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(平14.4.3裁決、裁決事例集No.63 653頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、輸入洋品雑貨等の販売業を営む同族法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税法第30条《仕入れに係る消費税の控除》第7項ないし第9項に規定する課税仕入れに係る消費税額(以下「仕入税額」という。)の控除に係る帳簿及び請求書等を保存していたといえるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯等

イ 請求人は、平成8年8月1日から平成9年7月31日までの課税期間、平成9年8月1日から平成10年7月31日までの課税期間及び平成10年8月1日から平成11年7月31日までの課税期間(以下、併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各確定申告書に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ その後、原処分庁は、所属の職員(以下「調査担当職員」という。)による調査(以下「本件調査」という。)に基づき、平成12年5月31日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする消費税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成12年7月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年10月27日付で棄却の異議決定をしたので、同年11月24日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の各事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、平成12年4月21日に、商号を有限会社Fから株式会社Fへ変更している。
ロ 請求人は、本件各課税期間の総勘定元帳及び買掛台帳(以下「本件帳簿」という。)に、別表2に掲げる仕入取引(以下「本件仕入取引」という。)を記載し、これに係る納品書、請求書及び領収証等(以下「本件証ひょう類」といい、本件帳簿と併せて「本件帳簿等」という。)を保存している。
 なお、請求人が、本件帳簿等に記載した本件仕入取引の仕入先(以下、併せて「本件各仕入先」という。)の氏名及び名称(以下「氏名等」という。)並びにその所在等は以下のとおりである。
(イ)G(所在地はP市p町○−○−○U店4階、本件帳簿への記載名は「G」であり、以下「G」という。)
(ロ)H(住所はP市q町○−○−○、本件帳簿への記載名は「H」であり、以下「H」という。)
(ハ)K有限会社(所在地はP市r町○−○−○、本件帳簿への記載名は「K」であり、以下「K」という。)
 なお、本件証ひょう類によれば、Kは、平成9年4月15日に、商号がK株式会社に変更され、所在地もP市s町○−○−○に変更されている。
(ニ)L(住所はQ市p町○−○−○−○、本件帳簿への記載名は「L」であり、以下「L」という。)

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)本件調査によれば、〔1〕本件各仕入先は実在していないか、実在していても請求人と取引関係にあったとするに足りる事実がないこと、〔2〕本件仕入取引は、M(以下「M」という。)が請求人の代表取締役であるN(以下「N社長」という。)から商品の発注を受けて行っていたもので、どの名義を使用するかについては、取引の都度、MがN社長に連絡していたこと、さらに、〔3〕N社長並びに請求人の経理担当者であるS及びT(以下、併せて「経理担当者」という。)は、Mから預かった取引金額等の記載のない納品書、請求書及び領収証(以下「白紙の領収証等」という。)を事務所に保管し、Mの指示によって取引金額等を記載していたこと等が認められるから、本件仕入取引における真実の取引先が本件各仕入先でなかったことは明白である。
 そうすると、本件仕入取引は、本件帳簿等に真実の記載がされていないから、消費税法第30条第8項及び第9項に規定する帳簿等への記載要件が満たされていないことになり、このことは、同条第7項に規定する仕入税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当する。
