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(平14.3.7裁決、裁決事例集No.63 362頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、硝子の加工卸売業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)において、〔1〕専務取締役が取引先と通謀して行った不正行為(以下「本件不正行為」という。)に基づく利益が請求人に帰属するか(原処分庁)専務取締役の横領行為として個人に帰属するか(請求人)、また、〔2〕重加算税の賦課要件として、納税者の故意を要するか否か等が争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 法人税等
(イ)青色申告の承認の取消し処分
 原処分庁は、平成10年6月17日付で、平成4年6月1日から平成5年5月31日までの事業年度以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色申告の承認取消処分」という。)をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成10年8月17日に異議申立てをしたところ、3か月を経過しても異議決定がないため、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第5項に基づき、平成10年11月18日に審査請求をした。
(ロ)更正処分等
 別表1のとおりである(以下、平成4年6月1日から平成5年5月31日までの事業年度を「平成5年5月期」、平成5年6月1日から平成6年5月31日までの事業年度を「平成6年5月期」、平成6年6月1日から平成7年5月31日までの事業年度を「平成7年5月期」、平成7年6月1日から平成8年5月31日までの事業年度を「平成8年5月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」といい、平成8年6月1日から平成9年5月31日までの事業年度を「平成9年5月期」という。)。
ロ 法人特別税等
 別表2のとおりである。
ハ 消費税等
 別表3のとおりである(以下、平成4年6月1日から平成5年5月31日までの課税期間を「平成5年5月課税期間」、平成5年6月1日から平成6年5月31日までの課税期間を「平成6年5月課税期間」、平成6年6月1日から平成7年5月31日までの課税期間を「平成7年5月課税期間」、平成7年6月1日から平成8年5月31日までの課税期間を「平成8年5月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)。
ニ 源泉徴収に係る所得税等
 別表4のとおりである(以下、源泉徴収に係る所得税を「源泉所得税」といい、平成10年6月17日付でされた納税告知処分を「本件納税告知処分」という。)

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 元役員のLは、平成5年5月期の当初から平成8年6月30日までの間、請求人において、常務取締役又は専務取締役の地位にあり、請求人の○○営業所(以下「○○営業所」という。)の管理に当たっていた。
ロ Lは、請求人の売上先であるM株式会社(以下「M」という。)の常務取締役N、工事部部長P及び工事部次長Q(以下、N及びPを併せて「Pら」といい、N、P及びQの3人を併せて、「Mの担当者」という。)と通謀し、請求人の名義でMと実態のない取引を行い、請求人の経理上売上げを過大に計上していた。
ハ また、Lは、上記ロの過大な売上げに対応するものとして、株式会社R(以下「R」という。)及び自身が実質支配していた法人である株式会社S(以下「S」という。)を利用して、請求人の名義でR及びSと実態のない取引を行い、請求人の経理上仕入れを過大に計上していた。
ニ Lは、請求人の売上先であるT株式会社(以下「T」という。)からのパチンコ台の硝子工事を受注した後、Rを利用して請求人の名義でRと紹介手数料名目の実態のない取引を行い、請求人の経理上仕入れを過大に計上していた。
ホ Rは、商業登記されておらず、代表取締役と称するUが経営していた。

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2 主張及び判断

(1)求める裁決

イ 請求人
 原処分は、違法であるから、その全部の取消しを求める。
ロ 原処分庁
 平成9年5月期の法人税の更正処分に対する審査請求は、請求人の利益を欠く不適法なものであるので却下するとの裁決を求める。
 また、その他の審査請求は、適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。

(2)本件青色申告の承認取消処分について

イ 原処分庁の主張
(イ)本件青色申告の取消処分を行った根拠は次のとおりである。
A 請求人は、備付けの総勘定元帳に、平成4年12月31日付で2,697,660円(納品日平成4年12月8日ほか、現場名○○○ビル1,540,140円ほか3件)、平成5年1月31日付で227,090円(納品日平成5年1月26日ほか、現場名○○株式会社○号館)を、それぞれ売上金額として計上している。
 これらの取引は、Lが、P及びQと共謀し、簿外資金を捻出する目的をもって仕組んだ架空の売上金額である。
B さらに、請求人は、上記Aの売上金額に見合う仕入金額として、請求人備付けの総勘定元帳に、平成4年12月31日付で2,356,117円、平成5年1月31日付で198,058円を、それぞれ仕入金額として計上している。
 これらの取引は、Lが実態のない法人であるRのUに、架空の請求書等を作成させて送付させた上、請求人が総勘定元帳に計上した架空の仕入金額である。
C 請求人は、上記Aの架空売上金額相当額の金員の入金後、平成5年4月30日、架空仕入金額相当額の金員2,630,079円(仕入金額2,554,175円と消費税額76,625円との合計額から、振込手数料721円を控除した金額)を○○銀行○○支店のR名義の普通預金口座(口座番号○○○○)へ振込んだ。
 Lは、Uに指示を与え、平成5年4月30日1,000,000円、平成5年5月7日1,630,000円を、同口座からそれぞれ現金で引き出させ、架空の請求書等の作成依頼時に約束していた請求金額2,630,800円に対するUへの手数料10%を控除した残額2,367,720円を現金で受け取り、いったん現金で保管した後、その中から、P及びQに対し架空売上金額の半額である1,462,375円を返金しており、上記Rへの振込金額と上記Mへの返還金との差額が請求人の収益になっているが、請求人はこれを請求人の備付けの会計帳簿に収入金額として記載していない。
D その他、原処分庁が調査したところ、平成5年5月期において、次表のとおり、多額の架空売上金額及び架空仕入金額を総勘定元帳に記載し、さらに、架空売上金額及び架空仕入金額を計上することにより捻出した簿外資金を受け取っているにもかかわらず、会計帳簿に記載せず収入金額を除外している事実が認められた。

