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(平14.5.10裁決、裁決事例集No.63 586頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に連帯納付義務があるか否か、請求人は延滞税の納付義務を負うか否か及び差押処分の手続に瑕疵があるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人の次男であるD(以下「本件滞納者」という。)の平成3年分の贈与税に係る滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人が所有する別紙の「財産目録1」記載の不動産(以下「本件不動産」という。)に対し平成12年10月10日付で、差押え(以下「本件差押処分」という。)をした。
ロ 請求人は、本件差押処分を不服として、平成12年11月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成13年2月26日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年3月21日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件滞納者に対し、平成3年7月12日に、別紙の「財産目録2」記載の不動産(以下「本件贈与不動産」という。)を贈与(以下「本件贈与」という。)した。
ロ 本件滞納者は、本件贈与に係る贈与税(以下「本件贈与税」という。)の申告書を、課税される財産の価額を26,303,078円と、本件贈与税の納付すべき税額を12,486,800円と、それぞれ記載して、法定申告期限までに提出した。
ハ 本件贈与税の納付すべき税額は、法定納期限までに納付されなかった。
ニ 原処分庁は、別紙の「滞納国税等目録1」記載の本件滞納国税を徴収するため、平成8年10月3日付で、請求人に対し連帯納付義務のお知らせと題する文書(以下「お知らせ文書」という。)を送付した。
ホ 原処分庁は、本件滞納国税が完納されなかったことから、平成10年5月8日付で、請求人が所有する本件不動産について差押え(以下「当初差押処分」という。)を行った。
ヘ 原処分庁は、平成10年6月11日付で、請求人に対して連帯納付義務に係る督促状(以下「本件督促状」という。)を送付した(以下、この督促を「本件督促」という。)。
ト 請求人は、平成11年2月24日に、本件滞納国税のうち本件贈与税の未納税額12,361,900円を納付した。
 しかしながら、本件滞納国税のうち別紙の「滞納国税等目録2」記載の延滞税(以下「本件延滞税」という。)は納付されなかった。
チ 原処分庁は、平成11年3月5日付で、本件不動産に対する当初差押処分を解除した。
リ 原処分庁は、本件延滞税が完納されなかったことから、平成12年10月10日付で、本件不動産に対して本件差押処分を行った。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 連帯納付義務について
(イ)本件延滞税の納付義務
 平成8年10月に、請求人が原処分庁からお知らせ文書を受け取るまでは、請求人に対して、本件滞納国税について連帯納付義務があることの通知は一切なく、請求人は、本件贈与税に関して本件滞納者に滞納の事実が生じていることは全く知らなかったのであるから、滞納が生じたことに何らの責任もなく、請求人には連帯納付義務が生じていない。
 また、お知らせ文書が本件贈与税の法定納期限を4年余りも経過して発送されたことが、多額の延滞税を請求人に負担させる原因となっており不当である。
 なお、滞納が生じることを防止する機会が手続的に保障されないまま、請求人に本件延滞税の納付義務を課することは、手続の保障を規定する日本国憲法(以下「憲法」という。)第31条、個人の尊重、幸福追求権及び公共の福祉について規定する憲法第13条並びに財産権を保障した憲法第29条に違反する。
(ロ)口頭による異議申立て
 請求人は、平成8年10月にお知らせ文書を受け取った直後にE税務署を訪れ、本件滞納者が本件贈与不動産を第三者に譲渡した事情を説明した。
 このとき、原処分庁の担当者(以下「徴収担当職員」という。)は、「請求人には迷惑をかけないよう対処します。」と回答した(以下、この回答を「本件回答」という。)。
 この一連の事実は、請求人が原処分庁に口頭によって異議申立てをし、原処分庁は、請求人の異議申立ての内容を認容したと理解すべきであるから、請求人には、連帯納付義務が生じていない。
 また、仮に、請求人が異議申立てをしていないとしても、本来、請求人は国税通則法(以下「通則法」という。)に規定する異議申立ての手続を取り得たにもかかわらず、本件回答は、請求人に連帯納付義務は生じないとの期待、誤解を与えたのであるから、請求人の異議申立ての機会を奪った違法なものである。