(ロ)これに対し、請求人は、〔1〕Mは本件各仕入先の代理人として業務を行っていたものであり、取引の最終的な決定等から証ひょう類の交付、金銭の収受までは当該各仕入先が行っていたこと、〔2〕現金取引の実態からすれば、請求人に仕入先の確認義務を負わせるのは過酷であること及び〔3〕請求人は、本件仕入取引がMと本件各仕入先のどちらの行為によるかについて関知する立場になかったこと等から見て、本件各仕入先が真実の取引先であり、仮にそうでないとしても、少なくとも取引の時点では、本件各仕入先を真実の取引先として扱わざるを得ず、また、そのように信じていたと主張する。
 しかしながら、上記(イ)で述べたところに加え、〔1〕Mは、本件各仕入先に関する取引の業務全般を取り仕切り、かつ、請求人と数年にわたって頻繁に多額の取引を行っていたこと、〔2〕請求人は、Mから白紙の領収証等を預かりMからの指示により記入していたこと及び〔3〕Mが、代表者と通謀して名義を決めた旨申述していること等を総合勘案すれば、本件各仕入先は本件仕入取引における真実の取引先でなかったと認められるべきことが明らかである上、請求人がMを本件各仕入先の単なる代理人として認識していたとは認め難く、むしろ、請求人は、本件各仕入先が実際の取引先か名義上のみの取引先かを明らかにしようともせず、通常の商取引ではあり得ない不自然な取引を続け、本件帳簿等の保存に際し、相当の注意を払うべきところを怠っていたといえる。
(ハ)以上のことから、請求人は、消費税法第30条に規定する帳簿及び請求書等を保存していなかったことが明らかであるから、本件仕入取引に係る仕入税額を課税標準に対する消費税額から控除することはできない。
 したがって、請求人の本件各課税期間の消費税等の税額は、別表3のとおりとなるから、この金額でされた本件各更正処分は適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 過少申告加算税の賦課決定については、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件各賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、原処分の全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
 請求人の営む卸売業は、マージン率がきわめて低く、安易に仕入税額の控除を否認すると、消費税そのものが中小企業破壊税となる可能性が大きいことから、厳密な事実認定と法解釈のもとに運用されるべきである。
 しかしながら、原処分庁は、以下のとおり、事実認定と法解釈を誤って本件各更正処分を行っている。
(イ)次に述べる本件仕入取引の経緯や実態等から見ると、本件各仕入先が真実の取引先であったことは明らかであるから、本件帳簿等は、消費税法第30条に規定する帳簿及び請求書等に該当する。
A 本件仕入取引は、いずれもMから持ち込まれたものであるが、請求人は、取引の時点では、本件各仕入先を真実の取引先であると判断して、取引を開始したものである。
(A)Gについては、Mから取引の話があった時、店舗の所在地がU店(以下「U店」という。)内であったことから、V部長が「そこは小売屋と違うのか。」とMに質問したところ、Mから「卸を一緒にやっていく。リベートを支払うことになっている。」との説明があったことから、取引が始まった。
(B)Hについては、代表者であるWが衣料品のブローカーであり、Mから「Wが結婚してアメリカに行くので、自分に任せると言われている。」との説明を受けたことから、取引を開始した。
(C)Kについては、Mから、同社の社員であるY(以下「Y」という。)が担当者であるとして紹介され、取引に及んだ。
(D)Lについては、代表者が韓国人であり、Mの仕入ルートが韓国ということもあって、当該代表者をMのパートナーであると判断した。
B また、本件仕入取引は、いわゆる現金取引といわれるものであって、請求人は、仕入先から商品が持ち込まれると、検品して納品書及び請求書等を受け取った後、代金を決済して領収証を収受している。
 このように、商品が確保されるのと同時に代金決済等の手続も行われている場合、請求書等の氏名等が真実であるか否かは、それほど重要な意味を持つものではなく、現金取引の実情から見ても、領収証の発行者の確認義務を納税者に負わせることは、極端なケースを除いて過酷であるし、営業担当者が本件各仕入先の担当者と名刺を交換していたのであるから、当該仕入先の実在を徹底的に追及することも、商取引の実態にそぐわない。
 なお、商品の納入時にMから納入先の氏名等の指定があることについては、Mの代理業務の範囲内であると認識していたし、請求人側がMから白紙の領収証等を預かり、商品の確認をしてから必要事項を当該領収証等へ記載するのは、業務の流れを円滑化するためであると考えていた。
