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(平14.5.24裁決、裁決事例集No.63 454頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がオランダ王国に所在するG(請求人は同社の発行済株式のすべてを保有。以下「G社」という。)の発行する債券等の保証等をした対価につき、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》に規定する独立企業間価格が存在するか、あるいはその算定が可能か否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成3年1月1日から同年12月31日まで、平成4年1月1日から同年12月31日まで、平成5年1月1日から同年12月31日まで、平成6年1月1日から同年12月31日まで及び平成7年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順に「平成3年12月期」、「平成4年12月期」、「平成5年12月期」、「平成6年12月期」及び「平成7年12月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書並びに平成3年12月期の法人臨時特別税、平成4年12月期及び平成5年12月期の法人特別税の申告書に別表1の各「確定申告」欄のとおり記載して、これらをいずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月延長されたもの。)までに提出した。
ロ H税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、本件各事業年度の法人税並びに平成3年12月期の法人臨時特別税、平成4年12月期及び平成5年12月期の法人特別税について、別表1の各「年月日」欄記載の日付で各「減額更正」及び「更正処分等」欄に記載のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ さらに、H税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成9年5月2日付で本件各事業年度の法人税について、別表1の各「本件更正処分等」欄に記載のとおり、各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。また、H税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成9年5月2日付で平成3年12月期の法人臨時特別税並びに平成4年12月期及び平成5年12月期の法人特別税について、別表1の各「本件更正処分等」欄に記載のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、本件各更正処分等を不服として、平成9年7月1日に異議申立てをした。
ホ H税務署長は、平成7年12月期について、さらに、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成10年1月27日付で別表1の「再更正処分等」欄に記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ヘ 異議審理庁は、上記ニの異議申立てに対して、平成10年6月24日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ト 請求人は、異議決定を経た後の本件各更正処分等に不服があるとして、平成10年7月23日に審査請求をした。
チ なお、平成9年5月2日付でされた平成3年12月期の法人臨時特別税、平成4年12月期及び平成5年12月期の法人特別税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分並びに平成10年1月27日付でされた平成7年12月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分についてもあわせ審理する。

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(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ G社について
(イ)G社は、平成元年8月に請求人の全額出資により、オランダ王国に設立された法人であり、請求人は、本件各事業年度を通じてG社の発行済株式のすべてを保有している。
(ロ)G社は、債券の発行及び銀行等からの借入れにより資金を調達し、良質の債券の購入及び融資により、その資金を運用することを業としている。
ロ 請求人のG社に対する役務提供等について
 請求人は、G社が行う資金調達に関して、同社に対して次の役務提供を行った。
(イ)請求人は、別表2に記載するG社の各債券の発行に当たり、その債務を保証した(以下、この役務提供取引を「本件各保証取引」という。)。
(ロ)請求人は、平成2年4月6日付、平成2年6月11日付及び平成7年11月22日付でG社との間で、「請求人は、G社が債務を返済するに足る流動性資産を持たない場合にはG社に十分な資金を供与する」こと等を内容とする「KEEP WELL AGREEMENT」と題する英文の書面(以下「本件各キープウェル契約書」という。)により契約(以下「本件各キープウェル契約」という。)を締結し、これに基づき、別表3に記載するG社の各債券の発行目論見書に本件各キープウェル契約の存在及び内容を記載した(以下、この役務提供取引を「本件各キープウェル契約の締結等」という。)。
(ハ)請求人は、G社が平成4年12月15日に行った株式会社J銀行(現株式会社K銀行。以下「J銀行」という。)からの150億円の借入れに関して同日付で、また、G社が平成7年8月25日に行ったL生命相互会社(以下「L生命」という。)からの25億円の借入れに関して同日付で、それぞれ、「貴行(社)の請求があり次第協議の上債務者と連帯して保証の責を負うことを確約致します」との文言を記載した「保証予約念書」と題する書面(以下「本件各保証予約念書」という。)を、G社の借入先であるJ銀行及びL生命に差し入れた(以下、この役務提供取引を「本件各保証予約念書の差入れ」という。)。
