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(平15.12.5裁決、裁決事例集No.66 245頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が行った合併が、当該合併によって被合併法人の株主が取得した株式、金銭その他の資産の合計額の一部を、所得税の課税上、利益の配当の額とみなす場合から除外されている適格合併(法人税法第2条《定義》第12号の8に規定する合併をいう。以下同じ。)に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年6月1日に、H株式会社(以下「本件被合併法人」という。)を吸収合併(以下「本件合併」という。)した。
ロ 原処分庁は、本件合併を適格合併に該当しない合併と認定し、平成14年1月28日付で、請求人に対し、所得税法第25条《配当等の額とみなす金額》第1項の規定の適用により、本件被合併法人の株主に対する利益の配当の額とみなす金額(以下「本件みなし配当の金額」という。)の合計額を138,641,448円と算出し、本件みなし配当の金額に対する源泉徴収に係る所得税(以下、源泉徴収に係る所得税を「源泉所得税」という。)の一部について、源泉徴収を行わず、納付もしていないとして、平成13年6月分の納付すべき源泉所得税の額を24,157,897円とする納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の額を2,415,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成14年3月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年6月19日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年7月16日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 所得税法第181条《源泉徴収義務》第1項及び所得税法第212条《源泉徴収義務》第3項は、居住者又は内国法人に対し国内において配当等の支払をする者は、その支払の際、当該配当等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
ロ 所得税法第25条第1項は、法人が合併(適格合併を除く。)をした場合に、被合併法人の株主が合併法人からその合併により取得する株式、金銭その他の資産の額の合計額が、被合併法人の資本等の金額のうち、その交付の基因となった株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は、所得税の課税上、利益の配当の額とみなす旨規定している。
 なお、この取扱いは、平成13年4月1日以後に生ずる合併により交付を受ける金銭その他の資産について適用がある(平成13年法律第6号による改正附則第12条《配当等の額とみなす金額に関する経過措置》第1項)。
ハ 所得税法施行令第61条《所有株式に対応する資本等の金額又は連結個別資本等の金額の計算方法等》第3項は、被合併法人の株主が、合併により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び資産の価額の合計額のうちに、その被合併法人の株主に対する利益の配当として交付される金額がある場合には、その交付される金額は、配当所得に係る収入金額とする旨規定している。
ニ 法人税法第2条第12号の8は、適格合併とは、〔1〕次の(イ)ないし(ハ)のいずれかに該当する合併で、〔2〕被合併法人の株主に合併法人の株式以外の資産(当該株主に対する利益の配当として交付される金銭その他の資産を除く。)が交付されないものをいう旨規定している(以下、〔1〕の要件を「本件A要件」、〔2〕の要件を「本件B要件」という)。
(イ)その合併に係る被合併法人と合併法人との間に、いずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式の全部を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係がある場合の当該合併。
(ロ)その合併に係る被合併法人と合併法人との間に、いずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の総数の50%を超え、かつ、100%に満たない数の株式を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係がある場合の当該合併のうち、一定の要件に該当するもの。