(ロ)また、仮に本件各仕入先が真実の取引先でなかったとしても、上記(イ)におけるとほぼ同様の理由により、現金取引においては、請求書等に記載された氏名等を真実の取引先として取り扱わざるを得ないから、本件帳簿等の記載の真実性には問題がないといえるし、仮に、その真実性に問題があるとしても、請求人としては、本件各仕入先が真実の取引先と信じており、かつ、そのように信じることについて相当の理由があったといえるから、仕入税額の控除が認められるべきである。
(ハ)これに対して、原処分庁は、本件各仕入先の所在等が不明であり、かつ、本件仕入取引は、N社長とMとが「通謀して名義を決めた。」と認定し、本件仕入取引がMとの仮名取引であるとの結論を導き出している。
 確かに、N社長は、本件調査の当初において、Mから「自分との関係を税務署にいうのは堪忍してくれ。」と頼まれたため、本件仕入取引にMが関与していることを明らかにしておらず、その後、調査担当職員から「請求書等に記載された所在地で、取引先の確認ができなかったものがあった。」との指摘によって、MがGの仕入担当者と記載のある「仕入先一覧表」と題する書面が、請求人の顧問税理士であるXから提出され、N社長もまた、同職員の「他にもMがかかわっているものがあるのではないか。」という追及に対して、G以外の3件の取引についてもMが関与していた旨回答している。
 しかしながら、N社長は、上記(イ)のAのとおり、Mから共同経営者として本件各仕入先との取引をさせてほしいとの相談を受けて本件仕入取引を始めただけであるし、本件各仕入先の名義の使用その他の取引形態についても、Mの申し出に応じていたにすぎなかったのである。
 このような事情から見ても、請求人は、本件仕入取引がMか本件各仕入先のどちらの行為によるかということやM側でどのような会計処理がなされているかについて関知する立場にはないし、請求人側が仮名取引をするメリットもない。
(ニ)また、本件各仕入先の実態は、「GことM」、「HことM」、「KことM」及び「LことM」であったとも考えられるから、本件帳簿等の記載は、真実の取引先の実態を十分に示しており、その真実性には何ら問題がないというべきである。
(ホ)さらに、本件においては、真実の課税仕入れの存在が租税実体法上からも明確であり、また、手続面においても法定の要件を具備していることから、「権利としての仕入税額の控除」が当然認められるべきである。
 そして、仮に、課税庁の調査等によって、事業者が真実の取引先と認識していた相手が仮名であると判明したなら、課税の公平を保持する上で、当該課税庁が当該取引先に対して内容を確認することが必要であるところ、本件において、原処分庁は、本件各仕入先の氏名等が仮名であったことを確認しており、真実の取引先がMであることが明らかになっている。
 したがって、Mに適正な課税処分がされないならば、原処分庁がMの違法行為に加担したことになるし、適正な課税処分がされたのであれば、請求人の仕入税額の控除を否認することは、明確な二重課税となる。
(ヘ)以上のことから、本件仕入取引は、平成9年8月28日の東京地方裁判所判決(消費税更正処分取消請求事件)のように、取引開始時から仮名取引が明らかに存在していた場合とは事実関係が異なっているから、当該判決の趣旨から見ても、本件各更正処分は過剰な制裁というべきであり、到底容認できるものではない。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分は取り消されるべきであるから、本件各更正処分に基づく本件各賦課決定処分も取り消されるべきである。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、当審判所に対して、次の本件仕入取引に係る証拠を提出した。
A Hの担当者としての「営業f」及びLの担当者としての「g」という各氏名が記載された名刺。
B 本件証ひょう類のうち、G及びHの平成9年11月分、Kの平成11年3月分及びLの平成10年4月分の各納品書、請求書及び領収証。
(ロ)本件各仕入先の所在等の状況は、以下のとおりである。
A Gについて
(A)G名義の請求書等の所在地であるU店の管理課員は、調査担当職員に対して、次のとおり申述した。
a Gという名の業者は、請求人との取引期間とされる平成9年9月から同10年11月までの間において、U店4階に実在していない。
b U店への出店者は専用の領収証を使用しているが、Gの証ひょう類はU店のものとは異なる。
(B)U店で「h」という店舗を開いていたh株式会社(本店所在地はQ市q町○丁目○番○号○○ビル。)の代表者の妻で、同社の経理担当でもあるmは、調査担当職員に対して、次のとおり申述した。
a 当社は、U店2階において、Gの名称で小売店舗を出店していたが、平成6年9月に閉鎖した。
b 当社は、請求人と取引をした実績はなく、本件証ひょう類に押印されている印章等は、当社が使用しているものとは異なっている。
B Kについて
(A)調査担当職員は、Kが賃借していたP市s町○−○−○の事務所の賃貸人であるyに臨場し、次の事実を確認した。