(ニ)請求人は、G社が行うM銀行株式会社(現株式会社N銀行。以下「M銀行」という。)からの別表4に掲げる各借入れに関して平成元年11月8日付で、また、G社が行ったP銀行○○支店(以下「P銀行」という。)からの5百万英国ポンドの借入れに関して平成3年9月10日付で、それぞれ、「子会社の財務状態を健全に保つことを経営方針としている」こと等を表明する「Letter of Awareness」と題する英文の書面(以下「本件各経営指導念書」という。)を、G社の借入先であるM銀行及びP銀行に差し入れた(以下、この役務提供取引を「本件各経営指導念書の差入れ」といい、上記(ロ)及び(ハ)の役務提供取引と併せて「本件各保証類似取引」、さらに、本件各保証取引と本件各保証類似取引を併せて「本件各債務保証取引」という。)。
ハ 請求人及びG社の債券の格付けについて
(イ)請求人は、その発行する債券について、株式会社Q、株式会社R及び株式会社S(以下、これらを併せて「本邦格付会社」という。)から格付けを取得しており、本件各債務保証取引が行われた各時点において、その格付記号は「A」であった。
(ロ)G社は、その発行する債券について、いずれも、請求人から本件各保証取引による保証を受け、あるいは、本件各キープウェル契約の存在及び内容をその債券発行目論見書に明示し、本邦格付会社から請求人の債券と同じ格付けを取得して発行している。
ニ 本件各債務保証取引の対価の額について
(イ)請求人は、平成4年9月30日にG社との間で「GUARANTY FEE AGREEMENT」と題する書面により、保証料に関する契約を締結し、これに基づき、平成4年10月1日から、本件各保証取引の対価として、別表5のとおり、債券の額面総額に対する年間0.1%相当額の各保証料(以下「本件各保証料」という。)をG社から収受している。
(ロ)請求人は、G社から本件各保証類似取引の対価を収受していない。
ホ 原処分庁の独立企業間価格の算定方法について
 原処分庁は、本件各債務保証取引に対して、平成3年12月期及び平成4年12月期については租税特別措置法(平成4年法律第14号による改正前のもの。以下「措置法(平成4年改正前のもの。)」という。)第66条の5《国外関連者との取引に係る課税の特例》、その他の事業年度については措置法第66条の4(以下、これらの規定の特例を併せて「移転価格税制」といい、これに基づく課税を「移転価格課税」という。)に基づいて、それぞれ独立企業間価格を算定し、請求人がG社から収受した対価の額との差額を請求人の所得金額に加算した本件各更正処分を行った。
 その独立企業間価格の算定方法は、〔1〕格付け別、経過年数別に、T及びU(以下、これらを併せて「米国格付会社」という。)が発表する債券の累積デフォルト確率のデータを基に、各経過年数間の累積デフォルト確率の差を各年ごとのデフォルト確率であるとみなして、その現在価値が本件各債務保証取引期間を通して均等となるようなデフォルト確率(以下「年間デフォルト確率」という。)を計算し、〔2〕G社が、請求人から保証取引による保証を受けないで、あるいは、本件各キープウェル契約の存在を明示しないで発行するとした場合の債券(以下「無保証債券」という。)の格付けを「BBB」と認定した上で、G社と請求人のそれぞれの債券の格付けに対応する年間デフォルト確率の差を保証料率とし、〔3〕この保証料率にG社の債券の額面総額又は借入金額及び本件各事業年度に占める保証日数の割合を乗じて算出した保証料をもって、本件各債務保証取引に係る独立企業間価格であるとするもの(以下、〔1〕から〔3〕までによる保証料の計算方法を「本件算式」といい、本件算式により計算された保証料の額をもって独立企業間価格とする方法を「本件算定方法」という。)であり、原処分庁は、本件算定方法を、措置法(平成4年改正前のもの。)第66条の5第2項第2号ロ及び措置法第66条の4第2項第2号ロに規定する「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」であるとしている。原処分庁が認定する保証料率は、別表2から別表4までの各「原処分庁が認定する保証料率」欄に記載のとおりである。

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2 主張

(1)請求人

 以下に掲げる理由から、原処分は違法かつ不当であり、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)本件各保証取引について
 国内の保証取引(保証人、被保証人がともに居住者である保証取引)においては、保証料を徴収しなくとも税務上の問題はなく寄附金とみなさないとするのが通説であるにもかかわらず、国外の保証取引(保証人が居住者、被保証人が非居住者である保証取引)についてのみ保証料を徴収すべきであるとして移転価格課税を行うことは、国内の保証取引に対する取扱いと整合性を欠くことになるから、本件各保証取引に対して移転価格税制を適用することは不当である。
(ロ)本件各保証類似取引について
 原処分庁は、一般に「キープウェル契約」と称される親子間の契約が存在することを明示して発行される子会社の債券に対して、格付会社が、親会社の保証が付された債券と同様に、親会社の債券と同じ格付けを付与していることから、本件各キープウェル契約の締結等と保証取引との間の経済的効果に差はないと主張する。
 しかしながら、格付会社によれば、子会社に対する親会社のコントロールが弱い場合には、たとえキープウェル契約が存在していても親会社の債券と同等の格付けを取得できるとは限らないのであって、親会社の債券と同等の格付けを取得できるのは、キープウェル契約が存在するからではなく、「緊密な親子関係」の存在を背景に子会社自身の信用力が向上するからであり、親会社の保証を得て債券を発行する場合に親会社の債券と同等の格付けを取得できることとは経済的な意味が異なる。さらに、本件各経営指導念書も保証の範ちゅうから外れるべきものである。
 したがって、本件保証類似取引と保証取引とは、法的効果のみならず、経済的効果が全く異なり、これを保証取引とみなして独立企業間価格を算定することは誤りであるから、本件各更正処分はいずれも違法である。
(ハ)独立企業間価格の算定方法について
A 本件算定方法について
 以下の理由により、本件算定方法には誤りがあるので、これに基づく本件各更正処分はいずれも違法である。
(A)比較可能性について
