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(平15.10.24裁決、裁決事例集No.66 134頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、年金受給者である審査請求人(以下「請求人」という。)に対して支払われたD社厚生年金基金(以下「本件基金」という。)の解散に伴う残余財産の分配金(以下「本件分配金」という。)に関して、本件分配金には請求人が本件基金から受給する加算年金(以下「本件加算年金」という。)のうち、既に受給した加算年金を除き、将来支給を受ける加算年金の額(以下「本件加算年金受給残額」という。)が含まれ、本件加算年金受給残額が、所得税法第30条《退職所得》第1項に規定する退職所得若しくは同法第34条《一時所得》第1項に規定する一時所得のいずれに当たるかを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年分の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、平成14年4月25日に総所得金額及び納付すべき税額を別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成14年6月28日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成14年7月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月17日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件通知処分に不服があるとして、平成14年11月11日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第30条第1項は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第31条《退職手当等とみなす一時金》は、次に掲げる一時金は、この法律の適用については、所得税法第30条第1項に規定する退職手当等(以下「退職手当等」という。)とみなす旨規定し、同法第31条第2号は厚生年金保険法第9章(厚生年金基金及び厚生年金基金連合会)の規定に基づいて支払われる一時金で、同法第122条《加入員》に規定する加入員の退職に基因して支払われるものと規定している。
ハ 所得税基本通達(平成14年11月22日付課個2−22ほかによる改正前のもの。以下同じ。)31−1《厚生年金基金等から支払われる一時金》の(1)は、所得税法第31条第2号に規定する「加入員の退職に基因して支払われるもの」には、厚生年金保険法第9章の規定に基づいて支払われる一時金のうち、厚生年金基金規約に基づいて支給される年金の受給資格者に対し当該年金に代えて支払われる一時金のうち、退職の日以後当該年金の受給開始日までの間に支払われる一時金(年金の受給開始日後に支払われる一時金のうち、将来の年金給付の総額に代えて支払われるものを含む。)が含まれる旨定めている。
ニ 所得税法第34条第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成3年9月30日に、満年齢57歳でD社を退職した。
ロ 請求人は、D社を退職するに当たり平成3年9月30日付の「退職一時金計算書」の交付を受けた上で退職一時金9,642,400円を受け取った。
 なお、上記計算書には、別表2のとおり、「退職一時金の計算式」として、〔1〕退職給与金の額は14,669,000円であること、〔2〕加算年金の額は5,026,600円であり、退職給与金の額から控除すること及び〔3〕退職一時金の額は9,642,400円であること並びに〔1〕退職給与金の金額は、請求人の退職金総額であること、〔2〕加算年金の金額は、拠出加算年金現価相当額で、本件基金がD社に代わって請求人に支給する金額(以下「本件拠出加算年金現価相当額」という。)であること及び〔3〕退職一時金の金額は、退職一時金として支給する金額である旨が記載されている。
ハ 本件加算年金については、請求人が満年齢60歳の年金裁定請求時にその現価相当額を一時金で受け取るか、あるいは年金として受け取るかの選択ができたが、請求人は、年金として受け取ることを選択した。
ニ 請求人は、満年齢60歳を迎えた平成6年10月分から本件基金の解散前である平成12年7月分までの本件加算年金を本件基金から受給しており、本件加算年金の受給は、平成6年12月1日を第1回とし、平成12年8月1日まで毎年6回、隔月ごとに行われている。
ホ 本件基金は、平成12年9月29日に解散した。
