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(平14.6.13裁決、裁決事例集No.63 236頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の土地等の譲渡所得について、請求人が租税特別措置法(平成8年法律第17号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第37条の5《既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する課税の特例(以下「本件特例」という。)の適用を受けることができるか否かを、主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(分離課税用)(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁の調査を受け、平成10年6月10日に、別表1の「修正申告等」欄のとおり記載した修正申告書を提出し、原処分庁は、同月17日付で同欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 原処分庁は、請求人に対し、平成13年3月27日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、上記ハの各処分に不服があるとして、平成13年5月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月29日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年7月26日に審査請求をした。

(3)関係規定

イ 所得税法第33条《譲渡所得》は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定する。
ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、同条第2項は、前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定する。
ハ 措置法第37条の5第1項は、個人が、既成市街地等内にある土地等の譲渡をした場合において、当該譲渡の日の属する年の12月31日までに、当該土地等の上に建築された中高層耐火建築物等の取得をし、かつ、当該取得の日から1年以内に当該取得をした資産(以下「買換資産」という。)を当該個人の事業の用等に供したとき、又はこれらの用に供する見込みであるときは、当該譲渡による収入金額が当該買換資産の取得価額以下である場合にあっては当該譲渡資産の譲渡がなかったものとし、当該収入金額が当該取得価額を超える場合にあっては当該譲渡資産のうちその超える金額に相当するものとして政令で定める部分の譲渡があったものとする旨規定する。
ニ 措置法第37条の5第2項は、前項の規定を適用する場合について同法第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第4項等の規定を準用する旨規定し、同法第37条第4項は、土地等の譲渡をした個人が、当該譲渡をした日の属する年の翌年中(政令で定めるやむを得ない事情があるため、当該翌年中に買換資産の取得をすることが困難である場合において、政令で定めるところにより税務署長の承認(以下、この承認に係る申請書を「延長承認申請書」という。)を受けたときは、当該資産の取得をすることができるものとして、当該翌年の12月31日後2年以内において当該税務署長が認定した日までの期間内。)に買換資産の取得をする見込みであり、かつ、当該取得の日から1年以内に当該取得をした資産を当該個人の事業の用に供する見込みである場合において、大蔵省令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認(以下、この承認に係る申請書を「当初承認申請書」という。)を受けたときについては、同法第37条の5第1項の規定を適用する旨規定する。
ホ 租税特別措置法施行令(平成12年政令第307号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。)第25条の4《既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例》第7項は、措置法第37条の5第2項において準用する同法第37条第4項に規定する政令で定めるやむを得ない事情は、中高層耐火建築物等の建築に要する期間が通常1年を超えると認められる事情その他これに準じる事情とする旨規定する。
ヘ 措置法施行令第25条の4第8項は、措置法第37条の5第2項において準用する同法第37条第4項の税務署長の承認を受けようとする者は、所定の事項を記載した延長承認申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定する。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人とF株式会社(以下「F」という。)は、要旨次のとおりとする契約(以下「本件交換契約」という。)を締結し、平成8年12月26日付で当該契約に係る契約書(以下「本件交換契約書」という。)を作成した。
(イ)請求人は、Fに対して、別表2記載の宅地、借地権、建物及び付属建物(以下、併せて「本件譲渡資産」という。)を現状有姿のまま譲渡する(以下、この譲渡を「本件譲渡」という。)。