 独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法を採用する場合においても、その方法には厳格な比較可能性が要求され、請求人がその適否を検討するためにも本件算式が独立企業間で採用されていることが証明されなければならない。この点について、原処分庁は本件算式が「市場のコンセンサス」を得ているとの抽象的な説明をするが、わが国で保証を引き受けるというリスクの度合いを測定する「信用リスクの計量化」の議論が行われるようになったのは最近のことで、本件算式が平成元年、2年ころに「市場のコンセンサス」を得られていたとはいえない。
(B)格付け及びデフォルト確率の使用について
 格付けは、格付会社の意見であって、市場参加者や与信者にとっては一つの情報にすぎず、すべてこれに基づいてリスクを判断しているわけではない。さらに、デフォルト確率は格付けと不可分一体のものではなく、保証を引き受けるというリスクが、過去の実績に基づいて格付会社が発表するデフォルト確率により計量化できるという考え方は、「市場のコンセンサス」ではない。
 さらに、わが国においては、平成5年までは、格付けと債券利回りの相関関係すら認められておらず、本件算式は、日本の投資家が参加者となる市場の実態を捕らえたものではない。
 また、ユーロ市場においても、少なくとも数年前の時点では、債券の発行利回りは格付けに応じた利回りとはなっていなかった。
(C)米国格付会社が発表するデフォルト確率の使用について
 米国格付会社の格付けと本邦格付会社の格付けとではかなりの格差があるうえ、デフォルト(債務不履行)が多発する米国企業の過去の実績を基に算定されている米国格付会社のデフォルト確率を、デフォルトをほとんど起こしたことがない日系企業のデフォルト確率として適用することは不合理である。
(D)G社の無保証債券の格付けについて
 格付けは、対象となる企業の財務情報や将来の成長等を総合的に勘案して決定されるのであり、G社は確定した優良債券のみを資産として保有しているため、G社が無保証債券を発行する場合にその債券に付される格付けは「BBB」よりも高い可能性が強いから、G社の格付けを「BBB」とする認定には根拠がない。
(E)回収率について
 債券の安全性を決定するに当たって、デフォルト確率とともに、債務不履行が起こった場合に清算手続等によりどれだけの債権を回収できるか(以下「回収率」という。)を考慮する必要がある。Tの統計によれば、この回収率は平均40%であるが、G社の資産内容から見て回収率はそれよりも高いと考えられ、少なくとも60%〜80%を下回ることはない。仮に、回収率を60%として本件算式に回収率の要素を加えて計算すると、適正な保証料率は0.1%となる。
(F)親子会社間取引の特殊性について
 第三者間の保証取引と親子間の保証取引では、リスクの程度に差があり、保証人と被保証人の個別関係から生じる差異について調整を行う必要がある。
B 本件算定方法に優先する算定方法の適用について
 措置法(平成4年改正前のもの。)第66条の5第2項第2号ロ及び措置法第66条の4第2項第2号ロに規定する「準ずる方法と同等の方法」は、独立価格比準法と同等の方法、再販売価格基準法と同等の方法及び原価基準法と同等の方法を用いることができない場合に限り用いることができる旨規定されているところ、原処分庁が独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法であるとしている本件算定方法に優先して、上記のいわゆる「基本三法」の適用が検討されるべきである。
(A)原価基準法と同等の方法について
 金銭貸借取引においては、原価基準法と同等の方法を適用することができるのであるから、同じ与信取引である本件各保証取引においても、同方法の適用が検討されるべきである。
 そして、保証取引における原価の額は、保証のために実際にかかったコストであって、請求人は、保証取引を業としていないのであるから、当該費用をもって独立企業間価格とすべきである。
(B)独立価格比準法と同等の方法について
 銀行が行う保証取引を比較対象取引として独立価格比準法と同等の方法を適用することも可能であり、本件各保証取引が行われた平成元年、2年当時の銀行の保証業務に係る保証料率は、その財務諸表等から推計すれば平均0.15%程度であるから、請求人がG社から収受している保証料に係る0.1%という保証料率は、市場実勢とかけ離れていないことが明らかである。
 なお、平成5年以降、銀行の保証業務に係る保証料率は急激に上昇しているが、その原因は、国際決済銀行(Bank of International Settlement)が加盟国の銀行に対して自己資本比率を8%以上に維持することを求めた、いわゆる「BIS規制」という銀行業界特有の要因によるものであるから、その上昇分を請求人の保証料率に反映させる必要はない。
(ニ)二重課税の発生について
 G社が、原処分庁が認定する適正保証料と請求人が収受していた保証料との差額を原資として請求人に配当を行っていたとすると、本件各更正処分により、その原資は存在していなかったことになり、配当については既に課税が行われているから、わが国において二重課税が生じることとなる本件各更正処分は不当である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項は、申告を誤ったことについて正当な理由がある場合には過少申告加算税が賦課されないことを明らかにしており、正当な理由がある場合には、「税法の解釈に関し、申告時において公表されていた見解がその後変更されたことにより、更正を受けるに至った場合」等が含まれると解されるところ、本件算定方法は、一般に認知されていない「信用リスクの計量化」という概念を用いるもので、請求人にとってなじみのない入手困難な情報・算式に基づいたものであることから、請求人が本件算定方法によらずに申告を行ったことには「正当な理由」が存在するものと考えるべきである。また、移転価格税制においては、取引価格が適正であるか否かという非常に困難な判断を要し、納税者がその知り得る範囲で、独立企業原則を遵守するためのできるかぎりの誠実な努力を行っている場合には、過少申告加算税を賦課すべきではない。

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(2)原処分庁

 以下のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、原処分は適法かつ正当であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)本件各保証取引について
 移転価格税制は、国外関連者との取引に対してのみ適用される特例であり、国内の関連者との間の棚卸資産販売の取引価格に問題があっても移転価格課税をしないのと同様に、本件各保証取引に対して移転価格税制を適用することにより、国内の保証取引と国外の保証取引とで取扱いが異なっても何ら問題はない。
