ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.63 >> (平14.2.5裁決、裁決事例集No.63 20頁)

(平14.2.5裁決、裁決事例集No.63 20頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が行った修正申告の効力及び原処分庁が行った加算税の賦課決定処分の適否を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、飲食店業(そば・うどん)を営む者であるが、平成7年分、平成8年分、平成9年分、平成10年分及び平成11年分(以下、これらを併せて「各年分」といい、平成7年分及び平成8年分を「前半2年分」と、平成9年分、平成10年分及び平成11年分を「後半3年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、各年分の所得税について、原処分庁の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、修正申告書に別表1の「修正申告」欄のとおり記載して平成12年10月4日に申告した(以下、「本件各修正申告」といい、これに係る申告書を「本件各修正申告書」という。)。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成12年10月31日付で、別表1の「賦課決定」欄のとおりの加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件各賦課決定処分を不服として、平成12年12月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成13年3月21日付で棄却の異議決定をしたので、同年4月19日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 原処分庁は、平成12年9月6日から同年10月4日までの間、本件調査を行っていること。
ロ 請求人は、本件調査の担当職員(以下「調査担当職員」という。)の指摘に基づき、平成12年9月19日付で、「今回の調査で、誤りを指摘された。今後は、適正申告に心掛けるので、寛大な措置をお願いする」旨記載した申述書を原処分庁に提出していること。
ハ 調査担当職員が平成12年9月19日に請求人に対し修正申告をしょうようしたところ、同人は、本件各修正申告書にその住所、氏名を記入し、押印していること。
ニ 原処分庁は、平成12年10月4日に本件各修正申告書を収受していること。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 本件各修正申告及び本件各賦課決定処分は、次の理由により、それぞれ無効又は違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各修正申告について
(イ)本件各修正申告は、次の理由により無効である。
A 本件各修正申告書は、本件調査の3日目の平成12年9月19日に調査担当職員が持参し、署名、押印を求められ、言われるままに署名、押印したものである。
B 本件各修正申告書の数字は、請求人が書いたものではなく、その内容を納得している訳ではない。
C 調査担当職員は、その後、書類を持参して本件各修正申告書の内容を説明したが、その内容はとても受け入れられるものではない。
(ロ)本件各修正申告書の所得金額についても、次のとおり誤りがあり、この点においても本件各修正申告は無効である。
A 異議決定通知書には、「請求人が、調査担当職員に対し、記帳に基づかず、売上金額の一部を除外し、その除外後の金額に見合うように仕入れ及び経費について調整して申告していた旨答述した」とあるが、その内容は事実ではない。
B 調査担当職員は、数日分の売上伝票について、それぞれの日ごとの合計金額と大学ノート(以下「本件ノート」という。)記載の該当日の売上金額とが一致したからとして、本件ノートの金額をもって真実の売上金額と認定した上で本件各修正申告書の所得金額を算出している。
 しかし、本件ノートは単なるメモであり、真実の売上金額を記載したものではない。
C 仕入れ、経費についても、同業者の平均的な率を乗じて算出されており、これらの金額は、真実のものではない。
D 請求人が平成12年9月19日に提出した申述書も、調査担当職員が下書したものを清書させられたものであり、その内容は真実ではない。
E ただ、今となっては、帳簿や書類が残っていないので、真実の売上、仕入れ及び経費の額のいずれも証明することはできない。
ロ 本件各賦課決定処分について
(イ)上記イのとおり、本件各修正申告は無効であるから、本件各修正申告に基づく本件各賦課決定処分は違法・不当な処分であり、取り消されるべきである。
(ロ)仮に、本件各修正申告が無効でないとしても、次の理由により、本件各賦課決定処分は、取り消されるべきである。
A 重加算税の賦課決定処分について
 後半3年分の所得税については重加算税が賦課決定されており、その理由は「売上伝票から転記した本件ノートにより真実の売上金額を十分認識していたにもかかわらず、これに基づいて申告することなく、売上伝票や仕入れ及び経費に関する領収書までをも破棄し、その過少に申告した売上金額に見合うよう仕入金額及び経費を操作する等隠ぺい仮装した」とされているが、上記イの(ロ)のBで述べたように、本件ノートは単なるメモであり、隠ぺい又は仮装の事実はない。
B 過少申告加算税の賦課決定処分について
 前半2年分の所得税については、不正その他偽りの行為がないのであるから、これらの年分の修正申告は更正を予知して行ったものとはいえないため、過少申告加算税を賦課決定することはできない。

