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(平14.3.15裁決、裁決事例集No.63 703頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、銀行業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に滞納会社から譲渡された請負工事代金の支払請求権が、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》に規定する譲渡担保財産に該当するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、株式会社F(以下「滞納会社」という。)の次表の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、徴収法第62条《差押の手続及び効力発生時期》の規定に基づき、平成13年1月18日付で滞納会社が株式会社G(以下「G」という。)に対して有する建物解体工事代金の支払請求権6,825,000円(以下「本件債権」という。)について差押処分をした。

 次いで、原処分庁は請求人に対し、平成13年3月9日付で、徴収法第24条第2項及び第4項の規定に基づく告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。
ロ 請求人は、本件告知処分を不服として、平成13年3月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成13年6月5日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年6月29日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 滞納会社は、平成12年10月18日付で、債務者及び担保権設定者として、請求人に対し、売掛代金債権担保差入書(以下「本件債権担保差入書」という。)を提出しており、本件債権担保差入書には、「滞納会社は、請求人に対する現在及び将来負担する一切の債務の根担保として、本件債権を請求人に譲渡した」旨及び「滞納会社は、請求人において、本件債権取立の上は、滞納会社の債務の期限のいかんにかかわらず、ただちに債務の弁済に充当されても異議がない」旨記載されている。
ロ 滞納会社及び請求人は、平成12年10月18日付で、Gに対して、譲渡人を滞納会社、譲受人を請求人とする債権譲渡承諾依頼書(以下「本件債権譲渡承諾依頼書」という。)を作成し、本件債権のうち6,500,000円が同年10月10日に滞納会社から請求人に譲渡(以下「本件債権譲渡」という。)されたことの承諾を求め、本件債権譲渡について、Gから確定日付のある承諾を得た。
 なお、本件債権譲渡承諾依頼書には「滞納会社は、請求人に対して現在及び将来負担する一切の債務を担保するため、本件債権を請求人に譲渡した」旨が記載されている。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件債権譲渡の性質について
(イ)本件債権譲渡は、次のとおり、担保の目的でされたものではなく、弁済の一方法としてされたものである。
A 法律行為の解釈は、単なる文言のみによってされるものではなく、当該法律行為がされた背景事情、法律行為をした当事者の意思、当該法律行為の効果などを総合考慮してされるものであり、これは法律行為解釈の原則である。
 原処分庁は契約書の形式的文言のみにこだわっており、本件債権担保差入書でも「売掛代金債権担保差入書」と記載されているが、当該文書の約定の第1項では「貴行において、上記売掛代金債権取立のうえは、債務者の債務の期限のいかんにかかわらず、ただちに債務の弁済に充当されても異議ありません」と記載されており、債務者の期限のいかんにかかわらず弁済に充てること、すなわち担保でないことは明白である。
B 本件債権譲渡がなされた背景事情
(A)平成12年10月10日当時、滞納会社は17,363,000円の支払手形決済資金を必要にしており、これに対する請求人への滞納会社の当座預金残高は11,311,000円にすぎなかった。したがって、滞納会社は不足分である6,500,000円の支払手形決済資金の用意ができないと不渡りを出して倒産するおそれがあった。
(B)他方、平成12年10月10日当時、請求人の滞納会社に対する貸付残高は204,436,000円であり、これに対する債権保全(担保)は83,063,000円にすぎず、121,373,000円の保全不足が生じていたため、新規に貸付けを実行した場合、滞納会社の営業利益からの返済は期待できない状態であった。