(ロ)本件各保証類似取引について
 本件各キープウェル契約の締結等については、本件各キープウェル契約が締結されていることを債券購入者に明示して発行される債券の格付けと本件各保証取引による保証が付された債券の格付けが同じであるということは、格付会社が本件各キープウェル契約であっても本件各保証取引による保証と同等の与信があったと判断したことを示しているのであるから、その経済的効果は保証取引と同じである。したがって、これを保証取引と同等に取り扱うことは相当である。
(ハ)独立企業間価格の算定方法について
A 本件算定方法について
 以下のとおり、本件算定方法は適正な独立企業間価格の算定方法である。
(A)比較可能性について
 本件算式は、金融市場でコンセンサスを得られている保証料の算式であり、これを適用すると独立企業間価格としての保証料が算定できるから、その比較可能性を検討するまでもない。
(B)格付け及びデフォルト確率の使用について
 G社はユーロ市場で債券を発行しており、日本の債券市場の状況を議論するのは的はずれである。債券市場参加者は、債券の安全性を格付会社の格付けで判断しており、かつ、安全性の程度を、格付会社の発表するデフォルト確率によって評価している。このことは、異なる格付けの債券間の流通利回りの差がデフォルト確率の差以上になっているという市場実態から明らかである。
(C)米国格付会社が発表するデフォルト確率の使用について
 本邦格付会社が「A」と格付けした債券であっても、米国格付会社が「A」と格付けした債券と同等の利回りで発行されており、市場は、本邦格付会社の格付けと米国格付会社の格付けを同等に評価しているから、請求人及びG社のデフォルト確率として米国格付会社が発表するデフォルト確率を適用することに問題はない。
(D)G社の無保証債券の格付けについて
 一般に、「BB」以下は投機的水準とされており、G社の事業内容からみて投機的水準である「BB」以下とする特段の理由はなく、一方で、G社は親会社の保証等がなければ、債券の発行等を行うことができなかったのが事実であるから、単独で債券を発行できる格付けのうち、最低の「BBB」とした。
(E)回収率について
 理論的に回収率を考慮すべきことは理解できるが、実際の独立企業間の保証取引では、保証料を算定する場合、回収率は考慮されていないのであるから、回収率を本件算式の要素に取り入れることは適当でない。
(F)親子間取引の特殊性について
 保証人である請求人のデフォルト確率は実際に保証人が発行した債券に付された格付けに基づき、被保証人であるG社のデフォルト確率は市場の評価及びその資産保有の状況に基づき客観的に導き出されており、修正を加えるべき要因はない。
B 本件算定方法に優先する算定方法の適用について
(A)原価基準法と同等の方法について
 金銭貸借取引においては、原価である資金調達コストの算定が容易であるから、その独立企業間価格の算定に当たり原価基準法と同等の方法を適用することが可能であるが、保証取引においては、収益である保証料は、保証によるリスクを引き受けることに対する対価であるから、その原価は、実際に発生した費用ではなく、リスクを引き受けるというコストと考えられるが、このコストの算定ができないので、原価基準法と同等の方法を採用することはできない。
(B)独立価格比準法と同等の方法について
 銀行等の行う保証取引は、期間、金額、債券発行市場等の点において、本件各債務保証取引と差異があり、この差異の調整は困難である。また、仮に差異の調整を行うとしても、銀行が行う保証取引に係る保証料率は、被保証人との取引状況等を勘案しながら決められるなど、恣意的なものであり、差異の調整を行った後の保証料率も恣意的なものとなってしまうから、銀行等の行う保証取引を比較対象取引とすることはできない。
(ニ)二重課税の発生について
 子会社であるG社の利益を配当で還元させるかどうかは、親会社である請求人の任意であるから、配当させたことにより請求人に受取配当金に対する課税が発生したとしても、それは二重課税には該当しない。
ロ 本件各賦課決定処分について
 本件各更正処分により納付すべきこととなる法人税額の計算の基礎となった事実のうちに、本件更正処分前の法人税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項を適用して過少申告加算税を賦課決定したことは適法である。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

 本件においては、本件各保証取引に対して移転価格税制を適用することの適否及び本件各保証類似取引を保証取引とみなし、移転価格税制を適用することの適否並びに独立企業間価格の算定方法の適否について争いがあるので、以下審理する。
イ 本件各保証取引について
(イ)措置法(平成4年改正前のもの。)第66条の5及び措置法第66条の4は、それぞれ、その第1項で、国外関連者との間の「資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引」に対して適用される旨規定しており、「役務の提供」取引である本件各保証取引に対して移転価格税制が適用されることは明らかである。
(ロ)請求人は、国内の保証取引においては保証料を徴収しなくとも寄附金とはみなされないとして、国外の保証取引に対してのみ移転価格課税を行うことは不当である旨主張するが、国内の保証取引においても、保証料を徴収しないことにより実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる場合には、法人税法第37条《寄附金の損金不算入》が適用されるのであるから、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件各保証類似取引について
 原処分庁は、主に本件キープウェル契約の締結等が保証取引と同じであるとして、本件各保証類似取引全体に移転価格税制の適用があると主張し、請求人は、主に本件各キープウェル契約の締結等が保証取引と異なるとして、本件各保証類似取引全体に移転価格税制の適用はないと主張しているが、本件各保証類似取引の間でも法的性格には相違が見られるので、取引の種類ごとに以下検討する。
(イ)本件各キープウェル契約の締結等