トップに戻る

(2)原処分庁

 次に述べるとおり、請求人の主張には理由がないから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 異議申立てに係る調査をしたところ、次の事実が認められる。
(イ)調査担当職員が、請求人の事業所において、本件調査をした結果は、次のとおりであること。
A 請求人は、各年分の現金出納帳、経費帳等の帳簿については、一切記帳していないとして提示しなかったこと。
B 請求人は、売上伝票については、平成12年8月以降のもの(以下、平成12年8月以降、同年9月5日までの売上伝票を「本件売上伝票」という。)は保存しているが、平成12年7月以前のものは保存しておらず、また、仕入れ及び経費の領収書についても、平成12年分を除き、保存していないとして、各年分の原始記録を提示しなかったこと。
C 厨房奥の机にあった本件ノートには、平成9年1月13日から平成12年9月5日までの売上金額が記載されていたが、本件ノートに記載された売上金額は、請求人が提出した後半3年分の青色申告決算書に記載されている月別の売上金額と一致しないこと。
D 本件売上伝票の売上合計額と本件ノートに記載された売上金額とは金額が一致していたこと。
E 上記C及びDの点について、その理由を調査担当職員が請求人に質問したところ、請求人は、記帳に基づかず売上金額の一部を除外し、その除外後の売上金額に見合うように仕入れ及び経費について調整して申告していた旨申述したこと。
(ロ)上記(イ)の事実が認められたため、調査担当職員は、請求人に対し、各年分の事業所得の金額を実額により算定することができないため、推計により算定せざるを得ないこと及びその所得金額の算定方法について説明したこと。
(ハ)調査担当職員の調査結果に基づいて、請求人は、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した本件各修正申告書に自らが署名、捺印した上で、平成12年10月4日に、原処分庁に提出したこと。
ロ 上記イの事実によれば、請求人は、各年分の事業所得の金額を過少に申告していた事実を認めた上で、自らの意思に基づいて本件各修正申告書を提出したものと認められる。
ハ 本件各賦課決定処分が適法に行われていることについては、次のとおりである。
(イ)上記イの(ロ)及び(ハ)に記載したとおり、請求人は、調査により修正申告が必要であることを指摘されて本件各修正申告書を提出したものと認められ、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当せず、本件各修正申告書の提出について他に正当な理由があるとも認められない。
(ロ)上記イの(イ)の事実によれば、請求人は、後半3年分の事業所得の金額について、売上伝票から転記した本件ノートにより真実の売上金額を十分認識していたにもかかわらず、これに基づいて申告することなく、当該売上伝票や仕入れ及び経費に関する領収書までをも破棄し、その過少に申告した売上金額に見合うように仕入金額及び経費を操作する等隠ぺい仮装した上で過少に申告していたものと認められる。
 このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、後半3年分に係る本件各修正申告書の提出により新たに納付すべきこととなった税額のうち、本件ノート記載の売上金額と請求人の同年分の確定申告書に記載されている売上金額との差額から調査により追認した必要経費の額を差し引いた金額(平成9年分1,300,960円、平成10年分4,284,343円、平成11年分2,608,517円)から算定される額について過少申告加算税に代えて重加算税を賦課決定したことは適法である。
(ハ)以上のとおりであるから、本件各修正申告書の提出により納付すべきこととなった税額のうち、上記(ロ)に係る部分については国税通則法第68条第1項の規定に基づき重加算税を賦課決定し、また、その余の部分について、同法第65条第1項の規定に基づき過少申告加算税を賦課決定した本件各賦課決定処分に違法はない。

