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(平14.3.28裁決、裁決事例集No.63 508頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が父であるFから売買により土地を譲り受けたことについて、当該土地の時価に比して著しく低い価額の対価で譲り受けていたとして当該譲受けに相続税法第7条のみなし贈与の規定が適用されるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人に対し、平成13年3月9日付で、平成7年分、平成8年分、平成9年分、平成10年分及び平成11年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の贈与税について、別表1の「決定処分等」欄のとおり各決定処分(以下「本件各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各決定処分と併せて、「本件各決定処分等」という。)をした。
ロ 請求人は、本件各決定処分等を不服として、平成13年3月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し、同年6月11日付で別表1の「異議決定」欄のとおり本件各決定処分等についていずれも一部取消しの異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年6月18日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、Fが所有するP市Q町○番○に所在する土地192.81平方メートル(以下「本件土地」という。)について、概要別表2のとおりFと売買する旨の各売買契約(以下「本件各売買契約」という。)を締結し、それぞれ各売買契約書を作成した。
 なお、当該各売買契約書には、本件土地の所有権は請求人がFに売買代金を支払った時に移転する旨の記載がある(以下、請求人が各売買契約書に基づく売買代金をそれぞれ支払った日を「本件各取得日」という。)。
ロ 本件土地は、昭和63年11月27日売買を原因として、同年12月12日受付でFを所有者とする所有権移転登記手続がなされており、その後のFの持分一部移転登記手続の状況は、別表3のとおりである。
ハ 本件土地は、Fが所有するP市Q町○番○の家屋番号○番○の家屋(以下「本件建物」という。)の敷地の用に供されている。なお、本件建物は、昭和63年2月15日新築を原因として、同年3月22日受付でFを所有者とする所有権保存登記手続がなされている。
ニ 請求人の夫であるGは、Fと昭和63年2月29日付で、要旨次の内容とする本件建物に係る賃貸借契約(以下「本件建物賃貸借契約」という。)を締結し賃貸借契約書を作成した。
(イ)Fは、本件建物をGに賃貸する。
(ロ)賃貸借期間は、昭和63年3月1日から昭和65年2月28日までの2年間とする。
(ハ)賃料は、1か月金60,000円とする。
 なお、Fは、上記賃貸借期間終了後も、契約の更新により本件建物をGに対し1か月金60,000円で引き続き賃貸している。
ホ Fは、各年分のそれぞれの年分の所得税の収支内訳書(不動産所得用)に、本件建物の賃借人をGとして、年額720,000円の賃貸料を計上している。
ヘ 請求人は、Fと平成5年6月10日付けで、要旨次の内容とする本件土地に係る賃貸借契約(以下「本件土地賃貸借契約」という。)を締結し賃貸借契約書を作成した。
(イ)請求人は、本件土地の請求人の持分部分をFに賃貸する。
(ロ)賃貸借期間は、30年と定め、その始期は平成5年6月17日とする。
(ハ)賃貸借料は、本件土地の請求人の持分部分に課される固定資産税額と同額とする。
ト 本件土地は、借地権の設定をする場合には、権利金の授受の慣行のある地域に所在するが、Fは、請求人に対し、本件土地の貸借に係る権利金を支払っていない。
チ 本件各取得日における本件土地の更地であるとした場合の時価は、別表4の「本件土地の更地価額」欄のとおりであり、請求人が本件各取得日に譲り受けた本件土地の各持分(以下「本件各持分」という。)部分に相当する当該部分が更地であるとした場合の時価(以下「本件各持分の更地価額」という。)は、同表の「本件各持分の更地価額」欄のとおりである。