a Kは、平成10年2月分からの家賃を滞納したまま、同年11月15日に退室している。
b Kは、その後倒産し、上記aの滞納家賃の請求及び連絡先は、P市内の弁護士事務所となっている。
(B)Kの代表者であるuは、調査担当職員に対して、次のとおり申述した。
a 当社は、平成10年11月に倒産したが、それまで請求人との取引は一切ない。
b 請求人が保存しているKの請求書等の写しは、当社が使用しているものとは異なる。
c Yは、当社の経理担当であったが、平成8年の前半ごろに退社している。
C Lについて
 Lは、本件証ひょう類に記載されている所在地に実在しておらず、その居所等が明らかでない。
(ハ)調査担当職員は、Mが経営する「Z」と称する事務所(所在地はP市n町○−○。以下「Z」という。)に臨場し、以下の事実を確認した。
A 本件証ひょう類に押印されているKのゴム印及び印章(以下「印章等」という。)は、同事務所に保管されていた。
B 同事務所の事務員であるwは、調査担当職員に対し、上記Aの印章等はKのYから預かった旨の申述をした。
C 同事務所において把握した商品の品番及び新旧の上代(小売価格)が記載されたファックス送信による一覧表(以下「本件価格一覧表」という。)は、発信先が「x」となっていた。
D Mは、調査担当職員に対して、次のとおり申述した。
(A)本件仕入取引は、N社長から私に商品の発注があり、私が商品を納入し、その代金を現金で受け取っていた。
 また、本件各仕入先名義の白紙の領収証等をN社長に預け、これらの名義の取引に係る代金が1千万円単位になれば、同社長から受け取っていた。
(B)G及びHは偽名義で、名義の使用に当たっては、N社長と相談していた。また、本件証ひょう類に押印されているHのゴム印は、私が作ったものである。
(C)Kは、Yとの共同で仕事をしていた時の屋号だが、Yが手を引いた後、同人が使用していた印章等を使って、私が商売をしていた。
(D)Lは、事業主が韓国籍の人であり、私が請求人との取引の窓口になっていた。
E Yは、調査担当職員に対して、次のとおり申述した。
(A)請求人との取引は、Kの代表者の指示により行っていた。
(B)Kを平成11年の前半に退職し、同社の印が不用となったので、Zに置いていた。
(ニ)請求人の経理担当者は、調査担当職員に対して、おおむね次のとおり申述した。
A Mから預かっていた書類は、H及びL名義の納品書、請求書及び領収証並びにG及びK名義の領収証である。
B 領収証は、主にSが記載していた。
C 仕入代金は、現金で主にMに渡していたが、時折、tという人物にも渡していた。
D KのYという人物は知らない。
(ホ)N社長は、当審判所に対して、次のとおり答述した。
A 前記(イ)のAのH及びLの名刺は、請求人の営業担当者が受け取ったものであり、名刺に記載のある者とは会ったことがない。
B 請求人の担当者が、本件各仕入先の所在地に赴くことはなかった。
C 白紙の領収証等は、経理担当者がMから直接預かって、金額等を記載していた。
D Mは、自身が本件各仕入先の代理人であるといったことはなく、同人が本件仕入取引の代理業務を行っていたことを証する書面等もないが、取引の流れからMを本件各仕入先の代理人と受けとめていた。
(ヘ)G、H及びLの納品書の「品名」欄に記載された番号は、本件価格一覧表に記載の商品番号と同一のものが見られる。
ロ 仕入税額の控除について
(イ)消費税法第30条第1項は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った仕入税額を控除する旨規定しているが、同条第7項は、事業者が当該課税期間の課税仕入れに係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合を除き、当該保存がない仕入税額については、同条第1項の規定を適用しない旨規定している。
 また、消費税法第30条第8項第1号及び第9項第1号は、同条第7項に規定する保存すべき帳簿及び請求書等の記載事項として、課税仕入れの相手方の氏名又は名称等を掲げている。
 このように、消費税法が、事業者に対し、課税仕入れに係る取引の内容のみならず、その相手方の氏名又は名称を帳簿及び請求書等に記載することを義務付けている趣旨は、法定の帳簿等によって仕入税額の信頼性、正確性が担保されない限り、その控除を認めないというのであるから、事業者においてその仕入れに係る法定の帳簿及び請求書等を保存させることにより、当該仕入取引が仕入税額の控除の対象となる課税仕入取引に係るものであることを立証させることにあると解されている。