(C)そこで、請求人は、融資実行日以降に滞納会社がGから受注することになっていた本件債権を引当(支払のために譲り受ける)として6,500,000円の融資実行(以下「本件貸付金」という。)を決定した。
 そのため、滞納会社は請求人に対し本件債権譲渡をし、Gは請求人に対し本件債権譲渡の承諾をした。
C 本件債権譲渡をした両当事者の意思及び本件債権譲渡の効果
 本件債権譲渡をした滞納会社としては、他に返済する財源があるわけではなく、請求人としても営業利益による返済などは期待できず、返済財源として本件債権を充てるというものであった。
 本件債権譲渡の結果、本件債権は請求人に移転し、請求人が本件債権を受領できることとなった。その結果、本件債権が受領されれば、その債権分弁済されたのと同じ効果が生じることとなったのである。
 もし、本件債権譲渡が貸付金に対する担保にすぎないものであれば、滞納会社が弁済期を過ぎても返済をしない場合、請求人が担保実行をするためには、銀行取引約定書所定の失期手続及び担保実行手続を行わなければならなくなり、他の貸付金の回収も行わなければならなくなる。これは、全く本件債権譲渡をした両当事者の意図するところではなかった。
 なお、原処分庁は担保実行手続が必要とは考えられない旨主張するが、担保である以上は担保実行手続が必要なのは当然であり、場合によっては清算手続も必要となるのである。
(ロ)原処分庁は第三者性を有すると主張するが、原処分庁は本件債権譲渡の契約を前提として、あるいはその契約を信頼して取引に入った第三者ではなく、取引の安全の観点から保護されるべき第三者でもない。第三者の概念に対する完全な誤解である。
(ハ)原処分庁は、本件債権譲渡が弁済のために行われたとするなら、請求人の滞納会社に対する債権は、本件債権譲渡が行われた時点で消滅するはずである旨主張する。
 しかしながら、本件債権譲渡は請求人の滞納会社に対する本件貸付金の支払のために行われたものであって支払に代えて行われたものではない。本件債権譲渡をした両当事者の意思が本件貸付金を消滅させて現実に入金があるかどうか不確定な工事代金債権に代えるというものではなかったことは明らかであって、本件債権担保差入書の約定の第1項の文言からも明らかである。
ロ 譲渡担保財産の範囲について
 徴収法第24条が設けられた趣旨及び同条が予定している国税の徴収方法から検討すると、同条にいう譲渡担保財産には、次のとおり、指名債権は含まれないと解釈すべきであり、その中でも特に本件債権のような譲渡時に請求権の内容が具体化していない指名債権は含まれないと解釈すべきである。
(イ)徴収法第24条は、譲渡担保法により担保された債権と国税の調整につき創設された規定である。同条が新設されたのは、国税の優先収益権を質権ないし抵当権との関係において、合理的に制限し、担保権者が予測できない国税の発生により、不当にその利益を侵害されることを防止することであった。さらに、譲渡担保は権利の移転による担保機能を持つものであるが、課税面においては権利の移転という法律的ないし形式的な面に着目せず、これが担保のための権利移転であるという経済的ないし実質的な面に着目して処理が行われていることから、課税の実質主義と徴収の形式主義を調整する目的もあった。そして、同条は、譲渡担保に対する租税の徴収方法として、物的納税責任という技術的な制度を導入して、譲渡担保財産に対して執行しようとした。すなわち、譲渡担保財産を処分し、その残余金が生じたときは、譲渡担保により担保された債権の額いかんを問わず、すべて担保権者に交付することとなっている。
(ロ)ところで、本件で譲渡されたものは指名債権である。占有を債務者の元に留めるために譲渡担保の設定を受ける動産ではない。また、競売法の制約を避けるために譲渡担保の設定を受ける不動産でもない。同じく債権であっても、権利が書面化され転々流通することが予定されている有価証券でもない。動産でもなく不動産でもないから課税の実質主義と徴収の形式主義の齟齬などという問題は発生しない。さらに、徴収法第24条が予定している国税の徴収方法は物的納税責任というものであり、物を換価処分することによって優先的に徴収しようというものであるが、指名債権に換価処分という概念は当てはまらない。そうすると、同条が予定している譲渡担保財産とは、動産又は不動産あるいはせいぜい有価証券までであって、指名債権は対象外であると考えるべきである。
(ハ)債務者の財産のうち物(動産又は不動産)については、融資する債権者は何らかの税金負担がありうるものであろうことを予測することが可能である。これに対して債権は、その存在も、移転も、外部から認識することは極めて困難である。特に、本件債権のように債権の具体的内容が将来的に発生するものである場合にまで債権者が税金の負担がある債権であることを予測することを要求することは非現実的であり、取引の安全を害するものである。
