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(平14.2.25裁決、裁決事例集No.63 212頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、K地方裁判所(以下「K地裁」という。)から破産宣告を受けたP市Q町○○番○○号所在のF株式会社(以下「破産会社」という。)の破産管財人である審査請求人(以下「請求人」という。)に支払われた破産管財人報酬について、所得税を源泉徴収すべきか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人が受領した破産管財人報酬は破産会社が請求人に支払った給与に当たるとして、平成12年3月13日付で平成11年12月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、別表1の「本税額」欄のとおりの納税告知処分(以下「当初納税告知処分」という。)及び同表の「不納付加算税額」欄のとおりの不納付加算税の賦課決定処分(以下、「当初賦課決定処分」といい、当初納税告知処分と併せて「当初納税告知処分等」という。)をした。
 なお、当初納税告知処分等の納税告知書は、「住所(所在地)」欄を「P市R町○○番地○○ビル○○号」と記載し、「氏名(名称)」欄を「破産者F株式会社破産管財人G」と記載した。
ロ 原処分庁は、平成12年3月17日付で別表2の「本税額」欄及び「不納付加算税額」欄のとおりの当初納税告知処分等の本税額及び不納付加算税額をそれぞれ零円に訂正するとした処分(以下「訂正通知処分等」という。)をした。
ハ 原処分庁は、平成12年3月17日付で平成11年12月分の源泉所得税について、別表3の「本税額」欄のとおりの納税告知処分(以下「再納税告知処分」という。)及び同表の「不納付加算税額」欄のとおりの不納付加算税の賦課決定処分(以下、「再賦課決定処分」といい、再納税告知処分と併せて「再納税告知処分等」という。)をした。
 なお、再納税告知処分等の再納税告知書は、「住所(所在地)」欄を「P市Q町○○番○○号」と記載し、「氏名(名称)」欄を「F株式会社」と記載した。
ニ 請求人は、再納税告知処分等を不服として、平成12年5月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、請求人が受領した破産管財人報酬は破産会社が請求人に支払った弁護士の業務に関する報酬に当たるとして、同年8月24日付で別表4のとおりの再納税告知処分等の一部を取り消す異議決定(以下、異議決定による一部取消し後の納税告知処分及び賦課決定処分を、それぞれ「本件納税告知処分」、「本件賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件納税告知処分等」という。)をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年9月22日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 破産会社は、平成10年12月24日午前10時にK地裁から破産宣告(平成10年(○)第○○○号)(以下「本件破産事件」という。)を受け、破産管財人に弁護士であるG(以下「G弁護士」という。)が選任された。
ロ 平成11年5月20日に第1回債権者集会が開催され、現金等高価品の保管については、H銀行(現、○○銀行。以下同じ。)○○出張所の破産者F株式会社破産管財人弁護士G名義の普通預金口座(以下「G普通預金口座」という。)にて保管する旨の決議がなされた。
ハ K地裁は、平成11年9月9日に破産管財人報酬を 5,985,000円と定める(以下「本件管財人報酬」という。)旨決定した。
ニ 請求人は、平成11年12月6日に本件管財人報酬を受領した。
ホ 当初納税告知処分等及び再納税告知処分等に係る納税告知書は、所得の種類を給与と記載されている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件納税告知処分について
(イ)適正手続違反
 原処分に至る手続は、次のとおり、処分の相手方が不明確であり、一つの所得に対して二重の処分が存在するか、あるいは、二人格に対して処分がなされていることになるから、適正手続の保障を規定する日本国憲法(以下「憲法」という。)第31条に違反する。