 請求人から提出された本件各キープウェル契約書等によれば、本件各キープウェル契約は、G社が債券を発行する際に同社と請求人との間で締結されたものであること、その内容は、〔1〕請求人は、G社の全株式を保有すること、〔2〕請求人は、G社の純資産の額を1万米国ドル以上に維持すること、〔3〕請求人は、G社が債務を返済するに足りる流動性資産を持たない場合には十分な資金を供与すること等をG社に約したものであり、これによって、G社は、その発行に係る債券を償還することができない場合には、請求人に対して償還資金の供与を求める契約上の権利を有していること、さらに、G社は、同社の発行する債券の購入者に債券発行目論見書を交付して、本件各キープウェル契約の内容及び同社が債券を償還することができない場合には清算人等を通じて同社の請求人に対する本件各キープウェル契約上の権利を行使できることを周知していることが認められる。
 一方、保証取引は、保証人が債券発行会社より保証の委託を受けて、債券購入者に対して保証を行い、債券発行会社に債務不履行があった場合には、債券購入者は、保証人に直接保証履行の請求を行い、保証人は債務者に保証を履行する契約である。
 そうすると、本件各キープウェル契約の締結等は、保証取引とは契約形態は異なるものの、本件各キープウェル契約の締結等により、請求人は債券購入者に対して実質的に保証があったとした場合と同程度の法的責任を負い、その結果として、G社は、本件各保証取引による保証があったとした場合と同等の格付けを取得し、債券を発行することが可能になったと認められる。
 以上から判断すると、本件各キープウェル契約の締結等については、その独立企業間価格の算定に当たり、保証取引を比較対象取引とすることは相当であると認められる。
(ロ)本件各保証予約念書の差入れ
 本件各保証予約念書は、上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、G社が金融機関から金銭の借入れを行うに際して、請求人が各金融機関に差し入れた書面であり、その内容は、「請求人は、G社の特定の債務について各金融機関から請求があり次第、協議の上、保証人となる」ことを約したものであるが、〔1〕金銭の借入れが対象であって発行債券の保証と明らかに取引形態が異なること、〔2〕保証の予約であって、各金融機関から請求があれば協議に応じる義務はあるものの、当然に保証契約の締結に応諾する義務まで負うものとは認められないことから、必ずしも、請求人は、各金融機関に対して保証と同等の法的責任を負っているということはできない。したがって、本件各保証予約念書の差入れについては、これを保証取引とみなして独立企業間価格を算定することは相当でない。
(ハ)本件各経営指導念書の差入れ
 本件各経営指導念書は、上記1の(3)のロの(ニ)のとおり、いずれも請求人が親会社としてG社の経営方針等を表明したものにすぎず、その文面からは、請求人がG社の各債権者に対して何らかの法的責任を負担するものとは解されない。したがって、本件各経営指導念書の差入れについては、これを保証取引とみなして独立企業間価格を算定することは相当でない。
ハ 独立企業間価格の算定方法について
(イ)本件算定方法について
 原処分庁が採用する本件算定方法が、本件各保証取引及び本件各キープウェル契約の締結等(以下「本件各保証取引等」という。)について、措置法(平成4年改正前のもの。)第66条の5第2項第2号ロ及び措置法第66条の4第2項第2号ロに適合する算定方法であるか否かを以下審理する。
A 原処分庁は、本件算式が「金融市場でコンセンサスを得られている」算式であることをもって、本件算定方法が措置法(平成4年改正前のもの。)第66条の5第2項第2号ロ及び措置法第66条の4第2項第2号ロに規定する独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法であると主張するが、本件算定方法が独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法であるというためには、本件算式により保証料が算定された取引と本件各保証取引等との比較可能性の検討が必要であると解される。
B しかしながら、原処分庁からは、金融市場の参加者が本件算式を用いて保証料を算定したことを示す証拠資料の提示はなく、また、当審判所が、金融市場の主要な参加者である銀行、証券会社及び損害保険会社の複数を対象に調査したところによっても、本件算式を保証料の算定に用いたとの答述も得られず、本件算式により保証料を算定した取引を確認することはできない。したがって、上記Aの比較可能性を検討することができず、比較可能性の検討がされていない本件算定方法は、措置法(平成4年改正前のもの。)第66条の5第2項第2号ロ及び措置法第66条の4第2項第2号ロに規定する独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法であるということはできない。
C 原処分庁は、〔1〕「格付けの異なる債券の利回り差がデフォルト確率の差より大きくなっている」ことから、〔2〕「保証者及び被保証者のデフォルト確率の差が保証料率の構成要素の主要な部分を占める」こととなるので、このことからみれば、「コンセンサスを得られている」ことは明らかである旨、当審判所に対して釈明する。
 しかしながら、〔1〕の立証が必ずしも十分になされていないうえ、〔1〕から〔2〕に至る論旨も明確ではない。仮に、〔2〕が正しいとしても、本件算式が「金融市場でコンセンサスを得られている」か否かは、金融市場の参加者の大部分が、現実に、本件算式により保証料を算定しているか否かにより判断すべきであるが、上記Bのとおり、金融市場の主要な参加者から本件算式を保証料の算定に用いたとの答述は得られていないことから、本件算式が「金融市場でコンセンサスを得られている」と結論づけるには不十分であるといわざるを得ない。
D 原処分庁からは、上記C以外に、本件算定方法が措置法(平成4年改正前のもの。)第66条の5第2項第2号ロ及び措置法第66条の4第2項第2号ロに適合する算定方法であることの根拠の提示はなく、当審判所の調査によっても、本件算定方法が合理的であるとするに足る証拠は認められない。
E したがって、その余の原処分庁及び請求人の主張について判断するまでもなく、本件算定方法が措置法(平成4年改正前のもの。)第66条の5第2項第2号ロ及び措置法第66条の4第2項第2号ロに適合する独立企業間価格の算定方法であると認めることはできない。
(ロ)原価基準法と同等の方法の適用について
 請求人は、金融取引を業としていないことを理由として、実際に請求人に発生した費用をもって独立企業間価格とすべきであると主張する。
