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(平15.11.7裁決、裁決事例集No.66 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が法人税の確定申告書の提出を運送事業者の行う宅配便(以下「宅配便」という。)により提出した場合、国税通則法(平成14年法律第100号改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第22条《郵送に係る納税申告書の提出時期》に規定する納税申告書が郵便により提出された場合に該当するものとして当該申告書を期限内申告書として取り扱うべきか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に所得金額を○○○○円及び納付すべき税額25,716,800円と記載して、A税務署に対して宅配便により平成14年7月2日に提出した。
ロ A税務署長は、これに対して、本件確定申告書は法定申告期限後に提出されたものであるとして、平成14年12月24日付で、本件確定申告書に係る無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成15年1月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月18日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年5月19日に審査請求をした。
ホ なお、請求人は、平成15年1月28日に、本店所在地をP市Q町○番○号(A税務署管内)から肩書地に移転(移転日を平成15年1月14日)した登記を行った。

(3)関係法令

イ 民法第97条第1項は、隔地者に対する意思表示はその通知の相手方に到達した時よりその効力を生じる旨規定している。
ロ 通則法第22条は、納税申告書が郵便により提出された場合には、その郵便物の通信日付印により表示された日(その表示がないとき、又はその表示が明瞭でないときは、その郵便物について通常要する郵送日数を基準とした場合にその日に相当するものと認められる日)にその提出がされたものとみなす旨規定している。
ハ 通則法第66条《無申告加算税》第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き、無申告加算税を課する旨規定している。
 また、同条第3項は、無申告加算税の額については、期限後申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、A税務署長から法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》の規定による1月の申告期限の延長の承認を得ており、本件確定申告書の法定申告期限は、通則法第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項により、平成14年6月30日となるが当日が日曜日であることからその翌日の平成14年7月1日である。
ロ 請求人は、請求人の事務部門の所在するR市S町○○番地から、本件確定申告書を宅配便により平成14年7月1日にA税務署長あてに発送し、A税務署長は本件確定申告書を同月2日に収受した。

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2 主張

(1)請求人

 本件賦課決定処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 宅配便は、引取時間や配達時間が正確で、多くの企業で文書の発送手段として利用されており、請求人も税務申告にこれを用いてきたが、税務当局より宅配便が不適当な配達手段であるとの指摘を受けたことがない。また、宅配便での本件確定申告書の発送はその正確性から郵便による発送に相当するから、通則法第22条の規定により宅配便の発送日を本件確定申告書の提出日とみなすべきである。
ロ また、通則法第22条は、通信日付印のない場合は通常要する送付日数を基準とした場合にその日に相当する日に提出があったものとみなすと規定しているところ、本件確定申告書は、平成14年7月2日にA税務署が収受しているのであるから、通常要する送付日数1日を考慮し、法定申告期限である同年7月1日に提出されたとみなすべきである。
ハ したがって、本件確定申告書は上記イ及びロのとおり、法定申告期限内に提出された期限内申告書であるから、通則法第66条の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は違法である。

(2)原処分庁

 本件賦課決定処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 納税申告書の提出日を判定する一般基準については、税法上特別な規定はないが、その書類が税務官庁に到達したとき(いわゆる到達主義)に効力が生じると解されるところ(民法第97条第1項)、通則法第22条は、納税申告書が郵送で提出された場合には、郵便物の通信日付印により表示された日に提出があったものとみなす旨規定している。
ロ 本件確定申告書は本件宅配便により平成14年7月1日に発送されているが、宅配便による書類の提出は通則法第22条の「郵送で提出された場合」に該当しないから、本件確定申告書の提出日はA税務署に到達した同年7月2日となる。
ハ したがって、本件確定申告書は法定申告期限の平成14年7月1日を徒過して申告されたので期限後申告書となる。
ニ また、通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、法定申告期限内に申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き無申告加算税を課する旨規定している。
 そして、ここでいう「正当な理由」とは、法定申告期限内に申告書の提出がなかったことについて納税者に責められる事由がなく、無申告加算税を課すことが納税者にとって不当又は酷となるような真にやむを得ない事情をいうものと解される。
 この点について、本件確定申告書は郵便ではなく宅配便で発送されており、そのことが、請求人が主張するように宅配便であっても郵便と同様に通則法第22条が適用されるべきであると信じていたことによることであるとしても、A税務署への本件確定申告書の到達が法定申告期限後になったことについて正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
 また、本件確定申告書は、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知して提出されたものではないので、通則法第66条第1項及び第3項に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件は、納税申告書を宅配便により提出した場合にも、通則法第22条の規定が適用されるか否かについて争いがあるので、以下審理する。

