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(平14.6.21裁決、裁決事例集No.63 554頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税の課税財産として申告した○○協業組合J社(以下「J」という。)の出資の価額はどのように評価すべきか及びその多寡を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおりである。
 なお、審査請求人K及びN(以下、KとNを併せて「請求人ら」という。)は、平成8年5月22日に死亡したM(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、請求人らは、Kを総代として選任し、その旨を平成12年7月24日付で届け出た。

(3)関係法令等

イ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか、ただし、平成8年5月30日付課評2−3による改正前のものをいい、以下「評価通達」という。)
(イ)評価通達179《取引相場のない株式の評価の原則》、同通達194《合名会社等の出資の評価》及び同通達188−2《同族株主以外の株主等が取得した株式の評価》は、株式会社における取引相場のない株式及び合名・合資会社の出資の価額は、原則として、会社の規模に応じて類似業種比準価額と純資産価額との併用方式(以下「併用方式」という。)により評価する旨、ただし、経済的には配当を享受することを期待しうるにすぎない零細株主等の株式等の価額は、評価の便宜をも考慮して配当還元価額により評価する旨定めている。
 この類似業種比準価額は、類似業種の株価を基に評価会社の配当金額、利益金額及び純資産価額と類似業種のそれとを比準して算定(以下「類似業種比準方式」という。)した価額(評価通達180)をいい、純資産価額は、会社に帰属する財産を相続税評価額で洗い替えた正味財産の価額から評価差額に対する法人税等に相当する金額を控除して算定(以下「純資産価額方式」という。)した価額(評価通達185)をいい、配当還元価額は、配当金額を10%の資本還元率で還元することにより算定(以下「配当還元方式」という。)した価額をいう。
 なお、株主等の会社に対する経営支配力を考慮して、持株割合50%未満の株主グループに属する株主の株式を純資産価額方式により評価する場合には、算定した純資産価額からその価額の20%相当額を減額する取扱い(以下「20%評価減の特例」という。)を定めている。
(ロ)これに対して、評価通達196《企業組合等の出資の評価》は、中小企業等協同組合のうち、営利事業を営む企業組合その他これに類似する組合等(以下「企業組合等」という。)の出資の価額は純資産価額を基として評価する旨、同通達195《農業協同組合等の出資の評価》は、その他の農業協同組合等の出資の価額は払込済出資金額によって評価する旨を定めている。
ロ 中小企業団体の組織に関する法律(以下「中小企業団体法」という。)等
(イ)中小企業団体法第5条の2《目的》は、協業組合は、その組合員の生産、販売その他の事業活動についての協業を図ることにより、企業規模の適正化による生産性の向上等を効率的に推進し、その共同の利益を増進することを目的とする旨規定しており、これは中小企業等協同組合法(以下「協同組合法」という。)第5条《基準及び原則》に規定する、いわゆる協同組合原則に代わるものとして個別協業組合の目的がうたわれたものである。
(ロ)中小企業団体法第5条の12《加入ニ》は、死亡した組合員の相続人全員の同意をもって選定された一人の相続人が協業組合に対し定款で定める期間内に加入の申出をしたときは、相続開始の時に組合員になったものとみなされ、当該相続人は死亡した組合員の死亡時における持分についての権利義務を承継する旨規定している。
ハ 持分払戻しに関する規定
 協業組合制度には任意脱退制度がなく、協同組合法第19条《法定脱退》第1項に規定する法定脱退のほかは、中小企業団体法第5条の14《持分の譲渡し等》第1項に規定する持分の譲渡による脱退のみであり、その場合における脱退者の持分の払戻しについて、協同組合法第20条《脱退者の持分の払戻》第1項は、脱退したときは、定款の定めるところにより、その持分の全部又は一部の払戻しを請求することができる旨規定し、同条第2項は、前項の持分は、脱退した事業年度の終における組合財産によって定める旨規定している。
