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(平14.5.29裁決、裁決事例集No.63 45頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、水産食料品加工業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の申告に当たって課税仕入れに計上した取引について、重加算税の賦課要件である隠ぺい又は仮装の事実があったか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表1及び別表2のとおり(以下、平成11年1月1日から平成11年2月26日まで及び平成11年2月27日から平成11年12月31日までの消費税等の課税期間を順次「平成11年2月期課税期間」及び「平成11年12月期課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)である。

(3)基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成11年2月26日に解散し、現在清算中である。
ロ 請求人の本件各課税期間に係る消費税等の確定申告は、別表1及び別表2の「確定申告」欄のとおりであり、いずれも法定申告期限後に各確定申告書が提出されている。
 なお、本件各課税期間に係る消費税等については、原処分庁所属の職員の調査を受け、別表1及び別表2の「修正申告」欄のとおりとする各修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)が提出されている。
ハ 請求人は、本件各課税期間の消費税等の確定申告に当たって、次表の仕入れ(以下「本件仕入れ」という。)及び製造委託費(以下「本件製造委託費」といい、本件仕入れと併せて「本件仕入れ等」という。)の金額を課税仕入れに計上の上、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定を適用して、本件仕入れ等に係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除している。

ニ 請求人は、原処分庁に対し、本件各課税期間の本件仕入れの合計352,406,327円に係る消費税法第30条第7項に規定する課税仕入れ等の税額の控除に係る請求書等として、次の書類の写しを提出した。
(イ)販売人を請求人の取引先であったP市Q町○番地○号に所在する株式会社H(以下「H」という。)、仕入人を請求人とする平成11年3月10日付の商品売買契約書(以下「本件商品売買契約書」という。)。
(ロ)Hから請求人を帳合先とし、請求人の清算人であるJが代表取締役となっているP市R○丁目○番○号に所在する株式会社K(以下「K」という。)あての平成11年1月25日付30,000,000円及び同年2月2日付10,720,000円の各納品書(以下「本件各納品書」という。)。
(ハ)Hが発行した請求人あての、平成11年3月31日付21,568,558円、同年6月30日付66,993,297円、同年7月31日付127,864,164円、同年8月31日付85,177,932円及び同年9月20日付10,082,376円の各請求書(以下、これらを併せて「本件各請求書」といい、本件商品売買契約書及び本件各納品書を併せて「本件各請求書等」という。)。
ホ 請求人は、原処分庁に対し、本件製造委託費4,000,000円に係る消費税法第30条第7項に規定する課税仕入れ等の税額の控除に係る請求書等として、発行者が「P市S町○番○号、株式会社L、代表取締役M」となっている請求人あての平成11年3月30日付、同年4月28日付、同年5月30日付、同年6月28日付、同年7月29日付、同年8月29日付、同年9月27日付及び同年10月30日付の各525,000円の領収書(以下「本件各領収書」という。)の写しを提出した。
 なお、本件各領収書には、いずれも「H債権回収費用」とただし書がされている。
へ Hは、平成10年11月2日に1回目の、平成11年2月25日に2回目の、それぞれ不渡手形を出したところで倒産した。
 なお、Hの代表取締役はNである。
ト Hの経理責任者であったTは、平成10年9月に交通事故で死亡している。
チ Kは、平成8年1月1日から同年12月31日までの事業年度以後の法人税の確定申告書を所轄税務署長に提出していない。
リ P市S町○番地の○○に所在する株式会社L(以下「L」という。)の代表取締役であったMは、平成12年1月18日に○○市で死亡している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるからその全部の取消しを求める。
イ 原処分の手続について