ロ 本件延滞税の免除について
(イ)請求人と徴収担当職員との間で、請求人が本件贈与税を納付すれば当初差押処分が解除され、本件延滞税を免除するという合意(以下「本件合意」という。)が成立していたにもかかわらず、請求人に本件延滞税を課したのは、信義則に違反している。
(ロ)当初差押処分が解除されたことは、本件延滞税の全額が消滅したことを意味するから、請求人は本件延滞税について納付義務を負わない。
ハ 本件督促について
(イ)本件延滞税について、本件督促状の「延滞税」欄には「法律による金額」としか記載がなく、具体的な金額の記載がないことから、本件督促は本件滞納国税のうち本件贈与税のみを対象としたものと解すべきであり、本件延滞税についての督促はないから、本件差押処分の手続には暇疵がある。
(ロ)本件督促は、本件滞納国税を対象にして行われたと解した場合でも、当初差押処分が解除された段階で、本件督促は督促としての効力を失っているから、本件差押処分の手続には暇疵がある。
ニ 本件差押処分について
 上記イのとおり、請求人には連帯納付義務が発生しておらず、上記ロのとおり、請求人は本件延滞税の納付義務を負わないものであるから、また、上記ハのとおり、本件差押処分は差押えの要件となる督促を欠く処分であり、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》に違反しているから、本件差押処分は違法である。
 また、一度差押えを解除しておきながら、再び差押処分を行うことは、憲法第39条の規定の趣旨から二重の危険の禁止に違反しており、違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 連帯納付義務について
(イ)本件延滞税の納付義務
 相続税法第34条《連帯納付の義務》第4項に規定する連帯納付は、贈与税の対象となる贈与の事実の発生によって生ずるもので、財産を贈与した者は、贈与財産の価額に相当する金額を限度として当該贈与税を納期限までに納付する責任を負う。
 すなわち、相続税法第34条第4項は、連帯納付義務は本来の納税者に資力がない等の理由により贈与税の徴収確保ができない場合に備え、財産を贈与した者に課した特別の履行責任であり、特別の確定手続を要しないものである。
 したがって、請求人が原処分庁からお知らせ文書を受け取った平成8年10月まで、本件贈与税の納付がない事実を知らなかったとしても、請求人は、本件延滞税の連帯納付義務を免れるものではなく、本件贈与不動産の価額に相当する金額の範囲内で、本件贈与税の納期限である平成4年3月16日から本件滞納国税のうち本件贈与税が納付された期間までの本件延滞税についても納付義務を負う。
(ロ)口頭による異議申立て
 通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は異議申立てをすることができる旨規定し、通則法第81条《異議申立書の記載事項等》第1項は、異議申立ては書面により提出されねばならない旨規定していることから、請求人が原処分庁に口頭によって異議申立てをし、原処分庁が請求人の異議申立ての内容を認容したと理解すべきであるとする請求人の主張には理由がない。
 また、本件督促状、当初差押処分に係る差押書及び本件差押処分に係る差押書には、それぞれ、不服申立てができる旨、不服申立先及び不服申立期間が記載されており、これらの書面は請求人に交付されているところ、請求人に異議申立てができる機会を与えているから、本件回答は、異議申立ての機会を奪った違法なものであるとする請求人の主張には理由がない。
ロ 本件延滞税の免除について
(イ)徴収法は、国税が通常の手続において完納されない場合の強制執行の方法として滞納処分手続を中心とする国税徴収の手続を定めており、徴収法第79条《差押解除の要件》第1項又は第2項に掲げる場合等、徴収法に規定のある場合に限って差押えの解除をするが、合意による解除の規定は徴収法にはないから合意による解除はできない。
(ロ)当初差押処分はその前提としての督促を欠いたために、差押えの効力が生じていないと判断し、この事実を明らかにさせるために解除したものであって、本件合意に基づいて解除したものではない。
ハ 本件督促について
(イ)延滞税は、本税が未納の間はその金額が日時の経過によって増加するものであるため、本件督促状には「延滞税」欄に「法律による金額」と表示し、「御注意」として、「本税には納期限の翌日から完納の日までの期間について延滞税が加算されます。」と記載し、その裏面には、その計算方法を示しているから、本件督促状において、本件延滞税を督促している。