 また、合名会社の退社員の持分の払戻しについては、商法第68条の規定により準用される民法第681条第1項は、「脱退シタル組合員ト他ノ組合員トノ間ノ計算ハ脱退ノ当時ニ於ケル組合財産ノ状況ニ従ヒ之ヲ為スコトヲ要ス」旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ Jは、中小企業団体法第5条の17《設立の認可》に規定する認可を受け、昭和45年2月2日に○○協同組合Jの組織を変更して設立された協業組合であること。
ロ 課税時期現在において、Jの資本金は4,000万円、出資総口数は80,000口、被相続人が有していたJに対する出資(以下「本件出資」という。)の口数は2,425口及び本件出資1口当たりの払込済金額は500円であること。
ニ Jの平成7年2月1日から平成8年1月31日までの事業年度の売上高は107,882,740円(内訳は、○○部門3,625,178円及び不動産部門104,257,562円)、営業利益は50,458,861円であり、当事業年度における配当は20%(8,000,000円)であること。

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2 主張

(1)請求人ら

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 原処分庁は、課税時期におけるJの事業実態や本件出資を取得したNの所有形態を考慮せず、Jが協業組合であるというだけの理由で評価通達196を適用し、本件出資の価額を同通達185《純資産価額》の定めを準用して計算した純資産価額により、1口当たり6,124円と算定している。
 しかしながら、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で通常成立すると認められる価額をいい、具体的には評価通達の定めによって評価した価額によるものとされているところ、本件出資の価額は、J及びJの組合員の実態に照らせば次のとおりである。
(イ)J及びJの組合員の実態
A 中小企業団体法第5条の14第1項及び第2項の規定並びに同法第5条の23《準用》第1項の規定により準用される協同組合法第20条第1項及び第2項の規定により、Jは、○○協業組合J定款(以下「本件定款」という。)第13条《脱退者の持分の払いもどし》第1項で組合員が脱退したときは出資額を限度として持分の全額を払い戻す旨、また、同第14条《持分の譲渡し等》第3項及び第4項で持分の譲渡について総会又は理事会の承認がない場合は出資口数の減少を請求でき、この場合も出資額を限度として持分を払い戻す旨をそれぞれ定めている。
B 本件出資について、Jの仲介により売買価格が払込済出資金額である500円で売買された事例がある。
C Jは、昭和16年に経済統制法により免許制であった○○業者の免許を統合して設立された「責任保証○○共同施設組合J」が前身であり、昭和21年に協同組合となり、更に、昭和45年に現在の組織に変更された。
 そして、その組合員は、昭和16年当時の○○製造業者の子孫であるが、農業の経済的構造の変化等によって、課税時期現在ではJの事業とは直接関係がなく、単なる出資者である。
D Jの課税時期における議決総指数(159,202)に対し、本件出資を相続したNの議決指数(2,823)の占める割合は1.7%、Jにおける最高議決権者の議決指数(3,941)の占める割合も2.4%でしかなく、組合員の中にJに対して支配権を持っている者はいない。
 なお、課税時期におけるJの組合員総数は199名である。
E 本件定款第1条《目的》は、○○製造業について協業を図り共同の利益を増進することを目的とする旨のJの創業理念を定めているが、課税時期においては貸ビル等の不動産部門が主体となっており、営利を目的とした企業である。
F 中小企業団体法上配当に制限はなく、Jは、平成7年2月1日から平成8年1月31日までの事業年度は20%(内訳は通常配当15%及び記念配当5%)、平成6年2月1日から平成7年1月31日までの事業年度は15%の配当を行っている。
(ロ)上記(イ)のA及びBの事実からすれば、本件出資1口当たりについて不特定多数の当事者間で成立する価額は、払込済出資金額である500円であり、この価額が相続税法第22条《評価の原則》に規定する時価に相当する。
