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(平14.1.24裁決、裁決事例集No.63 110頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、自動車販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の、平成11年5月1日から平成12年4月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)における、債務免除益の発生の有無及び譲渡した土地の取得に係る借入金の支払利息の譲渡原価算入の可否が争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり(以下、別表1の「更正処分」欄のとおりの更正処分を「本件更正処分」、「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」といい、これらの処分を併せて「本件更正処分等」という。)。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和47年7月19日から昭和48年4月30日までの事業年度に法人税法第121条《青色申告》第1項に規定する青色申告の承認を受けた後、本件事業年度までの各事業年度について継続して青色の確定申告書(以下「確定申告書」という。)を提出していた。
ロ 請求人は、本件事業年度の確定申告書の「所得の金額の計算に関する明細書(別表四)」の「欠損金又は災害損失金の当期控除額」欄に、本件事業年度の開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(以下「繰越欠損金額」という。)を85,477,766円と記載して損金の額に算入した。
ハ これに対し、原処分庁は、繰越欠損金額は別表2の「原処分庁主張額」欄のとおり65,094,962円であるから、これを超える金額20,382,804円は繰越欠損金額の当期控除額の過大額であるとして本件更正処分等をした。(以下、平成4年5月1日から平成5年4月30日まで、平成5年5月1日から平成6年4月30日まで、平成6年5月1日から平成7年4月30日まで、平成7年5月1日から平成8年4月30日まで、平成8年5月1日から平成9年4月30日まで、平成9年5月1日から平成10年4月30日まで及び平成10年5月1日から平成11年4月30日までの法人税の各事業年度を順次「平成5年4月期」、「平成6年4月期」、「平成7年4月期」、「平成8年4月期」、「平成9年4月期」、「平成10年4月期」及び「平成11年4月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)S信用保証協会(以下「信用保証協会」という。)からの債務免除益は、代位弁済した日の翌日以後の年14.6パーセントの割合により算出された損害金(以下「損害金」という。)の免除部分を含めて算出されているが、当該損害金は仮計算によって算出されたものであり、また、信用保証協会に弁済すべき損害金の額は、信用保証協会の申出額、すなわち信用保証協会に差し入れた担保物件の土地(以下「本件土地」という。)の譲渡代金により弁済した金額であるから、債務免除益は発生しない。
(ロ)本件土地の譲渡原価は、本件土地の取得価額に本件土地の取得に係る借入金の支払利息(以下「本件支払利息」という。)を加算した金額とすべきである。
(ハ)なお、請求人は、本件更正処分に対して、当初は平成6年4月期に生じた欠損金額(以下「平成6年4月期欠損金額」という。)について、倒産時の和解の延長であるから課税にはならず、本件事業年度の損金の額に算入されるべきである旨主張していたが、上記(イ)及び(ロ)のとおりその主張を変更したものである。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)信用保証協会が、毎年請求人の決算日である4月30日現在において請求人に対して有する総求償権残高を記載して請求人に送付している通知書(以下「残高通知書」という。)には、損害金の額が記載されていることから、残高通知書の作成時点において損害金の額は確定している。一方、請求人は、本件各事業年度において前事業年度末から増加した損害金の額を支払利息割引料として損金の額に算入し、かつ、損害金を含めた債務の合計額を信用保証協会からの借入金の期末残高としている。
 したがって、債務免除時における損害金の額を含めた債務の合計額が、債務免除益として益金の額に算入されるべきである。
(ロ)請求人は、本件支払利息を本件土地の取得価額に含めずに発生時に損金の額に算入しているのであるから、本件支払利息を本件土地の譲渡原価に算入すべき理由はない。
(ハ)なお、請求人の上記(1)のイの(ハ)の変更前の主張については、法人税法第57条《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》において、確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定されており、本件事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入する欠損金額は平成6年5月1日以後に開始した事業年度において発生した欠損金額に限られるのであるから、平成6年4月期欠損金額は、本件事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入することはできないこととなる。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に従い正しく計算された本件事業年度の本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、債務免除益の発生の有無及び本件支払利息の譲渡原価算入の可否にあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 債務免除益の発生の有無