(ハ)その合併に係る被合併法人と合併法人が、共同で事業を営むための合併として政令で定めるもの(以下「共同事業を営むための合併」という。)。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人及び本件被合併法人は、平成13年3月14日付で本件合併に関する契約(以下「本件合併契約」という。)を締結した。
 本件合併契約に係る契約書(以下「本件合併契約書」という。)によれば、本件合併契約の内容は、要旨次のとおりである。
 なお、本件合併契約は、平成13年3月28日に合併両社において開催された臨時株主総会で承認された。
(イ)第1条《合併の方法》
 請求人及び本件被合併法人は合併し、請求人を存続し、本件被合併法人は解散する。
(ロ)第3条《合併に際して発行する株式》
 請求人は、合併に際して額面普通株式660株を発行し、本件被合併法人の株主に対し、本件被合併法人の株式1株に対し、請求人の株式1.5株を割当交付する。
(ハ)第6条《合併期日》
 平成13年6月1日とする。
(ニ)第8条《会社財産の管理等》第2項
 本件被合併法人は、平成13年3月31日の最終の株主名簿に記載された株主に対し、1株当たり2,500円、総額1,100,000円を限度として利益配当を行う。
(ホ)第9条《合併交付金》
 請求人は、合併期日前日の最終の本件被合併法人の株主名簿に記載された株主に対して、その所有する本件被合併法人の株式1株につき2,500円の合併交付金(以下「本件合併交付金」という。)を合併期日後3か月以内に支払う。
 ただし、本件合併交付金は、合併期日前日の本件被合併法人の資産、負債の状態その他、経済情勢の変化に応じ、請求人、本件被合併法人協議の上、これを変更することができる。
ロ 本件被合併法人の状況等
(イ)本件被合併法人の平成11年7月14日から平成12年3月31日までの事業年度(以下「設立第1期」という。)の法人税の確定申告書に添付された損益計算書及び損失処理計算書では、売上高10,300,113円及び当期未処理損失9,383,764円(うち当期損失9,383,764円)が計上され、当期未処理損失の全額を翌期に繰り越している。
(ロ)本件被合併法人の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度(以下「設立第2期」という。)の法人税の確定申告書に添付された損益計算書及び利益処分計算書では、売上高1,369,294,529円及び当期未処分利益126,133,602円(うち当期利益135,517,366円)が計上され、その利益処分は、利益準備金110,000円、配当金1,100,000円(1株につき年2,500円)、別途積立金100,000,000円及び次期繰越利益24,923,602円としている。
 また、設立第2期の決算及び利益処分は、本件合併前である平成13年5月28日に確定している。
 なお、上記利益処分の配当金は、本件合併契約書第8条第2項に定める利益配当のことであり、請求人は、平成13年6月8日に本件被合併法人の株主に対して、その配当金から源泉所得税の額を控除した後の金額を支払い、平成13年7月10日に当該源泉所得税の額210,000円を納付した。
(ハ)本件被合併法人の平成13年4月1日から平成13年5月31日までの事業年度(法人税法第14条《みなし事業年度》第2号の規定による事業年度であり、以下「最終期」という。)の法人税の確定申告書に添付された損益計算書及び利益処分計算書では、売上高227,812,758円及び当期未処分利益32,618,434円(うち当期利益7,698,832円)が計上され、その利益処分計算書には、配当金2,750,000円(1株につき年6,250円)(以下「本件最終期配当金」という。)が記載されている。
ハ 請求人は、配当等の所得税徴収高計算書(納付書)に、支払確定日及び支払日を平成13年6月1日、支払うべき金額を13,750,000円(うち非課税適用分625,000円)と記載して、本件合併に係る利益の配当の額とみなす金額11,000,000円(以下「別件みなし配当の金額」という。)に対する源泉所得税の額及び本件最終期配当金に対する源泉所得税の額の合計額2,625,000円を、平成13年7月10日に納付した。