(ハ)また、組合等に対する出資については評価通達195及び196の定めがあるが、課税時期における組合等の実態が個人企業に類似し、出資者の所有形態が個人事業者又は同族株主と変わらないような出資者が所有する出資については評価通達196を、これに当たらない出資者が所有する出資については評価通達195を適用すべきであるところ、上記(イ)の各事実に照らすと、Jは、〔1〕組合員総数が多いこと、〔2〕個人事業に類似すると認められる一般的な企業組合や協業組合等とは事業形態が明らかに異なること、〔3〕個人事業者や同族株主とは所有形態が著しく異なることなどから、本件出資については評価通達195を適用すべきであり、そうすると、本件出資1口当たりの価額は、払込済出資金額に相当する金額500円となる。
(ニ)更に、取引相場のない株式の評価について、評価通達188−2は特例的評価方式である配当還元方式による評価方法を定めており、この特例的評価方式は、事業経営への影響度が少ない零細株主は単に配当を期待するだけであることから、評価手続の簡便性をも考慮して定められたもので、株式を取得した者が支配権のない株主である場合について適用される方式であるところ、上記(イ)の各事実に照らすと、〔1〕Jは営利を目的として経営されていること、〔2〕配当の制限もなく利益に相応した配当を行っていること、〔3〕Nは零細な出資者であり支配権もないことなどから、本件出資については、仮に評価通達195が適用されないとしても、同通達196ではなく同通達188−2が適用されるべきで、そうすると、本件出資1口当たりの価額は、配当還元方式で計算した配当還元価額に相当する金額750円となる。
(ホ)以上のとおり、本件出資の価額は、払込済出資金額である1口当たり500円で評価すべきであり、また、仮に払込済出資金額で評価するのが相当でないにしても、配当還元価額である1口当たり750円を上限とすべきである。
(ヘ)なお、判断に当たっては、次のことも考慮すべきである。
A 本件出資の価額は、従来から払込済出資金額による申告が認められてきたこと。
B 原処分時の調査担当職員も述べていることであるが、今後本件出資を1口当たり500円で譲渡すると、その譲受人の態様(法人か個人か)により贈与税、所得税又は法人税の課税問題が生ずることとなり、Jの存続が危うくなるおそれがあること。
C 原処分庁は、本件出資の価額を評価するに当たり、修正申告しょうよう時は1口6,387円、更正処分時は1口6,202円、異議決定時は1口6,124円としているが、権限ある原処分庁においても正確な計算ができ難いような煩雑な計算を、Jに対し影響力のない零細な出資者に要求することは、課税の公平に失しているといわざるを得ないこと。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)Jは協業組合であるところ、協業組合の出資の価額は、評価通達196の定めを適用し、組合の純資産価額を基として出資の持分に応ずる価額によって評価することとされている。
 そして、本件出資の価額を、評価通達196の定めに従い純資産価額により算定すると、別表2の「〔11〕課税時期現在の1口当たりの純資産価額(相続税評価額)」欄のとおり、1口当たり6,124円となる。
(ロ)請求人らは、本件出資の価額は、上記(1)のイの(ロ)及び(ハ)のとおり、払込済出資金額である500円で評価すべきである旨主張するが、農業協同組合のようにその組合等の行う事業によってその組合員等のために最大の奉仕をすることを目的として営利事業を行わない組合等に対する出資を評価するときには評価通達195を適用し、企業組合のようにそれ自体が1個の企業体として営利を目的として事業を行うことができる組合等に対する出資を評価するときは評価通達196を適用することとされているところ、Jは後者に属する組合であるから、本件出資の価額は評価通達196の定めにより評価されることになり、請求人らの主張には理由がない。
 なお、本件定款第13条には、組合員が脱退したときは出資額を限度として持分の払戻しをする旨定められているが、協同組合法第20条第1項及び第2項には、持分の払戻しは当該事業年度の終における組合財産によって定める旨規定されており、払込済出資金額が限度とされていないから、本件定款第13条の定めがあったとしても、本件出資について評価通達195を適用することはできない。
(ハ)また、請求人らは、課税時期におけるJの事業実態や本件出資を取得したNの所有形態を考慮せずJが協業組合であるというだけの理由で評価通達196を適用するのは違法である旨主張するが、相続税の課税対象となる財産の客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定するものではないから、財産評価の一般的基準が通達によって定められ、その画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされているところ、本件出資についてのみ評価通達の定めによらない評価方式によって評価することは、納税者の実質的負担の公平を欠くこととなるから、請求人らの主張には理由がない。