(イ)原処分は、平成13年3月26日に提出した本件各修正申告書に基づいてされているが、本件各修正申告書は請求人が白紙の申告書用紙に署名押印をして、請求人に関与していたU税理士(以下「U税理士」という。)に手渡したところ、原処分の調査担当者(以下「調査担当職員」という。)とU税理士が勝手に提出したものであり、請求人は本件各修正申告書の内容について何も知らされていないという違法な修正申告に基づいてされた違法・不当な処分である。
(ロ)原処分は、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》の規定による無申告加算税及び通則法第68条《重加算税》の規定による重加算税の賦課決定通知書(以下「本件加算税賦課決定通知書」という。)にその賦課理由及び賦課決定内容等の記載がなく、かつ、調査担当職員からその賦課理由等についての説明もされていない違法・不当な処分である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 本件仕入れ等を消費税等の課税仕入れに計上したのは、次のとおりであり、原処分庁が主張するような隠ぺい又は仮装の事実はないから、重加算税の賦課決定処分は取り消すべきである。
(イ)平成11年2月期課税期間の仕入れ40,720,000円は、上記1の(3)のニの(ロ)の本件各納品書のとおり、請求人がHから仕入れてKに売却する取引であり、本件各納品書に基づいて仕入れに計上したものである。
 なお、本件各納品書に記載の商品をKの冷蔵庫に移送し保管していたが、Hの債権者が無断で持っていったため、当該商品の受渡しができなかったものであり、決して架空の取引ではない。
(ロ)平成11年12月期課税期間の仕入れ311,686,327円は、上記1の(3)のニの(ハ)のとおり、本件各請求書に基づいて仕入れに計上したもので、その具体的内容は次のとおりであり、架空に計上したものではない。
A 平成11年3月31日付の仕入れ21,568,558円は、請求書に記載されたとおりの商品を仕入れたものである。
B 平成11年6月30日付ないし同年9月20日付の仕入れの合計額290,117,769円は、Hが倒産した際の取引であり、その取引の目的は、請求人がHに対して有していた債権を確保するためMに商品等の差押えを依頼していたところ、平成11年3月に商品が確保できたとの連絡があり、本件商品売買契約書を作成し、「仕入れ」という形で商品の保全をしたものである。
 確保した商品を後日売却する予定でいたところ、上記1の(3)のリのとおり、平成12年1月にMが死亡したために商品の引渡しができなくなったものであり、請求人としては、取引の実行ができなくなったことが判明した平成12年以降において課税仕入れから除外するつもりであった。
(ハ)本件製造委託費4,000,000円は、上記(ロ)のBの取引に関する費用としてMに現金で支払ったものであるがMから送られてきたのは、なぜか上記1の(3)のホのとおりの本件各領収書であった。
(ニ)なお、原処分庁は、JがHの実質的な経営者であり、その立場を利用してHの社印、代表者印及びゴム印(以下「本件社印等」という。)を使って本件各請求書等を作成したように決めつけているが、JはHの実質的な経営者ではなく、また、本件社印等を所持しておらず、本件各請求書等はMから送付されてきたものであり、Jが作成したものではない。
ハ 無申告加算税の賦課決定処分について
 無申告加算税の対象となった経費の過大計上については、会社破綻時の混乱と熟練事務員の退職等及びコンピューターのいわゆる2000年問題等のため発生した事務処理の間違いに基づくものであり、故意に過大に計上したものではなく、また、期限後申告となったのも同様の原因によるものであるから、無申告加算税の賦課決定処分は取り消すべきである。
 なお、調査担当職員は、これらの特殊事情について考慮すべきところ、一切考慮をせず、さらに期限後申告が無申告加算税の対象になることについても、指導をされていれば努力して期限内に申告をしていたがその適切な指導がなかった。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分の手続について
(イ)請求人が提出した本件各修正申告書は、調査担当職員が請求人の納税地において、平成13年3月16日及び同月21日の両日にわたり、J及びU税理士に対し、調査の結果是正すべき事項とその理由及び加算税の取扱い等について十分に説明した結果、請求人が納得をした上で提出したものである。
(ロ)本件加算税賦課決定通知書にその賦課理由及び賦課決定内容等を記載しなければならない旨を定めた法令の規定はない。
 また、無申告加算税及び重加算税の賦課決定処分に当たり、処分理由及びその根拠について納税者に説明しなければならない旨を定めた法令の規定はないが、調査担当職員は、上記(イ)のとおり、J及びU税理士に対して原処分の理由等を十分に説明している。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 本件仕入れ等は次のとおり、架空に計上されたものであり、隠ぺい又は仮装されていることは明らかであるから、重加算税の賦課決定処分は適法である。