(ロ)Fは、本件譲渡資産の宅地及び借地権を含む一団の宅地に、鉄筋コンクリート造地下1階、地上10階建ての延床面積6,076.23平方メートルの建物(以下「本件計画建物」という。)を建設し、請求人に対して、本件計画建物の一部である別表3記載の区分所有建物(以下「本件予定買換資産」という。)を譲渡する。
(ハ)Fは、請求人に対し、本件予定買換資産を譲渡するほかに、交換差金30,000,000円(平成8年7月1日に25,000,000円、平成8年10月16日に5,000,000円。以下「本件交換差金」という。)を支払った。
(ニ)請求人とFは、本件計画建物の床面積に行政指導等により増減が生じたときは、壁芯計算による容積対象専有面積3.3058平方メートル(1坪)当たり、〔1〕地下駐車場は700,000円、〔2〕1階店舗は2,000,000円、〔3〕10階住宅及び2階事務所は2,200,000円にて精算する。
(ホ)Fから請求人への本件予定買換資産の引渡しの時期は、平成10年5月31日を目途とする。
ロ 本件譲渡資産のうち、宅地については、平成8年7月29日受付で、原因同月17日交換、所有者Fとする所有権移転登記手続がなされ、また、建物及び付属建物については、宅地と同じ内容の所有権移転登記手続の後、原因同年12月11日に取毀とし、平成9年3月3日にその登記は閉鎖された。
 なお、本件譲渡資産のうちの借地権の目的となっている土地(底地)については、平成7年7月27日受付で、原因同日売買、所有者Fとする所有権移転登記手続がなされている。
ハ 本件計画建物については、原因平成10年5月7日新築として、同年6月8日に所有者Fとする登記がなされ、そのうち、1階部分の床面積646.70平方メートルのうち443.79平方メートルの部分については、その後に、原因錯誤、同年7月17日受付で、請求人の持分を13,927分の12,836とする所有権更正登記手続がなされた(以下、この部分を「本件取得買換資産」という。)。
 なお、本件取得買換資産を除く本件予定買換資産については、現在において、Fから請求人に対して、所有権移転登記手続等はなされていない。
ニ 請求人は、本件取得買換資産について、その一部を平成11年3月1日にG協同組合に賃貸し、残りの部分を同年6月8日に有限会社Hに賃貸した。
ホ 請求人は、本件特例の適用を受ける旨を記載した当初承認申請書(以下「本件承認申請書」という。)、「譲渡所得計算明細書」と題する書面(以下「本件計算明細書」という。)及び「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面を本件確定申告書に添付して提出した。
 なお、請求人は、本件承認申請書及び本件計算明細書のいずれにも、本件譲渡資産の譲渡年月日は平成8年7月17日、買換資産の取得予定年月日は平成9年12月1日と記載した。
ヘ 請求人は、原処分庁に対して、買換資産の取得予定年月日及び認定を受けようとする日は、いずれも平成11年12月31日である旨並びに期間延長の理由を記載した延長承認申請書(以下「本件延長承認申請書」という。)を平成11年5月14日に提出した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次のとおり、いずれも違法であるから、全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)譲渡所得の課税について
 所得税法第36条第1項及び同条第2項の規定は、上記1の(3)のロのとおりであるところ、本件譲渡の原因は、等価交換であるから、請求人に課税原因たる所得が発生するのは、本件予定買換資産若しくはその権利を取得し、又は経済的利益を享受する時における価額がはっきりした時、すなわち、本件譲渡の対価である本件予定買換資産が請求人の所有物として実現した時である。
 ところで、Fは、本件交換契約書により、請求人に対し本件予定買換資産を引き渡す義務があるところ、本件取得買換資産しか請求人に引き渡さず、それどころか、完成して請求人に引き渡すべき本件予定買換資産の大部分を第三者に売却してしまったため、請求人は、本件予定買換資産の全部について未だ引渡しを受けていないことから、Fの債務不履行を理由として、請求人が取得すべきその余の部分の引渡しを求めて同社と係争中である。
 このように、本件譲渡に係る所得税法第36条第1項に規定する収入金額とすべき金額又は総収入金額とすべき金額は未だ確定しておらず、請求人には本件譲渡に係る納税義務は発生していないから、請求人に対して譲渡所得を課税すること自体が違法である。
(ロ)本件譲渡に係る総収入金額の収入すべき時期
 仮に、上記(イ)の主張が認められないとしても、本件予定買換資産の所有権保存登記がなされ、これがF名義になったのは、本件計画建物が完成した平成10年6月10日であるから、税務上、本件譲渡に係る総収入金額の収入すべき時期は、本件交換契約を締結した平成8年12月26日ではなく、本件計画建物が完成した日の平成10年6月10日である。
(ハ)本件特例の適用
A 請求人は、平成9年3月3日に、原処分庁の相談担当職員(以下「本件担当職員」という。)に対して本件交換契約書を持参して本件譲渡に係る申告について相談し、同年3月14日に本件確定申告書とともに本件承認申請書を提出しているところ、本件交換契約書には、本件予定買換資産の引渡しの時期は、平成10年5月31日を目途とする旨記載されているから、請求人が本件承認申請書に記載した当該資産の取得予定年月日である平成9年12月1日までにこれを取得する見込みがないことはだれがみても一目瞭然であって、このような場合には、本件承認申請書をもって、やむを得ない事情がある場合における延長承認申請書の提出があったものと考えるのが相当であり、また、当然に原処分庁はその承認をしたとみなすべきであるから、請求人は本件特例の適用を受けることができる。