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2 主張

(1)請求人

イ 本件各決定処分について
本件各決定処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
(イ)決定の理由附記について
 次のとおり、本件各決定処分は、手続に違法があるので、いずれもその全部を取り消すべきである。
A 贈与税の決定処分は納税者に対する不利益処分であることから、その決定通知書には、税務署長の慎重かつ合理的な判断を担保してそのし意を抑制するとともに、処分の理由を相手に知らせて不服の申立てに便宜を与えるため決定の理由を附記することが要求されているにもかかわらず、本件各決定処分に係る決定通知書には、処分の理由が附記されていないから、本件各決定処分は、いずれも理由附記を欠く違法な処分である。
B 千葉地方裁判所昭和29年11月16日判決(昭和26年(行)第24号休職処分取消請求事件。以下「本件裁判例」という。)によれば、「行政処分には根拠となる法律とその法律に該当する事実を示さなければならない」と判示し、さらに、「本件処分は主文と法律とを示したのみであってその法律に該当する事実を示していない。このような処分は処分として瑕疵があり、その瑕疵は取消原因となるものである」と判示するとともに、「処分の理由となる事実関係は常に処分と同時に示さなければならないのであって、本件はその例外をなすものではない」旨判示している。
 このことからも、本件各決定処分に理由附記がないことは、瑕疵ある行政処分であり、取消しを免れないし、口頭による理由説明や、異議申立てに係る異議決定において理由を明示したとしても処分後の明示であり、これによって瑕疵が治癒されるものではない。
(ロ)著しく低い価額の対価による譲受けについて
 仮に、上記(イ)の主張が認められないとしても、本件各決定処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部を取り消すべきである。
A 請求人が譲り受けた本件土地は、Fが所有する本件建物の敷地の用に供されていることから、Fは、本件土地に対し、借地権を有するものであり、請求人が譲り受けた本件各持分は、借地権の目的となっている土地(以下「底地」という。)の譲受けである。
B さらに、Fは、請求人が所有する本件土地の持分部分に対し、請求人との間で本件土地賃貸借契約を締結し、賃貸借料を支払っていることからも、Fには、本件土地に対し、借地権を有するものであり、請求人が譲り受けた本件各持分は、底地の譲受けである。
C ところで、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」とは、時価の2分の1に満たない金額であると解される。
 そうすると、本件各持分の更地価額から同価額の70%に相当する借地権価額を控除した価額(以下「本件各底地価額」という。)に2分の1を乗じて計算した各金額が、本件各持分の売買価額に満たなければ、相続税法第7条の規定の適用はないこととなる。
D これを本件各持分について当てはめると、本件各底地価額及びその各2分の1に相当する金額は、それぞれ、別表5の「本件各底地価額」欄及び「2分の1相当額」欄のとおりとなり、本件各持分の売買価額は、それぞれ本件各底地価額の2分の1に相当する金額を上回るので、本件各持分の売買価額は、いずれも著しく低い価額の対価には当たらないことから、贈与があったとみなすことはできない。
ロ 本件各賦課決定処分について
上記イのとおり、本件各決定処分はいずれも違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件各賦課決定処分もいずれもその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 本件各決定処分等は、次の理由によりいずれも適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各決定処分について