ニ 請求人は、平成14年3月20日に、上記ハの源泉所得税の合計額2,625,000円について、所得税法改正(平成13年法律第6号による改正)の不知による誤納(本件合併は適格合併であり、そもそも別件みなし配当の金額は発生しないにもかかわらず、改正前の規定が効力を有するものと錯誤していた。)を理由として、原処分庁に対し、源泉所得税の誤納額還付請求書を提出した。
ホ 請求人は、本件合併交付金について、株主1名を除き、平成13年8月31日に、利益の配当として源泉所得税の額を控除した後の金額を株主の預金口座に振り込む方法により支払い、残り1名については、翌日、同控除後の金額を現金で支払った。
 なお、当該源泉所得税の額210,000円は、平成13年11月6日に納付した。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件納税告知処分
(イ)本件合併は、本件A要件に該当することは認めるが、次のとおり本件B要件については該当しない。
A 本件合併交付金は、次の理由から、法人税法第2条第12号の8のかっこ書に規定する「利益の配当として交付される金銭」ではない。
(A)商法上の利益の配当は、損益法によって算出された利益を、商法第281条第1項に規定している確定した決算を経て配当されるものであるから、1会計年度において、1回しかできない。
 本件最終期配当金は、損益法により算出された利益を配当したものであり、損益法を経ていない本件合併交付金は、当初から配当見合いではなく明らかに合併交付金であり、だからこそ、配当たる本件最終期配当金が可能となる。
 したがって、法律論上、本件合併交付金を商法上の配当と解す余地はないし、また、当然に税法上の配当と解す余地もない。
(B)また、配当見合いのような損益法を経ていない金員は、そもそも商法上の配当と解されておらず、商法学において、合併の技術的理由から配当であると認められているにすぎないから、これが直ちに税法上の配当となるわけではない。
 配当見合いが、税法上の配当である旨の規定は何ら存在せず、歴史的に旧個別通達や税法学において、合併交付金が配当に代わる金銭である場合は、その旨を合併契約書、合併案内状等で確実に明記していた場合に、これを税法上の配当であると認めていた経緯があり、合併の実務においても、それは慣習となっている。
 したがって、商法の実務として存在する配当見合いの金銭が税務上の配当というためには、その旨及び金額を合併契約書、合併案内状等で明らかにし、それを確実に実施していない限り、法人税法第2条第12号の8のかっこ書に規定する利益の配当にはならない。
 なお、本件合併交付金は本件合併契約書第9条で合併交付金の表示があり、配当でないことは明らかであるところ、これを配当見合いの金銭であるというためには、株主総会議事録で立証しなければならない。
(C)本件合併交付金を経済的実質の観点から、既往の配当実績と比較して合理的かつ税務上妥当なものであるか否かについて検討したところ、本件被合併法人の設立第2期の当期利益のうち配当金の支払に向けられる比率(以下「配当性向」という。)は0.8%であるにもかかわらず、最終期における本件最終期配当金の配当性向は35.7%であり、本件合併交付金を含めたところの配当性向は50.0%である。
 こうしたことから、本件合併交付金は、既往の配当実績と比較しても合理性を有せず、税務上も妥当な配当であるとはいえない。
B 上記のとおり、本件合併交付金の支払は、本件被合併法人の株主に対して請求人の株式以外の資産が交付されたこととなり、本件合併は、本件B要件に該当しない。
(ロ)そうすると、本件合併は適格合併に該当しないから、所得税法第25条第1項の規定の適用があり、次のとおり、納付すべき源泉所得税の額は24,157,897円となり、本件納税告知処分の金額と同額であるから、本件納税告知処分は適法である。
A 本件被合併法人の株主が交付を受けた請求人の株式の価額
 本件被合併法人の株主が交付を受けた請求人の株式の価額は、本件被合併法人の合併時の純資産価額に相当する金額で、本件被合併法人の最終期の期末の資産の合計額260,124,033円から同法人の同期末の負債の合計額105,395,599円、本件合併交付金1,100,000円、本件最終期配当金2,750,000円及び原処分庁の法人税調査によって設立第2期の所得金額から減算された金額682,677円を控除した金額に、同法人税調査によって最終期の所得金額に加算された金額9,345,695円を加算した金額で159,541,452円である。
B 本件みなし配当の金額
