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(平15.12.16裁決、裁決事例集No.66 49頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、ゲーム機器用ソフトウェアの動作確認等の請負業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)の従業員が行った売上除外の行為について、請求人が国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装した場合に当たるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年8月1日から平成12年7月31日まで及び平成12年8月1日から平成13年7月31日までの各事業年度(以下、順次「平成12年7月期」及び「平成13年7月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、平成11年8月1日から平成12年7月31日まで及び平成12年8月1日から平成13年7月31日までの各課税期間(以下、順次「平成12年7月課税期間」及び「平成13年7月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ハ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」という。)を受け、本件各事業年度の法人税について、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書及び本件各課税期間の消費税等について、別表2の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下、これらの各修正申告書を併せて「本件各修正申告書」という。)をいずれも平成14年7月8日に提出した。
ニ 原処分庁は、これに対し、平成14年7月9日付で本件各事業年度の法人税について、別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの重加算税の賦課決定処分及び本件各課税期間の消費税等について、別表2の「賦課決定処分」欄のとおりの重加算税の賦課決定処分(以下、これらの賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、これらの処分を不服として、平成14年9月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月3日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年12月27日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成6年1月20日に有限会社Kとして設立され、平成9年10月22日に株式会社への組織変更を行い、現在に至っている。
 また、請求人の代表取締役は、会長であるLと社長であるMの2名である。
ロ 請求人は、本件各事業年度当時、P市p町○○番地に本店及びスタジオ(以下「本社」という。)、Q市q町○番○号にスタジオ(以下「Q市スタジオ」という。)並びにR市r町○番○号に営業所(以下「R市営業所」という。)を有していた。なお、R市営業所については、平成14年に閉鎖されている。
 また、本件各事業年度当時、LはR市営業所の所長であり、またMは営業担当としてQ市スタジオに常駐していた。
ハ 請求人の従業員であるNは、平成9年10月1日にアルバイトとして入社後、平成10年4月1日に正社員となり、総務担当の業務に当たっていた。その後、平成10年12月に経理の担当者の退職に伴い、総務及び経理の業務の全般を担当することとなり、経理部のマネージャーとなったが、平成14年6月15日に退職した。
 なお、平成14年1月現在の「K株式会社組織図」によれば、請求人の経理部の職制は、会長及び社長の下にマネージャーとして正社員のNが掲げられており、Nの下にはアルバイト2名が配置されている。
ニ Nは、請求人の売上先である株式会社S(以下「S社」という。)及び株式会社T(以下「T社」という。)から支払われた売上代金のうち両社が振り出した手形の一部をいずれもU信用金庫○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件預金口座」という。)で取り立て着服し、その事実の発覚を免れるため、S社及びT社に係る売上金額及び売掛金の入金額の一部を隠ぺいし、それぞれ過少に計上した。
 なお、Nが着服した金額は、別表3のとおり24,693,520円であるが、平成14年4月中にその全額が請求人に弁償されている。
ホ 本件各事業年度における請求人の決算書に計上されていない売上げの金額(以下「売上未計上額」という。)は、別表4のとおり、平成12年7月期が6,082,140円、平成13年7月期が10,471,811円であり、その合計金額は16,553,951円である。

