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(平14.5.22裁決、裁決事例集No.63 63頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、〔1〕歯科医院を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の妻が、専ら請求人の事業に従事していたか否か及び〔2〕請求人が、妻を青色事業専従者として同人に対する青色事業専従者給与の額(以下「本件専従者給与」という。)を必要経費に算入したことが重加算税を賦課すべき事実に該当するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 平成9年分、平成10年分及び平成11年分(以下「各年分」という。)の所得税について、審査請求(平成13年9月5日請求)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。

(3)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、P市Q町○丁目○番○号所在の2階建て建物の1階を事業用としてG歯科医院を営み、2階を居住用としている。
ロ 請求人の妻H(以下「H」という。)は、平成9年1月1日から平成11年12月31日までの間(以下「本件期間」という。)、請求人と生計を一にしていた。
ハ 請求人は、平成4年3月16日に青色申告の承認及び青色専従者給与の特例適用を受けるため、「所得税の青色申告承認申請書兼青色専従者給与に関する届出書」を原処分庁に提出し、同年12月31日に当該青色申告の承認申請は所得税法第147条《青色申告の承認があったものとみなす場合》の規定に基づき承認があったものとみなされた。
ニ 請求人が各年分の事業所得の金額の計算上、本件専従者給与として必要経費に算入した金額は、平成9年分が15,703,500円(給料11,131,000円、賞与4,572,500円)、平成10年分が18,622,780円(給料12,934,780円、賞与5,688,000円)及び平成11年分が21,999,600円(給料15,559,200円、賞与6,440,400円)である。
ホ 請求人が各年分の事業所得の金額の計算上、収入金額に算入した金額は、平成9年分が154,852,297円、平成10年分が152,594,143円、平成11年分が163,805,141円(更正金額164,139,041円)及び平成12年分が153,834,022円である。
ヘ H名義の平成10年分の所得税の確定申告書には、給与の収入金額が18,622,780円、満期保険(J生命)の収入金額が3,422,817円及び申告納税額が○○○円と記載され、平成11年分の所得税の確定申告書には、給与の収入金額が21,999,600円及び申告納税額が○○○円と記載され、それぞれ法定申告期限までに提出されている。
 当該申告書には、いずれも作成税理士欄に、請求人の代理人である税理士K(以下「K税理士」という。)の記名があり、支払者を請求人とする源泉徴収票が添付されている。
 なお、H名義の平成9年分の所得税の確定申告書は提出されていない。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、平成9年分及び平成10年分についてはその全部を、平成11年分については、確定申告した事業所得の金額86,042,214円に収入金額の計上漏れ分333,900円を加算した金額86,376,114円を超える部分をそれぞれ取り消すべきである。
イ 更正処分
(イ)更正の期間制限
 各年分の所得税の更正及び加算税の賦課決定通知書(以下「本件更正等通知書」という。)は、原処分庁から郵送され、平成13年3月17日(郵便官署日付は平成13年3月16日)に受領した。
 したがって、平成9年分の所得税の更正処分は、法定申告期限から3年を経過してなされたものであり、国税通則法(以下「通則法」という。)第70条《国税の更正、決定等の期間制限》の規定に反する。
 なお、平成13年3月15日午前8時40分ころ、原処分庁の職員が請求人の事業所へ来て、請求人に対して何か封筒を差し出したが、子供を学校に連れて行くため勝手口から出掛けるところであったので、当該職員に税理士を通じてくれと言ったところ、当該職員はそのまま帰ったものであり、その日に本件更正等通知書を差し置いた事実はない。
(ロ)調査手続等