B また、上記(ロ)のとおり本件譲渡に係る総収入金額の収入すべき時期について平成10年6月10日であるとして、本件譲渡に係る課税年分を平成10年分とすれば、請求人は、本件延長承認申請書を平成11年5月14日に原処分庁に提出しているから、これをもって有効な延長承認申請書の提出があったものとみなすべきであるから、本件特例の適用を受けることができる。
C したがって、延長承認申請書の提出がなかったという単なる形式的な手続の遅れを理由として本件更正処分をなすことは明らかに権利の乱用である。
(ニ)信義則違反について
A 請求人は、平成9年3月3日に、本件担当職員に対して、本件交換契約書を持参した上で、「買換えの特例についてよく判らない」と言って相談をした。
 その際、本件担当職員は、〔1〕本件譲渡が本件交換契約書に基づくものであること、また、〔2〕当該契約書に、本件予定買換資産の完成引渡しの時期は、平成10年5月31日を目途とする旨の記載があることを把握していることから、当然に請求人が平成9年12月1日の取得予定日までに当該資産を取得できないことに気付いたはずであり、この場合、本件特例の適用に係るやむを得ない事情がある場合の延長承認申請書の提出が必要であると認識していたはずであるにもかかわらず、本件担当職員は、請求人に対し、本件譲渡について延長承認申請書の説明をしないで、単に当初承認申請書の書式だけを渡し、平成8年分として所得税の確定申告をするよう指導した。
B また、本件確定申告書を作成したJ税理士(以下「J税理士」という。)も、事前に原処分庁で本件譲渡に係る申告について相談をしたが、その際の担当職員から、「本件交換契約書によって取得する本件予定買換資産の取得予定年月日を平成9年12月1日とする本件承認申請書を提出すれば、万一その取得が遅れても、本件譲渡資産の一部は、請求人が相続したものであるから、租税特別措置法通達(昭和46年8月26日付直資4−5ほかによる国税庁長官通達で、平8年12月2日付課資3−3ほかによる改正前のものをいう。)36の2−22《やむを得ない事情により買換資産の取得が遅れた場合》(以下「本件通達」という。)の定めに基づき、買換資産である本件予定買換資産を取得期限内に取得したものとみなされるから、大丈夫である」旨の指導を受け、延長承認申請書を提出せずに本件確定申告書を提出した。
C 以上のとおり、請求人は、原処分庁の指示に従って本件確定申告書を提出したのであって、請求人が本件更正処分をじゃっ起するような重大な不法をしたわけではない。
 したがって、原処分庁が請求人に対し、延長承認申請書の提出についてきちんと説明さえしていれば、請求人は当該申請書を提出したはずであり、本件更正処分はなかったのであるから、信義則違反は明らかである。
(ホ)本件通達の定めの適用
 仮に、上記(ニ)の主張が認められないとしても、上記(ニ)の事情は、やむを得ない事情であるから、請求人は本件通達の定めの適用を受けることができるのであって、請求人の場合、本件予定買換資産をその取得期限内に取得したとして取り扱うべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分も取り消されるべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件特例の適用の可否
 請求人は、原処分庁において、本件交換契約書から請求人が翌年中に本件予定買換資産を取得する見込みがないことは明らかであったのであるから、本件承認申請書をもって延長承認申請書の提出があったとみるべきである旨主張する。
 本件特例の規定については、上記1の(3)のハのとおりであるところ、措置法第37条の5第2項に規定するやむを得ない事情がある場合で買換資産の取得期限の延長を受けようとする場合には、延長承認申請書を、土地等を譲渡した日の属する年の翌年の12月31日までに、所轄税務署長に提出する必要があるし、また、確定申告時において、当該翌年中に買換資産を取得することができないことがあらかじめ見込まれる場合においても、当初承認申請書とは別途に延長承認申請書を提出して当該税務署長の承認を得なければならないことは明らかである。
 しかしながら、請求人は、本件譲渡資産を平成8年に譲渡したとする本件確定申告書を提出しているところ、本件特例に係る買換資産をその取得期限(平成9年12月31日)までに取得した事実は認められず、また、本件延長承認申請書をその提出期限までに提出していないところ、そもそも請求人が提出した本件承認申請書には、買換資産の取得年月日を平成9年12月1日と記載しているだけで延長承認申請書に記載すべき事項として措置法施行令第25条の4第8項に規定する所定の事項(やむを得ない事情の詳細及び認定を受けようとする年月日等)の記載もないことからすれば、本件承認申請書をもって、延長承認申請書の提出があったと認める余地はないのであって、請求人の場合、本件特例の適用を受けることはできず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、本件通達を適用し、本件予定買換資産がその取得期間内に取得されたものとすべきである旨主張するが、当該通達は、措置法第36条の2《相続等により取得した居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例》に係るものであって、本件特例に係る取扱いを定めたものではない。