(ロ)徴収法第47条第1項では、督促は、国税がその納期限までに完納されない場合に行われ、督促状を発した日から起算して10日を経過してもなおその国税が完納されない場合には、滞納処分による差押えができる旨規定されている。
 このように、督促は、徴収処分手続の一環をなすものであり、本件延滞税が完納されない限り、その効力を有するものである。
ニ 本件差押処分について
 上記イ及びロのとおり、請求人は本件延滞税について連帯納付義務を負うものであり、また、上記ハのとおり、本件差押処分の要件たる本件督促は適法に行われているから、本件差押処分は適法である。

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3 判断

 本件は、請求人に連帯納付義務があるか否か、請求人が本件延滞税の納付義務を負うか否か及び本件差押処分の手続に瑕疵があるか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)本件合意について、徴収担当職員の明確な発言はなかった。
(ロ)請求人の「本税は払うが、延滞税は払う気がない。」という申立てに対して徴収担当職員は何も言わず、本件贈与税を納付したら当初差押処分が解除され、その後約1年半の間、本件延滞税について原処分庁から納付するよう請求がなかったことから、本件合意があったと認識した。
(ハ)平成10年5月にE税務署を訪れ、徴収担当職員に当初差押処分の手続に瑕疵があると指摘した。
(ニ)原処分庁に対しては、何度となく当初差押処分の解除を要求したが、本件滞納国税を納付しない限り、差押えが解除されてもすぐに再差押えがなされると思い、そうすれば本件不動産の登記簿に傷がつくので、原処分庁にそれ程強く解除を要求しなかった。
ロ 徴収担当職員は、当審判所に対し、本件合意をしておらず、また、本件延滞税の全額を免除してほしいという請求人の申立てに対し、本件延滞税の全額は免除できないことを説明した旨答述している。
ハ 本件督促状には、「延滞税」欄に「法律による金額」と記載があり、「御注意」として本税には納期限の翌日から完納の日までの期間について延滞税が加算される旨、この督促に不服がある場合は異議申立てができる旨及び異議申立てをする場合の異議申立先、異議申立期間についての記載がある。
ニ 当初差押処分に係る差押書には、この差押えについて不服があるときは異議申立てができる旨及び異議申立てをする場合の異議申立先及び異議申立期間についての記載がある。
ホ 本件差押処分に係る差押書には、この差押えについて不服があるときは異議申立てができる旨及び異議申立てをする場合の異議申立先及び異議申立期間についての記載がある。

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(2)連帯納付義務について

イ 本件延滞税の納付義務
(イ)請求人は、本件滞納者に滞納の事実が生じていることを知らなかったのであるから、連帯納付義務が生じていない旨主張する。
(ロ)ところで、相続税法第34条第4項は、財産を贈与した者は、その贈与した財産の価額に相当する金額を限度として、贈与を受けた者と連帯して贈与税を納付すべき責に任ずる旨規定している。
 この連帯納付義務は、贈与税の徴収確保を図るため、贈与者に課した特別の履行責任であって、受贈者の贈与税の納税義務の確定という事実に基づいて、法律上当然に生じるものであるから、特別の確定手続を要しないと解される。
 なお、延滞税は、通則法第15条《納付義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第6号に掲げられ、同条第1項の規定により納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税である。
 また、通則法第60条《延滞税》第1項の各号のいずれかに該当するときは、延滞税を納付しなければならないこととされている。
 そして、連帯納付義務の範囲は、本来の納税者である受贈者が負っている本税及び延滞税のすべてについて、贈与した財産の価額を限度として負担すべきであると解される。
(ハ)これを本件についてみると、上記1の(3)のイないしハのとおり、請求人は本件滞納者に本件贈与をし、本件滞納者は本件贈与税の申告書を提出したものの、法定納期限までに本件贈与税の納付すべき税額を納付しなかったことから、上記(ロ)のとおり、請求人は、本件贈与税及び本件延滞税について連帯納付義務を負うこととなる。
 そうすると、請求人は本件贈与税について滞納の事実が生じていることを知らなかったことをもって、本件延滞税につき連帯納付義務を免れるものではないから、請求人は本件延滞税を納付しなければならない。