A 当初納税告知処分等は、誰を名あて人としたものなのか明らかでない。すなわち、同処分は、破産会社を源泉徴収義務者とするのか、請求人を源泉徴収義務者とするのか判然としない。
B この点、当初納税告知処分等が破産会社を源泉徴収義務者とした処分であると理解すると、当初納税告知処分等は本税額及び不納付加算税額を零円に訂正されたのみで取り消されていないから、一つの所得に対して、当初納税告知処分等と再納税告知処分等との二重の処分が存在することとなる。
 これに対し、当初納税告知処分等が請求人を源泉徴収義務者とした処分であると理解すると、再納税告知処分等は破産会社を源泉徴収義務者とするものであるから、同一所得に対して、破産会社と請求人のそれぞれを源泉徴収義務者とした二つの処分が存在することとなる。
(ロ)本件納税告知処分
A 源泉所得税の納税告知処分は、源泉所得税の発生原因である給与等の支払事実ごとに納税義務が発生し、その額が自動的に確定した源泉所得税の納税義務を示すものであるから、その原因である給与等の支払事実が存在しない場合には、違法となるというべきである。
 そして、給与所得に係る源泉所得税と事業所得に係る源泉所得税とは、その課税根拠となる事実を異にする別個のものであるところ、異議決定において、源泉所得税の発生原因である給与の支払事実は存在しないとされた以上、本件納税告知処分は違法である。
B 次に、本件管財人報酬は、以下のとおり、事業所得に係る支払ではない。
(A)事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうとされているところ、次のとおり、本件管財人報酬は、事業所得には該当しない。
 まず、破産管財人の行う管財業務(以下「破産管財業務」という。)における費用はすべて破産財団の負担となるものであるから、破産管財業務は自己の計算と危険において遂行されていない。
 また、破産管財人は、選任者である裁判所の監督を受けるから、独立して営まれるものではない。
 さらに、破産管財人として誰を選任するかは裁判所の裁量であるから、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるとはいえない。
(B)これに対し、原処分庁は、本件管財人報酬を事業所得であると判断しているが、その判断の基礎となった事実には、次のとおり誤認がある。
a 破産管財業務は、破産管財人にのみ許された破産法に基づく執行業務であり、G弁護士が個人的に経営する法律事務所において雇用している事務員に分担させることはできない。
 したがって、かかる事務員に指示し、破産管財業務の一部を分担させている事実はないし、同人に対して分担に対する給与を支払っている事実もない。また、原処分庁が指摘する、G弁護士以外の者の筆跡による裁判所への申請書類は、破産財団からの預託金の返還許可申請書を指すものと思われるが、当該業務は、本来の破産管財人の業務ではない。
b 破産管財業務に必要であった破産財団の管理、換価に関する費用などは破産財団から支出されている。また、交通費、通信費、コピー代などの管理費は、一旦これを立て替え、後日、破産財団の負担となっている。
c 常置代理人は、破産管財業務の一部を分担しているから、その労務に対する対価は本来破産財団に対して直接請求すべきものであるところ、その選任が破産管財人と常置代理人との委任関係を基礎としているため、常置代理人の報酬は、破産管財人報酬の中に含まれて裁判所の裁量により決定されている。
 したがって、常置代理人の報酬についても破産管財人報酬に含まれて考慮されているのであるから、実質的には破産財団が負担しているといえる。
d 請求人は、G弁護士個人として、他にも破産管財業務を行っているが、それは偶然複数となっているだけのことであり、継続的、反復的なものではない。
 そして、破産管財人の選任については、裁判所が破産宣告決定の中で一方的に選任するものであり、選任するかどうか、いつ選任するかを含めてすべて裁判所の裁量に委ねられており、選任の希望、選任されることの意思あることを表明しても何の意味も持たないのであるから、反復継続の意思があるとはいえない。
e 破産管財人報酬の額は、裁判所が諸般の事情を総合勘案して決定するものであるが、かかる事実は、端的に破産管財人報酬が事業所得であることを否定するものである。
C さらに、原処分庁は、弁護士法第3条《弁護士の職務》の規定を根拠にして、本件管財人報酬を所得税法第204条《源泉徴収義務》第1項第2号に規定する弁護士の業務に関する報酬に当たると解しているが、これは次の理由から相当でない。