 なお、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとされているところ、納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときはこれを認めることとしているが、請求人は、本件譲渡資産の収入金額について、その譲渡に関する契約の効力発生の日の属する年である平成8年分の総収入金額に算入して適法に申告していることから、原処分庁がこれを平成10年分とする理由はない。
(ロ)信義則について
 請求人は、原処分庁が請求人及びJ税理士に対して、延長承認申請書の提出について、きちんとした説明をしてさえいれば、請求人は当該申請書を提出したはずであり、本件更正処分はなかったのであるから、信義則違反である旨主張する。
 しかしながら、請求人が平成9年3月3日に原処分庁を訪れ相談をした事実は認められるが、当該相談における本件担当職員の指導は、請求人が買換えの特例についてよく判らないとのことから、特例に関する一通りの説明を行った上で、税理士に相談してもらいたいという内容だったのであり、本件担当職員が請求人に対して、本件譲渡について平成8年分として申告するよう指導した事実はない。
 また、J税理士が本件譲渡に関して原処分庁に対して相談をした事実の有無は不明であるが、仮に、請求人が主張するとおり、原処分庁の担当職員が本件譲渡について平成8年分として申告するよう指導したとしても、本件交換契約書の記載内容からすれば、本件譲渡資産を譲渡した年分は平成8年分が相当であるから、その指導になんら違法性は認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、請求人の平成8年分の所得税に係る総所得金額は○○○円、分離長期譲渡所得の金額は573,579,950円、納付すべき税額は○○○円であるから、この金額と同額で行なった本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないから、同条第1項及び第2項の規定により行なった本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 延長承認申請書の提出期限
 延長承認申請書の提出に関する規定は、上記1の(3)のニからヘのとおりであって、これらの規定は、当該申請書を提出すべき旨を規定するのみで、その提出期限については規定していない。
 もっとも、延長承認申請書により申請をすることができるのは、措置法第37条の5第2項の規定で準用する同法第37条第4項に規定する当初承認申請書による申請により所轄税務署長の承認を受けていることが前提となるところ、当該規定上、当該税務署長が土地等の譲渡をした日の属する年の翌年の12月31日後2年以内に含まれるいずれの日であってもこれを認定できる余地のあるような時点における申請でなければならないから、その申請は、当該翌年の12月31日までに、同日までに生じた事情に基づいてなされなければならないことになると解されるのであって、延長承認申請書の提出期限は、当該譲渡をした日の属する年の翌年12月31日となる。
ロ 譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期
 譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として、その譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものと解される。
 なお、資産の引渡しがあった日については、資産の譲渡の当事者間で行われるその資産に係る支配の移転の事実(例えば、土地の譲渡の場合における所有権移転登記に必要な書類等の交付)に基づいて判定するのが相当であると解される。
 また、課税庁は、所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30による国税庁長官通達をいう。)36−12《山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期》を定め、納税者の選択により、譲渡した資産の引渡しが未了であっても、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときはこれを認めることとしているが、この定めは、所得税法第33条に規定する資産の譲渡が契約の効力発生の日にあったと納税者が判断して申告した場合には、資産の引渡しにかかわらず、これを認めるとしたものと解されるところ、当該日が当該資産の引渡しの日後になるものとは解されず、また、納税者が契約の効力発生の日をもって資産の譲渡をした日であると判断をして適法に申告をした場合に、その後において、当該納税者がこれを変更することができるとする規定はない。
ハ 本件譲渡による譲渡所得の課税年分及び収入金額
 請求人は、本件譲渡に係る所得税法第36条第1項に規定する収入金額が確定していないから、本件譲渡に係る納税義務はない旨、また、仮に納税義務はあっても、本件譲渡による譲渡所得の課税年分は平成10年分である旨主張する。
 しかしながら、本件譲渡資産の収入金額については、本件交換契約により合理的に算定することができると認められ、さらに、上記1の(4)のロの事実からは、請求人はFに対して、本件譲渡資産を平成8年中に引き渡したものと認められるところ、請求人は、本件譲渡資産を平成8年7月17日に譲渡したとして本件確定申告書を提出しているのであるから、請求人は同日に本件譲渡資産を譲渡したと自ら判断して、適法にその課税年分は平成8年分であるとして申告したと認められるのであって、そうすると、上記ロのとおり、その課税年分は平成8年分と解するしかなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、本件譲渡資産の収入金額の合理的な算定額は、別表4のとおり、本件予定買換資産の各階部分の専有面積に、上記1の(4)のイの(ニ)の本件交換契約による精算する場合の1坪当たりの単価を乗じた金額の合計に、本件交換差金を加えた金額である604,821,000円と認められる。