(イ)請求人が架空の取引でない旨主張する本件仕入れ等について調査したところ、次のとおりである。
A Nは、調査担当職員及び異議申立てに係る調査の担当者(以下「異議調査担当職員」という。)に対して、要旨次のとおり申述している。
(A)Jの要請によりHの代表取締役になったが、Hの経営はJが実質的に行っていた。
(B)平成11年7月7日に、Hの本件社印等の返却を求める内容証明郵便をJあてに送ったが、返却がなかったため新しい代表者印を作成し、印鑑登録をした。
(C)本件商品売買契約書は知らないし、また、本件商品売買契約書に押印されている本件社印等はJが持っているはずである。
B Hの元工場長であったVは、調査担当職員及び異議調査担当職員に対して、要旨次のとおり申述している。
(A)平成10年7月ころ、Jの面接を受けてHに入社しKの工場で働いていたが、同年11月ころKの工場が閉鎖されたためそれ以後はHの本社工場で働くようになった。
(B)Hの実質的な経営者はJであった。
(C)平成10年12月ころに、JがHの重要な書類や工場内の機械等を持ち出したため、平成11年2月にHが倒産したときにはHには価値のある資産は何もなかった。
 また、当時Hにはコンピューターを使って請求書や納品書を作成できる者がいなかった。
(D)Hの倒産時の商品等の在庫は、Jの指示により手書きで作成した平成11年2月19日付の納品書(記載金額の総額が848,133円である。)に記載したとおりであり、3億円もの在庫はなかった。
(E)本件各請求書等は知らないし、また、本件各納品書のあて先であるKの工場倉庫は平成10年11月30日に閉鎖されており、そんなところに商品は送れる訳がない。
C Lの現在の代表取締役であるWは、Lは本件製造委託費を収受しておらず、したがって、本件各領収書は発行していないし、本件各領収書に押印されている社印は有していない旨調査担当職員に対して申述している。
D 請求人が平成12年10月7日付で作成した「H決算時債権明細表」には、本件商品売買契約書に押印されている本件社印等が確認印として平成12年10月15日付で押印されている。
(ロ)以上の事実及び申述から、JがHの実質的な経営者であることを利用して、平成11年2月当時、Hは倒産して848,133円の在庫しか保有していないこと及びKの工場倉庫は平成10年11月に閉鎖されたことを知りながら、Hから持ち出した書類及び本件社印等を使用して、本件各請求書等を作成し、本件仕入れを架空に計上したことは明らかである。
 なお、請求人は、本件商品売買契約書はMが処理した旨主張するが、Mが平成12年1月18日に死亡した後においても、上記(イ)のDのとおり、本件社印等が押印されていることから、本件社印等は請求人が使用していたと認められる。
(ハ)請求人は、本件製造委託費について、請求人がHに対して有していた債権を確保するためMに商品等の差押えを依頼した費用である旨主張しているが、上記(イ)の事実及び申述から、Lは本件製造委託費を受領していないこと及びHの倒産時にはHに価値のある資産は何もないことを請求人は知っていたと認められるので、Mに商品等の差押えを依頼したとは認められない。
(ニ)請求人が提出した本件各課税期間の消費税等の確定申告書は、上記1の(3)のロのとおり、いずれも期限後申告であり、その後、修正申告がされている。
(ホ)通則法第68条第2項において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限後に納税申告書を提出したときは、無申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定されている。
(ヘ)請求人は、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、本件仕入れ等を架空に計上することにより、本件仕入れ等に係る消費税等の額を控除対象仕入税額に含めて、法定申告期限後に本件各課税期間の消費税等の確定申告書を提出したことが認められ、その後本件各修正申告書を提出している。
 このことは、通則法第68条第2項の国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限後に納税申告書を提出したときに該当するので、無申告加算税に代えて、重加算税を課した原処分は適法である。
(ト)本件各課税期間の重加算税の額は、本件各課税期間の消費税等の修正申告により増加した納付すべき税額のうち、隠ぺい仮装事由部分の税額を基に、通則法第68条第2項の規定に従い、いずれも正しく計算されている。
ハ 無申告加算税の賦課決定処分について
(イ)通則法第66条第1項において、正当な理由があると認められる場合を除き、期限後申告書の提出があった場合には、無申告加算税を課する旨規定されている。