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2 主張

(1)原処分庁

 本件各賦課決定処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件調査及び異議申立てに係る調査において、次の事実が認められる。
(イ)Nは、総務事務のほかに経理事務について、本社及びQ市スタジオを総括し、その業務の全般を担当しており、具体的には次の業務を行っていること。
A 現金管理
B 売上げに係る請求書の作成及び発送
C 売掛金の管理及び受取手形の取立て
D 外注費に係る精算書の作成及び外注費の支払
E 領収証の発行
F 資金繰り表の作成
G 給与計算及び給与の支払
H 会計伝票の作成
I 物品購入の承認
 なお、3万円以上の物品購入をする場合にはLの決裁が必要であるが、急を要する場合については、Nの承認が得られればLの決裁は事後とすることができること。
(ロ)Nは、次の印鑑(以下「本件各印鑑」という。)及び請求人の預金通帳の管理を任されていること。
A 会長用の代表者印
B 社長用の代表者印
C 請求人の銀行印
D 請求書用の印鑑
E 社会保険事務所用の印鑑
(ハ)請求人の総勘定元帳及び決算書は、Nが作成した会計伝票に基づき作成されていること。
(ニ)Nは、平成11年12月1日に本件預金口座を開設したが、本件預金口座は請求人の決算書に計上がないこと。
(ホ)本件預金口座で取り立てられた手形は、S社及びT社から支払われた売上代金の一部であり、本件各事業年度の売上未計上額は、別表4のとおりであること。
(ヘ)Lは、本件調査を担当した職員(以下「本件調査担当職員」という。)に対し、要旨次のとおり申述していること。
A 経理については、Nにほとんどを任せている。
B 自分は、R市に居住しており、Mも営業担当としてQ市にいるため、本件各印鑑及び預金通帳の管理は、Nに任せている。
(ト)Nは、本件調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述していること。
A 平成10年12月に経理の担当者が退職したため、総務及び経理の業務の全般を担当することとなった。
B L及びMから本件各印鑑の使用を任されていることから、自分が押印を行った上で手形の取立てをしている。
C 銀行借入れのとき及び大きな契約のときはLに了解を得るが、それ以外に本件各印鑑を使用することは自分に任されている。
(チ)Nは、上記(イ)ないし(ト)のとおり、請求人の主要な業務をL及びMから任されていること及び請求人の売上げに係る手形を本件預金口座で取り立てていることが認められる。
ロ 通則法第68条第1項の趣旨は、加算税を課すべき過少申告行為が課税要件事実の隠ぺい、仮装という手段で行われた場合に、違反者に行政上の制裁として重加算税を賦課することにより、申告納税制度の適正円滑な運営を図ろうとする法技術上の制度であるから、納税者において仮装、隠ぺいした事実に基づき申告するという認識を要さず、結果として過少申告の事実があれば足りるものと解されている。
ハ したがって、上記イのとおり、売上代金の入金の一部である手形が決算書に計上がない本件預金口座で取り立てられており、〔1〕取立ての行為者であるNは重要な経理帳簿の作成を任されており、〔2〕Nが作成した経理帳簿等に基づき作成された総勘定元帳及び決算書に基づいて申告され、〔3〕NはL及びMから請求人の本件各印鑑及び通帳の管理を任されていたものであるから、仮にNが請求人の売上金を着服したとしても、経理帳簿等に虚偽の記載が存在している以上、Nが取締役等でなく一般の従業員で、かつ、その動機が税の負担を軽減する目的であるか否かにかかわらず、請求人が仮装、隠ぺいの事実に基づいて申告したこととなる。
ニ 上記ハで述べたとおり、請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する「その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
ホ そして、本件各賦課決定処分は、本件各事業年度の法人税の修正申告により増加した納付すべき税額を基に通則法第68条第1項の規定に従い正しく計算されており、また、本件各課税期間の消費税等の修正申告により増加した納付すべき税額を基に通則法第68条第1項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に従い正しく計算されていることから、いずれも適法である。

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(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、本件各賦課決定処分の全部を取り消すべきである。