事業年度平成5年5月期
架空売上金額118,950,240円
架空仕入金額92,227,670円
収入除外額36,810,093円

E 上記Dの架空売上金額118,950,240円は、Mへの架空売上金額93,153,460円、W株式会社(以下「W」という。)への架空売上金額14,796,780円及び株式会社Y(以下「Y」といい、これら3社を併せて「M関連会社」という。)への架空売上金額11,000,000円の合計である。
F 上記Dの架空仕入金額92,227,670円は、Rからのものである。
G 上記Dの収入金除外額36,810,093円は、上記Fの架空仕入金額92,227,670円から、上記Eの架空売上金額118,950,240円の50%相当額との差額(以下、架空仕入金額から架空売上金額の50%相当額との差額を「本件返還残余金」という。)である32,752,550円及びLが不正加担の手数料としてPから再び返還を受けた金額(以下「再バック金」という。)である4,057,543円の合計である。
(ロ)上記行為は、直接的には、Lのなした行為であるが、これらは次のとおり請求人の行為と認められる。
A Lは、請求人の専務取締役であって、その役員たる立場により請求人の業務執行を行い、Pらとの営業上の取引を行っている。
B Lは、Mとの架空取引を行うことについて、「Mとの架空の取引を開始した時期に、その当時請求人の社長であったX及び専務のk(以下、Xとkを併せて「Xら」という。)から承認を得た」と申述しており、請求人の代表者らは、架空取引を行うことを承知していた。
C Lは、Mとの架空取引を始めた動機について、「Mへ勤めていたことがあり、Pらが取引に関する権限を有していることを知っていたことから断り切れなかったこと及び請求人の営業担当役員として○○営業所の実績をあげたかったことから行っていたものである」と申述しているのであって、請求人たる会社として取引を行ったものである。
D Pらは、請求人との架空の取引を行うに当たり、請求人を取引当事者とするようLに依頼した旨申述している。
E 請求人においても、上記(イ)のこれらの架空取引を自社のものとして取り扱っている。
 すなわち、〔1〕本件返還残余金について、請求人の経理上、これをL個人のものであることを示す経理処理は何らなされていない、〔2〕架空売上げの計上は、正当売上げと同様、請求人の従業員が、請求人の事業所において、請求人の代表取締役社長の指揮、監督を受けて計上されており、架空仕入れも、正当仕入れと同様、取引先への発注及び仕入代金支払の際には、責任者として代表取締役社長及び会長の承認、決裁を受けていたものであり、また、その際、取引先との間で取り交わされる売上げに関する見積書、納品書、請求書、請求明細書、受領書や取引先から受領する注文書(ファックスにて送付)、仕入れに関する発注書、請求書等の名義は、いずれも請求人の名義が使われ、請求人の従業員も取引先も、取引の主体は請求人であると認識していた、〔3〕架空仕入れに係る代金の支払も請求人の従業員が行っていた、〔4〕請求人は、現実に架空売上相当額の入金を受け、そのうちから架空仕入相当額の出金を行っており、架空売上げに相当する資金も正当な売上金もいったん公表資金と混然一体となって請求人によって管理、運用されていたことが認められる。
F 請求人は、平成5年5月期の総勘定元帳に架空売上金額及び架空仕入金額を計上している。
G Lは、請求人とは別に個人で事業を営むための人的、物的設備を有しておらず、また硝子加工販売業によって得た収益について所得税の申告をしたことはない。
H Lの隠ぺい、仮装行為は長期にわたり、しかも多額に上っていたにもかかわらず、請求人は、Lの経理処理等に対して特に管理監督をしないまま放置していた。
(ハ)上記(ロ)の事実からすれば、Lは、代表者ではないが、請求人の営業担当役員として、○○営業所を任され、実質的に請求人の経営に参画していたものであって、本件隠ぺい、仮装行為は請求人の行為と同視できる上、Mとの架空取引を行うに当たって、Xらの承認を受けていたのであって、架空取引自体は、請求人の事業遂行の一環として行われたと認めるべきである。
 したがって、架空売上げ、架空仕入れは請求人の営業活動に関連したものであるから、そこから生み出された簿外の本件返還残余金は、請求人に帰属するものというべきである。
(ニ)これらの事実に照らせば本件は、法人税法(平成12年法律第97号による改正前のもの。以下同じ。)第127条《青色申告の承認の取消し》第1項第3号に掲げる「その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること。」に該当する。
 したがって、本件青色申告の承認取消処分は適法である。
(ホ)なお、請求人は、請求人の代表者はその事実を知らず、請求人の責めに帰し得ないので、本件青色申告の承認取消処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、青色申告の承認の制度は、法人が自ら所得及び税額を計算して自主的に申告して納税する申告納税制度の下において、適正課税を実現するために不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたものであり、適切に帳簿書類を備え付けてこれに取引を忠実に記載し、かつこれを保存する納税者に対して特別の青色申告書による申告を承認し、課税手続上や所得ないし税額計算上の特典を与えたものである。
 このような青色申告制度の趣旨からすれば、誠実で信頼性のある帳簿書類の記帳を約束した納税者がその帳簿書類に基づいて所得額を正しく算出し納税申告することを期待し、納税者に各種の特典を付与するものであるから、この期待を裏切った納税者が特典をはく奪されることは法の当然予定するところである。
 そして、法人の場合、会社の営業活動の中心となり、その経営に参画していた者(納税者と利害関係を同一にする集団に属している役員等)の隠ぺい、仮装行為が客観的に納税者に法的効果の及ぶ経済取引(職務上の行為)に関連して行われたものと認められれば、納税者本人に選任、監督義務違反がないことが立証されない限り、原則として、その者の主観的意図(自己の利益目的であるかどうか)や納税者がその行為を認識していたかどうかにかかわらず、当該行為は、納税者本人(法人の代表者)の手足としての行動であり、それは納税義務者の行為と同視すべきであると解されている。
 そうすると、Lの隠ぺい、仮装行為を請求人代表者が知らなかったことが本件青色申告の承認取消処分を不当とするほどの請求人の責に帰し得ない特段の事情に当たらず、したがって、請求人の主張には、理由がない。
ロ 請求人の主張
 本件青色申告の承認取消処分の根拠とした各事実については、次のとおり、請求人が全く関与していない事実がほとんどであり若干の関与している事実についても、個人的な利益を計ったLに欺罔されて、情を知らずして行った行為であるため本件返還残余金は請求人に帰属せず、青色申告の承認の取消事由に該当する事実はない。
(イ)Mとの帳合取引について、その開始当時、社長のkが承知をしていたことはあるが、それは実際に取引が存在するものについて、一定の割合の手数料を支払ったり、支払ってくれるという商取引上のものであり、請求人の代表者やそれ以下の従業員はLに欺かれて正当な実在の取引と信じて取引を行っていたのである。
 また、Mとの架空取引について、その開始時にXらが承認した事実もなく、請求人においては、平成9年9月に、調査担当者から説明を受けて初めて、架空の取引であったと教えられて知ったにすぎず、いまだにその確認もできていない。
(ロ)本件は、LがMの担当者と共謀して、事情を知らない請求人の帳簿を利用して架空の取引を「デッチあげた」もので、請求人からRに支払われた金額のうち、Mの担当者に支払う金額を除いた金額は、もとからLが自分の取り分とすることにMの担当者と合意ができていた金であり、Lが個人として行った行為により、Lが個人として得た収入金である。
(ハ)取引先である発注者のMやPらは、請求人は名義上の取引主体となっているだけで、真実の取引先ではなく、請求人に利益が残るはずのないことを知っていた。
(ニ)本件返還残余金は、請求人や請求人の代表者には一銭も渡っておらず、請求人は、原処分庁の言う簿外資金が作られたという認識も、国税局による調査までは全くなかったのである。
(ホ)所得の帰属を決する基準は、「だれのものとして」「だれのために」簿外資金を管理していたかであり、Lは「Lのもの」として、「Lのため」に簿外資金を管理していたのであって、請求人のために管理していたものではないから、これは、資本主義経済の法としての民・商法の原則に基づくと、請求人の所得とは言えない。
 また、所得の帰属の主体を決するには、誰がその収益を処分する権限を持っていたか、誰のために処分されたかが重要であり、本件においてはLであるから、その帰属主体はLである。
(ヘ)Lは、請求人とは別に個人で事業を営むための人的物的設備を有していなかったとの認定は誤りである。
 Lは、S及び有限会社m(以下「m」という。)等を設立し、その事務所を請求人の事務所とは別に、○○ビルの3階と2階に構えており、また、Rという法人格を持たない組織も利用していた。
 さらに、Lが、税の申告をしなかったことは全く請求人とは関係がなく、Lが所得について脱税をしたということにすぎない。
(ト)Lの隠ぺい、仮装行為は長期にわたり多額にわたっていたが、その内容が計画的で、用意周到であったために、請求人は長期間事実を知ることができなかったにすぎない。
 事実を疑った後は、平成8年5月ころ、Rを調査して取引を中止させるに至っている。
(チ)Lの行為は請求人の利益と相反するものであり、その行為を請求人の行為と同視することはできない。
(リ)原処分庁が、上記イの(ホ)において述べる見解は、判例上確定しているわけではなく、憲法第29条の保障する財産権及び私法の基本原則である契約自由の原則に反する。
(ヌ)Lの行った隠ぺい、仮装行為は、脱税に向けられたものではなく、税法上の隠ぺい、仮装に当たらない。
ハ 判断
 請求人の平成5年5月期の帳簿書類に、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する記載事実があるか否かに争いがあるので、以下審理する。
(イ)M関連会社への売上げ
A 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)Lは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
a Mの担当者から依頼されて、Mへの架空売上げの請求を行った。
b Mへの実態のない取引の売上請求金額は、R及びSから請求人に送られてきた納品書を見れば分かる。納品書の金額は、私がR及びSへ指示して請求人へ請求させた金額で、その上部に記載してある金額(以下「本件納品書メモ金額」という。)が、Pらから指示されて、Mへ請求する金額である。
(B)Nは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
a 硝子を株式会社n(以下「n」という。)へ発注し、品物が現場へ納品されているにもかかわらず、請求人へも同様の発注(架空の発注)を行い、架空取引を行った。
b 私が行った請求人との裏金作りは、平成5年から平成7年にかけてのみである。
c 架空取引の具体的な方法は、Lに現場名、品種、寸法、枚数及び単価を教えて、その通りの内容の納品書を送付してもらって支払いを行っていた。
 指示の方法は、電話で行ったりファックスで行ったりLに控えさせたりした。
(C)Pは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
a 得意先との交際費等で会社の経費として処理できないものがあるため、Lに依頼して架空仕入れを計上し、Lから現金をバックしてもらった取引がある。
 方法は、実際の硝子板の納入数量、平米数を増加させたり、現場施工代金を増加させる方法で行っていた。
b 私が、必要な交際費の金額を積算し、Lに電話もしくは双方の事務所等で会い、金額及び請求内容を指示して決定していた。
(D)Mの代表取締役であるqから原処分庁に提出された平成10年2月12日付の上申書と題する書類(以下「上申書」という。)は、Mが請求人との不正取引の内容を、内部調査の結果に基づき記載したものであり、これには、平成4年11月から平成8年5月までの間の請求人に対する架空仕入れの金額等が、Mの担当者ごとに記載されている。
 なお、「上申書」には、提出日現在において、調査解明中の部分も含まれている。
(E)平成11年5月6日に原処分庁から当審判所に対して提出された問題事項一覧表と題する書類(以下「問題事項一覧表」という。)にはMと請求人との不正取引の内容が記載されているが、作成者であるMを調査した○○国税局の担当者は、当審判所に対し、Mに請求人との不正取引について内部調査を実施させ、その回答に基づいて作成したものである旨を答述している。
 また、「問題事項一覧表」は、上記(D)の「上申書」の提出時において未解明であった部分についても具体的な金額が記載されていることから、Mにおける内部調査の、いわば最終結果に基づき作成されたものと認められる。
 なお、「問題事項一覧表」には、平成5年1月1日から平成8年12月31日までの間の、請求人に対する架空仕入れの金額等が、Mの担当者ごとに記載されている。
(F)売上先がWとの取引について、調査担当者は、当審判所に対しWはnの工事部門の子会社だが、Mがnから受注するに当たり、Wに利益を落とすようnに依頼されたために取引に介在させたいわゆる帳合取引を行ったものである旨答述しており、Wは、Mから形式的に受注したことになっていることが認められるところ、当該取引については、「上申書」及び「問題事項一覧表」にも記載があり、Mは、これを含めて架空取引と認めている。
(G)売上先がYとの取引について、調査担当者は、当審判所に対し、Yに臨場し、架空取引であることを確認した旨答述している。
 また、「上申書」にもYとの取引について記載があることから、Mも架空取引と認めている。