(イ)決定の理由附記について
 処分に係る通知書に処分の理由を附記しなければならないのは、所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項及び法人税法第130条《青色申告書に係る更正》第2項の規定により、青色申告書に係る更正をする場合に限られており、また、贈与税を規定する相続税法においては、その処分に係る通知書に理由を附記しなければならない旨定めた規定はない。
 したがって、本件各決定処分に係る通知書に理由の附記がないことをもって本件各決定処分が違法となるものではない。
(ロ)著しく低い価額の対価による譲受けについて
A 相続税法第7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。
B 請求人は、本件各持分は底地の譲受けである旨主張するが、本件各取得日において、本件土地の上にはF所有の本件建物が存しており、本件土地の売買の対象となった部分と建物の所有者とは同一人であるから、当該部分に貸借関係が存在していたと解する余地はなく、当該部分は底地とは認められない。
 また、請求人とFとの間の、本件土地の請求人の持分部分に係る本件土地賃貸借契約に基づく賃貸借料は、当該持分部分に係る固定資産税額と同額とされており、当該持分部分に存在する貸借関係は、使用貸借と解するのが相当であり、当該貸借関係の存在は、本件各持分の時価に影響を及ぼす要因とはならない。
 しかしながら、本件建物には、本件建物賃貸借契約に基づいてG及びその家族が居住していることから、Gは、本件建物の利用の範囲内で、本件土地にある程度の支配権を有していると認められ、逆にその範囲内においてFは利用についての受忍義務を負うことと解される。そのため、その支配権が付着したままの状態で本件土地を譲渡するとした場合にはその支配権が付着していないとした場合における価額より低い価額でしか譲渡できないと認めるのが相当であり、本件土地は貸家の敷地の用に供されている土地(以下「貸家建付地」という。)であることから、本件土地の価額は、その更地価額からその価額に本件土地に係る借地権割合と本件建物に係る借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額とすべきであると解される。
 そして、本件土地に係る借地権割合と本件建物に係る借家権割合については、売買実例や精通者の意見価格等を基に東京国税局長が定める財産評価基準書に示されているその借地権割合及び借家権割合によることが相当である。
 そうすると、本件各持分の時価は、上記1の(3)のチの本件各持分の更地価額に本件土地に係る借地権割合60%と本件建物に係る借家権割合30%との相乗積(0.18)を乗じて計算した金額をその更地価額から控除した各価額(以下「本件各貸家建付地価額」という。)であり、当該価額は、別表6の「本件各貸家建付地価額」欄のとおりとなり、当該価額と本件各持分の売買価額との差額は、同表の「差額」欄のとおりとなる。
 以上のとおり、本件各持分の売買価額は、いずれも本件各持分の時価に比して著しく低い価額と認められるので、相続税法第7条の規定の適用により、請求人は、各年分において、別表6の「差額」欄の差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなすのが相当である。
(ハ)上記(ロ)の各差額に相当する金額を基に、請求人の各年分の納付すべき贈与税額を計算すると、いずれも異議決定を経た後の本件各決定処分の額と同額であるので、本件各決定処分はいずれも適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 以上のとおり、本件各決定処分はいずれも適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づき行った本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