 本件みなし配当の金額は、上記Aの金額159,541,452円に本件合併交付金1,100,000円を加算した金額から本件被合併法人の資本等の金額22,000,000円を控除した金額138,641,452円を、本件被合併法人の各株主の出資割合であん分した金額であり、別表の「本件みなし配当の金額〔1〕」欄のとおりである。
C 納付すべき源泉所得税の額
 上記Bの金額は、所得税法第24条《配当所得》に規定する配当等の額である。
 したがって、請求人は、上記Bの金額について、所得税法第181条第1項及び同法第212条第3項の規定、並びに、同法第182条《徴収税額》第2号及び同法第213条《徴収税額》第2項第2号の規定に基づいて、別表の「源泉所得税額〔2〕」欄の合計額のとおり源泉所得税の額26,467,897円を徴収し、法定納期限までにこれを国に納付しなければならないところ、同表の「既に納付した源泉所得税額〔3〕」欄の合計額のとおり源泉所得税の額2,310,000円のみ徴収し、納付していると認められる。
 よって、請求人が納付すべき源泉所得税の額は、別表の「源泉所得税額〔2〕」欄の合計額から同表の「既に納付した源泉所得税額〔3〕」欄の合計額を控除した金額で、同表の「納付すべき源泉所得税の額〔4〕」欄の合計額のとおり24,157,897円となる。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件納税告知処分は適法であり、また、請求人が本件納税告知処分に係る源泉所得税を納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないので、本件賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件納税告知処分
(イ)本件合併は、共同事業を営むための合併であり、本件A要件に該当し、また、次のとおり本件B要件にも該当する。
A 本件合併交付金は、次の理由から、法人税法第2条第12号の8のかっこ書に規定する「利益の配当として交付される金銭」である。
(A)本件合併交付金について、合併実務の知識不足から最終期の利益の配当に相当する旨を、本件合併契約書において明示していないが、明示がある場合に限り、利益の配当として認めるとする税法上の要件はないことから、その実質で判断すべきである。
(B)本件合併契約書は、次のとおり、商法第409条各号と対応して作成しており、同条第4号の本来の合併交付金については、本件合併契約書に何ら支払う旨の条項は定められていないことが明らかであり、本件合併交付金は、同条第7号の利益の配当の限度額に対応して定められている。
 商法第409条第1号は、本件合併契約書第2条に対応。
 商法第409条第2号は、本件合併契約書第3条に対応。
 商法第409条第3号は、本件合併契約書第4条に対応。
 商法第409条第4号は、本件合併契約書に対応条項なし。
 商法第409条第5号は、本件合併契約書第5条に対応。
 商法第409条第6号は、本件合併契約書第6条に対応。
 商法第409条第7号は、本件合併契約書第8条及び第9条に対応。
 商法第409条第8号は、本件合併契約書第10条及び第11条に対応。
(C)本件合併交付金の設定について
a 設立第1期
 J館の開業準備でほとんど営業はしておらず、約900万円の欠損のため利益の配当をするに至らなかった。
b 設立第2期
 J館の開館による盛況が寄与し、約1億2千万円と多額の利益を計上でき、株主の一部には利益に見合う高額な配当を求める声もあったが、この盛況は開館に伴う一時的な現象であること、将来の地道な利益の確保と安定的配当を目指すとの観点から、極力内部留保に努め、配当は1株当たり2,500円(配当率5%)、総額1,100,000円とした。
c 最終期
 最終期は、本件合併により2か月間であるが、ゴールデンウィークを含む事業期間であり、前年実績からみても相当な利益の計上が可能と予測され、これに対する株主の配当期待に応える必要から、設立第2期の配当である1株当たり2,500円、総額1,100,000円と同額を、本件合併交付金として本件合併契約書第9条に明文化したものである。
 また、本件合併交付金は、最終期の利益の配当相当額であるとの認識に立ち、法人税の確定申告書の提出を終え、その後の手続に要する日程を考慮し、合併による新株式の交付とは別に、合併期日後3か月以内に支払うこととした。
(D)配当相当額である合併交付金は、確定した損益計算や利益処分による必要はなく、合併契約の段階で、最終期に通常配当されるものと予想される金額によって定めれば足りるものである。