(A)まず、原処分庁は、破産管財人は裁判所により選任されることとなっており、官公署である裁判所の委嘱によりその任務に就くものである旨主張する。
 弁護士法第3条に規定する委嘱とは、その労務が委嘱した者のためになされ、その対価は委嘱した者からその計算において支払われるものをいう。これに対し、破産管財人は、破産者の財産関係の清算及び破産債権者への公平な弁済を目的とする強制換価手続を担当する執行機関であり、裁判所の一方的な選任はあっても委嘱は存在しない上、報酬も裁判所の予算から支出されるものではなく、破産者の財産を換価した後の配当原資から支出されることになる。
 したがって、弁護士法第3条に規定する委嘱と破産法第157条に規定する選任とは異なる概念であるから、破産法第157条に規定する選任は弁護士法第3条に規定する委嘱に該当しない。
(B)また、原処分庁は、破産管財人は破産法に基づき、財産の換価、配当等を行うものであるから、その業務は法律事務である旨主張する。
 しかしながら、破産管財業務は、弁護士法第3条の法律事務には当たらないというべきである。すなわち、弁護士法第72条《非弁護士の法律事務の取扱等の禁止》によって弁護士以外の者は法律事務を行うことができないにもかかわらず、弁護士以外の者でも破産管財人に選任されていること、破産手続における財産の換価、配当事務は法律事務ではないこと、破産法は、法人が破産管財人に選任されることを許容していることからすれば、破産管財業務は、弁護士法第3条に規定する法律事務ではないというべきである。
(ハ)源泉徴収義務者
 破産管財人報酬は、共益費用の性質を有する上、破産者は破産財団に属する財産に対して何ら権利を有しないことから、破産者に源泉徴収義務はない。
 したがって、破産者は源泉徴収義務者にはならない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件納税告知処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件納税告知処分について
(イ)適正手続違反
 当初納税告知処分等は、請求人の主張のとおり処分自体は存在しているが、訂正通知処分等によって、当初納税告知処分等に係る本税額及び不納付加算税額のいずれも零円に訂正されており、その結果、一つの納税義務について、納付すべき税額の告知は一つしか存在していないことになるから、何ら請求人の権利又は法律上の利益を侵害するものではない。
 したがって、当初納税告知処分等の存否が本件納税告知処分の効力に何ら関係するものではない。
(ロ)本件納税告知処分
A 源泉所得税の納税告知処分は、源泉徴収義務者が法定納期限までに納付すべき税額を納付しなかった場合に行うものであるから、それぞれの法定納期限ごとに一つの処分として行われるものである。そして、源泉徴収義務者が法定納期限までに納付すべき税額を納付しなかった場合とは、利子、配当、給与、報酬、料金その他源泉徴収をすべきものとされている所得の支払をする者が、その支払の際に所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなかった場合をいうのであるから、源泉所得税の納税告知処分の適法性は、所得区分に左右されることなく、納期限ごとに、納付すべき税額の多寡によって判断されるべきものである。
 したがって、本件納税告知処分は、破産者が同一の納期限において納付すべき源泉所得税の額の範囲内において適法となるというべきであるから、請求人に対する破産管財人報酬の支払を所得税法第204条第1項第2号の規定に該当する報酬として認定し、所得税法第205条《徴収税額》第1項第1号の規定を適用して算出した徴収すべき所得税の額を超える部分の額を取り消した後の本件納税告知処分は適法である。
B 本件管財人報酬は、以下のとおり、請求人の弁護士の業務に係る事業所得の総収入金額に算入すべきものである。
(A)請求人の行った破産管財業務は、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であることは明らかであるから、事業所得に該当するものというべきである。
(B)次に、異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)において、以下の事実が認められる。