(H)原処分庁が架空売上げと認定したM関連会社の各取引は、「上申書」においてMが架空取引と認めているものと同一であり、また、「問題事項一覧表」と比較しても、これに記載のない平成4年11月分及び平成4年12月分を除いて一致していることが認められる。
B M関連会社への売上げを架空売上げとすることの是非
 上記Aで認定したとおり、関係者の申述からは架空取引を行った事実が確認でき、さらに、当該売上げの金額についても、Mが架空取引と認めた金額及び本件納品書メモ金額とも一致していることから、架空売上げと認められる。
(ロ)Rからの仕入れ
A 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)Lは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
a 取引実態のない架空の請求書の作成をRへ指示して請求人へ送付させ、これを仕入れとして記帳処理した。
b Rと取引することになったきっかけは、Uより「請求人の手伝いを何かすることはないか。ゼネコンのこともよく知っているのでアングラ的なものもあるでしょう。請求人さんのところもアングラ的な仕事もやっているのですか。もし、やっているのならその仕事をさせてくれ。」という意味のことを何回か言われているうちに、架空の仕入先として、Uが経営しているRを利用することに決めた。
c Rとの取引は平成4年11月ころから私が辞めた平成8年5月ころまで行っていたと思う。
(B)Uは、調査担当者に対し、実際にRは仕事をしていない、請求人に請求するようにLから指示があり、その見返りとして手数料を受け取った旨申述している。
(C)Uは、原処分庁に手数料を受け取った取引が記載された文書(以下「回答書」という。)を提出しており、その内訳は、原処分庁が架空仕入れと認定した各取引と一致している。
(D)Uは、当審判所に対し、次の内容を答述した。
a 請求人の発展と円滑な業務の遂行に協力するため、ゆくゆくは、本当に取引を行うつもりで、まずは、形式的な取引を行って、Rの実績をつくり、取引先や銀行の信用を得ることになった。
b Lの指示どおり、請求人への請求書及び納品書を作成し、請求人からR名義の預金に振り込まれた金を他の会社に振り込んだり、Lに現金で渡したりした。
 自分が金を振り込んだ相手は、本当の施工業者だと思っていたし、Lに渡した金は、ほかの本当の施工業者に支払われるものと思っていた。
 もし、Lが個人的な裏金をつくるために、Rを使っているというのであれば、そのようなことに加担することはなかったはずである。
c Rは、請求人の仕事を実際に行ったことはない。
B Rからの仕入れを架空仕入れとすることの是非
 原処分庁は、平成5年5月期のRからの仕入れを架空仕入と認定しているが、上記Aの(A)のとおり、Lは平成4年11月ころから平成8年5月ころまで架空取引を行った旨申述しており、また、上記Aの(B)ないし(D)のとおり、Uは、簿外資金作りのためであることは知らなかったとはするものの、実際に工事を行ったことはないにもかかわらず、Lの指示どおり、請求人に請求書等を送付して請求人から支払を受けた旨申述等している上、請求人がその他の業者から当該仕入れに対応する仕入れを行なった事実は認められないので、Rとの取引については、全額架空仕入と認められる。
(ハ) 本件返還残余金
A 認定事実(本件返還残余金の存在)
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)Lは、調査担当者に対し、次のとおり申述した。
a 上記(イ)のAの(A)のa及び上記(ロ)のAの(A)のaのとおり。
b Mより売上代金が振り込まれると、請求人が平均15%の利益を取ってRへ振り込み、Rは平均10%の手数料を取るなどして残りを私がRより現金で受取り、Mの担当者に、Mとの架空売上げ金額の50%を返金した。
(B)Nは、調査担当者に対し、裏金づくりを最初に行う時にLと相談して、取引金額の50%を戻してもらうことにしていた旨申述している。
(C)Pは、調査担当者に対し、Lとの約束で発注金額の50%をバックしてもらうことになっていた旨申述している。
B 認定事実(本件返還残余金の帰属者)
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)Lは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
a 営業担当の管掌役員として、営業関係(硝子の販売)の仕事を一手に引き受けてやっていた。
b M関連会社との不正取引の開始時に、Xらには、口頭で報告し了承を得ている。
(B)Uは、当審判所に対し、次の内容を答述した。
a 上記(ロ)のAの(D)のbのとおり。
b 私としては、Lに渡した金は、当然にL個人ではなく、法人である請求人に対して渡したつもりでいた。
(C)Xは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
a 社長時代には、振替伝票から支払の承認の全てに目を通していたが、平成6年6月から、会長に就任して以降は支払に関して仕入れの請求書だけをチェックしていた。
b Rへの支払いは、Rからの請求書に基づき、○○営業所が支払の稟議を本社に回し、本社で経理、社長(k)を経て会長の私が支払の決裁を行い、振り込んでいた。
c 当社のシステムとして、支払の場合は、現場担当者がチェックし、本社のuがチェックした請求書が私の所へ回って来て、支払承認を行うことになっており、Rとの取引については利益金額も記載してあるので正しいと判断した。
d ○○方面についての営業、人事、総務全般については、Lに任せていた。
(D)請求人の経理担当であるuは、調査担当者に対し、本社以外の営業所の売上げに係る仕入れについては、平成8年7月までは、各担当者が発注した仕入納品書と仕入請求書に当該仕入れに係る売上げの納品書のコピーを添付して私のところに郵送されてくるので、この売上げと仕入れに差益があることを確認し、社長決裁に回す旨申述している。
(E)請求人の経理部長であるvは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
a 私は経理を担当していたが、請求書や領収書を実際に見ることはほとんどしなかった。
 というのも、請求人は、会長(X)や社長(k)が請求書等をじっくり見るので、私が余分な時間をかけて見る必要がなかったからである。
b 請求人では、書類を見た場合、必ず押印することになっている。
(F)請求人の総務部チーフであるtは、調査担当者に対し、Lは、平成8年6月に退職するまで、専務取締役として○○営業所及び○○工場の責任者という立場で○○方面で勤務していたが、月に1度は取締役会と営業会議に出席するため、本社に来ていた旨申述している。
(G)Mに対する架空売上げに係る納品書の名義は、請求人である。
(H)Rに対する架空仕入れの納品書及び請求書のあて名は、請求人である。
 また、X及びkは、Rに対する請求書に、それぞれ、承認印及び検収印を押印している。
C 本件返還残余金の存否及び帰属
(A)本件返還残余金の存否
 上記Aの事実を総合すれば、Lは架空取引によりRに支払われた仕入代金のうち、M関連会社への返還金を除いた金額を会計帳簿に記載しないで簿外資金として隠ぺいしたと認めることが相当である。
(B)本件返還残余金の帰属
a 請求人は、原処分庁が青色申告の承認の取消理由としてあげた各事実は、Lが会社には無断で行ったものであり、請求人が承認した事実はなく、本件返還残余金については、L個人に帰属する旨主張するところ、代表者の認識の有無については、必ずしも明らかではないが、本件返還残余金の帰属主体が誰であるかは、究極的には事業の経営組織、事業目的、取引の状況、取引先の認識等を総合勘案して、本件不正行為が請求人の事業の一環としてなされたものと認められるか否かによって決せられるべきである。
b これを本件についてみると、上記Bの(G)及び(H)のとおり、架空売上げに係る納品書の名義、架空仕入れに係る納品書及び請求書のあて名は請求人であり、そして、L個人のものであることを示す経理処理は何らなされていないこと、また、上記Bの(D)、(E)及び(H)のとおり、Rへの架空仕入れに係る支払に際し、kを経てXが決裁をしていること、M関連会社及びRとの架空取引の名目は請求人の目的内の行為であることにかんがみれば、架空取引自体が請求人の業務として行われたことは明らかである。
c また、Lは、上記1の(3)のイ及び上記Bの(C)のdのとおり、請求人の常務取締役又は専務取締役として○○営業所の管理を任されており、また、上記Bの(F)のとおり、取締役会及び営業会議に出席していた事実が認められるから、Lは、代表権こそ有していなかったものの、実質的にも常務取締役又は専務取締役という相当な権限を有する立場にあったものと認められるのであって、請求人にLの行為の結果が帰属することにも理由がある。
d 以上により、本件返還残余金の取得は、請求人の事業の一環としてなされたものと認められる。
e これに対し、請求人は、Lは自己の利益のために本件不正行為を行ったもので、請求人のためになしたものではないから、請求人に本件返還残余金が帰属することはない旨主張するところ、仮にLが当初から本件返還残余金を自己のものとするつもりであったとしても、上記bのとおり、対外的には請求人の取引として行っているものを、その行為者の真意いかんによって利得の帰属者が左右されるとするのは妥当ではなく、請求人の主張は採用できない。
f また、請求人は、所得の帰属を決定する基準として、本件返還残余金が、「だれのものとして」、「だれのために」管理されていたかが重要であり、本件においては、Lが「Lのものとして」、「Lのために」管理していたのであるからに帰属しない旨主張する。
 しかしながら、Lが本件返還残余金を自己のものとした行為は利得の処分の問題であって、本件返還残余金の帰属とは別問題であるので、請求人の主張には理由がない。
g さらに、請求人は、Lの行為は請求人の利益に反する行為であるから、これを請求人の行為と同視することはできない旨主張するが、この点についても、Lが本件返還残余金を自己のものとしたとしても、架空取引を行い、本件返還残余金を得る行為は請求人の利益を追求する行為であって、利益が相反するものとは認められないので、請求人の主張には理由がない。
(ニ)再バック金
A 認定事実
 Pは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
(A)Lから受け取った6,000万円ぐらいのうち、Lに手数料として20%から30%、約1,500万円くらい支払っていると思う。
(B)Lに対する再バック金は、交際費に使うと言われていたので、L個人ではなく、請求人に渡したつもりであった。
B 再バック金の存否及び帰属
 上記Aの事実から、再バック金を会計帳簿に記載しないで簿外資金として隠ぺいしたと認めることが相当であり、また、再バック金は本件返還残余金の捻出に関連して生じたものであり、上記(2)のハの(ハ)のBを考慮すると請求人に帰属すると認められる。
(ホ)本件青色申告の承認取消処分の適否
A 青色申告制度は、適正な租税負担を実現するため所得計算に不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたものであり、そのために、青色申告者に対して一定の帳簿書類の備付け等を義務付ける規定を設ける反面、課税手続上又は所得計算上、各種の特典を付与する規定を設けている。
 これらの青色申告制度の趣旨からすると、青色申告者が備え付けている帳簿書類は、青色申告者自身がそれによって適正な申告をするための資料としての機能を有するものといわなければならない。
 その帳簿書類について、法人税法第126条《青色申告法人の帳簿書類》第1項は、同法施行規則第53条《青色申告法人の決算》ないし第59条《帳簿書類の整理保存》の定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにすべての取引を記録し、保存しなければならないと規定し、同法第127条第1項第3号は、「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当な理由があること」の事実がある場合には青色申告の承認の取消し事由に該当するとし、同項は、その取消しがあった事業年度開始の日以後その法人が提出した青色申告書は、青色申告書以外の申告書とみなす旨規定している。
B これを本件についてみると、平成5年5月期において、請求人は、上記(イ)ないし(ハ)で述べたとおり、〔1〕M関連会社に対して架空売上げを計上していた事実、〔2〕Rに対して架空仕入れを計上していた事実、〔3〕M関連会社の取引で仕入先がRに係る本件返還残余金を除外していた事実が認められ、請求人の帳簿書類の記帳は、法人税法第127条第1項第3号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること。」という要件に該当するから、本件青色申告の承認取消処分は相当である。
C 請求人は、代表者に隠ぺい、仮装行為の認識がない場合に青色申告承認の取消処分を行うことが、憲法第29条に反するものであるとか、契約自由の原則に反する等と主張する。
 しかしながら、原処分庁が青色申告の承認の取消事由としてあげた各事実について、Xらの認識の有無及び承認した事実の存否は必ずしも明らかではないが、仮にXらがこれを認識しておらず、承認をした事実もなかったとしても、帳簿書類の正確な記帳を推進するとの青色申告制度の趣旨にかんがみれば、その取消しは、隠ぺい、仮装行為が代表者によってなされたか、あるいは代表者が知っていた場合に限定されるものと解すべきではなく、当該法人のために働く従業員が代表者の承認を得ずに行った場合でも該当するものと解するのが相当である。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
D さらに、請求人は、Lの隠ぺい、仮装行為は、脱税に向けられたものではないから、法人税法第127条第1項第3号の「隠ぺい、仮装」に当たらない旨主張するが、帳簿書類の正確な記帳を推進するとの青色申告制度の趣旨にかんがみれば、当該隠ぺい、仮装が脱税目的で行われたか否かは青色申告の取消しを左右するものではない。