A 原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、請求人の女性従業員の自宅マンションにまで赴き調査を行っているが、このような調査は、任意調査の範囲を逸脱している。
B 異議審理庁の調査担当職員は、請求人の異議申立てに対する調査において、K税理士と1回面接しただけで、請求人とは全く面接していない。十分な調査が行われていないのは、最初から異議申立てに対して棄却の意思が働いていると思われる。
(ハ)専従者給与
 本件期間において、Hが請求人の事業に従事していたことは、次の理由により明らかであるから、本件専従者給与を必要経費に算入できないとした原処分は、違法である。
A Hは、平成11年末まで、請求人が営むG歯科医院の副院長として、治療行為のほか、カルテ・レセプトの作成、青色申告帳簿の作成及び女性従業員の指導等を行っていた。
B Hは、請求人と別居した平成12年6月まで、P市R町○丁目○番○号所在の社会福祉法人L(以下「L」という。)の入居者に対して往診していた。
C Hが請求人の事業に従事していたことは、審査請求書に添付した患者等の確認書等(以下「本件確認書」という。)によっても明らかである。
D 原処分庁の答弁書では、Hが請求人の営む事業に従事していない旨申述しているようであるが、Hとは離婚訴訟中であり、Hの申述には信ぴょう性がない。
 また、Hは、離婚訴訟の場において、歯科医として請求人の事業に従事し、貢献した旨申し立て、財産分与の増額を主張しているらしい。
E Hが事業専従者として従事しなくなった平成12年は、収入が減少していることからも、請求人の事業にHが寄与していたことは明らかであり、医師1人で平成11年分までのような収入を得ることはできない。
F Hは、クレジットカードによる買物に年平均3,660,000円、土地購入に4,000,000円(見込み)、株式取得に6,790,000円、金銭信託に7,000,000円それぞれ費消しているが、請求人がHに本件専従者給与を支給しているから、これらの費消ができたのである。
ロ 重加算税の賦課決定処分
 上記イのとおり、更正処分は違法であり取り消されるべきであるから、重加算税の賦課決定処分も違法であり取り消されるべきである。
 また、通則法第68条《重加算税》第1項に規定する仮装、隠ぺいの事実は全くない。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分
(イ)更正の期間制限
 本件更正等通知書は、平成9年分の所得税の法定申告期限から3年を経過した日の前日である平成13年3月15日に、G歯科医院において原処分庁の職員が交付送達を行おうとしたものの、請求人がその受領を拒否したことから、やむを得ず当該通知書を差し置きにより送達したものであり、当該通知書を受領したのは同月17日である旨の請求人の主張には理由がない。
(ロ)調査手続等
 所得税調査に当たり、納税者の承諾を得なければ取引先等の調査ができないことを定めた法令の規定はないから、調査担当職員が請求人の従業員の自宅マンションに赴き調査したことには、何ら違法な点はない。
 また、原処分の調査手続等は、通則法及び所得税法の規定に従って適法にされており、何ら違法な点はない。
(ハ)専従者給与
 次の理由により、Hが請求人の営む事業に専ら従事したと認められないことから、請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、本件専従者給与は必要経費に算入できない。
A 請求人は、従業員に対して指揮監督を行うべき立場にあるにもかかわらず、原処分庁に対して、Hの具体的業務内容について明確な回答をせず、また、Hが従事した事実を証明するような証拠書類の提示もしなかった。
B 原処分庁に対して、H自身が請求人の営む事業に従事していない旨申述している。
C HがLへ往診を行ったのは平成7年ころの2か月程度であり、その回数は5、6回であった。
 また、往診の内容も入居者に1時間ほど歯の調子を聞く程度であった。
D 本件確認書の記載内容からは、Hが請求人の営む事業に専ら従事していた事実を確認できず、また、請求人は本件確認書の作成者に対して、偽った記載内容等に署名、押印を依頼している。
E 請求人は、Hとの離婚調停において、Hは専業主婦であり、医院の仕事を何もしていない旨主張している。
ロ 重加算税の賦課決定処分