(ニ)次に、請求人らは、本件出資の価額を、評価通達188−2に定める配当還元方式によって評価した配当還元価額を上限とすべきである旨主張するが、協業組合の出資の評価について評価通達178《取引相場のない株式の評価上の区分》ないし同通達188−2の定めを準用する旨の定めはないから、請求人らの主張には理由がない。
(ホ)更に、請求人らは、本件出資の評価に当たっては、従来から払込済出資金額による申告が認められてきたこと、また、原処分庁でさえ正確な計算ができ難いような煩雑な計算を零細な出資者に要求することは課税の公平を失することになることなどを考慮すべきである旨主張するが、以上のとおり、本件出資を純資産価額により評価したことは適法であり、納税者の公平という見地から見て合理的であるから、請求人らの主張にはいずれも理由がない。
(ヘ)以上述べたとおり、請求人らの主張にはいずれも理由がなく、本件出資の価額を評価通達196の定めに従い算定すると、1口当たり6,124円に出資口数2,425口を乗じた14,850,700円となり、異議決定後の原処分の金額と同額となるから、更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は適法であり、期限内申告額が過少であったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件出資の価額の評価方法及びその多寡について争いがあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 認定事実
 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)課税時期において、本件定款には次のとおり定められていること。
A 目的
 ○○製造業の事業活動についての協業を図ることにより、企業規模の適正化による生産性の向上等を効率的に推進しその共同の利益を増進する(定款第1条)。
B 事業
 本組合は、〔1〕○○の製造、〔2〕○○及び副産物の販売、〔3〕電気部品の製造、〔4〕不動産の賃貸、〔5〕機械器具の販売、〔6〕花卉園芸品及びその資材、用具の販売、〔7〕これらの事業に関連する事業及び〔8〕これらの事業に附帯する事業を行う(定款第2条)。
C 相続による承継加入
 死亡した組合員の相続人の一人が相続開始後30日以内に加入の申出をしたときは、相続開始のときに組合員になったものとみなす(定款第10条第1項)。
D 脱退者の持分の払戻し
 組合員が脱退したときは組合員の本組合に対する出資額を限度として持分の全額を払い戻すものとする(定款第13条第1項)。
E 持分の譲渡し等
 組合員は自己の持分を譲渡する場合は、組合に対し30日前までに申し出て総会の承諾を要する。ただし、他の組合員に譲渡する場合であって理事会の承認を得たときはこの限りでない(定款第14条第1項)。
 組合員は総会又は理事会の承認を得られないときは、当該持分に応ずる出資口数の減少(当該持分が当該組合員の持分の全部であるときは脱退)を本組合に請求することができる(定款第14条第3項)。
 出資口数の減少(又は脱退)については前条の規定を準用する(定款第14条第4項)。
(ロ)Nは、本件定款第10条《承継加入》の定めるところにより、相続開始後にJに承継加入の申出を行い、Jの組合員となり、本件出資2,425口を取得したこと。
(ハ)課税時期におけるJの組合員数は199人で、議決総指数は159,202(各組合員の出資口数の合計(80,000)に、組合員一人当たり398の人頭割による指数(79,202)を加算したもの)であること。
 なお、Nが取得した議決総指数は2,823である。
ロ Nが相続により取得した財産
 協業組合の組合員が死亡した場合、組合員の死亡は法定脱退事由とされているため、組合員たる地位が死亡した組合員の相続人に当然に承継されるものではなく、したがって、死亡した組合員が有する協業組合に対する出資がただちに相続財産となるものではない。