 しかしながら、保証取引等における原価は保証を引き受けることによるリスクの額と考えるべきであるから、原価基準法と同等の方法を用いて本件各保証取引等に係る独立企業間価格を算定するには、保証を引き受けることによるリスクの額を計量化することにより、原価の額を算定し、これに通常の利潤の額を加算して算定しなければならないところ、現実に、そのようなリスクの額及び適正な利潤の額を算定することは困難であると認められるから、本件各保証取引等に係る独立企業間価格の算定方法として原価基準法と同等の方法を採用することはできないと認められる。
(ハ)本件各保証取引の独立企業間価格の算定について
A 請求人は、平成元年、2年当時の銀行の財務諸表等から推計して保証料率の市場実勢は平均0.15%程度であるところ、0.1%という保証料率は、市場実勢からみても大きく乖離していないことを指摘して、銀行が行う保証取引を比較対象取引として、独立価格比準法と同等の方法を適用すべきであると主張する。
 しかしながら、移転価格税制の適用上、比較対象取引とは、本邦法人が行う国外関連取引と同様の状況下で行われた同種の取引であるとされており、そうすると、請求人の主張する銀行の財務諸表等からの推計による方法は、比較対象取引が特定されていないといわざるを得ないので、直ちに、これを独立価格比準法と同等の方法による独立企業間価格の算定料率として採用することは相当でない。
B そこで、当審判所が銀行の保証取引を調査したところ、本件各保証取引と時期を同じくする平成元年8月から平成2年11月までにユーロ市場で発行した債券に係る保証取引を別表6−1のとおり16件(以下「本件各銀行保証取引」という。)把握した。
 これらの本件各銀行保証取引に係る発行債券の諸要素をみると、〔1〕発行市場はすべてユーロ市場であるが、〔2〕償還期間は4年から10年の範囲にあり、〔3〕発行価額は3百万米国ドルと少額なものから340百万米国ドルのものまで区々であるなど、その態様が異なっているにもかかわらず、その保証料率は、いずれも0.1%である。
 また、G社が平成元年、2年に発行した債券は、〔1〕発行市場はユーロ市場、〔2〕償還期間は2年から8年、〔3〕発行価額は50億円から400億円の範囲である。
C このような状況の下で、本件各銀行保証取引の保証料率である0.1%を請求人の本件各保証取引に係る独立企業間価格の算定の保証料率として採用することが相当か否かを検討すると、次のとおりである。
(A)措置法(平成4年改正前のもの。)第66条の5第2項第2号イ及び措置法第66条の4第2項第2号イは、棚卸資産の販売又は購入取引以外の取引に係る独立価格比準法と同等の方法について、その国外関連取引と同種の取引で、当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他が同様の状況の下で行った特殊の関係にない第三者間取引の対価の額に相当する金額をもって当該国外関連取引の独立企業間価格とし、取引段階、取引数量その他に差異のある状況の下で行った取引がある場合において、その差異により生ずる対価の額の差を調整できるときは、その調整を行った後の対価の額に相当する金額をもって独立企業間価格とする旨規定している。
 これは、実際問題として世の中に全く同様の状況の下で行った取引が存在することは稀であることから、第三者間取引の価格をそのまま国外関連取引の独立企業間価格として採用し得ることも稀であるとの認識の下で、第三者間取引と国外関連取引との間の取引段階、取引数量その他の差異が取引価格の差に表れてくることが客観的に明らかであると認められる場合には、その差異の調整を行うものと解される。
(B)これを本件に照らしてみると、本件各保証取引の保証人は一般事業会社である請求人であり、他方、本件各銀行保証取引の保証人は、金融業の付随業務として保証取引を行う銀行であるという違いはあるものの、両者の取引実態は、共に保証委託者が発行する債券の保証取引であり、その機能は全く同等であると認められる。また、上記(ハ)のBのとおり、本件各銀行保証取引に係る発行債券の諸要素に違いはあるものの、本件各銀行保証取引は、いずれも、特殊の関係にない第三者間取引であり、その保証料率はいずれも0.1%である。
 そうすると、本件各銀行保証取引は、本件各保証取引の比較対象取引として適合するものであると認められ、本件各銀行保証取引の間においては取引の諸要素に差異がある状況の下においても、その保証料率はいずれも0.1%であるので、本件各保証取引との間の差異の調整の必要性は認められない。
 以上のことから、本件各保証取引については、本件各銀行保証取引を比較対象取引とする独立価格比準法と同等の方法を適用すべきであり、独立企業間価格の算定に用いる保証料率は0.1%が相当である。
(ニ)本件各キープウェル契約の締結等の独立企業間価格の算定について
A 本件各キープウェル契約の締結等は、上記ロの(イ)のとおり、本件各銀行保証取引とは、その契約形態が異なっていることから、本件各銀行保証取引を独立価格比準法と同等の方法における本件各キープウェル契約の締結等と同種の取引として、本件各キープウェル契約の締結等の独立企業間価格を算定するのは相当でないといわざるを得ない。
 なお、本件各キープウェル契約の締結等については、上記(ロ)のとおり、原価基準法と同等の方法を採用することはできず、また、再販売価格基準法と同等の方法を適用する余地もない。
 このように、いわゆる基本三法の採用が困難である場合については、措置法(平成4年改正前のもの。)第66条の5第2項第2号ロ及び措置法第66条の4第2項第2号ロに規定する「準ずる方法と同等の方法」又は「その他政令で定める方法」の採用の可能性を検討することになる。
B 「準ずる方法と同等の方法」の適用については、必ずしも法令等で明確にされているわけではないが、その規定は、基本三法の考え方から乖離しない限りにおいて、取引内容に適合した合理的な方法を採用し得る途を残したものであると解される。
 なお、原価基準法に準ずる方法と同等の方法及び再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法については、上記Aのなお書のとおり、それぞれの方法と同等の方法が採用できないことから、当該各方法を採用する余地はない。
 そこで、本件各キープウェル契約の締結等と本件各銀行保証取引とを比較検討すると、上記ロの(イ)のとおり、本件各キープウェル契約の締結等は、本件各銀行保証取引とはその契約形態に違いはあるものの、実質的に保証と同等の機能を有するものであると認められることから、本件各銀行保証取引を「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」における本件各キープウェル契約の締結等の比較対象取引として、本件各キープウェル契約の締結等の独立企業間価格の算定を検討することになる。