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(3)法人税の更正処分について

イ 原処分庁の主張
(イ)M関連会社等の取引
A 本件返還残余金が請求人に帰属することについては、上記(2)のイの(ハ)のとおりである。
 また、再バック金も、本件返還残余金と同様に請求人に帰属する。
B 本件各事業年度の申告所得金額に加算又は減算した金額は、次のとおりである。
(A)売上げ
 売上金額については、請求書控え、納品書控え等を調査し、さらに請求人の売上先を調査したところ、工事等の実態がなく、売上金額が架空に計上されている事実が判明したため、別表5のとおり、架空売上金額を所得金額から減算した。
(B)仕入れ
 仕入金額については、請求書、納品書等を調査し、さらに請求人の仕入先を調査したところ、工事等の実態がなく、仕入金額が架空に計上されている事実が判明したため、別表6のとおり、架空仕入金額を所得金額に加算した。
(C)雑収入(上記(A)及び(B)の差額)
 本件各事業年度における、上記(A)の架空売上金額と(B)の架空仕入金額との差額は、M関連会社等に依頼された不正加担の手数料であり、別表7のとおり、雑収入の計上漏れ金額として所得金額に加算した。
(D)本件返還残余金
 請求人は、本件各事業年度において、M関連会社等に依頼された簿外資金の捻出に当たり、平成5年5月期、平成6年5月期及び平成8年5月期には、Rに対し、架空仕入金額を計上して資金を捻出し、また、平成6年5月期、平成7年5月期及び平成8年5月期には、Sに対し架空仕入金額を計上して、さらにRを経由して資金を捻出し、その資金の一部をM関連会社等に現金で返還した。
 そして、不正加担の手数料として、本件返還残余金を受け取っているので、別表8のとおり、雑収入の計上漏れ金額として所得金額に加算した。
(E)再バック金
 請求人は、本件各事業年度において、Mに依頼された簿外資金の捻出に当たり、R等に対し、架空仕入金額を計上して資金を捻出するとともに、その資金の一部をMに現金で返還し、その後、いったん返還した現金の中から再バック金を受け取っているので、別表9のとおり、雑収入の計上漏れ金額として所得金額に加算した。
C 本件返還残余金及び再バック金の処分
 請求人が、簿外資金を捻出するために利用した仕入先に対して支払った手数料は、別表10のとおりR等に渡っており、交際費と認められるため所得金額から減算したが、請求人が、法人税確定申告書に添付した「交際費等の損金不算入に関する明細書」の支出交際費等の額に、別表10の金額を加算して、損金不算入額を再計算したところ、交際費等に加算した全額が別表10のとおり、損金不算入となる。
 また、再バック金及び本件返還残余金のうち交際費と認定したもの以外の金額については、Lが個人的に費消しているので、別表11のとおり、同人に対する賞与と認定した。
(ロ)Tの取引
A 請求人は、Rと紹介手数料名目の実態のない取引(以下「本件紹介手数料」という。)を仕入勘定に計上しているが、調査したところ、紹介等の実態がないことが判明したため、別表12のとおり、仕入金額から減算した。
 なお、請求人は、本件紹介手数料の同額がLによる詐欺・横領による損失となり雑費として計上すべきであるから、請求人に所得は発生しない旨主張するが、本件紹介手数料がLによる横領によるものであるとしても、法人税法は、所得計算につき、いわゆる発生主義を採用し、特段の規定がない限り損益の発生は権利義務の実行の時とせず、その発生の時としているものと解されるから、不法行為に基づく損害賠償請求権についても、特に異なる取扱いをする旨の規定が存在しない以上、商行為に基づく債権と同様に、その発生をもって資産の取得とすることが当然と解されている。
B 本件紹介手数料の処分
 請求人が、簿外資金を捻出するために利用した取引先に対する本件紹介手数料は、別表13のとおりR等に渡っており、交際費と認められるため所得金額から減算したが、請求人が、法人税確定申告書に添付した「交際費等の損金不算入に関する明細書」の支出交際費等の額に、別表13の金額を加算して、損金不算入額を再計算したところ、交際費等に加算した全額が別表13のとおり、損金不算入となる。
 なお、本件紹介手数料のうち交際費に認定したもの以外の金額は、Lが個人的に費消しているので、別表14のとおり、同人に対する賞与と認定した。
(ハ)雑収入等(消費税の清算差額)
 消費税の計算に当たり、上記(イ)及び(ロ)並びに後記(7)のイの(ニ)により、未払消費税額と実際に納付すべき消費税額との差額が別表15のとおり生じるので、本件各事業年度において、その額を雑収入として所得金額に加算又は雑損失として所得金額から減算した。
(ニ)特別償却準備金積立超過額
 請求人が、別表15のとおり、本件各事業年度の所得の金額から減算した特別償却準備金は、本件青色申告の承認取消処分に伴い、積立てが認められなくなるため所得金額に加算した。
(ホ)特別償却準備金積立超過認容額
 別表15のとおり、本件青色申告の承認取消処分に伴い積立てが認められなかった特別償却準備金に係る平成6年5月期から平成9年5月期の加算額を所得金額から減算した。
(ヘ)事業税認容額
 平成6年5月期ないし平成8年5月期について、別表15のとおり、前事業年度の更正処分による増差所得に係る事業税を損金に認定し所得金額から減算した。
(ト)所得金額
 上記(イ)ないし(ヘ)に基づき、本件各事業年度及び平成9年5月期の所得金額を計算すると、別表16−1及び別表16−2の欄のとおりとなる。
(チ)納付すべき税額
 以上の結果、本件各事業年度の法人税の納付すべき税額は、別表16−1及び別表16−2の「納付すべき税額」欄のとおりとなる。
ロ 請求人の主張
(イ)M関連会社等の取引
A 本件返還残余金が請求人に帰属しないことについては上記(2)のロのとおりであり、また、再バック金は本件返還残余金と同様に請求人に帰属しないので、請求人への課税は、課税原則である実質課税の原則に反する違法なものである。
B なお、原処分庁の認定には、次のとおり誤りがある。
(A)原処分庁が架空仕入れと認定した現場の売上合計金額に占める当該仕入れ金額の割合が80%を超えるものは、売上げ、仕入れともに架空取引であるが、その割合が低く、50%以下のものについては、仕入れは架空であっても売上げは正当なものである。
 それは、1つの工事に架空の部分とそうでない部分を抱き合わせることは通常考えられないからである。
 また、7,941円(○○○号館4/16)のような低額の取引も含まれているが、このようなものをMと連絡の上、架空売上げにするとは考えられない。
 したがって、原処分庁が架空売上としているうち別表17のとおり仕入れが現場搬入費名目及び施工費他の名目の取引については、架空売上ではない。
(B)本件各事業年度のR及びSに対する仕入れについて、工事等の実態のない仕入れを計上していた事実は認めるが、上記(A)のとおり、別表17の金額に対応するものは、Rに対する架空の仕入れ名目で、Lが詐欺行為を行っていたのであり、別表18の金額は、請求人から詐取した金額である。
(ロ)Tの取引
 原処分庁の主張する事実がそのとおりであることは認めるが、請求人は、Tとの取引に関連して、R及びSに対して支払った金額は正当な支払であると信じていたもので、この金員はLによって詐取されたものであるから、雑損として支出に計上すべきである。
 また、L個人には、原処分庁の調査によっても資産がないことが判明しているはずであるから、詐欺による損害の賠償の見込みがないことから、結局Lの詐欺・横領にかかる金銭については、同額が損金となるべきもので、差引所得がないことに帰する。
(ハ)所得金額
 本件各事業年度の法人税の所得金額は、確定申告書に記載したとおりとなる。
(ニ)納付すべき税額
 以上の結果、本件各事業年度の納付すべき税額は、確定申告書に記載したとおりとなる。
ハ 判断
(イ)平成9年5月期の更正処分
 請求人は、平成9年5月期の法人税の更正処分について、その全部の取消しを求めているが、当該更正処分は、平成9年5月期の申告納税額を増加させる更正処分ではないことが明らかであり、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえず、その取消しを求める利益はない。
 したがって、平成9年5月期の法人税の更正処分に対する審査請求は、請求の利益を欠くものとして却下するのが相当である。
(ロ)本件各事業年度の更正処分
A M関連会社等の取引
(A)本件返還残余金及び再バック金(以下「本件簿外資金」という。)は、上記(2)のハの(ハ)のCの(B)及び上記(2)のハの(ニ)のBのとおり、請求人に帰属する。
(B)本件各事業年度の益金又は損金に算入することとなる金額は、次のとおりとなる。
a 売上げ
(a)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、上記(2)のハの(イ)のAのほか、次の事実が認められる。
1 Pは、当審判所に対し、架空取引の具体的内訳ははっきり覚えていないが、現場によっては架空取引の金額がその現場の総取引金額の3%であったり、5%であったりする可能性は有り得るし、平成8年2月ころの○○○○の現場で7,000円、平成7年7月ころの○○−○丁目の現場2,570円といったものが架空取引に含まれることも有り得ない訳ではない旨答述している。
2 Lは、調査担当者に対し、M以外に実態のない取引先として、スポットもので、y株式会社(以下「y」という。)ほか数件あったと思う旨申述している。
3 調査担当者は、当審判所に対し、架空仕入れに対応する売上げを全て架空売上げと認定したものであり、y、p株式会社及びw株式会社(以下、y、p株式会社及びw株式会社の3社を併せて「y等」という。)への売上げについても架空仕入れに対応するものであったため架空取引と認定した旨答述している。
4 原処分庁が架空取引と認定したy等への売上げに対応する仕入先は全てSであり、その仕入内容はいずれも各現場の現場搬入費又は現場施工費であって、当該取引の利益率は12.5%から33.3%となっている。
(b)売上げの適否