 さらに、指名債権譲渡の場合における債権譲渡と差押えとの対抗問題についての判例解釈では、その優劣はあくまで債権譲渡と差押えとの対抗要件の具備の先後によって決せられることになっている。しかし、指名債権をも徴収法第24条の対象とすれば、常に差押えが債権譲渡に優先することになり、上記判例理論と統一性を欠き、取引の安全を害することとなる。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件債権譲渡の性質について
(イ)本件債権譲渡承諾依頼書によれば、「滞納会社は、請求人に対して現在及び将来負担する一切の債務を担保するため本件債権を請求人に譲渡した」旨記載されていることから、本件債権は、担保の目的で滞納会社から請求人に譲渡されたことは明白である。
(ロ)請求人の法律行為の解釈に関する主張は、次のとおり、商取引特に銀行取引の特色を無視し、かつ、原処分庁が取引の当事者でない第三者であることも無視し、表示された意思とは無関係に、背景事情や表示されない当事者の内心的効果意思を持ち込んで、表示された意思とは別個の法律効果を導こうとするものである。
A 法律行為は、基本的に、当該法律行為に含まれる意思表示によって、意思表示の内容に従った法律効果を与えられるものであって、意思表示が明確である限りにおいて、他人には知り得ない背景事情や、表示されない当事者の意思等をしんしゃくして、法律行為の解釈をする必要はない。
B 民法第93条は、表意者が真意と異なることを知ってした意思表示については、表示のとおりの効果を生じるものとし、また、同法第94条では、当事者が通謀により虚偽の意思表示をした場合には、当事者間では無効であるが、善意の第三者には無効であることを対抗できないとしているなど、意思表示の効力については、基本的にいわゆる表示主義を採用していると考えられる。
C 前記A及びBのような意思表示の解釈の原則は、商人が、継続・反復して行う商取引行為においては、一層重視されなければならない。なぜならば、商人間の取引は、相互の経済的な信用に基づいて、迅速に決定され、決済されるもので、非商人間の一回的取引のように、相互の人的信頼関係に基づいて行われる取引とは、その本質を異にしているからである。そうすると、このような商人間の取引に認められる特色からすれば、商人間の意思表示は、簡潔かつ明確にされている限り、その真意を探求する必要はなく、表示に従った効力を認めることが、取引の安全・迅速に最も寄与すると考えられるのである。
 さらにいえば、とりわけ銀行にあっては、顧客との取引の多くは約款による取引であって、大量かつ定型的に行われる取引である。このような取引にあっては、なお一層、表示主義によることが、取引の安全、特に、当事者及び利害関係人にとっての予測可能性を確保する上で重要といわなければならない。
D 銀行の取引行為については、表示された意思を重視し、表示されない当事者の内心の効果意思を重視すべきでないとすることは、銀行による担保の取得行為の一部である本件債権担保差入書による意思表示や本件債権譲渡承諾依頼書による通知・承諾についても、これらが本件債権譲渡の契約内容を直接に反映したものである以上、全く同様に考えられるところである。すなわち、本件債権担保差入書による意思表示や本件債権譲渡承諾依頼書による通知・承諾に、仮に解釈を入れる余地があるとすれば、それは、当該意思表示や通知・承諾の文言があいまいで、一義的に確定しがたい部分があるときに、補充的に背景事情や、当事者の真意を探求することで、その意味を確定する必要がある場合に限られるというべきところ、これらの文書には、明確に「担保として」又は「担保するため」と表示されており、その部分に解釈を入れる余地はないというべきである。
E 加えて、原処分庁は、本件債権譲渡の当事者ではなく、当該取引の具体的事情については知ることのできない第三者である。したがって、前記Bの民法の心裡留保や通謀虚偽表示の規定からしても、当事者の表示した意思に基づいて行動すれば足り、当事者の表示されない内心の効果意思等によって、その法律上の立場を左右されてはならない地位にあるというべきである。
(ハ)債権譲渡は、通常、取立てのため、又は他の債権の担保のために行われるところ、請求人が主張するように本件債権譲渡が弁済のために行われたとするなら、請求人の滞納会社に対する債権は、本件債権譲渡が行なわれた時点で代物弁済により消滅するはずである。
 この点について請求人は、「本件債権の代金が受領されれば、その代金分弁済がなされたのと同じ効果が生じる」旨、また、「本件債権を引当として6,500,000円の融資を実行した」旨それぞれ主張しており、このことは、請求人が本件債権をGから取立て、請求人の滞納会社に対する債権に充当するまでは、当該債権は消滅しないものと判断され、本件債権の譲渡は、正に担保を目的として譲渡されたと考えられる。