ヘ 本件基金の清算人であるE名による表題を「基金の解散に伴う清算(残余財産の分配)について」とする文書が平成13年1月31日付で本件基金の加入員あてに送付されており、同文書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)本件基金の清算後の残余財産は、最終確定した金額ではないが、本件基金全体で約3,656,135,653円である。
(ロ)上記本件基金の清算後の残余財産の金額を基準とした請求人の本件分配金の額は、9,404,250円である。
(ハ)本件分配金については、本件基金の規約に基づき「一時金で受け取る方法」か「本件基金が厚生年金基金連合会に移管し、将来(又は現在)の年金に加算して受け取る方法」のいずれかを選択することを加入員に求めており、その選択の期限は、平成13年2月14日とされている。
(ニ)上記(ハ)の期限である平成13年2月14日までに受取方法の選択の申出のない場合には、本件分配金については「本件基金が厚生年金基金連合会に移管し、将来(又は現在)の年金に加算して受け取る方法」を選択したものとみなす。
ト 請求人は、本件分配金を全額一時金で受け取る方法を選択した。
チ 請求人は、本件基金の支払代行者であるF銀行から本件分配金の全額9,404,250円を平成13年4月25日に受領した。
リ F銀行から請求人に対して表題を「支払調書のご送付について(ご案内)」とする文書及び支払調書の写しが平成13年1月に送付され、それぞれ要旨次のとおり記載されている。
(イ)「支払調書のご送付について(ご案内)」
 本件分配金は一時所得に該当し、一時所得の金額(支払調書の保険金額等の金額)から50万円を控除(支払調書の既払込保険料等に記入がある場合には、同金額も控除)した金額の2分の1が課税対象となり、他の所得と合わせて所得税の確定申告が必要となるため、この調書も確定申告書と一緒に税務署に提出してください。
(ロ)「平成13年分生命保険契約等の一時金の支払調書」の写し

〔1〕保険金額等9,404,250円
〔2〕差引支払保険金額等9,404,250円
〔3〕既払込保険料等0円
〔4〕保険事故等退職以外の一時金
〔5〕保険等の種類厚生年金基金
〔6〕保険事故等の発生年月日 平成12年9月29日
〔7〕保険金等の支払年月日平成13年4月25日

ヌ 請求人は、平成13年分の所得税の確定申告書に一時所得に係る総収入金額として本件分配金の額9,404,250円と記載し、一時所得の特別控除額500,000円を控除した残額8,904,250円が一時所得に係る所得金額であり、一時所得の所得金額8,904,250円の2分の1に相当する金額4,452,125円を総所得金額に加算して申告した。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件加算年金受給残額は、次の理由から退職所得には当たらず、本件分配金の全額が一時所得である。
(イ)所得税法第30条第1項の規定によれば、「退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう」とされ、同法第31条第2号においては、「厚生年金保険法第9章の規定に基づく一時金で同法第122条に規定する加入員の退職に基因して支払われるもの」を所得税法第30条第1項の退職手当等とみなす旨規定している。すなわち、退職手当等とは、退職したことに基因して一時に支払われるものをいうこととなる。
(ロ)また、所得税基本通達31−1の(1)では、「厚生年金基金規約に基づいて支給される年金の受給資格者に対し当該年金に代えて支払われる一時金のうち、退職の日以後当該年金の受給開始日までの間に支払われるもの(年金の受給開始日後に支払われる一時金のうち、将来の年金給付の総額に代えて支払われるものを含む。)」については、所得税法第31条第2号に規定する「加入員の退職に基因して支払われるもの」に該当すると定めている。
(ハ)しかしながら、本件分配金は、厚生年金基金連合会に移管した責任準備金相当額を除いたすべての残余財産を原資として計算されており、上記(ロ)の一時金における加算年金のみを原資とする場合とは明らかに計算の基礎となる資産の範囲が異なっているので、上記(ロ)と同様に扱うことはできず、本件分配金を退職手当等とみなす一時金とすることはできない。
(ニ)また、本件分配金は、本件基金の解散という偶発的事由を発生原因とする一時金であり、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないことから、所得税法第34条に規定する一時所得に該当する。
ロ したがって、本件分配金はその全額が一時所得となり、更正の請求に対する本件通知処分は適法である。

(2)請求人

 本件通知処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 請求人は、本件基金の解散に伴い、本件分配金を〔1〕一時金で受け取る方法か、〔2〕本件基金が厚生年金基金連合会に移管し、将来の年金で受け取る方法のいずれかの選択を迫られたことから、原処分庁所属の担当職員に相談したところ全額退職所得に当たる旨の説明を受け、一時金で受け取る方法を選択した。
