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(平15.11.19裁決、裁決事例集No.66 200頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、電気機械器具製造業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)がソフトウェアに係る著作権を侵害したとして外国法人に対し支払った金員について、所得税法第161条《国内源泉所得》第7号ロに規定する著作権の使用料に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)の非営利法人D(以下「D会」という。)加盟の米国法人である〔1〕E社、〔2〕F社、〔3〕G社、〔4〕H社、〔5〕J社(〔1〕から〔5〕までの法人を併せて、以下「本件著作権者」という。)に対し、請求人が、本件著作権者の著作権を侵害し、D会及びD会加盟会社の日本における代理人であるK法律事務所(以下「本件代理人」という。)を通じて平成13年4月27日に支払った和解金152,235,850円(以下「本件和解金」という。)について、本件和解金が著作権の使用料に該当し、所得税法第212条《源泉徴収義務》第1項の規定により請求人には源泉徴収義務があるとして、平成14年12月25日付で、平成13年4月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の額を38,058,962円とする納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の額を3,805,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件納税告知処分と併せて「本件納税告知処分等」という。)をした。
 なお、原処分庁は、本件和解金の額に係る源泉所得税の額をグロスアップ計算法(本件和解金を税引支払金額として源泉所得税の額を算出する計算方法をいう。以下同じ)により算定し、本件納税告知処分を行った。
ロ 請求人は、本件納税告知処分等を不服として、平成15年1月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年4月18日付で棄却の異議決定をしたので、同年5月15日に、本件納税告知処分について審査請求をした。
ハ なお、請求人は、所得税法第17条《源泉徴収に係る所得税の納税地》及び同法第230条《給与等の支払をする事務所の開設等の届出》の規定に基づき、同届出書を原処分庁へ提出し、Q市R町○○番地○を源泉所得税の納税地としている。