イ 重加算税の賦課決定は、通則法第68条第1項において「納税者がその国税の課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事項の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する」旨規定されていること及び上記納税者については、同法第2条《定義》第5号において「国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者及び源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者をいう」旨規定されていることからすれば、これらの条文を法の趣旨にのっとり解釈すると、「納税者が隠ぺい又は仮装行為をした場合には、当該納税者に対して重加算税が賦課される」こととなる。すなわち、納税者が法人である場合、〔1〕当該法人の取締役会で仮装隠ぺい行為を決定したとき、〔2〕代表者が、自ら仮装隠ぺい行為を実行したとき、〔3〕あるいは、代表者自らが従業員に指図して仮装隠ぺい行為を実行したときが、この重加算税の適用事例に該当する。したがって、従業員の個人的な行為によって結果として請求人に申告漏れが生じたにすぎない場合に、請求人に重加算税を課すことは法の条理に反し、違法、不当である。
ロ そして、請求人が売上げの一部を帳簿及び決算書に計上しなかった原因は、次のとおり従業員であるNの個人的な行為であって、請求人の行為ではないことから、請求人に重加算税を課すことは違法、不当である。
(イ)Nは、請求人に無断で本件預金口座を開設し、売上代金として回収した手形を本件預金口座で取り立て、その取り立てた金員を前夫の借金の返済に充てるなど、単独で請求人の金員を着服したものであるが、Nの行った着服は個人的な行為であり、会社ぐるみのものではない。
(ロ)また、Nは、LあるいはMと特別な関係のある者ではなく、利害関係の同一集団に属している者ではないのであって、ましてや請求人の取締役及び実質的な経営の主宰者でもない単なる一般の従業員である。従業員が自己の利益のために着服した金員の発覚を防ぐために売上げを除外した行為については、それほど権限を有していない従業員の場合には納税者本人の行為と同一視すべきでない。
(ハ)Nは、請求人の正社員となって間もないことから、経理業務全般を担当すること自体不可能であり、経理部のマネージャーとして経理事務を管理する義務を与えたのであって、権限を与えたものではない。同人は、請求人の経理担当者にすぎず、経理責任者ではない。
 また、マネージャーという職制は、何人かでグループを作り、その中で取りまとめをする役であり、会社全体を取り仕切るというような特別な役職ではない。したがって、Nは、請求人の特別な地位にいた者ではなく、給与の額も他の従業員と比べて決して高くはない。
(ニ)請求人は、本件預金口座を除く請求人の預金口座の通帳の管理をNに任せていたが、本件預金口座は、Nが個人の金員で開設した個人の預金であって、請求人の預金ではないことから請求人の決算書に計上すべきものではない。
ハ なお、Nが個人的に請求人の金員を着服し始めたのは本件預金口座を開設した平成11年12月以降であるから、平成11年8月ないし同年11月の間の売上未計上額の合計額1,940,625円は、単純な売上計上誤りである。

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3 判断

 本件審査請求の主な争点は、請求人の従業員が行った売上除外の行為が、請求人の行為と同一視できるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件各賦課決定処分

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)経理部のマネージャーであるNは、主として現金出納帳の記載及び小口現金の管理、売上げに係る請求書の作成及び発送、売掛金の管理、外注費の精算書の作成及び支払、領収書の作成、給与の計算及び支払、会計伝票の作成、小口物品の購入承認等広範な経理業務に従事していたが、売上げに係る請求書の作成等及び売掛金の管理に係る業務については、次のとおりである。
A 請求人の従業員が行った日々の作業データを電子計算機に入力した上で、当該データを基に売上げに係る請求書を作成し、売上先に送付していた。
B 売上先からの入金管理のほか、受け取った手形を銀行で取り立てる業務を行っていた。
C Nは、売掛金の管理に当たり、表題を「売掛残高一覧表」とするデータを請求人の電子計算機で作成していたが、本件調査において、当該データの出力帳票を破棄していたことが認められたため、本件調査担当職員の求めに応じて平成10年7月分ないし平成13年8月分を再度出力し、提出している。
 また、当該帳票には、それぞれの売上先の月ごとの売掛金について、「前月末残高」、「当月回収額」、「当月掛売上額」及び「当月末残高」が記載されているが、S社及びT社に係る各「当月掛売上額」は、真実の売上金額が記載されている。
(ロ) 請求人は、NがS社及びT社に係る売上げ及び売掛金の入金の一部を隠ぺいし、それらの売上げ及び売掛金の入金を過少に計上した経理帳簿を基に本件各事業年度の法人税及び本件各課税期間の消費税等の申告書を作成し、確定申告をしていた。
(ハ) 請求人が提出した法人税及び消費税等の確定申告書には、次のとおり記載されている。