 無申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があると認められる場合とは、災害、交通、通信の途絶など、納税者の責めに帰せられない外的事情により期限内申告書の提出を不可能にする場合のように真にやむを得ない事情がある場合をいうものとされている。
(ロ)請求人が提出した平成11年12月期課税期間の消費税等の確定申告書は、上記1の(3)のロのとおり、期限後申告であり、請求人が主張する事由は、上記(イ)の正当な理由があると認められる場合には該当しないから、無申告加算税を課した原処分は適法である。
(ハ)平成11年12月期課税期間の無申告加算税の額は、通則法第66条第1項の規定に従い正しく計算されている。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、原処分の手続の違法性の存否並びに重加算税及び無申告加算税の賦課決定の適否にあるので、以下審理する。

(1)原処分の手続について

イ 請求人は、本件各修正申告書は白紙の申告書用紙に署名押印をしてU税理士に手渡したところ、請求人に何の説明もなく調査担当職員と関与税理士とで勝手に提出したもので違法な修正申告であり、当該修正申告に基づいてされた原処分は違法・不当な処分である旨主張する。
 しかしながら、原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、調査担当職員は修正申告について、平成13年3月16日及び同月21日の両日にわたり、請求人の納税地において、U税理士立会いの上でJに面接し、調査の結果是正すべき事項とその理由及び加算税の取扱い等についての説明をしており、請求人はその説明に納得した上で本件各修正申告書を提出していることが認められるので、当該修正申告は違法なものとは認められない。
 よって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、原処分は本件加算税賦課決定通知書にその賦課理由及び賦課決定内容等が記載されておらず、かつ、調査担当職員からもその賦課理由等についての説明もされていない違法・不当な処分である旨主張する。
 しかしながら、本件加算税賦課決定通知書にその賦課理由及び賦課決定内容等を記載しなければならない旨を定めた法令の規定はない。
 また、無申告加算税または重加算税の賦課決定処分を行うに当たり納税者に処分理由及びその根拠について説明をしなければならない旨を定めた法令の規定もないところ、上記イのとおり、調査担当職員は、原処分調査時においてJ及びU税理士に対して原処分の理由等を説明していることが認められるので、原処分は違法・不当な処分であるとは認められない。
 よって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)重加算税の賦課決定処分について

 請求人は、本件仕入れ等は実際の取引に基づいて計上したものであり、原処分庁が主張するような隠ぺい又は仮装の事実はないから、重加算税の賦課決定処分は取り消すべきである旨主張するので、以下検討する。
イ 本件仕入れ
(イ)請求人は、本件仕入れは本件各請求書等に基づいて計上したものであり、架空に計上したものではない旨主張し、一方、原処分庁は、JがHの実質的な経営者であり、Hから持ち出した書類及び本件社印等を使用して、本件各請求書等を作成し、本件仕入れを架空に計上した旨主張するので、JがHの実質的な経営者か否かについて調査したところ、次のとおりである。
A Hの平成9年1月1日から平成9年12月31日までの事業年度の法人税の確定申告書によると、Hの資本金総額10,000,000円のうち、Jが1,605,000円、請求人が4,395,000円それぞれ出資している。
B 請求人は、Hに多額な商品を預け、請求人の協力工場としており、したがって、Hが倒産した時にはその債務のほとんどが請求人に対するものであった。
C 請求人は、Hの倒産に際し、平成11年2月27日付でHの債権者に対して、Hを応援してきたが支援を打ち切ることにしたので、清算しても資産がないことから配当ができない旨記載した文書を請求人名で発行している。
D Nは、当審判所に対して、〔1〕昭和62年ころJに半ば強制的にHの代表者にさせられたこと、〔2〕取引先や銀行との折衝はTが行っていたが同人の死亡後はすべてJが行っていたこと及び〔3〕本件社印等は、Jが持っていったので返却するように内容証明郵便で求めたが返却してもらえなかったこと等から、JがHの実質的な経営者であった旨答述している。
E Vは、当審判所に対して、〔1〕Jの面接を受けて平成10年7月にHに入社したこと、〔2〕Hの仕入れ代金や経費の支払いはJの指示に基づいて行っていたこと、〔3〕給料についてもすべてJの指示に基づき支払っていたこと、〔4〕本件社印等はJが持っていったとN及びTから聞いたこと並びに〔5〕平成11年2月ころHの在庫をすべて請求人あてに送れとJに指示されてトラック便で送ったこと等から、JがHの実質的な経営者であった旨答述している。