ロ その後、平成13年分の所得税の確定申告に際し、原処分庁所属の担当職員から本件分配金が全額一時所得である旨の訂正があり、それに従って本件分配金の全額を一時所得の総収入金額として法定申告期限までに申告した。
ハ しかしながら、本件基金の解散に伴う残余財産の分配である本件分配金には、退職金の一部であり、本件基金に据え置いて積み立てた本件拠出加算年金現価相当額が含まれ、本件基金の原資は、それぞれの退職者の退職金とその運用益によって成り立っている。また本件加算年金受給残額は、請求人が受給する本件加算年金のうち既に受給した加算年金を除いた、将来支給を受ける加算年金の額であって、本件基金の解散という偶発的事由に基づくものではなく、請求人の退職に基因して支払われた一時金に当たり退職所得である。
 したがって、本件加算年金受給残額は、一時所得とされる本件分配金の額から控除すべきであって、控除すべき額は、請求人が満年齢60歳から15年を経過する前に1回に限り選択一時金として本件加算年金受給残額の支給を受けることができることからすれば、厚生年金証書に記載されている加算年金の額(以下「本件加算年金年額」という。)675,500円を12で除し、本件加算年金の支給期間である15年間の月数180か月から既に受給した平成6年10月から平成12年7月までの間の月数70か月を控除した月数110か月を乗じた額6,192,083円と正確に計算される。同額は、退職所得の額として一時所得の額から控除すべきである。
ニ したがって、上記ハのとおり、正確に計算される本件加算年金受給残額は退職所得であるにもかかわらず、本件分配金の全額が一時所得であるとして更正の請求を認めないとする本件通知処分は違法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件加算年金受給残額が退職所得若しくは一時所得のいずれに当たるかにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 厚生年金基金制度の概要
(イ)厚生年金基金制度においては、厚生年金基金の設立事業所に勤務している者は厚生年金の被保険者であると同時に厚生年金基金の加入員となり、厚生年金基金は、加入員及び基金の設立事業所の事業主からそれぞれ厚生年金の保険料として掛金を徴収し、納付することとされているが、政府の管掌する厚生年金保険のうち老齢厚生年金の一部については厚生年金基金が年金及び一時金の給付(以下「代行部分の給付」という。)を行うことで、国に納付することとされている保険料の一部についての納付が免除され、当該免除された保険料を基金が運用し、基金の設立事業所のそれぞれの実情に応じた独自の上乗せ給付(以下「上乗せ部分の給付」という。)を行うことができるとする制度である。
 また、厚生年金基金の行う代行部分の給付は、一時金で給付をすることができるものとされている加入員の死亡による給付(死亡一時金)又は短期間での脱退による給付(脱退一時金)を除き、年金給付を原則とし、上乗せ部分の給付については、年金受給者が老齢に達したこと等を理由として、年金給付に代えて一時金による給付(選択一時金)を選択できる制度とすることも認められている。
(ロ)厚生年金基金が解散した場合、厚生年金基金連合会は、厚生年金基金から責任準備金の納付を受けて代行部分の給付義務を引き継ぐこととなり、上乗せ部分の給付については、年金給付を選択した者に係る残余財産の交付を受け、当該交付金を原資とした上乗せ部分の給付として年金又は死亡一時金及びその他の一時金を支給することとなるが、残余財産の分配金を一時金で受け取ることを選択した者については残余財産の交付がないことから上乗せ部分の給付はなくなることとなる。
ロ D社厚生年金基金規約(以下「本件基金規約」という。)(平成10年4月1日改訂版)は、要旨別表3のとおり定められている。
ハ また、本件基金規約第100条第2項の残余財産の分配に関して、平成12年9月28日付で厚生大臣(現、厚生労働大臣をいう。)の変更の認可を受け、次の各号に定めるところにより、残余財産の額に応じて個々に算定する旨及び同条第3項を削除し、第4項及び第5項をそれぞれ第3項及び第4項とした上で平成12年8月21日から適用する旨の改正(以下「改正後の本件基金規約」という。)が行われた。
(イ)残余財産の額が、年金受給者及び受給待期脱退者(以下「年金受給権者等」という。)に係る上乗せ部分の最低積立基準額相当額を下回る場合(第1号)
A 年金受給権者等については、残余財産の額に、各々の年金受給権者等の上乗せ部分の最低積立基準額相当額をすべての年金受給権者等に係る上乗せ部分の最低積立金基準額相当額の総額で除した率を乗じた額
B 加入員については、零
