本件については、上記1の(2)のイ及び(3)のホのとおり、本件差押処分は、平成11年4月2日にされており、本件滞納者が本件ゴルフ会員権を請求人に譲渡した旨確定日付のある証書により本件ゴルフ場経営会社に通知したのは、同月13日であることが認められる。
ニ したがって、請求人は本件譲渡担保契約に基づく譲渡担保権の設定をもって原処分庁に対抗することができず、本件ゴルフ会員権には国税徴収法第24条は適用されないことから、原処分庁は、同条第4項に規定する告知をする必要はないというべきである。

(4)滞納処分に係る不作為の存否について

 なお、請求人は、本件差押処分が滞納発生後4年間の不作為期間の後にされた違法な処分である旨主張するが、以下のとおり、この点に関する請求人の主張には理由がなく、本件差押処分は適法である。
イ 税務当局が滞納処分をするに当たって、滞納者の所有に属する財産のうちいかなる財産を差し押さえるかは、徴収職員の合理的裁量にゆだねられており、また、滞納税額を徴収するために相当である限り、いつでも、滞納税額に足りる滞納者の財産を差し押さえることができることとされている。
ロ 当審判所の調査によれば、原処分庁は、本件滞納者に係る滞納国税の発生後、本件滞納者に対して継続して滞納処分をしていることが認められ、さらに、本件差押処分は、原処分庁所属の徴収職員が平成11年4月2日に本件ゴルフ場経営会社に赴いたところ、本件滞納者が本件ゴルフ会員権を所有する事実を把握したため、直ちにされたものであることが認められる。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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