 請求人は、Hが請求人の事業に従事していないにもかかわらず、請求人の事業に専ら従事しているかのように仮装し、本件専従者給与を事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入したことは明らかであり、このことは、通則法第68条第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したことに該当するから、重加算税の各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ 原処分庁の担当職員が作成した本件更正等通知書の送達記録書(以下「本件送達記録書」という。)によれば、「送達年月日時」欄には、「平成13年3月15日午前9時」、「送達(差置)場所」欄には、「P市Q町○−○−○G歯科医院内待合室の受付カウンター」及び「受取人がいないとき、又は受取人が受領若しくは署(記)名押印を拒んだときは、その理由」欄には、「請求人と面接し、当該通知書の受領を求めたが、請求人は受領を拒否し、外出したため差し置いた」などと、それぞれ記載されている。
 そして、当該送達記録書には、原処分庁の担当職員が本件更正等通知書をG歯科医院内の待合室の受付カウンターに差し置いた状況を撮影した写真が添付されている。
ロ Hは、平成13年5月23日に○○地方裁判所に対して、請求人を被告とする離婚等の請求を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起しているが、訴状の請求原因1の要旨は次のとおりである。
(イ)Hは、当初は請求人の歯科医院を手伝っていたものの、平成3年6月3日に次男が生まれた後は育児のため専業主婦として過ごしてきた。
(ロ)Hと請求人は、平成12年6月16日以降別居状態が続いている。
ハ 本件訴訟における請求人の平成13年7月18日付の被告第1準備書面の要旨は次のとおりである。
(イ)上記ロに記載の請求原因1はおおむね認める。
(ロ)基本的には妻は専業主婦であったが、年に何度かは緊急時に歯科医院を手伝っていた。
ニ 請求人は、当審判所に対し、請求人の主張を裏付ける資料として、次の書類を提出した。
(イ)本件確認書
(ロ)HがLに往診時に記載したとするノート
(ハ)上記のノートに対応するとする患者のカルテ
(ニ)Lに入居している患者のリスト
(ホ)本件期間における専従者給与の支給明細
(ヘ)Hに係る各年分の所得税源泉徴収簿
(ト)Hがクレジットカードを使用し、費消したとする月別の明細書
(チ)M銀行がHにあてた金銭信託運用状況の報告書
(リ)N証券株式会社がHにあてた証券の預り明細
(ヌ)P市S町○丁目○番○所在の土地の登記簿全部事項証明書
(ル)本件更正等通知書が原処分庁から郵送されたとする封筒の写し
ホ 上記ニの証拠書類によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件確認書は、Lの入居者及び従業員等並びに請求人の患者及び従業員が作成したもので、おおむね次のとおり記載されている。
A Hは、Lへの訪問診察を行っていた。
B 数年前には、L内に歯科室があり、Hは、歯の相談も行っていた。
C 請求人とHは、Lで歯に関する講演を行った。
D 数年前に、G歯科医院でHに歯の治療を受けた。
E Hに数回、薬を投与してもらった。
F 週1回程度、請求人が不在となることがあるが、その際に、HがG歯科医院全体の監督をしていた。
 なお、本件確認書には、訪問診察、講演及び治療等が行われたとする具体的な年月日等は記載されていない。
(ロ)HがLへ往診した時に記載したとするノートには、その日付、患者の氏名及び歯の調子を聴き取ったと思われる内容が記載されており、その内、請求人が平成10年分とするノートには、7月24日から9月25日までの間において5日分の日付が、平成11年分とするノートには、1月23日から6月26日までの間において16日分の日付がそれぞれ記載されている。
(ハ)本件期間における専従者給与の支払明細には本件専従者給与は、平成9年1月から同年9月までは、T銀行(現、○○銀行)○○支店のH名義の普通預金口座(口座番号○○○、以下「A預金」という。)に振込み、同年10月から平成11年12月までは、A預金と同銀行のH名義の普通預金口座(口座番号○○○、以下「B預金」という。)に分けて振り込んでいることが記載されている。
ヘ 当審判所が、H名義の各預金口座、請求人名義の預金口座及び請求人の収支日記帳を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)株式会社U等への支払として、A預金から口座振替により引き落とされている金額について収支日記帳と照査したところ、平成9年4月4日に同口座から引き落とされている214,995円については、平成9年4月10日の当該収支日記帳の「旅費交通費」欄に「新幹線回数券214,995」と記載されているなど、当該口座振替金額と当該収支日記帳に記載されている経費支出額、資産購入費等とが数多く一致する。