 なお、請求人は、本件債権譲渡が担保であるならば失期手続及び担保実行手続を行わなければならなくなる旨主張するが、通常、債権の譲渡担保の場合、譲渡担保権の実行は、担保権者が第三債務者から金銭等を取立て、当該金銭等を被担保債権の弁済に充当するという方法で行われており、本件債権が担保であるからといって、特別な担保実行手続が必要とは考えられない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 譲渡担保財産の範囲について
(イ)徴収法第24条に規定する譲渡担保財産とは、納税者がその所有する財産を債権者又は第三者に譲渡し、その譲渡により、自己又は第三者の債務の担保の目的となっている財産とされており、動産、有価証券、債権、不動産、無体財産権等譲渡できるもの(手形を除く。)は、すべて譲渡担保の目的物とすることができ、担保目的で譲渡された指名債権も当然、同条の譲渡担保財産に該当する。
 なお、徴収法第24条の物的納税責任とは、納税者の財産で、その者の国税の納期限等の後に譲渡担保財産となっているものについて、納税者の財産に滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、その譲渡担保財産から納税者の国税を徴収する(譲渡担保財産に限定して納税責任を負う。)というものであり、この譲渡担保財産には前記のとおり債権も含まれている。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)債権者は、債務者に私債権に優先する国税債権が存在することを納税証明書を徴取することにより予測できるので、これによって、不動産、動産、債権等財産の種類に関係なく債務者の財産に国税債権に優先する担保の設定が可能となるので、取引の安全を害することはない。
 また、徴収法第24条の適用があるのは、国税の法定納期限等以後に対抗要件を備えた譲渡担保財産がある場合に限られており、指名債権が同条の対象になるとしても、常に差押えが債権譲渡に優先するものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件の争点は、本件債権が徴収法第24条に規定する譲渡担保財産に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 請求人が当審判所に提出した資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が保存する貸出稟議承認通知書によれば、請求人は、実行予定日を平成12年10月10日、返済期日を同年11月2日、返済方法を期日一括払いとする滞納者に対する6,500,000円の手形貸付すなわち本件貸付金を承認している。また、同通知書には、返済財源として「売掛金6,500,000円」及び「10月18日までに債権譲渡契約のこと」と記載されている。
ロ 請求人が保存する貸出稟議意見書(短期資金用)によれば、本件貸付金について滞納会社が担保不足のため本件債権に係る6,500,000円を引き当てる旨記載されている。

(2)本件債権譲渡の性質について

イ 請求人は、法律行為の解釈は単なる文言のみによってされるものではなく、当該法律行為がされた経緯、法律行為をした当事者の意思、当該法律行為の効果などを総合考慮してされるものである旨主張する。
 確かに、意思表示の解釈に当たって意思表示をした当事者の主観的な意味などを探求することはあるが、それは意思の表示が多義的ではあるが、表意者と相手方とが同じ意味に理解しているのであれば、両当事者に関しては、意思表示の内容は当事者の了解の内容によるほかないからである。
 これに対し、意思表示が一義的であり、しかも意思の表示に関し、表意者と相手方以外の者の利害がかかわる場合には、当事者の意思表示が一義的に合致していること、表示された意思どおりの効果が発生するとの第三者の信頼を保護すべきことに照らし、表示された意思に基づいて意思表示を解釈し、表示どおりの効果を認めるべきであると解される。
 とりわけ、反復継続かつ大量迅速に行われる銀行取引においては、表示された意思に従った定型的な処理が要求されているといえる。
 これを本件についてみると、前記1の(3)のイ及びロのとおり、本件債権担保差入書には、「滞納会社は、請求人に対する現在及び将来負担する一切の債務の根担保として、本件債権を請求人に譲渡した」旨、また、本件債権譲渡承諾依頼書においても、「滞納会社が請求人に対して、現在及び将来負担する一切の債務を担保するため、本件債権を請求人に譲渡した」旨記載されており、一義的に担保である旨の意思表示がされているとともに、本件債権譲渡は、定型的な処理が要求される銀行取引の一環として行われていることが認められる。さらに、本件では、第三者である原処分庁は本件債権を差し押さえて利害関係を有している。
 したがって、本件では、表示された意思に基づいて本件債権譲渡を解釈すべきところ、本件債権譲渡の当事者は「担保するため」、「担保として」譲渡したと表示しているから、本件債権譲渡は滞納会社の請求人に対する債務の担保設定として行われたものと認めるのが相当である。