(E)請求人は、本件合併交付金を配当金として経理処理していること及び平成13年9月21日付の本件被合併法人の株主に送付された「配当金の支払調書送付のお知らせ」においては、本件合併交付金が配当金であることが明記されていることからすれば、原処分庁のいう商法の実務を具備していることとなる。
(F)また、本件最終期配当金は、本件合併契約の締結当時には支払うことが予定されておらず、その後の事情により支払うこととなったものである。
(G)配当性向が高騰することを制限したり、配当性向によって利益の配当を制限する法文は税法及び商法に存在しないところ、商法は利益の配当について、当期利益又は当期損失を含む貸借対照表上の純資産額より所定の金額を控除をした残額を限度とする旨を定めており、わが国の企業の配当の法務と実務はこの商法の規定によっているのである。
 したがって、最終期の利益の配当相当額が商法の規定する配当可能限度額の範囲内で決せられている限り、配当性向の高低を問われるものではなく、本件合併交付金と本件最終期配当金を合算した配当性向をもって、経済的実質の観点から本件合併交付金を利益の配当相当額ではないと判断することは誤りである。
B 上記Aのとおり、本件合併交付金は、利益の配当として交付される金銭(法人税法第2条第12号の8のかっこ書)に該当するため、本件合併は、本件被合併法人の株主に対して請求人の株式以外の資産が交付されないものとなり、本件B要件に該当する。
(ロ)そうすると、本件合併は、本件A要件及び本件B要件に該当することから適格合併となり、所得税法第25条第1項の規定の適用から除かれ、本件みなし配当の金額が発生するとした本件納税告知処分は違法である。
ロ 本件賦課決定処分
 上記イのとおり、本件納税告知処分は違法であるから、本件賦課決定処分も違法であり、その全部を取り消すべきである。

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3 判断

 双方の主張に基づいて、調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1)本件納税告知処分

イ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)本件合併は、共同事業を営むための合併である。
(ロ)本件被合併法人(平成13年5月31日現在)及び請求人(平成12年12月31日現在)の貸借対照表上の1株当たりの純資産価額(純資産価額を、発行済株式の総数で除した金額である。以下同じ。)は、それぞれ351,656円及び44,829円である。
(ハ)本件被合併法人における配当関係
A 本件合併まで、本件被合併法人には、配当実績はない。
B 本件合併契約書第9条には、合併期日前日の最終の本件被合併法人の株主名簿に記載された株主に対して「合併交付金」を支払う旨の記載があるが、それが最終期の利益の配当相当額である旨は明示されていない。
C 本件最終期配当金は、本件合併契約書に定められていない。
(ニ)本件合併交付金の株主への通知及び株主の認識
A 請求人が、本件被合併法人の株主に送付した平成13年9月21日付の「配当金の支払調書送付のお知らせ」には、本件合併交付金が配当金であることが記載されている。
B 本件被合併法人の法人株主であった13社のうち、K株式会社、L株式会社、M株式会社及びN有限会社の4社について当審判所が調査したところ、4社とも交付を受けた本件合併交付金を、受取配当金として経理処理している。
C 本件被合併法人の個人株主であった全員が、交付を受けた本件合併交付金を配当所得に係る収入金額として、平成13年分の所得税の確定申告書を提出している。
(ホ)本件最終期配当金の計上について
A 本件被合併法人の関与税理士であった税理士R及び税理士S(以下、両名を「関与税理士」という。)は、異議審理の担当者に対し、本件最終期配当金について、要旨次のとおり申述した。
(A)本件合併において、別件みなし配当の金額が発生するため、これに対する源泉所得税を納付する必要があると考え、この源泉所得税の額を本件被合併法人が負担したと仮定して、手取り計算により、納税額を算出した。
(B)上記(A)の納税額を本件被合併法人が負担する場合、最終期の決算で資金を確保する必要があり、その手段として本件最終期配当金で表現するしかないと思い、本件被合併法人に説明した。
B 請求人の専務取締役であり、本件被合併法人の代表取締役であったT(以下「T専務」という。)は、異議審理の担当者に対し、本件最終期配当金について、要旨次のとおり申述した。