(ニ)なお、請求人は、お知らせ文書が法定納期限を4年余りも経過して発送されたことが、請求人に多額の延滞税を負担させる原因となっており不当である旨主張するが、お知らせ文書は、相続税法第34条第4項の規定に基づく連帯納付義務が存することを行政上の配慮から連帯納付義務者に対して知らせるために発送しているものであるから、お知らせ文書が請求人の連帯納付義務の発生に影響を与えるものではない。
(ホ)また、請求人は、本件延滞税について連帯納付義務を負うのであるならば、滞納が生じることを防止する機会が手続的に保障されてしかるべきところ、手続的に保障されていない制度自体が憲法違反である旨主張するが、当審判所は、法律の憲法適合性について審査する権限はない。
ロ 口頭による異議申立て
(イ)請求人は、本件回答は、請求人が原処分庁に口頭によって異議申立てをし、原処分庁が、請求人の申立内容を容認したと理解すべきであるから、請求人には、連帯納付義務が生じていない旨主張する。
(ロ)しかしながら、本件回答の基となったお知らせ文書の送付は、上記イの(ニ)のとおり、行政上の配慮から請求人に対し連帯納付の義務を負っている旨を知らせるものであるところ、通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分に当たらない。
 また、通則法第81条第1項の規定により異議申立ては書面により行わなければならない。
 そうすると、請求人の主張は異議申立ての対象とならないものについて不服申立てしたことを前提とするものであり、さらに書面による異議申立てもしていないことから理由がない。
(ハ)また、請求人は、口頭による異議申立てとして認められないとしても、本件回答は、請求人に期待、誤解を与え異議申立ての機会を奪った旨主張するが、当初差押処分、本件督促及び本件差押処分の各通知書等には上記(1)のハないしホのとおり、異議申立てができる旨等の記載があるから、請求人の異議申立ての機会を奪ったとはいえず、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3)本件延滞税の免除について

イ 本件合意
(イ)請求人は、本件合意があったにもかかわらず、原処分庁は請求人に本件延滞税を課したことは、信義則に違反する旨主張する。
(ロ)しかしながら、上記(1)のロのとおり、徴収担当職員は本件合意の存在を否定しており、請求人においても、上記(1)のイの(イ)のとおり、本件合意について、徴収担当職員の明確な発言があったものではない旨答述していることからすれば、請求人と徴収担当職員の間で本件合意があったとまで認められない。
 また、いったん成立した租税債権を免除するには、それが租税負担公平の原則に対する例外的措置であるということにかんがみ、法律の根拠に基づくものでなければならないところ、延滞税の免除に関しては、通則法第63条《納税の猶予等の場合の延滞税の免除》及び国税通則法施行令第26条の2《延滞税の免除ができる場合》に規定があるが、本件延滞税については、このいずれの場合においても全額が免除される事由には該当しない。
 なお、信義則の適用については、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するような特別の事情がある場合に、初めてその是非を考慮すべきであるところ、請求人にはこのような事情があったとは認められないことから、この点に関する主張には理由がない。
ロ 当初差押処分の解除
(イ)請求人は、当初差押処分が解除されたことは、本件延滞税の全額が消滅したことを意味するから、本件延滞税については納付義務を負わない旨主張する。
(ロ)ところで、徴収法第47条は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、その財産を差し押えなければならない旨規定しているところ、督促は、差押えを行う前提要件であり、督促を欠く差押処分は違法な処分となる。
 そして、手続的に瑕疵があるなどして、税務署長が差押えの全部又は一部を取り消す場合は、徴収法第80条《差押の解除の手続》の規定に準じて行うこととなる。
(ハ)これを本件についてみると、当初差押処分は、上記1の(3)のホのとおり、平成10年5月8日付で行われており、本件督促は、上記1の(3)のヘのとおり、平成10年6月11日付で行われているから、当初差押処分は督促を欠く違法な処分であり、このことは、上記(1)のイの(ハ)のとおり、請求人も認識しているところである。
 そして、原処分庁は、当初差押処分が違法な状態にあることを解消するために上記(ロ)の規定により、上記1の(3)のチのとおり、解除を行ったものと認められるところ、当初差押処分の解除は、当初差押処分の違法な状態を取り消して解消すること以外の何らの法律効果を生じさせるものではないから、このことによって本件延滞税の全額が消滅したわけではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(4)本件督促について