(ロ)残余財産の額が、解散日において年金受給権者等に係る上乗せ部分の最低積立基準額相当額を上回り、かつすべての受給権者等に係る上乗せ部分の最低積立基準額相当額を下回る場合(第2号)
A 年金受給権者等については、上乗せ部分の最低積立基準額相当額
B 加入員については、残余財産の額から年金受給権者等に係る上乗せ部分の最低積立基準額相当額の総額を控除した額に、各々の加入員の上乗せ部分の最低積立基準額相当額をすべての加入員に係る上乗せ部分の最低積立基準額相当額の総額で除した率を乗じた額
(ハ)残余財産の額が、上乗せ部分の最低積立基準額相当額を上回る場合(第3号)
 残余財産の額に、各々の受給権者等の上乗せ部分の最低積立基準額相当額をすべての受給権者等に係る上乗せ部分の最低積立基準額相当額の総額で除した率を乗じた額
ニ 本件基金の支払代行者であるF銀行年金信託部は、当審判所の照会に対して、本件基金の解散に伴う残余財産の分配金の計算基礎及び算出方法については、改正後の本件基金規約第100条第2項第2号の定めに従い、年金受給権者等については、上乗せ部分の最低積立基準額相当額を基に算出したものである旨回答している。
ホ 退職一時金計算書に記載された本件拠出加算年金現価相当額は、本件基金規約第51条に定める加算年金額のうち、D社が拠出した加算年金額(以下「拠出加算年金年額」という。)に本件基金規約附則(以下「附則」という。)第12条に定める別表に基づく率を乗じて得た額であり、拠出加算年金年額は、最終加算給与月額に、〔1〕加算適用加入員期間及び退職事由に応じた率並びに〔2〕加算適用加入員期間に応じた率を合算した率を乗じ、〔3〕さらに退職時の年齢に応じた率を乗じて得た額である。
(2)所得税法第31条に規定する退職手当等とみなす一時金については、昭和62年9月25日法律第96号により従来給与等とみなされていた年金が雑所得(公的年金等)と改正されたことに伴い、要旨次のとおり改正が行われた。
イ 年金と一時金又は退職一時金は制度上一体の関係にあり、公的年金等に対する課税の全面的な見直しに伴い、退職所得とみなす一時金の範囲について整備が行われた。
ロ すなわち、厚生年金基金制度をはじめとするいわゆる企業年金等の制度においては、退職の事実がなく引き続き勤務している者であっても、例えば厚生年金基金の解散の場合には一時金の支払が行われることとなるが、このような一時金についてまで退職所得として取り扱うことは適当でないと考えられるところから、「厚生年金基金から受ける一時金について、その加入員の退職に基因して支払われるものを退職所得とする」旨の措置が講じられた。
(3)本件について、上記1の(4)の基礎事実及び上記(1)の認定事実を上記1の(3)の関係法令等及び上記(2)に照らして判断すると、次のとおりである。
イ 請求人は、本件基金の解散に伴う本件分配金には、退職給与金の受領額の一部を本件基金に据え置いて積み立てた本件拠出加算年金現価相当額が含まれ、本件加算年金年額に基づいて算定される本件加算年金受給残額は、請求人が将来支給を受ける加算年金の額であって、本件基金の解散という偶発的事由に基づくものではなく、請求人の退職に基因して支払われた一時金に当たるものであるから一時所得ではなく、退職所得に該当すると主張する。
ロ ところで、上記1の(3)のイのとおり、所得税法第30条第1項は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定し、退職所得の発生の基因となる退職手当等は、一般に、過去長期間にわたる勤労の対価の後払いの給与という性格を持つとともに、退職後の生活の原資に充てられるものであるという特性を有するものと解される。
 また、厚生年金保険法第9章の規定に基づいて支払われる一時金で、同法第122条に規定する加入員の退職に基因して支払われるものは、勤務先以外の者から支給されるものであるとしても実体としては退職手当等と同様の特性を有するものと認められることから、上記1の(3)のロのとおり、所得税法第31条において退職手当等とみなす旨規定している。
ハ さらに、上記1の(3)のハのとおり、所得税基本通達31−1の(1)は、厚生年金基金規約に基づいて支給される年金の受給資格者に対し当該年金に代えて支払われる一時金のうち、退職の日以後当該年金の受給開始日までの間に支払われる一時金(年金の受給開始後に支払われる一時金のうち、将来の年金給付の総額に代えて支払われるものを含む。)が所得税法第31条第2号に規定する「加入員の退職に基因して支払われるもの」に該当する旨定めている。
 そして、厚生年金基金規約に基づいて支給される年金の受給資格者に対し当該年金に代えて支払われる一時金のうち、年金支払開始日以前に支払われるもの(年金の受給開始後に支払われる一時金のうち、将来の年金給付の総額に代えて支払われるものを含む。)については、その受給者に退職という事実があり、当該一時金については本来の退職一時金とその実質においては同様と認められることから退職手当等とするものであり、上記通達の定めは相当であると認められる。