a 請求人は、異議調査の担当職員(以下「異議調査担当職員」という。)に対し、自分の事務員は、自分の指示に基づいて破産管財業務の一部の業務を行っているが、どの程度行っているかは異議調査には関係ないから、話す必要はない旨申述しており、また、K地裁に提出された、破産財団の各申請書類(以下「申請書類」という。)の多くは、請求人のものとは異なる筆跡で記載されている。
b また、請求人は、異議調査担当職員に対し、裁判所の支出許可を受けるためには、破産財団のために必要であったことが明確に説明できなければならず、破産管財業務に必要となった事務員の給料、電気代、電話代、コピー代等の事務所内での共通費用については、他の事件や業務との区分が明確にはできないので、破産財団からの支出は認められない旨及びこれらの費用についても個別に明確な記録を作成し、他の費用と区分して裁判所に申請すれば支出が認められるかもしれないが、通常はまず無理であろうし、実際自分はその区分を行っていない旨申述しており、また、K地裁に提出された申請書類の中には上記費用の支払許可申請はない。
c 請求人は、常置代理人の報酬額も裁判所の裁量において決定されている旨主張するが、裁判所が決定するのは、破産管財人報酬の額である。
 そして、その決定に当たり勘案される事項は、破産財団の金額を基準として、管財事務の難易、破産管財人の職務の勤惰及び事務処理についての技量の巧拙、配当との均衡、その他の諸般の事情等であり、破産管財人は裁判所によって決定された自己の報酬の中から常置代理人の報酬を負担するに過ぎない。
d また、請求人は、G弁護士個人が複数の破産管財業務を行っていることは偶然であり、継続的、反復的なものではない旨主張する。
 しかしながら、請求人は、G弁護士個人としてG法律事務所を営み、同事務所において破産管財業務も行っており、本件破産事件以外にも破産管財業務を行っているのであるから、反復継続していることは明らかであり、破産管財業務を複数行っていることは請求人も自認しているのであるから、当然、請求人には、G弁護士個人として破産管財業務を反復継続する意思があるというべきである。
e 破産管財人報酬の額の決定方法は上記cにあるとおりであるから、破産管財業務は営利性、有償性を持つものである。
C 破産管財業務は、弁護士法第3条に規定する官公署の委嘱に基づき開始する法律事務であるから、本件管財人報酬は、以下のとおり、所得税法第204条第1項第2号に規定する弁護士の業務に関する報酬に当たるというべきである。
(A)弁護士の職務活動は、当事者その他の関係人の依頼や官公署の委嘱により開始されるものであるが、この際、通常は弁護士と依頼者や官公署の間に委任関係が成立する。
 しかしながら、国選弁護人や破産管財人の場合は弁護士と国との間には直接の委任関係は成立していないが、このことをもって直ちに弁護士法第3条に規定する委嘱に該当しないと判断することは相当でない。選任とは、ある人を選んでその任に就かせることであるから、破産法第157条に規定する選任は、弁護士法第3条に規定する官公署の委嘱の範疇に含まれると解される。
 これに対し、請求人は、その労務は委嘱した者のためになされ、その対価は委嘱した者からその計算において支払われる場合のみを委嘱という旨主張するが、委嘱とは一定の行為や事務を他人に依頼することと解されているに過ぎないのであるから、請求人が主張するように、これを狭く解する理由はない。
(B)また、弁護士以外の者が破産管財人に選任されているかどうかはともかく、破産管財業務は破産法に基づき財産の換価、配当等を行うものであるから、その業務は弁護士法第3条に規定する法律事務に該当すると解するのが相当である。
(ハ)源泉徴収義務者
 債務者が破産宣告を受けた場合には、破産法第6条及び第7条の規定により、その時において有する一切の財産は破産財団を構成し、その財産の管理処分権は破産管財人に専属することになるから、破産者は破産財団を構成する財産について、管理・処分する権限を失うこととなるが、このことから直ちに、破産宣告後においては破産者の財産が存在しなくなるわけではない。
 すなわち、破産法の趣旨は、破産者の財産に対する一般的執行を遂げる目的のために、破産者をして破産財団に属する財産の管理処分権を失わせただけのことであって、これ以外の所有権等の権利をまで失わせるものではないから、破産財団の所有権等は破産宣告があった後も依然として破産者に帰属し、破産者は相変わらず破産財団に属する財産の権利主体であると解されている。
 したがって、破産管財人報酬の支払と受領は、破産者が所有する破産財団に属する財産の減少と破産管財人に対する債務の消滅と、併せて、破産管財人が有する債権の消滅を意味することとなり、破産者から破産管財人に対して、役務提供の対価たる破産管財人報酬が支払われたものと認められるから、破産者が源泉徴収義務者となるというべきである。
