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(平15.9.25裁決、裁決事例集No.66 212頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が使用人に支給した誕生日祝金(以下「本件誕生日祝金」という。)について、所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等として課税すべきか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人に対し、平成14年4月30日付で別表1のとおり、平成10年1月から平成13年9月までの各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)並びに平成10年1月から平成12年8月まで及び平成12年10月から平成13年9月までの各月分の源泉所得税の不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成14年6月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月2日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年9月25日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第28条第1項は、「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」と規定している。
ロ 所得税基本通達(以下「基本通達」という。)28−5《雇用契約等に基づいて支給される結婚祝金品等》は、「使用者から役員又は使用人に対し雇用契約等に基づいて支給される結婚、出産等の祝金品は、給与等とする。ただし、その金額が支給を受ける者の地位等に照らし、社会通念上相当と認められるものについては、課税しなくて差し支えない。」と定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件誕生日祝金を誕生月に雇用している使用人のすべての者に支給している。
ロ 請求人は、本件誕生日祝金を請求人の誕生祝実施要領に基づき、各使用人の誕生月に独身者は10,000円、既婚者は15,000円を現金で支給している。
ハ 請求人は、平成10年1月から平成13年9月までの期間を含む各事業年度において、本件誕生日祝金を福利厚生費として所得の金額の計算上損金の額に算入している。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求は棄却されるべきである。
イ 本件各納税告知処分について
(イ)所得税法第28条第1項に規定する給与所得とは、名目の如何を問わず、雇用関係ないしこれに準ずる関係に基づいて、被用者が使用者から受ける労務その他の役務の提供の対価たる経済的利益をいうものと解され、また、給与所得に該当するか否かは、給付の性格等を客観的に検討して、労務又は役務の対価と評価されるか否かにより判断すべきであるとされている。
 これを本件誕生日祝金についてみると、請求人の誕生祝実施要領に基づき毎年すべての使用人に支給されており、使用人たる地位に基づき、雇用関係において提供される役務又は労務の対価としての性質を有するものであると認められることから、給与所得に該当することは明らかである。
(ロ)ところで、基本通達28−5は、結婚祝金や出産祝金等のように、広く一般に社会的な慣習として行われているものを使用人が使用者から受けた場合には、役務又は労務の対価というより対価性のない一方的な贈与として考える向きもないではないことから、それが使用者と使用人という雇用関係に基づき支給されるものである場合には、給与等に該当することを明らかにしたものである。
 その上で、基本通達28−5のただし書きは、使用者と役員又は使用人との間に限らず広く一般に社会的な慣習として行われている祝金品の贈答は、儀礼的な要素が強く、使用者から支給されるものであることをもって社会通念上相当と認められるもの(常識的な金額のもの)にまで課税するのは妥当ではないことから、当該金額が支給を受ける者の地位等、社会常識に照らし相当なものについては課税しないことを明らかにしたものである。
(ハ)これを本件についてみると、本件誕生日祝金は、使用人のすべてを対象としているものの、使用人の誕生日に祝金品を支給することは、広く一般に社会的な慣習として行われているとは認められない。
 すなわち、基本通達28−5に列挙されている結婚や出産時の祝金品の贈答は、広く一般に社会的な慣習として行われていると認められるが、誕生日においてケーキや花束等を贈ることはあるとしても、祝金を贈るということが結婚、出産時のように広く一般に社会的な慣習として行われているとまでは認められない。
 さらに、本件誕生日祝金は、ケーキや花束等を贈る場合と比べ高額であり、結婚や出産時の祝金品の贈答とは異なり毎年1回支給されていることも考え併せれば、給与等として課税すべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件誕生日祝金に係る本件各納税告知処分は適法であるから、これに伴い、本件各賦課決定処分も適法である。

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(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部を取り消すべきである。
 原処分のその他の部分については争わない。
イ 本件各納税告知処分について
(イ)基本通達28−5は、労働協約、就業規則等の定めにより使用者から支給される祝金品は、使用者側の一方的な給付ないしは単なる贈与ではなく、役員又は使用人たる地位に基づき支給されるものと認められるから、原則として、給与等に該当することになるが、このような祝金品の贈答は、使用者と役員又は使用人との間に限らず、広く一般に社会的な慣習として行われているところであるから、使用者から支給されるものであるからといって、その金額が支給を受ける者の地位等に照らして常識的な金額のものにまで課税するのは適当でないことから、課税しなくて差し支えないと定めている。
(ロ)基本通達28−5に列挙されている結婚祝、出産祝は、あくまで例示であり、誕生日祝金を贈ることは、親子間等で何ら違和感なく広く一般に社会的な慣習として行われており、本件誕生日祝金も、使用者と使用人との間で一般的であるか否かを問うまでもなく、基本通達28−5に列挙されている結婚祝金品等に含まれる。
(ハ)さらに、原処分庁は、本件誕生日祝金の額について、異議決定書では「本件誕生日祝金は、特に高額とは認められない」としていたにもかかわらず、本件審査請求の意見書において「本件誕生日祝金は、ケーキや花束等を贈る場合と比べ高額であり」と主張を変更しているが、本件誕生日祝金の額は、使用人が家族又は親しい者と食事を1回することができる程度の金額であり、何ら高額なものではない。
(ニ)したがって、本件誕生日祝金は、基本通達28−5のただし書きに定める給与等として課税しなくて差し支えない結婚祝金品等に該当するにもかかわらず、原処分庁がこれを給与等として課税したことは、基本通達28−5の解釈を誤った不当なものであり、本件各納税告知処分のうち本件誕生日祝金に係る部分の取り消しを求める。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各納税告知処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件各賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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3 判断

