ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.63 >> (平14.3.13裁決、裁決事例集No.63 1頁)

(平14.3.13裁決、裁決事例集No.63 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、法人税法施行規則に定める別表(以下「法人税申告書別表」という。)一(一)の「翌期へ繰り越す欠損金又は災害損失金」欄(以下「翌期繰越欠損金欄」という。)の記載金額そのものが、更正処分の対象となるか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、理化学機械器具の製造業を営む同族会社であるが、平成9年5月1日から平成10年4月30日まで、平成10年5月1日から平成11年4月30日まで及び平成11年5月1日から平成12年4月30日までの各事業年度(以下、順次「平成10年4月期」、「平成11年4月期」及び「平成12年4月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書にそれぞれ別表の「申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年3月27日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年5月9日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成5年5月1日から平成6年4月30日までの事業年度(以下「平成6年4月期」という。)の法人税の確定申告書に、欠損金額○○○円、翌期ヘ繰り越す欠損金(以下「翌期繰越欠損金」という。)の額111,838,474円と記載して、平成6年6月22日に申告した。
 その後、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、平成6年4月期について、所得金額○○○円、当該事業年度において損金の額に算入した繰越欠損金の当期控除額(以下「繰越欠損金の当期控除額」という。)17,495,615円、翌期繰越欠損金の額○○○円と記載した修正申告書を平成6年9月22日に提出した。
ロ 次いで、請求人は、平成6年5月1日から平成7年4月30日までの事業年度(以下「平成7年4月期」という。)の法人税の確定申告書に、欠損金額○○○円、翌期繰越欠損金の額218,972,693円と記載して、平成7年6月27日に申告した。
 なお、平成7年4月期の法人税の確定申告書に記載された翌期繰越欠損金の額218,972,693円は記載誤りで、本来記載すべき翌期繰越欠損金の額は44,576,555円であり、174,396,138円が過大に記載(以下「本件過大記載金額」という。)されている。
ハ 請求人は、上記ロの翌期繰越欠損金の額218,972,693円を基にして、〔1〕平成7年5月1日から平成8年4月30日までの事業年度(以下「平成8年4月期」という。)において77,898,713円、〔2〕平成8年5月1日から平成9年4月30日までの事業年度(以下「平成9年4月期」という。)において37,317,703円、〔3〕平成10年4月期において17,577,928円、〔4〕平成11年4月期において11,885,414円、及び〔5〕平成12年4月期において11,771,045円をそれぞれ繰越欠損金の当期控除額として損金の額に算入した。
ニ 原処分庁は、これに対し、本件各事業年度について請求人には前期から繰り越された欠損金額はないとして、本件各更正処分をした。
 なお、請求人には、平成8年4月期から平成12年4月期までの各事業年度において、欠損金額は生じていない。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、原処分の一部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、平成10年4月期において、前期から繰り越された欠損金額103,756,277円はないとして、繰越欠損金の当期控除額17,577,928円を所得金額に加算する更正処分をした。
 同様の理由により、平成11年4月期の繰越欠損金の当期控除額11,885,414円、平成12年4月期の繰越欠損金の当期控除額11,771,045円を所得金額に加算する更正処分をした。
ロ しかしながら、原処分庁がないとした平成10年4月期の前期から繰り越された欠損金額103,756,277円は、平成7年4月期及びそれ以前の事業年度において生じた欠損金額であり、かつ、請求人は欠損金額の生じた事業年度以前から青色申告書を提出している法人で、その青色の確定申告書において法の定めるところにより順次繰り越されている欠損金額である。
ハ 国税通則法(以下「通則法」という。)第2条《定義》第6号ハに規定する純損失等の金額で前事業年度以前に生じたものは、その生じた事業年度において正当な金額に更正する必要があるから、その純損失等の生じた事業年度について更正の除斥期間(通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第2項第3号)の5年が経過していれば、たとえその純損失等の金額が誤ったものであっても更正できず、すでに確定した金額であるから、翌期以降の事業年度において欠損金額として控除できるものである。
ニ 法人税申告書別表一(一)の翌期繰越欠損金欄の金額は、更正処分の対象となる純損失等の金額であり、平成7年4月期の法人税申告書別表一(一)の翌期繰越欠損金欄に記載した218,972,693円は、更正されておらず、かつ、更正の除斥期間が経過して確定したものであるから、翌期以降の事業年度において前期から繰り越された欠損金額として控除できるものである。
ホ 以上のことから、本件各事業年度において前期から繰り越された欠損金額はないとした本件各更正処分は違法であるから、繰越欠損金の当期控除額の過大額に係る部分の取消しを求める。
 なお、その他の部分については争わない。
へ 本件各賦課決定処分について
 上記ホのとおり、本件各更正処分は違法であり、繰越欠損金の当期控除額の過大額に係る部分を取り消すべきであるから、これに伴い本件各賦課決定処分の一部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 関係法令の規定について
(イ)通則法第24条《更正》は、「税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する」と規定している。
(ロ)この更正の対象となる「課税標準等」とは、通則法第19条《修正申告》第1項において、同法第2条第6号イからハまでに掲げる事項(課税標準、課税標準から控除する金額及び純損失等の金額)をいう旨規定されている。
(ハ)上記(ロ)の「純損失等の金額」とは、法人税法の場合、通則法第2条第6号ハにおいて、法人税法に規定する欠損金額でその事業年度以前において生じたもののうち、同法の規定により翌事業年度以後の事業年度分の所得の金額の計算上順次繰り越して控除し、又は前事業年度以前の事業年度分の所得に係る還付金の額の計算の基礎とすることができるものと規定されている。
 そして、法人税法(平成13年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第20号において、欠損金額とは、各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう旨規定されている。
(ニ)通則法第70条第1項は、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においては、することができない旨規定しているが、同条第2項は、同項第3号に掲げる純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを減少させる更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から5年を経過する日まで、することができる旨規定している。
ロ 請求人は、本件過大記載金額は、通則法上の純損失等の金額に該当し、更正処分の対象となるものであるから、同法第70条第2項第3号により5年の更正の除斥期間に服するものであり、その除斥期間を経過している以上、既に確定し、平成8年4月期以後の事業年度の所得金額の計算上順次繰り越して控除できるものである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)から(ハ)までに記載したとおり、法人税の場合、純損失等の金額は、法人税法第2条第20号に規定する欠損金額であることがまず必要とされるところ、請求人の平成7年4月期における翌期繰越欠損金の正当額は、平成6年4月期の法人税の修正申告書別表一(一)の翌期繰越欠損金欄に記載された金額○○○円と、平成7年4月期に生じた欠損金額○○○円の合計額44,576,555円であり、本件過大記載金額は、翌期繰越欠損金の正当額とは無関係に誤って記載された金額にすぎず、更正処分の対象となる純損失等の金額には該当しない。
 したがって、上記イの(ニ)の純損失等の金額を減少させる更正の除斥期間についての規定の適用を受ける余地もない。
ハ すなわち、本件過大記載金額は、通則法上の純損失等の金額ではないから、請求人の場合、平成8年4月期以後の所得の計算上順次繰り越して控除できるものではなく、請求人の所得の金額を計算する上では何ら意味のない誤って記載された金額にすぎないものである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
 なお、法人税法第57条《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》の規定では、損金の額に算入される繰越欠損金額を法人税の申告書に記載することは、その適用要件とされていないから、法人税申告書別表一(一)の翌期繰越欠損金欄への金額の記載は、以後の所得計算の便宜のためのものにすぎず、同欄に記載された金額に誤りがあっても、その誤りのあった事業年度でこれを是正することなく、その記載誤りによる過大な繰越欠損金額を損金の額に算入した事業年度において是正すれば足りるものと解されている。
ニ 本件賦課決定処分について
 上記のとおり、本件各更正処分は適法であり、また、請求人の場合、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同法第65条第1項及び第2項の規定に基づいた本件各賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)関係法令等の解釈