(ニ)本件納税告知処分を正当とする理由
A 本件管財人報酬は、所得税法第204条第1項第2号に規定する弁護士の業務に関する報酬に該当するところ、当該報酬の支払者は、破産会社であるから、破産会社に源泉徴収義務が生ずることとなる。
 したがって、破産会社は、本件管財人報酬の支払日である平成11年12月6日に所得税を徴収し、その法定納期限(平成12年1月10日が行政機関の休日に当たるため、その翌日)である平成12年1月11日までに、これを納付しなければならないこととなるが、納付をしなかった。
B 破産会社は、平成11年12月6日に本件管財人報酬を請求人に支払っているから、その際に徴収すべき所得税額は、所得税法第205条第1項の規定により計算した金額1,097,000円となる。
 これは、本件納税告知処分と同額となるので、本件納税告知処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件納税告知処分は適法であり、また、請求人が源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、不納付加算税の額は、本件納税告知処分に係る納付すべき税額を基に、国税通則法第67条第1項の規定に従い正しく計算されている。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件は、主として破産管財人である請求人に支払われた本件管財人報酬について、所得税を源泉徴収すべきか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)本件納税告知処分について

イ 認定事実
 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)破産管財人は弁護士の中から選任されているのが現状であるところ、破産管財人が弁護士の中から選任されているのは、破産管財業務を遂行するに当たって法律問題を処理すべき必要のある場合が多いことなどの理由に基づいている。
(ロ)本件破産事件における破産管財人としてG弁護士を選任したK地裁において、少なくとも平成9年以降に限ってみても、弁護士以外の者が破産管財人に選任された事例はない。
(ハ)K地裁では、破産管財人の選任に当たり、担当裁判官が○○弁護士会所属の弁護士で破産管財人の受任を希望する者の中から、破産管財人の候補者(以下「管財人候補者」という。)を指名し、この管財人候補者に対し、担当書記官が就任依頼をしている。そして、管財人候補者から就任の返事を得た場合には、当該破産事件記録を閲覧してもらい利害関係の有無の確認を求め、管財人候補者に利害関係がない場合には、管財人候補者と第1回債権者集会期日及び債権届出期間の打合せをした上、破産決定と同時に破産管財人を選任するなどの手続をすることになっている。
(ニ)本件破産事件における破産管財業務をみると、売掛金回収のための売掛金請求訴訟や集合債権譲渡担保権者に対する否認権行使訴訟が提起され、破産財団に属する財産の換価処分等が行われている。
(ホ)本件管財人報酬は、K地裁がその額を決定したところに基づき、請求人において、K地裁に対する寄託金返還許可を経て、高価品保管場所として指定されたG普通預金口座から、預金を引き出すことによって、請求人に支払われている。
ロ 適正手続違反
 原処分に至る手続に関して、請求人は、処分の相手方が不明確であり、一つの所得に対して二重の処分が存在するか、あるいは、二人格に対して処分がなされていることになるので、憲法第31条に規定する適正手続に違反する旨主張するが、憲法に違反しているかどうかについての判断は、当審判所の権限外のことであるから、審理の限りでない。
 なお、当初納税告知処分等は存在するが、当初納税告知処分等は訂正通知処分等によりその本税額及び不納付加算税額をそれぞれ零円として訂正されており、その結果、当初納税告知処分等による請求人に対する権利又は法律上の利益の侵害はないというべきであるから、当初納税告知処分等の存在をもって本件納税告知処分等が違法、不当となるものではない。
ハ 本件納税告知処分
 次に、請求人は、異議決定により源泉所得税の発生原因である給与の支払事実がないものとされたのであるから、本件納税告知処分は違法であり、取り消されるべきである旨主張するので、審理したところ、次のとおりである。