 そして、平成2年4月から平成2年11月の間に実施された本件各キープウェル契約の締結等と同時期に行われた本件各銀行保証取引は、上記ハの(ハ)のBと同様の状況の下にあるので、上記ハの(ハ)のCと同様の理由により、差異の調整を行うまでもなく、その保証料率(0.1%)を本件各キープウェル契約の締結等の独立企業間価格算定に用いる保証料率とするのが相当である。
 他方、当審判所の調査の結果によれば、平成3年以降の本件各キープウェル契約の締結等と同時期に行われた銀行保証取引に係る保証料率は別表6−2のとおりであって、それらの保証料率の水準は平成2年以前に比して急激に上昇するとともに、銀行保証取引の保証料率の乖離は2倍から3倍までとあまりにも大きく、この保証料の急上昇の理由については、当審判所の調査によれば、一般的には、銀行に対するBIS規制の影響、又は銀行における保証のリスク管理、コスト意識の変化などによるものといわれていると認められるが、定かではなく、また、いずれの銀行保証取引についても、それを比較対象取引とした場合における差異の調整の要否及びその計量化のために足りる資料を入手することができなかった。
 したがって、平成3年以降の本件各キープウェル契約の締結等については、銀行保証取引を比較対象取引として、独立企業間価格を算定することは不可能であるといわざるを得ない。
C 以上のとおり、平成2年までの本件各キープウェル契約の締結等については、本件各銀行保証取引を比較対象取引とする独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法を適用して独立企業間価格を算定することができると認められるが、平成3年以降の本件各キープウェル契約の締結等については、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法を採用することができず、また、その他政令で定める方法を採用する余地もない。
ニ 二重課税の発生について
 わが国の移転価格税制は、国外関連者との取引が独立企業間価格で行なわれたものとみなして税務上の課税所得を計算するものにすぎないから、本件各更正処分がG社の過年度の決算上の利益に何ら影響を与えることはない。また、過年度に受け取った配当に対して課税が行われたとしても、それは移転価格税制とは別個の課税要件に基づくものであり、また、移転価格課税に当たり過年度の受取配当に対する課税を調整すべき旨の法令上の規定もない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ホ 独立企業間価格及び国外移転所得金額
(イ)独立企業間価格
 本件各事業年度の本件各保証取引等のうち、平成2年までに行われた取引に係る独立企業間価格は、上記ハの(ハ)のCの(B)及び上記ハの(ニ)のBのとおり、G社の債券の額面総額に0.1%の保証料率を乗じ、さらに、本件各事業年度の日数に占める保証日数の割合を乗じたものとなる。
 なお、当審判所の調査の結果によれば、平成○年○月○日に発行されたG社の2つの債券は、いずれも平成○年○月○日に償還されており、原処分庁の独立企業間価格の算定過程における保証日数には誤りがあるので、正しい保証日数により独立企業間価格を算定する。
(ロ)国外移転所得金額
 上記(イ)のとおり、本件各保証取引等に係る独立企業間価格を算定し、本件各事業年度ごとに、請求人がG社から収受していた本件各保証料との差額(以下「国外移転所得金額」という。)を計算すると、別表7−1から別表7−5までに記載のとおりとなる。
 なお、外貨建債券に係る本件各キープウェル契約の締結等の対価の額の円換算については、本件各事業年度の所得金額に加算すべき額が確定する日の電信売買相場の仲値によった。
ヘ 本件各事業年度の課税所得について
(イ)平成3年12月期
 本件更正処分前の請求人の平成3年12月期の所得金額は、別表1の「更正処分等」欄記載のとおり、20,398,187,003円である。この額に、上記ホの(ロ)で当審判所が認定した国外移転所得金額171,503,527円を加算した請求人の所得金額は20,569,690,530円となり、また、当該所得金額に対する請求人の納付すべき法人税額(差引合計税額)は3,982,397,900円となる。そうすると、これらの額はいずれも本件更正処分の額を下回るから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。
(ロ)平成4年12月期
 本件更正処分前の請求人の平成4年12月期の所得金額は、別表1の「更正処分等」欄記載のとおり、10,318,601,817円である。この額に、上記ホの(ロ)で当審判所が認定した国外移転所得金額135,014,629円を加算し、上記(イ)により直前事業年度の所得金額が異動することに伴い生じる損金の額に算入される未納事業税の額20,580,300円を減算すると請求人の所得金額は10,433,036,146円となり、また、当該所得金額に対する請求人の納付すべき法人税額(差引合計税額)は3,103,620,300円となる。そうすると、これらの額はいずれも本件更正処分の額を下回るから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。
(ハ)平成5年12月期
 本件更正処分前の請求人の平成5年12月期の所得金額は、別表1の「更正処分等」欄記載のとおり、19,886,044,153円である。この額に、上記ホの(ロ)で当審判所が認定した国外移転所得金額60,320,000円を加算し、上記(ロ)により直前事業年度の所得金額が異動することに伴い生じる損金の額に算入される未納事業税の額13,732,000円を減算すると請求人の所得金額は19,932,632,153円となり、また、当該所得金額に対する請求人の納付すべき法人税額(差引合計税額)は7,570,408,800円となる。そうすると、これらの額はいずれも本件更正処分の額を下回るから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。
(ニ)平成6年12月期