F これらのことから、JはHの実質的な経営者であったと認められる。
(ロ)平成11年2月期課税期間の仕入れ
 請求人は平成11年2月期課税期間の仕入れ40,720,000円について、請求人がHから仕入れてKに売却するための取引であり、本件各納品書に基づいて計上しており、架空に計上したものではない旨主張するが、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次のとおりである。
A 平成11年1月25日付の納品書には「K冷蔵庫へ移送」、また、同年2月2日付の納品書には「K冷蔵庫へ」との記載が、それぞれの右上部分に手書きでされている。
B Kの○○工場の貸主であるP市X町○番地の○に居住するYは、異議調査担当職員に対して、「Kに平成5年7月1日からP市X町○番地の○の工場用建物(以下「K工場」という。)を賃貸しており、平成10年11月30日に返却を受けたが、そのころにはK工場内に商品等はまったくなかった」と申述している。
C Kは、平成11年1月8日付で平成10年11月30日にK工場を閉鎖する旨記入した「自家用電気工作物廃止報告書」を○○通商産業局長あてに提出している。
D Vは、当審判所に対し、HのR工場は平成10年11月ころ、同じく本社工場は平成11年1月初旬及びK工場は平成10年11月にそれぞれ閉鎖し、Hは営業活動を停止しており、これら各工場の閉鎖後Hは商品の仕入れも売り上げもなかった旨答述している。
E また、N及びVは、当審判所に対して、平成10年12月ころJがHの重要な書類や機械等を持ち出したこと及び当時Hにはコンピューターを使って請求書や納品書を作成できる者がいなかったことを含め、上記2の(2)のロの(イ)の調査担当職員及び異議調査担当職員に対する申述内容には間違いがない旨答述している。
F これらのことを併せて検討すると、本件各納品書の発行日にはK工場はすでに閉鎖されて営業活動が行われておらず、商品の納入が不可能であること、また、上記(イ)のCの文書のとおり、請求人はHに本件各納品書に記載された商品が全くないことを十分認識していたものと認められることから、当該商品が本件各納品書に記載されたとおり納入されたものとは認められない。
 したがって、平成11年2月期課税期間の仕入れ40,720,000円は、上記(イ)で認定したとおり、Hの実質的な経営者であるJが、同社から持ち出した書類や本件社印等を使用して本件各納品書を作成して架空に計上し、消費税等の還付を受けたと認められる。
(ハ)平成11年12月期課税期間の仕入れ
A 請求人は、上記1の(3)のニの(ハ)の本件仕入れのうち平成11年3月31日付の請求書に基づく仕入れ21,568,558円について、当該請求書に記入されたとおりの商品を仕入れたものである旨主張する。
 しかしながら、Hは上記1の(3)のヘのとおり、平成11年2月に2回目の不渡手形を出したところで倒産しており、また、上記(ロ)のDのとおり、工場もすでに閉鎖されて営業活動をしていないこと及び平成11年3月31日付の請求書はコンピューターから打ち出したのものであるが、上記(ロ)のEのとおり、平成10年12月ころHではコンピューターを使って請求書等を作成できる状況になかったこと並びに上記(イ)のCの文書のとおり、請求人はHに商品を含め資産が全くないことは十分に認識していることから、当該商品が本件各請求書に記載されたとおり納入されたものとは認められない。
B 請求人は、上記1の(3)のニの(ハ)の本件仕入れのうち、平成11年6月30日ないし同年9月20日付の請求書に基づく仕入れ290,117,769円について、Hが倒産した際の取引であり、その取引の目的は、請求人が同社に対して有していた債権を確保するためMに商品等の差押えを依頼していたところ、平成11年3月に商品が確保できたとの連絡があり、本件商品売買契約書を作成し、仕入れという形で商品の保全をしたものである旨主張する。
 しかしながら、Hは、上記1の(3)のヘのとおり、平成11年2月に2回目の不渡手形を出したところで倒産しており、また、上記(ロ)のDのとおり、工場もすでに閉鎖されて営業活動をしていないこと及び本件各請求書はコンピューターから打ち出されたものであるが、上記(ロ)のEのとおり、平成10年12月ころHではコンピューターを使って請求書等を作成できる状況になかったこと並びに上記(イ)のCの文書のとおり、請求人はHに商品を含め資産等が全くないことは十分に認識していること、さらに、請求人は、当審判所に対して、仕入れに計上した商品290,117,769円を平成11年2月27日から平成11年12月31日までの事業年度の期末棚卸商品に計上していない旨答述していることからも、当該商品が本件各請求書に記載されたとおり納入されたものとは認められない。