1 原処分庁は、本件各事業年度のM関連会社の架空売上金額を別表5のとおり計算しているところ、上記(2)のハの(イ)のBのとおり、当審判所の調査によっても架空売上げと認められる。
2 なお、請求人は、上記ロの(イ)のBの(A)のとおり原処分庁が架空売上げと認定した中には、架空売上げではないものもある旨主張するが、上記(a)の1のとおり、Pは架空取引の金額の総取引金額に占める割合が低率であったり、架空取引の金額が低額であったりする可能性を否定していない上、原処分庁は、R等からの本件納品書のメモ金額に基づいて、Mへの架空売上金額を算定したものと認められるところ、当該納品書は、一定期間内の取引について一括して記載された請求書のいわば内訳的なものであって、これは単に請求書に記載の請求金額を架空取引であることが発覚しないように現実味のある用途及び金額で適当に割り振ったものと考えるのが自然であるから、少額な請求金額が含まれていることや正当な取引現場の工事額の一部だからと言って、当該取引が架空取引でないとは言えない。
また、Mは請求人からの請求書を受け、これを仕入れとして計上しており、「問題事項一覧表」及び「上申書」において、これらの取引を架空取引と認めている。
3 原処分庁が過大計上額としたy等への売上げについては、〔1〕Lが上記(a)の2のとおり、架空売上先として、yほか数件があった旨申述していること、〔2〕後記bの(b)のとおり、仕入先がSである取引は全て架空取引と認められること、〔3〕架空仕入れの名目にかんがみれば、これに対応する売上げのみが正当なものであるとは考えられないこと等を総合的に勘案すると、架空売上げと認めるのが相当である。
4 以上のとおり、原処分庁が、本件各事業年度の架空売上金額を別表5のとおり計算しているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の計算額は相当と認められる。
b 仕入れ
(a)Rからの仕入れの適否
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、上記(2)のハの(ロ)のAの事実が認められ、原処分庁は、平成5年5月期及び平成6年5月期のRからの架空仕入金額を別表6のとおり計算しているところ、上記(2)のハの(ロ)のBで判断したとおりRからの仕入れは架空取引と認められ当審判所の調査によっても、平成8年5月期を除き原処分庁の計算額は相当と認められる。
 なお、原処分庁は、別表6のとおり、平成8年5月期の架空仕入金額を6,233,200円と計算しているところ、当審判所の調査によれば、別表19の審判所認定額の6,223,000円となる。
(b)Sからの仕入れ
1 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(1)Lは、調査担当者に対し、R以外に利用した架空の仕入先は、Sが記憶にある旨申述している。
(2)Sの経理担当であるrは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
〈1〉硝子工事について、請求人からSが工事を請け負い、Rに外注したことになっているが、不審な取引と思う。
 Sで工事をすることはできないし、Rは内装工事をすることはあっても硝子工事はできない。
 そうすると、請求人に対する売上げ、Rに対する外注はいずれも架空ではないかと思う。
〈2〉Lより請求人に対する請求について、工事名、金額等の指示があり、私が請求書を作成して請求人に郵送していた。
 また、Rから工事の請求書が送られてきたら、必ずLに確認してからRの口座に振り込んでいた。
〈3〉Lの指示により経理処理をしていたので、取引の内容については分からない。
2 Sからの仕入れの適否
 以上のとおり、L及びrの申述からは、Sからの仕入れは架空仕入れと認めることができ、Lがrに指示し、架空の証ひょう書類を作成させ、請求人に送付させて、仕入れに仮装したものと判断するのが相当である。
 したがって、原処分庁が、平成6年5月期から平成8年5月期のSからの架空仕入金額を別表6のとおり計算しているところ、当審判所の調査によっても、別表19のとおりとなり、原処分庁の計算額は相当と認められる。
c 雑収入(上記a及びbの差額)
 請求人には、上記aの架空売上げと上記bの架空仕入れの差額が利益として残っているが、上記a及び上記bのとおり、架空売上げについては請求人の所得金額から減算し、架空仕入れについては請求人の所得金額に加算した結果、架空取引に係る利益部分についても、所得金額から減算されたこととなる。
 したがって、原処分庁が、平成5年5月期、平成6年5月期及び平成7年5月期において、別表7のとおり雑収入の計上漏れ額を計算し、請求人の所得金額に加算した金額は相当である。
 なお、原処分庁は、別表7のとおり、平成8年5月期の雑収入計上漏れ額を1,491,660円と計算しているが、上記bの(a)の認定に伴い、別表20のとおり、1,501,860円となる。
d 本件返還残余金
 原処分庁は、本件各事業年度の本件返還残余金を別表8のとおり、架空仕入金額(税抜き)から架空売上先への返還金(架空売上金額(税抜き)の50%相当額)を控除して計算している。
 しかし、当審判所が、その計算方法の適否を調査したところ、本件返還残余金は、架空仕入金額については、現実に支払われた金額である税込み相当額に基づき計算すべきであり、当該架空仕入金額(税込み)から架空売上金額(税抜き)の50%相当額を控除した金額を税抜き処理して、本件返還残余金を算定すべきである。
 また、平成8年5月期のRに対する未払金2,559,550円(税込み)は、本件返還残余金の算定に当り、架空仕入金額から控除すべきである。
 そうすると、本件各事業年度における本件返還残余金の計上漏れ額については、別表21のとおりとなる。
e 再バック金
(a)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
1 再バック金について、「上申書」には対象となった現場ごとに合計額の記載があり、また、「問題事項一覧表」には、月単位で現場名と金額の記載がある。
2 Pは、当審判所に対し、再バック金については、Lとの間で、金額等の合意があらかじめ存在したわけではなく、その都度、現場の状況に応じて決定していたものであり、Lに渡した金額と時期については、○○国税局に文書で回答した旨答述している。
(b)再バック金の適否
 再バック金の額は、「上申書」及び「問題事項一覧表」により確認できるところ、原処分庁は、「問題事項一覧表」を未入手の段階で「上申書」により再バック金を特定したものであり、「上申書」では再バック金の受領日が不明であったため、現場ごとの再バック金の合計額を、当該現場の事業年度別の架空売上金額を基礎にしてあん分計算を行ったことが認められる。
 また、「上申書」には、複数の現場の架空売上金額の合計額に対する再バック金が記載されたものもあるが、原処分庁は、当該再バック金を本件各事業年度に振り分けるに当たり、それらのうちの1つの現場のみの事業年度別の架空売上金額を基礎として、あん分計算を行っていることが認められる。
 しかし、上記(a)の2のとおり、再バック金については、あらかじめ当事者間で算定方法等についての合意はなかった事実があるので、架空売上金額の発生時点において、請求人に再バック金を受領する権利が確定したとは認められず、現実にそれを受領した時点において確定すると考えるのが相当である。
 そうすると、「問題事項一覧表」に記載の再バック金の計上年月については、PがLに対して、再バック金を手渡した年月と認められるから、「問題事項一覧表」を基に本件各事業年度における再バック金の帰属事業年度を認定するのが相当である。
 なお、原処分庁は、再バック金について、消費税法第2条《定義》第1項第9号に規定する課税資産の譲渡等に該当しないものとしているが、後記(7)のハの(イ)のとおり、課税資産の譲渡等に該当することが認められるので、Pから受領した金額について、別表22のとおり税抜き処理した金額を本件各事業年度の再バック金の計上漏れ金額とするのが相当である。
(C)本件簿外資金の処分
a 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる。
(a)Lは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
1 M関連会社の架空取引についてもT関係の架空取引についても、kの前でXに報告して了承してもらった。
2 本件簿外資金及び本件紹介手数料の一部をRへの手数料として処分した。
(b)Lは、請求人がLに対して詐欺又は横領等による損害の賠償を求める民事訴訟(以下「T関係損害賠償請求訴訟」という。)において、本件紹介手数料により得た金は、請求人の経費に使った旨主張し、それに関連して、本件簿外資金についても、請求人の経費に使った旨主張した。
(c)Xらは調査担当者に対し、Lの本件不正行為については、平成8年5月ころまで知らなかった旨申述している。
(d)Uは、上記(2)のハの(ロ)のAの(B)のとおり、手数料を受け取っていた旨申述している。
(e)tは、当審判所に対し、Lの交際費支出権限については、事前決裁は必要なく、支出後にXの決裁を受けていたが、支出がなされてしまっている以上、否認されることはほとんどなかったが、Xからは、交際費を使い過ぎないように注意されていた旨答述した。
(f)LからRにファックスされた文書には、請求人に対する請求内容の指示とRの受取手数料の額が記載されているものが見受けられる。
(g)本件返還残余金に係る資金の流れは、請求人からRやSへの架空仕入金額相当額の振込みがなされた後、その一部は、RからLが実質的に支配している合名会社V(以下「V」という。)及びmへ振込まれ、また、SからRを経由してV及びmへ振込がなされている。
(h)Lは、○○方面の営業を任されており、本件簿外資金及び本件紹介手数料を管理していたが、原処分に係る調査時において、これらは全く残っていなかった。
