ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.63 >> (平14.5.21裁決、裁決事例集No.63 269頁)

(平14.5.21裁決、裁決事例集No.63 269頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、土木工事業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が取得した株式について、その譲受価額と時価との差額が請求人の所得の金額の計算上益金の額に算入されるか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年3月1日から平成9年2月28日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、確定申告書に所得金額を○○○円及び納付すべき税額を22,566,400円と記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成12年4月26日付で所得金額を○○○円及び納付すべき税額を28,487,500円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を592,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成12年6月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年9月26日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年10月26日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨規定している。
ロ 相続税法第7条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合−低額譲受》は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与に因り取得したものとみなす旨規定している。
ハ 所得税基本通達40−2は、所得税法第40条《たな卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入》第1項第2号に規定する「著しく低い価額の対価による譲渡」とは、同条に規定する棚卸資産の所得税基本通達39−1に定める価額のおおむね70%に相当する金額に満たない対価により譲渡する場合の当該譲渡をいうものとする旨を定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年10月24日にDから株式会社Eの株式30,000株(以下「本件株式」という。)を1株1,000円、総額30,000,000円で譲り受けた。
ロ 原処分庁は、本件株式の譲受時の価額を、法人税基本通達9−1−14及び9−1−15により、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。平成9年4月22日付課評2−5による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)178及び179(1)により類似業種比準価額に基づいて評価し、一株当たり1,500円、総額で45,000,000円としている。
ハ 原処分庁は、前記ロの本件株式の価額45,000,000円を時価とし、前記イの譲受価額30,000,000円と時価との差額15,000,000円は、請求人の本件事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入すべき金額として本件更正処分を行った。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 税金の根拠は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う」(憲法第30条)という共通したものであり、税金体系を考えた場合も、所得税、法人税、相続税ともに国税であり、自主申告する直接税である。
 それぞれの租税の性質、目的等を考察してみると次のとおりである。
 所得税とは、個人の所得に対する租税である。人の総合的担税力の標識として最も優れており、所得税は基礎控除等の人的諸控除及び累進税率と結びつくことによって、担税力に即した公平な税負担の配分を可能にしている。
 法人税とは、法人の所得に対する租税であり、現行の法人税制度の基礎をなしているシャウプ勧告は、「法人は、与えられた事業を遂行するために作られた個人の集合である」という法人観から出発して、所得税の前取りであるとする説の立場を採り、いわゆる二重課税を排除するための措置も採られている。
 相続税は、人の死亡によって財産が移転する機会にその財産に対して課される租税であるが、人が相続によって取得した財産を対象として課税する制度である遺産取得税の体系に移行して現在に至っており、実質的には所得税の補完税である。
 以上のことから、それぞれの租税の性質、目的等を考察した限り、異議決定の理由にある「法人税法と相続税法(贈与税を含む。)の考え方に差異があるとしても元来それぞれの法の対象とする租税の性質、目的等が異なる以上やむを得ないことである。」という原処分庁の判断は理解し難い。
 したがって、本件においては、相続税法第7条及び所得税基本通達40−2の取扱いを引用すべきであり、類似業種比準価額によって評価した本件株式の一株当たりの時価1,500円と当該時価の70%相当額である1,000円との差額は、同通達に定める「著しく低い」に該当しないと判断し、当該時価と譲受価額との差額について受贈益は発生しないと考えるのが妥当である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分は、本件更正処分の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)譲渡時における時価より低い対価をもってする資産の譲受けについては、法人税法第22条第2項の規定の趣旨から、譲受価額と時価との差額について無償による資産の取得があったものと解されている。
 したがって、法人税法においては時価よりも低額による資産の譲受けがあった場合に、それが時価より「著しく低い」か否かを問題にすることなく、時価と譲受価額との差額が当然に所得の金額の計算上益金の額に算入されると解すべきである。
(ロ)相続税法第7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡があったときに限って、時価と対価との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなす旨規定していることから、取得財産の時価に比し対価が「著しく低い」といえない場合には贈与税はこれを課さないものと解されている。
 この点について請求人は、租税の課税根拠及び各税の体系から考察した上で、それぞれの租税には関連性があるから、本件においては、相続税法第7条及び所得税基本通達40−2の取扱いを引用すべきである旨主張する。
 しかしながら、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算は法人税法の規定に基づいて行うべきであり、特に他の国税の取扱いを引用する明文の定めがない限り、相続税及び所得税の規定等を引用すべきではない。
ロ 本件賦課決定処分について
 前記イのとおり、本件更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件の争点は、本件株式の譲受価額と時価との差額について益金の額に算入すべきか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 請求人は、相続税法第7条及び所得税基本通達40−2の取扱いを引用し、類似業種比準価額によって評価した本件株式の一株当たりの時価と当該時価の70%相当額との差額は、「著しく低い」に該当せず、当該時価と譲受価額との差額の受贈益は発生しない旨主張する。
 ところで、法人税法には、資産の低廉譲受による収益については、これを益金の額に算入すべきものとする明文の規定は存しないが、法人がある資産を時価より低額で譲り受けた場合に時価と譲受価額との差額について無償による財産の取得があったものと考えられ、これを放置することは租税負担の公平を失することになるから、現実の譲受価額が時価より「著しく低い」か否かを問わず、譲受価額と時価との差額について無償による財産の取得があったものとみなし、同法第22条第2項により各事業年度の所得の計算上益金の額に算入すべきものであると解されている。
 これに対し、相続税法第7条は、対価をもって財産の譲渡を受けた場合、著しく低い価額の対価で財産の譲渡があったときに限り、時価と対価との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなす旨規定しており、したがって、取得財産の時価に比し対価が「著しく低い」といえない場合には贈与税はこれを課さないものと解されている。
 この点において法人税法と相続税法の考え方に差異があるとしても、元来それぞれの法の対象とする租税の性質、目的等が異なる以上やむを得ないところであるといわなければならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 以上のことから、本件株式の譲受価額と時価との差額を、本件事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきとしてした本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 前記(1)のとおり本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る