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(平14.5.21裁決、裁決事例集No.63 431頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、旅行業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が主催する旅行において、バス乗務員へ支払われた心付け(以下「本件心付け」という。)が、租税特別措置法(平成13年法律第7号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第61条の4《交際費等の損金不算入》に規定する交際費等に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成9年6月1日から平成10年3月31日までの事業年度(以下「平成10年3月期」という。)、平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度(以下「平成11年3月期」という。)及び平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度(以下「平成12年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の各確定申告書に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ その後、原処分庁は、所属の職員による調査に基づき、平成13年3月30日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成13年5月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月24日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、平成10年3月期については棄却、平成11年3月期及び平成12年3月期については原処分の一部を取り消す旨の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年8月24日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項は、法人の各事業年度の所得金額の計算上、当該事業年度の損金の額に算入する金額は、別段の定めのあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価等、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用のうち当該事業年度終了の日までに、債務の確定しているもの及び当該事業年度の損失の額で資本等取引以外に係る損失の額と規定している。
ロ また、措置法第61条の4第1項において、資本金が50,000,000円を超える法人は、昭和57年4月1日から平成13年3月31日までの間に開始する各事業年度において支出する交際費等の全額が、当該事業年度の所得の計算上、損金の額に算入されない旨規定され、同条第3項では、交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人がその得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類似する行為のため支出するものをいう旨規定されている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人の資本金の額は、本件各事業年度を通じて80,000,000円である。
ロ 本件心付けの支払額は、平成10年3月期が1,694,000円、平成11年3月期が3,521,000円及び平成12年3月期が2,741,000円であり、当該金額は、本件各事業年度の旅行原価として損金の額に算入されている。
ハ 主催旅行に係る経理処理は、別表2のようにされており、旅行原価勘定で処理した金額には、本件心付けの他に、バス運賃、通行料(有料道路等)、宿泊料等が含まれている。
ニ 請求人は、本件心付けとして、主催のスキー旅行に利用するバスの運転手に対して、片道2,000円、往復4,000円を、観光旅行に利用するバスの運転手に対しては、1日2,000円(半日1,000円)を支払っている(以下、スキー旅行と観光旅行の運転手を併せて「本件乗務員」という。)。
 なお、請求人は、主催旅行の運行を依頼したバス会社に対して、運賃(運行料及び手数料等)を支払っている。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 法人税の更正処分について
(イ)本件心付けは、請求人が自ら決定した金額を旅行客の意思にかかわらず任意に支払ったものであり、また、特定の役務に対して支払ったものではなく対価性もないから、請求人主催の旅行業務が円滑に運べるようにするための謝礼と認められ、交際費等の支出に該当する。
(ロ)請求人は、本件心付けは、旅行客から預かり、又は、立て替えて支払っているものであって、請求人が負担すべきものでないことから、交際費等に該当しない旨を主張する。
 しかしながら、請求人は、本件心付けを旅行原価で処理していることから、旅行客から当該心付け相当額を預かり、又は、立て替えて支払ったという実態及びそのような形態をとっているとは認められない。
(ハ)また、請求人は、本件心付けの存在が「国内主催旅行用旅行条件書」(以下「旅行条件書」という。)及び旅行商品のパンフレット(以下「旅行パンフレット」という。)にも明記されており、また、「旅行商品の見積書」(以下「本件見積書」という。)では、社会一般の慣習として一定の基準により見積もられているから交際費等に該当しない旨主張する。
 しかしながら、請求人も認めるとおり、旅行条件書や旅行パンフレットには本件心付けの金額の明示がなく、その額は請求人の独自の裁量により決められており、また、本件見積書の内容は社内のデータであるから、旅行客はその金額を認識することがない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 法人税の更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(2)請求人の主張

イ 法人税の更正処分について
 本件心付けは、次の理由により、交際費等には該当しない。
(イ)心付け等のいわゆるチップは、儀礼的かつ社会一般の慣習として、旅行客個人が旅館やホテルの客室係員や運転手等に個々に支払うものである。
 この慣習としての心付け等は、団体旅行の場合においては、旅行参加者の負担と発意に基づき、団体の代表者等が取りまとめて交付しているだけであって、これを受け取る側から見れば、個々の旅行客から送られたものと認識している。
 そして、本件心付けもまた、請求人が旅行代金として収受している金員から、旅行客から預かったもの又は立て替えたものとして、添乗員等を介して本件乗務員に交付しているのであって、請求人が運行以外の特別の役務の提供を期待して支出しているものではない。
 これに対して、原処分庁は、請求人が本件心付けを旅行原価として処理している旨主張するが、現行の旅行会計は、課税当局からの要請により行っているものである。
(ロ)旅行条件書及び旅行パンフレットには、本件心付けの金額の明示はないが、旅行客から預かった旅行代金に心付けが含まれる旨の記載をしており、旅行客も当該心付けの支出があることを契約時の説明により了解している。
 また、本件心付けの金額は、内規的に一定の基準が決められ、その基準を基礎として、あらかじめ旅行原価の中に見積もり、当該金額を旅行費用の一部として本件見積書を作成している。
 なお、原処分庁は、本件見積書が社内資料であり、旅行客は見ることができない旨主張するが、主催旅行においては、各種旅行商品の価額を決定するために見積書等を作成しており、これを旅行客に提示する必要はないから、このことをもって本件心付けを請求人の支出する交際費等と判断するのは適当でない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、法人税の更正処分は違法であり取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分もまたその全部を取り消すべきである。