(1)本件賦課決定処分

イ 納税者から税務署に提出された書類は、原則として上記1の(3)のイのとおり民法第97条第1項により、税務署に到達したとき(いわゆる到達主義)にその効力を生じると解されるところ、納税申告書が郵便により提出された場合においては、郵便事情等を考慮し、また、納税者と関係税務官庁との地理的間隔の差異に基づく公平を是正するために、到達主義の例外として、上記1の(3)のロの通則法第22条のとおり、郵便物の通信日付印により表示された日(郵便物の通信日付印の表示がないときは、その郵便物について通常要する郵送日数を基準とした場合にその日に相当するものと認められる日)に納税申告書の提出あったものとみなす旨規定している。
ロ 請求人は、納税申告書が宅配便により提出された場合も郵便により提出された場合と同様に通則法第22条の規定が適用されるべきである旨主張する。
(イ)しかしながら、上記イのとおり、通則法第22条で規定する「郵便」とは、信書及びその他の物をあて先に送達する事業であり、この郵便事業は、郵便法(平成14年法律第98号改正前のものをいい、以下同じ。)第2条において、郵便は国の行う事業とされ、また、同5条には、何人も郵便業務を業とし、また、国の行う郵便の業務を除いて郵便業務に従事してはならないとされていることから、運送事業者の宅配便が郵便でないことは明らかである。
(ロ)請求人は、上記1の(4)のロのとおり、平成14年7月1日に本件確定申告書を郵便ではなく宅配便によりA税務署長あてに発送し、A税務署長は平成14年7月2日に本件確定申告書を受理している。
 そうすると、本件確定申告書の提出について通則法第22条の規定の適用はなく、A税務署長がこれを受理した平成14年7月2日に提出されたと認められるのであるから、本件確定申告書は、法定申告期限を経過して提出された期限後申告書となる。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ハ ところで、上記1の(3)のハのとおり、期限後申告書の提出があった場合には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き、無申告加算税を課する旨規定している。
 この無申告加算税は、申告納税制度を維持するためには納税者により期限内に適正な申告がなされることが不可欠であることにかんがみて、申告書が期限内に提出されなかった場合の行政上の制裁として、申告書が法定申告期限後に提出されたという客観的事実のみにより課されるものであるから、正当な理由があると認められる場合とは、無申告加算税を課することが納税者にとって不当又は酷となる特殊な事情、例えば、災害、交通や通信の途絶等納税者の責めに帰することのできない外的事情など、法定申告期限内に申告書を提出することを不可能にする真にやむを得ない理由がある場合をいうと解するのが相当である。
ニ これに対して、請求人は、税務当局から宅配便による納税申告書の送付が不適当な配達手段であるとの指摘を受けたことがない旨主張する。
 しかしながら、通則法は郵送に係る納税申告書の提出の時期について、規定しているものであり、その提出手段や方法までも規定しているものではないから、請求人の主張には理由がない。
 また、単に請求人は、法定申告期限の日に本件確定申告書の提出を宅配便に依頼したものであり、その到達は法定申告期限の翌日となったのであって、これらについて上記ハに記載した真にやむを得ない理由は認められない。
 したがって、本件の場合は、通則法第66条第1項に規定する期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合には該当しない。
ホ 以上のとおり、本件確定申告書は法定申告期限を経過して提出された期限後申告書であり、本件確定申告書が法定申告期限内に提出されなかったことについては正当な理由も認められず、また、本件確定申告書の提出が決定を予知してされたものでないと認められることから、通則法第66条第1項及び第3項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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