A 平成10年8月1日から平成11年7月31日までの事業年度及び平成12年7月期に係る法人税の確定申告書別表一の「経理責任者自署押印」欄は、それぞれNが記名、押印している。
B 平成10年8月1日から平成11年7月31日までの課税期間及び平成12年7月課税期間に係る消費税等の確定申告書の「経理責任者自署押印」欄は、それぞれNが記名、押印している。
(ニ)Nは、本件各印鑑以外にL、Mの私印をも管理していた。
(ホ)Nは、本件調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
A 本件各印鑑を使用できる者は、従業員の中では私以外の者はいない。
B 私は、平成11年12月1日に本件預金口座を請求人名義で開設し、会社の売上代金である受取手形を本件預金口座で取り立てた。
C 本件預金口座で取り立てた売上代金については、請求人の売上げには計上されていない。
D 本件預金口座で取り立てた売上代金の使途については、平成11年12月当時、私が離婚した元夫の借金の保証人になっていたことから、その借金の取立てが厳しくなり、その元夫の借金の返済等に充てていた。
(ヘ)Lは、平成14年4月5日付で本件調査に対する代表取締役としての所感を記載した書面を原処分庁あてに提出しているが、当該書面には、要旨次のとおり記載されている。
A Nの行った着服に関して、私が関与していないのは当然であるが、その着服自体を知る由もなかった。
B 請求人の場合、平成7年頃からデバッグ事業という新しい分野に進出し、他に類のない分野ということで試行錯誤しながら利益を伸ばしている状況にあって、しかもQ市に進出して間もない状況にあったことから仕事の比重がどうしてもQ市に移ることとなり、私自身は多忙のため本社に常時出社しているわけではなかった。その結果、Nに印鑑、通帳などを預け、必要なときに使用させるなど同人を信用して経理事務を任せていたが、それに対する裏切り行為はまことに腹立たしく思っている。
(ト)本件調査担当職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A Nは、売上げについてはすべて電子計算機に入力し、取引先別に「売掛残高一覧表」を作成していたが、会長であるL及び社長であるMはNを信用しており、「売掛残高一覧表」のチェックをしていなかった。
B Nは、会長及び社長から本件各印鑑の管理を任されており、銀行借入れ及び大きな金額の契約以外はその使用を任されていた。また、その業務は、〔1〕現金管理、〔2〕売上販売管理、〔3〕請求書の発行、〔4〕給与計算、〔5〕銀行への振込み、〔6〕手形の取立て、〔7〕現金出納帳の記帳及び〔8〕人事関係の電話の対応書類の作成等であり、Nは、経理及び総務の中心人物であった。
C Nは、本件各事業年度当時、上記現金出納帳のほかに、請求人の経理帳簿等である、〔1〕仕訳日記帳、〔2〕月次補助明細一覧表、〔3〕月次合計残高試算表、〔4〕売掛帳、〔5〕売掛残高一覧表、〔6〕得意先売上月報(月別、得意先別総売上額の管理表)、〔7〕請求明細書、〔8〕得意先入金照合表、〔9〕資金繰り表、〔10〕領収証、〔11〕振込一覧表及〔12〕給与振込明細表等を作成していた。
ロ ところで、通則法第68条第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
 この重加算税制度の趣旨は、納税者が過少申告をすることについて、隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な納税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、上記制度の趣旨からすれば、重加算税は納税者本人の刑事責任を追及するものではないのであって、納税者本人の行為に問題を限定すべき合理的理由はないと解されている。かえって、納税者本人の行為に問題を限定しなければならないとすると、従業者が経済活動又は所得申告等に関与し、隠ぺい又は仮装を行った場合には、納税者の故意を立証することは容易ではなく、発覚したときも従業者自身は重加算税を課されることはないから、納税者が従業者の行為に隠れて不当な利得を図るおそれがあることとなり、重加算税の制度はその機能を十分発揮し得ない結果に陥ることになると解されているからである。
ハ そして、隠ぺい又は仮装行為については、その行為者は納税者たる法人の代表者に限定されるものでなく、法人の代表者がその事実を知らなかったとしても、役員や従業員等で経営に参画していると認められる者及び納税者の申告行為に重要な関係のある相当な権限を有する地位に就いている者が事実を隠ぺいし又は仮装し、かつ、代表者がそれに基づき過少申告した場合は、当該法人の代表者が納税申告をするに当たり、隠ぺい又は仮装行為を知っていたか否かに左右されることなく、当該法人の行為と同一視されると解される。
ニ 本件について、請求人の従業員が行った売上除外の行為が、請求人の行為と同一視できるか否かを上記ロ及びハに照らし判断すると、次のとおりである。