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3 判断

(1)法人税の更正処分について

イ 請求人の提出資料、原処分関係書類及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)旅行条件書の「旅行代金に含まれるもの」の項には、「団体行動中の心付け」が当該代金に含まれる旨記載されている。
 また、旅行パンフレットには、各旅行商品の行き先、行程、金額(旅行代金)等が表示され、旅行代金に含まれるものとして、「団体旅行中に必要な心付け」が記載されている。
 ただし、上記書類等には、本件心付けの金額は記載されていない。
(ロ)通常、旅行業者が拘束される標準旅行業約款によれば、主催旅行において、〔1〕旅行業者は、旅行者が旅行日程に従った旅行サービスの提供を受けることができるよう運送機関や宿泊機関等の手配をし、旅程を管理することを引き受けること及び〔2〕旅行者は、契約書面に記載された期日までに旅行代金を支払う旨定められている。
(ハ)請求人が本件心付けの金額を記載した文書として、本件見積書並びに「携行現金収支明細書」及び「『○○○』の運行について」と題する書面が認められる。これらの書面は、社内での業務用として、あるいは、運行を依頼するバス会社への連絡用としてのみ作成・使用されているものである。
ロ ところで、元来、企業会計上事業経費に属するものは、税法上損金として取り扱われるべきものであるところ、前記1の(3)のロで述べた法人の支出する交際費等を損金に算入しないとする課税所得計算上の特例は、法人の交際費支出の増加にかんがみ、他の資本蓄積策と並んでその乱費を抑制し、健全な経済取引の維持発展に資することを目的とするものである。
 そして、交際費等に該当するか否かについては、その支出が措置法61条の4第3項の要件に該当するかどうかにより決定するのであるから、交際費等に当たるとされるものは、同項の規定から見て、〔1〕支出の相手方が事業に関係するものであること及び〔2〕支出の目的が接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のためのものであることを必要とするのは明らかである。
ハ これを本件について見ると、以下のとおりである。
(イ)請求人は、主催旅行において、旅行客の支払う旅行代金の中から、社内規定として定められた一定基準の金額を本件心付けとして支払っており、また、当該心付けの受取先である本件乗務員は、主催旅行の目的地等への運行を依頼したバス会社に所属する運転手であるから、請求人から見れば、事業に関係のある者に該当する。
 また、〔1〕本件心付けが、本件乗務員に対して、何らかの収益効果を期待して支払ったものでないことは、請求人も認めるとおりであり、〔2〕本件乗務員も、主催旅行の運行を行うバス会社に勤務し、その業務としてバスを目的地等まで運転しているのであって、本件心付けを得ることによりバスを運転しているのではないと認められる。
 そうすると、本件心付けは、特定の役務提供に対する対価として支払われたものではなく、請求人が主催旅行における旅程の管理の一環として、当該旅行を円滑に進行させるため、事業に関係する者に謝礼等として支払った金員であるということができる。
 したがって、本件心付けは、上記ロの後段に掲げる交際費等の要件に合致した支出であると解するのが相当である。
(ロ)これに対して、請求人は、本件心付けは、旅行客が個々に支払うものを預かっただけであり、旅行会社が負担したものではない旨主張する。
 確かに、個人旅行者の中には、旅館等の客室係員やタクシー等の乗務員に対して心付けを支払う者も認められ、このような心付けの支払がおおむね一般的な慣行であることも認められる。
 しかしながら、当審判所の調査によっても、請求人は、旅行客に対して、本件心付けに相当する金額を別に預かるか、あるいは既に支払った当該心付けの金額を立替分として請求するような手続をしていないから、当該心付けは、他の旅行原価を構成する運賃や宿泊費等と同様、旅行客から受け取った旅行代金の中から支払われていると認められる。
 そうすると、請求人が、本件心付けを旅行客からの預り金又は立替金として実質的に管理していたとはいえないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ハ)また、請求人は、本件心付けの金額が一定の基準により見積もられていること及び旅行客も旅行代金に本件心付けが含まれていることを了解していること等を理由として、当該心付けが当社の支出する交際費でないと主張する。
 確かに、前記イの(イ)の事実から見て、旅行客は、主催旅行を申し込む等の際に、旅行代金に本件心付けが含まれていることが十分に認識できる状態にあると認められる。
 しかしながら、前記イの(ロ)の約款から見て、旅行客は、あらかじめ定められた旅行代金を請求人に支払っており、旅行の終了後にその額が増減されることはないから、当該代金を旅行のサービスの対価の総額として認識していることは明らかである。
 また、本件心付けを含む支払金額は、前記イの(ハ)のとおり、業務上の書類等に記載されているものの、請求人が旅行客に対してその内容等を明らかすることはなく、旅行客もまた、どこにどのくらい支払われたかということまで知り得ないと認められる。
 そうすると、主催旅行における個々の支払先や支払金額は、旅行客の具体的な意思によって決定されるのではなく、その旅行を計画・実施する旅行会社である請求人の判断と責任において決定されているというべきであるから、本件心付けについても、実質上旅行客が支払ったものではなく、請求人が支払ったものであると考えるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)以上のとおり、本件心付けは、措置法61条の4第3項に規定する交際費等に当たり、請求人は、その資本金の額から見て、当該心付けの全額を損金に算入できないから、これを請求人の課税所得に加算してされた法人税の更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり法人税の更正処分は適法であり、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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