(3)関係法令等

イ 所得税法第9条《非課税所得》第1項第16号は、所得税を課さない所得として、損害保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるものとする旨規定し、同法施行令第30条《非課税とされる保険金、損害賠償金等》第1号では、損害保険契約に基づく保険金及び生命保険契約に基づく給付金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかったことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。)、同法施行令同条第2号では、損害保険契約に基づく保険金及び当該契約に準ずる共済に係る契約に基づく共済金で資産の損害に基因して支払を受けるもの並びに不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金、及び同法施行令同条第3号では、心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金を非課税とする旨規定している。
ロ 所得税法第161条第7号は、国内において業務を行う者から受ける著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価で当該業務に係るものは国内源泉所得に該当する旨規定している。
ハ 所得税基本通達161−7《収入金額に代わる性質を有する損害賠償金等》においては、所得税法第161条第1号の2から第12号までに掲げる対価、使用料、給与、報酬等(以下、これらを「対価等」という。)には、当該対価等として支払われるものばかりでなく、当該対価等に代わる性質を有する損害賠償金その他これに類するもの(その支払が遅延したことに基づく遅延利息等に相当する金額を含む。)も含まれる旨定めている。
ニ 所得税基本通達161−23《技術等及び著作権の使用料の意義》において、著作権の使用料とは、著作物(著作権法第2条第1項第1号《定義》に規定する著作物をいう。)の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払を受ける対価の一切をいうのであるから、これらの使用料には、契約を締結するに当たって支払を受けるいわゆる頭金、権利金等のほか、これらのものを提供し、又は伝授するために要する費用に充てるものとして支払を受けるものも含まれる旨定めている。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件代理人から平成12年10月12日付の文書により、D会加盟会社のソフトウェアについて、請求人が購入又は使用承諾を受けた本数を上回るソフトウェアを違法にコピーして使用しているのではないかという指摘を受け、請求人による自主調査を求められた。
ロ 請求人は、自主調査した結果、請求人がライセンスを取得していないソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」という。)が存在することが判明したため、本件代理人に平成12年11月25日付で文書を送付し、調査を継続して正確に実態把握を行った上で、早急にライセンス不足分を補充したい旨を申し出た。
ハ 請求人は、本件代理人に平成13年2月23日付で文書を送付し、本件ソフトウェアについて、本件著作権者別の違法コピー件数を報告するとともに、当該違法コピー分について早急に購入する意思があり、そのための手順を教示してほしい旨を申し出た。
ニ 請求人は、本件代理人から平成13年3月15日付の文書により、本件代理人と、請求人の間で和解条件を検討するため、上記ハの違法コピー分について、製品名(バージョン名を含む。)別の件数を報告するよう依頼を受けた。
ホ 請求人は、本件代理人に平成13年3月16日付で文書を送付し上記ニで求められた製品名別の件数を報告した。
ヘ 請求人は、本件代理人から平成13年3月21日付の文書により、本件代理人が、上記ホの資料に基づき、損害額合計が152,235,850円となる通知を受けた。
 なお、当該文書には、当該損害額が「単価×不正使用数× 1.3倍」で算出されており、これは「過去の侵害」に対する損害額であり、ソフトウェアの新規購入分は含まれていない旨が記載されている。
ト 平成13年3月30日付で、請求人は本件著作権者との間で「和解契約」と題する書面(以下「本件和解契約書」といい、本件和解契約書による契約を「本件和解契約」という。)を取り交わした。
 なお、本件和解契約書には、要旨次の事項が記載されている。
(イ)請求人による過去の侵害に対する支払
A 請求人は、過去に、本件著作権者の権利を侵害して、本件ソフトウェアを許可なくコピーしたという事実(以下「本件侵害」という。)を認める。
B 請求人は、ソフトウェア製品の過去における本件侵害の賠償として、2001年4月末日までに、自らの送金手数料負担にて、L銀行○○支店の本件代理人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件代理人名義の普通預金口座」という。)に電信送金で152,235,850円を支払うものとする。
 請求人は、送金の証明書を本件代理人あてに速やかに送付するものとし、かかる金員の支払に関して課される租税公課がある場合には、請求人がその租税公課の全額を負担するものとする。
(ロ)無許可のソフトウェアの削除
 請求人は、本件和解契約の締結日後、速やかに許可なくコピーされた本件著作権者の本件ソフトウェアすべてを請求人のコンピュータ、フロッピー・ディスクその他のバックアップ媒体すべてから削除するものとする。
(ハ)無許可のソフトウェアを使用しない旨の約束
 請求人が本件ソフトウェアの使用を継続することを希望する場合には、速やかにその合法的なソフトウェアを購入し、本件代理人に対し、購入の証明書(領収書)及びかかる代替品の製品名、バージョン名、数量及び実際に支払った金額を表明する関連書類を速やかに提出し、かつ、かかる代替品のユーザー登録書を速やかに本件著作権者に送付するものとする。
チ 請求人は、本件代理人に平成13年5月7日付で文書を送付し、〔1〕平成13年4月27日に、本件和解金152,235,850円を本件代理人名義の普通預金口座へ送金した旨、〔2〕M株式会社(以下「M社」という。)から、継続使用するソフトウェアのライセンスを購入し代金64,579,270円(以下「本件ライセンス代金」という。)を同年4月20日付でM社へ送金した旨を報告した。
リ 本件ソフトウェアは、著作権法に規定するプログラムの著作物に該当する。
ヌ 本件著作権者は、租税条約の実施に伴う所得税、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(以下「租税条約実施特例法」という。)第3条の2及び租税条約実施特例法の施行に関する省令第2条の届出書を提出していない。