トップに戻る

3 判断

(1)本件各修正申告について

 請求人は、〔1〕原処分庁の調査担当職員が持参した本件各修正申告書に署名、押印を求められ、言われるままに署名、押印したものであり、また、〔2〕本件各修正申告書の数字は、請求人が書いたものではなく、その内容を納得している訳ではないことから、本件各修正申告は無効である旨主張する。
 しかしながら、本件各修正申告は、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》に規定する国税に関する法律に基づく処分には当たらないから、その取消しを求める審査請求は、不適法であり、却下されるべきものである。

(2)本件各賦課決定処分について

イ 請求人は、本件各修正申告は無効であり、これらの修正申告に基づく各年分の加算税の賦課決定処分は違法・不当な処分であるから、その全部が取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)の事実によれば、本件各修正申告書の提出は、請求人が調査担当職員に対し、各年分の確定申告書の所得金額に誤りがあった旨の申述書を提出した上で、請求人の自由な意思に基づき、その責任と判断において行われたものと認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、本件各修正申告書の所得金額には誤りがあり、これらの修正申告に基づく各年分の加算税の賦課決定処分は違法・不当な処分であるから、その全部が取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、〔1〕上記イで述べたとおり、本件各修正申告書の提出は、請求人が調査担当職員に対し、各年分の確定申告書の所得金額に誤りがあった旨の申述書を提出した上で、請求人の自由な意思に基づいて行われたものであると認められること、〔2〕請求人は当審判所に対し、本件各修正申告書の所得金額に誤りがあるとする同人の主張を裏付ける証拠を提出していないことから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ハ 請求人は、後半3年分の所得税について、隠ぺい又は仮装の事実はないので、重加算税の賦課決定処分は取り消されるべきである旨主張する。
(イ)国税通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときには、その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
 そして、同法第68条第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
(ロ)原処分庁は、上記2の(2)のイの(イ)のC、D及びEの各事実に基づき、本件ノートを「真実の売上帳」と判断した上で、これを前提に、請求人の後半3年分の所得税につき隠ぺい又は仮装があったと認定している。
 そこで、本件ノートが真実の売上帳であるかどうかについて、以下審理する。
A 調査担当職員は当審判所に対し本件ノート等に関して、要旨次のとおり答述している。
(A)請求人の事業所において、本件売上伝票及び厨房奥の机にあった本件ノートを把握したのは、本件調査の初日の平成12年9月6日である。
(B)本件売上伝票は、飲食店で一般的に使用されているたぐいのもので、品名、数量及び金額を記載する欄があり、緑色で印刷されているものであった。
(C)本件売上伝票の作成者及び作成方法について、請求人からは、「本件売上伝票は、従業員が記載しており、従業員は、客から注文がある都度、本件売上伝票の上の行から順にその注文内容(品名、数量、金額)を記載し、閉店後にその日の合計売上数量と合計売上金額を集計し、合計売上金額と現金残高と照合した後に、本件売上伝票の初葉にその日の合計売上数量と合計売上金額を記載している」旨の申述があった。
(D)本件ノートの作成者及び作成方法について、請求人からは、「従業員が閉店後に本件売上伝票の初葉にその日の合計売上数量と合計売上金額を記載した後、本件売上伝票に基づき、請求人自らが、本件ノートに合計売上数量と合計売上金額を転記している」旨の申述があった。
(E)把握した本件売上伝票は、平成12年8月1日から本件調査の初日の前日の同年9月5日まで、この間の休業日の8日間を除いたすべての日、合計28日間分であり、これらについて、本件売上伝票の初葉に記載されたその日の合計売上金額と本件ノートに記載された同日の売上金額とを照合したところ、28日間分すべてについて、両者の金額は一致した。この点につき、請求人に対し、金額が一致していたことを示しており、同人も、両者の金額が一致したことを確認している。