(ロ)B預金は、本件専従者給与が振り込まれると平成9年11月から平成10年2月までは、各月490,000円がH名義の定期預金に振り替えられ、平成10年3月から平成12年6月23日に同預金が解約されるまでは、各月500,000円がH名義の貯蓄預金に振り替えられている。
 また、請求人から本件専従者給与としてB預金に振り込まれた額から、上記の金額を差し引いた残額は、振込入金のあった直後にキャッシュカードで現金出金されており、B預金は預金残高がない状態にある。
(ハ)B預金は、平成12年6月23日に解約されているが、解約当日に当該預金から引き出された3,965,711円のうち、465,000円が請求人の普通預金口座に振替入金されている。
(ニ)請求人名義の新規の外貨定期預金9,949,980円は、平成11年6月10日にA預金及びB預金等から発生したと認められるV銀行○○支店のH名義の貯蓄預金から振り替えられている。
(ホ)H名義の所得税の確定申告に係る申告納税額は、平成10年分については○○○円が平成11年3月5日にA預金から、平成11年分については○○○円が平成12年2月18日に請求人名義の預金から、それぞれ引き出されている。
ト 請求人は、当審判所に対して、おおむね次のとおり答述した。
(イ)昭和61年にHと結婚したが、Hは昭和62年4月から平成11年12月までの間、請求人の事業に従事していた。
(ロ)Hは、診察室において治療行為等に従事したことはあまりないが、請求人が会合等で月数回出掛けるときは、Hに診察等を任せていた。
 また、歯科衛生士等への指示等の細かいことは、すべてHに任せていたが、Hに1人の患者の治療を任せることはなく、歯科助手として従事させていた。
(ハ)請求人は、午後0時から午後3時の間に往診に出掛けることがあるが、その際に患者から請求人の携帯電話に連絡があり、患者に薬を投与する必要が生じた場合は、必ずHに電話で指示し、薬を投与させていた。
(ニ)Hは、Lへ週2回程度往診に行っていた。
(ホ)Hは、診察室や待合室等の清掃及び待合室のレイアウトや飾り付け等も行っていた。
(ヘ)通常、病院の副部長や副院長は、全般的な管理事務を行うもので、HもG歯科医院の副院長として、当医院の全般的な管理事務を行っていた。
(ト)平成9年10月以降、本件専従者給与をA預金とB預金とに分けて振り込んでいる理由は、A預金を生活用とし、B預金を貯蓄用とするためである。
(チ)A預金から株式会社U発行のクレジットカード(以下「Uカード」という。)の引き落としがあるが、その大半は請求人の事業用である。
 カードの使用については、HがUカードのポイントを増やすために当該カードを使用してほしいと言ったことから使用したものであり、後日、当該金員相当以上のバッグや時計などを買ってHに返している。
(リ)請求人やH等の家族名義の預金通帳は、金庫に入れて一括保管しているが、A預金のキャッシュカードはHが所持しており、B預金のキャッシュカードは作っていない。
チ Hは、原処分庁に対して、おおむね次のとおり申述した。
(イ)私は、請求人と結婚してから長男が生まれた昭和63年までは、週2回程度助手として請求人の事業に従事していたが、長男が生まれた後は育児に手がかかり、平成3年には次男が生まれたこともあって、それ以後は、いかなる業務にも従事していなかった。
 しかし、患者が受け取りに来る薬を渡したり、朝に歯科医院の玄関の鍵を開けたりしたことはあった。
 また、3年くらい前の半年間は、月に1〜2回、実家の父が経営するLに往診していたことはあるが、G歯科医院で治療を受けたLの入居者に経過を聞く程度であり、往診は1回につき1時間程度であった。
(ロ)本件専従者給与の支給については、その実態を全く知らなかった。
 なお、生活費は、毎月300,000円から360,000円をA預金に振り込まれる形で受け取っていたが、それ以外の金銭の受領については全く知らない。
(ハ)私名義の平成10年分及び平成11年分の所得税の確定申告書に署名、押印したこともなく、提出されていることも全く知らなかった。
(ニ)昭和62年に歯科医師の資格を取得したが、大学を卒業後、治療などをした経験がないので、平成12年4月から○○歯科大学に臨床研修医として、歯科の治療方法の勉強のため通っている。
(ホ)A預金及びB預金を開設したのは請求人であり、A預金は請求人からの生活費の振込口座であると認識し、B預金を含めA預金以外の私名義の預金口座の存在すら全く知らない。