b 本件簿外資金の処分状況を検討するに、〔1〕Rへの支払については、上記aの(a)の2及びaの(d)のとおりLとUが共に金の授受があった旨申述し、上記aの(f)のとおり、これを裏付ける客観的資料も存在することから認められ、〔2〕上記aの(g)のとおり、S、V及びmへの支払事実は客観的に明らかであり、これらの金の流れは、請求人又はLから直接支払われたもののみならず、RやSを通じて支払われたものも含まれているが、このような間接的な支払先もLが実質的に支配する会社と認められ、Lが金を配分したものと認められるので、これをRやSの処分にすぎないとみるのは妥当ではなく、全てを請求人の本件簿外資金の使途ととらえるのが相当である。
c そうすると、本件返還残余金に係る資金について、当審判所が原処分関係資料からR、S、V及びmへの支払について調査したところ、いずれも請求人との正常の取引の対価として支払われたものでないことは明らかである。そして、別表23の〔1〕及び〔2〕に示した支払は、架空仕入先として請求人あてに実態のない請求書等を送付するなどして、請求人の不正行為に協力したことに対する手数料、すなわち謝礼とでもいうべきものであるから、交際費と認めるのが相当である。
d また、別表23の〔3〕、〔4〕、〔5〕に示したR、V及びmへの支払は、R又はSを通じて行われているところ、これらの金は、請求人と直接架空取引を行って利得を得ているものではないと認められ、当該利得は請求人の不正行為に協力したことに対する手数料とはいえず、結局その利得は何らの対価ともいえないものであるから、寄付金と認めるのが相当である。
e さらに、別表23の〔6〕に示した交際費及び寄付金と認定した金額以外のもの及び別表24に示した再バック金の使途については、Lには、上記aの(e)及びaの(h)のとおり、ある程度の交際費支出権限があり、本件簿外資金及び本件紹介手数料を管理していたもので、これを自由に費消ないし流用できる立場にあり、また、請求人の営業活動には交際費が相当必要であったことは容易に想像されるところであるが、これらの金が請求人のために使われたと認めるに足りる具体的証拠はなく、また、Lが個人的に費消したものと認めるに足りる具体的証拠もなく、使途が不明であるから、当該金額は損金の額に算入されない。
B Tの取引
(A)原処分庁は、請求人が別表12のとおり、平成7年5月期及び平成8年5月期において、Tとの取引開始に協力した手数料としてRに支払った本件紹介手数料は、実態がないものとして仕入れから減算しているが、請求人も事実関係については争っておらず、当審判所が原処分関係資料を調査したところにおいても、その金額は別表25のとおり原処分は相当と認められる。
(B)なお、請求人は、上記(A)のRに対する本件紹介手数料は、Lに詐取されたものであり、結局、Lの詐欺・横領に係る金銭については、同額が損金となり、差引所得がないことに帰する旨主張する。
 しかしながら、仮に請求人が債権を取得したとしても債権は、債務者の無資力その他の事由によって実現不能であることが明白になったときに初めて損金として処理すべきであるところ、当該債権が取得当初から明白に実現不能の状態にあったものと認めるべき証拠はなく、かえって請求人は本件紹介手数料について、平成10年5月15日になって、T関係損害賠償請求訴訟を○○地方裁判所○○支部に提起したほどであるから、Lに対する債権は、取得当初から明白に実現不能の状態にあった、すなわち本件各事業年度の間において実現不能が明白になったものとは認められず、Rに対する本件紹介手数料を平成7年5月期及び平成8年5月期の損金として算入することはできない。
(C)本件紹介手数料の処分
a 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、上記Aの(C)のaの(a)、(b)、(e)、(f)、(h)のほか、以下の事実が認められる。
(a)Lは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
1 本件紹介手数料の一部を交際費に充てさせるため、Tへのパチンコ台のガラスの売上げ1枚に対し、29円として計算した金額をZに渡したが、現実にどのように費消したかは確認していない。
2 手もとに残った現金は、請求人に認めてもらえなかった交際費等に費消した。
(b)Zは、調査担当者に対し、次の内容を申述している。
1 ○○営業所で、営業係長として新規開拓を行っており、Tを得意先として開拓した。
2 Lから給料の補てん等として、現金を受け取っていた。
(c)Zは、T関係損害賠償請求訴訟において、Lから受け取った現金は、請求人の営業経費や自己の生活費等に費消した旨証言している。
(d)Zがj株式会社を平成8年7月に設立し、Tとの取引をj株式会社に移行したため、その時点で請求人とTの取引は中止となった。
(e)Xは、調査担当者に対し、ZがTから仕事を取って来た際に、Lから、取引金額に応じてマージンを支払う必要があり、その支払先をRとする旨を本社での営業会議の席上で説明を受けた旨申述している。
(f)kは、調査担当者に対し、Lから、Tとの取引については特異な業界であり、ある人に対して紹介手数料が必要だと聞き、Xに報告したところ、Xも紹介手数料を支払うことについて、業界のことがあるならしょうがないという話をしていた旨申述している。
(g)Uは、調査担当者に対して、売上台数に応じて請求人に請求書を出しているが、この紹介手数料の取引はカラ取引であり、紹介手数料のうち5%から8%を手数料として受け取っていた旨申述している。
(h)LからZに支払われた金額を明らかにする客観的資料は存在しないが、ZがLから受領した現金を入金したとする○○○銀行○支店に開設したZ名義の口座には平成7年3月31日から平成8年6月26日までの間に600万円余の入金がある。
(i)本件紹介手数料に係る資金の流れは、請求人からRに振込がなされた後、RからS及びmに振込まれ、また、RからLに現金が渡され、そのうちの一部がZに渡されている。
b 本件紹介手数料の処分状況を検討するに、〔1〕上記aの(i)のとおりR、S及びmへの支払事実は客観的に明らかであるほか、〔2〕Zへの支払については、上記aの(a)の1及びaの(b)のとおり、L及びZが共に現金の授受があったと供述し、上記aの(h)のとおり、現金授受のこん跡も存在する。
(a)そうすると、別表26に示したRへの支払いについては、当審判所が調査したところ、請求人との正常の取引の対価として支払われたものではないことは明らかであり、Rへの支払いは、架空仕入先として請求人あてに実態のない取引に係る請求書等を送付するなどして、請求人の不正行為に協力したことに対する手数料、すなわち謝礼とでもいうべきものであるから、交際費と認めるのが相当である。
(b)また、別表26に示したS及びmへの支払は、請求人と直接架空取引を行って利得を得ているものではないと認められ、当該利得は請求人の不正行為に協力したことに対する手数料とはいえず、結局その利得は何らの対価ともいえないものであるから、寄付金と認めるのが相当である。
(c)さらに、別表26に示したZへの支払については、Lの申述によれば、上記aの(a)の1のとおり、交際費の支給であり、Zの申述によれば、上記aの(b)の2のとおり、給与の支給であるが、Xの上記(e)及びkの上記(f)の申述からXらは相当額の交際費が必要となることも認識していたことがうかがわれ、Lに当該資金を請求人の営業のために使うことを包括して一任していたと認めるのが相当であり、そして、Zは、当該資金をTとの取引を継続するための交際費として相当使用したことが上記aの(d)のことから推認されるものの、これを裏付ける具体的証拠はなく、また、Zが個人的に費消したと認めるに足りる具体的証拠もなく、使途が不明であるから、当該金額は損金の額に算入されない。
c 本件紹介手数料のうち、R、S、m及びZに渡った金額以外のものは、Lが管理していたもので、上記Aの(C)のeの本件返還残余金と同様に使途が不明であるから、当該金額は損金の額に算入されない。
C 交際費等の損金不算入
 上記Aの(C)のc及び上記Bの(C)のbの(a)で交際費と認定したことに伴い、交際費等の損金不算入額を再計算すると、交際費と認定した全額が別表27のとおり、損金不算入となる。
D 寄付金の損金不算入
 上記Aの(C)のd及び上記Bの(C)のbの(b)で寄付金と認定したことに伴い、寄付金の損金不算入額を再計算すると、別表28のとおり、損金不算入となる。
E 雑収入等(消費税清算差額)
 消費税の計算に当たり、上記A及びB並びに後記(7)のハの(ニ)により、未払消費税額と実際に納付すべき消費税額との差額が別表29のとおり生じるので、本件各事業年度において、その額を雑収入として益金の額又は雑損失として損金の額に算入する。
F 特別償却準備金積立超過額
 原処分庁は、本件各事業年度において、別表15のとおり、特別償却準備金積立超過額を請求人の所得金額に加算しているが、当審判所の調査によっても原処分は相当と認められる。
G 特別償却準備金積立超過認容額
 原処分庁は、平成6年5月期から平成9年5月期において、別表15のとおり、特別償却準備金積立超過認容額を請求人の所得金額から減算しているが、当審判所の調査によっても原処分は相当と認められる。
H 事業税認容額
 平成6年5月期ないし平成8年5月期について、前事業年度の法人税の所得金額の増加に係る事業税は、別表30のとおりとなり、当該金額を損金の額に算入する。
I 課税所得金額
 そうすると、本件各事業年度の課税所得金額を計算すると、別表31−1及び別表31−2の欄のとおりとなる。
J 法人税額の特別控除額
 本件青色申告の承認取消処分に伴い、平成7年5月期及び平成8年5月期の法人税額の特別控除額の適用はないこととなる。
K 納付すべき税額
 以上の結果、請求人の本件各事業年度の納付すべき税額は、別表31−1及び別表31−2の「納付すべき税額」欄のとおりとなり、平成6年5月期及び平成7年5月期は、いずれも更正処分に係る納付すべき税額を上回ることとなるから、これらの事業年度の更正処分はいずれも適法であるが、平成5年5月期及び平成8年5月期は、更正処分に係る納付すべき税額を下回るから、これらの事業年度の法人税の更正処分は、その一部を取り消すのが相当である。