 請求人は、重加算税が賦課される場合の隠ぺい又は仮装は、納税者が法人である場合、〔1〕当該法人の取締役会で仮装隠ぺい行為を決定したとき、〔2〕代表者が、自ら仮装隠ぺい行為を実行したとき、〔3〕あるいは、代表者自らが従業員に指図して仮装隠ぺい行為を実行したときなど納税者が隠ぺい仮装をした場合に限られる旨主張し、従業員の個人的な行為によって結果として請求人に申告漏れが生じたにすぎない場合に、請求人に重加算税を賦課することは法の条理に反し、違法、不当である旨主張する。
 しかしながら、上記ロ及びハのとおり、隠ぺい又は仮装行為については、その行為者は法人の代表者に限定されるものではなく、法人の代表者の知らない間に従業員によって行われた場合であっても、その従業員が納税者の申告行為に重要な関係のある相当な権限を有する地位に就いている場合には、法人自身が当該行為を行ったものとして重加算税を賦課できるものというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 次に、上記1の(3)の基礎事実及び上記イの認定事実を上記ロないしニに照らし判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、請求人が売上げの一部を帳簿及び決算書に計上しなかった原因は、従業員であるNの個人的な行為であって、請求人の行為ではないことから、請求人に重加算税を課すことは違法、不当である旨主張する。
(ロ)しかしながら、請求人は、上記イの(ヘ)のとおり、本件各事業年度当時、デバッグ事業という新しい分野に進出し、業績を伸ばしている大きな転換期にあって、L及びMの仕事の比重がQ市に移らざるを得なくなったため、経理部のマネージャーであるNに経理業務を任せきりになり、請求人の印鑑、通帳などをも預けて必要なときにこれらを使わせていたことが認められる。一方、上記1の(3)のハ並びに上記イの(イ)及び(ト)のとおり、経理部のマネージャーとして請求人の経理業務を任され、広範な経理業務に従事していたNは、売上げ及び売掛金については、「売掛残高一覧表」に真実の売上げを記載していたにもかかわらず、上記1の(3)のニ及び上記イの(ホ)のとおり、売上代金として受け取った手形の一部を本件預金口座で取り立て着服する一方で、S社及びT社に係る売上げ及び売掛金の入金の各金額を過少に記載し、経理帳簿を仮装していたことが認められる。
(ハ)そして、Nは、上記イの(ニ)のとおり、本件各印鑑や預金通帳だけでなく、L及びMの私印についても預けられるなど、その信頼は厚かったのであり、上記(ロ)のとおり請求人の経理業務全般について任された上、決算や確定申告に関わる経理帳簿等の作成等に従事するとともに、上記イの(ハ)のとおり、請求人の法人税及び消費税等の確定申告書の「経理責任者自署押印」欄に自分の氏名を記名、押印し、これを提出していることからすると、請求人の申告行為に重要な関係のある相当な権限を有する地位に就いている従業員であると認められる。
(ニ)そうすると、Nは、請求人の申告行為に重要な関係のある相当な権限を有する地位に就いている従業員であり、同人の行為は請求人の行為と同一視すべきであるといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ なお、請求人は、Nが個人的に請求人の金員を着服し始めたのは本件預金口座を開設した平成11年12月以降であるから、平成11年8月ないし同年11月の間の売上未計上額1,940,625円は、単純な売上計上誤りである旨主張する。
 しかしながら、当審判所が原処分関係資料に基づいて調査した結果によれば、請求人が主張する上記売上未計上額1,940,625円のうち、本件預金口座で初めて取り立てられ、Nが着服した手形1,812,332円は、平成11年8月分のT社に対する売上代金の一部であるにもかかわらずNが除外した売上金であり、またS社に対する売上げについても、Nが売上金を着服するために除外したものであると認められることからすれば、上記売上未計上額1,940,625円は、単純な売上計上誤りであるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 以上のことから、Nの行為は、請求人の行為と同一視され、請求人は、売上除外という虚偽の記載が存在する経理帳簿等に基づき作成された総勘定元帳及び決算書類等を基に確定申告していることから、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
 また、本件各修正申告書は、通則法第19条《修正申告》の規定に基づいて提出された有効な申告書であり、本件各修正申告書の提出は、同法第65条第5項に規定する更正があるべきことを予知してされたものでないときには当たらない。
 したがって、通則法第68条第1項の規定に基づいて行われた本件各事業年度の法人税の重加算税の各賦課決定処分並びに通則法第68条第1項の規定及び地方税法附則第9条の9第1項の規定に基づいて行われた本件各課税期間の消費税等の重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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