リ Hは、当審判所に対して、原処分庁に対する申述内容に相違がないとした上で、おおむね次のとおり答述した。
(イ)本件期間において、患者への治療行為、歯科衛生士等への指示、投薬、受付、待合室の飾り付け、診察室の清掃及び管理・経理事務を行ったことはない。
(ロ)Lへの往診を行っていた時期は、平成10年の秋から平成11年の春くらいまでの月2回程度であり、往診の内容は、当該Lの患者に話を聞くだけで治療はしていない。
(ハ)請求人から給与をもらったことはない。したがって、給与明細書をもらったこともなく、私に給与が支払われていること自体知らなかった。
(ニ)A預金については、請求人からの生活費の振込口座であると認識しており、当該預金から生活費を引き出していた。
 なお、当該預金口座の通帳、キャッシュカードは所持しているが、印鑑は請求人が所持し、管理していた。
(ホ)請求人と結婚して以来、請求人から洋服、バッグ等を買ってもらったことはない。
(ヘ)P市S町○丁目○番○所在の土地及び建物は、私の実家の両親が所有しているものであり、取得資金も両親から出ている。
 なお、両親と一緒に住むことを予定し、当初、土地の所有者を私名義にしたが、贈与税がかかると聞き、両親名義に変更した。
ヌ 本件確認書に署名した者の1名は、当審判所に対し、おおむね次のとおり答述した。
(イ)奥歯の治療を受けていたころ、Hに消毒や薬の投与をしてもらった。
(ロ)Hに消毒等をしてもらったのが3年前と言うよりも4、5年前という感じがしたので、本件確認書には「数年前」と記載した。
ル 本件期間に勤務していた従業員3名は、原処分庁に対し、それぞれおおむね次のとおり申述した。
(イ)Hが診察や治療を行っているところは見たことがなかった。
(ロ)Hの白衣姿を見たことはなかった。
(ハ)Hが受付をしているところを見たことはなかった。
(ニ)Hから業務に関する指示を受けたことはないし、請求人からHの指示を受けるようにと言われたこともなかった。
(ホ)HがG歯科医院の何らかの仕事に従事しているという認識は全くなかった。
ヲ K税理士は、異議審理庁に対して、おおむね次のとおり申述した。
(イ)郵便官署日付が本件更正等通知書の入った封筒に押印されているのは、請求人若しくは請求人の従業員が当該封筒をG歯科医院近くの郵便ポストに投函したためである。
(ロ)H名義の平成10年分及び平成11年分の所得税の確定申告書は、私の事務所の者が作成したものであり、請求人から当該申告書の作成依頼があったと思う。

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(2)更正処分

イ 更正の期間制限
 請求人は、本件更正等通知書は原処分庁から郵送され、当該通知書を受領したのは平成13年3月17日であることから、平成9年分の所得税の更正処分は、法定申告期限から3年を経過してなされたものであり、通則法第70条の規定に反する旨主張するので、以下審理する。
(イ)通則法第12条《書類の送達》第1項は、国税に関する法律に基づいて税務署長その他行政機関の長又はその職員が発する書類は、郵便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)に送達する旨規定し、同条第5項第2号は、交付送達について、書類の送達を受けるべき者等が送達すべき場所にいない場合又はこれらの者が正当な理由がなく書類の受領を拒んだ場合には、送達すべき場所に書類を差し置くことにより行うことができる旨規定している。
 そして、通則法第70条第1項第1号は、国税の更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においてはすることができない旨規定している。
(ロ)これを本件について見ると、〔1〕原処分庁の職員が本件送達記録書に記載されている送達年月日である平成13年3月15日にG歯科医院に赴いたことは、請求人も自認していること、〔2〕本件送達記録書には、原処分庁の職員が本件更正等通知書をG歯科医院内で差し置いた状況を示す写真が添付されていること、〔3〕K税理士は、前記3の(1)のヲの(イ)のとおり、本件更正等通知書の入った封筒を請求人若しくは請求人の従業員がポストに投函した旨申述していることからすると、本件更正等通知書は、平成13年3月15日に送達されたものと認められるから、平成9年分の更正処分は、通則法第70条第1項第1号に規定する除斥期間内にされた適法なものである。
 したがって、請求人の主張には理由がなく、請求人の主張を採用することはできない。