(イ)まず、本件納税告知処分の前提となる源泉徴収義務の存否について判断する。
 この点について、原処分庁は、本件管財人報酬が給与の支払であり源泉徴収義務があるものとして当初納税告知処分及び再納税告知処分を行ったものであるが、異議審理庁において、本件管財人報酬は所得税法第204条第1項第2号に規定する弁護士の業務に関する報酬の支払であるとして源泉徴収義務があると判断されるに至った。
 そこで、本件管財人報酬が、源泉徴収義務の対象となる弁護士の業務に関する報酬に該当するか否かについて、以下検討する。
A 弁護士の職務については、弁護士法第3条第1項では、「弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。」と規定しているところ、かかる弁護士法第3条第1項に規定する職務を行ったことに伴い支払われた報酬は、通常、所得税法第204条第1項第2号に規定する弁護士の業務に関して支払われた報酬に当たると解するのが相当である。
 そして、ここに、委嘱とは、一定の事実行為又は事務をすべきことを他人に依頼することであり、法律事務とは、訴訟事件、非訟事件及び行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁、和解等を行うことと解されている。
B 破産管財業務について、上記Aに照らして判断すると、K地裁では、上記イの(ハ)にあるとおりの選任過程を経て、破産管財人が選任されるに至るのであるから、破産管財人の選任が弁護士法第3条第1項に規定する、官公署の委嘱に基づくものであることは明らかである。
 また、破産管財人の主な職務は、破産財団をもって総債権者に公平な配当を実現することにあり、そのために破産財団に属する財産を管理、処分する必要があるが、かかる破産財団の換価処分の過程においては、双務契約に関する処理(破産法第59条)のほか、逸失した財産を破産財団に取り戻するために訴え等により否認権を行使すること(破産法第76条)、破産財団に関する訴訟の追行(破産法第162条)などをする場合があること、破産管財人は、配当を受領する破産債権者の範囲及び債権額を確定しなければならないが、その届出債権については債権確定訴訟を追行しなければならない場合もあり得ること(破産法第244条以下)などにかんがみると、破産管財業務にはもともと法律的判断を伴う事務を行うことが予定されているといえるから、破産管財業務であるという一事をもって直ちに弁護士法第3条第1項にいう法律事務への該当性が否定されるものではない。
C これに対し、請求人は、弁護士でない者が破産管財人に選任されることがあること及び破産法は法人についても破産管財人として選任されることを許容していることから、破産管財業務は法律事務ではあり得ない旨主張する。
 しかしながら、本件破産事件において破産管財人として選任されているのはG弁護士であること、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、破産管財人には弁護士の中から選任されているのが現状であり、その理由としては、破産管財業務を遂行するに当たって法律問題を処理すべき必要のある場合が多いことなどに基づくものである上、G弁護士を本件破産事件における破産管財人に選任したK地裁において、少なくとも平成9年以降に限ってみても、弁護士以外の者を破産管財人に選任した事例はないこと、また、上記イの(ニ)のとおり、本件破産事件における破産管財業務をみると、売掛金回収のための売掛金請求訴訟や集合債権譲渡担保権者に対する否認権行使訴訟を提起し、あるいは破産財団に属する財産を換価処分等をするなど法律事務が含まれていることが明らかであること、さらに、現行の破産法は、破産管財人として自然人を想定し、法人自身が選任されることを予定していないというべきであることなどを考慮すると、少なくとも請求人が行った本件破産事件の破産管財業務は、弁護士法第3条第1項に規定する官公署の委嘱により行う法律事務に当たるといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
D 以上のとおり、請求人は、破産管財人として、弁護士法第3条第1項に規定する官公署の委嘱により法律事務を行っていることは明らかであり、また、本件管財人報酬は、上記1の(3)のニのとおり、本件破産事件の破産管財人に選任されたG弁護士に支払われているのであるから、所得税法第204条第1項第2号に規定する弁護士の業務に関して支払われた報酬であると認めることができる。