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(4)法人税の重加算税の賦課決定処分について

イ 原処分庁の主張
(イ)請求人が過少申告したことについては、上記(3)のイのとおりである。
(ロ)請求人が過少申告したことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められない。
 さらに、請求人は総勘定元帳に架空売上金額及び架空仕入金額を計上することにより捻出した簿外資金を受け取っているにもかかわらず、請求人の会計帳簿に記載せず、収入金額等(受取手数料等)を除外して過少な所得金額に基づいて法人税の確定申告書を提出している。
 これらの行為は、通則法第68条《重加算税》第1項に規定する法人税の課税標準等又は、税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて所得金額又は税額を過少に申告していたことに該当し、重加算税の賦課要件を充足することは明らかである。
 したがって、同法の規定に基づいて平成10年6月17日付の加算税の各賦課決定通知書のとおり賦課決定したものである。
(ハ)重加算税を賦課するためには、客観的に隠ぺい、仮装行為が存在し、それに基づいて過少申告という納税義務違反の状態が生じていれば足りるということになるので、隠ぺい、仮装の行為者を納税者本人に限定せず、納税者本人以外の納税者本人の行為と同視できる者の隠ぺい、仮装行為であっても、隠ぺい又は仮装に基づいて過少申告をしたときには、申告の効果が納税者に帰属するから、納税者が正当な所得を申告すべき義務を怠ったものとして、納税者の知、不知にかかわらず、原則として、重加算税を賦課できるものと解されている。
 そして、納税者本人と同一利害集団に属している者(納税者の家族、法人の役員)、会社の営業活動の中心となり、実質的にその経営に参画し相当の権限を有する者等が含まれるとされている。
 したがって、会社と役員の間においては、法律上も委任関係に基づいており、特に、法人については、自己の経済活動を行うに当たって多くの者の手助けを必要とするものであり、従業員等を手足として経済活動を行って、経済的利益を享受する反面、従業員が他人に損害を与えた場合には、代表者がこれを知らなくとも、当該損害を賠償すべき関係にあるのであるから、従業員の行った隠ぺい、仮装行為は、隠ぺい、仮装行為が代表者の知らない間に従業員によって行われた場合であっても、原則として、法人自身の行為と同一視されるべきである。
(ニ)請求人の主張に対する反論
 請求人の主張の趣旨は、隠ぺい、仮装行為が重加算税の賦課要件を満たすのは、隠ぺい、仮装の行為者が納税者本人であるか納税者本人がその行為者の隠ぺい、仮装行為を知っている場合に限られ、本件の場合は、Lが自己の横領等を隠ぺいするために隠ぺい、仮装行為を行ったという特段の事情があるから、請求人の行為と同一視すべきではないとするもののようである。
 しかしながら、この点については、判決例として、「専務取締役の隠ぺい行為は売上代金の一部を着服する目的でなしたものであり、代表者はその事実を知らなかったものと推認されるが、隠ぺい、仮装の行為に出た者が納税者本人の代理人、補助者等の立場にある者で、納税者の身代わりとして同人の課税標準の発生原因たる事実に関与している場合には、納税者本人が納税申告書を提出するに当たりその隠ぺい、仮装の事実を知らなくとも重加算税を賦課し得る」とした事例や(長野地裁昭和58年12月22日判決)、「法人の過少申告の原因が、主要業務を担当していた取締役による所得の一部隠ぺい行為にあると認められた事案につき、法人の代表者が所得の隠ぺいの事実を知っていたと否とにかかわらず、法人に対して加算税を賦課することができる」とした事例(京都地裁昭和54年4月27日判決)等があり、請求人の主張はその限りでこれらの判示内容に反しており、独自の見解に基づくものである。
ロ 請求人の主張
(イ)上記(3)のロのとおり、原処分庁の法人税の賦課が誤っており、実在しない事実を記載しなかったことは、仮装、隠ぺいに当たらない。
(ロ)最高裁は、「通則法第68条に規定する重加算税は、同法65条ないし67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課せられる行政上の措置であるから、同法68条1項による重加算税を課すためには、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないが、納税者が故意に課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実の全部または一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであることが必要である」(最高裁昭和62年5月8日第二小法廷決定)としており、納税者に故意が必要である。
 本件においては、代表者が本件不正行為を知らなかったのであるから、納税者たる請求人にはその故意はなく、重加算税の要件を欠くものである。
(ハ)通則法第68条第1項は、隠ぺい、仮装の主体を納税者に限定しているから、納税者以外の者が行った行為について重加算税を課すのは憲法の租税法律主義に反する。
(ニ)原処分庁は、長野地裁昭和58年12月22日判決を挙げているが、これは、内容が明確でなく、誤った判決であり、横領着服の場合にこれと同趣旨の判決が出された例はない。
(ホ)京都地裁判決は、本件と事案を異にすると思われるが、同様の事案であれば誤った判決である。
(ヘ)Lの行った隠ぺい、仮装行為は、脱税に向けられたものではなく、税法上の隠ぺい、仮装に当たらない。
ハ 判断
 重加算税の賦課決定処分が適法か否かに争いがあるので、以下審理する。
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、既述のとおり、請求人は架空売上げ及び架空仕入れを計上するとともに、これにより得られた収入を計上していない事実が認められる。
 また、その手段としてLは、次の行為を行ったことが認められる。
A M等に対する架空売上げを計上するに当たり、同社等に対して納品書及び請求書を送付した。
B Rに対する架空仕入れを計上するに当たり、Uに対して、納品書及び請求書の発行を依頼し、請求人あてに送付させた。
C Sに対する架空仕入れを計上するに当たり、rに対して、納品書及び請求書の発行を依頼し、請求人あてに送付させた。
D Lは、Uから現金をバックしてもらった際に、受領の事実を証する領収書等を発行しなかった。
(ロ)重加算税の賦課決定処分の適否
A 通則法第68条第1項に規定する重加算税は、同法65条ないし67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が課税要件事実を隠ぺいし、又は仮装する方法によって行われた場合に、行政機関の行政手続により違反者に課せられるもので、これによってかかる方法による納税義務違反の発生を防止し、もって徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であり、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科せられる刑罰とは趣旨、性質を異にするものであるから、従業員を自己の手足として経済活動を行っている法人においては、隠ぺい、仮装行為は代表者の知らない間に従業員によって行われた場合であっても、原則として、法人自身が行為を行ったものとして重加算税を賦課することができるというべきである。
 そうすると、Lは、請求人の常務取締役又は専務取締役として○○営業所を統括していたものであるところ、上記(イ)のとおり、自己の担当業務に関して本件各事業年度において、取引実態がないことを承知の上で売上げ及び仕入れの計上の根拠となる納品書等を用いて、あたかも本件各事業年度において取引実態があったかのごとく装うとともに、本件簿外資金の受領の事実を隠ぺいする行為を行ったもので、存在しない課税要件事実が存在するかのように見せかける仮装行為及び事実の全部又は一部を隠匿する隠ぺい行為を故意に行ったものと認めるのが相当であるから、当該行為は、通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当し、原処分庁が納税義務者たる請求人に重加算税の賦課決定処分をしたことは相当である。
B これに対し請求人は、最高裁判所第二小法廷昭和62年5月8日決定を前提に、重加算税の賦課には、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであることを必要とし、行為の主体を納税者に限定した上で、あくまでも隠ぺい又は仮装の行為者はLであるから、納税者たる請求人には、その故意がなく、重加算税の要件を欠く旨主張する。
 しかしながら、当該判例は納税者に隠ぺい又は仮装の故意が必要と判示したにすぎず、納税者に故意があったと認められる場合を、当該法人の代表者に故意が認められる場合に限定したものではないから、請求人の主張には理由がない。
C また、請求人は、Lの隠ぺい、仮装行為は、脱税に向けられたものではないから、通則法第68条の「隠ぺい、仮装」に当たらない旨主張するが、そもそも帳簿書類に隠ぺい、仮装がなされれば、特段の事情のない限り、当該帳簿書類に基づいて虚偽の申告がなされることは明らかであるから、本件不正行為者であるLにおいても、当該帳簿書類が税務申告に用いられることは十分認識した上で、本件不正行為を行ったものと認められるのであって、請求人の主張には理由がない。
D したがって、平成6年5月期及び平成7年5月期の重加算税の賦課決定処分については、重加算税の計算の基礎となる税額及び重加算税の額が、賦課決定処分の額を上回るから、これらの事業年度の重加算税の賦課決定処分は適法である。
 ただし、平成5年5月期及び平成8年5月期の重加算税の賦課決定処分については、これらの事業年度の更正処分が上記(3)のハの(ロ)のとおり、その一部が取り消されることに伴い、その計算の基礎となる税額は平成5年5月期が13,580,000円、平成8年5月期が8,230,000円となるので、重加算税の額は、平成5年5月期が 4,753,000円、平成8年5月期が2,880,500円となり、各賦課決定処分の金額を下回るから、その一部を取り消すのが相当である。

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(5)法人特別税の決定処分について

イ 原処分庁の主張
 原処分に係る調査において、平成5年5月期の法人税の更正処分における法人税額は、17,235,500円であり、同事業年度分の法人特別税法第6条《基準法人税額》に規定する基準法人税額は17,235,500円、同法第9条《各課税事業年度の法人特別税の課税標準》に規定する課税標準法人税額は13,235,000円となり、平成10年6月24日付の決定通知書のとおり決定したものであり、法人特別税の決定処分は適法に行われている。
ロ 請求人の主張
 計算の基礎、結果が誤っている。
ハ 判断
 法人特別税は法人税に付加されて課税されるものであるところ、上記(3)のハの(ロ)のとおり、平成5年5月期の法人税の更正処分はその一部を取り消すべきであるから、これに基づく法人特別税の決定処分も、その一部を取り消すのが相当である。

(6)法人特別税の重加算税の賦課決定処分について

イ 原処分庁の主張
 上記(5)のとおり、法人特別税の決定処分は適正であり、また、請求人が、法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第66条《無申告加算税》第1項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 さらに、上記(3)のイのとおり、請求人は、総勘定元帳に架空売上金額及び架空仕入金額を計上することにより捻出した不正資金を受け取っているにもかかわらず、請求人の会計帳簿に記載せず、収入金額等(受取手数料等)を除外して過少な所得金額に基づいて法人税の確定申告書を提出した。
 これらの行為は、通則法第68条第2項に規定する法人特別税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかった場合に該当し、重加算税の賦課要件を充足する。
 したがって、同法の規定に基づいて平成10年6月24日付の加算税の賦課決定通知書のとおり賦課決定したものである。
ロ 請求人の主張
 法人特別税の計算の基礎、結果が誤っている。
 また、「隠ぺい」、「仮装」の事実はなく、加算税を課される場合に当たらない。
 さらに、帳簿の記載については、行わざるを得なかったもので、正当な理由もある。
ハ 判断
 請求人には、請求人が法定申告期限内に申告書を提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない上、請求人の行為は上記(4)のとおり、通則法第68条第1項の規定に該当するので、原処分庁が重加算税の賦課決定をしたことは相当である。
 そして、上記(5)のとおり、法人特別税の決定処分の一部が取消しとなることに伴い、その基礎となる税額が320,000円となるから、重加算税の額は128,000円となる。
 したがって、当該金額は、賦課決定処分に係る金額を下回るから、その一部を取り消すのが相当である。