ロ 請求人は、本件債権担保差入書の約定の第1項にある「貴行において、本件売掛金代金債権取立のうえは、債務者の債務の期限のいかんにかかわらず、ただちに債務の弁済に充当されても異議ありません」との文言を、担保でないことの裏付けである旨主張するが、この文言は、譲渡担保の実行方法を定めたにすぎないと解されるので、この文言をもって、本件債権譲渡が滞納会社の請求人に対する債務の弁済として行われたということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3)譲渡担保財産の範囲について

 請求人は、徴収法第24条に規定する譲渡担保財産には指名債権、特に本件債権のような譲渡時に請求権の内容が具体化していない指名債権は含まれない旨主張する。
イ ところで、徴収法第24条は「その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの」を譲渡担保財産と規定し、国税徴収法基本通達第24条関係1では、「徴収法第24条の譲渡担保財産とは、納税者がその所有する財産を債権者又は第三者に譲渡し、その譲渡により、自己又は第三者の債務の担保の目的となっている財産をいう(昭和5年10月8日大審院判決参照)。なお、動産、有価証券、債権、不動産、無体財産権等のほか、法律上まだ権利と認められていないものであっても、譲渡できるもの(手形を除く。国税徴収法附則第5条第4項)は、すべて譲渡担保の目的物とすることができる」旨定めている。
 上記通達によれば、担保目的で譲渡された指名債権は譲渡担保財産に該当することとなるが、指名債権は、一定の財産価値を有し、また譲渡性もあることに照らせば、指名債権を譲渡担保財産から除外する理由はないことから、当審判所においてもこの取扱いは相当と認められる。
ロ なお、請求人は、徴収法第24条が予定している国税の徴収方法は物的納税責任であり、物的納税責任とは物を換価処分することによって優先的に徴収しようというものであり、指名債権に換価処分という概念は当てはまらないから、指名債権は同条の譲渡担保財産には該当しない旨主張する。
 しかしながら、徴収法第24条の物的納税責任とは、執行面においては譲渡担保財産が譲渡担保権者の所有であることを認め、譲渡担保設定者である納税者の国税を徴収する場合には、納税者の財産に滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保権者を第二次納税義務者に準じるものと考え、滞納国税に係る法定納期限等の後に譲渡された譲渡担保財産に限定して執行するというものであり、指名債権を除外するものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ また、請求人は、債権は、債務者の税金の負担の存在及び権利の移転を外部から認識することは極めて困難であり、特に、本件債権のように債権の具体的内容が将来的に発生するものにまで債権者が税金の負担がある債権であることの予測を要求することは非現実的である旨主張する。
 しかしながら、前記(1)のとおり、請求人が既に担保不足に陥っていた滞納会社に本件貸付金の融資を実行できたのは、本件債権がそれに見合う財産的価値のある担保と評価できたからである。そのように財産的価値のある本件債権であるならば、国税の差押えがされることも当然あり得ることであり、本件債権譲渡の時点で、本件債権が具体化していなかったとしても、税金の負担のある債権であることの予測を請求人に要求することが非現実的であったとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ さらに、請求人は、指名債権譲渡の場合における債権譲渡と差押えとの対抗問題について、判例解釈ではその優劣は債権譲渡と差押えの対抗要件の具備の先後によって決せられるが、指名債権を徴収法第24条の対象とすれば、常に差押えが債権譲渡に優先することとなり、判例解釈と統一性を欠き、取引の安全を害することとなる旨主張する。
 しかしながら、徴収法第24条の規定が適用されるのは、同条第6項により、国税の法定納期限等以後に対抗要件を備えた譲渡担保財産がある場合に限られており、指名債権が同条の対象となるとしても、常に差押えが債権譲渡に優先するものではなく、このことは請求人である銀行も当然熟知していなければならないのであるから、別段取引の安全を害することはないと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件債権を徴収法第24条の譲渡担保財産としてされた本件告知処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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