 しかしながら、協同組合法第19条、第20条及び中小企業団体法第5条の12の各規定は、組合員の死亡によりその相続人は、〔1〕脱退者として持分の全部又は一部の払戻しを請求する権利を取得するか、〔2〕協業組合に対して申出をすることにより相続開始時に組合員になったものとみなされて組合員としての権利義務の承継をするかのいずれかを選択することができる旨定めているところ、上記イの(ロ)のとおり、Nは、本件定款の定める手続に従って、Jに組合員加入の申出を行い、相続開始時にJの組合員となったものとみなされて被相続人が有していたJに対する権利義務の承継をしているのであるから、Nは、相続により被相続人がJに対して有していた出資を取得したものとみるのが相当である。
ハ 出資の価額の評価方法
(イ)評価通達が定める評価方法
A 中小企業等協同組合の出資を評価する場合において、出資は経済的には組合財産に対する共有権を意味するものであり、株式も会社財産に対する抽象的な割合的権利を有する点においては、出資と同様であることから、どのような評価方式によりそれらの価額を算定するのが合理的であるかは、中小企業等協同組合とか株式会社とかの法人の形態の違いから直ちに導き出されるものではなく、会社の種類・規模・業種・配当性向、評価の対象となる出資又は株式が全体に占める割合並びに評価方式を適用するのに必要にして十分な資料があるか否か等により判断されるべきものと解されている。
B 組合等の出資の評価方式を定める評価通達195及び196についてみると、専ら組合員への奉仕を目的とし営利事業を行わない農業協同組合等にあっては、資産の蓄積等がなく、その組合財産は出資総額に近似する一方、営利事業を営む企業組合等の組合財産にあっては、その組合財産は事業遂行により資産が蓄積されていくことから、営利事業を営むかどうかで異なる評価方式を適用することとしているものと解される。
 営利を目的とする法人の株式等については、収益性をも反映した継続企業価値によって評価すべきことから、一般的に、純資産価額に類似業種比準価額を加味した併用方式の方が純資産価額のみによる方式よりも優れているということができる。
 また、合名・合資会社と企業組合等はともに人的法人であり、法人とその構成員との内部関係も類似し、かつ、持分払戻しに際しての、持分額の算定の基礎となる組合財産(民法第681条、協同組合法第20条)の評価基準も同旨であるにもかかわらず、前者と後者とで適用する評価方式を異にしているのは、〔1〕原則的な評価方式については、企業組合等は、相互扶助の精神などの協同組合原則による制約があり、営利を第一義的な目的とするものではなく、また、配当に制限があるため、企業組合等の出資の評価に、配当金額、利益金額及び純資産価額を比準要素とする類似業種比準方式は採用できないことにあると解され、〔2〕特例的な評価方式については、企業組合等の組合員の議決権は原則として一人一票で、各組合員は互いに平等であることから、組合の経営を支配するグループとそうでない者とに区分することは相当でなく、企業組合等の出資の評価に、およそ配当還元方式は採用できないことにあると解される。
 そして、上記Aに照らし、評価通達の定めは、いずれも財産評価の一般的基準として合理性を有するものと認められる。
(ロ)協業組合の活動実態と出資の評価方法
 協業組合は、組合員となろうとする事業者が従来営んでいた事業活動の全部又は一部についての協業を図ることによって、企業規模の適正化、技術水準の向上、経営管理の近代化等による生産性の向上や取引条件の改善等を通じて組合員の利益の増進を図ることを第一義的な目的とする組合であるところ、協業組合にあっては、〔1〕組合員の相互扶助など、いわゆる協同組合原則による各種の制約はなく(中小企業団体法第5条の2)、〔2〕議決権及び選挙権については、平等を原則としつつ、定款自治により人頭割と出資割の併用が認められ(中小企業団体法第5条の10)、〔3〕加入及び脱退の自由がなく(中小企業団体法第5条の11)、そして、〔4〕配当方法に制限はなく、定款自治による(中小企業団体法第5条の20第2項)とされており、協業組合の活動実態は、このように、協業組合における組合員の同志的結合を強めるとともに、その経営的基礎を安定させるために会社制度の利点を取り入れている点において、企業組合など他の営利事業を営む中小企業等協同組合と異なり、むしろ合名会社に近いものと認められる。
 そうすると、税法の解釈適用にも要請される租税負担公平の原則に照らし、協業組合の出資の価額は、合名・合資会社の出資に適用される、収益性が法人の規模に応じて反映される併用方式(評価通達179)によって評価することが相当であり、企業としての活動実態を異にする企業組合等又は農業協同組合等と同様、純資産価額又は払込済出資額によって評価することには合理性がない。このことは、営利を目的とする法人の株式等は継続企業価値によって評価すべきとの要請にかなうものである。