C したがって、平成11年3月31日付の請求書に基づく仕入れ21,568,558円及び平成11年6月30日ないし同年9月20日付の請求書に基づく仕入れ290,117,769円は、上記(イ)で認定したとおり、Hの実質的な経営者であるJが、Hから持ち出した書類や本件社印等を使用して本件各請求書を作成して架空に計上し、消費税等の還付を受けたと認められる。
ロ 本件製造委託費
 請求人は、本件製造委託費4,000,000円はHの倒産に伴い同社に対して有していた債権を確保するためMに商品等の差押えを依頼しており、そのための費用としてMに現金で支払ったものであり、架空に計上したものではない旨主張するが、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次のとおりである。
(イ)Wは、Lは本件製造委託費を収受しておらず、したがって、本件各領収書は発行していないし、本件各領収書に押印されている社印は有していない旨を調査担当職員に対して申述している。
(ロ)本件各領収書に記載されているLの所在地は、上記1の(3)のリのLの所在地と相違している。
(ハ)請求人も自覚しているとおり本件製造委託費はMに支払ったものであり、Lに対して支払いをする事由は認められない。
(ニ)Hの倒産に伴う債権確保のための仕入れは、上記イの(ハ)のBのとおり、架空の取引であると認められるから、当該仕入れに係る費用として本件製造委託費を支払う必要は認められない。
(ホ)これらのことから、請求人は支払っていない債権回収費用を支払ったごとく仮装し、本件製造委託費として計上して消費税等の還付を受けたと認められる。
ハ 請求人が提出した本件各課税期間の消費税等の確定申告書は、上記1の(3)のロのとおり、いずれも期限後申告であり、かつ、修正申告がされている。
ニ 通則法第68条第2項では、通則法第66条第1項第二号の期限後申告書の提出後に修正申告書の提出があった場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限後に納税申告書を提出したときは、無申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定されている。
ホ 以上の結果、請求人はHの実質的な経営者であったJがHから持ち出した書類及び本件社印等を使用して、本件各請求書等を作成して本件仕入れを架空に計上し、さらに本件各領収書を使用して本件製造委託費を架空に計上したうえで、消費税の課税仕入れに計上することにより、本件仕入れ等に係る消費税等の額を控除対象仕入税額に含めて、本件各課税期間の消費税等の確定申告書を法定申告期限後に提出したことが認められる。
 このことは、通則法第68条第2項の国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限後に納税申告書を提出したことに該当する。
 そして、本件各課税期間の重加算税の額は、本件各課税期間の消費税等の原処分調査に係る修正申告により増加した納付すべき税額のうち、隠ぺい仮装事由部分の税額を基に、通則法第68条第2項の規定に従い、いずれも正しく計算されている。
 したがって、通則法第68条第2項の規定に基づきなされた本件各課税期間の消費税等の重加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)無申告加算税の賦課決定処分について
 請求人は、無申告加算税の対象となった経費の過大計上は、会社破綻時の混乱と熟練事務員の退職等及びコンピューターのいわゆる2000年問題等のため発生した事務処理の間違いに基づくものであり、故意に過大に計上したものではなく、また、期限後申告となったのも同様の原因によるものであるから、無申告加算税の賦課決定処分は取り消すべきである旨主張する。
 しかしながら、通則法第66条第1項に規定する無申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があると認められる場合とは、災害、交通、通信の途絶など、納税者の責めに帰せられない外的事情により期限内申告の提出を不可能にする場合のように真にやむを得ない事情がある場合をいうと解されているところ、請求人が平成11年12月期課税期間の消費税等の確定申告書を法定申告期限内に提出しなかったことについて、通則法第66条第1項に規定する正当な理由があるとは認められず、かつ、平成11年12月期課税期間の消費税等に係る修正申告書の提出により増加した納付すべき税額の基礎となった事実には、同条第2項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づきなされた平成11年12月期課税期間の消費税等の無申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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