 なお、本件調査の初日においては、請求人は、本件ノートを真実の売上帳であると認めていた。また、本件売上伝票は、請求人の手もとに置いてきている。
(F)上記(A)から(E)までのほか、本件ノートには、日々の売上数量、売上金額、月毎の合計売上数量、合計売上金額のほか、休業日の理由(旅行先、運動会、○○裁判所等)なども記載されていることから、本件ノートの記載内容には信ぴょう性があると考えられた。
B 請求人は当審判所に対し本件ノート等に関して、要旨次のとおり答述している。
(A)本件ノートは、請求人又は従業員が記載していた。
(B)本件ノートは、単なるメモであり、何かに基づき記載していたということはない。
(C)本件ノートは、単なるメモであり、これを作成していた目的はない。
(D)本件ノートの売上金額と確定申告書の売上金額とは関係がない。確定申告書の売上金額が、正しい金額である。
(E)確定申告書の売上金額は、帳簿に基づいて算出していた。
(F)しかし、確定申告書を作成する時に基とした帳簿書類は、一切保存していない。また、領収書等も一切保存していない。
(G)本件売上伝票のうち、平成12年9月1日分、同月2日分及び同月5日分の3日間分については保存している。
C 当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(A)本件ノート以外には、各年分の帳簿は一切保存されていないこと。
(B)本件ノートは、請求人又は従業員が記載していたものであること。
(C)本件ノートには、平成9年1月13日から平成12年9月5日までの次の事項が、次のとおり記載されていること。
a 日々の売上数量(1の位まで記載)
b 日々の売上金額(10円単位で記載)
c 月毎の合計売上数量(1の位まで記載)
d 月毎の合計売上金額(10円単位で記載)
e その月の1日当たりの平均売上数量(1の位まで記載)
f その月の1日当たりの平均売上金額(1円単位で記載)
g 従業員の欠勤状況や休業日の理由、旅行先など
(D)請求人が当審判所に提示した売上伝票は平成12年9月1日分、同月2日分及び同月5日分の3日分のみであるところ、これらの伝票に係るそれぞれの日の合計売上数量及び合計売上金額と本件ノートに記載されている当該日の売上数量及び売上金額は、別表2のとおりであり、数量、金額ともに当該売上伝票の方が少ないこと。
 また、当該売上伝票のいずれについても、〔1〕それぞれの日に係る売上伝票の初葉にその日の合計売上金額が記載されておらず、〔2〕注文内容が、それぞれの日に係る売上伝票の末葉の最後の行を超えて欄外の余白一杯に記載されていること。
(E)請求人が本件調査後の平成13年3月15日に提出した平成12年分の所得税の確定申告書に添付された「平成12年分所得税青色申告決算書」に記載されている月別売上金額の1月から8月までの金額と、本件ノートに記載されている同期間中の売上金額は、別表3のとおりであり、8か月中6か月分について両者の金額が一致しており、また、不一致の2か月分についても、その月の中に当該日に係る売上金額が不一致相当額と同額である日があること。
D 以上の答述及び事実を整理、検討すると、以下のとおりである。
(A)原処分の調査担当職員は、〔1〕本件売上伝票の作成者及び作成方法、〔2〕本件ノートの作成者及び作成方法、〔3〕本件売上伝票と本件ノートとの照合方法などについて具体的に答述しており、その内容も自然で合理的であると認められる。
(B)上記Cの(C)のとおり、本件ノートには、数量、金額が詳細に記載されていることから、何らかの基礎となる帳票があるものと認められ、また、月毎の集計、分析までも行われていることから、本件ノートは、何らかの目的をもって作成されていたものと推認されるところ、請求人は、本件ノートを「単なるメモである」と主張するだけで、その作成の基礎となった帳票や作成目的について、合理的な説明がない。
(C)また、請求人は、「確定申告の売上金額が正しい金額である」旨主張するが、同人からは、それを裏付ける証拠書類の提出がなく、合理的な説明もない。
(D)上記Cの(D)の3日分の売上伝票については、次の理由により、本件売上伝票のうちの3日分とは認められない。
a 上記Cの(D)の〔1〕の事実は、信用性が認められる調査担当職員の上記Aの(C)から(E)までの答述と符合しないこと。
b 上記Cの(D)の〔2〕の事実は、これらの3日間のいずれの日においても売上伝票の末葉の最後の行を超えて欄外一杯まで記入するような注文があったというもので、それ自体不自然であること。
c 調査担当職員によって28日分の売上伝票が把握されているにもかかわらず、請求人が当審判所に提出したのは同期間中のわずか3日分であって、その余の売上伝票を提示しないことについて同人が合理的な説明をなし得ないこと。