(イ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、平成2年6月21日にT銀行○○支店(以下「T銀行」という。)から極度額5千万円の当座借越を受けるに当たり、信用保証協会との間で信用保証委託契約を締結し、信用保証委託契約書(以下「本件委託契約書」という。)を取り交わした。
B 請求人は、本件委託契約書において、次の各条項を確約している。
第3条(担保)
1 貴協会に差し入れた担保につき、その担保の全部及び一部が滅失したとき、若しくは価格の下落等により担保価値に変動が生じたとき、又は保証人の能力に著しい変動が生じたときは、直ちに増担保を差し入れ、又は保証人を追加します。
2 貴協会に差し入れた担保は、必ずしも法定の手続によらず、一般に適当と認められる方法、時期、価格等により貴協会において処分できるものとします。
3 金融機関から貴協会が譲渡を受けた担保又は貴協会に移転した担保についても、前2項に準じて取り扱うことに同意します。
第5条(代位弁済)
1 委託者が借入金債務の全部又は一部の履行を遅滞したため、貴協会が金融機関から保証債務の履行を求められたときは、委託者及び保証人に対して、通知、催告をしなくても弁済できるものとします。
2 貴協会の前項の弁済によって金融機関に代位する権利の行使に関しては、委託者が金融機関との間に締結した契約のほか、なおこの契約の各条項が適用されるものとします。
第6条(求償権の範囲)
 貴協会が前条第1項の弁済をしたときは、貴協会に対して、その弁済額及びこれに対する弁済の日の翌日以後の年14.6パーセントの割合による損害金並びに避けることのできなかった費用その他の損害を償還します。この場合の損害金の計算方法は、年365日の日割計算とします。
C 信用保証協会は、T銀行からの請求により平成4年11月5日に代位弁済を行い、同日付で請求人に対して代位弁済通知書を送付し、その中で今後は信用保証協会へ代位弁済金及び代位弁済日の翌日から年14.6パーセントの割合による損害金並びに未収保証料等を支払うよう求めた。
D 信用保証協会は、残高通知書の求償権内訳欄に総求償権残高を元金残高、損害金残高及び立替費用等に分けて記載し、これを請求人に送付した。
E 請求人は、残高通知書の総求償権残高の金額をもって、確定申告書に添付している貸借対照表の借入金の内訳を示す「借入金及び支払利子の内訳書」(以下「借入金内訳書」という。)に信用保証協会からの借入金残高として記載する一方、残高通知書の求償権内訳欄に示された損害金残高のうち前事業年度末から増加した損害金の額を損益計算書に支払利息割引料として計上した。
F 平成11年4月30日現在において信用保証協会が請求人に対して有する総求償権残高は、元金残高33,593,984円(以下「本件元金」という。)に損害金残高69,603,722円(以下「本件損害金」という。)を加えた103,197,706円であるが、この金額は、請求人の提出した平成11年4月期の確定申告書の借入金内訳書に記載された信用保証協会からの借入金残高103,197,706円と一致している。
G 請求人は、平成11年8月13日信用保証協会に対して、本件委託契約書第3条の定めに基づき担保として差し入れた本件土地の譲渡代金55,000,000円(以下「本件土地譲渡代金」という。)を内入れすることで、請求人の信用保証協会に対する債務が完済扱いとならないかということを申し出た。
 これを受けて信用保証協会は、平成11年8月17日請求人に対して、同月31日までに本件土地譲渡代金の内入れをすることで請求人の信用保証協会に対する債務を完済扱いとする旨請求人に伝達したところ、請求人は本件土地の譲渡を同月25日頃行う意向であるが、日程等は後日連絡する旨回答した。
H 請求人は、平成11年8月19日信用保証協会に対して、本件土地の譲渡を同月31日にU信用金庫○○支店にて午前10時より行う旨連絡した。
I 請求人は、平成11年8月31日U信用金庫○○支店において、請求人の信用保証協会に対する債務を本件土地譲渡代金をもって弁済し、これと引き換えに信用保証協会から担保解除関係書類の交付を受けた。
J 平成11年9月1日信用保証協会は、請求人及び連帯保証人あてに「本件の債務につきましては、平成11年8月31日に完済扱いしましたので、今後一切請求することはございません。」と記載した通知書を発送した。
 なお、この通知により信用保証協会が免除した損害金は、本件損害金から本件土地譲渡代金のうち本件元金の弁済に充てた残額21,406,016円を控除した金額48,197,706円(以下「本件免除損害金」という。)である。
K 請求人は、上記Jの本件免除損害金を本件事業年度の確定申告書の「雑益、雑損失等の内訳書」(以下「雑益等内訳書」という。)に、雑収入として信用保証協会からの損害金値引48,197,706円と記載して申告した。