ロ 調査手続等
(イ)請求人は、調査担当職員が請求人の従業員の自宅マンションに赴き調査したことについて、任意調査の範囲を逸脱している旨主張する。
 しかしながら、請求人の従業員に対する質問検査を請求人の事業所で行わなければならないという法令上の定めはなく、調査時における質問検査の方法、程度等は、専ら税務職員の合理的な裁量にゆだねられているところ、当審判所の調査によっても、調査担当職員の判断に合理性を欠いた点はなかったと認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)さらに、請求人は、異議審理庁の調査不十分を理由として原処分の取消しを求めているが、異議審理手続の違法又は不当は原処分の取消事由に当たらないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ハ 専従者給与
 請求人は、Hが本件期間において、請求人の事業に従事していたことは明らかであるから、本件専従者給与を必要経費に算入できないとした原処分は違法である旨主張するので、以下審理する。
(イ)所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第1項は、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族で専らその居住者の営む事業に従事するものが当該事業から所定の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る事業所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする旨規定している。
 また、所得税法施行令第165条《親族が事業に専ら従事するかどうかの判定》第1項において、専らその居住者の営む事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて6月をこえるかどうか(ただし、相当の理由のある場合には、当該事業に専ら従事する期間は、当該従事可能期間の2分の1をこえるかどうか)による旨規定している。
(ロ)前記1の(3)の基礎事実及び上記(1)の事実を上記(イ)に照らして判断すると、次のとおりである。
A 請求人は、Hが事業に従事していた業務は、〔1〕G歯科医院における副院長としての全体の管理事務及び治療行為、カルテ・レセプトの作成、女性従業員の指導、請求人の往診中における患者への薬の投与、診察室、待合室の清掃等、〔2〕青色申告帳簿の作成等及び〔3〕Lの入居者に対する往診である旨主張する。
 そこで、これらの業務についてHの従事状況及び従事の程度等を検討すると、次のとおりである。
(A)G歯科医院内での業務については、Hが請求人の主張する上記の業務に専ら従事していれば、他の従業員もHの業務内容を当然認識していたと考えられるところ、本件期間に勤務していた従業員は、それぞれ原処分庁に対し、前記3の(1)のルのとおり、〔1〕Hの白衣姿、受付をしているところや診察、治療をしているところを見たこともなく、〔2〕Hから業務に関する指示を受けたことも、請求人からHの指示を受けるようにいわれたこともなく、また、〔3〕HがG歯科医院の何らかの仕事に従事しているという認識は全くなかったと申述していることからすると、Hが上記の業務に従事していたということはできない。
 また、前記3の(1)のヌのとおり、本件確認書を作成した者の答述からも本件期間においてHが治療行為を行っていた事実を確認することはできず、前記3の(1)のチの(ニ)のHの申述には信ぴょう性があり、Hが治療行為に従事していたとは認められない。
(B)青色申告帳簿の作成業務については、請求人はHが作成したとする当該帳簿及び原始記録等を当審判所に提出又は提示していないので、具体的にどの程度の業務を行っていたのかを判断することはできない。
 したがって、請求人がHの青色申告帳簿の作成業務を立証する当該帳簿等を提出等しない以上、請求人の主張を直ちに採用することはできず、Hが請求人の事業に従事していたということはできない。
(C)Lの入居者に対する往診業務については、前記3の(1)のニの(ロ)のノートの記載内容、筆跡等から見ると、当該ノートは、HのLの入居者に対する往診時に同人が記載したものであると認められ、Hも、実家の父が経営するLに往診していた旨の答述等をしていることから、HはLに往診していた事実があったことが認められる。