 本件更正処分前の請求人の平成6年12月期の所得金額は、別表1の「減額更正」欄記載のとおり、19,504,577,480円である。この額に、上記ホの(ロ)で当審判所が認定した国外移転所得金額41,505,744円を加算した請求人の所得金額は19,546,083,224円となり、また、当該所得金額に対する請求人の納付すべき法人税額(差引合計税額)は6,494,760,900円となる。そうすると、これらの額はいずれも本件更正処分の額を下回るから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。
(ホ)平成7年12月期
 平成10年1月27日付で行われた法人税の更正処分(以下「本件再更正処分」という。)により所得金額に加算された繰延資産償却超過額27,690,331円については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても正当であると認められる。
 本件更正処分前の請求人の平成7年12月期の所得金額は、別表1の「減額更正」欄記載のとおり、16,729,569,153円である。この額に、上記ホの(ロ)で当審判所が認定した国外移転所得金額38,236,000円及び繰延資産償却限度超過額27,690,331円を加算した請求人の所得金額は16,795,495,484円となる。また、当該所得金額に対する請求人の納付すべき法人税額(差引合計税額)は5,475,778,400円となる。そうすると、これらの額はいずれも本件再更正処分及び本件更正処分の額を下回るから、本件再更正処分及び本件更正処分はその一部を取り消すべきである。

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(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、平成3年12月期から平成6年12月期までの本件各更正処分及び平成7年12月期の本件再更正処分及び本件更正処分の一部が取り消されることに伴い、本件各事業年度の法人税の過少申告加算税の計算の基礎となる税額は、それぞれ、次表の「過少申告加算税の計算の基礎となる税額」欄のとおりとなる。
 ところで、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合とは、例えば、税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解が、その後改変されたことに伴い、修正申告等をするに至った場合のように、真にやむを得ない理由があると認められる場合を意味するのであって、納税者の不知、誤解、あるいは判断の誤りに基づく場合はこれに該当しないと解すべきである。
 請求人は、移転価格税制が独立企業間価格の算定という困難な判断を要することをもって正当な理由がある旨主張するが、移転価格税制においては、請求人はG社との取引につき独立企業間価格を算定して自らの課税所得を計算しなければならないのであって、独立企業間価格の算定が困難であるからといって、そのことが「真にやむを得ない理由」とは認められないから、この納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そこで、国税通則法第65条第1項の規定に基づいて法人税の過少申告加算税を算定すると、それぞれ次表の「過少申告加算税の額」欄のとおりになり、その額は、平成3年12月期及び平成4年12月期については、いずれも本件各賦課決定処分の額を下回り、平成5年12月期及び平成6年12月期については零円となり、平成7年12月期については、平成9年5月2日付でされた過少申告加算税の賦課決定処分の額と平成10年1月27日付でされた過少申告加算税の賦課決定処分の額の合計額を下回る。したがって、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部又は全部を取り消し、平成10年1月27日付でされた過少申告加算税の賦課決定処分の全部を取り消すべきである。

(3)平成3年12月期の法人臨時特別税について

 上記(2)の結果、請求人の平成3年12月期の法人臨時特別税の課税標準法人税額は、7,456,406,000円及び法人臨時特別税の額は186,410,100円となり、これらの額は平成9年5月2日付でされた法人臨時特別税の更正処分の額を下回るから、当該更正処分はその一部を取り消すべきである。
 また、法人臨時特別税の過少申告加算税の賦課決定処分についても、法人臨時特別税の更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は1,600,000円となる。この納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づいて法人臨時特別税の過少申告加算税を算定すると、160,000円となり、平成9年5月2日付でされた賦課決定処分の額を下回るから、当該賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。

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(4)平成4年12月期及び平成5年12月期の法人特別税について

 上記(2)の結果、請求人の平成4年12月期及び平成5年12月期の法人特別税の課税標準法人税額は、それぞれ、3,809,195,000円、7,389,589,000円、法人特別税の額は、それぞれ、95,229,800円、184,739,700円となり、これらの額は平成9年5月2日付でされた法人特別税の各更正処分の額をいずれも下回るから、当該各更正処分はその一部をいずれも取り消すべきである。
 また、平成4年12月期及び平成5年12月期の法人特別税の過少申告加算税の各賦課決定処分についても、法人特別税の各更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は、それぞれ、1,070,000円、零円となる。平成4年12月期の納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づいて法人特別税の過少申告加算税を算定すると、107,000円となり、平成9年5月2日付でされた各賦課決定処分の額をいずれも下回る。したがって、当該各賦課決定処分はいずれもその一部又は全部を取り消すべきである。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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