イ 本件督促の範囲
(イ)請求人は、本件延滞税について、本件督促状の「延滞税」欄には「法律による金額」としか記載がなく、具体的な金額の記載がないことから、本件督促は本件滞納国税のうち本件贈与税のみを対象としたものと解すべきであり、本件延滞税についての督促はないから、本件差押処分の手続には暇疵がある旨主張する。
(ロ)ところで、通則法第37条《督促》第3項において、督促に係る国税についての延滞税があるときは、その延滞税につき、あわせて督促しなければならないと規定されている。
 また、延滞税は、本来的に本税が未納の状態である限り金額が漸増し、本税の全額が納付されて初めてその金額が具体的に確定するため、それまでは督促状等に具体的に数字で記載することができない性質のものであることから、国税通則法施行規則第5条《納付書の書式等》第1項により同法施行規則別紙第3号書式として規定されている書式において「延滞税」欄には「法律による金額」と記載することとされている。
(ハ)これを本件についてみると、本件督促状には、上記(1)のハのとおり、「延滞税」欄に「法律による金額」、「御注意」として「本税には納期限の翌日から完納の日までの期間について延滞税が加算されます。延滞税は、裏面の計算方法により計算して、本税にあわせて納付してください。」との記載があることからも、その「延滞税」欄に具体的な金額の記載がないからといって、本件延滞税についての督促はないとする請求人の主張には理由がない。
ロ 本件督促の効力
(イ)請求人は、本件督促は、本件滞納国税を対象にして行われたと解した場合でも、当初差押処分が解除された段階で、本件督促は督促としての効力を失っている旨主張する。
(ロ)ところで、通則法第37条第1項は、税務署長は、納税者が国税を納期限までに完納しない場合には、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定している。
 この場合の督促の効果は、納付の履行を催告すること、通則法第73条《時効の中断及び停止》の規定によって国税の徴収権の時効を中断すること及び差押えの前提となる要件を構成することであって、督促は徴収処分手続の一環をなすものであり、督促の効果は滞納国税が完納されない限り消滅するものではないものと解される。
(ハ)したがって、本件督促は、当初差押処分を解除した段階で督促としての効力を失うものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5)本件差押処分について

イ 請求人は、上記(2)ないし(4)のとおり、請求人には連帯納付義務が発生しておらず、請求人は本件延滞税の納付義務を負わないものであり、本件差押処分は差押えの要件となる督促を欠く処分で、徴収法第47条に違反しているから、本件差押処分は違法である旨主張する。
ロ ところで、通則法第37条第1項は、納税者が国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対して、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定し、徴収法第47条は、督促に係る国税がその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納されない場合には、差押処分を行わなければならない旨規定していることから、徴収権の消滅時効が成立するまではいつでも差押処分を行うことができると解される。
ハ これを本件についてみると、〔1〕上記1の(3)のトのとおり、本件延滞税について滞納の事実が生じていること、〔2〕上記(4)のイの(ハ)及びロの(ハ)のとおり、本件督促は適法に行われていること、〔3〕上記1の(3)のヘ及びリのとおり、本件督促を行ってから本件差押処分が行われるまで10日を経過していること及び〔4〕上記1の(3)のリのとおり、本件延滞税について完納されていないことから、本件差押処分は適法に行われている。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ なお、請求人は、当初差押処分を解除しておきながら、本件差押処分を行うことは、憲法第39条に規定する二重の危険の禁止の趣旨に違反すると主張するが、上記(3)のロの(ハ)のとおり、当初差押処分は違法であり、本件差押処分は適法に行われており、その処分の性質が異なっているのであるから、請求人の主張には理由がない。
(6)上記(2)ないし(5)のとおり、請求人には、本件延滞税について連帯納付義務があり、本件差押処分は適法に行われている。
(7)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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