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3 判断

 本件は、理由附記のない贈与税の決定通知書が適法か否か、及び本件各持分の売買価額が、相続税法第7条に規定する著しく低い価額の対価の額に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。

(1)本件各決定処分について

イ 決定の理由附記について
 請求人は、本件各決定処分に係る決定通知書には、決定の理由が附記されていないから、本件各決定処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、贈与税の決定処分については、所得税法第155条第2項の規定あるいは法人税法第130条第2項の規定のように、決定の理由を附記すべき旨を定めた法令の規定はないのであるから、本件各決定処分に係る決定通知書に決定の理由の附記がないとしても違法となるものではなく、請求人の主張は採用することができない。
 なお、請求人は、本件裁判例を引用して本件各決定処分の違法を主張するようであるが、本件裁判例は処分の事由を記載した説明書の交付を要求していた教育公務員特例法が適用される教員に対する不利益処分に関するものであり、本件とは前提を異にするものである。
ロ 著しく低い価額の対価か否かについて
(イ)相続税法第7条の規定
 相続税法第7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなす旨規定している。
 当該規定は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、法律的には贈与といえないとしても、経済的には対価と時価との差額について実質的に贈与があったと同視することができるため、この経済的実質に着目して、課税の公平の見地から、対価と時価との差額について贈与があったものとみなして贈与税を課税するものであり、当該規定の趣旨にかんがみると、相続税法第7条に規定する低額譲受けによる利益を享受したか否かは、当該財産の時価と譲受けの対価の額との差などを勘案して社会通念に従い判断するのが相当である。
(ロ)本件各持分の時価について
 本件において、本件各持分の更地価額については、請求人及び原処分庁の間に争いはないが、本件各持分の時価について、請求人は、本件土地にはFの借地権が存しており、請求人が譲り受けた本件各持分は、その底地の譲受けであるから、本件各持分の時価は底地価額である旨主張し、一方、原処分庁は、本件土地は貸家建付地であるから、本件各持分の時価は貸家建付地価額である旨主張するので、以下審理する。
A 上記1の(3)のイからハの事実によると、請求人は、本件各持分として、Fの本件土地の所有権の持分の一部を本件各取得日に譲り受けたものであり、また、本件土地にはF所有の本件建物が存している。
 そうすると、本件各持分の譲渡者であるFと本件建物の所有者とは同一人であることから、本件各取得日において、本件各持分にFが借地権を有していたとは認められない。
 また、上記1の(3)のヘ及びトの事実によると、Fは、本件土地が通常権利金の授受の慣行のある地域に所在するにもかかわらず、本件土地の貸借に関し、請求人に対し、通常支払うべきと認められる権利金を支払っていないし、本件土地について本件土地賃貸借契約の約定どおり、賃貸借料が支払われていても、当該賃貸借料は、請求人の本件土地の持分部分に課される固定資産税額と同額であって、借用物についての通常の必要経費は借受者の負担とされている(民法第595条第1項)のであるから、固定資産税額に相当する金額の授受があるにすぎない請求人とFとの本件土地の貸借は、賃貸借と解することはできず、使用貸借と解すべきである。
 したがって、Fは、本件土地に対し、借地権を有していないことから、本件各持分の譲受けは、底地の譲受けとは認められず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 上記1の(3)のハからホの事実によると、〔1〕本件土地には、Fが所有する本件建物が存し、〔2〕Gは、Fに対して、本件建物賃貸借契約に基づき、建物使用の対価である賃料を支払っていること、〔3〕Fは、当該賃料を各年分の所得税において、不動産所得として確定申告をしていることから、本件建物にはGが賃借権を有しており、本件土地は、貸家建付地と認めるのが相当である。
 ところで、貸家建付地の価額は、建物の賃借人には借家権はあっても、その賃借した建物の敷地に対して借地権の権利を有することはないのであるが、経済的にみれば、賃借した建物の敷地である土地に対しても建物の賃借権に基づく利用の範囲内で土地を利用し得ることから、本件土地の貸家建付地の価額は、更地価額から借家人が住んでいることによる価額の低下を考慮して算定することが相当と解される。
C そうすると、本件の場合、本件各持分の更地価額については、請求人及び原処分庁の間に争いはなく、貸家建付地の価額については、当該更地価額から、東京国税局長が定める財産評価基準書において示されている、その土地に係る借地権割合とその貸家に係る借家権割合との相乗積を当該更地価額に乗じて計算した金額を控除した価額とすることに、特に不相当とする理由は認められないことから、これらを基に、本件各持分の貸家建付地の価額を算定すると下表のとおりとなる。
 なお、東京国税局長が定める財産評価基準書に示されている本件土地に係る借地権割合及び本件建物に係る借家権割合は、各年分とも、いずれも借地権割合は60%、借家権割合は30%であり、その相乗積は0.18である。

 したがって、原処分庁の算定した別表6の本件各貸家建付地価額は、上表の本件各持分の貸家建付地の価額と同額となることから、本件各持分の時価として相当であると認められる。
(ハ)本件各決定処分について
 以上のとおり、本件各取得日における本件各持分の時価は、上記(ロ)のCの表の「貸家建付地の価額」欄のとおりと認められるところ、
請求人は、本件各持分を下表の「売買価額」欄のとおりFから譲り受けており、その差額は、2,903,977円から12,214,897円にも達するものであるから、本件各持分の売買価額は、相続税法第7条に規定する著しく低い価額の対価であると認めるのが相当である。

 したがって、請求人は、相続税法第7条の規定により、本件各取得日における本件各持分の時価と本件各持分の売買価額との差額に相当する金額をFから贈与により取得したものとみなされ、当該差額に相当する金額を基に請求人の各年分の納付すべき贈与税額を計算すると、いずれも原処分の額と同額となるから、本件各決定処分はいずれも適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各決定処分はいずれも適法であり、かつ、請求人には、本件各決定処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実について、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づいてなされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(3)その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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