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(平15.11.25裁決、裁決事例集No.66 69頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、内科医院を営む審査請求人(以下「請求人」という。)から記帳及び決算書類の作成等を委託されていた者等が行った、仕入れ等の架空計上に基づく過少申告について、請求人に国税通則法第68条第1項に規定する重加算税を課すことができるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成15年4月15日請求)に至る経緯等は、別表1のとおりである(なお、異議決定を経た後の請求人に対する重加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)。

(3)基礎事実

(請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても認められる事実)
 別紙「争点整理表」の2「争いのない事実」のとおりである。

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2 争点

 請求人から振替伝票、総勘定元帳及び試算表の作成など請求人の医院経営に係る帳簿(以下「本件税務関係帳簿」という。)の作成等を委託されていたD税理士(以下「D税理士」という。)やCが行った仕入れ等の架空計上に基づく過少申告について、請求人に重加算税を課すことができるか否かにある。

3 争点に対する当事者双方の主張

(1)請求人

 本件賦課決定処分は、別紙「争点整理表」の4の「争点に対する当事者双方の主張」の「審査請求人」欄のとおりの理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。

(2)原処分庁

 本件賦課決定処分は、別紙「争点整理表」の4「争点に対する当事者双方の主張」の「原処分庁」欄のとおりの理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。

4 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料等及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ Cは、平成11年分の総勘定元帳に、別表2ないし別表5の「差引差額」欄の取引又は支払の実体がない金額を架空に計上(以下「本件架空計上」という。)している。
ロ Cは、原処分に係る調査を担当する職員(以下「本件調査担当職員」という。)に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ)昭和50年ごろ、ある人から、青色申告にしようと考えていた請求人を紹介され、平成12年末まで、請求人の本件税務関係帳簿の作成等を請け負い、記帳代行料として、手取りで月額80,000円、年額960,000円を受領していた。
(ロ)毎月請求人の経営する医院に行き、請求人の妻が記帳している現金出納帳、預金通帳の写し及び仕入等の支払関係の請求書等を借用し、自宅で本件税務関係帳簿の作成等を行っていた。
(ハ)所得税の確定申告時期になると決算を行い、合計残高試算表を作成して総勘定元帳と一緒にP市Q町○○番地のD税理士に見てもらい、了解が得られたら確定申告書及び青色決算書を作成してもらっていた。
 そして、D税理士に作成してもらった確定申告書及び青色決算書を請求人に見せ了解を得て、請求人の署名押印をしてもらった上で、Cが原処分庁に提出していた。
(ニ)平成11年分の所得税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)の作成に当たり、請求人からCに「今年は前年より診療収入が増えているが、経費の金額で何とかならないか。前の年のような税金は払えない。」との話があったので、経費が前年どおりなら納める税金が多くなるので、経費で巧くやって税金を少なくなるようにしてほしいとの意味であると理解し、仕入、検査料及び賃借料の各勘定科目に根拠のないことを承知の上で、取引又は支払事実のない経費を期末に計上した。
(ホ)請求人に対し、本件架空計上の具体的な説明はしていないが、請求人は、Cが持参した本件申告書の所得金額を見て「まだ、こんなものか」と述べ、本件申告書に署名押印した。
(ヘ)本件架空計上について、D税理士に相談や報告はしていない。
(ト)請求人は、帳面のことはC及び妻に任せているが、診療収入についてはよく承知しており、診療収入額を前年と比較することによりその年の納税額を概算で見積もることができるから、平成11年分は診療収入が増加したため納税額が増えると判断し、上記(ニ)の話をCにしたものと思う。
 なお、平成9年分及び平成10年分の診療収入は、前年より減少していたため、上記のような話は、請求人からなかったので、経費の架空計上等の事実はない。
ハ 平成8年分ないし平成11年分の請求人の所得税の確定申告内容は、別表6のとおりである。
(2)ところで、国税通則法第68条第1項は、第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代え、重加算税を課す旨規定している。
(3)そこで、上記1の(3)の基礎事実及び上記(1)の認定事実を上記(2)に照らして判断すると、次のとおりである。
 請求人の申告について架空計上が行われたのは平成11年分だけであるところ、Cは、請求人の医院経営に係る帳簿の記帳を行っていたものの、実際の現金及び預貯金の出し入れには一切関与しておらず、本件架空計上による利益はもっぱら請求人が受けうるものであって、Cには何らのメリットもないこと、別表6のとおり、請求人の収入金額は、平成8年分以降平成9年分、平成10年分と年々減少していたが、平成11年分は一転して増額に転じ、平成10年分よりも7,803,218円増額していること、Cは本件調査担当職員に対し、請求人から「今年は前年より診療収入が増えているが、経費の金額で何とかならないか」などと言われ、本件架空計上を行った旨申述しているが、Cの申述は、上記(1)のロのとおり、具体的な内容を持つものであり、他の事実から検証しても真実性の高いものであるといえることからすると、Cは、請求人の指示又は依頼に基づき、本件架空計上を行ったものと認めることができる。
 したがって、本件架空計上は、請求人に本件架空計上を発見する知識があるか否か及びCの行為を請求人の行為と同一視できるか否かを問うまでもなく、請求人がCに指示又は依頼して本件架空計上を行ったものであるから、請求人が国税通則法第68条第1項に規定する「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装した」ということができる。
 そして、本件賦課決定処分は、同項の規定に従って正しく計算されているので適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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