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(7)消費税の更正処分について

イ 原処分庁の主張
 消費税の各更正処分は、次のとおり適正に計算している。
(イ)課税標準額
 本件各課税期間における課税標準額は、課税資産の譲渡等となる売上げが過大に計上してあり、雑収入が計上漏れとなっており、本件返還残余金が収入金に計上されていないので、確定申告書に係る課税資産の譲渡等の対価の額に、上記(3)のイの(イ)のBの(A)の売上げを減算し、上記(3)のイの(イ)のBの(C)の雑収入を加算し、上記(3)のイの(イ)のBの(D)のの本件返還残余金を加算したところ、別表32の〔5〕欄のとおりとなる。
(ロ)課税標準額に対する消費税額
 本件各課税期間の課税標準額に対する消費税額は、上記(イ)の本件各課税期間における課税標準額に、100分の3を乗じて計算したところ、別表34の〔2〕欄のとおりとなる。
(ハ)仕入税額控除の額
 本件各課税期間における仕入税額控除の額は、仕入れの過大計上があったので、上記(3)のイの(イ)のBの(B)の仕入れ及び上記(3)のイの(ロ)のAの仕入れを減算したところ、別表33の〔4〕欄のとおりとなる。
(ニ)納付すべき消費税額
 以上の結果、本件各課税期間の納付すべき税額は、別表34の〔4〕欄のとおりとなる。
ロ 請求人の主張
 原処分庁のその基礎たる売上げについての判断が誤っているので、原処分庁の主張は誤っている。
ハ 判断
(イ)課税標準額
 本件各課税期間の課税標準額は、確定申告書に係る課税資産の譲渡等の対価の額に、上記(3)のハの(ロ)のAの(B)のaの売上げを減算し、上記(3)のハの(ロ)のAの(B)のcの雑収入を加算し、上記(3)のハの(ロ)のAの(B)のdの本件返還残余金及び上記(3)のハの(ロ)のAの(B)のeの再バック金を加算したところ、別表35の〔6〕欄のとおりとなる。
 なお、原処分庁は、再バック金を課税標準額に含めていないが、当審判所の調査によれば、本件返還残余金と同様に、売上先から架空取引に協力したことに対する対価として受領したものと推認できる。
 そうすると、法人の行う役務の提供は、そのすべてが消費税法第2条第1項第9号に規定する「事業として」に該当すると解されているところ、再バック金については、対価を得て行われる役務の提供に該当し、消費税法第6条《非課税》第1項に規定する非課税取引にも当たらないことから、課税資産の譲渡等の対価と認めるのが相当である。
(ロ)課税標準額に対する消費税額
 本件各課税期間の課税標準額に対する消費税額は、上記(イ)の本件各課税期間における課税標準額に、100分の3を乗じて計算したところ、別表37の〔2〕欄のとおりとなる。
(ハ)仕入税額控除の額
 本件各課税期間における仕入税額控除の額は、上記(3)のハの(ロ)のAの(B)のbの(a)のRに対する架空仕入れ及び上記(3)のハの(ロ)のAの(B)のbの(b)の2のSに対する架空仕入れ並びに平成7年5月課税期間及び平成8年5月課税期間における上記(3)のハの(ロ)のBのRに対する架空仕入れを減算して(3)のハの(ロ)のAの(C)のc及び(3)のハの(ロ)のBの(C)のbの(a)で交際費と認定した金額を加算して計算したところ、別表36の〔5〕欄のとおりとなる。
(ニ)納付すべき税額
 以上の結果、本件各課税期間の納付すべき税額は、別表37の〔4〕欄のとおりとなる。
 したがって、本件各課税期間は、いずれも更正処分に係る納付すべき消費税額を下回ることとなるから、本件各課税期間の更正処分は、その一部を取り消すのが相当である。

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(8)消費税の重加算税の賦課決定処分について

イ 原処分庁の主張
 請求人が過少申告したことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められない。
 さらに、請求人は、架空売上金額及び架空仕入金額を計上することによりねん出した本件返還残余金を受け取っているにもかかわらず、収入金額等(受取手数料等)に計上せず、過少な課税標準に基づいて消費税の確定申告書を提出している。
 これらの行為は、同法第68条第1項に規定する消費税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて所得金額又は税額を過少に申告した行為に該当し、重加算税の賦課要件を充足する。
 したがって、同法の規定に基づいて平成10年6月17日付の加算税の各賦課決定通知書のとおり賦課決定したものである。
ロ 請求人の主張
 原処分庁の消費税の賦課が誤っているのであって、存在しない事実を書かなかったことは仮装、隠ぺいに当たらない。
 したがって、重加算税の賦課処分は違法である。
ハ 判断
(イ)本件各課税期間の重加算税の賦課決定処分については、上記(4)のとおり、請求人の行為は、通則法第68条第1項の規定に該当するので、原処分庁が重加算税の賦課決定をしたことは相当である。
(ロ)したがって、本件各課税期間の重加算税の賦課決定処分については、これらの課税期間の更正処分が上記(7)のハの(ニ)のとおり、その一部が取り消されることに伴い、その計算の基礎となる税額は平成5年5月課税期間が810,000円、平成6年5月課税期間が2,210,000円、平成7年5月課税期間が1,100,000円、平成8年5月課税期間が820,000円となるので、重加算税は平成5年5月課税期間が283,500円、平成6年5月課税期間が773,500円、平成7年5月課税期間が385,000円、平成8年5月課税期間が287,000円となり、いずれも賦課決定処分の金額を下回るから、本件各課税期間の重加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すのが相当である。

(9)源泉所得税の納税告知処分について

イ 原処分庁の主張
(イ)原処分に係る調査において、上記(3)のイの(イ)のC及び(ロ)のBのとおり、Lに対する賞与と認定した金額に対する源泉所得税を別表4のとおり平成10年6月17日付で納税告知処分のとおり決定したものある。
(ロ)法人税法上、Lが個人的に費消した場合、請求人が本件簿外資金及び本件紹介手数料を受領した上、これを利益処分としてLに支給したものと同一の経済的効果があるから、その支給が定期の給与等として支給されたものとも認められない以上、役員賞与として支給したものというべきである。
(ハ)所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項の規定によれば、同法28条《給与所得》第1項に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、これを国に納付しなければならないこととされ、その給与等には、定期的に支払われる役員報酬など、いわゆる給料として支払われるもののほか、臨時に支払われる賞与などの性質を有するものを含むこととされている。
(ニ)以上のことから、法人税法第35条《役員賞与等の損金不算入》により同人に対する賞与が支給されたものと認定するとともに、所得税基本通達36−9《給与所得の収入金額の収入すべき時期》により、当該賞与が各事業年度の終了の日である平成5年5月31日、平成6年5月31日、平成7年5月31日及び平成8年5月31日に支給されたものとして、認定したものである。
(ホ)請求人は、Lに対し原処分庁が主張する報酬を支払っていないし、その支払を承認したことも黙認したこともないし、L以外の役員は知らない旨主張する。
 しかしながら、いわゆる法人の不正経理による簿外所得について社外流出させた金員が会社役員に帰属していると認められる事実が推認される場合、これを役員賞与と認定して課税の対象とする一方、給与等(賞与)の支払は、税法上支払事実を推認し得べきものをも含むものと解されているから、請求人の簿外収益(簿外資金)についてLにおいて費消したと認められる事実が推認される本件にあっては、Lに対する賞与の支給があったというべきである。
 そして、源泉徴収に係る所得税については、所得の支払の時何ら手続を要しないで法令の定めるところに従って当然に税額が確定するとされているのであって(通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第2号)、その納付義務は、支払者がいかなる趣旨でこれを支払ったかというような支払者の主観的意思や他の役員が支払の事実を知っていたかどうかとはかかわりなく、給与等の支払という客観的事実に基づいて自動的に確定するものであるから、請求人の主張する事柄は源泉所得税の納税告知処分の適法性の判断においてなんらかかわりのないものである。
ロ 請求人の主張
(イ)請求人は、Lに対して、原処分庁の主張する報酬を支払っていないし、その承認をしたことも黙認したようなこともないし、Lが簿外資金をねん出し、自己のために費消していたことは、L以外の役員は知らないことであり、請求人が源泉徴収義務を負っている事実はない。
(ロ)また、請求人の側にLに与える意思がない場合に「みなし役員賞与」の規定はなく、役員賞与として認定するには、名目のいかんを問わず、請求人の側に請求人からLに与え、これをLが受領するとの認識の存在は必要条件である。
(ハ)原処分庁は「〔1〕Lらを調査した結果、当該金員の大半は現実に受領したL個人が費消したことが判明したものであり、〔2〕法人税法上、このような場合、請求人が当該金員を受領した上、これを利益処分としてLに支給したものと同一の経済的効果がある。」と主張するが、〔1〕及び〔2〕には、Lが金を得たという以上の同一性はなく、原処分庁は法令の解釈を誤った違法がある。
ハ 判断
 上記(3)のハの(ロ)のAの(C)のe及びBの(C)のcのとおり、Lに対する賞与支給の事実は認められないから、他を判断するまでもなく、源泉所得税の納税告知処分については、その全部を取り消すのが相当である。

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(10)源泉所得税の不納付加算税の賦課決定処分について

イ 原処分庁の主張
 請求人が、納税告知処分に係る所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、通則法第67条《不納付加算税》第1項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条の規定に基づいて平成10年6月17日付の賦課決定処分のとおり決定したものである。
ロ 請求人の主張
 不納付加算税については、その前提の源泉所得税の納税告知処分が誤っているから、賦課決定処分も違法である。
ハ 判断
 上記(9)のハのとおり、源泉所得税の納税告知処分は、その全部を取り消すべきであるから、不納付加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すのが相当である。
(11)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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