ニ そこで、本件分配金が請求人の退職に基因して支払われたものとして、所得税法第31条の規定により退職手当等とみなされる一時金であるといえるかどうかについて検討する。
(イ)厚生年金基金の解散の場合に支払われる一時金については、〔1〕基金の解散に基因して支払われるものであること及び〔2〕既に退職した者についてだけでなく、退職の事実がなく引き続き勤務している者であっても支払われるものであり、当該一時金の支払が退職という事実と関係なく行われることからすれば、「退職に基因して支払われるもの」でないというべきである。
(ロ)また、本件分配金の算定方法をみてみると、以下のとおり、本件分配金の額は、厚生年金基金連合会に移管される基本年金部分としての最低積立基準額相当額に基づいた残余財産の額に応じて算定されているのに対し、請求人の主張する本件加算年金受給残額は、加入員期間の最終加算給与月額を基に算定されている点で、両者の算定方法は全く異なっており、両者の間に関連性がないことが認められるのであって、この点からも本件分配金が本来の退職一時金とその実質において同様のものであるとは認められない。
A すなわち、本件分配金は、本件基金の解散(平成12年9月29日)に伴う残余財産の分配によるものであるが、本件基金の残余財産の分配については、上記(1)のハ及びニのとおり、〔1〕改正後の本件基金規約第100条第1項の定めに従い、〔2〕残余財産の額に応じて、〔3〕同条第2項の定めによる「解散日において算定した各受給権者等に係る最低基準額相当額」に基づき算定されている。その具体的算定方法は、〔1〕同条第2項第2号に定める「残余財産の額が、解散日において年金受給権者等に係る上乗せ部分の最低積立金基準額相当額を上回り、かつすべての受給権者等に係る上乗せ部分の最低積立金基準額相当額を下回る場合」に当たり、〔2〕年金受給権者等については、上乗せ部分の最低積立基準額相当額に応じて算定されたものである。
B 一方、請求人が主張する本件加算年金受給残額は本件加算年金年額を12で除し、本件加算年金の支給期間15年から既に本件加算年金を受給した期間を控除した残存期間の月数を乗じて算定されたものであるが、本件加算年金年額は、本件基金規約第51条の定めに従って、最終加算給与月額に、加算適用加入員期間及び加入員拠出期間に基づき、〔1〕加算適用加入員期間及び退職事由に応じた率、〔2〕加算適用加入員期間に応じた率及び〔3〕加入員拠出期間に応じた率を合算した率を乗じ、〔4〕さらに退職時の年齢に応じた率を乗じて得た額であり、附則第12条の定める選択一時金についても、上記のように算出された本件加算年金年額に、同条に定める別表に基づき本件加算年金の支給残存期間に応じた率を乗じて得た額である。
 他方、退職一時金計算書に記載された本件拠出加算年金現価相当額は、上記(1)のホのとおり、本件基金規約第51条に定める加算年金額のうち、拠出加算年金年額に附則第12条の定める別表に定める率を乗じて得た額であるが、拠出加算年金年額は、最終加算給与月額に、〔1〕加算適用加入員期間及び退職事由に応じた率並びに〔2〕加算適用加入員期間に応じた率を合算した率を乗じ、〔3〕さらに退職時の年齢に応じた率を乗じて得た額である。
 したがって、本件拠出加算年金現価相当額、附則第12条に定める選択一時金の額だけでなく、請求人の主張する本件加算年金受給残額についても最終加算給与月額に所定の各率を乗じて算定された本件基金規約第51条に定める加算年金額を基に算定されていることとなり、その算定の基礎とされる加算給与月額の範囲は、本件基金規約第46条第2項に定める「D社の給与規定第10条に定める基本給」である。
(ハ)そして、退職所得とされる一時金は、将来の年金給付の総額に代えて支払われるものの現価相当額、すなわち将来支給を受ける年金総額の前払いとしての支払であるのに対し、本件分配金は、上乗せ部分の給付原資に係る残余財産の分配であり、将来の年金給付の総額との関連性を有していないものであることから、本件分配金を退職手当等とみなされる一時金と解することはできない。
ホ 以上によれば、本件分配金は、所得税法第30条第1項に規定する退職所得であると認めることはできないものであり、また、本件基金の解散という偶発的事由を発生原因とする一時金であり、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものに当たることから、所得税法第34条第1項の規定による一時所得に当たることとなる。
ヘ したがって、本件分配金はその全額が一時所得となり、更正の請求に対する本件通知処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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