 更正についての法律の規定は、上記2の(2)のイのとおりであり、これらの法律の規定から、本件の場合の更正処分の対象となる純損失等の金額とは、法人税法に規定する欠損金額で、その事業年度以前において生じたもののうち、法人税法の規定により翌事業年度以後の事業年度分の所得の金額の計算上順次繰り越して控除できるものとされている。
 ところで、法人税法に規定する欠損金額とは、法人税法第2条第20号において、各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額である旨規定されており、具体的には、法人税申告書別表一(一)の「所得金額又は欠損金額」欄(以下「欠損金額欄」という。)に記載された金額であり、更正の場合は更正通知書の欠損金額欄に記載された金額となる。
 すなわち、更正処分の対象となる純損失等の金額とは、その事業年度以前の各法人税申告書別表一(一)の欠損金額欄に記載された金額のうち、法人税法の規定により翌事業年度以後の事業年度分の所得の金額の計算上順次繰り越して控除し、又は前事業年度以前の事業年度分の所得に係る還付金の額の計算の基礎とすることができる金額であり、その金額は法人税申告書別表一(一)の翌期繰越欠損金欄に記載された金額に影響されるものではない。

(2)本件各更正処分

 請求人は、法人税申告書別表一(一)の翌期繰越欠損金欄の金額は、更正処分の対象となる純損失等の金額であるから、記載された金額が誤っていたとしても、除斥期間が経過するまでに更正されていなければ、翌期繰越欠損金として確定し、翌期以降の事業年度において前期から繰り越された欠損金額として控除できると主張するが、更正処分の対象となる純損失等の金額については上記(1)のとおりであり、請求人の主張には理由がない。
 また、法人税法第57条第2項は、各事業年度の所得の金額の計算上、繰越欠損金の額を損金の額に算入するための適用要件は、欠損金額の生じた事業年度について青色申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出していることのみであり、翌期繰越欠損金の額を法人税申告書に記載することは、その適用要件とされておらず、法人税申告書別表一(一)の翌期繰越欠損金欄の金額は、以後の所得計算の便宜のためのものにすぎないと認められる。
 すなわち、翌期繰越欠損金の額は、法人税申告書別表一(一)の翌期繰越欠損金欄及び法人税申告書別表七の翌期繰越額の合計欄の記載の有無にかかわらず、各事業年度の欠損金額欄の正当額を基礎として算定されるものであるから、その記載誤りにより繰越欠損金の当期控除額を過大に損金の額に算入した場合には、当該事業年度においてこれを是正すれば足りることとなる。
 ところで、請求人の場合、平成7年4月期の翌期繰越欠損金の正当額は44,576,555円であり、その全額が平成8年4月期の所得の金額の計算上、損金の額に算入されることとなるから、平成8年4月期における翌期繰越欠損金の額は零円となる。
 そうすると、平成9年4月期以後の各事業年度において欠損金額は生じていないことから、平成10年4月期以後の本件各事業年度において前期から繰り越された欠損金額はないとした本件各更正処分は適法である。

(3) 本件各賦課決定処分

 以上のとおり、本件各更正処分は適法であり、請求人の場合、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同法第65条第1項及び第2項の規定に基づいた本件各賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る