(ロ)ところで、一般に債務の免除は、債務者の意思にかかわりなく、債権者の債務者に対する一方的な意思表示によってなされるものであり、当該意思表示が相手方に到達したときをもってその効力が生ずるものであるから、債務者が当該意思表示を受領したとき、債務免除益が収益として実現されるものと解されている。
(ハ)そこで、上記(イ)の認定事実を上記(ロ)に照らして判断すると、次のとおりである。
A 上記(イ)のB及びDのとおり、損害金は毎年返済の滞っている元金残高に対して本件委託契約書第6条に基づいて計算されたものであり、かつ、その金額は毎年の残高通知書に損害金残高として記載されて請求人に送付されていること及び上記(イ)のEのとおり、請求人は本件各事業年度の決算に当たり、信用保証協会に対する借入金を残高通知書の総求償権残高により計上し、また、前事業年度末から増加した損害金の額を支払利息割引料として損益計算書に計上していることが認められる。
 そうであれば、上記(イ)のJのとおり、信用保証協会が本件免除損害金を損害金の減免額として通知し、これを請求人において受領した以上、本件免除損害金は債務免除益となるものであり、上記(イ)のKのとおり、請求人が本件事業年度の確定申告書の雑益等内訳書に本件免除損害金を雑収入として記載し、申告しているのは当然のことである。
B これに対し、請求人は、損害金は仮計算により算出されたものである旨主張するが、上記Aのとおり、損害金は本件委託契約書第6条に基づいて信用保証協会が正当に計算したものであり、かつ、その金額は、毎年残高通知書により請求人に通知され、請求人は損害金を支払利息割引料として損金の額に算入しているのであるから、請求人の主張には理由がない。
C また、請求人は、信用保証協会に弁済すべき損害金の額は信用保証協会の申出額、すなわち本件土地譲渡代金により弁済した金額であるから、債務免除益は発生しない旨主張するが、上記(イ)のGのとおり、もともと本件土地譲渡代金の内入れによる債務の完済を申し出たのは請求人の方であり、仮に信用保証協会が請求人にその旨を打診したとしても、そのことをもって本件免除損害金について債務免除益が発生しないとする理由にはならない。
D したがって、原処分庁が信用保証協会からの損害金の免除により請求人に債務免除益が発生するとしたことは相当であり、その計算にも誤りはなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件支払利息の譲渡原価算入の可否
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地は、昭和56年3月12日に売買を原因として請求人に所有権移転登記がされている。
 また、本件土地には昭和56年3月28日付で極度額2千万円、債権の範囲を銀行取引、手形債権及び小切手債権とするT銀行の根抵当権設定登記がされている。
B 信用保証協会が代位弁済した平成4年11月5日を含む本件各事業年度の確定申告書に添付された貸借対照表における土地勘定の金額は、7,000,251円で増加しておらず、本件支払利息を本件土地の取得価額に算入している事実はない。
 また、土地勘定以外の固定資産科目にも建設仮勘定に類する科目はない。
(ロ)ところで、固定資産の取得に係る借入金の支払利息は、たとえ当該固定資産の使用開始前の期間に係るものであっても、これを当該固定資産の取得価額に算入しないことができると解されており、支払利息を固定資産の取得価額に算入するか否かは法人の選択に委ねられている。
 したがって、法人が土地等の固定資産の取得に係る借入金の支払利息を土地勘定あるいは建設中の固定資産に係る建設仮勘定に含めた場合には、支払利息は固定資産の取得価額に算入されたことになる。
(ハ)そこで、上記(イ)の認定事実を上記(ロ)に照らして判断すると、次のとおりである。
A 請求人は、本件土地の譲渡原価は本件土地の取得価額に本件支払利息を加算した金額とすべきである旨主張するが、土地の取得価額に土地の取得に係る借入金の支払利息を算入するためには、支払利息を損金の額に算入せず、土地の取得価額あるいは建設中の固定資産に係る建設仮勘定に算入しなければならないところ、請求人が提出した本件各事業年度の確定申告書に添付された貸借対照表によれば、上記(イ)のBのとおり、土地勘定の金額は全く増加していない上、土地勘定以外の固定資産科目にも建設仮勘定に類する科目はないので、本件支払利息は、本件土地等の取得価額ではなく、本件各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入されていたものと認められるから、本件支払利息を本件土地の譲渡原価に算入することはできない。
B したがって、原処分庁が請求人は本件支払利息を本件土地の取得価額に含めずに発生時に損金の額に算入しているのであるから、本件支払利息を本件土地の譲渡原価に算入すべき理由がないとしたことは相当であり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のことから、請求人の主張にはいずれも理由がなく、平成6年4月期欠損金額は、本件事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入することはできないとしてなされた本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。
(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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