(ロ)また、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項によれば、仕入税額の控除を受けようとする事業者は、上記(イ)にいう帳簿及び請求書等を整理し、当該帳簿についてはその閉鎖の属する課税期間の末日の翌日、当該請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならないと規定し、課税庁の課税権限が行使される最長の期間にわたって、法定の帳簿等の保存を要求している。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)の消費税法の趣旨に照らして考えると、消費者からの預り金的な性格を有する消費税は、特に正確な税額の把握が求められているところ、事業者において保存されている帳簿及び請求書等については、課税資産の譲渡等の内容等とともに真実の仕入先の氏名又は名称を記載することが要求されており、事業者がその要件を具備した帳簿及び請求書等を保存していない場合は、当該課税仕入に係る消費税額の控除は認められないと解される。
 そして、仮に事業者が、取引の相手方から交付された請求書等に記載されている氏名又は名称が真実の名義かどうか、社会通念上要求されるところの注意の範囲内で相当程度疑われるにもかかわらず、これを確認せず、漫然と請求書等を保存し、これに基づいて帳簿に記載したにとどまる場合は、いまだ「保存されている帳簿及び請求書等に、真実の仕入先の氏名又は名称が記載されている」という要件を満たしていないというべきである。
 しかし、その反面、たとえ帳簿及び請求書等に記載された取引先の氏名又は名称が虚偽の名義であっても、事業者がこれを真実と信ずべき相当な理由があり、そのため、当該帳簿等が消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿及び請求書等として保存されていると認められる場合、又は、やむを得ない事情により、同項の要件を満たす帳簿及び請求書等を保存することができなかったことを当該事業者が証明した場合は、取引先の氏名又は名称が真実でないことをもって、当該仕入税額の控除ができなくなるものではないということができる。
ハ これを本件について見ると、以下のとおりである。
(イ)本件仕入取引について
A 原処分庁は、本件各仕入先が実在しないか、あるいは実在していても請求人と取引の事実がなかったと認定しているが、その根拠とした前記のイの(ロ)の調査担当職員が確認した当該仕入先の所在等の状況については、関係者の証言等に基づいて詳細かつ具体的な内容となっていることから、信ぴょう性があると認められる。
 また、本件仕入取引は、〔1〕前記イの(ハ)のDのMの申述、〔2〕同(ニ)及び(ホ)のN社長及び経理担当者の答述等及び〔3〕同(ハ)のC及び(ヘ)の当該取引の商品番号が記載された本件価格一覧表が請求人からMへ発信されていた事実から見て、N社長がMに商品を発注し、それを受注したMが商品を納品した際、経理担当者がMに代金を支払うという流れで行われていたことが認められ、M以外の者が当該取引の当事者としてかかわっていたという事実は認められない。
B これについて、Mは、前記イの(ハ)のDのとおり、G及びHは虚偽の名義であることを認める申述をしている。そして、L名義の取引については、M自身が事業主である韓国籍の人物との窓口となっていたと述べるものの、同人は関与していた者の氏名や所在等を明らかにせず、取引の経緯や事実関係についても明確にしていないのであるから、M以外の者が当該取引に関与していたとは認められない。
C また、K名義の取引に関与していたとされるYは、Kの代表者の指示の下に請求人と取引していた旨申述しているが、同人がKの社員として請求人との取引に関与していたという事実は認められないし、仮に、Y個人が当該取引に何らかの関与があったとしても、前記イの(ロ)のBのKの現況及び同社の代表者の申述並びに同(ハ)のAのKの使用印章と異なる印章等がZの事務所に保管されていた事実を併せ考えると、YがKの名義を無断で借用し、Mが営む事業において当該名義の取引を行っていたものと推認することができる。
D そうすると、本件仕入取引はMが虚偽の名義を使用して行っていたものと認められるから、本件帳簿等に真実の取引先の氏名等が記載されているとはいえない。そして、このことは、消費税法第30条第7項に規定する「課税仕入れに係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当する。
(ロ)これに対し、請求人は、本件仕入取引が商品の確保と決済に伴う領収証の収受もされていること及び請求書等の氏名等が真実であるかどうかを追及することが現金取引の実態にそぐわないこと等を理由として、本件帳簿等に記載された氏名等を真実の取引先と取り扱わざるを得ず、あるいは、そのように信じざるを得ない旨主張し、本件各仕入先が真実の取引先であると信じていたことを裏付ける証拠として、H及びLの関係者の名刺並びに本件証ひょう類の写しの一部を提出した。