 したがって、本件管財人報酬は、弁護士の業務に関する報酬の支払として源泉徴収の対象となるべきものであり、本件管財人報酬の支払者には、源泉徴収義務がある。
(ロ)ところで、上記1の(3)のホのとおり、本件管財人報酬の支払について、原処分庁は、その所得の種類を給与として当初納税告知処分及び再納税告知処分を行ったところ、上記(イ)のとおり、弁護士の業務に関する報酬の支払と認めるべきものであったのであるから、その所得の種類を誤ったことになるので、このような誤りが本件納税告知処分の適法性を左右するかどうかについて、検討したところ、次のとおりである。
A 国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》において、源泉所得税は、利子、配当、給与、報酬、料金その他源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時に納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が自動的に確定する旨規定されているところ、源泉所得税の納税の告知は、給与等の支払の時に成立し、かつ、自動的に税額も確定している納税義務について、その納期限等を指定して、支払者に履行を求める徴収処分であって、支払者の納税義務の存否・範囲は、納税告知処分の前提問題にすぎない。
 そして、大量一括処理という源泉徴収制度の機能にかんがみ、国税通則法第36条《納税の告知》第2項は、納付すべき税額、納期限及び納付場所を納税告知書に記載すべきものとするにとどまり、受給者名、支給年月日など個々の源泉所得税を識別するに足りる事項の記載までは要求していない。これらの諸点を考慮すると、既に法定納期限の到来している源泉所得税の納税の告知において、当該告知に係る納付すべき税額に足りる未納の源泉所得税が告知処分時に客観的に存在している限り、たとえ法定納期限、所得の種類等に誤りがあったとしても、告知額が正当であるときは、それだけの理由で当該納税告知処分が違法となるものではないと解すべきである。ただ、当該納税告知処分が源泉所得税の納税義務の履行を求めるものであることからすれば、当該納税告知書に記載された所得の種類、法定納期限、年月ごとの本税額等の事項から、客観的にこれに包含されるものと認識できる範囲(同一性が認められる範囲)を超えることは許されないと解するのが相当である。
B 本件について、上記Aに照らして判断すると、もともと本件納税告知処分は、請求人が本件破産事件の破産管財人として受けた本件管財人報酬の支払事実を根拠とするものであり、この点は当初納税告知処分及び再納税告知処分も同様であること、所得の種類における本件納税告知処分と当初納税告知処分及び再納税告知処分との差異は、単に本件管財人報酬の支払という同一の事実に対する法的評価の違いにすぎないといえること、原処分庁が、本件管財人報酬の支払を給与所得に係る支払であるとして源泉所得税の額を計算し、納税告知書に記載しているが、当該支払に係る支払金額、支払年月日等、その認定額に誤りはないこと、上記(イ)のとおり、本件管財人報酬の支払については、破産管財人に選任されたG弁護士個人としての、弁護士の業務に関する報酬として源泉徴収義務があるというべきところ、本件管財人報酬という同一の支払に係る同一の法定納期限の未納の源泉所得税が告知処分時に客観的に存在しており、所得の種類及び告知額の記載事項に誤りがあるものの、異議決定により減額された本税額及び不納付加算税額は、再納税告知処分等の告知額の範囲内であることなどを考慮すると、本件においては、客観的にその対象となる支払が包含されているものと認識できる範囲にあると認められる。
 したがって、請求人が主張する当初納税告知処分及び再納税告知処分の過誤は、処分の同一性の範囲を損なわないものと認められ、この点に関する請求人の主張は採用できない。
C さらに、請求人は、本件管財人報酬が請求人の事業所得に該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件では、要するに、本件管財人報酬支払の法的性質が、源泉徴収すべき支払の対象として、所得税法第204条第1項第2号にいう報酬の支払に当たるのかどうかが問題となっているにすぎないところ、上記(イ)のとおり、本件管財人報酬は弁護士の業務に関する報酬の支払であると認めるべき性質のものであって、このことにより源泉徴収の対象となる報酬であると認められること、納税告知処分に係る納税告知書には、所得の種類を記載する欄はあるが、その記載は所得税法の規定により源泉徴収すべき支払の種類を記入するものであり、その支払の種類によって、給与、退職、報酬等と記載することとされているにとどまり、その支払を受けた者の収入が事業所得に係るものであるか否かを特定するものではないことなどを考慮すると、事業所得に関する請求人の主張の当否を判断するまでもなく、この点に関する請求人の主張には理由がないというべきである。