 ただし、協業組合においては、上記〔2〕のとおり、議決権等の配分に出資割が認められていても、なお、各組合員相互間の平等が原則(中小企業団体法第5条の10第1項は、出資割により付与する議決権等の総数は人頭割により付与する議決権等の総数を超えてはならない旨規定する。)とされているから、零細株主等に適用される特例的な評価方式である配当還元方式を協業組合の出資の評価に採用することは相当でない。また、同じ理由により、評価通達185に定める20%評価減の特例を適用することも相当でない。
ニ 本件出資の価額の評価方法
(イ)上記ハの(ロ)のとおり、協業組合の出資の価額は併用方式によって評価することが相当であるところ、本件出資の価額についても、これと異なる方式によるべきとする特別の事情は認められないから、併用方式により評価すべきこととなる。
(ロ)請求人らは、上記2の(1)のイの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件出資の価額は払込済出資金額に相当する金額により評価すべき旨主張するが、請求人らが主張の根拠とする定款第13条及び第14条の定めは脱退に際しての出資の払戻しについてのものであり、また、主張する売買実例価額も、これらの定款に依拠し、限定的な当事者間でなされた事例に係るものであり、本件出資の組合財産に対する持分としての時価を表すものとは認められないため、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
 次に、J及びJの組合員の実態に照らすと、Jは一般の協業組合と異なるから、本件出資の価額は評価通達195を適用すべきであるという点については、上記ハの(ロ)の説示に照らし、請求人らが主張する事情は併用方式の適用を排斥する事由とはなり得ず、本件出資の価額は、上記(イ)のとおり、併用方式により評価すべきであるので、請求人らの主張は採用できない。
 また、原処分庁は、上記2の(2)のイの(イ)ないし(ニ)のとおり、一律に評価通達196の定めを適用し、純資産価額を基として評価すべきであると主張するが、これは、法人の形態のみで評価方式が直ちに決定されるものとし、協業組合の活動実態等を看過するもので、合理性がなく、主張は採用できない。
(ハ)次に、請求人らは、上記2の(1)のイの(ニ)及び(ホ)のとおり、本件出資の価額は、仮に払込済出資金額に相当する金額により評価することが相当でないとしても、配当還元方式により評価すべきである旨主張するが、協業組合の出資の価額を評価する場合に配当還元方式を適用することができないことは、上記ハの(ロ)のとおりであり、請求人らの主張は採用できない。
(ニ)さらに、請求人らは、上記2の(1)のイの(ヘ)のとおり、〔1〕本件出資の価額につき払込済出資金額による申告が認められてきたこと、〔2〕課税問題がJの経営に影響を及ぼすこと及び〔3〕煩雑な時価計算を零細出資者に要求することは課税の公平を失することを、本件出資の価額の評価にあたり考慮すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記〔1〕については、仮に、その事実が認められるとしても、それは法令に従い是正されるべき性質のものであり、上記〔2〕については、本件出資の価額との評価上の因果関係が不明であり、上記〔3〕については、協業組合の組合員に対して、その組合財産及び組合の決算内容に基づいて出資の価額を算定する評価方法がとりたてて困難を強いているものとは認められないから、請求人らの主張は採用できない。
ホ 本件出資の価額及び結論
 以上のとおり、本件出資の価額を評価通達179に定める併用方式により算定すると、別表3のとおり1口当たり6,129円となるから、Nが相続により取得した本件出資2,425口の価額は14,862,825円となる。
 そうすると、上記本件出資の価額は、原処分庁が算定した価額14,850,700円を上回るから、更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(1)のとおり適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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