(A)本件最終期配当金については、関与税理士から、別件みなし配当の金額に対する納税事務であり、これしか方法がないと言われ、株主総会の決議なしに承認した。
(B)本件最終期配当金の内容は、関与税理士が計算した別件みなし配当の金額に対する納税相当額である。
(C)本件被合併法人の確定申告間際になって上記Aの話を関与税理士がしてきたので、株主総会の決議なしに配当は決められないし、商法違反になると言ったが、他に方法がないと言われたため、印を押した。
C T専務は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(A) 本件合併の手続を進めるなかで、関与税理士から、本件被合併法人の株主が交付を受けた新株式の価額には、別件みなし配当の金額が含まれているため、それに対する源泉所得税を納付する必要がある旨の説明があった。
(B) 本件合併に際しては、個々の株主に株券を交付するだけであり、当該株主から、上記(A)の源泉所得税を徴収することはできないと判断した。
 そこで、本件被合併法人の負担で納付することとし、当該源泉所得税の額及び本件被合併法人がそれを負担することに伴ういわゆる孫税相当額の合計額2,750,000円を、本件被合併法人として最後の事業年度である最終期の決算で、本件最終期配当金として計上した。
ロ 本件は、本件合併交付金が、法人税法第2条第12号の8のかっこ書に規定する本件被合併法人の株主に対する「利益の配当として交付される金銭」に該当するか否かについて、争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
(イ)一般的に、合併の場合には、被合併法人の株主に対しては合併法人の株式が交付されるが、合併法人の株式のほかに合併交付金が交付されることもある。
 この合併交付金の交付は、〔1〕合併の比率を調整するため、〔2〕被合併法人の合併期日の前日の属する事業年度(以下「最終事業年度」という。)の利益の配当に相当する金銭を支払うため、〔3〕その他の事情のために行われるが、この合併交付金のうち、合併法人が被合併法人の株主に対して、最終事業年度の利益の配当として交付した金額は、所得税法上、本来の配当所得の収入金額として扱うこととなる。
 この点を踏まえて、適格合併の判定においても、法人税法第2条第12号の8のかっこ書で、被合併法人の株主に対して利益の配当として交付した金銭は、一般の合併交付金から除く旨規定している。
 また、合併交付金のうちに、被合併法人の利益の配当相当額がある場合には、合併契約書、合併承認に係る株主総会議事録、同出席案内等においてその旨を明示又は記載されるのが通常であるが、合併契約書等において明示等がない場合には、合併交付金が支払われる経緯、合併交付金を受けた株主の認識等を総合的に検討し、実質的に、合併交付金のうちに利益の配当相当額があるかどうかを判断するのが相当である。
(ロ)これを、本件合併交付金についてみると、次のとおりである。
A 上記イの(ハ)のBのとおり、本件被合併法人は、本件合併契約書に本件合併交付金を最終期の利益の配当として交付する旨を明示していないから、本件合併交付金の交付理由、内容を、その実質で判断する必要がある。
B そこで、まず、本件合併交付金が、本件合併の比率を調整するための交付金と認められるか否かについて審理する。
 本件被合併法人及び請求人の1株当たりの純資産価額は、上記イの(ロ)のとおり、それぞれ351,656円及び44,829円であるから、その合併比率は、本件被合併法人の株式1株に対し、請求人の株式7.84株となる。
 ところが、本件合併契約書第3条のとおり、本件合併の比率は、本件被合併法人の株式1株に対し、請求人の株式1.5株であり、上記比率との差は、本件被合併法人の株式1株に対し、請求人の株式6.34株(金額で、284,215円)にも達している。
 このことから、1株当たり2,500円の本件合併交付金を、当該比率の差を調整するための交付金と考えるには、余りに少額で妥当性がなく、本件合併の比率を調整するための交付金であったとは認められない。
C つぎに、本件被合併法人が、本件合併に際して、最終期の利益の配当を行う実情等があったか否かについて審理する。