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2 主張

(1)請求人

 本件納税告知処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、本件和解金を著作権の使用料の対価としての性格を有すると判断しているが、請求人は、本来著作権者が得るはずであった過去の違法使用に基づく使用料は合法ソフトをM社から別途正規に購入することで支払っている。
 さらに、購入ソフトウェアには使用期限が定められていないことから、本件和解金が使用料であるとした場合、請求人は、同じソフトを2回購入したことになり、本件和解金が使用料の対価としての性格を有するとは判断できない。
 したがって、本件和解契約に基づいて支払った本件和解金は、請求人が過去に違法に使用した本件ソフトウェアに係る本件著作権者に対する損害賠償金であり、所得税法第9条第1項第16号及び同法施行令第30条第2号(以下「所得税法第9条第1項第16号等」という。)に定める損害賠償金に該当するので課税の対象とはならない。
ロ 原処分庁は、ソフトウェアを購入したのは将来に向かって合法的に使用するための費用であり、本件和解金は本件ソフトウェアの過去の不正使用期間中に対する著作権の使用料としての性格を持つ旨主張するが、本件和解契約に基づき削除した本件ソフトウェアと新規に購入したソフトウェアは基本的に同一のもので、本件ソフトウェアを削除して新規に購入したことをもって、直ちに本件和解金が過去における不正使用期間に対する使用料であると判断することは誤りである。
 つまり、本件ソフトウェアの削除と新規購入の作業は、単に不正ソフトウェアの残りが一切無いことを保証し、かつ、正規の購入品であることの証として各ソフトウェアのシリアル番号を登録する形式上の作業にすぎないものであるから、削除及び新規購入したソフトウェアは基本的に同一のものであり、本件和解金が使用料と判断できないのは上記イで記載したとおりである。
ハ 仮に、本件和解金が使用料としての性格を有するとしても、請求人は、M社から別途ライセンスを正規に購入し、本件ライセンス代金64,579,270円を支払っていることから、違法使用期間に係るライセンス代金も同額とみて、それを超える本件和解金152,235,850円との差額87,656,850円は、所得税法第9条第1項第16号等に規定する損害賠償金として非課税所得とすべきである。

(2)原処分庁

イ 上記1の(4)のイないしチのとおり、本件和解金の契約条項及び同契約の締結に至る経緯からすると、本件和解金は、請求人が本件ソフトウェアを許可なく複製したことにより本件著作権者の著作権法上の権利を侵害したという事実に基づき、過去における本件侵害に対する賠償として支払われたものであることから、所得税法第161条第7号ロに規定する著作権の使用料に該当する。
ロ 上記1の(3)のイの規定により損害賠償金が非課税所得とされている趣旨は、損害賠償が他人から被った損害を填補し損害の無いのと同じ状態にしようとすることにあって、その間に所得の概念を入れることは酷である場合が存することによるものである。そうすると、損害賠償金がすべて非課税所得となるわけではなく、〔1〕本来所得となるべきもの、〔2〕得べかりし利益を不法行為若しくは債務不履行によって喪失した場合について賠償されるときは、損害賠償と称していてもその実質は所得(利益)を得たのと同一の結果であることから、このような損害賠償金は非課税所得には該当しない。
 本件和解金は、本件著作権者の所得となるべき著作複製物の譲渡による所得(利益)が本件侵害により実現せず、本件著作権者が本来得たはずの所得(利益)に代わって支払われたものであって、まさに上記1の(3)のハに記載したところの当該対価等に代わる性質を有する損害賠償金その他これに類するものに該当すると認められることから、非課税所得には該当しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ また、請求人は、上記1の(4)のトの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人のコンピュータ、フロッピー・ディスクその他のバックアップ媒体から本件ソフトウェアのすべてを削除した上で、そのソフトウェアを継続して使用することを希望する場合には、速やかに当該ソフトウェアを合法的に購入し、その購入に係る証明書等を本件代理人に提出することとなっている。
 そうすると、本件ライセンス代金は、本件ソフトウェアのうち使用継続を望むものについて、将来に向かって合法的にそれを使用するための購入費用であると認められ、上記イ及びロのとおり、本件和解金は本来本件著作権者が著作権の使用料として受領すべき対価の代わりに支払われた損害賠償金である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件は、請求人がソフトウェアに係る著作権を侵害したとして外国法人に対し支払った金員について、所得税法第161条第7号ロに規定する著作権の使用料に該当するか否かにあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1)本件納税告知処分について