ニ 本件特例の適用の可否
(イ)請求人は、本件承認申請書の取得予定年月日には平成9年12月1日と記載したが、本件交換契約書の本件予定買換資産の請求人への引渡しの時期は平成10年5月31日を目途とする旨記載されているのだから、本件承認申請書の提出を延長承認申請書の提出とみなすべきであって、請求人は本件特例の適用を受けることができる旨主張する。
 しかしながら、本件承認申請書は当初承認申請書であるところ、これを延長申請書とみなすことができる規定はないし、本件承認申請書には延長承認申請書に記載しなければならない所定の事項(措置法施行令第25条の4第8項第2号、第3号等に規定する、やむを得ない事情の詳細、認定を受けようとする年月日等)の記載はなされていないのであるから、本件承認申請書の提出を延長承認申請書の提出とみなすことはできないのであって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)なお、請求人は、本件譲渡に係る課税年分を平成10年分とすれば、請求人は本件特例の適用を受けることができる旨主張するが、本件譲渡に係る課税年分は、上記ハのとおり、平成8年分であるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ)また、請求人は、本件通達の定めを適用することにより、請求人は本件特例の適用を受けることができる旨主張する。
 しかしながら、本件通達は、措置法第36条の2の規定に係る定めであって、本件特例に係る定めではないし、また、措置法第36条の2の規定には、本件特例のように延長承認申請書の提出に基づく税務署長の承認によって買換資産の取得期限を延長することができる旨の規定が設けられていないことから、納税者が買換資産をその取得期間内に取得する契約を締結していたにもかかわらず、その契約の締結後に生じた災害等により当該期限内に取得できなかった場合に納税者を救済するために設けられた定めと認められるところ、本件特例については、当該規定が設けられているのであるから、本件通達の定めを本件特例の適用に当たって適用する余地はないと解されるのであって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)以上のとおり、延長承認申請書に関する請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件延長承認申請書の提出期限は、上記イのとおり、請求人が本件譲渡資産を譲渡したと認められる平成8年7月17日の属する年の翌年である平成9年12月31日であるところ、請求人は、本件延長承認申請書をこの期限を経過した後の平成11年5月14日に提出したのであるから、この申請書を適法なものと認めることはできない。
 そうすると、請求人の本件譲渡による本件特例に係る買換資産の取得期限は、請求人が本件承認申請書に記載した平成9年12月1日と認めるしかなく、請求人が当該買換資産をこの日までに取得した事実はないのであるから、請求人は、本件特例の適用を受けることはできない。
ホ 信義則について
 請求人は、原処分庁の担当職員が請求人及びJ税理士に対して、延長承認申請書の提出について、きちんとした説明をしなかったのであるから、本件更正処分は信義則に違反する旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、請求人が平成9年3月3日に原処分庁を訪れて本件担当職員と相談し、その際の当該職員の回答は「譲渡所得に係る買換えの特例について一通りの説明を行い、税理士に聞いてもらうよう指示した」という内容であった事実が認められるのであって、本件確定申告書及び本件特例に係る当初承認申請書である本件承認申請書の提出さえなされていない時点におけるこの回答内容からは、請求人が本件担当職員に対して、積極的に当初承認申請書に記載した買換資産の取得予定年月日までにこれを取得できない場合の延長承認申請書の提出の手続について具体的に相談したとは認め難く、そのような場合において、当該手続について本件担当職員が請求人に対して積極的な指導をしなかったとしても、そのことをもって本件更正処分が信義則に反するものと解することはできず、また、J税理士が本件確定申告書を提出する前の時点において、本件譲渡について原処分庁の職員と相談等をした事実は認められず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件譲渡に係る課税年分は平成8年分であり、その収入金額は604,821,000円であって、請求人は本件特例の適用を受けることはできず、請求人の平成8年分の所得税に係る課税標準等及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件更正処分の額と同額であり、これらの額と同額でなされた本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきなされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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