 本件の争点は、本件誕生日祝金が所得税法第28条第1項に規定する給与等として課税すべきか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件各納税告知処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、原処分庁に対し、「当社の誕生日祝金は、独身者は10,000円、既婚者は15,000円であり、支払方法は、該当者を集め、役員から御祝儀袋に入れて手渡しにて支給している。」旨を記載した平成14年3月18日付の「誕生日祝金に関するメモ」を提出している。
(ロ)原処分庁の調査担当者は、当審判所に対し、「請求人の当時の経理課長であるAから、誕生日祝金は、上記(イ)のメモのとおり支給していることを確認した上で、各使用人の誕生月を支給月とした。」旨答述している。
ロ 雇用契約又は労働慣行等に基因して支給される金銭又は物品は、役員又は使用人たる地位に基づき支給されるものであり、原則として、そのすべてが所得税法第28条第1項に規定する「給与等」に該当すると解すべきことについては、異論をみないところである。
 基本通達28−5は、このことを前提として、広く一般に社会的な慣習として行われている結婚祝金等であっても、それは給与等として課税されることになるとした上、その金額が受給者の地位等に照らし、社会通念上相当と認められる場合には、課税しなくて差し支えないとしているものであって、かかる取扱いは、当審判所においても相当なものと認められる。
ハ したがって、ある金品の交付につき、基本通達28−5による例外的取扱いが認められるためには、少なくとも、その金品の交付が広く一般に社会的な慣習として行われていることを要するところ、本件誕生日祝金は、上記1の(4)のイ及びロの事実のとおり、すべての使用人が、請求人に雇用されている限り、毎年誕生月に支給されるものであって、その支給形態等において、広く一般に社会的な慣習として行われているものであるとは認められない。
 そうすると、本件誕生日祝金が課税しなくて差し支えないものに該当するとの請求人の主張には理由がない。
ニ 以上を踏まえ、本件各納税告知処分について、所得税法第185条《賞与以外の給与等に係る徴収税額》、同法第186条《賞与に係る徴収税額》、同法第190条《年末調整》(平成13年法律第88号による改正前のもの。)、所得税法第189条第1項に規定する所得税法別表第二の甲欄に掲げる税額が算定された方法に準ずるものとして財務大臣が定める方法を定める件、平成10年分所得税の特別減税のための臨時措置法(平成10年2月から平成10年3月までの各月分については、平成10年法律第23号による改正前のもの。平成10年4月から平成10年12月までの各月分については、平成10年法律第84号による改正前のもの。)、経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成11年4月から平成12年3月までの各月分については、平成12年法律第13号による改正前のもの。平成12年4月から平成12年11月までの各月分については、平成12年法律第97号による改正前のもの。平成12年12月から平成13年3月までの各月分については、平成13年法律第6号による改正前のもの。平成13年4月から平成13年9月までの各月分については、平成13年法律第88号による改正前のもの。)及び経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律別表第一の甲欄に掲げる税額が算定された方法に準ずるものとして財務大臣が定める方法を定める件(平成11年4月から平成12年12月までの各月分については、平成12年大蔵省告示第368号による改正前のもの。平成13年1月から平成13年3月までの各月分については、平成13年財務省告示第88号による改正前のもの。平成13年4月から平成13年9月までの各月分については、平成13年財務省告示第322号による改正前のもの。)により計算した結果、その一部に計算誤りが認められたことから、当審判所がこれらを補正して再計算したところ、各月分の納付すべき源泉所得税の額は、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 そうすると、平成11年4月分、平成11年10月分及び平成11年11月分の各月分の納税告知処分は、納付すべき源泉所得税の額が生じないことから、その全部を取り消すべきであり、平成10年1月分から平成10年8月分、平成10年11月分から平成11年1月分、平成11年3月分、平成11年5月分、平成11年8月分、平成11年9月分、平成11年12月分から平成12年3月分、平成12年5月分、平成12年11月分及び平成13年1月分から平成13年3月分までの各月分の納税告知処分は、原処分の額を下回ることとなるから、その一部を取り消すべきである。
 また、その他の各月分の納税告知処分は、これらの月分に係る原処分の額と同額又は上回る額となることから適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

イ 平成11年4月分、平成11年10月分及び平成11年11月分の各賦課決定処分は、上記(1)のニのとおり、当該各月分の納税告知処分の全部が取り消されることに伴い、その全部を取り消すべきであり、平成11年12月分の賦課決定処分は、納税告知処分の一部が取り消されることに伴い、国税通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、その全部が切捨てられることとなるため、その全部を取り消すべきである。
ロ 上記イの月分以外の各月分の賦課決定処分は、これら各月分の納税告知処分に係る源泉所得税が各法定納期限までに納付されなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書きに規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、上記(1)のニに基づき、上記イの月分以外の各月分の不納付加算税の額を計算すると別表3の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成10年11月分、平成11年3月分、平成11年5月分、平成11年8月分、平成12年5月分及び平成13年3月分の各月分の賦課決定処分は、いずれも原処分の額を下回るから、その一部を取り消すべきである。また、その他の各月分の賦課決定処分は、いずれも原処分の額と同額となり、これらの各月分の賦課決定処分は、適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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