イ 所得税法第161条第7号ロに規定する「著作権」とは、著作権法上の著作権と同義に解することが相当であるところ、「著作権の使用料」とは、上記1の(3)のニの所得税基本通達161−23のとおり、著作物の複製その他著作物の利用につき支払を受ける対価の一切をいうものと解され、その対価には、上記1の(3)のハの所得税基本通達161−7のとおり、当該対価等として支払われるものばかりでなく、当該対価等に代わる性質を有する損害賠償金その他これに類するもの(その支払が遅延したことに基づく遅延利息等に相当する金額も含む。)も含むと解することが当審判所においても相当であると認められる。
ロ これを本件についてみると、上記1の(4)のヘ及びトのとおり、〔1〕本件和解金は、請求人が過去に本件ソフトウェアを本件著作権者に無断で複製行為を行ったという本件侵害に対して支払われたものであること、〔2〕本件和解金には、ソフトウェアの新規購入分が含まれていないこと、〔3〕本件和解金は、本件ソフトウェアの単価×使用数の1.3倍で算出され、使用料を基礎としていることなどから判断すると、本件和解金は、本件著作権者に対して本件侵害により生じた著作権の使用料(本来、本件著作権者が得ていたであろう利益の喪失分)として支払われたものと解することが相当である。
 したがって、本件和解金は、上記イのとおり、実質的には、著作権の対価等に代わる性質を有する損害賠償金と認められ、所得税法第161条第7号ロに規定する著作権の使用料に該当し、国内源泉所得となるから、所得税法第212条第1項の規定により所得税の源泉徴収の対象となる。
ハ なお、請求人は、上記2の(1)のイ及びロのとおり、本件和解金は著作権の使用料ではなく所得税法第9条第1項第16号等に定める損害賠償金に該当し、課税の対象にはならない旨主張する。
 ところで、所得税法第9条第1項第16号等で規定する損害賠償金が非課税所得とされている趣旨は、損害賠償が受領者の心身、資産に加えられた損害を補填する性質のものであって、社会通念上積極的な所得として課税するのに適さないからであり、本来所得となるべきものや得べかりし利益を喪失した部分が損害賠償金等の名目で支払われた場合には、その名目の如何にかかわらず実質的な所得と同一であることから、非課税所得に当たらないと解される。
 これを本件についてみると、本件和解金は、上記ロのとおり、本件著作権者に対して本件侵害により生じた著作権の使用料(本来、本件著作権者が得ていたであろう利益の喪失分)として支払われた金員とみることが相当であることから、所得税法第9条第1項第16号等に規定する損害賠償金とは認められず、非課税所得には該当しない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ニ また、請求人は、予備的主張として上記2の(1)のハのとおり、違法使用期間に係るライセンス代金と本件ライセンス代金を同額とみて本件ライセンス代金64,579,270円と本件和解金との差額87,656,850円は、所得税法第9条第1項第16号等に規定する損害賠償金として非課税所得に該当し、当該部分に係る源泉徴収は違法である旨主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、本件和解金の全額が著作権の使用料に該当し、国内源泉所得として所得税の源泉徴収の対象になることから、当該差額について損害賠償金として非課税所得に該当するという請求人の主張には理由がない。
ホ まとめ
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく本件和解金は所得税法第161条第7号ロに規定する著作権の使用料に該当する。
 なお、本件和解金の金額は、上記1の(4)のトのとおり、租税公課については請求人が負担することになっていることから、源泉所得税の額をグロスアップ計算法より算定した上で、所得税法第212条第1項及び同法第213条の規定により源泉所得税の額を算出すると38,058,962円となり、本件納税告知処分金額と同額であることから、本件納税告知処分は適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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