 本件合併契約の締結当時の状況として、本件被合併法人には、〔1〕上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、設立第2期は、多額の利益計上が見込まれていたこと、〔2〕翌期である最終期は、最後の配当の機会であり、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、利益の計上が予測されること、〔3〕上記イの(ハ)のAのとおり、それまで、配当実績がないことが認められ、一般的に、事業年度の途中で合併が行われる場合、被合併法人の最終事業年度の利益の配当相当額を、被合併法人の株主に分配することがあることを併せて考えると、本件被合併法人が株主の利益配当請求権に応える必要から、本件合併に際して、最終期の利益の配当を行う実情及び動機があったと認められる。
 なお、上記イの(ホ)のとおり、本件最終期配当金は、別件みなし配当の金額に対する源泉所得税の額を納付する手段として支払ったもので、当時、それは予定されていなかったと認められ、上記認定に影響するものでない。
D また、本件合併交付金は、上記1の(4)のホのとおり、その支払時に利益の配当として所得税を源泉徴収しており、また、上記イの(ニ)のAのとおり、株主に対し本件合併交付金が配当金である旨を通知していることが認められ、これらの行為は、本件合併交付金が、最終期の利益の配当相当額であることの裏付けと見ることができる。
(ハ)原処分庁は、商法上の利益の配当は、損益法によって算出された利益を、商法第281条第1項に規定している確定した決算を経て配当されるものであるから、本件合併交付金を商法上の配当と解す余地はなく、当然に税法上の配当と解す余地もない旨主張するが、そもそも、通常、事業年度の途中で合併した場合、その間の配当は、本来なら被合併法人において行うことになるが、被合併法人は合併期日で消滅し、最終事業年度の決算を承認(確定)する株主総会が開催できないから、本来の利益の配当を行うことができず、その配当相当額を、合併法人が合併交付金として被合併法人の株主に支払うのであって、本件合併交付金が商法上の配当でないのは当然であり、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ニ)つぎに、原処分庁は、配当見合いの金銭が、税法上の配当である旨の規定は存在せず、本件合併交付金が、配当見合いの金銭であることを、合併契約書等で明らかにしていない限り、法人税法第2条第12号の8のかっこ書に規定する「利益の配当として交付される金銭」に該当しない旨主張するが、上記1の(3)のハのとおり、合併交付金のうち利益の配当として支払われる金額は、所得税法上、配当所得に係る収入金額とする旨の規定がある上、合併交付金が利益の配当として支払われる旨を合併契約書等で明らかにしている場合のみ、これを利益の配当として認めるとする税法上の規定が存在しないことから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ホ)また、原処分庁は、配当性向をもって検証すると既往の配当実績と比較して本件合併交付金は合理性を有していないので、税務上も妥当な配当であるとはいえない旨主張する。
 しかしながら、当該検証は一般的には妥当性を有するが、本件の場合、既往の配当実績といっても、設立第2期の配当1回のみで、設立第2期は、上記1の(4)のロの(イ)及び(ロ)のとおり売上高から見て実質初年度で、通常年度と異なる上、本件最終期配当金も、上記イの(ホ)のとおり特別な事情が認められることから、設立第2期と最終期の配当性向をもって検証する原処分庁の主張は採用できない。
(ヘ)上記(イ)ないし(ホ)から、本件合併交付金の実質は、本件被合併法人の株主に対して最終期の利益の配当として交付された金銭であると認めるのが相当であり、法人税法第2条第12号の8のかっこ書に規定する「利益の配当として交付される金銭」に該当する。
 よって、本件合併は、本件被合併法人の株主に対して請求人の株式以外の資産を交付していないものとなり、本件B要件に該当する。
ハ そうすると、本件合併は、上記イの(イ)のとおり、共同事業を営むための合併であり本件A要件に該当し、かつ、上記ロの(ヘ)のとおり本件B要件にも該当することから、適格合併であり、所得税法第25条第1項の規定の適用はない。
 したがって、本件合併が適格合併に該当しないとして、所得税法第25条第1項の規定の適用により、本件みなし配当の金額が生ずるとして行った本件納税告知処分は違法であるから、その全部を取り消すべきである。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件納税告知処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

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