 しかしながら、前記イの(イ)のAの名刺に記載された氏名の担当者が実際に請求人からの受注や納品代金の受領に関わっていたという事実は認められないし、同Bの証ひょう類についても、請求人の経理担当者が作成していたのであるから、本件各仕入先が真実の取引先であると信じるに足る証拠とはいえない。
 そして、本件仕入取引は、名義のいかんを問わず、Mが商品を納品した際、白紙の領収証等に本件各仕入先の氏名等や金額などを記載した上、取引の名義人とは別人で、かつ、当該名義人の委任状等も持たないMに現金で支払うといったように、一般的な現金取引にもない形態で行われていたと認められ、このような場合、高額な仕入代金を現金で支払う請求人側から見れば、本件各仕入先の氏名等が真実の名義かどうか、社会通念上から見ても疑わしい状態にあったといえるところ、N社長をはじめ請求人の社員等は、当該仕入先の所在や業態、あるいは取引経路等をMに確認することなく、当該取引を継続して行っていたといわざるを得ない。
 そうすると、本件仕入取引において、請求人が本件各仕入先を真実の取引先であると取り扱わざるを得ない状況であったとか、そのように信じざるを得ない状況であったとはいえないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ハ)なお、請求人は、本件各仕入先が真実の取引先でなかったとしても、本件仕入取引がMの行為か本件各仕入先の行為かという点について関知する立場になかったし、請求人自身が仮名取引をしていたのではない旨主張する。
 確かに、N社長は、前記イの(ホ)のとおり、Mを本件各仕入先の代理人と受けとめていた旨申述しており、原処分関係資料によっても、請求人が仮名取引に加担をしていたとまで認めるに足る証拠は見当たらない。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、本件各仕入先が真実の取引先かどうか疑わしい状態であったにもかかわらず、その実態等が確認されることなく本件仕入取引が行われていたことは明らかであるから、請求人において、本件仕入取引に係る仕入税額の控除を認める理由等、すなわち、前記ロの(ハ)の後段に掲げる取引先の氏名又は名称を真実と信ずべき相当な理由、又は、真実の氏名又は名称を記載した帳簿及び請求書等を保存することができないやむを得ない事情があったとは認められない。
 したがって、虚偽の氏名等を使用した本件仕入取引への請求人の関与が否定されたとしても、そのことで当該取引に係る帳簿及び請求書等を法令の規定に従って保存していなかった請求人の責任を免れ得るものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)また、請求人は、本件仕入取引の相手先は「GことM」等といえるから、本件帳簿等は真実の取引先の実態を反映しており、その記載の真実性には問題がないといえるとも主張する。
 しかしながら、本件帳簿等には、本件仕入取引に係る取引先としてMの氏名が全く記載されておらず、その記載によって真実の取引先を特定することができないことは明らかであるから、当該取引についての記載に真実性が存在するとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)さらに、請求人は、本件においては真実の課税仕入れが存在するなどの事情があるから、「権利としての仕入税額の控除」が認められるべきであり、また、原処分庁が真実の取引先をMと判断したのであるから、本件仕入取引に係る仕入税額の控除が否認されるとともに、Mへの適正な課税処分がされたら、明確な二重課税となる旨主張する。
 しかしながら、本件仕入取引については、仕入れの事実そのものが否定されたのではなく、消費税法第30条第1項の課税仕入れには該当するといえるものの、上記(イ)ないし(ニ)の各事実認定の下で、当該取引に係る虚偽の氏名等の記載されている本件帳簿等が、同条第7項ないし第9項の規定による「仕入税額の控除に係る帳簿及び請求書等」に該当しないとされる結果、仕入先に対する課税の有無とはかかわりなく、仕入税額の控除が許されないこととなるのである。
 そうすると、請求人の主張する事情は、請求人の本件仕入取引に係る仕入税額の控除が認められないという上記判断を左右するものではない。
 したがって、この点に関する請求人は採用できない。
ニ 以上のとおり、請求人は、消費税等の税額計算において、本件仕入取引に係る仕入税額を控除することが認められないから、原処分庁が行った本件各更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法であり、また、当該各更正処分により納付すべき税額計算の基礎となった事実が更正処分前の税額計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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