 しかしながら、当該ノートと前記3の(1)のニの(ハ)のカルテ及び同(ニ)の患者リストを検討したところ、当該ノートは、請求人が主張するように、平成10年及び平成11年の往診内容を記載したものと認められるものの、前記3の(1)のホの(ロ)のとおり、平成10年は、7月24日から9月25日までの延べ5日分で、平成11年は、1月23日から6月26日までの延べ16日分であり、このことは、前記3の(1)のリの(ロ)のLへ往診を行った時期は、平成10年の秋から平成11年の春にかけての往診で、月2回程度であったとするHの答述とも一致することから、Hの往診業務は、時間、回数共にまれであることが認められる。
 そうすると、上記従事日数をもって、Hがその年を通じて6月をこえて従事しているとはいえず、Hが請求人の事業に専ら従事していたということはできない。
 また、前記ただし書に規定する従事可能期間の2分の1をこえるかどうかの判定に当たり相当の理由がある場合とは、例えば、長期にわたる病気などによりその事業に従事できなかったこととされており、Hにそのような理由があるとはいえない。
B 請求人は、医師1人では平成11年までのような収入を得ることはできないので、Hが請求人の事業に従事していた旨主張するが、前記1の(3)のホのとおり、平成12年分の収入金額が本件期間の収入金額に比べ著しく減少しているとする事実を認めることができず、請求人の主張は採用できない。
C なお、Hは、原処分庁に対し、前記3の(1)のチの(イ)のとおり、患者が取りに来る薬を渡したり、G歯科医院の玄関の鍵を開けたりしたことがあった旨申述しているが、仮にHがこれらのことをしていたとしても、それは配偶者としての単なる補助行為と見るのが相当であり、また、本件訴訟において、Hは、前記3の(1)のロの(イ)のとおり、次男が出生した後は専業主婦として過ごしてきたと主張し、請求人は、前記3の(1)のハのとおり、妻に年に何度かは緊急時に歯科医院を手伝ってもらっていたことがあるが、妻は専業主婦であったと主張していることから見ても、Hが請求人の事業に専ら従事していた事実はなかったと判断するのが相当である。
D 以上のとおり、本件期間において、Hは、所得税法施行令第165条に規定する事業に専ら従事する期間がその年を通じて6月又は従事可能期間の2分の1をこえて請求人の事業に従事していたと認めることは到底できない。
(ハ)したがって、Hは専ら請求人の事業に従事していなかったとして、Hに対する本件専従者給与は請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入できないとした原処分は適法である。

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(3)重加算税の賦課決定処分

 請求人がHに対して本件専従者給与を支給したとして、事業所得の金額の計算上必要経費に算入したことに、仮装、隠ぺいの事実があったか否かについて、以下審理する。
イ 通則法第68条第1項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、その基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
 この規定は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科する刑事罰とは異なり、納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課すという行政上の措置であり、このような行政上の措置を講じることにより、その発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持するところにあると解されている。
 なお、ここでいう「事実を隠ぺいする」とは、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠匿し、あるいは故意に脱漏することをいい、「事実を仮装する」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関して、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解されている。
ロ これを本件について見ると、次のとおりである。
(イ)前記3の(2)のとおり、Hは請求人の事業に専ら従事していたとは認められないところ、請求人は、Hに対して本件専従者給与を支給したとして事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。