(E)さらに、上記Cの(F)のとおり、「平成12年分所得税青色申告決算書」に記載されている月別売上金額の1月から8月までの金額と、本件ノートに記載されている同期間中の売上金額とは、8か月中6か月分について一致しており、また、一致しない2か月分についても、その不一致は特定の日の売上金額が集計漏れとなっていることによるものと認められる。
(F)以上を総合勘案すれば、本件ノートは、請求人が日々の売上金額や月毎の売上金額などを把握するために作成していたもの、すなわち、真実の売上帳であると認めるのが相当である。
(ハ)以上のとおり、本件ノートは真実の売上帳であると認められ、請求人は、後半3年分の所得税について、真実の売上金額を把握していたにもかかわらず、本件ノートに記載されている売上金額と請求人の同年分の確定申告書に記載されている売上金額との差額(平成9年分1,300,960円、平成10年分5,188,590円、平成11年分3,628,080円)を故意に除外して申告したものと認められる。
 このことは、国税通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、後半3年分に係る本件各修正申告書の内容をみると、平成9年分については、上記の売上除外のほかに必要経費の過大計上(過少申告加算税の賦課決定の対象となるもの)があり、また、平成10年分及び平成11年分については、それぞれ必要経費の計上漏れが認められる。
 したがって、後半3年分に係る本件各修正申告書の提出により新たに納付すべきこととなった税額のうち、平成9年分は上記金額(1,300,960円)から算定される額について、また、平成10年分及び平成11年分は上記金額(平成10年分5,188,590円、平成11年分3,628,080円)から本件調査により追認された必要経費の額を差し引いた金額(平成10年分4,284,343円、平成11年分2,608,517円)から算定される額について、過少申告加算税に代えて重加算税を賦課決定したことは適法である。
ニ 請求人は、前半2年分の所得税について、不正その他偽りの行為がないので、これに対する過少申告加算税の賦課決定処分は取り消されるべきである旨主張する。
(イ)国税通則法第65条第5項は、修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、同条第1項を適用しない旨規定している。
(ロ)一方、国税の更正の期間制限について、国税通則法第70条第1項は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においてはすることができない旨規定し、また、同条第5項は、「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた」国税についての更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
(ハ)本件各修正申告書は、上記(2)のロのとおり、平成12年10月4日に提出されており、前半2年分については、それぞれの法定申告期限から3年を経過した日(平成7年分は平成11年3月16日、平成8年分は平成12年3月16日)以後に提出されたことは明らかである。
(ニ)したがって、前半2年分に係る本件各修正申告書の提出が上記(イ)の「更正があるべきことを予知してされたものではない」場合に当たらないというためには、原処分庁において、請求人が前半2年分の所得税につき、上記(イ)の「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた」ことの立証がされなければならない。
 しかしながら、原処分庁からは、この点について具体的主張がなく、証拠資料の提出もない。
(ホ)そうすると、請求人の前半2年分の所得税の更正処分は、それぞれの法定申告期限から3年を経過した日以後はできないこととなるので、前半2年分に係る本件修正申告書の提出は、国税通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当すると認められる。
ホ 以上により、前半2年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分については、その全部を取り消すのが相当であり、後半3年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分については、これを不相当とする理由は認められない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る