ニ 源泉徴収義務者
 上記ハのとおり、本件管財人報酬は、弁護士の業務に関する報酬に該当し、所得税の源泉徴収の対象となるものであると解されるところ、原処分庁は、破産会社に本件管財人報酬の支払に関する所得税の源泉徴収義務があるとして、破産会社あてに本件納税告知処分を行っている。
 この点について、請求人は、破産管財人報酬は共益費用の性質を有する上、破産者は破産財団に属する財産に対して何ら権利を有しないことから、破産者に源泉徴収義務はない旨主張しているので、誰が源泉徴収義務者となるのかについて検討したところ、次のとおりである。
(イ)破産法によれば、破産宣告を受けた法人は、破産の目的の範囲内においてのみ存続し(同法第4条)、破産財団のみをその存立基盤とする存在にすぎず、破産宣告により破産財団に対する管理処分権を失う一方、この管理処分権は、破産宣告と同時に裁判所によって選任される破産管財人(同法第142条、同法第157条)に専属することとされている(同法第7条)。
(ロ)ところで、所得税法第204条第1項は、報酬等の支払をする者が源泉徴収義務を負う旨規定しているところ、同項にいう支払者とは、報酬等の支払に係る経済的出捐の効果が最終的に帰属する者を意味するものと解される。
 そして、破産管財人の報酬は財団債権(破産法第47条第3号)として破産財団から支払われるが、この破産財団は破産者の財産であることには変わりがないことから、破産管財人の報酬の支払に伴う経済的出捐の効果が最終的に帰属する者は破産者であり、この意味において所得税法第204条第1項にいう支払をする者とは、破産者を指すものといわざるを得ない。ただ、上記(イ)のとおり、破産宣告により破産財団に対する管理処分権は破産管財人に専属することになるところ、租税の申告納付は破産財団の管理処分の一環とみることができるのであるから、破産者の源泉徴収義務及び納付義務に関する手続は、破産管財人が負うものと解するのが相当である。
(ハ)本件について、上記(ロ)に照らして判断すると、破産会社が源泉徴収義務者となり、本件管財人報酬の支払に当たっては、破産会社の源泉徴収義務及び納付義務に関する手続を法人の代表者に代わって破産管財人である請求人が負うこととなる。
 したがって、所得税法上の源泉徴収義務者である破産会社を名あて人とした本件納税告知処分は適法である。
 なお、破産管財人は、その業務遂行の中で破産財団に属する個々の財産を換価して、債権者への配当原資とすべく金銭化し(破産法第256条参照)、これを高価品の保管場所において管理しているところ(破産法第192条第2項、同法第194条参照)、本件管財人報酬は、上記イの(ホ)のとおり、K地裁がその額を決定したところに基づき、請求人において、K地裁に対する寄託金返還許可を経て、高価品保管場所として指定されたG普通預金口座から預金を引き出すことによって、請求人に支払われている。
 このことからすれば、請求人において、自分が受領する報酬が破産管財業務の中で金銭化された破産財団から支払われるものであること、かつ、その破産財団がもともと破産会社に帰属するものであったことのいずれについても認識していることは明らかである。
 そうであれば、本件納税告知処分が所得税法上の源泉徴収義務者である破産会社あてになされたからといって、管理処分権能の一環として破産会社の源泉徴収義務及び納付義務に関する手続を負う請求人に無用の混乱を招くものでもない。
 よって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 以上の結果、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件納税告知処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件納税告知処分は適法であり、また、請求人が源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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