(ロ)請求人は、H名義のA預金及びB預金に本件専従者給与を振り込むことにより、実際に支給していた旨主張するが、A預金について、Hは、請求人からの生活費の振込口座であると認識していた旨答述し、請求人も、前記3の(1)のトの(ト)のとおり、平成9年10月以後A預金とB預金とに分割して振り込んでいるのは、A預金を生活用とし、B預金を貯蓄用とするためである旨答述していることから、HにとってA預金は単に生活費を引き出すための預金口座であったと認められる。
 また、A預金の生活費以外の口座引き落としについて見ると、前記3の(1)のヘの(イ)のとおり請求人が事業用のものを購入等していることが見受けられる。
 さらに、Hは、前記3の(1)のチの(ホ)のとおり、A預金以外のH名義の預金口座についてはその存在すら全く知らない旨申述し、前記3の(1)のリの(ハ)及び(ニ)のとおり、請求人から給与明細書をもらったこともなく、自分に給与が支払われていること自体知らなかった旨答述していること及び前記3の(1)のヘの(ロ)ないし(ニ)からすると、請求人が専従者給与相当額を振り込んでいるとする預金口座は、請求人が管理、運用しているものと認められる。
 そうすると、請求人がH名義の預金口座に専従者給与相当額を振り込んでいると主張していることをもって、本件期間にHに本件専従者給与を支給していたと認めることはできず、請求人の主張は採用できない。
(ハ)請求人は、前記3の(1)のニの(ト)から(ヌ)の証拠書類を当審判所に提出し、Hに本件専従者給与を支給しているから、これらの費消ができたものである旨主張する。
 しかしながら、〔1〕Hがクレジットカードを使用し費消したとする月別明細の内容は、請求人が事業用にその大半を支出していること、〔2〕Hが取得したとする土地はHの実家の両親の共有になっていること、〔3〕Hの金銭信託7,000,000円のうち4,500,000円の原資は、本件期間以前に発生し、残りの2,500,000円は、生命保険の満期返戻金の一部によって支払われていること、〔4〕株式の取得は本件期間以後であり、その原資が定かでないことから、直接的な証拠とはいえず、これらの書類によって、本件期間にHに本件専従者給与を支給していたと認めることはできず、請求人の主張は採用できない。
(ニ)また、前記1の(3)のヘのとおり、請求人が支給したとする本件専従者給与を給与の収入金額とするH名義の確定申告書が提出されているが、〔1〕前記3の(1)のヲの(ロ)のとおり、K税理士は、当該申告書の作成依頼者は請求人であったと思う旨申述していること、〔2〕Hは、前記3の(1)のチの(ハ)のとおり、当該申告書に署名、押印したこともなく、当該申告書が提出されていることを全く知らなかった旨申述していること及び〔3〕前記3の(1)のヘの(ホ)のとおり、平成10年分に係る納税額は、A預金から引き出されて納付されているものの、平成11年分に係る納税額は、請求人名義の預金から引き出されて納付されていることからすると、当該申告書は、本件専従者給与をHに支給したように装い、専従者給与相当額を請求人の事業所得の金額の計算上控除することを目的として提出されたものと見るのが相当である。
(ホ)以上のことから、前記3の(2)のハの(ロ)のとおり、Hが本件期間において請求人の事業に従事した時間がきん少であったことは、配偶者である請求人にとって明白な事実であり、請求人は、Hが専ら請求人の事業に従事していないこと及び本件専従者給与が本来Hに支給されるものではないことを十分認識した上で、請求人自身が開設したと認められる同人の管理するH名義の預金口座に専従者給与相当額を振込み、Hに本件専従者給与を支払ったとして請求人の事業の必要経費に算入して所得金額を過少に計算し、確定申告を行ったものというべきであり、このことは、租税を不当に免れる目的をもって、故意に課税標準額等の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したことに該当することは明らかである。
 また、請求人がHに支払ったとする本件専従者給与は、支給された側のH自身も知らないものであり、Hの知らない口座に振り込む等して請求人が実質的に預金等を管理し、運用を図っていたものと認められることからしても、Hへの仮装の本件専従者給与の支給を作出したものであることは明らかである。
(ヘ)したがって、原処分庁が、通則法第68条第1項の規定に基づき行った各年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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